特許第5753744号(P5753744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753744溶射締結具、溶射ナット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753744
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】溶射締結具、溶射ナット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 33/06 20060101AFI20150702BHJP
   C23C 4/08 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   F16B33/06 Z
   C23C4/08
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-160049(P2011-160049)
(22)【出願日】2011年7月21日
(65)【公開番号】特開2013-24333(P2013-24333A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年5月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 史朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 善彦
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−276124(JP,A)
【文献】 特開2007−009988(JP,A)
【文献】 特開平10−338824(JP,A)
【文献】 特開2004−300509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 33/06
C23C 4/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射処理が施されて溶射被膜が形成された被締結体を締結する溶射締結具において、
少なくともネジ部に溶射処理が施されて溶射被膜が形成された溶射ボルトと、
上記被締結体側の接触面と、上記被締結体を挟んで上記溶射ボルトのネジ部に締め付けられる内ネジ部と、該接触面及び該内ネジ部以外の面である外筐面とを有し、該接触面及び該外筐面に溶射処理が施されて溶射被膜が形成された溶射ナットとを備え、
上記溶射ナットは、上記接触面の溶射被膜及び上記内ネジ部上にのみ、潤滑剤が塗布されて潤滑層が形成されていることを特徴とする溶射締結具。
【請求項2】
上記溶射ナットの溶射被膜には、第一封孔処理剤が塗布されて第一封孔処理が施されていることを特徴とする請求項1記載の溶射締結具。
【請求項3】
上記溶射ナットの第一封孔処理が施された外筐面の溶射被膜には、更に、第二封孔処理剤が塗布されて第二封孔処理が施されていることを特徴とする請求項2記載の溶射締結具。
【請求項4】
上記溶射ナットの第二封孔処理が施された外筐面の溶射被膜上には、更に、上塗剤が塗布されて上塗層が形成されていることを特徴とする請求項3記載の溶射締結具。
【請求項5】
更に、上記溶射ナットと上記被締結体との間に配置された溶射座金を備え、
上記溶射座金は、上記溶射ナット側の接触面と、上記溶射ボルトが挿通されるボルト孔と、該接触面及び該ボルト孔以外の面である外筐面とを有し、これらの全面に溶射処理が施されて溶射被膜が形成されており、該接触面の溶射被膜上に、潤滑剤が塗布されて潤滑層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項記載の溶射締結具。
【請求項6】
溶射処理が施されて溶射被膜が形成された被締結体を溶射ボルトとともに締結する溶射ナットにおいて、
上記被締結体側の接触面と、上記被締結体を挟んで上記溶射ボルトのネジ部に締め付けられる内ネジ部と、該接触面及び該内ネジ部以外の面である外筐面とを備え、
上記接触面及び上記外筐面には、溶射処理が施されて溶射被膜が形成され、
上記接触面の溶射被膜及び上記内ネジ部上のみには、潤滑剤が塗布されて潤滑層が形成されていることを特徴とする溶射ナット。
【請求項7】
上記溶射被膜には、第一封孔処理剤が塗布されて第一封孔処理が施されていることを特徴とする請求項6記載の溶射ナット。
【請求項8】
上記第一封孔処理が施された外筐面の溶射被膜には、更に、第二封孔処理剤が塗布されて第二封孔処理が施されていることを特徴とする請求項7記載の溶射ナット。
【請求項9】
上記第二封孔処理が施された外筐面の溶射被膜上には、更に、上塗剤が塗布されて上塗層が形成されていることを特徴とする請求項8記載の溶射ナット。
【請求項10】
