特許第5753752号(P5753752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5753752-油脂組成物の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753752
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/16 20060101AFI20150702BHJP
   C11B 7/00 20060101ALI20150702BHJP
   A23D 9/04 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
   C11B3/16
   C11B7/00
   !A23D9/04
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-190755(P2011-190755)
(22)【出願日】2011年9月1日
(65)【公開番号】特開2013-53187(P2013-53187A)
(43)【公開日】2013年3月21日
【審査請求日】2014年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 実
(72)【発明者】
【氏名】小松 利照
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−020782(JP,A)
【文献】 特開2004−043702(JP,A)
【文献】 特開平07−278181(JP,A)
【文献】 特開2005−349354(JP,A)
【文献】 特開2008−120983(JP,A)
【文献】 特開昭57−083596(JP,A)
【文献】 特開昭60−262894(JP,A)
【文献】 特表2005−504862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
A23D 7/00− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)油脂組成物を当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の範囲内に冷却する工程、
(2)冷却した油脂組成物に気泡を接触させる工程、
(3)前記工程により形成した泡沫部を液体部より分離する工程、
を含む、精製油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
平均気泡径が1〜1000μmである、請求項1記載の精製油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
油脂組成物がジアシルグリセロールを20質量%以上含有するものである、請求項1又は2記載の精製油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)油脂組成物を当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の範囲内に冷却する工程、
(2)冷却した油脂組成物に気泡を接触させる工程、
(3)前記工程により形成した泡沫部と液体部とを分離する工程、
を含む、油脂組成物の固液分別法。
【請求項5】
油脂組成物がジアシルグリセロールを20質量%以上含有するものである、請求項4記載の油脂組成物の固液分別法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物の製造方法、並びに油脂組成物の固液分別法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、菜種油や大豆油等の油脂は常温で液状であるが、寒冷地や冷蔵庫等の低温下におかれると結晶が析出して白濁することがある。とりわけ、脂肪酸組成が同じであってもジアシルグリセロールはトリアシルグリセロールに比べて融点が高いため、低温下で結晶化し易いという傾向がある。
【0003】
油脂の結晶化を抑制する方法として、ウインタリングによって予め高融点成分を除去する方法が知られている。また、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂に対しては、ウインタリングの際に分別助剤として乳化剤を添加し、析出した結晶を固液分別する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−20782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウインタリングは、結晶を生成させる晶析工程と結晶を濾別する分別工程とからなるが、油脂の組成によって濾別が困難な場合がある。また、特許文献1のように乳化剤を添加する方法は、高融点成分に乳化剤が濃縮されるため油脂の風味や物性に影響を与える懸念がある。さらに、乳化剤は、諸外国において使用が制限される場合がある。
本発明は、斯かる実情に鑑み、低温での結晶化が抑制された油脂組成物を製造する新たな方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、油脂組成物を冷却した状態において、気泡を接触させると、微細な結晶が当該気泡と共に浮上し、容易に分離できること、斯かる工程を経た油脂は低温下において結晶の析出が抑えられ、低温で結晶が析出しにくくなることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)油脂組成物を当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の範囲内に冷却する工程、
