特許第5753794号(P5753794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753794医用画像診断装置と医用画像の輪郭抽出処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753794
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】医用画像診断装置と医用画像の輪郭抽出処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2011-549003(P2011-549003)
(86)(22)【出願日】2011年1月5日
(86)【国際出願番号】JP2011050024
(87)【国際公開番号】WO2011083789
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2013年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-218440(P2010-218440)
(32)【優先日】2010年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-1851(P2010-1851)
(32)【優先日】2010年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153498
【氏名又は名称】株式会社日立メディコ
(72)【発明者】
【氏名】長野 智章
(72)【発明者】
【氏名】樫山 貴広
【審査官】 後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/016530(WO,A2)
【文献】 特表2010−534500(JP,A)
【文献】 特表2011−523573(JP,A)
【文献】 特開2005−169118(JP,A)
【文献】 特開2004−188201(JP,A)
【文献】 特開2009−172186(JP,A)
【文献】 特開2009−153600(JP,A)
【文献】 特開2007−265331(JP,A)
【文献】 特開2005−218796(JP,A)
【文献】 特表2004−514526(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1030187(EP,A2)
【文献】 特開2006−068526(JP,A)
【文献】 特開2008−068086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00−8/15
A61B 6/00−6/14
A61B 5/055
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、
前記入力部は、前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を入力し、前記輪郭位置推定部は、輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を再推定し、前記初期輪郭を再生成し、前記輪郭抽出部は、前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を再抽出することを特徴とするものであって、
前記対象部位に係る生体組織の種類ごとに輪郭モデルデータを記憶する第1記憶部、を更に備え、前記入力部は、前記生体組織の種類を入力し、前記輪郭位置推定部は、入力された前記生体組織の種類に基づいて前記輪郭モデルデータを特定し、特定された前記輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記特徴点の位置に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を生成することを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項2】
被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、
前記入力部は、前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を入力し、前記輪郭位置推定部は、輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を再推定し、前記初期輪郭を再生成し、前記輪郭抽出部は、前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を再抽出することを特徴とするものであって、
前記輪郭抽出部は、前記初期輪郭上の輪郭点ごとに、前記輪郭点を跨ぎ、かつ、前記初期輪郭と直交する方向の所定範囲に対して境界検出処理を行い、前記境界検出処理によって境界と検出された位置に前記輪郭点を移動させ、更に、前記特徴点及び移動後の前記輪郭点を通過するように輪郭を抽出することを医用画像診断装置。
【請求項3】
被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、
前記入力部は、前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を入力し、前記輪郭位置推定部は、輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を再推定し、前記初期輪郭を再生成し、前記輪郭抽出部は、前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を再抽出することを特徴とするものであって、
前記輪郭抽出部によって抽出された輪郭から、輪郭抽出された領域の長さ、面積、容積などの形状に関する計測項目を算出する計測部をさらに備えたことを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項4】
被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、
前記対象部位の生体組織の種類及び計測項目と、前記輪郭位置を推定するための推定モデル又は推定プログラムとを対応付けて記憶する第2記憶部をさらに備え、前記入力部は、更に、前記生体組織の種類及び前記計測項目を入力し、前記輪郭位置推定部は、前記入力部によって入力された前記生体組織の種類及び前記計測項目に基づいて前記推定モデル又は前記推定プログラムを特定し、特定された前記推定モデル又は前記推定プログラムに従った処理を実行することにより前記輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を生成するものであって、
前記対象部位に係る生体組織の種類ごとに輪郭モデルデータを記憶する第1記憶部、を更に備え、
前記入力部は、前記生体組織の種類を入力し、
前記輪郭位置推定部は、入力された前記生体組織の種類に基づいて前記輪郭モデルデータを特定し、特定された前記輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記特徴点の位置に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を生成することを特徴とすることを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項5】
被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、
前記入力部は、前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を入力し、前記輪郭位置推定部は、輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を再推定し、前記初期輪郭を再生成し、前記輪郭抽出部は、前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を再抽出することを特徴とするものであって、
前記対象部位の抽出領域が複数有って、複数の抽出領域を切替設定する切替設定部をさらに備えたことを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項6】
被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、
