(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内層コアと外層コアを含むソリッドコアと、前記ソリッドコアの外側に位置するカバーとを含むマルチピースソリッドゴルフボールであって、前記内層コアが、25mm以下の外径を有するとともに、−10℃の測定温度において0.1以上の損失正接(tanδ)を有する材料により形成されており、前記外層コアが、−10℃の測定温度において0.01〜0.1の損失正接(tanδ)を有する材料から形成されており、前記内層コアを形成する材料の−10℃の測定温度における損失正接(tanδ)と前記外層コアを形成する材料の−10℃の測定温度における損失正接(tanδ)の差が0.05以上であり、前記内層コアを形成する材料が、低反発性ゴムを60重量部以上と高反発性ゴムを40重量部以下とを含む組成を有し、前記外層コアを形成する材料が、高反発性ゴムを60重量部以上と低反発性ゴムを40重量部以下とを含む組成を有するゴルフボール。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るマルチピースソリッドゴルフボールの実施の形態について説明するが、本発明は、これら実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態のマルチピースソリッドゴルフボール1は、ソリッドコア12、14と、ソリッドコアの外側に位置するカバー30とを含む。ソリッドコアは、ゴルフボール1の最も中心に位置する内層コア12と、この内層コア12を被覆する外層コア14とを備える。ソリッドコアとカバーとの間には、
図1に示すように、中間層20を設けることができるが、本発明はこれに限定されず、中間層を設けずにカバー30がソリッドコア、すなわち外層コア14に直接的に接するように構成してもよい。
【0017】
内層コア12は、0.1以上と比較的に高い損失正接(以下、「tanδ」という)を有する材料により形成されている。特に、内層コア12の材料のtanδは0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。内層コア12の材料のtanδの上限は、特に限定されないが、ボール全体の初速度が低下してしまうため、例えば、0.5以下とすることが好ましい。
【0018】
一方、外層コア14は、0.1以下と比較的に低いtanδを有する材料により形成されている。特に、外層コア14の材料のtanδは0.05以下が好ましく、0.03以下がより好ましい。外層コア14の材料のtanδの下限は、0.001以上とする。より好ましいtanδの下限は、0.01以上である。外層コア14の材料のtanδをこの範囲内にすることでエネルギーロスを小さくすることができる。
【0019】
そして、内層コア12の材料のtanδと外層コア14の材料のtanδとの差は、0.05以上とする。このようにtanδに差を設けることで、ゴルファーが高ヘッドスピードでこのゴルフボール1を打った場合、ゴルフボール1は大きく変形するため、外層コア14とともに、その内側に配置され、より高いtanδを有する内層コア12が作用し、ゴルフボール1全体の反発性能を抑え、初速度を制限することができる。一方、低ヘッドスピードでこのゴルフボール1を打った場合、ゴルフボール1は小さく変形するため、内層コア12は作用せずに、その外側に配置され、より低いtanδを有する外層コア14が主に作用することから、ゴルフボール1全体の反発性能は、外層コア14の高い反発性能が維持され、速い初速度を得ることができる。
【0020】
なお、本明細書において、低ヘッドスピードとは、プロゴルファーや上級者ではない一般のゴルファーのヘッドスピードの領域内の速度であって、例えば、40m/s以下、特に30m/s以下を指す。内層コア12の材料のtanδと外層コア14の材料のtanδとの差は、0.07以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。
【0021】
上記の範囲のtanδを有する内層コア12の材料は、これらに限定されないが、例えば、低反発性ゴムを60重量部以上と高反発性ゴムを40重量部以下とを含む組成とすることが好ましい。内層コア12の材料のtanδをより高くするには、内層コア12の材料は、低反発性ゴムを75重量部以上と高反発性ゴムを25重量部以下とを含む組成とすることがより好ましく、低反発性ゴムを90重量部以上と高反発性ゴムを10重量部以下とを含む組成とすることがさらに好ましい。
【0022】
また、上記の範囲のtanδを有する外層コア14の材料は、これらに限定されないが、例えば、高反発性ゴムを60重量部以上と低反発性ゴムを40重量部以下とを含む組成とすることが好ましい。外層コア14の材料のtanδをより低くするには、外層コア14の材料は、高反発性ゴムを75重量部以上と低反発性ゴムを25重量部以下とを含む組成とすることがより好ましく、高反発性ゴムを90重量部以上と低反発性ゴムを10重量部以下とを含む組成とすることがさらに好ましい。
【0023】