(2)冷却した油脂組成物に気泡を接触させる工程、
(3)前記工程により形成した泡沫部を液体部より分離する工程、
を含む、精製油脂組成物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)油脂組成物を当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の範囲内に冷却する工程、
(2)冷却した油脂組成物に気泡を接触させる工程、
(3)前記工程により形成した泡沫部と液体部とを分離する工程、
を含む、油脂組成物の固液分別法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂の高融点成分を容易に効率的に分別でき、低温での結晶化が抑制された油脂組成物を製造することができる。また、本発明の方法は、乳化剤の使用を低減、又は回避することができ、さらに分別設備の簡略化や油脂組成物の低コスト化も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】円筒状気泡接触槽の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の精製油脂組成物の製造方法、並びに油脂組成物の固液分別法では、(1)油脂組成物を当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の範囲内に冷却する工程、(2)冷却した油脂組成物に気泡を接触させる工程、及び(3)前記工程により形成した泡沫部を液体部より分離する工程を有する。
【0011】
本明細書において油脂とは、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものをいう。油脂としては、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油(キャノーラ油)、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、パーム油、やし油、オリーブ油、ぶどう油、アボカド油、ごま油、落花生油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、くるみ油、豚脂、牛脂、鶏油、バター油、魚油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応等により脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できる。
【0012】
脂肪酸組成が同じであってもトリアシルグリセロールに比べ、ジアシルグリセロールは低温下で結晶を析出し易い傾向がある。したがって、本発明の製造方法、並びに固液分別法は、ジアシルグリセロールを高含有する油脂組成物に適用するのが好ましい。
油脂組成物中のジアシルグリセロールの含有量は、体脂肪燃焼作用等の生理作用を効果的に発揮させるという点から20質量%(以下、単に「%」とする)以上が好ましく、40%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。上限は特に規定されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下が更に好ましい。
【0013】
油脂組成物中、トリアシルグリセロールの含有量は80%以下であるのが好ましく、更に1〜60%、殊更に2〜30%であるのが体脂肪燃焼作用等の生理作用向上の点から好ましい。また、モノアシルグリセロールの含有量は風味を良好とする点から、油脂組成物中に20%以下であるのが好ましく、更に0〜10%、更に0.1〜5%であるのが好ましい。
【0014】
油脂組成物は、脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのグリセロリシス反応等により得ることができる。これらの反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭素数1〜3のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法とリパーゼ等の酵素を用いる酵素法に大別される。なかでも、触媒としてリパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
【0015】
本発明において、油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸は特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、本発明の効果が有効に発揮される点から、油脂を構成する脂肪酸中の2〜30%、更に4〜25%、殊更に6〜20%が飽和脂肪酸である油脂組成物に対して適用することが好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数12〜24、更に16〜22のものが好ましい。
【0016】