溶射処理が施されて溶射被膜が形成された被締結体を溶射ボルトとともに締結する溶射ナットの製造方法において、
上記被締結体側の接触面と、上記被締結体を挟んで上記溶射ボルトのネジ部に締め付けられる内ネジ部と、該接触面及び該内ネジ部以外の面である外筐面とを有する溶射ナットの該接触面及び該外筐面に、溶射処理を施して、溶射被膜を形成し、
次いで、上記接触面の溶射被膜及び上記内ネジ部上にのみ、潤滑剤を塗布して、潤滑層を形成することを特徴とする溶射ナットの製造方法。
【請求項11】
上記溶射被膜に、第一封孔処理剤を塗布して第一封孔処理を施していることを特徴とする請求項10記載の溶射ナットの製造方法。
【請求項12】
上記第一封孔処理を施した外筐面の溶射被膜に、更に、第二封孔処理剤を塗布して第二封孔処理を施していることを特徴とする請求項11記載の溶射ナットの製造方法。
【請求項13】
上記第二封孔処理を施した外筐面の溶射被膜上に、更に、上塗剤を塗布して上塗層を形成することを特徴とする請求項12記載の溶射ナットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射被膜が形成され、被締結体を締結する溶射締結具、溶射ナット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射被膜が形成された溶射締結具としては、特許文献1のようなものがある。特許文献1の溶射締結具は、被締結体を締結するためのものであり、溶射ボルトと、溶射ナットと、第一及び第二溶射座金とを備えている。被締結体は、表面及び溶射ボルトが挿入されるボルト孔に、Al−Mg合金の溶射被膜が形成されている。
【0003】
更に、溶射ボルトは、例えば六角ボルトであり、全面にAl−Mg合金の溶射被膜が形成されている。溶射ナットは、例えば、被締結体を挟んで溶射ボルトのネジ部に締め付けられる座付き六角ナットであり、内ネジ部と被締結体側の接触面である座面とを除く全面に、Al−Mg合金の溶射被膜が形成されている。第一座金は、溶射ボルトの頭部と被締結体との間に配置されるものであり、全面にAl−Mg合金の溶射被膜が形成されている。第二座金は、溶射ナットと被締結体との間に配置されるものであり、被締結体側の接触面を除く全面に、Al−Mg合金の溶射被膜が形成されている。
【0004】
このような特許文献1の溶射締結具では、溶射ナットの内ネジ部と座面とに溶射被膜が形成されていないので、溶射ナットの内ネジ部と溶射ボルトのネジ部との摺動面、溶射ナットと座金との摺動面において、溶射被膜がどちらか一方の面にしか設けられていない。従って、溶射ナットを締め付ける際には、これらの摺動面において、溶射被膜同士が一体化することがなく、所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来る。よって、特許文献1の溶射締結具では、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を得ることが出来る。
【0005】
しかしながら、特許文献1の溶射締結具では、溶射ナットの座面に溶射被膜が形成されていないために、締め付け前に、溶射ナットの無溶射(無処理)な座面に錆が発生してしまう虞がある。更に、特許文献1の溶射締結具では、溶射ナットの無溶射(無処理)な座面と第二座金の溶射被膜とが接触することになり、溶射ナットの滑り性能が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−276124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、締め付け前に、溶射ナットに錆が発生することを防止出来るとともに、従来よりも溶射ナットを締め付ける際の摩擦力が低減し、溶射ナットの滑り性能が高く、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を得ることが可能な溶射締結具、溶射ナット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る溶射締結具は、溶射処理が施されて溶射被膜が形成された被締結体を締結するものである。具体的に、溶射締結具は、少なくともネジ部に溶射処理が施されて溶射被膜が形成された溶射ボルトと、被締結体側の接触面と、被締結体を挟んで溶射ボルトのネジ部に締め付けられる内ネジ部と、接触面及び内ネジ部以外の面である外筐面とを有し、接触面及び外筐面に溶射処理が施されて溶射被膜が形成された溶射ナットとを備え、溶射ナットは、接触面の溶射被膜及び内ネジ部上にのみ、潤滑剤が塗布されて潤滑層が形成されている。
【0009】
更に、溶射ナットの溶射被膜には、第一封孔処理剤が塗布されて第一封孔処理が施されているようにしても良い。更に、溶射ナットの第一封孔処理が施された外筐面の溶射被膜には、第二封孔処理剤が塗布されて第二封孔処理が施されているようにしても良い。更に、溶射ナットの第二封孔処理が施された外筐面の溶射被膜上には、上塗剤が塗布されて上塗層が形成されているようにしても良い。これにより、締め付け前に、より一層溶射ナットに錆が発生することを防止出来る。