高反発性ゴムとしては、これらに限定されないが、例えば、1,2−ポリブタジエンやシス1,4−ポリブタジエン等のポリブタジエン、シリコーンゴムまたはこれらの混合物を使用することができる。低反発性ゴムとしては、これらに限定されないが、例えば、ブチルゴム、ポリイソプレン(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムまたはこれらの混合物を使用することができる。シス1,4−ポリブタジエンとしては、ここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする特開2007−222196号公報および特開2008−161345号公報に記載された変性ポリブタジエンを使用することができる。
【0024】
内層コア12および外層コア14を形成する材料には、上述した高反発性ゴムおよび低反発性ゴムの他に、架橋剤として、メタクリル酸亜鉛やアクリル酸亜鉛などの不飽和脂肪酸の亜鉛塩もしくはマグネシウム塩、又はトリメチルプロパンメタクリレート等のエステル化合物を配合することができる。架橋剤は、上記の高反発性ゴムや低反発性ゴムといった基材ゴム100重量部に対し、10重量部から40重量部の範囲内で添加することが好ましい。
【0025】
また、内層コア12および外層コア14を形成する材料には、加硫剤を配合することができる。加硫剤は、1分間半減期温度が155℃以下であるパーオキサイドを含むことが好ましい。パーオキサイドは、基材ゴム100重量部に対し、0.6重量部から3重量部の範囲内で添加することが好ましい。さらに必要に応じて、内層コア12および外層コア14を形成する材料には、老化防止剤や、比重調整のために酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの充填剤、初速度を調整するためにペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を配合することができる。
【0026】
内層コア12は、実質的に球状の形状を有している。内層コア12の外径は、大き過ぎると、ゴルフボール1を低ヘッドスピードで打った場合でも内層コア12が作用し、ゴルフボール1全体の反発性能が不足することから、25mm以下とする。内層コア12の外径は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。一方、内層コア12の外径は、小さ過ぎると、ゴルフボールの初速度を制限する効果が低くなることから、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。
【0027】
外層コア14は、内層コア12を被覆し、内層コア12の外周球面と同じ中心の外周球面を有する。この外層コア14の外周球面の外径は、内層コア12の外径よりも大きい範囲で、20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましく、35mm以上がさらに好ましい。また、外層コア14の外周球面の外径は、42mm以下が好ましく、41mm以下がより好ましく、40mm以下がさらに好ましい。
【0028】
なお、ゴルフボールのエネルギーロスの大きさは、ゴルフボールに用いる材料のtanδと体積に比例する。ゴルフボールのエネルギーロスの大きさは、ある程度の範囲内に収める必要があることから、ゴルフボールのソリッドコアに用いる材料のtanδは、通常、0.01〜0.10の範囲内とすることが好ましい。よって、本発明では、ソリッドコアは内層コア12と外層コア14の2層構造となっているので、以下の式1を満たすように設計することが好ましい。
【0029】
Va×tanδa+Vb×tanδb=C*(Va+Vb) ・・・(式1)
Va:内層コア12の体積
Vb:外層コア14の体積
tanδa:内層コア12を形成する材料のtanδ
tanδb:外層コア14を形成する材料のtanδ
C:係数
【0030】
上記式における係数Cは、上述したように、0.01〜0.10の範囲内の値とすることが好ましく、0.01〜0.05の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0031】
内層コア12の硬度は、これに限定されないが、JIS−Cにて、30以上とすることが好ましく、また70以下にすることが好ましい。外層コア14の硬度は、これに限定されないが、JIS−Cにて、50以上とすることが好ましく、また90以下にすることが好ましい。特に、内層コア12と外層コア14との層境界での応力集中を防ぎ、エネルギーロスが生じるのを防ぐため、内層コア12と外層コア14との境界における硬度差は、JIS−Cにて、10以内にすることが好ましく、6以内にすることがより好ましく、3以内にすることがさらに好ましい。
【0032】
内層コア12および外層コア14の成形法は、多層構造のソリッドコアの公知の成形法を採用することができる。例えば、内層コア12は、これに限定されないが、材料を混練機で混練した後、この混練物を丸型金型で加圧加硫成形して得ることができる。また、外層コア14は、これに限定されないが、材料を混練機で混練した後、この混練物をシート状に成形し、このシートで内層コア12を覆ったものを丸型金型で加圧加硫成形して得ることができる。
【0033】
中間層20は、
図1では単層を示したが、これに限定されず、2層以上の複数層にすることもできる。中間層20の材料としては、これに限定されないが、以下の加熱混合物を主材として用いることが好ましい。この材料を中間層に用いることにより、打撃時に低スピン化することができ、大きな飛距離を得ることができる。
