(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
揺動スクロールを固定スクロールに対して揺動させることにより、揺動スクロールと固定スクロールとの間に圧縮室又は膨張室を構成し、揺動スクロール及び固定スクロールがそれぞれ、鏡板と該鏡板から突出するスクロールラップとを有している、スクロール型流体機械において、
スクロールラップは、それぞれインボリュート曲線で形成され、基礎円中心軸に最も近いラップ部を除いて基礎円中心軸に近い側の内周側から遠い側の外周側に掛けて、揺動スクロール及び固定スクロールの少なくとも一方において、スクロールラップは、該スクロールラップの外周側に傾斜し、そのラップ部と鏡板がなす傾斜角は、外周側に向かうにつれて小さくなり、
前記少なくとも一方のスクロールラップの厚さは、鏡板側から先端側に向けて厚くなっており、
鏡板側に対する先端側の前記厚さの比は、該スクロールラップの内周側から外周側に向かう一方向に沿って大きくなっている、
ことを特徴とするスクロール型流体機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図19は、熱膨張によって変形した揺動スクロール102及び固定スクロール103の側断面図である。上述したように、熱膨張によって鏡板120、130が外周側Seに膨張するため、熱膨張時のラップ121、131間には、複数の圧縮室又は膨張室Cだけでなく、複数の隙間Sが形成される。内周側Siではラップ121、131が傾斜していないため、隙間Sの断面形状は長方形状であるが、外周側Seではラップ121、131が傾斜しているため、隙間Sの断面形状は三角形状になる。
【0008】
図19に示されるように、固定ラップ131は揺動ラップ121によって挟まれており、同じく、揺動ラップ121は固定ラップ131によって挟まれている。
図4に示される断面において、第1揺動ラップ部121(1)は揺動ラップ121の一部であり、第1固定ラップ部131(1)及び第2固定ラップ部131(2)はそれぞれ固定ラップ131の一部である。第1揺動ラップ部121(1)は、第1固定ラップ部131(1)と第2固定ラップ部131(2)との間に位置している。第1揺動ラップ部121(1)の内面121(1)Fiは、内周側Siにおいて隣り合う第1固定ラップ部131(1)の外面131(1)Feに対向しており、第1揺動ラップ部121(1)の外面121(1)Feは、外周側Seにおいて隣り合う第2固定ラップ部131(2)の内面131(2)Fiに対向している。
【0009】
外周側Seに向かうにつれて鏡板120、130の変位量が大きくなるため、内面131(2)Fiと固定鏡板130とのなす内面角度θ2は、外面131(1)Feと固定鏡板130とのなす角度θ1よりも小さい。
【0010】
ここで、スクロール型流体機械が運転しているとき、第1揺動ラップ部121(1)は、ある瞬間に第1固定ラップ部131(1)に接触し、別の瞬間に第2固定ラップ部131(2)に接触する。つまり、圧縮室又は膨張室Cは、第1揺動ラップ部121(1)の両側に交互に形成される。このため、本願の発明者の検討によれば、隙間Sを低減するには、第1揺動ラップ部121(1)の両側のそれぞれにおいて、対向する一対の面を平行にする必要がある。つまり、内面121(1)Fiと外面131(1)Feとを平行にすると共に、外面121(1)Feと内面131(2)Fiとを平行にする必要がある。
【0011】
一方、特許文献1は、スクロールラップの外面と内面とを平行に形成し且つスクロールラップを鏡板に対して傾斜させることを、開示している。しかし、揺動スクロール102の内面と外面とが平行に形成されている場合、隣り合う固定スクロール103の内面及び外面に同時に対応できない。つまり、つまり、例えば、揺動スクロール102の内面と固定スクロールの外面とが平行に保たれた場合、必然的に揺動スクロール102の外面と固定スクロールの内面とが平行にならない。
【0012】
そこで、本発明は、揺動スクロールラップの外面及び内面と固定スクロールラップの外面及び内面とについて、熱膨張時に、隣り合う2つの面の間に形成される隙間を小さくできるスクロール型流体機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、揺動スクロールを固定スクロールに対して揺動させることにより、揺動スクロールと固定スクロールとの間に圧縮室又は膨張室を構成し、揺動スクロール及び固定スクロールがそれぞれ、鏡板と該鏡板から突出するスクロールラップとを有している、スクロール型流体機械において、
スクロールラップは、それぞれインボリュート曲線で形成され、基礎円中心軸に最も近いラップ部を除いて基礎円中心軸に近い側の内周側から遠い側の外周側に掛けて、揺動スクロール及び固定スクロールの少なくとも一方において、スクロールラップは、該スクロールラップの外周側に傾斜し
、そのラップ部と鏡板がなす傾斜角は、外周側に向かうにつれて小さくなり、
前記少なくとも一方のスクロールラップの厚さは、鏡板側から先端側に向けて厚くなっており、