【0010】
更に、溶射ナットと被締結体との間に配置された溶射座金を備えるようにしても良い。更に、溶射座金は、溶射ナット側の接触面と、溶射ボルトが挿通されるボルト孔と、接触面及びボルト孔以外の面である外筐面とを有し、これらの全面に溶射処理が施されて溶射被膜が形成されており、接触面の溶射被膜上に、潤滑剤が塗布されて潤滑層が形成されているようにしても良い。これにより、従来よりも溶射ナットを締め付ける際の摩擦力が低減し、より一層溶射ナットの円滑な滑りを確保することが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を確実に得ることが出来る。
【0011】
また、本発明に係る溶射ナットは、溶射処理が施されて溶射被膜が形成された被締結体を溶射ボルトとともに締結するものである。具体的に、溶射ナットは、被締結体側の接触面と、被締結体を挟んで溶射ボルトのネジ部に締め付けられる内ネジ部と、接触面及び内ネジ部以外の面である外筐面とを備え、接触面及び外筐面には、溶射処理が施されて溶射被膜が形成され、接触面の溶射被膜及び内ネジ部上のみには、潤滑剤が塗布されて潤滑層が形成されている。
【0012】
更に、溶射被膜には、第一封孔処理剤が塗布されて第一封孔処理が施されているようにしても良い。更に、第一封孔処理が施された外筐面の溶射被膜には、第二封孔処理剤が塗布されて第二封孔処理が施されているようにしても良い。更に、第二封孔処理が施された外筐面の溶射被膜上には、上塗剤が塗布されて上塗層が形成されているようにしても良い。これにより、締め付け前に、より一層溶射ナットに錆が発生することを防止出来る。
【0013】
また、本発明に係る溶射処理が施されて溶射被膜が形成された被締結体を溶射ボルトとともに締結する溶射ナットの製造方法は、被締結体側の接触面と、被締結体を挟んで溶射ボルトのネジ部に締め付けられる内ネジ部と、接触面及び内ネジ部以外の面である外筐面とを有する溶射ナットの接触面及び外筐面に、溶射処理を施して、溶射被膜を形成し、次いで、接触面の溶射被膜及び内ネジ部上にのみ、潤滑剤を塗布して、潤滑層を形成する。
【0014】
更に、溶射被膜に、第一封孔処理剤を塗布して第一封孔処理を施すようにしても良い。更に、第一封孔処理を施した外筐面の溶射被膜に、第二封孔処理剤を塗布して第二封孔処理を施すようにしても良い。更に、第二封孔処理を施した外筐面の溶射被膜上に、上塗剤を塗布して上塗層を形成するようにしても良い。これにより、締め付け前に、より一層溶射ナットに錆が発生することを防止出来る。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、溶射ナットの座面及び外筐面に溶射処理が施されて溶射被膜が形成され、この溶射被膜に封孔処理が施され、更に、内ネジ部に潤滑層が形成されている。従って、本発明によれば、締め付け前に、溶射ナットに錆が発生することを防止出来る。
【0016】
更に、本発明では、溶射ナットの内ネジ部に潤滑層が形成されている。従って、本発明では、溶射ボルトのネジ部に溶射被膜が形成されていても、この潤滑層によって、従来よりも溶射ナットを締め付ける際の摩擦力が低減し、溶射ナットの円滑な滑りを確保することが出来、優れた滑り性能を有することが出来る。よって、本発明によれば、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を確実に得ることが出来る。
【0017】
更に、本発明では、溶射ナットの座面の溶射被膜上に潤滑層が形成されている。従って、本発明では、締め付け前に溶射ナットに錆が発生することを防止しつつ、この潤滑層によって、締め付け前に錆が発生することを防止することに伴い、溶射ナットの座面及びこの座面と接触する面の両方に溶射被膜が形成されていても、従来よりも溶射ナットを締め付ける際の摩擦力が低減し、溶射ナットの円滑な滑りを確保することが出来、優れた滑り性能を有することが出来る。よって、本発明によれば、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を確実に得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用した溶射締結具を示す側面図である。
図2】本発明を適用した溶射締結具を分解した状態を示す側面図である。
図3】本発明を適用した溶射締結具を示す横断面図である。
図4】溶射ナットの製造方法を示す工程図である。
図5】溶射座金の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した溶射締結具、溶射ナット及びその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0020】