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物と
を重量比で100:0〜0:100になるように配合したベース樹脂と、
(e)このベース樹脂に対して重量比で100:0〜50:50になるように配合した非アイオノマー熱可塑性エラストマーと、
ベース樹脂と(e)成分を含む樹脂成分100重量部に対して、
(c)分子量が228〜1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5〜150重量部と、
(d)ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物0.1〜17重量部。
【0034】
「主材」とは、中間層20の総重量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上の材料を意味する。
【0035】
ベース樹脂中のオレフィンは、(a)成分、(b)成分のいずれであっても、炭素数が、通常2以上、上限として8以下、特に6以下のものが好ましい。具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0036】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0037】
不飽和カルボン酸エステルとしては、上述した不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等を挙げることができる。特にアクリル酸ブチル(n−アクリル酸ブチル、i−アクリル酸ブチル)が好ましい。
【0038】
(a)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び(b)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体(以下、(a)成分及び(b)成分中の共重合体を総称して、「ランダム共重合体」という)は、それぞれ、上述した材料を調整し、公知の方法によりランダム共重合させることにより得ることができる。
【0039】
ランダム共重合体は、不飽和カルボン酸の含量(酸含量)が調整されたものであることが推奨される。ここで、(a)成分のランダム共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、通常4重量%以上、好ましくは6重量%以上、より好ましくは8重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。また、上限としては、30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは18重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。
【0040】
同様に(b)成分のランダム共重合体に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、通常4重量%以上、好ましくは6重量%以上、より好ましくは8重量%以上である。また、上限としては、15重量%以下、好ましくは12重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。ランダム共重合体の酸含量が少なすぎると反発性が低下する場合があり、多すぎると加工性が低下する場合がある。
【0041】
(a)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物及び(b)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物(以下、(a)成分及び(b)成分中の共重合体の金属イオン中和物を総称して、「ランダム共重合体の金属イオン中和物」という)は、上記ランダム共重合体中の酸基を金属イオンで部分的に中和することにより得ることができる。
【0042】
ここで、酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na、K、Li、Zn、Cu、Mg、Ca、Co、Ni、Pb等の各イオンを挙げることができ、好ましくはNa、Li、Zn、Mg等のイオンを好適に用いることができ、特に、反発性を改良する観点からNaイオンを用いることがより好適である。
【0043】
ランダム共重合体の金属イオン中和物を得るには、ランダム共重合体に対して、金属イオンで中和すればよく、例えば、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して中和する方法などを採用することができる。これら金属イオンのランダム共重合体に対する中和度は特に限定されるものではない。
【0044】
ランダム共重合体の金属イオン中和物としては、ナトリウムイオン中和型アイオノマー樹脂を好適に使用でき、材料のメルトフローレートを増加させ、後述する最適なメルトフローレートに調整することが容易であり、成形性を改良することができる。
【0045】