また、油脂を構成する脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸の含有量は70〜98%であることが油脂組成物の外観、工業的生産性の点で好ましく、更に75〜96%、殊更に80〜94%であるのが好ましい。
【0017】
本発明においては、冷却工程に先立ち、油脂組成物をあらかじめ当該油脂組成物の曇点よりも10℃以上高い温度にしておくことが好ましい。かかる温度にすることで後に析出させる成分を一旦十分に溶解しておき、後の析出において、高融点成分を選択的に析出させることができる。当該温度は、油脂組成物の曇点に依存するが、例えば、25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましく、50℃以上が殊更好ましい。
【0018】
本発明においては、油脂組成物を当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の範囲内に冷却する。なお、「曇点+0〜+10℃」とは、「曇点以上、曇点+10℃以下」の温度範囲を示す表記である(以下同様)。斯かる温度範囲に冷却することにより油脂の高融点成分の中でも初期に析出する部分を微細結晶化して、気泡と共に泡沫部まで浮上させることができ、液体部から容易に分離することができる。
なお、本明細書において油脂組成物の曇点とは、透明な油脂が濁り始める温度であり、後記実施例記載の方法により測定することができる。
油脂組成物の冷却温度が油脂の曇点より低い場合、低温においても結晶析出が抑制された精製油脂組成物が得られるが、比較的融点の低い成分も析出してしまうために、得られる精製油脂組成物の歩留りが低下する。油脂組成物の冷却温度が油脂の曇点より10℃を超えて高い場合、結晶が析出しない、もしくは結晶析出量が不足するため、低温における結晶析出の抑制が不十分となる。
【0019】
かかる観点より、冷却温度は、油脂組成物の曇点+0〜+9℃が好ましく、更に+0.5〜+9℃、殊更に+1〜+7℃が好ましい。このような温度範囲に設定することにより、高融点成分の結晶をより効率よく気泡で同伴して泡沫部まで浮上させることができ、分離が容易になる。
冷却温度は曇点に依存するが、例えば、0〜24℃が好ましく、2〜22℃がより好ましく、4〜20℃が更に好ましく、6〜18℃が更に好ましく、8〜15℃が更に好ましい。
【0020】
冷却操作は、気泡接触槽のジャケット冷却や熱交換器等により行うことができる。
【0021】
本発明では、上記冷却温度範囲に冷却した油脂組成物に気泡を接触させる工程を有する。気泡の接触工程は、油脂組成物を上記温度範囲に調整した後に開始してもよい。この場合は、油脂組成物の冷却速度は特に限定されない。
また、気泡の接触工程を上記温度範囲になる前の冷却工程中に開始してもよい。この場合は、油脂の曇点+0〜+10℃の範囲内までの冷却速度は、結晶を浮上分離し易くする点から、0.5〜30℃/h、更に1〜15℃/h、殊更に2〜10℃/hが好ましい。
【0022】
油脂組成物と気泡との接触は、気泡発生装置を有する気泡接触槽を用いて行うことができる。気泡発生装置は、気泡接触槽の下部に位置することが好ましい。また、気泡接触槽は、油脂組成物の温度調節のために、ジャケット構造であることが好ましい。また、気泡接触槽は、油脂組成物の液体部と泡沫部を分離するための空間を有することが好ましい。
【0023】
気泡発生装置としては、気泡をせん断により微細化する装置、油脂組成物中に加圧された気体を溶解させ脱圧により気泡を発生させる装置等を用いることができる。また、多孔質体に気体を流通させることにより気泡を発生することができるエアーストーンを用いることができる。
【0024】
供給される気体の種類は、特に限定されず、空気、窒素、酸素、二酸化炭素、オゾン、水素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。特に、油脂組成物の劣化抑制の点から窒素、二酸化炭素、ヘリウム等の不活性気体が好ましい。
【0025】
発生させる気泡の量は、気体の流量や溶解タンクの圧力、循環流量により調整することができ、泡沫部への液体部巻き込み抑制の点から油脂組成物1kgあたり1〜1000ml/min、更に2〜500ml/min、殊更4〜200ml/minが好ましい。
【0026】
また、平均気泡径は、結晶を浮上分離し易くする点から1〜1000μm、更に10〜600μm、殊更20〜400μmが好ましい。平均気泡径は、実施例記載の測定方法にて求められるものである。
【0027】
冷却した油脂組成物と気泡を接触させる工程の時間は、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を十分に分離除去する観点から、0.1〜48時間、更に0.3〜24時間、殊更に0.5〜12時間が好ましい。なお、ここでの時間は、油脂組成物が当該油脂組成物の曇点+0〜+10℃の温度範囲内にある時間の合計を意味する。
【0028】
気泡は、油脂組成物と接触した後、浮上し、液体部(液体油脂組成物)の上部に泡沫部を形成する。この泡沫部を液体部より分離することにより、精製油脂組成物を得ることができる。泡沫部の分離は、気泡接触槽より溢流、吸引等の方法で行うことができる。
油脂組成物に対する泡沫部の割合は、油脂組成物中の飽和脂肪酸濃度により決定されるが、析出した高融点成分を十分に除去する観点より、3〜45%、更に5〜40%、更に8〜30%、更に10〜25%が好ましい。