<1.全体構成>
図1及び図2に示すように、本発明を適用した溶射締結具1は、例えば、被締結体100としての鋼構造物101と添接板102,103とを、共締めして接続するためのものである。具体的に、溶射締結具1は、溶射ボルト2と、溶射ナット3と、溶射座金4,5とを備えている。
【0021】
図3に示すように、鋼構造物101及び添接板102,103は、表面及び溶射ボルト2を挿入するためのそれぞれのボルト孔101a,102a,103aに、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理が施されて、Al−Mg合金の溶射被膜101b,102b,103bが形成されている。
【0022】
<2.溶射ボルト>
溶射ボルト2は、図1及び図2に示すように、頭部2aと軸部2bとを有し、軸部2bの一部又は全面にネジ部2cが形成された六角ボルトであり、鋼構造物101及び添接板102,103のボルト孔101a,102a,103aに挿入される。このような溶射ボルト2は、図3に示すように、全面に、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理が施されて、Al−Mg合金の溶射被膜10が形成されている。なお、溶射被膜10は、少なくともネジ部2cに形成されていれば良い。
【0023】
<3.溶射ナット>
溶射ナット3は、図1及び図2に示すように、例えば、鋼構造物101及び添接板102,103を挟んで溶射ボルト2のネジ部2cに締め付けられる座付き六角ナットである。このような溶射ナット3は、図3に示すように、六角二面幅より小径であり、被締結体100との接触面となる座面3aと、溶射ボルト2のネジ部2cに締め付けられる内ネジ部3bと、座面3a及び内ネジ部3b以外の面である外筐面3cとを有している。
【0024】
更に、図3に示すように、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cには、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理が施されて、Al−Mg合金の溶射被膜20a,20cが形成されている。更に、これらの座面3a及び外筐面3cの溶射被膜20a,20cには、エナメル系の塗料を第一希釈率で希釈した第一封孔処理剤が塗布されて、溶射被膜20a,20cの表面の微細孔を封孔させる第一封孔処理が施されている。
【0025】
更に、第一封孔処理が施された外筐面3cの溶射被膜20cには、第一封孔処理で用いたものと同様のエナメル系の塗料を第一希釈率よりも濃い第二希釈率で希釈した第二封孔処理剤が塗布されて、第1封孔処理によって封孔された表面を更に均す第二封孔処理が施されている。更に、第一封孔処理が施された座面3aの溶射被膜20a及び内ネジ部3b上には、モリブデン系潤滑剤が塗布されて、潤滑層21a,21bが形成されている。更に、第二封孔処理が施された外筐面3cの溶射被膜20c上には、上塗剤が塗布されて上塗層22が形成されている。
【0026】
<4.溶射座金>
溶射座金4は、図1及び図2に示すように、溶射ボルト2の頭部2aと被締結体100(添接板102)との間に配置されている。具体的に、溶射座金4は、溶射ボルト2の頭部2aと接触する接触面4aと、溶射ボルト2が挿通されるボルト孔4bと、接触面4a及びボルト孔4b以外の面である外筐面4cとを有している。このような溶射座金4は、図3に示すように、全面に、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cと同様に、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理が施されて、Al−Mg合金の溶射被膜30が形成されている。
【0027】
溶射座金5は、図1及び図2に示すように、溶射ナット3と被締結体100(添接板103)との間に配置されている。具体的に、溶射座金5は、溶射ナット3と接触する接触面5aと、溶射ボルト2が挿通されるボルト孔5bと、接触面5a及びボルト孔5b以外の面である外筐面5cとを有している。このような溶射座金5は、図3に示すように、全面に、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cと同様に、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理が施されて、Al−Mg合金の溶射被膜40が形成されている。更に、この溶射被膜40には、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cと同様に、第一封孔処理が施されている。更に、第一封孔処理が施された溶射被膜40には、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cと同様に、第二封孔処理が施されている。
