(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料噴射ポンプを備えるディーゼルエンジンには、エンジン回転数に応じて燃料噴射量を調整するガバナ装置が備えられる。例えば、特許文献1には、燃料噴射ポンプの燃料噴射量を調整するコントロールラックに連結されると共に、ガバナウエイトに連動して回動する第一ガバナレバーと、前記第一ガバナレバーに対して回動可能な第二ガバナレバーと、一対のアームを有し、第一ガバナレバーと第二ガバナレバーとの間に介装されるねじりスプリングと、第二ガバナレバーからアングライヒストローク分だけ移動可能に突出して、第一ガバナレバーに当接可能とされると共に、ねじりスプリングの一方のアーム端部が係止されるアングライヒピンと、を備えるガバナ装置が開示されている。
【0003】
特許文献1のガバナ装置では、第一ガバナレバーが一の回動方向に回動することにより、コントロールラックが燃料噴射量を増加させる方向に移動し、第一ガバナレバーが他の回動方向に回動することにより、コントロールラックが燃料噴射量を減少させる方向に移動する。なお、以下の説明では、第一ガバナレバーの一の回動方向を「増量方向」、他の回動方向を「減量方向」という。また、特許文献1のガバナ装置では、第一ガバナレバーがアングライヒピンに当接することにより、第一ガバナレバーがアングライヒストローク分だけ増量方向に回動した位置に保持される。これにより、エンジン回転数が低い領域における燃料噴射量が増加するため、低速回転領域でのエンジン出力を増大させることができる。
【0004】
すなわち、エンジン回転数が低い場合には、ねじりスプリングの初期付勢力(以下「セット荷重」という。)よりも、第一ガバナレバーがアングライヒピンを反突出方向に押し込む荷重(ガバナウエイトのスラスト荷重)の方が小さいため、第一ガバナレバーがアングライヒストローク分だけ増量方向に回動した位置に保持される。これにより、アングライヒピンがアングライヒストローク分だけ突出しない場合よりも、コントロールラックが燃料噴射量を増加させる方向側に移動して、燃料噴射量が増加することになる。
【0005】
その後、エンジン回転数が上昇して、ねじりスプリングのセット荷重よりもガバナウエイトのスラスト荷重が大きくなると、第一ガバナレバーがアングライヒピンを反突出方向に押し込みながら、アングライヒストローク分だけ他の方向に回動する。これにより、コントロールラックが燃料噴射量を減少させる方向に移動して、燃料噴射量が減少することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のガバナ装置では、アングライヒピンにより燃料噴射量が増加するエンジン回転数が、ねじりスプリングのセット荷重に応じて定まるところ、ねじりスプリングの一方のアーム端部はアングライヒピンに、他方のアーム端部は第一ガバナレバーにそれぞれ係止されるため、ねじりスプリングのセット荷重を調整することができない。
【0008】
すなわち、ねじりスプリングの一方のアームと他方のアームとが成す角度(以下「ねじれ角度」という。)を小さくすることにより、ねじりスプリングのセット荷重を大きくしたり、これとは反対に、ねじれ角度を大きくすることにより、ねじりスプリングのセット荷重を小さくしたりして、アングライヒピンにより燃料噴射量が増加するエンジン回転数を調整することができない。
【0009】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、ねじりスプリングのセット荷重を調整して、アングライヒピンにより燃料噴射量が増加するエンジン回転数を調整することができるエンジンのガバナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上のとおりであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
すなわち、請求項1においては、燃料噴射ポンプの燃料噴射量を調整するコントロールラックに連結されると共に、ガバナウエイトに連動して回動する第一ガバナレバーと、前記第一ガバナレバーに対して回動可能な第二ガバナレバーと、一対のアームを有し、前記第一ガバナレバーと前記第二ガバナレバーとの間に介装されるねじりスプリングと、前記第二ガバナレバーからアングライヒストローク分だけ移動可能に突出して、前記第一ガバナレバーに当接可能とされると共に、前記ねじりスプリングの一方のアーム端部が係止されるアングライヒピンと、を備えるエンジンのガバナ装置において、前記第一ガバナレバーに回動可能に軸支されると共に、前記ねじりスプリングの他方のアーム端部が係止される可動部材と、前記可動部材を複数の回動した位置に位置決めする位置決め手段と、を備えるものである。