(a)成分と(b)成分のベース樹脂は、市販品を使用してもよく、例えば、(a)成分のランダム共重合体として、ニュクレル1560、同1214、同1035(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR5200、同5100、同5000(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、(b)成分のランダム共重合体として、例えば、ニュクレルAN4311、同AN4318(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR ATX325、同ATX320、同ATX310(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を挙げることができる。
【0046】
また、(a)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930(米国デュポン社製)、アイオテック3110、同4200(EXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、(b)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同8320、同9320、同8120(いずれも米国デュポン社製)、アイオテック7510、同7520(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等をそれぞれ挙げることができる。上記ランダム共重合体の金属イオン中和物として好適なナトリウム中和型アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1605、同1601、同1555等を挙げることができる。
【0047】
ベース樹脂の調製に際して、(a)成分と(b)成分との配合は、重量比で、通常100:0〜0:100であり、好ましくは100:0〜25:75、より好ましくは100:0〜50:50、さらに好ましくは100:0〜75:25、最も好ましくは100:0である。(a)成分の配合量が少なすぎると、材料の成形物の反発性が低下する。
【0048】
また、ベース樹脂は、上記調製に加えて更にランダム共重合体とランダム共重合体の金属イオン中和物との配合比を調整することにより、成形性をより良好にすることができ、ランダム共重合体:ランダム共重合体の金属イオン中和物は、通常0:100〜60:40、好ましくは0:100〜40:60、より好ましくは0:100〜20:80、更に好ましくは0:100である。ランダム共重合体の配合量が多すぎると、ミキシング時の成形性が低下する場合がある。
【0049】
このようなベース樹脂に以下の(e)成分を加えることができる。(e)成分は、非アイオノマー熱可塑性エラストマーである。この成分は、打撃時のフィーリング、反発性をより一層向上させるための成分であり、具体的には、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。反発性を更に高めることができる点から、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、特に、結晶性ポリエチレンブロックをハードセグメントとして含む熱可塑性ブロック共重合体からなるオレフィン系エラストマーを好適に使用することができる。
【0050】
(e)成分は、市販品を使用してもよく、具体的には、オレフィン系エラストマーとして、ダイナロン(JSR社製)、ポリエステル系エラストマーとして、ハイトレル(東レ・デュポン社製)等を挙げることができる。
【0051】
(e)成分の配合量は、ベース樹脂100重量部に対し、好ましくは0重量部以上、より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、最も好ましくは20重量部以上である。上限としては、好ましくは100重量部以下、より好ましくは60重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下、最も好ましくは40重量部以下である。配合量が多すぎると、混合物の相溶性が低下し、ゴルフボールの耐久性が著しく低下する可能性がある。
【0052】
次に、ベース樹脂に以下の(c)成分を加えることができる。(c)成分は、分子量228以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体であり、ベース樹脂と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分である。(c)成分は、比較的高含量の酸基(誘導体)を含み、反発性の過度の損失を抑制できる。
【0053】
(c)成分の脂肪酸又はその誘導体の分子量は、228以上、好ましくは256以上、より好ましくは280以上、更に好ましくは300以上である。上限としては1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、更に好ましくは500以下である。分子量が少なすぎる場合は耐熱性が改良できず、多すぎる場合は流動性が改善できない。
【0054】