【0028】
更に、第二封孔処理が施された接触面5aの溶射被膜40上には、図3に示すように、溶射ナット3の座面3a及び内ネジ部3bと同様に、モリブデン系潤滑剤が塗布されて、潤滑層21cが形成されている。具体的に、潤滑層21cは、溶射ナット3からはみ出さない範囲に、即ち、被締結体100を共締めした際に溶射ナット3と重なる範囲内に形成されている。従って、溶射締結具1で被締結体100を共締めした際には、潤滑層21cが溶射ナット3によって隠れて外部から視認することが出来ず、美観性の向上を図ることが出来る。なお、潤滑層21cは、接触面5aの溶射被膜40の全面に形成するようにしても良い。
【0029】
<5.溶射ナットの製造方法>
次に、上述したような構成を有する溶射ナット3を製造する製造方法について説明する。
【0030】
先ず、図3及び図4に示すように、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cに、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理を施し、座面3aと外筐面3cにAl−Mg合金の溶射被膜20a,20cを形成する。次いで、これら座面3aと外筐面3cの溶射被膜20a,20cに、エナメル系の塗料を第一希釈率で希釈した第一封孔処理剤を塗布して、溶射被膜20a,20cの表面の微細孔を封孔させる第一封孔処理を施す。
【0031】
次いで、第一封孔処理を施した外筐面3cの溶射被膜20cに、第一封孔処理で用いたものと同様のエナメル系の塗料を第一希釈率よりも濃い第二希釈率で希釈した第二封孔処理剤を塗布して、第1封孔処理によって封孔された表面を更に均す第二封孔処理を施す。次いで、第一封孔処理を施した座面3aの溶射被膜20a及び内ネジ部3b上に、モリブデン系潤滑剤を塗布して、潤滑層21a,21bを形成する。次いで、第二封孔処理を施した外筐面3cの溶射被膜20c上に、上塗剤を塗布して上塗層22を形成する。以上のようにして、溶射ナット3を製造する。
【0032】
なお、外筐面3cの溶射被膜20cに第二封孔処理を施す前に、座面3aの溶射被膜20a及び内ネジ部3b上に潤滑層21a,21bを形成するようにしても良い。更に、必ずしも、第二封孔処理を施した外筐面3cの溶射被膜20c上に上塗層22を形成することに限定されるものではない。更に、必ずしも、第一封孔処理を施した外筐面3cの溶射被膜20cに第二封孔処理を施し上塗層22を形成することに限定されるものではない。更に、座面3aの溶射被膜20aにも、第二封孔処理を施すようにしても良い。
【0033】
<6.溶射座金の製造方法>
次に、上述したような構成を有する溶射座金5を製造する製造方法について説明する。
【0034】
先ず、図3及び図5に示すように、溶射座金5の全面、即ち、接触面5a、ボルト孔5b、外筐面5cに、溶射材としてAl−Mg合金を用いて溶射処理を施し、Al−Mg合金の溶射被膜40を形成する。
【0035】
次いで、この溶射被膜40に、エナメル系の塗料を第一希釈率で希釈した第一封孔処理剤を塗布して、溶射被膜40の表面の微細孔を封孔させる第一封孔処理を施す。次いで、第一封孔処理を施した溶射被膜40に、第一封孔処理で用いたものと同様のエナメル系の塗料を第一希釈率よりも濃い第二希釈率で希釈した第二封孔処理剤を塗布して、第1封孔処理によって封孔された表面を更に均す第二封孔処理を施す。
【0036】
次いで、第二封孔処理を施した接触面5aの溶射被膜40上に、モリブデン系潤滑剤を塗布して、潤滑層21cを形成する。このとき、潤滑層21は、モリブデン系潤滑剤を塗布する範囲及び量が調整されて、溶射ナット3が被締結体100を共締めした際に、溶射ナット3からはみ出さない範囲内に形成される。以上のようにして、溶射座金5を製造する。
【0037】
<7.効果>
以上のように、本発明を適用した溶射締結具1は、溶射ボルト2、溶射座金4,5の全面に溶射処理が施されて溶射被膜10,30,40が形成され、更に、この溶射被膜30,40に封孔処理が施されている。また、溶射締結具1は、溶射ナット3の座面3a及び外筐面3cに溶射処理が施されて溶射被膜20a,20cが形成され、更に、この溶射被膜20a,20cに封孔処理が施され、内ネジ部3bに潤滑層21aが形成されている。従って、溶射締結具1によれば、締め付け前に、溶射ボルト2、溶射ナット3、溶射座金4,5に錆が発生することを防止出来る。特に、従来のように、締め付け前に、溶射ナット3に錆が発生することを防止出来る。
【0038】