鏡板側に対する先端側の前記厚さの比は、該スクロールラップの内周側から外周側に向かう一方向に沿って大きくなっている、ことを特徴とするスクロール型流体機械を提供する。
【0014】
好ましくは、本発明に係るスクロール型流体機械において、各スクロールラップの外面及び内面は、それぞれ単一の凸面及び単一の凹面によって形成されており、前記一方のスクロールラップの外面及び内面と鏡板とがなす外面角度及び内面角度は、前記一方向に沿って小さくなっている。
【0015】
好ましくは、
揺動スクロールを固定スクロールに対して揺動させることにより、揺動スクロールと固定スクロールとの間に圧縮室又は膨張室を構成し、揺動スクロール及び固定スクロールがそれぞれ、鏡板と該鏡板から突出するスクロールラップとを有している、スクロール型流体機械において、
揺動スクロール及び固定スクロールの少なくとも一方において、スクロールラップは、該スクロールラップの外周側に傾斜しており、
前記少なくとも一方のスクロールラップの厚さは、鏡板側から先端側に向けて厚くなっており、
鏡板側に対する先端側の前記厚さの比は、該スクロールラップの内周側から外周側に向かう一方向に沿って大きくなっており、
前記少なくとも一方のスクロールラップの外面及び内面は、それぞれ、鏡板側から先端側に向けて配置される複数段の凸面及び複数段の凹面を有しており、各凸面及び各凹面は鏡板に対して垂直であり、
他方のスクロールラップが存在する場合、該他方のスクロールラップの外面及び内面は、それぞれ単一の凸面及び単一の凹面によって形成されており、
前記少なくとも一方のスクロールラップに含まれる複数段の凸面間の離間幅及び複数段の凹面間の離間幅は、前記一方向に沿って大きくなっている。
【0016】
好ましくは、本発明に係るスクロール型流体機械において、前記少なくとも一方のスクロールラップの外面上及び内面上に皮膜が設けられており、該皮膜の材料が、両スクロールラップの材料よりも相対的に軟質であって揺動スクロールの揺動によって削り取られうる材料である。
【0017】
好ましくは、本発明に係るスクロール型流体機械において、前記厚さの比は、前記少なくとも一方のスクロールラップの展開方向に沿って、前記両スクロールの形状に応じて変化する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るスクロール型流体機械は、揺動スクロールラップの外面及び内面と固定スクロールラップの外面及び内面とについて、熱膨張時に、隣り合う2つの面の間に形成される隙間を小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
図1−
図3を参照して、第1実施形態に係るスクロール式流体機械1の構成を説明する。
図1は、スクロール式流体機械1の側断面図である。
図2は、揺動スクロール2の平面図である。
図3は、固定スクロール3の平面図である。
【0021】
図1において、スクロール式流体機械1は、揺動スクロール2、2つの固定スクロール3、正面側カバー4、背面側カバー5、及び2つのクランク6を備えている。
【0022】
図1−
図3には、基礎円中心軸AB、垂直方向DV、第1幅方向DF、第2幅方向DS(
図2、
図3)が示されている。基礎円中心軸ABは、揺動スクロール2の揺動スクロールラップ21を描くためのインボリュート曲線の基礎円の中心を通過する軸である。垂直方向DVは、揺動スクロール鏡板20及び固定スクロール鏡板30に対して垂直な方向であり、基礎円中心軸ABに平行な方向である。第1幅方向DFは、揺動スクロール2の長手方向且つ固定スクロール3の長手方向であり、垂直方向DVに対して垂直な方向である。第1幅方向DFに沿って、一方のクランク6、基礎円、及び他方のクランク6が並んでいる。第2幅方向DSは、揺動スクロール2の短手方向且つ固定スクロール3の短手方向であり、第1幅方向DF及び垂直方向DVの双方に直交する。
【0023】
図2は、揺動スクロール2の平面図である。揺動スクロール2は、揺動スクロール鏡板(以下、揺動鏡板)20と、揺動鏡板20のスクロール支持部201から突出する揺動スクロールラップ(以下、揺動ラップ)21とを備えている。
【0024】
揺動鏡板20は、垂直方向DVに垂直な平面内に広がる板状部材であり、第1幅方向DFに長手である。揺動鏡板20は、スクロール支持部201と、2つのクランク支持部202と、2つの連結部203と、を備えている。スクロール支持部201が中央にあり、2つのクランク支持部202がスクロール支持部201の両側にある。連結部203は、スクロール支持部201とクランク支持部202とを連結している。
【0025】
図1において、固定スクロール3は、固定スクロール鏡板(以下、固定鏡板)30と、固定鏡板30から突出する固定スクロールラップ(以下、固定ラップ)31と、固定ラップ31の外周側に広がる2つのフランジ部32とを備えている。
【0026】
固定鏡板30は、垂直方向DVに垂直な平面内に広がる板状部材であり、第2幅方向DSに長手である。2つのフランジ部32は、第2幅方向DSの両端側にそれぞれ配置されている。フランジ部32は、固定ラップ31の先端部から垂直方向DVに垂直な平面内に広がっており、固定鏡板30とフランジ部32とは平行である。
