(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転シャフトの中心軸と偏心シャフトの中心軸との間の軸間距離が、偏心シャフトに対する揺動スクロールの最大移動量、揺動スクロールの形状、及び固定スクロールの形状によって特定される揺動スクロールの最大回転半径の最小値と同じ長さに設定されている、
請求項1又は2に記載の外周駆動型のスクロール式流体機械。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1は、スクロール式流体機械1の断面図である。スクロール式流体機械1は、揺動スクロール2、2つの固定スクロール3、正面側カバー4、背面側カバー5、及び2つのクランク6を備えている。
【0016】
図面には、基礎円中心軸AB、厚み方向DT、長手方向DL、短手方向DS(
図2)が示されている。基礎円中心軸ABは、揺動スクロール2のスクロール壁21を描くインボリュート曲線の基礎円の中心を通過する軸である。厚み方向DTは、基礎円中心軸ABに平行な方向である。長手方向DLは、揺動スクロール2の長手方向であり、厚み方向DTに対して垂直な方向である。長手方向DLに沿って、一方のクランク6、基礎円、及び他方のクランク6が並んでいる。短手方向DSは、揺動スクロール2の短手方向であり、長手方向DL及び厚み方向DTの双方に直交する。
【0017】
図2は、揺動スクロール2の平面図である。揺動スクロール2は、鏡板20及びスクロール壁21を備えている。
【0018】
鏡板20は、厚み方向DTに対して垂直な板状部材であり、長手方向DLに沿って延びている。鏡板20は、スクロール支持部201と、2つのクランク支持部202と、2つの連結部203と、を備えている。スクロール支持部201が中央にあり、2つのクランク支持部202がスクロール支持部201の両側にある。連結部203は、スクロール支持部201とクランク支持部202とを連結している。
【0019】
スクロール壁21は、鏡板20に対して垂直な壁である。上述したように、厚み方向DTより見て、スクロール壁21の内面及び外面は、インボリュート曲線を描くように形成されている。スクロール壁21は、スクロール支持部201に固定されている。
【0020】
図1において、固定スクロール3は、鏡板30及びスクロール壁31を備えている。鏡板30は、鏡板20に対応している。鏡板30は、厚み方向DTに対して垂直な板状部材であり、長手方向DLに沿って延びている。スクロール壁31は、揺動スクロール2のスクロール壁21に対応している。スクロール壁31は、鏡板30に対して垂直な壁である。厚み方向DTより見て、スクロール壁31の内面及び外面は、インボリュート曲線を描くように形成されている。スクロール壁31は、鏡板30に固定されている。
【0021】
鏡板30は、中央部及び端部において、厚み方向DTに沿って貫通されている。中央部に形成された貫通孔が、作動流体の供給口30aである。端部に形成された貫通孔が、作動流体の排出口30bである。
【0022】
揺動スクロール2と固定スクロール3との間に、複数の膨張室(圧縮室)が形成される。スクロール壁21は複数の箇所において、スクロール壁31に接触している。このため、厚み方向DTより見て、スクロール壁21及びスクロール壁31によって囲まれる各膨張室(圧縮室)の形状は、三日月状である。揺動スクロール2が固定スクロール3に対して揺動することによって、スクロール壁21とスクロール壁31との接触位置が移動する。この結果、各膨張室(圧縮室)の容量が変化する。
【0023】
図2において、2つのクランク6は、基礎円中心軸ABの半径方向において、固定スクロール3の外側に配置されている。つまり、本実施形態のスクロール式流体機械1における駆動方式は、外周駆動型である。
【0024】
