(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753725
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】コルゲートフィン型熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 1/30 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
F28F1/30 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-98600(P2011-98600)
(22)【出願日】2011年4月26日
(65)【公開番号】特開2012-229862(P2012-229862A)
(43)【公開日】2012年11月22日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】文後 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲
【審査官】
鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−266628(JP,A)
【文献】
特開平04−139387(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0173478(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0243226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/30,1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏平チューブとコルゲートフィンとが交互に配置され、そのフィンの表面に気体流通方向へ互いに離間して、多数の同一幅の通常ルーバ(1)が定間隔に切り起こしされたコルゲートフィン型熱交換器において、
そのフィンの表面には、気体の入口端部と中間部と出口端部に、それぞれルーバの存在しない入口平坦部(2)と中間平坦部(3)と出口平坦部(4)とを有し、
入口平坦部(2)の下流端には入口ルーバ(5)がその平坦部(2)に連続して、断面への字状に切り起こされ、
中間平坦部(3)の入口側および出口側には、第1転向ルーバ(6)、第2転向ルーバ(7)がそれぞれ中間平坦部(3)に連続して、断面ハの字状に切り起こされ、
出口平坦部(4)にはその風上側に出口ルーバ(8)が出口平坦部(4)に連続して、断面への字状に切り起こされ、
入口ルーバ(5)の幅L1および第2転向ルーバ(7)の幅L3が、通常ルーバ(1)の幅Lの半分を超える幅で且つ、それにより前記中間平坦部(3)の両側に形成される空気流の流れを流通方向の横断面において略対称の山形に形成にしたことを特徴とするコルゲートフィン型熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載のコルゲートフィン型熱交換器において、
前記第1転向ルーバ(6)の幅L2が前記通常ルーバ(1)の幅Lと同程度の幅に形成されたコルゲートフィン型熱交換器。
【請求項3】
請求項1に記載のコルゲートフィン型熱交換器において、
前記入口ルーバ(5)の幅L1が、前記通常ルーバ(1)の幅Lと同程度の幅に形成され、
前記第2転向ルーバ(7)の幅L3が、前記通常ルーバ (1)の幅Lと同程度の幅に形成されたコルゲートフィン型熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジン冷却水の冷却用ラジエータや、空調用熱交換器等に広く用いられているコルゲートフィン型熱交換器に関し、特に、そのフィン表面の切起しルーバに特徴があるものである。
【背景技術】
【0002】
コルゲートフィン型熱交換器は、そのコアが
図7に示すごとく、偏平チューブ11とコルゲートフィン12とが交互に配置され、それらの各接触部を一体にろう付け固定したものである。そのコルゲートフィン12の表面には、
図5および
図6に示すごとく、多数の通常ルーバ1が定ピッチに切起し成形されている。そして、その空気流通方向の両端には入口平坦部2と出口平坦部4とが配置され、且つその中間部に中間平坦部3が配置されている。
【0003】
その中間平坦部3の両端には第1転向ルーバ6および第2転向ルーバ7が、その中間平坦部3と連続してハの字状に形成されている。そして、入口平坦部2および出口平坦部4には、入口ルーバ5および出口ルーバ8がヘの字状に連続して形成されている。なお、各ルーバの切り起こし方向は、中間平坦部3を境に気体9の上流側と下流側とでその向きを逆にする。
入口ルーバ5と、第1転向ルーバ6と、第2転向ルーバ7と、出口ルーバ8は、それぞれ通常ルーバ1の幅Lの半分に形成されている。このようなルーバが
図6のごとく、各偏平チューブ11間に多数並列する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の実験によれば、従来のコルゲートフィン型熱交換器は、