【0029】
泡沫部は、例えば、静置分離、濾過、遠心分離等により、泡沫部分離固体部油脂組成物と泡沫部分離液体部油脂組成物に分別することができる。静置分離する場合は、固体部と液体部を十分に分離させる観点より、気泡分離塔内の温度に対し+0〜10℃、更に+0.5〜9℃、更に+1〜7℃の温度範囲内で、1〜72時間、更に2〜48時間、殊更3〜24時間行うのが好ましい。油脂組成物に対する泡沫部分離固体部油脂組成物の割合は、油脂組成物中の飽和脂肪酸濃度により決定されるが、析出した高融点成分を十分に分離する観点より、1.5〜35%、更に3〜25%、更に4〜20%、更に5〜15%が好ましい。回収した泡沫部分離液体部油脂組成物は、油脂組成物の一部として再利用してもよい。
【0030】
本発明の方法により、油脂組成物から高融点成分が分別除去され、低温における結晶化が抑制された精製油脂組成物が得られる。
【0031】
油脂組成物からの精製油脂組成物の回収率(歩留まり)は、油脂組成物の高融点成分濃度に依存するが、50〜99%が好ましく、60〜98%がより好ましく、70〜97%が更に好ましく、75〜96%が更に好ましい。
【0032】
本発明の方法では、高融点成分として、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を好適に分別除去することができ、炭素数12〜24の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂をより好適に分別除去することができる。
油脂組成物が、菜種油に由来するジアシルグリセロールを高含有する油脂組成物である場合、高融点成分としては、1,3−ジ飽和ジアシルグリセロールが好適に分別除去される。高融点成分としては、1,3−ジ飽和ジアシルグリセロールを指標として用いることができ、例えば1,3−ジパルミチンジアシルグリセロールを指標として好適に用いることができる。
【0033】
油脂組成物が、菜種油に由来するジアシルグリセロールを高含有する油脂組成物である場合、精製油脂組成物中の1,3−ジパルミチンジアシルグリセロールの含有量は、油脂組成物中の1,3−ジパルミチンジアシルグリセロールの含有量よりも5%以上、更に10〜60%減少したものであるのが、低温状態での結晶化抑制の点から好ましい。
【0034】
また、油脂組成物が、菜種油に由来するジアシルグリセロールを高含有する油脂組成物である場合、精製油脂組成物中の1,3−ジパルミチンジアシルグリセロールの含有量は、低温状態で結晶化抑制の点から0.09%以下、更に0.08%以下、殊更0.07%以下が好ましい。下限は特に規定されないが、工業的生産性の点から0.01%以上、更に0.02%以上、殊更0.03%以上が好ましい。
【0035】
精製油脂組成物中のジアシルグリセロールの含有量は、生理効果、油脂の工業的生産性の点から、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。上限は特に規定されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下が更に好ましい。
【0036】
本発明の製造方法、並びに固液分別法により得られた精製油脂組成物は、一般の食用油脂と同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。
【実施例】
【0037】
〔分析方法〕
(i)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists' Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0038】
(ii)油脂のグリセリド組成
油脂のグリセリド組成とともに、1,3−ジアシルグリセロール(1,3−DAG)、1,2−ジアシルグリセロール(1,2−DAG)及び高融点成分の1,3−ジパルミチンジアシルグリセロール(1,3−PP−DAG)、1−モノパルミチンモノアシルグリセロール(1−P−MAG)はガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
<GLC条件>
(条件)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
カラム:DB−1ht、10m(アジレントテクノジー社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=320℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から340℃まで1℃/分で昇温、340℃で15分間保持
【0039】
(iii)油脂組成物の曇点の測定
試料をキャピラリー管に入れ、光の透過度を検出する方式のMETTLER FR900サーモシステム81HT(メトラー・トレド製)を用いて、0.5℃/分で冷却したときの結晶析出温度を測定した。
【0040】
(iv)平均気泡径の測定
平均気泡径は、油脂組成物を充填した2mm幅のスリットに気泡を導入して、カメラにより直接撮影した画像から測定して求めた。
【0041】
(v)泡沫部分離固体部油脂組成物の歩留まりの算出法
次式により、油脂組成物の歩留まりを算出した。
泡沫部分離固体部油脂組成物の重量/油脂組成物の重量×100 (%)
【0042】
〔油脂組成物aの調製〕
