(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例】
【0013】
次に、本発明について実施例を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、種々の変形をしてもよい。
【0014】
本実施形態に係る液肥の製造方法は、焼却灰又は炭化物の少なくともいずれか一方と、土壌菌と、鶏糞とを含有する家きん糞尿発酵処理物を、水に漬けて浸漬体とする浸漬工程と、前記浸漬体を水温25〜35℃の嫌気性条件下にて3日間以上保持する発酵工程と、を有し、前記発酵工程を経た後の浸漬体の液体を液肥とする。
【0015】
家きん糞尿発酵処理物は、焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方と、土壌菌と、鶏糞とを含有する。
【0016】
焼却灰は、例えば、草木灰、石岩焼却灰、汚泥焼却灰、生ごみ焼却灰、廃材焼却灰、生成バイオマスボイラー灰、家畜糞の焼却灰、高炉スラグ、転炉スラグである。これらは、単独又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。焼却処理設備では、原材料に含まれる有機物は煤塵又は燃焼ガスとなり、煤塵は集塵捕集され、排ガスは排ガス処理された後に大気中に放出される。焼却灰としては、主として酸化された無機物(酸化物)が残る。焼却灰を構成する酸化物は、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化銅、酸化ナトリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化硫黄、酸化カリウム、五酸化リン、酸化マグネシウム、一酸化マンガンであり、通常、2種以上を組み合わせた構成からなる組成物である。集塵捕集された灰も焼却灰として扱われる場合がある。焼却灰について、もえがら、ダストなどの分類呼称もあるが、本発明では、焼却処理又は炭化処理された処理物の炭化物含有量が、絶乾処理物質量あたり10質量%未満の場合、これらすべての総称として焼却灰と記載するものである。
【0017】
炭化物は、例えば、木炭、竹炭、籾殻炭、炭化灰、廃材炭化物、割り箸炭化物、生ゴミ炭化物、石炭、亜炭、泥炭、ピートモス泥炭、活性炭、製紙スラッジ炭化物、ヤシガラ活性炭である。これらは、単独又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。もえがら、ダストなどの分類呼称もあることは前述のとおりである。本発明では、炭化物含有量が10質量%以上の場合、これらすべての総称として炭化物と記載するものであり、炭化物の原材料により制限を受けるものではない。炭化物は、塊状であれば、粉砕して粒状又は粉末にすることが好ましいが、本発明は、粉砕後の炭化物の形状などによる制限を受けない。
【0018】
焼却灰は、焼却によって過酸化されることによって、活性酸素を有し、選択的に微生物を殺菌する能力を持つと考えられている。選択的に微生物を殺菌する能力とは、グラム陰性菌を殺菌するが、グラム陽性菌には影響がないということである。すなわち、有害微生物は、グラム陰性であることが多いことから、有害微生物を除去する効果があると考えられる。さらに、活性酸素は、植物細胞の病害抵抗性、抗酸化物質の生成を高める効果があると考えられている。炭化物は、多孔性を有しており、微生物の生息場所として好適である。また、焼却灰及び炭化物は、還元剤としての役割をもち、有益微生物による発酵処理に適した環境を作ることができる。家きん糞尿配合処理物は、焼却灰又は炭化物のうち、焼却灰だけを含有するか、炭化物だけを含有するか、又は焼却灰及び炭化物の両方を含有してもよい。
【0019】
焼却灰又は炭化物の製造設備として、流動床燃焼炉、キルン型焼却炉又は炭化炉、ストーカー炉を例示できる。ただし、本発明はこれらの機器及び設備により制限されるものではない。なお、排出される焼却灰又は製造される炭化物の形状、水分などは、当然それぞれの機器・設備により左右されるものであるが、本発明では、これら形状、水分などによる制限はないものである。
【0020】
土壌菌は、土壌微生物とも呼ばれ、地中に生息している微生物群であり、例えば、細菌、放線菌、糸状菌、藻類、原生動物、線虫である。これらの土壌菌の多くは、有機物を分解して、無機物に変換し、自然界における物質循環に重要な役割を果たしている。本実施形態では、特に、土壌菌として、人、動物、作物又は自然環境に対して無害で、有害微生物を不活性化し、有益な働きをする微生物を使用する。本実施形態では、土壌菌として、グラム染色性が陽性のものを使用することが好ましい。本実施形態では、土壌菌として、1種の菌体だけを用いるか、又は2種以上の菌体(以降、混合菌ということもある。)を用いるかを問わないが、発酵処理は、各段階に応じて複雑な過程を経るため、最適増殖条件の異なる2種以上の菌体を含有する混合菌を用いることがより好ましい。混合菌を用いる場合には、好気性菌と嫌気性菌との混合菌とすることがより好ましい。