【0012】
請求項2においては、前記位置決め手段は、前記可動部材に設けられる凸部と、前記第一ガバナレバーに設けられ、前記凸部と嵌合する複数の嵌合部と、を有し、前記複数の嵌合部は、前記可動部材における前記凸部の回動軌跡上に配置されるものである。
【0013】
請求項3においては、前記可動部材には、突起部が設けられ、前記突起部は、前記可動部材を回動操作する際の持ち手になると共に、前記第二ガバナレバーに当接することにより、前記第一ガバナレバーの回動が制限されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、可動部材が複数の回動した位置に位置決めされることにより、可動部材に係止されたねじりスプリングの他方のアーム端部が、複数の位置に移動して位置決めされる。これにより、ねじりスプリングのねじれ角度が変更されるため、ねじりスプリングのセット荷重を調整して、アングライヒピンにより燃料噴射量が増加するエンジン回転数を調整することができる。
【0016】
請求項2においては、可動部材を回動させるだけで、可動部材の凸部と第一ガバナレバーの嵌合部とが嵌合して、可動部材が嵌合部の各位置に位置決めされるため、ねじりスプリングのセット荷重を容易に調整することができる。
【0017】
請求項3においては、突起部を用いて可動部材を回動操作することにより、ねじりスプリングのセット荷重を容易に調整することができる。また、第一ガバナレバーの回動を制限するための突起部を可動部材に設けることにより、このような突起部を第一ガバナレバーに設ける必要がないため、第一ガバナレバーの構造を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガバナ装置が備えられるエンジンを示す正面図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るガバナ装置を示す平面一部断面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係るガバナ装置を示す正面図。
【
図5】第一ガバナレバーを示す図、(a)平面図、(b)正面図。
【
図6】第二ガバナレバーを示す図、(a)平面図、(b)底面図。
【
図7】第二ガバナレバーを示す図、(a)正面図、(b)側面図。
【
図8】本発明の一実施形態に係るガバナ装置の右半部を示す平面一部断面図。
【
図9】本発明の一実施形態に係るガバナ装置の右半部を示す正面図。
【
図11】可動ピースを示す図、(a)平面図、(b)正面図。
【
図13】本発明の一実施形態に係るガバナ装置の作動状態を示す平面一部断面図、(a)エンジン始動時の状態を示す図、(b)第一ガバナレバーがアングライヒピンに当接している状態を示す図。
【
図14】第一ガバナレバーがアングライヒピンに当接している状態を示す平面一部断面図、(a)アングライヒピンがアングライヒストローク分だけ突出している状態を示す図、(b)アングライヒピンがアングライヒストローク分だけ押し込まれている状態を示す図。
【
図15】可動ピースが第一嵌合孔の位置に位置決めされた場合のエンジン回転数とエンジン出力及び燃料噴射量との関係を示す図。
【
図16】可動ピースの回動した位置を示す平面一部断面図、(a)可動ピースが第一嵌合孔の位置に位置決めされた場合の図、(b)可動ピースが第二嵌合孔の位置に位置決めされた場合の図、(c)可動ピースが第三嵌合孔の位置に位置決めされた場合の図。
【
図17】エンジン回転数とエンジン出力及び燃料噴射量との関係を示す図、(a)可動ピースが第二嵌合孔の位置に位置決めされた場合の図、(b)可動ピースが第三嵌合孔の位置に位置決めされた場合の図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0020】
先ず、本発明の一実施形態に係るガバナ装置1が備えられるエンジン2について、
図1及び
図2より説明する。なお、以下の説明では、エンジン2のクランク軸11の軸方向を前後方向として、
図1の矢印Uで示す方向を「上方」、矢印Lで示す方向を「左方」、
図2の矢印Fで示す方向を「前方」という。
【0021】