前記輪郭位置推定部は、前記対象部位の輪郭が複数存在する場合、前記特徴点を用いて第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭を生成し、更に、前記第1の初期輪郭を用いて第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭を生成することを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の医用画像診断装置であって、
前記対象部位に係る生体組織の種類ごとに輪郭モデルデータを記憶する第1記憶部、を更に備え、前記入力部は、前記生体組織の種類を入力し、前記輪郭位置推定部は、入力された前記生体組織の種類に基づいて前記輪郭モデルデータを特定し、特定された前記輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記特徴点の位置に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を生成することを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項8】
請求項6記載の医用画像診断装置であって、
前記輪郭抽出部は、前記初期輪郭上の輪郭点ごとに、前記輪郭点を跨ぎ、かつ、前記初期輪郭と直交する方向の所定範囲に対して境界検出処理を行い、前記境界検出処理によって境界と検出された位置に前記輪郭点を移動させ、更に、前記特徴点及び移動後の前記輪郭点を通過するように輪郭を抽出することを医用画像診断装置。
【請求項9】
請求項6記載の医用画像診断装置であって、
前記入力部は、前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を入力し、前記輪郭位置推定部は、特定された前記輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を再推定し、前記初期輪郭を再生成し、前記輪郭抽出部は、前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を再抽出することを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項10】
請求項6記載の医用画像診断装置であって、
前記輪郭抽出部によって抽出された輪郭から、輪郭抽出された領域の長さ、面積、容積などの形状に関する計測項目を算出する計測部をさらに備えたことを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項11】
請求項10記載の医用画像診断装置であって、
前記対象部位の生体組織の種類及び計測項目と、前記輪郭位置を推定するための推定モデル又は推定プログラムとを対応付けて記憶する第2記憶部をさらに備え、前記入力部は、更に、前記生体組織の種類及び前記計測項目を入力し、前記輪郭位置推定部は、前記入力部によって入力された前記生体組織の種類及び前記計測項目に基づいて前記推定モデル又は前記推定プログラムを特定し、特定された前記推定モデル又は前記推定プログラムに従った処理を実行することにより前記輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を生成することを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項12】
請求項6記載の医用画像診断装置であって、
前記対象部位の抽出領域が複数有って、複数の抽出領域を切替設定する切替設定部をさらに備えたことを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項13】
画像表示部が被検者の対象部位を含む医用画像を表示する工程と、入力部が前記対象部位の特徴点を入力する工程と、輪郭位置推定部が前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する工程と、輪郭抽出部が前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する工程と、制御部が前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する工程と、を含み、
前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を前記入力部に入力する工程と、
輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を前記輪郭位置推定部によって再推定し、前記初期輪郭を再生成する工程と、
前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を前記輪郭抽出部によって再抽出する工程と、を含み、
前記対象部位に係る生体組織の種類ごとに輪郭モデルデータを第1記憶部に記憶する工程と、
前記生体組織の種類を前記入力部によって入力する工程と、
該入力された前記生体組織の種類に基づいて前記輪郭モデルデータを特定し、特定された前記輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記特徴点の位置に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を前記輪郭位置推定部によって生成する工程と、
を更に含むことを特徴とすることを特徴とする医用画像の輪郭抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の医用画像の対象部位の輪郭抽出処理の精度向上を図った医用画像診断装置と医用画像の対象輪郭抽出処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の対象部位の形状情報は、病変の進行度を診断する重要な情報の一つである。ここで対象部位の形状情報とは、対象部位の形、大きさを示す。
【0003】
超音波診断装置、X線画像診断装置、X線CT装置及び磁気共鳴イメージング装置などの医用画像診断装置では、被検者の対象部位の形状情報を非侵襲的に計測することができる。
計測された対象部位の形状情報は医用画像として表示装置に表示される。
【0004】
そして、医用画像診断装置では、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測したいという検者からの要求がある。
【0005】
そこで、特許文献1及び特許文献2が上記要求に対処する一つの画像処理方法として提案されている。特許文献1の画像処理方法は、次の各工程で行われる。
【0006】
第1の工程は、初期輪郭点生成部が対象部位の複数の初期輪郭の輪郭点を生成する。
第2の工程は、検者が画像中の対象部位の輪郭の候補点を指示する。
第3の工程は、初期輪郭選択部が対象部位により近い位置での複数の初期輪郭の輪郭点から実際の輪郭点を選択する。
第4の工程は、初期輪郭選択部がこの選択された初期輪郭を、輪郭形状を表わす内部エネルギーと画像の特徴を表わす画像エネルギーと必要に応じて与える外部エネルギーとの総和が最小になるように変形することにより前記画像中の対象物の輪郭を抽出する。
【0007】
また、特許文献2の画像処理方法では、画像データの収集条件(例えば、診断対象臓器(心臓)に対する超音波走査方法、走査方向あるいは走査断面)をパラメータとした心房あるいは心室における心筋/心腔境界の標準形状データが予め保管され、画像データに付加された画像データ収集条件に基づいて好適な標準形状データを読出すとともに、入力部によって設定された心筋の特徴量(2点の弁輪部及び1点の心尖部)の位置情報に基づいて輪郭データを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-261094号公報
【特許文献2】特開2007-14542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の画像処理方法では、実際の輪郭点抽出演算が、複数の初期輪郭の輪郭点の範囲内であるため、実際の輪郭点が心臓などの運動臓器の拍動によって複数の初期輪郭の輪郭点から外れる場合には、実際の輪郭点抽出演算の精度が十分でないという未解決の問題があった。
【0010】
また、心臓のように複数の腔の大きさを計測する場合や、組織の内膜面と外膜面に挟まれた領域の大きさを計測したりする場合には、複数の輪郭が必要になる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2の画像処理方法のいずれの場合にも、抽出したい輪郭ごとに、複数の候補点又は特徴量の位置情報を入力する必要があり、検者の操作負担が大きい。