図1において、クランク6は、2つの回転シャフト61と、1つの偏心シャフト62と、を備えている。偏心シャフト62の両側に回転シャフト61が配置されている。クランク6は一体的に形成されており、偏心シャフト62は2つの回転シャフト61に固定されている。偏心シャフト62の中心軸A62は、回転シャフト61の中心軸A61に対して偏心している。このため、回転シャフト61が自転するとき、偏心シャフト62は回転シャフト61の回りを公転する。
【0025】
図2において、揺動スクロール2は、クランク6毎に軸受22及び第1開口部23を備えている。
【0026】
各軸受22は、クランク6の偏心シャフト62を受ける。軸受22は、ボールベアリングであり、内輪221及び外輪222を有している。また、
外輪222の外側に、軸受ハウジング24が嵌め込まれている。
【0027】
第1開口部23は、クランク支持部202を厚み方向DTに沿って貫通することによって形成されたクランク支持部202の内部である。第1開口部23は、長手方向DLに沿って形成された長穴である。軸受22及び軸受ハウジング24は、第1開口部23内に配置されている。
【0028】
図1において、揺動スクロール2は、更に、バランスウェイト11を備えている。バランスウェイト11は、偏心シャフト62に固定されている。ここで、揺動スクロール2が揺動するときに、揺動スクロール2の重心位置も揺動する。バランスウェイト11は、揺動スクロール2の重心位置の変化による荷重の発生を打ち消すために、設けられている。
【0029】
図1において、図の右側は、スクロール式流体機械1の正面側であり、図の左側は、スクロール式流体機械1の背面側である。正面側に正面側カバー4が配置されており、背面側に背面側カバー5が配置されている。
【0030】
スクロール式流体機械1は、クランク6毎に、1組の軸受91、92を備えている。一方の軸受91は正面側カバー4に支持されており、正面側の回転シャフト61を回転自在に支持する。他方の軸受92は背面側カバー5に支持されており、背面側の回転シャフト61を回転自在に支持する。
【0031】
スクロール式流体機械1は、2つの回転シャフト61の回転を同期させるために、ベルト12及び2つのプーリ13を備えている。プーリ13は軸受9の背面側において回転シャフト61に固定されている。ベルト12は、2つのプーリ13を巻いている。
【0032】
膨張機として用いられるスクロール式流体機械1の概略的な作動を説明する。作動流体が各供給口30aから揺動スクロール2と各固定スクロール3との間に形成される膨張室に供給され、各固定スクロール3の排出口30bより排出される。このとき作動流体は、揺動スクロール2と各固定スクロール3との間を進みながら膨張室を拡張させる。この結果、作動流体の圧力の一部が失われると共に、固定スクロール3、3に対して揺動スクロール2を揺動させる。このようにして、スクロール式流体機械1は、作動流体の圧力損失によって、2つのクランク6、6を駆動する動力を得る。一方、スクロール式流体機械1が圧縮機として用いられる場合、スクロール式流体機械1は、2つのクランク6、6を駆動する動力により、作動流体を圧縮させる。
【0033】
図3、
図4、及び
図5を参照して、揺動スクロール2に対する偏心シャフト62の支持構造をより詳しく説明する。
図3は、偏心シャフト62の支持構造を示す平面図である。
図4は、
図3のA−A断面図である。
図5は、
図3のB−B断面図である。
【0034】
図3において、第1開口部23の内面は、第1開口部23の中心軸A23と平行に形成されている。該内面は、平行面23a、23a、円弧面23b、23bを有している。平行面23a、23aは、互いに平行な面であり、長手方向DLと平行である。円弧面23b、23bは、厚み方向DTより見て円弧状の曲面である。
【0035】
軸受ハウジング24の外面は、偏心シャフト62の中心軸A62と平行に形成されている。該外面は、平行面24a、24a、及び円弧面24b、24bを有している。平行面24a、24aは、互いに平行な面であり、長手方向DLと平行である。円弧面24b、24bは、厚み方向DTより見て円弧状の曲面である。