図6に示すごとく、気体9が左から右へ流通するとき、中間平坦部3と、その上流側および下流側に位置する多数の通常ルーバ1との作用により、流通路10は山形に形成される。それにより、流路長を長くして、熱交換を促進させている。
ところが、よく観察すると、その流通路10の形状は左右非対称になる。即ち、気体9の入口側の傾斜角度が大きく、出口側がそれより傾斜が小さい。このように、流通路10の傾斜がゆるくなると、その分だけ流路長が短くなり、熱交換性能が低下することになる。
【0005】
そこで、本発明者はその原因を確かめるべく、
図5における隣接する各通常ルーバ1、1の間、それと、出入口ルーバとの間、通常ルーバと転向ルーバとの間の各Pにおいて、その流速を測定してみた。すると、
図2(B)の丸印のごとく、入口ルーバ5の位置および第2転向ルーバ7の位置でルーバ内速度が、他の点に比べて急激に低下していることがわかった。このような流速の低下があると、その位置では
図3の丸印の折れ線のごとく、熱伝達率が他の位置より低下している。
そこで、本発明者は、かかる流速低下および熱伝達率の低下を防止するため、各種実験を試み、その実験結果に基づいて本発明を完成する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明は、偏平チューブとコルゲートフィンとが交互に配置され、そのフィンの表面に気体流通方向へ互いに離間して、多数の同一幅の通常ルーバ(1)が定間隔に切り起こしされたコルゲートフィン型熱交換器において、
そのフィンの表面には、気体の入口端部と中間部と出口端部に、それぞれルーバの存在しない入口平坦部(2)と中間平坦部(3)と出口平坦部(4)とを有し、
入口平坦部(2)の下流端には入口ルーバ(5)がその平坦部(2)に連続して、断面への字状に切り起こされ、
中間平坦部(3)の入口側および出口側には、第1転向ルーバ(6)、第2転向ルーバ(7)がそれぞれ中間平坦部(3)に連続して、断面ハの字状に切り起こされ、
出口平坦部(4)にはその風上側に出口ルーバ(8)が出口平坦部(4)に連続して、断面への字状に切り起こされ、
入口ルーバ(5)の幅L
1および第2転向ルーバ(7)の幅L
3が、通常ルーバ(1)の幅Lの半分を超える幅
で且つ、それにより前記中間平坦部(3)の両側に形成される空気流の流れを流通方向の横断面において略対称の山形に形成にしたことを特徴とするコルゲートフィン型熱交換器である。
【0008】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の
コルゲートフィン型熱交換器において、
前記第1転向ルーバ(6)の幅L
2が
前記通常ルーバ(1)の幅Lと同程度の幅に形成されたコルゲートフィン型熱交換器である。
【0009】
請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載の
コルゲートフィン型熱交換器において、
前記入口ルーバ(5)の幅L1が、前記通常ルーバ(1)の幅Lと同程度の幅に形成され、
前記第2転向ルーバ(7)の幅L3が、前記通常ルーバ (1)の幅Lと同程度の幅に形成されたコルゲートフィン型熱交換器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコルゲートフィン型熱交換器によれば、入口ルーバ5の幅L
1および第2転向ルーバ7の幅L
3が、通常ルーバ1の幅Lの半分を超える幅
で且つ、それにより中間平坦部(3)の両側に形成される空気流の流れを略対称の山形に形成にしたものである。
そのため、空気の流通が
図2(A)に示すごとく、流通方向横断面において傾斜の大きな略対称の山形に形成され、その分だけ流路長を長くして全体として熱交換性能を向上する。特に、
図2(B)に示すごとく、入口ルーバ5のルーバ内速度と、第2転向ルーバ7のルーバ内速度とを速くし、そこにおける熱伝達率を
図3のごとく向上し、全体として放熱性の高いコルゲートフィン型熱交換器を提供できる。即ち、従来型熱交換器に比べて、入口ルーバ5および第2転向ルーバ7近傍における流速および熱伝達率を著しく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のコルゲートフィン型熱交換器に使用されるフィンの第1実施例を示す説明図。
【
図2】(A)本発明のフィンの第2実施例を示す説明図、(B)空気流のルーバ内速度を示す説明図(縦軸:ルーバ内速度,横軸:
図2(A)および
図6におけるルーバピッチ区切り,白丸:一般フィン(従来型フィン),黒四角:本発明フィン)。
【
図3】フィンの熱伝達性能を示す説明図(縦軸:熱伝達率,横軸:
図2(A)および
図6におけるルーバピッチ区切り,白丸:一般フィン(従来型フィン),黒四角:本発明フィン)。
【
図5】従来型熱交換器に使用されているフィンの例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に図面に基づいて、本発明の実施の形態につき説明する。
図1は本発明のコルゲートフィン型熱交換器における第1実施例の要部説明図であり、
図2(A)は第2実施例の要部説明図であって、
図7におけるII−II矢視断面図である。