【0011】
そこで、本発明の目的は、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することが可能であって、検者の操作負担を軽減することが可能な医用画像診断装置と医用画像の輪郭抽出処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、被検者の対象部位を含む医用画像を表示する画像表示部と、前記対象部位の特徴点を入力する入力部と、前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する輪郭位置推定部と、前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を前記画像表示部に表示する制御部と、を備え、前記入力部は、前記特徴点のうちの少なくとも1点の移動情報を入力し、前記輪郭位置推定部は、輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記移動情報に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を再推定し、前記初期輪郭を再生成し、前記輪郭抽出部は、前記移動情報及び再生成された前記初期輪郭に応じて輪郭を再抽出することを特徴とするものであって、前記対象部位に係る生体組織の種類ごとに輪郭モデルデータを記憶する第1記憶部、を更に備え、前記入力部は、前記生体組織の種類を入力し、前記輪郭位置推定部は、入力された前記生体組織の種類に基づいて前記輪郭モデルデータを特定し、特定された前記輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを前記特徴点の位置に応じて調整することによって、前記対象部位の輪郭位置を推定し、前記初期輪郭を生成することを特徴とする医用画像診断装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することが可能であって、検者の操作負担を軽減することが可能な医用画像診断装置と医用画像の輪郭抽出処理方法を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の超音波診断装置の概略構成例を示すブロック図。
図2】実施例1の動作手順を示すフローチャート。
図3】出力・表示部1の画像を用いた検者の操作画面の例を示す図。
図4】3つの特徴点から初期輪郭を生成する原理を説明する図。
図5】輪郭の中心位置、大きさ、傾きの具体的な算出方法の原理を示す図。
図6】輪郭抽出部4の具体的な動作例を説明する図。
図7】画像と計測項目を、出力・表示部1に表示する例を示す図。
図8】実施例2の動作手順を示すフローチャート。
図9】左室の時間変化を計測する表示画面。
図10】実施例3の動作手順を示すフローチャート。
図11】実施例3の心室から心房へ移動する特徴点設定方法を説明する図。
図12】実施例3の左心室から右心室へ移動する特徴点設定方法を説明する図。
図13】左室と左房を同時に計測し、その計測値を表示する例を示す図。
図14】実施例4の曲線モデルを用いた輪郭抽出を示す図。
図15】実施例5の概略の輪郭抽出を説明する図。
図16】実施例6の特徴点を3点から4点へ追加した例を示す図。
図17】実施例7の超音波画像と輪郭と計測結果を表示する画面の第1の例。
図18】実施例7のフローチャート。
図19】実施例7の輪郭位置の推定と輪郭抽出処理を説明する図。
図20】実施例7の超音波画像と輪郭と計測結果を表示する画面の第2の例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例を示す。
【実施例1】
【0018】
図面を用いて本発明の実施例1を説明する。
実施例1は、心臓の拍動で経時的に移動する心筋の境界の輪郭を抽出する方法である。
図1は、本発明の医用画像診断装置の概略構成例を示すブロック図である。
【0019】
本発明に係る医用画像診断装置は、出力・表示部1、入力部2、輪郭位置推定部3、輪郭抽出部4、計測部5、制御部6及び記憶部9を備えている。
【0020】
出力・表示部1は、被検者の対象部位を含む医用画像や医用画像の関連情報を表示・出力するものである。出力・表示部1での具体的な表示・出力対象は、医用画像の他、輪郭線、計測値であったり、計測値の計測レポートであったりする。表示・出力対象は、ビデオプリンタへの出力、フィルムへの出力、又はネットワーク接続されたパーソナルコンピュータへ電子ファイルを出力したりする。
【0021】
入力部2は、診断装置の各種操作を行うインターフェイスである。具体的には、入力部2は、各種操作のうちの出力・表示部1に表示された対象部位の位置を設定するものである。また、入力部2はキーボード、トラックボール、スイッチ、ダイヤル等の入力機器であり、生体組織の種類や特徴点を指定するために用いられる。
【0022】
輪郭位置推定部3は、入力部2を用いて設定された心臓の特徴点や種類に基づいて心臓の位置、大きさ、角度を設定することで対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する。初期輪郭生成は、動的輪郭モデルに基づく方法が用いられる。動的輪郭モデルとは例えば、医用画像上に存在する心臓の心筋の輪郭線を構成する頂点の集合によって表現されるものである。輪郭線を構成する頂点の集合は、恰も蛇のように蛇行を繰り返し、時々刻々と変化する輪郭線を形成する。
【0023】
また、初期輪郭生成は、動的輪郭モデルの他にスプライン曲線などの曲線関数を用いた曲線モデルを用いてもよい。
【0024】
また、輪郭位置推定部3は、入力部2によって設定された計測項目や生体組織の位置に基づいて輪郭の本数や位置を推定する。このとき、推定される輪郭の位置、大きさ、形状等の精度は問わない。実施形態の一例として、記憶部9には、設定される計測項目や生体組織の位置に対応づけられた輪郭の数学的な算出方法をプログラムとして予め記憶させておき、輪郭位置推定部3は、このプログラムを読み出して輪郭を設定するようにしてもよい。輪郭の数学的な算出方法の一例としては、例えば、左室の輪郭を数学関数によって表現し、設定位置から算出される位置・角度・大きさに基づいて配置する方法が考えられる。
別の方法としては、輪郭データベース10から、計測項目や設定位置に対応する輪郭の本数や位置に関する情報を取り出して設定してもよい。
【0025】
輪郭抽出部4は、輪郭位置推定部3で求めた初期輪郭を用いて輪郭を抽出する演算を行う。演算の手法は、公知の動的輪郭モデルActive Contour Model(「ACM」と略記する)、動的形状モデルActive Shape Model(「ASM」と略記する)、動的外観モデルActive
Appearance Model(「AAM」と略記する)が用いられる。輪郭抽出演算は同時に抽出された輪郭点群を滑らかに接続する平滑化処理も含む。
【0026】
輪郭抽出部4は、例えば、エッジ検出などを利用した輪郭抽出法を用いて、生体組織の輪郭にフィットするように初期輪郭の変形処理を行う。このとき、輪郭データベース10を参照しながら、より正確な位置に輪郭を抽出するように動作させてもよい。例えば、動的輪郭モデルのようなモデルベースの輪郭抽出法を適用できる。抽出された輪郭は、スプライン曲線のような曲線モデルを用いて滑らかな形状に変形してもよく、この結果は、出力・表示部1によって、画像とともに装置の画面上に表示される。
【0027】
計測部5は、抽出された輪郭に関する長さ、面積、容積などの輪郭の形状に関する計測項目(抽出輪郭の形状に関する計測値)を算出する。例えば、計測項目は、輪郭点の座標や輪郭線で囲まれる領域の中心位置座標、輪郭線の周囲長、輪郭線に囲まれた面積、容積がある。容積は、シンプソン法と呼ばれる計算法で演算される。シンプソン法とは、例えば、医用画像を用いた心室の容積を計算する場合、心室の容積計算領域を複数積み上げられた円柱形のディスクに分割して、各ディスクの体積の総和で心室の容積を計算する計算法であり、詳細は特表2007-507248号公報に開示されている。
【0028】
また、シンプソン法によらない容積算出法は、次の手順で行われる。
まず、入力部2が出力・表示部1に表示された医用画像の中の容積計測の対象領域を設定する。次に、制御部6が対象領域を複数の体積要素に分割する演算を行う。次に、制御部6が対象領域の動きによる体積要素の頂点の移動量を演算する。次に、制御部6が頂点の移動量を用いて移動後の体積要素の体積を演算する。最後に、制御部6が移動後の体積要素の体積を総和し対象領域の容積を演算する。
【0029】