【0036】
第1開口部23の平行面23a、23aは、軸受ハウジング24の平行面24a、24aに対向しており、第1開口部23の円弧面23b、23bは、軸受ハウジング24の円弧面24b、24bに対向している。第1開口部23の平行面23aは、長手方向DLにおいて、軸受ハウジング24の平行面24aよりも長い。円弧面23bと円弧面24bとの間には、隙間G23が形成されている。一方、平行面23aと平行面24aとの間には、隙間は形成されていない。このため、軸受ハウジング24は、第1開口部23内を長手方向DLに沿って移動できるが、第1開口部23内を短手方向DSに沿って移動できない。
【0037】
図3において、揺動スクロール2は、クランク6毎に4つの弾性機構25を備えている。各隙間G23内に2つの弾性機構25が配置されており、1つの弾性機構25は、直列に配置された複数の皿バネ(弾性体)によって構成されている。弾性機構25は、揺動スクロール2と偏心シャフト62との間に弾性力を及ぼすために設けられている。
【0038】
図4において、軸受ハウジング24の外面は4つの凹部24cを有しており、各凹部24c内に弾性機構25が配置されている。長手方向D
Lの両端にそれぞれ2つの凹部24cが設けられている。
図3において、凹部24cは、円弧面24bの中央部と重なる位置にある。弾性機構25は軸受ハウジング24の円弧面24bよりも外側に突出している。このため、弾性機構25は、軸受ハウジング24の外面と第1開口部23の内面との間に弾性力を及ぼすことができる。
【0039】
揺動スクロール2は、クランク6毎に液体式ダンパー機構を備えている。液体式ダンパー機構は、ピストン部(軸受22)、シリンダ部(クランク支持部202、2つの密封部材26)、シリンダ部内に満たされる液体27、ピストンに粘性抵抗を加えるための絞り(凹部24d)を備えている。凹部24d、密封部材26、及び液体27を以下で説明する。
【0040】
図5において、軸受ハウジング24の外面は、2つの凹部24d(連通通路)を有している。
図3において、各凹部24dは平行面24aと重なる位置にある。各凹部24dは、2つの隙間G23、G23間を連通している。
【0041】
図5において、2つの密封部材26は、2つの隙間G23及び2つの凹部24dの内部を密封している。密封部材26は、環状の側蓋261とOリング262とからなっている。各側蓋261は、クランク支持部202に固定されており、厚み方向DTの一側から、2つの隙間G23、G23の全体、及び軸受ハウジング24の全体を被覆している。各Oリング262は、各側蓋261と軸受ハウジング24との間を密封している。このため、2つの隙間G23及び2つの凹部24dの内部は、第1開口部23の内面、軸受ハウジング24の外面、及び2つの密封部材26によって、密封されている。
【0042】
図3において、2つの隙間G23、G23及び2つの凹部24d内には、液体27が満たされている。
【0043】
図6、
図7を参照して、熱膨張によるスクロール式流体機械1の作動を説明する。
図6は、冷態時における揺動スクロール2の平面図である。
図7は、熱膨張時における揺動スクロール2の平面図である。
図6、
図7において、隙間G23の大きさは、やや誇張して描かれている。
【0044】
スクロール式流体機械1の運転によって、膨張室/圧縮室の周辺に熱が発生し、揺動スクロール2及び固定スクロール3が熱膨張する。カバー4、5もクランク6、6を介して揺動スクロール2及び固定スクロール3に繋がっており、揺動スクロール2及び固定スクロール3からの放熱を受けるので、熱膨張する。しかし、揺動スクロール2が受ける熱量の方が、カバー4、5が受ける熱量よりも大きいため、揺動スクロール2の熱膨張率の方がカバー4、5の熱膨張率よりも大きい。この結果、揺動スクロール2とカバー4、5との間に熱膨張差が発生する。この結果、揺動スクロール2がカバー4、5に対して相対的に膨張する。特に、長手方向DLに大きく膨張する。クランク6、6はカバー4、5に支持されているため、熱膨張差を吸収するように、揺動スクロール2の各クランク支持部202が各偏心シャフト62に対して移動する。