【0021】
本実施形態に係る液肥の製造方法では、土壌菌は、バチルス属菌と、乳酸菌と、酵母との混合菌であることが好ましい。家きん糞尿発酵処理物は、アルカリ性であるが、これらの微生物は、広いpH域の生育可能分布を有するため、家きん糞尿発酵処理物に担持させることができる。さらに、これらの土壌菌は、人、家畜及び家きんに対する病原性などの有害性情報を持たず、高い温度領域(例えば、50℃以上)で増殖可能である。また、発酵、醸造などの食品加工用として従来広く扱われており、豊富な利用情報を容易に得ることができる点で好ましい。
【0022】
バチルス属菌としては、例えば、バチルス サブチリス(Bacillus subtillis)、バチルス コーアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス サークランス(Bacillus circulans)、バチルス ステアロサーモフイラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)、パニエバチルス(Paenibacillus)、ゲオバチルス サーモレオボランス(Geobacillus thermoleovorans)である。これらは、1種又は2種以上を選択して用いることができる。この中で、特にバチルス サブチルス(Bacillus subtilis)は、枯草菌又は納豆菌とも呼ばれ、納豆製造用としても広く使用され、該菌体の入手は容易であり、アンモニアを窒素源とすることからも家きん糞尿発酵処理用菌体として好ましい。さらには、蓄積された醸造技術を利用できることからも、その使用は有効である。バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)も同様にアンモニアを窒素源とすることから、好適に使用することができる。また、バチルス サブチリス(Bacillus subtillis)を単独で、又はバチルス サブチリス(Bacillus subtillis)と他のバチルス属菌とを組み合わせて使用することがより好ましい。
【0023】
乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)である。本発明は、乳酸菌の種類に制限されないが、ラクトバチルス ラームノサス(Lactobacillus rhamnosus)、リューコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)を含有することが好ましい。
【0024】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、トルロプシス属(Torulopsis)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、フェロマイセス属(Fellomyces)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)である。本発明は、酵母の種類に制限されないが、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピチア メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)を含有することが好ましい。
【0025】
家きん糞尿処理物に含有させる土壌菌は、前記した微生物の他に、更に、麹菌、放線菌など各種有益微生物を含有することができる。
【0026】
本実施形態では、家きん糞尿発酵処理物は、更に光合成細菌を含有することが好ましい。光合成細菌は、嫌気条件下で光エネルギーを利用して、酸素を発生しない光合成を行う細菌の総称である。光合成細菌としては、例えば、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌である。この中で、紅色硫黄細菌又は紅色非硫黄細菌がより好ましく、好気条件、かつ、暗条件でも生育可能で、作物にとって有害な有機酸を取り込んで光合成を行うことができる点で、紅色非硫黄細菌が特に好ましい。紅色非硫黄細菌としては、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)であることがより好ましく、ロドシュードモナス パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)であることが特に好ましい。
【0027】
土壌菌は、家きん糞尿発酵処理物中に、乾燥グラム質量あたり10
3個以上担持されていることが好ましい。より好ましくは、10
5個以上である。また、家きん糞尿発酵処理物が光合成細菌を含有する場合には、土壌菌と光合成細菌との合計担持量が、家きん糞尿発酵処理物の乾燥グラム質量あたり、10
3個以上であることが好ましく、10