その他、例えば、心臓の超音波画像の場合、容積については、Area-length法やModified Simpson法などの既存の計測方法を適用できる。計測値は、出力・表示部1によって、超音波画像とともに装置のディスプレイに表示される。
【0030】
また、制御部6は、上述した演算を行う他に、医用画像診断装置全体の各構成要素を制御するとともに、生体組織の種類や特徴点を変更した場合に、出力・表示部1、輪郭位置推定部3、輪郭抽出部4及び計測部5を制御する。制御部6としては、例えば、中央演算装置を用いたものである。
【0031】
尚、輪郭位置推定部3、輪郭抽出部4及び計測部5は、中央演算装置である制御部6が、記憶部9に記憶されている各プログラムを読み出して実行することにより実現される機能である。
【0032】
記憶部9には、医用画像診断装置を構成する種々のシステムを動作させるためのプログラムが格納されている。また、記憶部9には、画像データ、対象部位に係る生体組織の種類ごとに輪郭モデルデータ(初期輪郭を生成するために基準となるデータ)が記憶されている。記憶部9は、例えば、半導体メモリ、ハードディスク、光ディスクなどの記憶媒体である。さらには、ネットワークを通した外部記憶媒体でもよい。
【0033】
また、記憶部9は、輪郭データベース10を含む。輪郭データベース10は、計測項目や計測位置に対する輪郭の本数、位置、形状に関する情報が記憶されている。これらの情報は、輪郭位置推定部3と輪郭抽出部4による輪郭抽出に利用される。
【0034】
システムバス10は、接続されるハードウエア間で相互にデータ通信を行うデータ転送バスである。システムバス10には、出力・表示部1、入力部2、輪郭位置推定部3、輪郭抽出部4、計測部5、制御部6及び記憶部9が接続されている。
【0035】
また、本発明の医用画像診断装置は、超音波診断装置を例に説明する。超音波診断装置はさらに探触子7及び超音波送受信部8を備えている。
【0036】
探触子7は、被検者の対象部位の体表に当接させ、対象部位に超音波信号を送信すると共に、対象部位からの反射エコー信号を受信する。探触子7は複数チャンネルの振動子素子から形成され振動子素子の材質で分類すると、ピエゾ圧電素子、capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer(cMUT)などがある。何れの次元の探触子でも採用可能である。また、探触子7は、リニア型、コンベックス型、セクタ型等のいずれであっても良い。
【0037】
超音波送受信部8は、被検者の生体組織の画像を生成するものであり、送信機能と受信機能を有している。送信機能は、探触子7から被検者へ超音波信号を送信する。受信機能は、探触子7が被検者へ送信した超音波信号の反射エコー信号を受信し、整相回路や増幅回路を通して、装置の撮像設定に従って信号処理し、整相された超音波信号を得る。また、超音波送受信部8は、超音波信号から装置の撮像設定、例えば、超音波ビームの走査範囲、ゲイン設定などに基づいて、超音波画像を生成する。この超音波画像は、撮像設定によって決定されるフレームレートに従って常時更新されるものであり、つまり、出力・表示部1によって映像として超音波診断装置のディスプレイに表示される。
【0038】
以下、超音波診断装置を用いる場合について実施例1を説明する。
次に実施例1の動作について図2を用いて説明する。
図2は実施例1の動作手順を示すフローチャートである。
【0039】
検者は、診断に用いる心臓の超音波画像を出力・表示部1に表示させるべく入力部2の操作により設定する。制御部6は、入力部2の操作情報を受けて、出力・表示部1の表示画面上に、対象部位とする心臓が描出された超音波画像を表示させる(S101)。
【0040】
検者は対象部位(生体組織の種類)と心臓の特徴点を入力部2の操作により設定する(S102、S103)。
【0041】
図3は出力・表示部1の超音波画像を用いた検者の操作画面の例を示す図である。
【0042】
検者は、図3に示すように、出力・表示部1の表示画面上の画像を見ながら、心臓の超音波画像の断面像を入力部2の操作により設定する。心臓の超音波画像の断面像は、例えば、心尖2腔像202(Apical Two Chamber:A2C)と心尖4腔像203(Apical Four Chamber:A4C)のそれぞれの拡張末期像(end diastole)と収縮末期像(end systole)を設定する。
【0043】
まず、検者は入力部2を用いて出力・表示部1の心臓の超音波画像の特徴点を入力する。
例えば、検者はトラックボールを操作して、特徴点を示すキャリパをドラッグし、弁輪部の中隔側の点を開始点a、側壁側の点を終了点b、心尖部の心尖点cとの3つの特徴点を入力する。
【0044】
次に、制御部6は、輪郭位置推定部3によって初期輪郭を生成させる(S104)。
輪郭位置推定部3は、例えば、S102において設定された生体組織の種類に基づいて、予め記憶部9に記憶されている輪郭モデルデータを1つ特定し、特定された輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを、S103において設定された画像上の心臓の特徴点a,b,cの位置に応じて調整することによって、対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する。尚、初期輪郭は、点の集合であっても良いし、曲線を示す関数であってもよい。
【0045】
図4は3つの特徴点から初期輪郭を生成する原理を説明する図である。
図4(a)には、3つの特徴点を通る曲線を初期輪郭501とした例である。ここでは、特徴点を弁輪a,bの2点と心尖cの1点としている。曲線は、多項式曲線、スプライン曲線、楕円曲線などの関数を利用する。初期輪郭は、動的輪郭モデル(ACM)による初期輪郭や境界検出の初期位置として用いることができる。この場合、曲線を定義する関数の方程式が輪郭モデルデータであり、特徴点に基づいて方程式の係数を定義することが、輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを調整することに相当する。
【0046】
また、別方式の輪郭モデルは、図4(b)に示すように、初期輪郭が特徴点を通らない場合である。初期輪郭が特徴点を通らない場合((動的形状モデル(ASM)や動的外観モデル(AAM))では、一般に、輪郭モデルデータに輪郭の中心位置、輪郭の大きさ、輪郭の傾きを与えて初期輪郭501を生成する。初期輪郭の生成処理を具体的に説明する。まず、輪郭位置推定部3は、輪郭の中心位置502の座標を、3つの特徴点の座標から例えば重心の座標として求める。次に、輪郭位置推定部3は、輪郭の大きさを、中心の座標から3つの特徴点までのそれぞれ距離に基づいて求める。最後に、輪郭位置推定部3は、輪郭の傾きを座標の中心に対する角度から求める。
【0047】
図5は、輪郭の中心位置、大きさ、傾きの具体的な算出方法の原理を示す図である。図5(a)は、輪郭モデルデータ601を示している。図中の白丸は特徴点で弁輪2点と心尖部1点を示している。輪郭モデルデータは、例えば、動的形状モデル(ASM)や動的外観モデル(AAM)では、過去に取得された複数の輪郭点座標を平均化したものが用いられる。図5(b)は、実際に抽出すべき左室輪郭204である。また、図中の黒丸は、S103で設定された特徴点205である。輪郭モデルデータ601と白丸と黒丸の特徴点の座標情報を用いて、輪郭モデルデータ601ができるだけ左室輪郭204に近づけるように形状が調整される。
【0048】
輪郭モデルデータ601と左室輪郭204の形状情報は、図5(c)に示すような白丸と黒丸の座標から算出される。
【0049】
図5(c)は、輪郭モデルデータ601と左室輪郭204の形状情報の具体的な算出方法を説明する図である。まず、輪郭モデルデータ601と左室輪郭204の中心位置の調整について説明する。輪郭モデルデータ601の中心位置G’の算出は、3つの特徴点a’,b’,c’の重心とする。次に、左室輪郭204の中心位置Gの算出は、3つの特徴点a,b,cの重心とする。図5(a)の輪郭モデルデータ601の中心位置G’は、図5(b)の左室輪郭204の中心位置Gと一致させるように調整される。
【0050】