【0045】
図6、
図7において、中心軸間距離L23は、2つの第1開口部23の中心軸A23間の距離を指しており、中心軸間距離L62は、2つの偏心シャフト62の中心軸A62間の距離を指している。熱膨張差の変化により、中心軸間距離L23と中心軸間距離L62との間に距離差が変化する。
【0046】
図6において、スクロール式流体機械1は運転されておらず停止しており、揺動スクロール2は冷態時にある。このとき、中心軸間距離L62は中心軸間距離L23よりも長くなっており、各第1開口部23において、内側の隙間G23の大きさと外側の隙間G23の大きさとが異なっている。ここで、各第1開口部23は、同じ構造により、偏心シャフト62に支持されている。このため、4つの弾性機構25は、一方のクランク6側の弾性機構25が及ぼす弾性力の合力と、他方のクランク6側の弾性機構25が及ぼす弾性力の合力とが釣り合うように、偏心シャフト62に対して揺動スクロール2を移動させる。2つの偏心シャフト62の位置は、中心軸ABを通過する平面に対して鏡映対称となり、2つの内側の隙間G23の大きさは等しく、2つの外側の隙間G23の大きさも等しい。2つの中心軸A62は2つの中心軸A23の外側にあり、各第1開口部23において、内側の隙間G23が外側の隙間G23よりも大きい。各クランク6において、内側の弾性機構25が揺動スクロール2に及ぼす弾性力F25aは、外側の弾性機構25が揺動スクロール2に及ぼす弾性力F25bよりも大きい。
【0047】
図7において、スクロール式流体機械1は運転されており、揺動スクロール2は熱膨張している。4つの弾性機構25は、熱膨張時においても、一方のクランク6側の弾性機構25が及ぼす弾性力の合力と、他方のクランク6側の弾性機構25が及ぼす弾性力の合力とが釣り合うように、偏心シャフト62に対して揺動スクロール2を移動させる。2つの偏心シャフト62の位置は、中心軸ABを通過する平面に対して鏡映対称となり、2つの内側の隙間G23の大きさは等しく、2つの外側の隙間G23の大きさも等しい。
【0048】
本実施形態では、揺動スクロール2の熱状態が冷態時から熱膨張時に移行するにつれて、各弾性機構25の平均長さが自然長さに近づくように、各弾性機構25が配置されている。ここで、各弾性機構25の平均長さは各弾性機構25の長さの平均値であり、各弾性機構25の長さは、各弾性機構25の長手方向DLにおける長さは偏心シャフト62に対する第1開口部23の振動によって変動する。
【0049】
スクロール式流体機械1は、熱膨張時に、中心軸間距離L62が中心軸間距離L23に等しくなり、内側の隙間G23の大きさと外側の隙間G23の大きさとが等しくなり、隙間G23内に配置される各弾性機構25の平均長さが自然長さに等しくなるように、設計されている。このため、熱膨張時に、各中心軸A62は中心軸A23に一致し、内側の隙間G23の大きさは外側の隙間G23の大きさに等しい。このとき、各クランク6において、内側の弾性機構25が揺動スクロール2に及ぼす弾性力F25aは、外側の弾性機構25が揺動スクロール2に及ぼす弾性力F25bに等しい。
【0050】
図8、
図9は、揺動スクロール2からクランク6に同じ力を加えた時の偏心シャフト62に対する第1開口部23の移動量の変化を示している。
図8は低速時を示しており、
図9は高速時を指している。なお、低速時は始動時を指しており、高速時は定常運転時を指しており、低速時及び高速時において同一の圧力の作動流体がスクロール式流体機械1に供給されている。
【0051】
図8、