【0027】
揺動スクロール2及び固定スクロール3は、揺動ラップ21と固定ラップ31とが互いに噛み合うように配置される。
【0028】
固定鏡板30は、中央部及び端部において、垂直方向DVに沿って貫通されている。中央部に形成された貫通孔が、作動流体の供給口30aである。端部に形成された貫通孔が、作動流体の排出口30bである。
【0029】
揺動スクロール2と固定スクロール3との間に、複数の圧縮室又は膨張室Cが形成される。揺動ラップ21は複数の箇所において、固定ラップ31に接触している。このため、垂直方向DVより見て、揺動ラップ21及び固定ラップ31によって囲まれる各圧縮室又は膨張室Cの形状は、三日月状である。揺動スクロール2が固定スクロール3に対して揺動することによって、揺動ラップ21と固定ラップ31との接触位置が移動する。この結果、各圧縮室又は膨張室Cの容量が変化する。
【0030】
図2において、2つのクランク6は、基礎円中心軸ABの半径方向において、固定スクロール3の外側に配置されている。つまり、本実施形態のスクロール式流体機械1における駆動方式は、外周駆動型である。
【0031】
図1において、クランク6は、2つの回転シャフト61と、1つの偏心シャフト62と、を備えている。偏心シャフト62の両側に回転シャフト61が配置されている。クランク6は一体的に形成されており、偏心シャフト62は2つの回転シャフト61に固定されている。偏心シャフト62の中心軸A62は、回転シャフト61の中心軸A61に対して偏心している。このため、回転シャフト61が自転するとき、偏心シャフト62は回転シャフト61の回りを公転する。
【0032】
図2において、揺動スクロール2は、クランク6毎に軸受22を備えている。各軸受22は、クランク6の偏心シャフト62を受ける。各軸受22は、クランク支持部202を垂直方向DVに沿って貫通することによって形成された貫通孔内に嵌め込まれている。
【0033】
図1において、揺動スクロール2は、更に、バランスウェイト11を備えている。バランスウェイト11は、偏心シャフト62に固定されている。ここで、揺動スクロール2が揺動するときに、揺動スクロール2の重心位置も揺動する。バランスウェイト11は、揺動スクロール2の重心位置の変化による荷重の発生を打ち消すために、設けられている。
【0034】
図1において、図の右側は、スクロール式流体機械1の正面側であり、図の左側は、スクロール式流体機械1の背面側である。正面側に正面側カバー4が配置されており、背面側に背面側カバー5が配置されている。
【0035】
スクロール式流体機械1は、クランク6毎に、1組の軸受91、92を備えている。一方の軸受91は正面側カバー4に支持されており、正面側の回転シャフト61を回転自在に支持する。他方の軸受92は背面側カバー5に支持されており、背面側の回転シャフト61を回転自在に支持する。
【0036】
スクロール式流体機械1は、2つの回転シャフト61の回転を同期させるために、ベルト12及び2つのプーリ13を備えている。プーリ13は軸受9の背面側において回転シャフト61に固定されている。ベルト12は、2つのプーリ13を巻いている。
【0037】
膨張機として用いられるスクロール式流体機械1の概略的な作動を説明する。作動流体が各供給口30aから揺動スクロール2と各固定スクロール3との間に形成される膨張室に供給され、各固定スクロール3の排出口30bより排出される。このとき作動流体は、揺動スクロール2と各固定スクロール3との間を進みながら膨張室を拡張させる。この結果、作動流体の圧力の一部が失われると共に、固定スクロール3、3に対して揺動スクロール2を揺動させる。このようにして、スクロール式流体機械1は、作動流体の圧力損失によって、2つのクランク6、6を駆動する動力を得る。一方、スクロール式流体機械1が圧縮機として用いられる場合、スクロール式流体機械1は、2つのクランク6、6を駆動する動力により、作動流体を圧縮させる。
【0038】
図4−
図6を参照して、揺動ラップ21及び固定ラップ31の形状をより詳しく説明する。
図4、
図5において、説明の便宜上、揺動スクロール2及び固定スクロール3は離間している。
図4−
図6において、外周側Se及び内周側Siは、揺動ラップ21及び固定ラップ31の外周側及び内周側を指している。本実施形態では、揺動ラップ21及び固定ラップ31がインボリュート曲線に沿って形成されているため、外周側Se及び内周側Siは、揺動ラップ21及び固定ラップ31の基礎円中心軸ABを基準に設定されている。つまり、外周側Se及び内周側Siは、基礎円中心軸ABに遠い側及び近い側である。
【0039】
図4は、冷態時における揺動スクロール2及び固定スクロール3の概略側断面図(分離図)である。揺動スクロール2の揺動ラップ21は、揺動鏡板20から垂直方向DVに突出している。
図4(
図4−