次に、輪郭の大きさの調整について説明する。大きさの調整は、中心位置Gから3点a,b,cまでの距離に応じて求める。輪郭モデルデータ601の場合では、中心G’から各特徴点a’,b’,c’までの距離Da’,Db’,Dc’を算出する。左室輪郭204の場合では、中心Gから各特徴点a、b、cまでの距離Da,Db,Dcを算出する。次に、各特徴点において、輪郭モデルデータ601と左室輪郭204との距離の比は、それぞれDa/Da’,Db/Db’,Dc/Dc’である。次に、Da/Da’,Db/Db’,Dc/Dc’の各比の平均比Daveを求める。最後に、Daを例に説明すると、Da’を中心の周りにDave倍することで左室の平均輪郭の大きさに拡大縮小することができる。また、Db’,Dc’も同様に中心の周りにDave倍することで左室の平均輪郭の大きさに拡大縮小することができる。
【0051】
次に、輪郭の傾きの調整について説明する。傾きの調整については、輪郭モデルデータ601の中心位置G’と特徴点a’を結ぶ線分G’a’と、左室輪郭204の中心Gと特徴点aを結ぶ線分Gaのなす角Aaを算出する。
【0052】
特徴点b、cについても同様に、輪郭モデルデータ601の中心G’と特徴点b’を結ぶ線分G’b’と、左室輪郭204の中心Gと特徴点bを結ぶ線分Gbのなす角Abを算出し、左室輪郭の中心G’と特徴点c’を結ぶ線分G’c’と、左室輪郭の中心Gと特徴点cを結ぶ線分Gcのなす角Acを算出する。
【0053】
さらに、角Aa、角Ab、角Acの平均角Aaveを求める。従って、この平均角Aaveだけ輪郭モデルデータ601を角度を戻すようにG’の周りを回転させることにより、輪郭モデルデータ601を左室輪郭の傾きに略一致させ、初期輪郭を生成することができる。
【0054】
以上の処理において、輪郭モデルデータ601の中心位置G、平均比Dave、平均角Aaveを設定することにより、左室輪郭204の形状に近い初期輪郭501を生成することが可能になる。
【0055】
制御部6は、輪郭抽出部4に輪郭を抽出させる(S105)。S104の初期輪郭から、動的に変形する輪郭モデルを用いて輪郭を抽出する。抽出された輪郭は、図2の抽出輪郭204として画面表示される。
【0056】
図6は、輪郭抽出部4の具体的な動作例を説明する図である。輪郭抽出処理は、図6に示す初期輪郭501を左室輪郭204に近似させる処理である。近似させる処理の手法は、例えば、動的輪郭モデル(ACM)、動的形状モデル(ASM)及び動的外観モデル(AAM)といった動的に変形する輪郭モデルである。輪郭モデルで求められる輪郭線は、複数の輪郭点から構成されており、輪郭線の形状変化に伴い輪郭点の位置が移動することになる。
【0057】
一般に、動的に変形する輪郭モデルでは、全ての輪郭点を心筋の壁面に近づける方向(矢印A方向)に制御する。例えば、輪郭線の垂直方向に向かって境界検出処理を行い、心筋の壁面の境界が存在する方向に向かって(矢印A方向に)輪郭点を移動させる。図6の例では、初期輪郭501から垂直方向に左室輪郭204に向かって輪郭点を移動させる。
【0058】
具体的には、輪郭抽出部4は、初期輪郭501上の輪郭点502ごとに、輪郭点502を跨ぎ、かつ、初期輪郭501と直交する方向の所定範囲503に対して境界検出処理を行う。輪郭点502は、初期輪郭501上に数十個程度設定される。また、所定範囲503は、処理の高速化及び輪郭の平滑化を図る為、数十個程度の画素を含むものとする。境界検出処理は、公知の方法を適用することができる。例えば、輪郭抽出部4は、初期輪郭501と直交する方向に所定範囲503に含まれる画素群から1つずつ注目画素を特定していき、注目画素における変化量を算出する。注目画素における変化量は、例えば、注目画素の画素値と隣接画素(隣接する左右2点又は隣接する左右上下4点等)の画素値との差分値の総和などである。そして、輪郭抽出部4は、所定範囲503の画素の中から変化量が最も大きい画素を「境界」(本実施例では、左室輪郭204)の位置として検出する。そして、輪郭抽出部4は、「境界」と検出された位置に輪郭点502を移動させる。
【0059】
ただし、例外として、初期輪郭上の特徴点(白丸)については、左室輪郭の特徴点(黒丸)205に近似する矢印B方向に移動する。
【0060】
特徴点205は、検者が輪郭の一部の位置を示すものとして指定したものであり、輪郭の開始点a、終了点b、心尖点cという輪郭の基準点である。輪郭抽出部4は、輪郭の基準点(特徴点205)である開始点a、終了点b、心尖点cを通るように輪郭を抽出する。
【0061】
すなわち、輪郭抽出部4は、特徴点205及び「境界」と検出された位置に移動された後の輪郭点502を通過するように輪郭を抽出する。
【0062】
最終的に、輪郭線は3つの特徴点を通り心筋の壁面に沿うような形状になる。従って、初期輪郭501の状態で左室輪郭の特徴点205を通過していなくても、輪郭抽出処理が完了すると、左室輪郭上の指定された特徴点205を通るような輪郭が抽出されることになる。
【0063】
制御部6は、輪郭点を滑らかに接続するために、スプライン曲線のような平滑化曲線を利用して、最終的な輪郭線を抽出する。そして、抽出した輪郭線に基づき、制御部6は、計測部5に対象部位の長さ(Length)、面積(Area)、容積(Volume)などの計測項目を算出させる(S106)。左室の例では、容積計測法として、Modified Simpson法やArea Length法が利用される。拡張末期と収縮末期両方の画像で容積を算出した後、拡張末期容積と収縮末期容積の差を拡張末期容積で除した値として心駆出率を算出することができる。
【0064】
制御部6は、出力・表示部1に図3で示した画像と共に、計測部5によって算出された計測項目を表示する(S107)。
【0065】
図7は、画像と計測項目を、出力・表示部1に表示する例を示す図である。
図7では、超音波画像202、203、抽出輪郭204、計測値206を並べて表示する例を示している。
【0066】
検者は輪郭が適正に抽出されたか確認する(S108)。前ステップS107までの処理によって抽出された輪郭を画面上で確認して、修正の必要がなければ処理を終了し、修正が必要であれば、S102、S103の生体組織の種類と特徴点の設定から再度処理を行う。検者は、入力部2を用いて輪郭線を必要に応じて手動微調整を行う。具体的に、検者は、輪郭線をマウスでドラッグアンドドロップするなどして、手動的に輪郭の位置を修正する。
【0067】
以上のように、実施例1では、出力・表示部1が被検者の対象部位を含む医用画像を表示し、入力部2が医用画像の表示を参照しながら対象部位に係る生体組織の種類と特徴点を設定し、輪郭位置推定部3が対象部位の位置に基づいて初期輪郭を生成し、輪郭抽出部4が初期輪郭と特徴点を用いて対象部位の形状に沿った輪郭を抽出し、制御部6が抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を出力・表示部1に表示するので、初期輪郭と特徴点を用いた対象部位の形状に沿った輪郭を抽出するから、対象部位が被検者の個体差が大きい運動臓器である場合に、輪郭抽出演算の都度に運動臓器の形状に沿った輪郭を抽出するため、被検者の対象部位の抽出の精度向上ができる。
【0068】
また、検者は画像表示部に表示された合成画像を観察して、輪郭が対象部位の形状と整合していることを確認しつつ、対象部位の計測項目(例えば、長さ、面積、容積)が実時間で確認可能であるので、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することができる。
【0069】
また、実施例1の特有の効果は、心臓の2AC像202と4AC像203のように異なる2つ以上の画像を表示し、それぞれの対象部位の計測項目を算出しているので、心臓の2AC像202と4AC像203の総合的に評価することができる。
【実施例2】
【0070】
本発明の実施例2では輪郭が心臓でいう拍動など運動臓器の運動により変化していく時間変化に追従して輪郭を抽出する例を説明する。
【0071】
実施例2では、超音波診断装置のハードウエアの構成と実行するソフトウエアのS101乃至S108は実施例1と同様であるので、相違点のみを説明する。
【0072】
図8は実施例2の動作手順を示すフローチャートである。
実施例2は、実施例1のS108の「適正」の判定に引き続いて行われるため、図8のフローチャートは図2のフローチャートと端子Bで接続されている。
【0073】
検者は、超音波画像中の心臓の拍動に追従して領域抽出を行うトラッキング演算を実行する/実行しないを、入力部2の操作により設定する。制御部6は、入力部2の操作に従ってトラッキング演算を「実行」とするか「不実行」とするかを判定する。判定結果が「実行」であればS202に進み、「不実行」であれば処理を終了する(S201)。
【0074】
制御部6は、輪郭点のうちの特徴点の移動位置をフレーム毎にトラッキング法により検出する(S202)。トラッキング法は、例えば特開2004-121834号公報に開示される。特徴点が決まれば輪郭線が一意に決まるため、輪郭点全点についてトラッキングする必要は無く、特徴点の移動のみをトラッキングによって検出すればよい。制御部6は、各フレームにおいてトラッキングされた特徴点を用いて輪郭線を生成する。