5個以上であることがより好ましい。土壌菌と光合成細菌との担持量の割合は、特に限定されないが、(土壌菌/光合成細菌)が45/55〜55/45であることが好ましく、50/50〜52/48であることがより好ましい。
【0028】
なお、本実施形態では、微生物は、土壌から分離・培養したものを用いるか、又は市販品を用いることができる。市販のバチルス属菌体群としては、工業技術院生命工学研究所 FERM P‐17807によって寄託された染谷社製の「駿河菌」を使用することができる。駿河菌は、バチルス コーアグランス(Bacillus Coagulans)とバチルス サークランス(Bacillus Circulans)との混合菌体である。市販の土壌菌としては、染谷社製の「駿河菌No.500」を使用することができる。駿河菌No.500は、バチルス属菌、乳酸菌及び酵母を含有する混合菌体である。また、乳酸菌群、酵母群及び光合成細菌群などの有用微生物群(Effective Microorganisms:EM)であるEM研究所社製の「EM菌」を使用することができる。EM菌は、光合成細菌として、ロドシュードモナス パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)ATCC17001を含有するが、本実施形態では、光合成細菌だけを分離して使用するか、又はEM菌を土壌菌及び光合成細菌の混合菌として使用してもよい。
【0029】
土壌菌として、前記混合菌を用いることで、有機物の分解(発酵)処理をより効率的に行うことができる。その発酵処理機構は、次のように推測している。発酵初期段階では、好気性菌であるバチルス属菌が、被発酵処理物の有機物(例えば、炭水化物、タンパク質、脂肪)の分解を促進させる。バチルス属菌が活発に増殖すると、被発酵処理物の温度が、高温(50〜80℃)になり、有害微生物が死滅する。バチルス属菌は、分解反応で酸素を盛んに消費するため、周囲が次第に酸素不足となる。すると、耐熱性、かつ、嫌気性である乳酸菌が活発に増殖する。バチルス属菌は、タンパク質を分解してアミノ酸を生成し、発酵が更に進行すると、アミノ酸を分解してアンモニアを生成するおそれがあるところ、乳酸菌が乳酸及び有機酸を分泌してpHを低下させることで、バチルス属菌を不活性化させることができる。さらに、乳酸菌は、同時に、抗菌物質を分泌して、有害微生物の生育を阻害する。次いで、酵母が、低分子化した有機物からアミノ酸、糖、ビタミン、核酸、ミネラル、脂肪酸などの各種有用成分を合成する。このように、土壌菌として混合菌を用いる発酵処理は、バチルス属菌による分解段階と、乳酸菌による分解及び制菌段階と、酵母による合成段階とを経るため、動物又は植物にとって、無害であり、かつ、有用成分を豊富に含有する。
【0030】
光合成細菌は、通常、嫌気条件下で好適に増殖するが、土壌菌とが共存している状態では、大量の粘質物を出すことで周囲の酸化還元電位を低下させて嫌気的な条件を作って増殖し、更に、土壌菌が産生するピルビン酸などの有機酸を栄養として活性して好気条件下でも高い窒素固定能力を示すと考えられる。一方、土壌菌は、光合成細菌が分泌した菌体外ATP(Adenosine Triphosphate:アデノシン三リン酸)を取り入れることで共生関係が成り立っていると考えられる。光合成細菌が栄養とする有機酸は、稲などの生育を阻害する有害物質であるため、光合成細菌を使用することで、稲などの生育を促進させることができる。
【0031】
鶏糞は、例えば、採卵用(レイヤー)鶏糞、ブロイラー鶏糞である。本実施形態では、鶏糞として、発酵鶏糞と未発酵鶏糞とを包含する。
【0032】
採卵用鶏糞は多量の水分を含み、養鶏施設によっては多量の洗浄水と同時に排出されて、汚泥として排出される場合がある。この場合、焼却灰又は炭化物に臭気成分を吸着させて、吸着した臭気成分をその後、土壌菌によって発酵処理を行う方法を採用することができる。このように土壌菌によって臭気発生が抑制されて、その後の継続的臭気逸散を防ぐことができる。この用途目的については、使用する菌体を、使用する焼却灰又は炭化物のうち少なくとも一方に、事前に担持させる方法を採用することにより、現地作業を軽減することができる。
【0033】
ブロイラー鶏糞は、土の上での飼育のため、飼育舎表土を含む。この場合、土壌又は加熱乾燥土壌は、微生物の担持体として使用することができる。また、土壌菌として、鶏用生菌剤として与えられているバチルス属菌を使用することができる。
【0034】
家きん糞尿発酵処理物は、特許文献1に記載の処理方法を参考にして得ることができる。すなわち、家きん糞尿発酵処理物は、焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方に土壌菌を接種して、該土壌菌を接種した焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方と家きん糞尿排泄後の臭気発生が少ない該家きん糞尿とを水分含量が55〜80質量%となるように混合及び水分調製して配合物とした後、又は、焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方と家きん糞尿排泄後の臭気発生が少ない該家きん糞尿とを水分含量が55〜80質量%となるように混合及び水分調製した配合物に、土壌菌を接種して混合した後、該配合物を好気発酵条件で発酵させて、前記配合物の水分含量を40質量%以下にすることで得ることができる。