図6)に示される断面において、揺動ラップ21は、第1揺動ラップ部21C(1)、第2揺動ラップ部21C(2)、第3揺動ラップ部31C(3)、第4揺動ラップ部21C(4)、第5揺動ラップ部21C(5)、及び第6揺動ラップ部21C(6)に分割されている。第n揺動ラップ部21C(n)の位置は、nが大きくなるにつれて、揺動ラップ21の展開角の大きくなる方向に進み、内周側Siから外周側Seに向かう。ここで、nは1−6のいずれか1つを指している。第n揺動ラップ部21C(n)の外面21C(n)Fe及び内面21C(n)Fiは、いずれも揺動鏡板20に対して垂直である。
【0040】
一方、固定スクロール3の固定ラップ31は、固定鏡板30から概ね垂直方向DVに突出しているが、外周側Seに傾斜している。
図4(
図4−
図6)に示される断面において、固定ラップ31は、第1固定ラップ部31C(1)、第2固定ラップ部31C(2)、第3固定ラップ部31C(3)、第4固定ラップ部31C(4)、第5固定ラップ部31C(5)、及び第6固定ラップ部31C(6)に分割されている。第n固定ラップ部31C(n)の位置は、nが大きくなるにつれて、固定ラップ31の展開角の大きくなる方向に進み、内周側Siから外周側Seに向かう。ここで、nは1−6のいずれか1つを指している。第1固定ラップ部31C(1)の外面31C(1)Fe及び内面31C(1)Fiは、固定鏡板30に対して垂直である。n≧2において、第n固定ラップ部31C(n)の外面31C(n)Fe及び内面31C(n)Fiは、固定鏡板30に対して外周側Seに若干傾いている。外面角度31C(n)θeは、第n固定ラップ部31C(n)の外面31C(n)Feと、固定鏡板30とのなす角度である。内面角度31C(n)θiは、第n固定ラップ部31C(n)の内面31C(n)Fiと、固定鏡板30とのなす角度である。外面角度31C(n)θe及び内面角度31C(n)θiは、内周側Siから外周側Seに向かうにつれて小さくなっている。外面角度31C(n)θe及び内面角度31C(n)θiを比較した場合、外面31C(n)Feは内面31C(n)Fiの外周側Seに位置するため、外面角度31C(n)θeは内面角度31C(n)θiよりも小さい。
【0041】
図5は、熱膨張時における揺動スクロール2及び固定スクロール3の概略側断面図(分離図)である。
図5において、揺動スクロール2及び固定スクロール3が高温環境に置かれることにより、揺動鏡板20及び固定鏡板30が熱膨張し、揺動ラップ21が揺動鏡板20に対して傾斜すると共に固定ラップ31が固定鏡板30に対して傾斜する。揺動鏡板20及び固定鏡板30の熱膨張のため、揺動ラップ21及び固定ラップ31の先端が内周側Siに向かうように、揺動ラップ21及び固定ラップ31は傾斜する。ただし、固定ラップ31は、予め外周側Seに傾けられているため、熱膨張による変形後も外周側Seに傾いている。
【0042】
図5において、熱膨張時における第n揺動ラップ部21H(n)及び冷態時における第n揺動ラップ部21C(n)は、揺動ラップ21の同一部分を指している。熱膨張時における外面角度21H(n)θe及び内面角度21H(n)θiは、それぞれ、冷態時における外面角度21C(n)θe及び内面角度21C(n)θiよりも小さい。ここで、外面角度21H(n)θeは、第n揺動ラップ部21H(n)の外面21H(n)Feと揺動鏡板20とのなす角度であり、内面角度21H(n)θiは、第n揺動ラップ部21H(n)の内面21H(n)Fiと揺動鏡板20とのなす角度である。
【0043】
図5において、熱膨張時における第n固定ラップ部31H(n)及び冷態時における第n固定ラップ部31C(n)は、固定ラップ31の同一部分を指している。熱膨張時における外面角度31H(n)θe及び内面角度31H(n)θiは、それぞれ、冷態時における外面角度31C(n)θe及び内面角度31C(n)θiよりも大きい。ここで、外面角度31H(n)θeは、第n固定ラップ部31H(n)の外面31H(n)Feと固定鏡板30とのなす角度であり、内面角度31H(n)θiは、第n固定ラップ部31H(n)の内面31H(n)Fiと固定鏡板30とのなす角度である。
【0044】
熱膨張時において、固定ラップ31の外面角度31H(n)θe及び内面角度31H(n)θiが、それぞれ、揺動ラップ21の外面角度21H(n)θe及び内面角度21H(n)θiにできるだけ等しくなるように、揺動スクロール2及び固定スクロール3は設計されている。概略的には、ラップ21、31の先端が内周側Siに倒れることを考慮して、スクロール2、3の少なくとも一方のラップの先端が冷態時に予め外周側Seに倒れるように、該一方のラップが形成されている。
【0045】
図6は、熱膨張時における揺動スクロール2及び固定スクロール3の概略側断面図(合体図)である。
図6は、
図5において分離して示されている揺動スクロール2及び固定スクロール3が、噛み合わされた状態で示されている。
図6において、第n固定ラップ部31H(n)の外面31H(n)Fe及び内面31H(n)Fiは、それぞれ、第n揺動ラップ部21H(n)の外面21H(n)Fe及び内面21H(n)Fiと略平行になっている。つまり、揺動スクロール2及び固定スクロール3との間に、圧縮室又は膨張室C以外に形成される隙間が、ほとんど除去されている。
【0046】
なお、