【0075】
制御部6は、計測部5に各フレームにおいて、計測項目を算出させる(S203)。計測項目の算出は、S105と同様であるが、相違点はS105が単一時相の計測値であったが、S203では時系列のデータを得ることである。
【0076】
制御部6は、前記計測値を出力・表示部1に表示する(S204)。
【0077】
図9は、左室の時間変化を計測する表示画面である。図9図7の表示に左室容積変化曲線221が追加されている。
【0078】
左室容積変化曲線221は時間を横軸とし、容積を縦軸として、例えばA2C画像202でフレーム毎に点a〜cで示される領域の容積を算出し、グラフ化したものである。
【0079】
以上のように、実施例2では、実施例1と同様に、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することができる。
【0080】
また、実施例2の特有の効果は、最初に特徴点を設定するだけで済むため、時間変化を計測する際の初期設定が容易になる。また、演算量は特徴点のみのトラッキング演算のみでよく、演算時間が短縮されるため、検査時間の短縮が可能になる。
【実施例3】
【0081】
本発明の実施例3では、心室と心房あるいは左心室と右心室の相互間で抽出する輪郭を切り替える例を説明する。
【0082】
実施例3では、超音波診断装置のハードウエアの構成と実行するソフトウエアのS101乃至S108は実施例1と同様であるので、相違点のみを説明する。
【0083】
図10は実施例3の動作手順を示すフローチャートである。
実施例3は、実施例1のS108の「適正」の判定に引き続いて行われるため、図10のフローチャートは図2のフローチャートと端子Bで接続されている。
【0084】
検者は、超音波画像中の心臓の輪郭抽出対象、具体的には心室/心房切替を入力部2の操作により設定する。制御部6は、入力部2の操作に従って例えば心室から心房に「切替有」であればS102に進み、「切替無」であれば処理を終了する(S301)。S301では心室から心房を例示するが、心房から心室への切替、あるいは、左心室から右心室の切替でもよい。
【0085】
制御部6は、心房に切り替えてから端子Aで図2のフローチャートに接続され、S102乃至S108を実行し、心房の輪郭、計測項目を、出力・表示部1に表示し、処理を終了する(S302)。
【0086】
実施例3では、心尖部の特徴点を変更する方法を示す。心尖部の特徴点を変更することを前提とするならば、図11のような特徴点設定方法が考えられる。
【0087】
図11は実施例3の心室から心房へ移動する特徴点設定方法を説明する図である。
【0088】
図11(a)は、検者が弁輪部の特徴点aとbを設定した後、その中点に心尖部の特徴点cが設定された場合を示した図である。この後、検者が特徴点cの位置を入力部2の入力機器によって移動させながら制御部6が輪郭を抽出する。
【0089】
検者は特徴点cを特徴点aとbを結ぶ線分abに略垂直な方向(図中の白抜き矢印の方向)に移動させると、図11(b)のように心室から心房へ移動させるたびに制御部6が輪郭抽出を行い、抽出輪郭を出力・表示部1に表示する。
【0090】
すなわち、入力部2は、特徴点のうちの1点の移動情報を入力し、輪郭位置推定部3は、特定された輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを移動情報に応じて調整することによって、対象部位の輪郭位置を再推定し、初期輪郭を再生成する。そして、輪郭抽出部4は、移動情報及び再生成された初期輪郭に応じて輪郭を再抽出する。
【0091】
図11の例では、検者が特徴点cを線分abに対して上方または下方に移動させることができる。例えば、検者が特徴点cを、線分abより上方に移動させたときには、対象とする組織が左室であると選択され、制御部6がS104〜S106を実行する。また逆に、検者が特徴点cを、線分abより下方に移動させたときには、対象とする組織が左房であると選択され、制御部6がS104〜S106を実行し、左房輪郭801を抽出できる。
【0092】
さらに、図12の例では、左心室から右心室へ移動するように特徴点aとbを左右反転することができる。
【0093】
図12は実施例3の左心室から右心室へ移動する特徴点設定方法を説明する図である。
検者が特徴点aとbを左右に入れ替えた時には、瞬時に右室、右房について制御部6がS104〜S106を実行し、それぞれ、右室輪郭901と右房輪郭902を抽出することができる。
【0094】
また、1画面中に、1本の輪郭線を設定して、その特徴点を順次変更してもよいし、複数本の輪郭線を設定して、複数の組織を同時に計測するようにしてもよい。
【0095】
例えば、図13のような表示画面とすることができる。図13では、左室と左房を同時に計測し、その計測値を表示する例を示す図である。左室、左房とも独立した特徴点の設定と輪郭抽出処理を行い、輪郭線と計測値を並列に表示する。また、左室と左房の組み合わせに限らず、右室、右房を組み合わせて、複数の組織の計測を行い、それらの結果を並列に表示するようにしてもよい。
【0096】
以上のように、実施例3では、実施例1と同様に、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することができる。
【0097】
また、実施例3の特有の効果は、複数の抽出対象を同時に観察でき、検者へ複数の対象部位にまたがる複合的な疾患の画像診断を支援することができる。
【実施例4】
【0098】
本発明の実施例4では、実施例1における輪郭モデルのかわりに曲線モデルのアルゴリズムを用い、生体組織の特徴点や種類を変更しながら輪郭抽出する例を説明する。
【0099】
実施例4では、超音波診断装置のハードウエアの構成と実行するソフトウエアのS101乃至S108は実施例1と同様であるので、相違点のみを説明する。
【0100】
実施例4では、動的に変形する輪郭モデル(ACM、ASM、AAMなど)を用いたが、演算ステップが多くPCなどの高速演算処理機能を有しない場合に有用なアルゴリズムである。単純な形状の生体組織を対象とする場合は、実施例4のように、より簡易的なモデルとして曲線モデルを用いることができる。主に、実施例1と異なる、ステップS104、S105について説明する。
【0101】
制御部6は、輪郭位置推定部3によって、ステップS103で設定された特徴点205から初期輪郭を生成する(S104)。
【0102】
図14は、実施例4の曲線モデルを用いた輪郭抽出を示す図である。図14(a)の破線は、特徴点を結ぶ曲線であり、多項式曲線、スプライン曲線、楕円曲線などの関数で表現される。また、図14(b)のように特徴点dとeを追加し、5つの特徴点を結ぶような曲線としてもよく点数に制限は無い。
【0103】
制御部6は、輪郭抽出部4によって輪郭抽出処理を行う(S105)。図14(a)のように、曲線を基準に左室壁面の境界検出処理を行い、矢印の方向に輪郭を変形させ左室輪郭204を得る。
【0104】
輪郭抽出処理を行わない場合は、特徴点の変更時に、図14の曲線モデル1001による初期輪郭(破線)の表示となり、特徴点を移動させて破線の曲線を確認し、検者が入力部2を用いて手動微調整を行う。
【0105】
以上のように、実施例4では、実施例1と同様に、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することができる。
【0106】
また、実施例4の特有の効果は、輪郭モデルを用いた場合に、処理が重く不安定な場合でも、簡易的な曲線モデルを用いることにより、特徴点変更時の処理の演算量が減るので、ストレス無く操作することが可能になる。
【実施例5】
【0107】
本発明の実施例5では、生体組織の特徴点や種類を変更する変更時に、モデルの精度を落として操作のリアルタイム性を高め、特徴点や種類を確定させる確定時に、高精度なモデルを適用させて輪郭の抽出精度を高める例を説明する。
【0108】
実施例5では、超音波診断装置のハードウエアの構成と実行するソフトウエアのS101乃至S108は実施例3と同様であるので、相違点のみを説明する。
【0109】
制御部6は、S104で生成された初期輪郭から、輪郭抽出部4によって輪郭を抽出する(S105)。このとき、抽出する輪郭の精度を低く設定する。実施例3で用いるACM、ASM、AAMのような輪郭モデルの場合には、輪郭を収束させるための反復回数を減らしたり、制御点の個数を減らしたりするなどの計算量を低減する処理を行う。実施例4で用いる曲線モデルの場合には、曲線を表現する関数の次元数を落とすなどの計算量を低減する処理を行う。