(c)成分の脂肪酸又はその脂肪酸誘導体としては、例えば、アルキル基中に二重結合又は三重結合を含む不飽和脂肪酸(誘導体)やアルキル基中の結合が単結合のみで構成される飽和脂肪酸(誘導体)を同様に好適に使用できるが、いずれの場合も1分子中の炭素数が、好ましくは18以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは40以上、特に好ましくは81以上である。上限としては、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは120以下である。炭素数が少なすぎると、耐熱性の改善が達成できない上、酸基の含有量が多すぎて、ベース樹脂に含まれる酸基との相互作用により流動性の改善の効果が少なくなってしまう場合がある。一方、炭素数が多すぎる場合には、分子量が大きくなるために、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
【0055】
ここで、(c)成分の脂肪酸として、具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸などが挙げられ、好ましくは、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、更に好ましくはベヘニン酸を挙げることができる。
【0056】
また、(c)成分の脂肪酸誘導体は、上述した脂肪酸の酸基に含まれるプロトンを金属イオンにより置換した金属せっけんを例示できる。この場合、金属イオンとしては、例えば、Na、Li、Ca、Mg、Zn、Mn、Al、Ni、Fe、Cu、Sn、Pb、Co等のイオンを挙げることができる。なお、Feイオンは2価でも3価でもよい。これらの中でも特にCa、Mg、Znの各イオンが好ましい。
【0057】
(c)成分の脂肪酸誘導体として、具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等を挙げることができ、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、べヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等を好適に使用することができる。
【0058】
ベース樹脂及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物として、(d)成分を加えることができる。この(d)成分が配合されないと金属せっけん変性アイオノマー樹脂を単独で使用した場合には、加熱混合時に金属せっけんとアイオノマー樹脂に含まれる未中和の酸基が交換反応して多量の脂肪酸を発生させ、発生した脂肪酸の熱的安定性が低く成形時に容易に気化するため、成形不良の原因をもたらし、更に成形物の表面に付着して、塗膜密着性を著しく低下させたり、または、得られる成形体の反発性低下等の不具合が生じる場合がある。
【0060】
このような問題を解決すべく、(d)成分として、ベース樹脂及び(c)成分中に含まれる酸基を中和する塩基性無機金属化合物を必須成分として配合し、成形物の反発性の改良を図る。
【0061】
即ち、(d)成分は、材料中に必須成分として配合されることにより、ベース樹脂と(c)成分中の酸基が適度に中和されるだけでなく、各成分の適正化による相乗効果で、混合物の熱安定性を高め、良好な成形性の付与と反発性の向上を図ることができる。
【0062】
ここで、(d)成分の塩基性無機金属化合物は、ベース樹脂との反応性が高く、反応副生成物に有機酸を含まないため、熱安定性を損なうことなく、混合物の中和度を上げられるものであることが推奨される。
【0063】
(d)成分の塩基性無機金属化合物中の金属イオンは、例えば、Li、Na、K、Ca、Mg、Zn、Al、Ni、Fe、Cu、Mn、Sn、Pb、Co等を挙げることができる。なお、Feイオンは2価でも3価でもよい。塩基性無機金属化合物としては、これら金属イオンを含む公知の塩基性無機充填剤を使用することができる。具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等を挙げることができる。特に水酸化物、または一酸化物であることが推奨され、より好ましくはベース樹脂との反応性の高い水酸化カルシウム、酸化マグネシウムであり、更に好ましくは水酸化カルシウムである。
【0064】
上述したように(a)成分及び(b)成分を所定量配合したベース樹脂と、任意の(e)成分を配合した樹脂成分に対し、所定量の(c)成分と(d)成分とをそれぞれ配合することにより、熱安定性、流動性、成形性に優れ、反発性の飛躍的な向上を成形物に付与できる。
【0065】
(c)成分と(d)成分の配合量は、(a)、(b)、(e)成分を適宜配合した樹脂成分100重量部に対して、(c)成分の配合量を、5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上、更に好ましくは18重量部以上とする。上限としては、150重量部以下、好ましくは130重量部以下、より好ましくは120重量部以下とする。また、(d)成分の配合量を、0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは2重量部以上とする。上限としては、17重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは13重量部以下、更に好ましくは10重量部以下にする。(c)成分の配合量が少なすぎると溶融粘度が低くなり加工性が低下し、多すぎると耐久性が低下する。(d)成分の配合量が少なすぎると熱安定性、反発性の向上が見られず、多すぎると過剰の塩基性無機金属化合物によりゴルフボール用材料の耐熱性が却って低下する。