図4に示される冷態時において、第n固定ラップ部31C(n)の外面31C(n)Fe及び内面31C(n)Fiは、それぞれ、第n揺動ラップ部21C(n)の外面21C(n)Fe及び内面21C(n)Fiと平行ではない。このため、冷態時において、固定ラップ31は揺動ラップ21に突き当たっている。ただし、冷態時における固定ラップ31の傾斜角度、つまり外面角度31H(n)θe及び内面角度31H(n)θiは、熱膨張を吸収するための微小量に過ぎない。このため、冷態時において、固定ラップ31及び揺動ラップ21の弾性変形によって、固定ラップ31及び揺動ラップ21は略平行に保たれる。したがって、スクロール式流体機械1は、運転始動時おける固定ラップ31及び揺動ラップ21が高温環境に移行するまでの間、固定ラップ31と揺動ラップ21との間の当接によって抵抗力を受けるに過ぎない。
【0047】
図7−
図9を参照して、冷態時における固定ラップ31及び揺動ラップ21の傾きを説明する。
【0048】
図7は、ラップの外周線Le、内周線Li、及び中心線Lcの関係を示す図である。ここでは、揺動ラップ21及び固定ラップ31を区別せず単にラップとし、揺動鏡板20及び固定鏡板30を区別せず単に鏡板として説明する。
図7において、基礎円CB、展開角φe、φi、及びφc、中心線Lc、内周線Li、及び外周線Leが描かれている。外周線Lcは、ラップの外面を鏡板に平行な平面で切断することに得られる曲線である。同様に、内周線Liは、ラップの内面を鏡板に平行な平面で切断することに得られる曲線である。外周線Le、内周線Li、及び中心線Lcはいずれも、展開角φe、φi、及びφcによって特定されるインボリュート曲線である。中心線Lcは、外周線Leと内周線との間に位置する曲面である。
図7において、中心線Lc、及び内周線Liの曲率半径Re、Rc、Riは、それぞれ、基礎円CBの同一の法線方向における曲率半径を示している。ここで、展開角φe、φc、及びφiの順に角度が大きく、展開角φe、φc間の位相差は、展開角φc、φi間の位相差に等しい。このため、外周線Leの曲率半径Reは、中心線Lcの曲率半径Rcよりも大きく、内周線の曲率半径は、中心線Lcの曲率半径Rよりも小さい。
【0049】
図8は、揺動ラップ21の外周線21Le及び内周線21Liにおける、中心線展開角と曲率半径との関係を示す図である。揺動ラップ21は揺動鏡板20に対して垂直であるので、揺動ラップ21の外面及び内面を切断する平面の高さに関係なく、外周線21Le、内周線21Li、及び中心線21Lcの位置は、変化しない。このため、
図8において、外周線21Le、内周線21Li、及び中心線21Lcのグラフがそれぞれ1つのみ、描かれている。
図8において、中心線展開角が大きくなるにつれて、つまり内周側Siから外周側Seに向かうにつれて、外周線21Le、内周線21Li、及び中心線21Lcの曲率半径が大きくなっている。外周線21Leと内周線21Liとの距離である歯厚さ21Tは、中心線展開角に関係なく、一定である。
【0050】
図9は、固定ラップ31の外周線及び内周線における、中心線展開角と曲率半径との関係を示す図である。固定ラップ31は固定鏡板30に対して傾斜しているので、固定ラップ31の外面及び内面を切断する平面の高さによって、外周線、内周線、及び中心線の位置が、変化する。
図9には、外面及び内面が固定ラップ31の先端面で切断された先端側Sdのグラフ群と、外面及び内面が固定鏡板30の表面で切断された鏡板側Spのグラフ群とが示されている。先端側Sdのグラフ群は、外周線31dLe、内周線31dLi、及び中心線31dLcのグラフであり、鏡板側Spのグラフ群は、外周線31pLe、内周線31pLi、及び中心線31pLcのグラフである。
【0051】
先端側Sdのグラフ群において、中心線展開角が大きくなるにつれて、つまり内周側Siから外周側Seに向かうにつれて、外周線31dLeと内周線31dLiとの距離である歯厚さ31Tdは、小さくなっている。同様に、鏡板側Spのグラフ群において、中心線展開角が大きくなるにつれて、外周線31pLeと内周線31pLiとの距離である歯厚さ31Tpは、小さくなっている。中心線展開角が0°であるとき、先端側Sdの歯厚さ31Tdは鏡板側Spの歯厚さ31Tpに等しいが、中心線展開角が大きくなるにつれて、先端側Sdの歯厚さ31Tdは鏡板側Spの歯厚さ31Tpよりも大きくなっている。
【0052】
第1実施形態に係るスクロール型流体機械の構成及び効果を説明する。
【0053】
第1実施形態では、固定ラップ31は固定鏡板30に対して固定ラップ31の外周側Seに傾斜している。固定ラップ31の歯厚さは、鏡板側Spから先端側Sdに向けて、厚くなっている。鏡板側Sp(31Tp)に対する先端側Sd(31Td)の歯厚さの比は、固定ラップ31の内周側Siから外周側Seに向かう一方向に沿って大きくなっている。
【0054】
特に、揺動ラップ21及び固定ラップ31は、それぞれ単一の凸面及び凹面によって形成されている。固定ラップ31の外面角度31C(n)θe及び内面角度31C(n)θiは、前記一方向に沿って小さくなっている。
【0055】