【0110】
図15は実施例5の概略の輪郭抽出を説明する図である。
図15の破線は、S105で生成した輪郭であり、実施例1〜4で示したものに比べて概略の輪郭となる。
【0111】
制御部6は、S105で生成した輪郭をS103の特徴点変更の操作によって、随時変更する。
すなわち、特徴点を移動させてその位置を変更させると、初期輪郭を生成し(S104)、輪郭抽出処理(S105)、計測項目の算出(S107)を行い、輪郭と計測項目の計測値を表示する。検者は、この輪郭と計測項目の計測値を画面上で確認しながら、実際の輪郭に近づくように、特徴点を移動させながら輪郭形状の調整を行う。
【0112】
次に、検者は概略の輪郭を、入力部2の入力機器を操作して確定入力させる。
【0113】
制御部6は、概略の輪郭の確定により、概略の輪郭を特徴点として利用して、初期輪郭の生成(S104)、輪郭抽出処理(S105)、計測項目の算出(S107)を行う。ただし、この場合は、概略の輪郭抽出のように計算量の低減を行わずに、実施例1〜4で説明したような精密な輪郭抽出処理を行う。
【0114】
以上のように、実施例5では、実施例1と同様に、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することができる。
【0115】
また、実施例5の特有の効果は、通常の輪郭抽出を行うための特徴点を置く場所を設定する前に、概略の輪郭を表示するので、通常特徴点を設定する位置が近く、特に手動による輪郭の位置の訂正の移動距離を少なくできる。
【実施例6】
【0116】
本発明の実施例6では、移動させたい所望の輪郭点があって、その輪郭点周辺に配置される輪郭線のみを限定的に変形させる例を説明する。
【0117】
実施例6では、超音波診断装置のハードウエアの構成と実行するソフトウエアのS101乃至S108は実施例1と同様であるので、相違点のみを説明する。
【0118】
図16は、実施例6の特徴点を3点から4点へ追加した例を示す図である。
制御部6は、S103において特徴点dを設定し、検者が特徴点d周辺のみの輪郭線を調整する。特徴点dは入力部2によって輪郭線上に指定された点である。さらに、特徴点a〜dは、検者によってその位置を移動させることが可能であり、このときの動作について特徴点dを移動させた場合を説明する。
【0119】
検者は、特徴点dを移動させたとき、図16(b)のように、特徴点dに隣接する特徴点cとbの間の輪郭線のみ変形させる(S105の変形例)。制御部6は、特徴点cとbの間(破線)のみに輪郭変形処理を加えるようにしてもよいし、輪郭点の全体に対して輪郭変形処理を加えた後に、特徴点aとcの間(実線)のみ、輪郭変形前の輪郭線で置き換えるようにしてもよい。また、特徴点dから隣接何点までの範囲を変形させるかは、入力機器により検者が自由に選択できるものとする。
【0120】
以上のように、実施例6では、実施例1と同様に、被検者の対象部位の形状情報をより高精度に計測することができる。
【0121】
また、実施例6の特有の効果は、輪郭線の局所のみを変形させることができるので、輪郭線の局所の微調整が可能であり、より心腔の形状にフィットした輪郭を抽出することが可能になる。
【実施例7】
【0122】
実施例7は、検者が設定した計測項目や生体組織を示す複数の特徴点から、抽出すべき輪郭線の本数や形状を推定し、さらに詳細な輪郭の位置を決定する方法である。
【0123】
図18のフローチャートに示した処理の流れに従って説明する。最初に、制御部6は、出力・表示部1の表示画面上に、対象とする生体組織が描出された画像を表示させる(S401)。ここでは、図17の表示画面301のように、左室の計測を目的として、心尖部4腔像302を表示した例で説明する。
【0124】
次に、検者は、入力部2を利用して、画面に表示された生体組織に対して、計測したい生体組織の種類を設定する(S402)。図17の右上には計測対象となる生体組織の種類304が表示されており、心臓ならば、LV(左室)、LA(左房)、RV(右室)、RA(右房)の項目が表示される。検者は、この中から計測したい生体組織を選択する。ここでは、LVを選択(図17では太字、下線にて示す。)した例を示す。
【0125】
次に、検者は、入力部2を利用して、画面に表示された生体組織に対して、計測項目を設定する(S402)。図17の右上には計測項目305が表示されており、検者は、length(輪郭長)、area(面積)、volume(容積)、mass(心筋重量)の中から1つまたは複数を選択する。計測項目305は、図17に示す以外にも、必要なものを設定しておくことが可能である。ここでは、volumeとmassを選択(図17では太字、下線にて示す。)した例を示す。
【0126】
次に、検者は、入力部2を利用して、画面に表示された生体組織に対して、特徴点306を設定する(S403)。ここでは、左室の位置を示すために、左室弁輪部2点と左室心尖部1点を指定する例を説明する。尚、左室弁輪部2点は、装置が自動的に設定し、検者は、左室心尖部1点のみを指定するようにしても良い。
【0127】
次に、装置は、輪郭位置推定部3によって、輪郭位置の推定を行う(S404)。ここで、S402における入力情報によって、LVの容積と心筋重量を計測したいことがわかる。従って、必要となる輪郭は2本であり、かつ、左室内膜と外膜の位置に抽出する必要がある(図17の第1の輪郭307a、第2の輪郭307b参照)。従来であれば、輪郭ごとに特徴点を設定する必要がある。しかし、本実施例では、輪郭位置推定部3は、対象部位の輪郭が複数存在する場合、S403において設定された特徴点を用いて第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭を生成し、更に、第1の初期輪郭を用いて第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭を生成する。そこで、輪郭データベース11には、予め計測項目と必要となる輪郭の数を関連付け、特徴点の位置と輪郭の位置とを関連づけて記憶しておく。例えば、輪郭データベース11には、生体組織の種類及び計測項目と、輪郭位置を推定するための推定モデルとを対応付けて記憶する。また、例えば、記憶部9には、生体組織の種類及び計測項目と、輪郭位置を推定するための推定プログラムとを対応付けて記憶する。
【0128】
前述の通り、輪郭データベース11には、例えば、さまざまな計測項目や特徴点に対して、それらを計測するために必要な輪郭を抽出するための推定モデルが記憶される。推定モデルは、過去に別の画像で設定された輪郭であったり、それらを統計解析して一般化された輪郭モデルであったりする。ここでは、輪郭位置推定部3は、弁輪部2点心尖部1点を指定したときに左室内外膜輪郭を抽出するための推定モデルを特定する。図19の左図は第1の初期輪郭308a、第2の初期輪郭308bを超音波画像に重畳表示した画面例である。ただし、実際には表示しなくてもよい。例えば、この推定モデルは、内膜側に弁輪部2点心尖部1点を通る第1の輪郭モデルデータ、さらに内膜側から外膜側の一定間隔の位置に外膜に相当する第2の輪郭モデルデータを含むものである。ここで、輪郭モデルデータはさまざまな曲線を設定できるし、過去に計測された輪郭を基に輪郭モデルデータを定義してもよい。
【0129】
輪郭位置推定部3は、推定モデルに含まれる第1の輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを、設定された特徴点の位置に応じて調整することによって、第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭308aを生成する。更に、輪郭位置推定部3は、生成された第1の初期輪郭308aを用いて第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭308bを生成する。例えば、輪郭位置推定部3は、推定モデルに含まれる第2の輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを、第1の初期輪郭308aの各点と第2の初期輪郭308bの対応する各点とが所定の方向に(本実施例では、第2の初期輪郭308bが第1の初期輪郭308aの外側の方向に位置する。)一定距離を有するように調整することによって、第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭308bを生成する。
【0130】