菜種油を加水分解して得た脂肪酸870質量部と触媒として1,3位選択性固定化リパーゼ(Lipozyme RM IM:ノボルディスクインダストリー社製)50質量部とを混合し、グリセリン130質量部を添加してエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留し、更に脱色、酸処理、水洗した後、245℃にて34分脱臭して油脂組成物aを得た。
【0043】
〔油脂組成物bの調製〕
菜種油を大豆油に換えた他は油脂組成物aの調製と同じ操作を行い、油脂組成物bを得た。
【0044】
〔油脂組成物cの調製〕
高オレイン酸ヒマワリ油を828質量部と触媒として1,3位選択性固定化リパーゼ(Lipozyme RM IM:ノボルディスクインダストリー社製)100質量部と蒸留水20質量部を混合し、グリセリン172質量部を添加してグリセロリシス反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を脱グリセリンして油脂組成物cを得た。
【0045】
表1に、油脂組成物a〜cの組成、及び曇点、並びに高融点成分名、油脂組成物a〜c中の高融点成分濃度、及びグリセリドの構成脂肪酸中の炭素数12〜24の飽和脂肪酸量を示した。
【0046】
試験例1
図1に示すジャケット冷却式の円筒状気泡接触槽(内径100mm×高さ1000mm、以下同じ)に油脂組成物aを6.0kg仕込み、50℃で完全溶解した。気泡発生放置(OM4−MDG−045、オーラテック製)と円筒状気泡接触槽の間を約120ml/minで循環させた。気泡発生放置の圧力を0.26MPaに調整し、円筒状気泡接触槽の直前で脱圧することで連続的に気泡を発生させながら、油脂組成物aを4℃/hで冷却し、13℃で10時間保持した。このときの平均気泡径は79μmであった。また、油脂組成物aの曇点+0〜+10℃の範囲内での油脂組成物と気泡の接触時間は11時間であった(表では「冷却温度範囲での気泡接触時間」と表記した。以下同じ。)。円筒状気泡接触槽の下部から100mm高い位置に取り付けたサンプリング口から精製油脂組成物を抜き出した。また、泡沫部はナスフラスコに抜き出し、15℃で12時間静置させて、分離した泡沫部分離液体部油脂組成物を分離して泡沫部分離固体部油脂組成物を得た。
【0047】
試験例2
ジャケット冷却式の円筒状気泡接触槽に油脂組成物bを6.0kg仕込み、50℃で完全溶解した。気泡発生放置(OM4−MDG−045、オーラテック製)と円筒状気泡接触槽の間を約120ml/minで循環させた。気泡発生放置の圧力を0.26MPaに調整し、円筒状気泡接触槽の直前で脱圧することで連続的に気泡を発生させながら、油脂組成物bを4℃/hで冷却し、17℃で4時間保持した。油脂組成物bの曇点+0〜+10℃の範囲内での油脂組成物と気泡の接触時間は5.15時間であった。円筒状気泡接触槽の下部から100mm高い位置に取り付けたサンプリング口から精製油脂組成物を抜き出した。
【0048】
試験例3
ジャケット冷却式の円筒状気泡接触槽に油脂組成物cを6.0kg仕込み、50℃で完全溶解後、25℃に冷却した。気泡発生放置(OM4−MDG−045、オーラテック製)と円筒状気泡接触槽の間を約120ml/minで循環させた。気泡発生放置の圧力を0.26MPaに調整し、円筒状気泡接触槽の直前で脱圧することで連続的に気泡を発生させながら、油脂組成物cを1℃/hで15℃まで冷却した。油脂組成物cの曇点+0〜+10℃の範囲内での油脂組成物と気泡の接触時間は5.2時間であった。円筒状気泡接触槽の下部から100mm高い位置に取り付けたサンプリング口から精製油脂組成物を抜き出した。また、泡沫部はナスフラスコに抜き出し20℃で48時間静置させて、巻き込んだ泡沫部分離液体部油脂組成物を分離して泡沫部分離固体部油脂組成物を得た。
【0049】
試験例4
ジャケット冷却式の円筒状気泡接触槽に油脂組成物aを6.0kg仕込み、50℃で完全溶解した。円筒状気泡接触槽の底面にエアーストーン(25φ丸#180、いぶきエアストーン製)を3個取り付けた。エアーストーン1個あたり、窒素ガス約50ml/minを供給し、連続的に気泡を発生させながら、油脂組成物aを12℃/hで冷却し、10℃で10時間保持した。油脂組成物aの曇点+0〜+10℃の範囲内での油脂組成物と気泡の接触時間は10.58時間であった。このときの平均気泡径は725μmであった。円筒状気泡接触槽の下部から100mm高い位置に取り付けたサンプリング口から精製油脂組成物を抜き出した。
【0050】
表1に、各試験例の、泡沫部分離液体部油脂組成物の収率、泡沫部分離固体部油脂組成物の組成、高融点成分名、泡沫部分離固体部油脂組成物中の高融点成分の含有量、グリセリドの構成脂肪酸中の炭素数12〜24の飽和脂肪酸量、及び収率を示した。
また、精製油脂組成物の組成、曇点、高融点成分名、精製油脂組成物中の高融点成分の含有量、グリセリドの構成脂肪酸中の炭素数12〜24の飽和脂肪酸量、及び収率を示した。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から明らかなように、本発明の方法によれば、油脂中のグリセリド組成、1,2−DAGと1,3−DAGの比率、飽和脂肪酸量はほとんど変化なく、高融点成分、特に1,3−PP、1−P等の結晶核となる成分を効率的に分別除去することができ、低温で結晶化が抑制された優れた精製油脂組成物を製造できることが確認された。
図1