熱膨張による変位量は、固定ラップ31の内周側Siから外周側Seに向かう一方向に沿って大きくなるため、該一方向に沿って歯厚さの比を大きくなるように設定することにより、固定ラップ31の傾きが、熱膨張による変位量に比例するように変化する。
【0056】
このため、第1実施形態に係るスクロール型流体機械1は、揺動スクロールラップの外面及び内面と固定スクロールラップの外面及び内面とについて、熱膨張時に、隣り合う2つの面の間に形成される隙間を小さくできる。
【0057】
(第2実施形態)
図10−
図12を参照して、第2実施形態に係るスクロール型流体機械1を説明する。第1実施形態では、
図9に示されるように、鏡板側Sp(31Tp)に対する先端側Sd(31Td)の歯厚さの比は、中心線展開角が大きくなるにつれて、一律に大きくなっている。一方、第2実施形態では、鏡板側Sp(31Tp)に対する先端側Sd(31Td)の歯厚さの比は、中心線展開角が大きくなるにつれて、一律に大きくなっているわけではない。第2実施形態では、この歯厚さの比は、中心線展開角における曲率半径方向のスクロール2、3の長さ(幅)に比例して変化している。第1実施形態と第2実施形態との相違点は、固定ラップ31の傾きを決定する基準である。以下、スクロール2、3の長さ(幅)と歯厚さとの関係を説明する。
【0058】
熱膨張による鏡板20、30の各部における変位量は、スクロール2、3の形状によって変化する。熱膨張によって熱容量の大きな部分ほど大きく伸びるため、一般に、長手部分の各部の変位量は、短手部分の各部の変位よりも大きくなる。
【0059】
図10は、固定スクロール3の平面図であり、領域PF、PSの表示を除いて、
図3と同一の図である。
図10において、第1領域PF及び第2領域PSは、それぞれ、固定スクロール3の一部分を指している。第1領域PFは、第1幅方向DFに沿って、基礎円のある内周側Siから外周側Seに至る部分を指している。第2領域PSは、第2幅方向DSに沿って、基礎円のある内周側Siから外周側Seに至る部分を指している。
【0060】
図10に示されるように、固定スクロール3の場合、固定ラップ31の外周側に第2幅方向DSに沿って2つのフランジ部32が張り出しているため、固定鏡板30及び2つのフランジ部32を合わせた形状が、円形ではなく、長方形状である。固定スクロール3は第2幅方向DSに長手であるので、固定鏡板30の長手方向における変位量は、固定鏡板30の短手方向における変位量よりも大きい。固定鏡板30は、熱膨張によって、第1幅方向DFよりも第2幅方向DSに大きく伸びる。このため、第2領域PS内の各部の変位量は、第1領域PF内の各部の変位量よりも大きい。
【0061】
一方、
図2に示されるように、揺動スクロール2の場合、揺動ラップ21の周辺の揺動鏡板20(スクロール支持部201)の形状が基礎円を中心部とする円形であるため、揺動鏡板20の基礎円を中心部とする半径方向の長さは、どの半径方向でも等しい。この場合、半径方向の違いによる変位量の違いは発生しない。したがって、本実施形態は、揺動スクロール2の形状による影響は無視し、固定スクロール3の形状による影響のみを、固定ラップ31の傾斜角度の設定において考慮している。
【0062】
図11は、鏡板側Spの固定ラップ31の外周線31pLe及び内周線31pLiにおける、中心線展開角と半径差との関係を示す図である。半径差は、外周線31pLe又は内周線31pLiの曲率半径と中心線31pLcのインボリュート曲率半径との差を示している。
図11において、外周線31pLeの半径差31pDi及び内周線31pLiの半径差31pDiは、中心線展開角が大きくなるにつれて、全体的傾向として、減少している。この全体的傾向は、
図9に示される鏡板側Spの外周線31pLe、内周線31pLi、及び中心線31pLcの関係と同じである。しかし、半径差31pDi及び半径差31pDiは、中心線展開角の変化に応じて周期的に波打つように、大小の変化を繰り返している。
【0063】
図12は、先端側Sdの固定ラップ31の外周線31dLe及び内周線31dLiにおける、中心線展開角と半径差との関係を示す図である。半径差は、外周線31dLe又は内周線31dLiの曲率半径と中心線31dLcのインボリュート曲率半径との差を示している。
図12において、外周線31dLeの半径差31dDi及び内周線31dLiの半径差31dDiは、中心線展開角が大きくなるにつれて、全体的傾向として、増大している。この全体的傾向は、
図9に示される先端側Sdの外周線31dLe、内周線31dLi、及び中心線31dLcの関係と同じである。しかし、半径差31dDi及び半径差31dDiは、中心線展開角の変化に応じて周期的に波打つように、大小の変化を繰り返している。
【0064】
ここで、中心線展開角が0°から360°まで変化する間に、固定ラップ31の位置が、熱膨張による変位量の相対的小さな領域(第1領域PF)及び相対的な大きな領域(第2領域PS)を交互に通過する。このため、第2実施形態は、熱膨張時に、圧縮室又は膨張室以外の隙間が形成されないように、熱膨張による変位量に応じて、固定ラップ31の傾きを設定している。例えば、第1領域PF内では、固定ラップ31の傾きが相対的に小さく設定され、第2領域PF内では、固定ラップ31の傾きが相対的に大きく設定される。