更に、溶射締結具1は、溶射ナット3の内ネジ部3bに潤滑層21bが形成されている。従って、溶射締結具1では、溶射ボルト2のネジ部2cに溶射被膜10が形成されていても、この潤滑層21bによって、従来よりも溶射ナット3を締め付ける際の摩擦力が低減し、溶射ナット3の円滑な滑りを確保することが出来、優れた滑り性能を有することが出来る。よって、溶射締結具1によれば、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を確実に得ることが出来る。
【0039】
更に、溶射締結具1は、溶射ナット3の座面3aの溶射被膜20a上に潤滑層21aが形成されている。従って、溶射締結具1では、締め付け前に溶射ナット3に錆が発生することを防止しつつ、この潤滑層21aによって、締め付け前に錆が発生することを防止することに伴い、溶射ナット3の座面3a及び座面3aと接触する溶射座金5の接触面5aの両方に溶射被膜20a,40が形成されていても、溶射ナット3を締め付ける際の摩擦力が低減し、溶射ナット3の円滑な滑りを確保することが出来、優れた滑り性能を有することが出来る。よって、溶射締結具1によれば、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を確実に得ることが出来る。
【0040】
更に、溶射締結具1は、溶射座金5の接触面5aの溶射被膜40上に潤滑層21cが形成されている。従って、溶射締結具1では、この潤滑層21cによって、溶射ナット3の座面3aだけに潤滑層21aが形成されている場合よりも、さらに溶射ナット3を締め付ける際の摩擦力が低減し、より一層溶射ナット3の円滑な滑りを確保することが出来、より優れた滑り性能を有することが出来る。よって、溶射締結具1によれば、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力をより確実に得ることが出来る。
【0041】
<8.変形例>
なお、溶射締結具1は、溶射ボルト2、溶射ナット3及び溶射座金4,5によって構成されているが、これに限定されるものではなく、溶射座金4,5のいずれか一方又は両方を省略することも出来る。この場合も同様に、溶射締結具1では、溶射ナット3の内ネジ部3bに潤滑層21bが形成され、溶射ナット3の座面3aに潤滑層21aが形成されているので、これらの潤滑層21a,21bによって、溶射ナット3を締め付ける際の摩擦力が低減し、溶射ナット3の円滑な滑りを確保することが出来、優れた滑り性能を有することが出来る。よって、溶射締結具1では、従来よりも容易に所定の締め付けトルクで最後まで締め付けることが出来、所定の締め付けトルクで締め付けた際に要求される軸力を確実に得ることが出来る。
【0042】
また、溶射締結具1では、溶射材としてAl−Mg合金を用いて、Al−Mg合金の溶射被膜10,20,30,40を形成しているが、これに限定されるものではなく、亜鉛、アルミニウム又はこれらの合金等のその他一般的に溶射材として用いられるものであれば、如何なるものであっても良い。
【0043】
更に、溶射締結具1では、封孔処理剤としてエナメル系の塗料を希釈したものを用いているが、これに限定されるものではなく、その他一般的に封孔処理剤として用いられるものであれば、如何なるものであっても良い。
【0044】
更に、溶射締結具1では、モリブデン系潤滑剤を塗布して潤滑層を形成しているが、これに限定されるものではなく、フッ素等のその他一般的に潤滑剤として用いられるものであれば、如何なるものであっても良い。更に、溶射ナット3の座面3aと内ネジ部3bと溶射座金5の接触面5aとで、異なる潤滑剤から成る潤滑層を形成するようにしても良い。
【0045】
更に、溶射ボルト2は、六角ボルトに限定されるものではなく、如何なるボルトであっても良い。
【0046】
更に、溶射ナット3は、座付き六角ナットに限定されるものではなく、座面3aがない六角ナット等、如何なるナットであっても良い。この場合には、座面3aの代わりに被締結体100と接触する接触面に、座面3aと同様に、Al−Mg合金の溶射被膜20aが形成され、第一封孔処理が施され、潤滑層21aが形成される。
【0047】
更に、溶射締結具1は、鋼構造物101と添接板102,103とを共締めして接続するものに限定されるものではなく、締結させる被締結体100は如何なるものであっても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 溶射締結具、2 溶射ボルト、2a 頭部、2b 胴部、2c ネジ部、3 溶射ナット、3a 座面、3b 内ネジ部、3c 外筐面、4 溶射座金、4a 接触面、4b ボルト孔、4c 外筐面、5 溶射座金、5a 接触面、5b ボルト孔、5c 外筐面、10 溶射被膜、20a 溶射被膜、20c 溶射被膜、21a 潤滑層、21b 潤滑層、21c 潤滑層、22 上塗層、30 溶射被膜、40 溶射被膜、100 被締結体、101 鋼構造物、101a ボルト孔、101b 溶射被膜、102 添接板、102a ボルト孔、102b 溶射被膜、103 添接板、103a ボルト孔、103b 溶射被膜
図1
図2
図3
図4
図5