図1に示すように、エンジン2は、いわゆる横型水冷エンジンであり、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、エアクリーナ5、マフラ6、燃料タンク7、冷却水タンク8、燃料噴射ポンプ9、及びガバナ装置1等が収容されるギヤケース10等で構成される。
【0022】
このうちシリンダブロック3内には、クランク軸11が前後方向に架設される。クランク軸11は、図示しない軸受を介してシリンダブロック3に回転可能に軸支されると共に、左右往復運動する図示しないピストンからの動力が伝達されて回転する。また、シリンダブロック3の右側には、シリンダヘッド4が設けられる。シリンダヘッド4の上方には、エアクリーナ5及びマフラ6が前後に並べて設けられる。また、シリンダブロック3の上側には、燃料タンク7及び冷却水タンク8が左右に並べて設けられると共に、シリンダブロック3の前側には、燃料噴射ポンプ9及びギヤケース10が設けられる。
【0023】
図2に示すように、ギヤケース10内には、ガバナ装置1の他、互いに噛合するクランクギヤ12及びカムギヤ13等が収容される。このうちクランクギヤ12は、シリンダブロック3からギヤケース10内に突出するクランク軸11に設けられると共に、カムギヤ13は、燃料噴射ポンプ9のカム軸14に設けられる。
【0024】
次に、ガバナ装置1について、
図2から
図12により説明する。
【0025】
図2及び
図3に示すように、ガバナ装置1は、ガバナウエイト15、ガバナスリーブ16、第一ガバナレバー17、第二ガバナレバー18、アングライヒピン19、ねじりスプリング20、可動ピース21、及び制限ボルト22等で構成される。
【0026】
このうちガバナウエイト15は、ウエイトホルダ23を介してクランク軸11に取り付けられる。ガバナウエイト15は、クランク軸11の回転に伴う遠心力によりクランク軸11の遠心方向に移動可能とされる。また、ガバナスリーブ16は、クランク軸11の軸方向に摺動可能にクランク軸11に外嵌される。これにより、クランク軸11の回転に伴う遠心力によりガバナウエイト15がクランク軸11の遠心方向に移動すると、ガバナウエイト15のスラスト荷重(クランク軸11の軸方向の荷重)によりガバナスリーブ16が摺動する。
【0027】
図2から
図5に示すように、第一ガバナレバー17は、レバー本体171及びフォーク172等で構成される。
【0028】
このうちレバー本体171は、ギヤケース10に回動可能に軸支されるガバナレバー軸24に、ネジ25・25で固定される。レバー本体171には、ネジ25・25が挿入されるネジ孔171A・171Aが形成される。また、レバー本体171の基端部には、ガバナスリーブ16が当接すると共に、クランク軸11と嵌合する略半円形状の嵌合溝171Bが形成される。
【0029】
フォーク172は、レバー本体171の長手方向に沿って延設されると共に、フォーク172の先端部には、係止溝172Aが形成される。係止溝172Aには、燃料噴射ポンプ9の燃料噴射量を調整するコントロールラック91のラックピン91Aが係止される。係止溝172Aがラックピン91Aに係止されることにより、第一ガバナレバー17がコントロールラック91に連結される。
【0030】
これにより、第一ガバナレバー17がガバナレバー軸24を中心として、増量方向に回動することにより、コントロールラック91が燃料噴射ポンプ9の燃料噴射量を増加させる方向に移動すると共に、減量方向に回動することにより、コントロールラック91が燃料噴射ポンプ9の燃料噴射量を減少させる方向に移動する。そして、ガバナウエイト15のスラスト荷重によりガバナスリーブ16が摺動すると、ガバナスリーブ16がレバー本体171の基端部に当接することにより、第一ガバナレバー17が減量方向に回動する。
【0031】
図2から
図4並びに
図6及び
図7に示すように、第二ガバナレバー18は、レバー本体181、側板182及び側板183等で構成される。
【0032】
このうちレバー本体181は、ガバナレバー軸24に回動可能に軸支される。レバー本体181には、ガバナレバー軸24が挿入される軸孔181A・181Aが形成される。また、レバー本体181の基端部側には、図示しないメインスプリングの一端部が係止される係止孔181Bが形成される。なお、前記メインスプリングの他端部は、図示しないレギュレータハンドルに係止されており、オペレータが前記レギュレータハンドルで第二ガバナレバー18を回動操作することにより、燃料噴射ポンプ9の燃料噴射量を調整することができる。
【0033】