【0066】
上述した樹脂成分、(c)成分、(d)成分は、それぞれ所定量配合されるものであるが、材料中の酸基の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上が中和されていることが推奨される。このような高中和化により、従来のベース樹脂と脂肪酸(誘導体)のみを使用した場合に問題となる交換反応をより確実に抑制し、脂肪酸の発生を防ぐことができる上、熱的安定性が著しく向上し、成形性が良好で、従来のアイオノマー樹脂と比較して反発性に非常に優れた成形物を得ることができる。
【0067】
ここで、中和度とは、ベース樹脂と(c)成分の脂肪酸(誘導体)の混合物中に含まれる酸基の中和度であり、ベース樹脂中のランダム共重合体の金属イオン中和物としてアイオノマー樹脂を使用した場合におけるアイオノマー樹脂自体の中和度とは異なる。中和度が同じ本発明の混合物と同中和度のアイオノマー樹脂のみとを比較した場合、本発明の混合物は、非常に多くの金属イオンを含むため、反発性の向上に寄与するイオン架橋が高密度化し、成形物に優れた反発性を付与できる。
【0068】
なお、高中和化と優れた流動性をより確実に両立するために、上記混合物の酸基が遷移金属イオンと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオンとで中和されたものを用いることができる。遷移金属イオンによる中和は、アルカリ(土類)金属イオンと比較してイオン凝集力が弱いが、これら種類の異なるイオンを併用して、混合物中の酸基の中和を行うことにより、流動性の著しい改良を図ることができる。
【0069】
遷移金属イオンと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオンとのモル比は、通常10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30、更に好ましくは40:60〜60:40であることが推奨される。遷移金属イオンのモル比が小さすぎると流動性を改善する効果が十分に付与されない場合があり、遷移金属イオンのモル比が大きすぎると反発性が低下する場合がある。
【0070】
金属イオンは、遷移金属イオンとしては、亜鉛イオン等を挙げることができ、また、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオン等から選ばれる少なくとも1種のイオンを挙げることができるが、これらは特に制限されるものではない。
【0071】
遷移金属イオンとアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとで上記所望量の酸基が中和された混合物を得るには、公知の方法を採用でき、例えば、遷移金属イオン(亜鉛イオン)により中和する方法は、上記脂肪酸誘導体に亜鉛せっけんを用いる方法、ベース樹脂として(a)成分と(b)成分とを配合する際に亜鉛イオン中和物(例えば、亜鉛イオン中和型アイオノマー樹脂)を使用する方法、(d)成分の塩基性無機金属化合物に亜鉛酸化物等の亜鉛化合物を用いる方法などを挙げることができる。
【0072】
樹脂材料は、射出成形に特に適した流動性を確保し、成形性を改良するため、メルトフローレートを調整することが好ましい。この場合、JIS−K7210で試験温度190℃、試験荷重21.18N(2.16kgf)に従って測定したときのメルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.5dg/min以上、より好ましくは0.7dg/min以上、さらに好ましくは0.8dg/min以上、特に好ましくは2dg/min以上である。上限として、好ましくは20dg/min以下、より好ましくは10dg/min以下、さらに好ましくは5dg/min以下、特に好ましくは3dg/min以下に調整される。メルトフローレートが、大きすぎても小さすぎても加工性が著しく低下する場合がある。
【0073】
中間層20の材料として具体的には、Dupont社製の商品名「HPF1000」、「HPF2000」、「HPF AD1027」、「HPF AD1035」、「HPF AD1040」、実験用HPF SEP1264−3などが挙げられる。
【0074】
中間層20は外層コア14と重複する領域に配置されることから、中間層20の材料は、外層コア14と同様にtanδが小さい材料が好ましい。中間層20の厚さは、これに限定されないが、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましい。また、中間層20の厚さは、3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。中間層20の硬度は、これに限定されないが、ショアDにて、40以上が好ましく、50以上がより好ましい。また、中間層20の硬度は、70以下が好ましく、60以下がより好ましい。
【0075】