別の方法として、輪郭データベース11を用いずに、記憶部9に記憶されている推定プログラムを用いてもよい。推定プログラムには、設定される計測項目や生体組織の位置に対応づけられた、輪郭の数学的な算出方法が予め記憶されており、これに従って輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成する。例えば、輪郭が多項式関数で表現できるならば、組織の位置や大きさから多項式関数の係数が決定できる。
【0131】
輪郭位置推定部3は、推定プログラムによって算出される第1の輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを、設定された特徴点の位置に応じて調整することによって、第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭308aを生成する。更に、輪郭位置推定部3は、生成された第1の初期輪郭308aを用いて第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭308bを生成する。例えば、輪郭位置推定部3は、推定プログラムによって算出される第2の輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを、第1の初期輪郭308aの各点と第2の初期輪郭308bの対応する各点とが所定の方向に(本実施例では、第2の初期輪郭308bが第1の初期輪郭308aの外側の方向に位置する。)一定距離を有するように調整することによって、第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭308bを生成する。
【0132】
次に、装置は、輪郭抽出部4によって、詳細に輪郭を抽出する(S405)。S404の輪郭位置の推定によって輪郭の大まかな位置が決定されたので、ここからさらに詳細に輪郭の位置を決定する。図19の左図の輪郭から処理を開始して図19の右図のように左室内外膜にフィットさせる。
【0133】
具体的には、輪郭抽出部4は、第1の初期輪郭308a上の輪郭点ごとに、輪郭点を跨ぎ、かつ、第1の初期輪郭308aと直交する方向の所定範囲に対して境界検出処理を行う。境界検出処理は、実施例1にて説明した通りである。そして、輪郭抽出部4は、「境界」と検出された位置に輪郭点を移動させる。ただし、例外として、第1の初期輪郭308aの特徴点については、境界検出処理を行わず、設定した位置を通るように制御される。
【0134】
すなわち、輪郭抽出部4は、特徴点及び「境界」と検出された位置に移動された後の輪郭点を通過するように輪郭を抽出する。
これによって、第1の輪郭(左室の内膜輪郭)307aを抽出することができる。
【0135】
次に、輪郭抽出部4は、第2の初期輪郭308b上の輪郭点ごとに、輪郭点を跨ぎ、かつ、第2の初期輪郭308bと直交する方向の所定範囲に対して境界検出処理を行う。境界検出処理は、実施例1にて説明した通りである。そして、輪郭抽出部4は、「境界」と検出された位置に輪郭点を移動させる。
【0136】
すなわち、輪郭抽出部4は、「境界」と検出された位置に移動された後の輪郭点を通過するように輪郭を抽出する。
【0137】
これによって、第2の輪郭(左室の外膜輪郭)307bを抽出することができる。
【0138】
次に、装置は、計測部5によって、抽出輪郭の座標情報を用いて計測項目の計測を行う(S406)。ここでは、左室容積と左室心筋重量を算出しており、例えば、前者であれば、Area-length法やModified Simpson法を適用でき、後者であれば、Area-length法やTruncated ellipsoid法を適用できる。また、外膜で囲まれる部分の容積から内膜で囲まれる部分の容積を差し引いて心筋の容積とし、これに比重を掛けることで心筋重量を算出するようにしてもよい。


【0139】
次に、装置は、出力・表示部1によって、超音波画像302、第1の輪郭307a及び第2の輪郭307b、並びに、計測値303を出力する(S407)。図17のように、第1の輪郭307a及び第2の輪郭307bは、超音波画像302に重畳して表示される。計測値303は、画面上にその項目と数値が表示される。
【0140】
図20を参照しながら、他の輪郭抽出例を示す。
【0141】
検者は、入力部2を利用して、画面に表示された生体組織に対して、計測項目を設定する(S402)。図20では、計測したい部位をLVとLAとし、計測項目をvolumeのみとしている。
【0142】
次に、検者は、入力部2を利用して、画面に表示された生体組織に対して、特徴点306を設定する(S403)。ここでは、特徴点306を弁輪部2点、心尖部1点、左房下部1点に設定している。
【0143】
装置は、例えば、輪郭位置推定部3によって、左室に対応付けられている第1の輪郭モデルデータを輪郭データベース11から読み出し、特徴点306(弁輪部2点、心尖部1点)に基づいて輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを調整することによって、第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭を生成する。また、装置は、輪郭位置推定部3によって、左房に対応付けられている第2の輪郭モデルデータを輪郭データベース11から読み出し、第2の輪郭モデルデータの中心位置、大きさ及び傾きを、第1の初期輪郭及び特徴点306(左房下部1点)に基づいて調整することによって、第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭を生成する(S404)。
【0144】
次に、装置は、輪郭抽出部4によって、詳細に輪郭抽出処理を行い、図20のように第1の輪郭309a、第2の輪郭309bを抽出する(S405)。
【0145】
以上、実施例7によれば、輪郭位置推定部3は、対象部位の輪郭が複数存在する場合、特徴点を用いて第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭を生成し、更に、第1の初期輪郭を用いて第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭を生成する。具体的には、装置は、生体組織の種類及び計測項目と、輪郭位置を推定するための推定モデル又は推定プログラムとを対応付けて記憶部9に記憶する。入力部2は、生体組織の種類及び計測項目を入力し、輪郭位置推定部3は、入力部2によって入力された生体組織の種類及び計測項目に基づいて推定モデル又は推定プログラムを特定し、特定された推定モデル又は推定プログラムに従った処理を実行することにより第1の輪郭位置を推定し、第1の初期輪郭を生成する。また、輪郭位置推定部3は、第1の初期輪郭に基づいて、特定された推定モデル又は推定プログラムに従った処理を実行することにより第2の輪郭位置を推定し、第2の初期輪郭を生成する。
【0146】
実施例7によれば、計測対象が複数の輪郭を必要とする場合、検者が最初に計測対象となる生体組織の種類及び計測項目を設定し、さらに、1つの輪郭に係る特徴点を指定することによって、計測部位に係る複数の輪郭を抽出することができる。従って、検者が特徴点を設定する手間が軽減され、検査時間の短縮に寄与できる。
【0147】
上述したように、本発明の医用画像診断装置又は医用画像の輪郭抽出処理方法の構成要素は、出力・表示部1が被検者の対象部位を含む医用画像を表示し、入力部2が前記対象部位の特徴点を入力し、初期輪郭生成部3が前記対象部位の輪郭位置を推定し、初期輪郭を生成し、輪郭抽出部4が前記特徴点及び前記初期輪郭を用いて前記対象部位の形状に沿った輪郭を抽出し、制御部6が前記抽出された輪郭と医用画像を合成した合成画像を出力・表示部1に表示するので、初期輪郭と特徴点を用いた対象部位の形状に沿った輪郭を抽出するから、対象部位が被検者の個体差が大きい運動臓器である場合に、輪郭抽出演算の都度に運動臓器の形状に沿った輪郭を抽出するため、被検者の対象部位の抽出の精度向上ができる。
【0148】
以上は、超音波診断装置における心臓の計測を例に説明したが、他の診断装置および生体組織に対しても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0149】
1 出力・表示部、2 入力部、3 初期輪郭生成部、4 輪郭抽出部、5 計測部、6 制御部
図1
図2
図3
図4
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図6
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