側板182及び側板183は、レバー本体181先端部の両側から下方に延設される。側板182及び側板183は、所定の間隔をあけて略平行に配置されると共に、側板182と側板183との間には、第一ガバナレバー17が配置される。
【0034】
図8から
図11に示すように、可動ピース21は、可動ピース本体211、突起部であるピン212、係止軸213等で構成される。
【0035】
このうち可動ピース本体211は、平面視にて略三角形状、本実施形態では、略鈍角三角形状に形成される。具体的には、可動ピース本体211は、略鈍角状に形成される一つの鈍角部及び略鋭角状に形成される二つの鋭角部からなる略鈍角三角形状に形成される。
【0036】
可動ピース本体211は、回動軸26に回動可能に軸支される。可動ピース本体211の鈍角部には、回動軸26が挿入される軸孔211Aが形成される。なお、回動軸26は、フォーク172に形成される軸孔172B・172B(
図5参照)に回動可能に軸支される。
【0037】
また、可動ピース本体211において、その二つの鋭角部のうち一の鋭角部には、ピン212が立設されると共に、他の鋭角部には、係止孔213Aを有する係止軸213が設けられる。このうち係止孔213Aには、ねじりスプリング20のアーム203端部が係止される。なお、フォーク172の長手方向中途部の縁部には、可動ピース21が回動する際に係止軸213が入り込む溝172Cが形成される。また、可動ピース21の下面、本実施形態では、ピン212の下面には、略半球状の凸部214が設けられる。
【0038】
図12に示すように、第一ガバナレバー17のフォーク172には、嵌合孔列172Dが形成される。嵌合孔列172Dは、凸部214と嵌合する複数(本実施形態では三つ)の嵌合部である嵌合孔172Da・172Db・172Dcで構成される。嵌合孔172Da・172Db・172Dcは、可動ピース21における凸部214の回動軌跡C上に配置される。本実施形態では、嵌合孔172Da・172Db・172Dcは、回動軸26を中心として等間隔の角度θ(例えば20度)で配置される。
【0039】
これにより、ピン212を操作して可動ピース21を回動させることにより、凸部214と嵌合孔172Da・172Db・172Dcのいずれかとが嵌合されると、可動ピース21が嵌合孔172Da・172Db・172Dcのいずれかの位置に位置決めされる。すなわち、凸部214と第一嵌合孔172Daとが嵌合されると、可動ピース21が第一嵌合孔172Daの位置に位置決めされ、凸部214と第二嵌合孔172Dbとが嵌合されると、可動ピース21が第二嵌合孔172Dbの位置に位置決めされ、凸部214と第三嵌合孔172Dcとが嵌合されると、可動ピース21が第三嵌合孔172Dcの位置に位置決めされる。
【0040】
なお、嵌合孔172Da・172Db・172Dcは、等角度間隔で配置されるものに限定されるものではなく、不等角度間隔で配置されるものでもよい。また、嵌合孔172Da・172Db・172Dcの数は、三つの限定されるものではなく、二つあるいは四つ以上であってもよい。また、嵌合部は、フォーク172を貫通する嵌合孔172Da・172Db・172Dcに限定されるものではなく、フォーク172表面に形成される窪みでもよい。
【0041】
図8及び
図10に示すように、アングライヒピン19は、軸部191、頭部192及び係止溝193等で構成される。アングライヒピン19は、頭部192がフォーク172側に突出する姿勢で、側板182に形成されるピン孔182Aに軸部191が摺動可能に挿入されると共に、頭部192と側板182との間にアングライヒストロークS分だけの隙間があいた状態で、軸部191の先端部側にEリング等の止め輪27が外嵌される。また、係止溝193は、アングライヒピン19の軸心部を通るように、軸部191の先端面から頭部192にかけて形成される。係止溝193の頭部192側の端部には、ねじりスプリング20のアーム202端部が係止される。なお、「アングライヒ」(angleich)とは、エンジン2のガバナ装置1の燃料噴射量を補正する装置を意味する。
【0042】
図8から
図10に示すように、ねじりスプリング20は、ダブルトーションスプリングであり、一対のコイル201・201及び一対のアーム202・203等で構成される。このうちコイル201・201からは、アーム202が一方に延設されると共に、アーム203が他方に延設される。アーム202端部は、アングライヒピン19の係止溝193に係止されると共に、アーム203端部は、可動ピース21の係止孔213Aに係止される。また、アーム202の中途部には、側板182の内側面に当接可能な当接部202Aが形成される。当接部202Aは、アーム202の中途部が側板182の内側面側に突出するように平面視略V字状に折り曲げられることにより形成される。