【0035】
家きん糞尿排泄後の臭気発生が少ない該家きん糞尿を用いることが、最終的に無臭の家きん糞尿発酵処理物を得るために重要である。家きん糞尿は、排泄後は黄色であるが、日数の経過によって、黄色から茶色、その後、茶色が暗色化し、更に堆積放置すると緑色液状化する。臭気発生が少ない家きん糞尿は、排泄後からの経過日数が少ない黄色の段階での家きん糞尿をいう。排泄後からの経過時間は、気温によって異なるが、夏場で気温が高いときは、3日間以内、冬場で気温が低いときは、7日間以内である。
【0036】
発酵前に家きん糞尿の水分含量を55〜80質量%に調節するのは、配合物を土壌菌によって発酵させるための条件である。ここで、土壌菌として、前記混合菌を用いると、水分含量を前記所定の範囲に調節することで、通気性が確保されて、発酵初期段階において、好気性菌であるバチルス属菌が有機物を分解することができる。そして、前述した発酵処理機構のとおり、続く乳酸菌による分解及び制菌段階及び酵母による合成段階を経て、家きん糞尿発酵処理物は、臭気が少なく、かつ、有用成分を豊富に含む肥料又は堆肥製造用の副資材として適したものとなる。さらに、家きん糞尿の温度が、発酵初期段階において高温(50〜80℃)になるため、家きん糞尿に多く含まれる大腸菌などの有害微生物を死滅させ、植物の種子を不活性化することができる。また、発酵終了後の家きん糞尿発酵処理物の水分含量を40質量%以下に調節するのは、家きん糞尿発酵処理物のその後の利用を考えてのことである。
【0037】
土壌菌の接種方法は、例えば、液体培養接種、固体培養接種である。なお、本発明は、使用する微生物の培養方法及び接種方法に制限されるものではない。特に好ましい接種方法としては、焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方に事前に土壌菌を接種して担持させ、発酵処理に供する方法である。
【0038】
焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方を水分調節材料として使用することによって、速やかな好気条件を形成することができる。焼却灰又は炭化物は、既に高温加熱処理を経ており、この状態で速やかな菌体接種を行うことによって、安価安定に供給することができるのみならず、養鶏場現地での作業軽減を実現することができる。
【0039】
家きん糞尿の急激な発酵は、急激な臭気発生に結びついている点に着目すると、初期の発酵段階においては、無機質添加による発酵抑制及び臭気成分の吸着効果が臭気発生抑制には効果的である。このように、焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方を使用した場合、発酵抑制に伴う発酵処理時間の延長と臭気成分吸着に伴う発酵処理必要成分の増加とが引き起こされる結果となる。したがって、土壌菌の接種については、均一に高濃度レベルで接種されることが好ましく、焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方に事前に発酵処理用菌体を担持させた該材料を使用することによって、この目的を達成することができる。
【0040】
焼却灰又は炭化物のうち少なくともいずれか一方に事前に土壌菌を担持させるに際し、土壌菌は乾燥に比較的弱く、保護材料を必要とする。保護材料としては、例えば、グルコース又はアミノ酸を使用することができる。家きん糞尿に含まれる水分によって、芽胞菌体の発芽及び保護材料による増殖を可能とする。このことは、速やかな増殖を可能とし、初期の高い温度維持を補足的に可能とするものである。
【0041】
特許文献1に記載の家きん糞尿の発酵処理方法によって、従来臭気として放散していた窒素成分又は臭気成分を家きん糞尿発酵処理物として捕捉することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る液肥の製造方法の各工程について説明する。
【0043】
浸漬工程は、前記家きん糞尿発酵処理物を水に漬けて浸漬体とする。水は、菌選択殺菌イオン水以外であれば、特に限定されないが、例えば、水道水、使用済みの風呂水、農業用水である。なお、水道水は、残留塩素を除去するために、取水後24時間以上放置したものを用いることが好ましい。使用済みの風呂水は、有機物を多く含むため微生物の増殖を促進できる点で、より好ましい。浸漬工程において、浸漬体を静置して微生物及び各種有用成分を自然に水中に移動させるか、又は攪拌して強制的に微生物及び各種有用成分を水中に移動させてもよい。
【0044】