【0065】
図11、
図12に示されるように、同一の中心線展開角φ0において、先端側Sdの歯厚さ31Tpは、鏡板側Spの歯厚さ31Tpよりも厚い。このため、鏡板側Sp(31Tp)に対する先端側Sd(31Td)の歯厚さの比は、同一周期において(つまり同一方向において)、中心線展開角が大きくなるにつれて大きくなっている。なお、歯厚さの比は、全体的傾向として、中心線展開角が大きくなるにつれて、周期に関係なく大きくなっている。また、
図11に示される鏡板側Spにおいて、半径差31pDi及び半径差31pDiは全体的に減少しており、
図12に示される先端側Sdにおいて、半径差31dDi及び半径差31dDiは全体的に増大している。
図11、
図12において全体的傾向が一点鎖線により示されている。このため、固定ラップ31の外面及び内面の傾き、つまり外面角度21C(n)θe及び内面角度21C(n)θiは、中心線展開角が大きくなるにつれて、全体的傾向として大きくなっている。
【0066】
第2実施形態に係るスクロール型流体機械1の構成及び効果を説明する。
【0067】
第2実施形態では、鏡板側Sp(31Tp)に対する先端側Sd(31Td)の歯厚さの比は、固定ラップ31の展開方向(中心線展開角の大きくなる方向)に沿って、固定スクロール3の形状に応じて変化する。
【0068】
熱膨張による変位量は、基礎円を中心部とする固定スクロール3の半径方向の長さに比例して大きくなるため、歯厚さの比を、該半径方向の長さに比例して変化させることによって、固定ラップ31の傾きが、熱膨張による変位量により一層比例するように変化する。
【0069】
このため、第2実施形態に係るスクロール型流体機械1は、揺動スクロールラップの外面及び内面と固定スクロールラップの外面及び内面とについて、熱膨張時に、隣り合う2つの面の間に形成される隙間をより一層小さくできる。
【0070】
なお、揺動ラップ21の周辺において揺動スクロール2の形状が非円形であるときは、固定スクロール3の形状だけでなく、揺動スクロール2の形状を考慮して、歯厚さの比(ラップの傾斜角度)を変化させることが好ましい。
【0071】
(第3実施形態)
図13を参照して、第3実施形態に係るスクロール型流体機械1を説明する。第1実施形態は、固定ラップ31の外面及び内面を固定鏡板30に対して傾斜させることによって、固定ラップ31を傾けている。これに対して、第3実施形態は、固定ラップ31の外面及び内面を複数段の面によって形成し各段の面の位置を変化させることによって、固定ラップ31を傾けている。第1実施形態と第3実施形態との相違点は、固定ラップ31の外面及び内面の形状だけである。揺動ラップ21の形状は、第1実施形態と第3実施形態との間で同一である。以下、固定ラップ31の外面及び内面の形状を説明する。
【0072】
図13は、冷態時における固定ラップ31の一部の概略側断面図である。固定ラップ31の外面は、鏡板側Spから先端側Sdに向けて配置される3つの面を有している。この3つの面は、第1凸面311Fe、第2凸面312Fe、及び第3凸面313Feからなっている。第1凸面311Fe、第2凸面312Fe、及び第3凸面313Feは、固定鏡板30に対して垂直であり、互いに離間している。離間幅W12eは、第1凸面311Feと第2凸面312Feとの間の離間幅を示しており、離間幅W23eは、第2凸面312Feと第3凸面313Feとの間の離間幅を示している。また、固定ラップ31の内面は、鏡板側Spから先端側Sdに向けて配置される3つの面を有している。この3つの面は、第1凹面311Fi、第2凹面312Fi、及び第3凹面313Fiからなっている。第1凹面311Fi、第2凹面312Fi、及び第3凹面313Fiは、固定鏡板30に対して垂直であり、互いに離間している。離間幅W12iは、第1凹面311Fiと第2凹面312Fiとの間の離間幅を示しており、離間幅W23iは、第2凹面312Fiと第3凹面313Fiとの間の離間幅を示している。
【0073】
図13において、仮想外面31FiVは、固定ラップ31の外面の全ての稜線を含む曲面であり、仮想内面31FiVは、固定ラップ31の内面の全ての稜線を含む曲面である。本実施形態では、固定ラップ31の外面において、第1凸面311Fe、第2凸面312Fe、及び第3凸面313Feの垂直方向DVにおける幅は同一であり、離間幅W12e及び離間幅W23eの幅も同一である。このため、
図13に示されるように、仮想外面31FiVの断面形状は、直線状である。同様に、固定ラップ31の外面において、第1凹面311Fi、第2凹面312Fi、及び第3凹面313Fiの垂直方向DVにおける幅は同一であり、離間幅W12i及び離間幅W23iの幅も同一である。このため、
図13に示されるように、仮想内面31FiVの断面形状も、直線状である。
【0074】
図13において、小隙間Ssは、仮想外面31FeVと固定ラップ31の真の外面との間に形成される隙間、又は仮想内面31FiVと固定ラップ31の真の内面との間に形成される隙間を指している。
【0075】