図9において、横軸は、クランク角度を示している。クランク角度は、第1開口部23の長手方向とクランク長方向DLCとの成す角である。第1開口部23の長手方向は揺動スクロール2の長手方向DLに等しい。クランク長方向DLCは、回転シャフト61の中心軸A61から偏心シャフト62の中心軸A62に向かう方向である。縦軸は、無次元化された移動量の比率を指している。移動量は、偏心シャフト62の中心軸A62に対する第1開口部23の中心軸A23の変位量を示している。この移動量は、冷態時における第1開口部23の位置と、回転時における第1開口部23の位置との差である。
【0052】
図7において、スクロール式流体機械1の運転時に、揺動スクロール2は、固定スクロール2(回転シャフト61の中心軸A61)に対して公転する。揺動スクロール2の公転により揺動スクロール2には遠心力が作用する。遠心力の方向は、クランク長方向DLCに等しい。一方、遠心力の方向は長手方向DLに対して変化する。ここで、第1開口部23の移動は、第1開口部23の長手方向のみに制限されている。このため、遠心力の長手方向成分のみが第1開口部23を移動させる。クランク角度が0度又は180度であるとき、クランク6のクランク長方向DLCが揺動スクロール2の長手方向DLと平行になっており、遠心力の長手方向成分の大きさは遠心力の大きさに等しくなる。このとき、第1開口部23は最大の遠心力を受ける。このため、クランク角度が0度及び180度の付近において、第1開口部23の移動量が最大となる。なお、弾性機構25の伸縮に要する時間のため、第1開口部23の移動量が最大となるクランク角度が、0度及び180度からズレた角度になっている。
【0053】
図8、
図9に示されるように、高速時における移動量の振幅は、低速時における移動量の振幅と比べて極めて小さい。
【0054】
上述の結果は、揺動スクロール2に設けられている液体式ダンパー機構によってもたらされている。絞りとしての凹部24dの開口面積が一定であるため、第1開口部23に力が加えられた時点から第1開口部23の変位が完了する時点までに遅れが発生する。このため、液体式ダンパー機構は、第1開口部23に加わる力の大きさや方向が高速で変化する場合に、第1開口部23の変位に対して抵抗するが、第1開口部23に加わる力の大きさや方向が低速で変化する場合には、第1開口部23の変位に対して抵抗しない。この結果、揺動スクロール2の公転速度が高速になるほど第1開口部23の移動量が小さくなる。また、液体式ダンパー機構は、低速の変化には抵抗しないため、熱膨張による揺動スクロール2のゆっくりとした移動に抵抗することなく、変位を許容する。このため、揺動スクロール2の熱膨張に応じて、揺動スクロール2の位置が適切に調整される。
【0055】
図6、
図7を参照して、クランク長LCと揺動スクロール2の最大回転半径との関係を説明する。揺動スクロール2はクランク6によって揺動するため、揺動スクロール2の実際の回転半径は、クランク6の構造によって決定されるクランク長LCに等しい。クランク長LCは、回転シャフト61の中心軸A61と偏心シャフト62の中心軸A62との距離を指している。
【0056】
本実施形態では、揺動スクロール2が固定スクロール3に対して突き当たることなくスムーズに公転できるように、クランク長LCが揺動スクロール2の最大回転半径の最小値と同じ長さに設定されている。揺動スクロール2の最大回転半径は、固定スクロール3のスクロール壁31に揺動スクロール2のスクロール壁21が接触しながら揺動スクロール2が公転するときの揺動スクロール2の回転半径を示している。この最大回転半径は、固定スクロール3に対する揺動スクロール2の揺動の中心位置、揺動スクロール2のスクロール壁21の形状、及び固定スクロール3のスクロール壁31の形状によって決定される。
【0057】
揺動スクロール2の揺動の中心位置の変化に応じて、揺動スクロール2の最大回転半径は変化する。揺動スクロール2の揺動の中心位置が所定の基準位置にあるとき、揺動スクロール2の最大回転半径は最大値を取る。所定の基準位置は、スクロール壁21及び31のインボリュート曲線を決定するパラメータに基づいて特定される。揺動スクロール2の揺動の中心位置が基準位置から離れるにつれて、最大回転半径は小さくなる。基本的には、揺動スクロール2の揺動の中心位置が所定の基準位置に一致するように、スクロール式流体機械1は構成されている。しかし、揺動スクロール2の揺動により、第1開口部23は偏心シャフト62に対して振動する。このため、揺動スクロール2の揺動の中心位置も基準位置に対して振動し、必ずしも基準位置に保たれない。