【0043】
これにより、ねじりスプリング20は、当接部202Aが側板182の内側面に当接することで、第一ガバナレバー17を増量方向に付勢すると共に、当接部202Aを支点とするテコの原理により、アングライヒピン19を突出方向に付勢する。なお、以下の説明では、ねじりスプリング20の付勢力のうち、第一ガバナレバー17を増量方向に付勢する付勢力を「始動増量付勢力」、アングライヒピン19を突出方向に付勢する付勢力を「アングライヒ増量付勢力」という。
【0044】
図8に示すように、制限ボルト22は、ギヤケース10の前面からギヤケース10内に螺挿されて、ナット28で固定される。制限ボルト22の先端部221は、第二ガバナレバー18(レバー本体181)の側板183外側面に当接する。
【0045】
次に、ガバナ装置1の作動状態について、
図13から
図17により説明する。
【0046】
図13(a)に示すように、エンジン始動時等のエンジン回転数が低い場合は、ねじりスプリング20の始動増量付勢力よりもガバナウエイト15・15のスラスト荷重の方が小さいため、第一ガバナレバー17が増量方向に回動する。これにより、コントロールラック91が増量側に移動して(
図15に示すA−B区間)、燃料噴射量が増加する。
【0047】
この際、可動ピース21のピン212が、第二ガバナレバー18の側板183の内側面に当接することにより、第一ガバナレバー17の増量方向への回動が制限される。また、第二ガバナレバー18(レバー本体181)の側板183外側面が、制限ボルト22の先端部221に当接することにより、第二ガバナレバー18ひいては、これに当接する第一ガバナレバー17の増量方向への回動が制限される。なお、制限ボルト22の螺挿量を変更することにより、制限ボルト22の先端部221と第二ガバナレバー18(レバー本体181)の側板183外側面とが当接する位置を変更することができる。
【0048】
図13(b)及び
図14(a)に示すように、その後、エンジン回転数が上昇して、ねじりスプリング20の始動増量付勢力よりもガバナウエイト15・15のスラスト荷重が大きくなると、第一ガバナレバー17が減量方向に回動して、コントロールラック91が減量側に移動する(
図15に示すB−C区間)。
【0049】
この際、フォーク172がアングライヒピン19の頭部192に当接することにより、第一ガバナレバー17の減量方向への回動が制限されて、第一ガバナレバー17がアングライヒストトークS分だけ増量方向に回動した位置に保持される。これは、ねじりスプリング20のアングライヒ増量付勢力よりもガバナウエイト15・15のスラスト荷重の方が小さいためである。これにより、アングライヒピン19がアングライヒストロークS分だけ突出しない場合よりも、コントロールラック91がΔR分だけ増量側に移動することになり(
図15に示すC−D区間)、燃料噴射量が増加する。
【0050】
図14(b)に示すように、その後、さらにエンジン回転数が上昇して、ねじりスプリング20のアングライヒ増量付勢力よりもガバナウエイト15・15のスラスト荷重が大きくなると、フォーク172がアングライヒピン19を反突出方向に押し込みながら減量方向に回動して、コントロールラック91が減量側に移動する(
図15に示すD−E区間)。
【0051】
そして、フォーク172によるアングライヒピン19の反突出方向への押し込みが完了することにより、第一ガバナレバー17がアングライヒストトークS分だけ減量方向に回動する。これにより、コントロールラック91がΔR分だけ減量側に移動して(
図15に示すE−F区間)、燃料噴射量が減少する。ここで、
図15において、フォーク172によるアングライヒピン19の反突出方向への押し込みが完了した時のエンジン回転数(
図15に示すE点におけるエンジン回転数であって、以下「アングライヒ増量回転数」という。)をN1で表している。
【0052】
ここで、
図16(a)に示すように、可動ピース21が第一嵌合孔172Daの位置に位置決めされた場合、アーム202とアーム203とが成す角度、つまり、ねじれ角度はα1となる。また、
図16(b)に示すように、可動ピース21が第二嵌合孔172Dbの位置に位置決めされた場合、ねじれ角度はα2となる。また、