カバー30の表面には、複数のディンプル32が形成されている。カバー30の材料としては、これらに限定されないが、アイオノマー樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、熱硬化性ポリウレタンを使用することができる。これらの中でも、反発性および密着性の観点から、アイオノマー樹脂を用いることが好ましい。カバー30の厚さは、これに限定されないが、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。また、カバー30の厚さは、上述した本発明の2層コア構造の効果を損なわないように、1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。カバー30の硬度は、これに限定されないが、ショアDにて、40以上が好ましく、45以上がより好ましい。また、カバー30の硬度は、本発明の2層コア構造の効果を損なわないように、55以下が好ましく、53以下がより好ましい。
【実施例】
【0076】
表1に示す構成のゴルフボールをそれぞれ作製し、その特性を測定する試験を行った。内層コアおよび外層コアの材料の配合を表2に示す。なお、いずれの配合も、比重は1.14であった。また、温度155℃および時間15分の条件下で加硫を行った。中間層の配合を表3に示す。カバーの配合を表4に示す。表2〜表4の配合の値はいずれも重量部である。表1中の係数Cは、上述した式1から導き出されるものである。
【0077】
ゴルフボールの特性として、ゴルフボールの外径、μ硬度、USGA初速および反発係数(COR)を測定した。μ硬度は、ゴルフボールに初期荷重10kgをかけた状態から終荷重130kgをかけたときまでの圧縮変形量(mm)である。USGA初速は、全米ゴルフ協会が規定する条件により測定するゴルフボールの初速である。反発係数(COR)は、ゴルフボールをスチール板に向けて10m/s、20m/s、30m/s、40m/sの各速度で発射させ、跳ね返ったゴルフボールの速度を計測し、発射速度に対する跳ね返り速度の比である。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
過酸化物aは、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製の商品名パークミルD)。
過酸化物bは、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物(日本油脂社製の商品名パーヘキサC−40)。
老化防止剤は、大内新興化学工業社製のノクラックNS−6。
PTCP亜鉛塩は、ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩の略。
【0081】
【表3】
【0082】
S8120は、デュポン社製のNaイオン中和エチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアイオノマー樹脂。
DR6100Pは、JSR社製の水添ポリマー(オレフィン系熱可塑性エラストマー)。
HPF1000は、75〜76重量%のエチレン、8.5重量%のアクリル酸、および15.5〜16.5重量%のn−ブチルアクリレートからなるデュポン社製のターポリマーであり、マグネシウムイオンにより酸基が100%中和されている。
【0083】
【表4】
【0084】
H1601は、三井デュポンポリケミカル社製のNaイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂。
H1557は、三井デュポンポリケミカル社製のZnイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂。
AM7331は、三井デュポンポリケミカル社製のNaイオン中和エチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアイオノマー樹脂。
H1855は、三井デュポンポリケミカル社製のZnイオン中和エチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアイオノマー樹脂。
TiO
2は、石原産業社製のタイペークR550。
ウルトラマリンブルーは、ホリデーピグメント社製のEP−62。
【0085】
表1に示すように、内層コアと外層コアで材料のtanδの差が約0.24以上と大きい例1〜5は、発射速度が10m/s(20m/sのヘッドスピードに相当する)と低い場合のゴルフボールの反発係数と、発射速度が40m/s(50m/sのヘッドスピードに相当する)と高い場合のゴルフボールの反発係数との差(COR LS10−LS40)が0.103〜0.108と大きく、低ヘッドスピードでも速い初速を得ることができた。一方、内層コアと外層コアで材料のtanδの差が約0.02と小さい例6は、低ヘッドスピードと高ヘッドスピードでの反発係数の差(COR LS10−LS40)が0.100と小さかった。
【0086】
また、カバーがショアD硬度60と硬く、厚みも2.00mmと大きい例7は、外層コアと内層コアの材料にtanδの差を設けた効果が損なわれ、低ヘッドスピードと高ヘッドスピードでの反発係数の差(COR LS10−LS40)が0.100と小さくなった。係数Cが約0.15とコア全体のtanδが大きい例8は、エネルギーロスが大きいため、いずれのヘッドスピードでも反発係数が低下し、ボール初速の低下を招いた。反発性能が低い材料を中間層に用いた例9も、いずれのヘッドスピードでも反発係数が低下し、ボール初速の低下を招いた。