【0058】
図6、
図7に示されるある瞬間において、2つの内側の隙間G23の大きさは等しく、2つの外側の隙間G23の大きさも等しい。このとき、揺動スクロール2の揺動の中心位置は基準位置にあり、最大回転半径は最大値である。揺動スクロール2の揺動の中心位置が基準位置に保たれている限り、熱膨張によって揺動スクロール2の長さが変化しても、揺動スクロール2の最大回転半径は最大値に保たれている。
【0059】
揺動スクロール2は2つのクランク6を介して固定スクロール3に支持されているため、固定スクロール3に対する揺動スクロール2の揺動の中心位置は、偏心シャフト62に対する揺動スクロール2の移動量に応じて変化する。上述したように揺動スクロール2の揺動の中心位置が基準位置から離れるにつれて、揺動スクロール2の最大回転半径は小さくなる。このため、偏心シャフト62に対する揺動スクロール2の移動量が最大であるとき、揺動スクロール2の最大回転半径は最小値を取る。このため、揺動スクロール2の最大回転半径の最小値は、偏心シャフト62に対する揺動スクロール2の最大移動量、揺動スクロールの形状、及び固定スクロールの形状によって特定される。揺動スクロール2の最大移動量は、偏心シャフト62に対する第1開口部23の最大振幅に基づいて特定される。第1開口部23の最大振幅は、第1開口部23及び軸受ハウジング24の形状に基づいて特定される。
【0060】
揺動スクロール2の回転半径を決定するクランク長LCが、揺動スクロール2の最大回転半径の最小値に設定されているので、揺動スクロール2が偏心シャフト62に対して振動しても、揺動スクロール2が固定スクロール3に突き当たって抵抗を受けることが防止される。
【0061】
なお、揺動スクロール2の最大回転半径は、偏心シャフト62に対する揺動スクロール2の移動量に応じて最大値と最小値との間で変動するが、クランク長LCはクランク6の構造によって一定値に保たれている。このため、スクロール壁21とスクロール壁31との間に隙間が発生しうる。しかしながら、揺動スクロール2と固定スクロール3との間は、作動流体自体又はシール剤によってシール性が確保されている。このため、クランク長LCと揺動スクロール2の最大回転半径との間に揺動スクロール2の最大移動量程度の差が発生しても、揺動スクロール2と固定スクロール3とのシール性は維持されている。
【0062】
第1実施形態に係るスクロール式流体機械1は、次の効果を有している。
【0063】
スクロール式流体機械1は、クランク6毎に2つの弾性機構25と液体式ダンパー機構(軸受22、クランク支持部202、2つの密封部材26、液体27、凹部24d)とを備えている。このため、スクロール式流体機械1は、熱膨張差を吸収するために揺動スクロール2を偏心シャフト62に対して移動できるようにしながら、遠心力によって発生する偏心シャフト62に対する揺動スクロール2の振動を抑制できる。
【0064】
スクロール式流体機械1では、弾性機構25が第1開口部23内に配置されている。スクロール式流体機械1は、コンパクト化を実現している。
【0065】
スクロール式流体機械1では、クランク長LCが揺動スクロール2の最大回転半径の最小値と同じ長さに設定されている。このため、スクロール式流体機械1は、熱膨張差を吸収するために揺動スクロールを偏心シャフトに対して移動できるようにしながら、揺動スクロール2が固定スクロール3に対して突き当たることが防止される。
【0066】
スクロール式流体機械1では、熱膨張時に、各弾性機構25の平均長さが自然長さに近づくように、各弾性機構25が配置されている。ここで、各弾性機構25は、熱膨張時に揺動スクロール2の揺動によって伸縮を繰り返す。このため、スクロール式流体機械1は、各弾性機構25の寿命の均質化を実現できる。