図16(c)に示すように、可動ピース21が第三嵌合孔172Dcの位置に位置決めされた場合、ねじれ角度はα3となる。
【0053】
そして、ねじれ角度α1、α2、α3は、α1、α2、α3の順に大きくなる(α1<α2<α3)。これにより、ねじりスプリング20のセット荷重は、ねじれ角度α1のときが最大、ねじれ角度α3のときが最小、ねじれ角度α2のときが両者の中間になる。
【0054】
ここで、
図17(a)に示すように、ねじれ角度α2のときのアングライヒ増量回転数N2は、
図15に示すアングライヒ増量回転数N1よりも低回転側に移動する。また、
図17(b)に示すように、ねじれ角度α3のときのアングライヒ増量回転数N3は、
図15に示すアングライヒ増量回転数N1及び
図17(a)に示すアングライヒ増量回転数N2よりも低回転側に移動する。これは、ねじれ角度α2のときは、ねじれ角度がα1のときよりもねじりスプリング20のセット荷重が小さく、ねじれ角度α3のときは、ねじれ角度がα1・α2のときよりもねじりスプリング20のセット荷重が小さいため、エンジン回転数が低くガバナウエイト15・15のスラスト荷重が小さい段階でも、フォーク172によるアングライヒピン19の反突出方向への押し込みが完了するためである。
【0055】
以上のように、燃料噴射ポンプ9の燃料噴射量を調整するコントロールラック91に連結されると共に、ガバナウエイト15・15に連動して回動する第一ガバナレバー17と、第一ガバナレバー17との間に所定の回動ストロークを有し、第一ガバナレバー17に対して回動可能な第二ガバナレバー18と、一対のアーム202・203を有し、第一ガバナレバー17と第二ガバナレバー18との間に介装されるねじりスプリング20と、第二ガバナレバー18の側板182からアングライヒストロークS分だけ移動可能に突出して、第一ガバナレバー17のフォーク172に当接可能とされると共に、ねじりスプリング20の一方のアーム202端部が係止されるアングライヒピン19と、を備えるエンジン2のガバナ装置1において、第一ガバナレバー17のフォーク172に回動可能に軸支されると共に、ねじりスプリング20の他方のアーム203端部が係止される可動部材である可動ピース21と、可動ピース21を複数の回動した位置に位置決めする位置決め手段(凸部214、嵌合孔172Da・172Db・172Dc)と、を備える。
【0056】
このような構成により、可動ピース21が複数の回動した位置に位置決めされることにより、可動ピース21に係止されたねじりスプリング20の他方のアーム203端部が、複数の位置に移動して位置決めされる。これにより、ねじりスプリング20のねじれ角度が変更されるため、ねじりスプリング20のセット荷重を調整して、アングライヒピン19により燃料噴射量が増加するエンジン回転数を調整することができる。つまり、エンジン2を搭載する作業機の種類やエンジン2を使用する環境(寒冷地等)等に応じて、ねじりスプリング20のセット荷重を調整して、低速回転領域でのエンジン2のトルクを調整する等のエンジン出力の調整を容易にすることができる。
【0057】
そして、前記位置決め手段は、可動ピース21に設けられる凸部214と、第一ガバナレバー17のフォーク172に設けられ、凸部214と嵌合する複数(本実施形態では三つ)の嵌合部である嵌合孔172Da・172Db・172Dcと、を有し、嵌合孔172Da・172Db・172Dcは、可動ピース21における凸部214の回動軌跡C上に配置される。
【0058】
このような構成により、可動ピース21を回動させるだけで、可動ピース21の凸部214と第一ガバナレバー17の嵌合孔172Da・172Db・172Dcとが嵌合して、可動ピース21が嵌合孔172Da・172Db・172Dcの各位置に位置決めされるため、ねじりスプリング20のセット荷重を容易に調整することができる。
【0059】
また、可動ピース21には、突起部であるピン212が設けられ、ピン212は、可動ピース21を回動操作する際の持ち手になると共に、第二ガバナレバー18の側板183に当接することにより、第一ガバナレバー17の回動が制限される。
【0060】
このような構成により、ピン212を用いて可動ピース21を回動操作することにより、ねじりスプリング20のセット荷重を容易に調整することができる。また、第一ガバナレバー17の回動を制限するためのピン212を可動ピース21に設けることにより、このような突起部を第一ガバナレバー17に設ける必要がないため、第一ガバナレバー17の構造を簡単にすることができる。