この熱交換器は、エンジン冷却水冷却用ラジエータや、空調用熱交換器あるいはインタークーラ等の熱交換器に用いることができる。
【0013】
そのコアは
図7に示すごとく、多数の偏平チューブ11とコルゲートフィン12とが交互に並列し、それらの接触部が互いにろう付け固定されている。各偏平チューブ11の両端部は、図示しないタンクに接続され、偏平チューブ11内に第1流体が流通し、その外面側およびコルゲートフィン12側に気体9として、空気流が流通する。この例の熱交換器のコルゲートフィン12が、
図5に示す従来型のそれと異なる点は、入口ルーバ5の幅L
1と、第2転向ルーバ7の幅L
3と、その入口ルーバ5とそれに隣接する通常ルーバ1との空間t
1のみである。他は従来型と同一であるので、その説明を省略する。
【0014】
(実施例形状)
従来型のコルゲートフィンは、
図5に示す如く、入口ルーバ5、第1転向ルーバ6、第2転向ルーバ7、出口ルーバ8の各幅L
1〜幅L
4は、全て通常ルーバ1の幅Lの半分に形成されている。
しかし、本発明では
図1に示す如く、入口ルーバ5の幅L
1と第2転向ルーバ7の幅L
3とが、通常ルーバ1の幅Lと同一または略同一である。また、入口ルーバ5とそれに隣接する通常ルーバ1との隙間t
1は、互いに隣接する通常ルーバ1間どうしの隙間t
2よりも広い。そして、
図1の例では中間平坦部3の上流側および下流側に夫々8枚の通常ルーバ1がそれぞれ切起し形成されている。
【0015】
また、
図2(A)の第2実施例の場合には、中間平坦部3に対し、その上流側と下流側とにそれぞれ18枚の通常ルーバ1が切起し成形されている。それ以外では、
図1および
図2(A)の各実施例の各ルーバは同一である。即ち、両実施例の入口ルーバ5、第1転向ルーバ6、第2転向ルーバ7、出口ルーバ8はすべて同一に形成されている。
図1の実施例は、偏平チューブ11が1列のものに適用し、
図2(A)の実施例は偏平チューブ11が2列のものに適用される。
【0016】
(実験結果)
図2(A)の第2実施例において、隣接する通常ルーバ1間の中間部Pおよびその通常ルーバ1と出入口ルーバとの間、通常ルーバ1と各転向ルーバとの間、における風速を測定した。すると、
図2(B)の四角各点に示すごとく、入口ルーバ5の位置および第2転向ルーバ7の位置の風速が、従来フィン(丸の各点)に比べて向上した。それにともない、
図3のごとくその近傍における熱伝達率も向上した。そして、
図2(A)に示すごとく中間平坦部3の上流側と下流側とで、左右対称な流通路10が形成された。そして、
図2(A)の中間平坦部3からの距離Sと、その下流側における距離S
1とが同一となった。これは2段目における流通路10の縁と中間平坦部3との距離である。
【0017】
これに対して、
図6に示す、従来のコルゲートフィン型熱交換器は、上流側の長さSが下流側の長さS
2よりも短い。その長さは、通常ルーバ1の2つの幅ほど短くなっている。前記のとおり、本発明の
図2(A)では流通路10の上流側の傾斜と下流側の傾斜が同一であると共に、入口ルーバ5およびその近傍における風速および熱伝達率が、従来のそれに比べて夫々
図2(B)、
図3のごとく大きくなっている。同様に第2転向ルーバ7における風速および熱伝達率も、本発明では大きくなっている。
【0018】
なお、上記実験における空気流の温度は20℃とし、気体速度(風速)を8.0m/secとする。そして、偏平チューブ11内を流通する冷却水温度を80℃に固定した。また、
図1および
図2(A)の例においては、入口ルーバ5と通常ルーバ1との間隔t
1を通常ルーバ1どうしの間隔t
2よりも広くしたが、それを同一とした場合、入口ルーバ5近傍におけるルーバ内流速は
図2(B)よりも僅かに低下するが、従来の流速よりも速い。それとともに、熱伝達率も僅かに低下するが、従来のものに比べてその熱伝達率も良い。
このように入口ルーバ5における隙間t
1を大きくし、入口ルーバ5および第2転向ルーバ7の幅L
1、L
3を通常ルーバ1の幅Lと略同一にすることにより、理想的な流通路10の流れを作り、ルーバ内流速および熱伝達率を向上できる。
【0019】
なお、
図1の例では、入口ルーバ5の幅L
1と第2転向ルーバ7の幅L
3とが、通常ルーバ1の幅Lと同一または略同一である。しかし、本発明にこれに限らず、入口ルーバ5の幅L
1と第2転向ルーバ7の幅L
3とが、通常ルーバ1の幅Lの半分を超えればよい。それにより従来より熱交換性能が向上するからである。また、入口ルーバ5とそれに隣接する通常ルーバ1との隙間t
1は、互いに隣接する通常ルーバ1間どうしの隙間t
2よりも広くしたが、隙間t
1と隙間t
2同一としてもよい。
【0020】
次に、
図4は本発明の第3実施例であり、この例が第1実施例の
図1と異なる点は、第1転向ルーバ6の幅L
2である。この例では第1転向ルーバ6の幅L
2と通常ルーバ1の幅Lとが同一である。実験によれば、このように構成しても、結果はほとんど変わらなかった。
【符号の説明】
【0021】
1 通常ルーバ
2 入口平坦部
3 中間平坦部
4 出口平坦部
5 入口ルーバ
6 第1転向ルーバ
7 第2転向ルーバ
8 出口ルーバ
9 気体
10 流通路
11 偏平チューブ
12 コルゲートフィン