【0067】
(第2実施形態)
図10、
図11、及び
図12を参照して、第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態の構成に加えて、クランク長可変機構を備えている。また、第1実施形態では、弾性機構25は、液体式ダンパー機構に含まれる第1開口部G23の内部に配置されているが、第2実施形態では、弾性機構25は、クランク長可変機構に含まれる第2開口部G29の内部に配置されている。つまり、第2実施形態では、弾性機構25の位置が変更されている。以下、第1及び第2実施形態において共通する部分には同符号を用いると共に、共通する部分の説明は適宜省略し、相違する部分の説明を行う。
【0068】
図10は、偏心シャフト162の支持構造を示す平面図である。クランク長可変機構は、内輪間座28、第2開口部29、偏心シャフト162、及び4つの弾性機構25を備えている。内輪間座28は、軸受22の内輪221の内側に嵌め込まれている。第2開口部29は、内輪間座28を厚み方向DTに沿って貫通することによって形成された内輪間座28の内部である。偏心シャフト162は、第1実施形態における偏心シャフト62に相当するシャフトであるが、外周面の形状が異なるために符号が変更されている。
【0069】
図10において、第2開口部29の内面は、内輪間座28の中心軸A28と平行に形成されている。該内面は、平行面29a、29a、円弧面29b、29bを有している。平行面29a、29aは、互いに平行な面であり、厚み方向DTに直交する第1方向D1と平行である。円弧面29b、29bは、厚み方向DTより見て円弧状の曲面である。
【0070】
偏心シャフト162の外面は、偏心シャフト162の中心軸A162と平行に形成されている。該外面は、平行面162a、162a、及び円弧面162b、162bを有している。平行面162a、162aは、互いに平行な面であり、第1方向D1と平行である。円弧面162b、162bは、厚み方向DTより見て円弧状の曲面である。
【0071】
第2開口部29の平行面29a、29aは、偏心シャフト162の平行面162a、162aに対向しており、第2開口部29の円弧面29b、29bは、偏心シャフト162の円弧面162b、162bに対向している。第2開口部29の平行面29aは、長手方向DLにおいて、偏心シャフト162の平行面162aよりも長い。円弧面29bと円弧面162bとの間には、隙間G29が形成されている。一方、平行面29aと平行面162aとの間には、隙間は形成されていない。このため、偏心シャフト162は、第2開口部29内を第1方向D1に沿って移動できるが、第1開口部23内を第2方向D2に沿って移動できない。第2方向D2は、厚み方向DT及び第1方向D1に直交する方向である。
【0072】
図10において、偏心シャフト162の外面は4つの凹部162cを有しており、各凹部162c内に弾性機構25が配置されている。凹部162cは、
図4において軸受ハウジング24に形成される4つの凹部24cと同様に構成されている。第1方向D1の両端にそれぞれ2つの凹部162cが設けられている。凹部162cは、円弧面162bの中央部と重なる位置にある。偏心シャフト162に形成される4つの凹部162cは、弾性機構25は、偏心シャフト162の円弧面162bよりも外側に突出している。このため、弾性機構25は、偏心シャフト162の外面と第2開口部29の内面との間に弾性力を及ぼすことができる。
【0073】
図10において、偏心シャフト162の外面は、2つの凹部162d(連通通路)を有している。各凹部162dは平行面162aと重なる位置にある。各凹部162dは、2つの隙間G29、G29間を連通している。
【0074】
図11を参照して、クランク長可変機構によってもたらされる実効クランク長LECを説明する。