仮想外面31FeVと固定鏡板30とのなす外面角度31θeは、仮想内面31FiVと固定鏡板30とのなす内面角度31θiよりも小さい。このため、固定ラップ31において、先端側Sdの歯厚さ31Tdは、鏡板側Spの歯厚さ31Tpよりも厚い。
【0076】
第3実施形態では、該一方向に沿って、内面の離間幅W12i及び離間幅W23i、及び外面の離間幅W12e及び離間幅W23eが大きくなっている。このため、第3実施形態における外面角度31θe及び内面角度31θiは、内周側Siから外周側Seに向かう一方向に沿って小さくなっている。このため、鏡板側Sp(31Tp)に対する先端側Sd(31Td)の歯厚さの比は、前記一方向に沿って大きくなっている。
【0077】
固定ラップ31の表面加工は、固定鏡板30に対して垂直な外面及び内面を有する加工前の固定ラップ31に、垂直方向DVに沿って多段階のエンドミル加工を施すことによって行われている。
【0078】
第3実施形態に係るスクロール型流体機械1の構成及び効果を説明する。
【0079】
第3実施形態では、固定ラップ31の外面は、鏡板側Spから先端側Sdに向けて配置される3つの凸面311Fe、312Fe、及び313Feを有しており、固定ラップ31の内面は、鏡板側Spから先端側Sdに向けて配置される3つの凹面311Fi、312Fi、及び313Fiを有している。凸面間の離間幅W12e、W23e、及び凹面間の離間幅W12i、W23iは、前記一方向に沿って大きくなっている。
【0080】
第3実施形態では、固定ラップ31の外面及び内面自体は、隣り合う揺動ラップ21の内面及び外面に対して平行にならないが、固定ラップの外面及び内面の稜線によって形成される仮想外面31FeV及び仮想内面31FiVは、隣り合う揺動ラップ21の内面及び外面に対して平行に近づけることができる。仮想外面31FeV及び仮想内面31FiVが隣り合う揺動ラップ21の内面及び外面に対して平行になるとき、小隙間Ssを除いて、揺動ラップ21と固定ラップ31との間の隙間の発生が抑制される。
【0081】
このため、第3実施形態に係るスクロール型流体機械1は、揺動スクロールラップの外面及び内面と固定スクロールラップの外面及び内面とについて、熱膨張時に、隣り合う2つの面の間に形成される隙間を小さくできる。
【0082】
(第4実施形態)
図14、
図15を参照して、第4実施形態に係るスクロール型流体機械1を説明する。第4実施形態は、第3実施形態の構成に加えて、固定ラップ31の表面に設けられる皮膜40を有している。第4実施形態と第3実施形態との相違点は、皮膜40の存在だけである。したがって、以下、固定ラップ31の表面に設けられる皮膜40を説明する。
【0083】
図14は、皮膜40を有する固定ラップ31の一部の概略側断面図である。
図14において、固定ラップ31の外面及び内面には、表面を被覆するための皮膜40が設けられている。皮膜40の厚さは、仮想外面31FeV及び仮想内面31FiVの内側の小隙間Ssを皮膜40によって埋めるために必要な長さ以上に、設定されている。
【0084】
皮膜40の材料は、揺動スクロール2及び固定スクロール3の材料よりも相対的に軟質であって、揺動スクロールの揺動によって削り取られうる材料である。揺動スクロール2及び固定スクロール3の材料は、金属製、例えばステンレスである。一方、皮膜40の材料は、例えば、フッ素樹脂又は燐酸である。このため、スクロール型流体機械1が運転されるとき、揺動ラップ21と固定ラップ31との接触により、固定ラップ31に設けられた皮膜40が部分的に除去される。
【0085】
図15は、段差の解消された固定ラップ31の一部の概略側断面図である。
図15は、揺動ラップ21と固定ラップ31との接触により、固定ラップ31上の皮膜40が部分的に除去された様子を示している。上述したように、固定ラップ31は、仮想外面31FeV及び仮想内面31FiVが隣り合う揺動ラップ21の内面及び外面とできるだけ平行になるように、設計されている。このため、仮想外面31FeV及び仮想内面31FiVよりも外側に突出する部分の皮膜40が、スクロール型流体機械1の運転によって除去される。一方、小隙間Ss内の皮膜40は残留する。この結果、皮膜40によって、仮想外面31FeV及び仮想内面31FiVを実質的な外面及び内面とする固定ラップ31が形成される。
【0086】
第4実施形態に係るスクロール型流体機械1の構成及び効果を説明する。
【0087】
第4実施形態では、固定ラップ31の外面及び内面に、軟質な皮膜40が設けられている。皮膜40によって、第3実施形態で発生する小隙間Ssが埋められている。
【0088】
このため、第4実施形態に係るスクロール型流体機械1は、揺動スクロールラップの外面及び内面と固定スクロールラップの外面及び内面とについて、熱膨張時に、隣り合う2つの面の間に形成される隙間をより一層小さくできる。
【0089】
(変形例)
本実施形態は、次の変形構成を採用できる。
【0090】
第1−第4実施形態では、固定ラップ31のみに熱膨張による変形量を考慮した加工が施されており、揺動ラップ21にはその加工が施されていない。揺動ラップ21及び固定ラップ31の双方に、熱膨張による変形量を考慮した加工が施されてもよい。