図11は、クランク長LCと実効クランク長LECを示すクランク長可変機構の平面図である。
【0075】
揺動スクロール2が揺動するときに、軸受22は、回転シャフト61の周りを公転する。第1実施形態では、偏心シャフト62の中心軸A62の位置が揺動スクロール2の軸受22に対して変動しないので、揺動スクロール2の回転半径はクランク長LCに等しい。一方、第2実施形態では、偏心シャフト162の中心軸A162の位置が揺動スクロール2の軸受22に対して変動する。このため、揺動スクロール2の回転半径は、軸受22の中心軸A22の位置と回転シャフト61の中心軸A61との間の軸間距離に等しい。実効クランク長LECは、この軸間距離を示している。第2実施形態では、偏心シャフト162が第2開口部29内を移動するので、実効クランク長LECが変化する。このため、第2実施形態では、クランク長LCではなく実効クランク長LECが、揺動スクロール2の回転半径に等しい。偏心シャフト162の中心軸A162が軸受22の中心軸A22に一致する場合のみ、実効クランク長LECがクランク長LCに等しい。このように、クランク長可変機構は、実効クランク長LECを変更できる。
【0076】
図12を参照して、熱膨張によるスクロール式流体機械1の作動を説明する。
図12は、揺動中における揺動スクロール2の平面図である。
【0077】
揺動スクロール2の公転に伴って、偏心シャフト162も回転シャフト61に対して回転する。ここで、クランク長方向(中心軸A162と中心軸A61との間の軸間方向)と平行に偏心シャフト162の平行面162a、162aが形成されており、第2開口部29が形成される第1方向D1もクランク長方向に平行である。このため、揺動スクロール2の公転に伴って、第1方向D1も変化する。第1方向D1は360度回転する。
【0078】
上述したように、隙間G29内の弾性機構25は、偏心シャフト162と軸受22との間に弾性力を及ぼす。弾性力の短手方向DSにおける成分が軸受22及び軸受ハウジング24からクランク支持部202に伝達される。短手方向DSにおける成分は、第2開口部29の形成される第1方向D1が第1開口部23の形成される長手方向DLと重なる場合(0度、180度)を除いて、必ず存在している。このため、弾性機構25は、偏心シャフト162と揺動スクロール2との間に弾性力を及ぼす。
【0079】
この結果、4つの弾性機構25は、一方の第2開口部29側の弾性機構25が及ぼす弾性力の合力F2と、他方の第2開口部29側の弾性機構25が及ぼす弾性力の合力F2とが釣り合うように、偏心シャフト62に対して揺動スクロール2を移動させる。つまり、第2実施形態も、第1実施形態と同様に、4つの弾性機構25による釣り合い位置に、揺動スクロール2を移動させる。
【0080】
また、4つの弾性機構25を利用してクランク長可変機構が構成されているので、偏心シャフト162に対する揺動スクロール2の移動によって揺動スクロール2の最大回転半径が変化しても、クランク長可変機構が最大回転半径と同じ長さに実効クランク長LECを変化させる。このため、スクロール壁21とスクロール壁31との接触が常に保たれる。
【0081】
第2実施形態に係るスクロール式流体機械1は、次の効果を有している。
【0082】
揺動スクロール2は、クランク6毎に2つの弾性機構25と液体式ダンパー機構(軸受22、クランク支持部202、2つの密封部材26、液体27、凹部24d)とを備えている。このため、スクロール式流体機械1は、熱膨張差を吸収するために揺動スクロール2を偏心シャフト162に対して移動できるようにしながら、遠心力によって発生する偏心シャフト162に対する揺動スクロール2の振動を抑制できる。
【0083】
また、スクロール式流体機械1は、クランク長可変機構(内輪間座28、第2開口部29、偏心シャフト162、及び4つの弾性機構25)を備えている。このため、スクロール式流体機械1は、スクロール壁21とスクロール壁31との接触を常に保つことが出来る。