家きん糞尿発酵処理物の浸漬量は、特に限定されないが、水1kgに対して、乾燥質量で0.01〜1kgであることが好ましい。より好ましくは、0.05〜0.5kgである。
【0045】
具体的には、水道水20リットルをポリプロピレン製の容器に取水後24時間放置したところへ、焼却灰と、炭化物と、バチルス属菌、乳酸菌、酵母及び光合成細菌で処理した鶏糞と、を含有する家きん糞尿処理物(バイオ25、染谷社製)1kg(乾燥質量)をナイロンストッキングに入れた状態で浸漬させて、実施例1の浸漬工程とした。浸漬工程では、家きん糞尿発酵処理物に含まれる微生物及びアミノ酸、糖、ビタミン、核酸、ミネラル、脂肪酸などの各種有用成分が水中へ移動する。
【0046】
発酵工程は、浸漬工程において、浸漬体の水中に移動した微生物を増殖させる工程である。水温は、微生物の増殖に適した温度であることが好ましく、25〜35℃である。より好ましくは、30〜34℃である。該温度範囲にするために、加温手段を用いることができる。加温手段は、電熱コイルヒータ、セラミックヒータなど公知のものを利用できる。
【0047】
発酵工程は、光合成細菌の増殖を目的として、光が当たる明条件下で行うことが好ましい。光は、日光であることがより好ましい。
【0048】
発酵工程は、嫌気性条件下にて行う。嫌気条件下とすることで、乳酸菌、酵母、光合成細菌などの嫌気性菌を増殖させることができる。なお、乳酸菌及び酵母が増殖すると、浸漬体のpHが低下するが、光合成細菌を含有する場合には、浸漬体は、水酸化カルシウム(消石灰)などのアルカリ成分を添加して、pHを6〜7に調整することが好ましい。ここで、嫌気性条件下とは、酸素を遮断する状態を意味するが、通性嫌気性微生物が増殖できる範囲において、若干の酸素の混入は許容される。例えば、浸漬体をポリプロピレン製の容器に入れ、液面をポリエチレンシートなどのプラスチックシートで覆う程度の遮断でよい。また、嫌気性条件は、土を被せることで形成してもよい。
【0049】
発酵工程の期間は、水温によって異なるが、3日間以上である。より好ましくは、5日間以上、特に好ましくは、10日間以上である。なお、期間は、突然変位株の発生を予防する点で、15日間を上限とすることが好ましい。
【0050】
発酵工程を経た後の浸漬体は、必要に応じて、更に固液分離工程を経て、溶液と浮遊物又は沈降物(残材)とを分離し、溶液を液肥として用いるか、又は固液分離工程を経ずに、残材を含む混合液を液肥として用いてもよい。固液分離工程において溶液を得る方法は、特に限定されず、例えば、浸漬体をろ過する方法、上澄み液を利用する方法、浸漬工程において、予め、適当な網袋に入れた家きん糞尿発酵処理物を水に浸漬させて、浸漬体中に微生物及び成分だけが移動して、固形物が混ざらないようにする方法である。
【0051】
実施例1の浸漬工程で得た浸漬体において、ポリエチレン製のシートを容器の上面全体に被せて、シートが液面に接触する状態で固定した。なお、シートの一部に穴を開けて、温水ヒータを取り付け、液温を30℃になるように設定した。日光が当たる条件で、5日間、液温30℃で保持し、実施例1の発酵工程とした。発酵工程を経た浸漬体の液体を採取し、実施例1の液肥を得た。一方、比較例1として、実施例1の浸漬工程において、水道水に替えて菌選択殺菌イオン水を用いて、実施例1と同様に液肥を作製し、比較例1の液肥を得た。実施例1の液肥は、不快な臭気がなく、虻及び蜂が集まっていたのに対し、比較例1の液肥は、腐敗臭がし、蝿がたかり蛆が湧いていた。
【0052】
本実施形態に係る液肥の製造方法は、嫌気処理槽、曝気装置など特別な装置又は設備を用いずに行うことができるため、圃場、農場などの現地での作業が可能であり、作業者の負担を軽減することができる。また、得られる液肥は、不快な臭気がなく、栄養分が豊富であることが確認できた。
【0053】
液肥は、焼却灰又は炭化物由来の成分、家きん糞尿発酵処理物由来の土壌菌、該土壌菌が有機物を分解したことよって生成されたアミノ酸などの窒素成分、糖などの炭素成分、有機酸及びその他有用成分を含有する。また、光合成細菌を用いた場合には、液肥は、更に、光合成細菌を含有する。焼却灰を用いた場合には、液肥は、更に、酸化物又はそのイオンを含有する。
【0054】
次に、液肥の用途例について説明する。液肥の用途の一例としては、堆肥化の副資材としての利用である。本実施形態に係る堆肥の製造方法は、本実施形態に係る液肥の製造方法で得られた液肥を、牛糞又は豚糞に付着させて、嫌気性条件下にて発酵させる発酵工程を有する。嫌気条件下で発酵させると、通常、牛糞又は豚糞に含まれる有害微生物が、悪臭を発生して、使用用途が限られるところ、本実施形態に係る堆肥の製造方法では、液肥に含まれる焼却灰及び炭化物由来の成分が、アルカリ性を示すため、発酵初期段階における酸敗臭の発生を抑制することができ、更に液肥に含まれる土壌菌が、有害微生物を不活性化させて牛糞又は豚糞に含まれる微生物分布を良好にする。よって、嫌気条件下でも悪臭を発生させることなく、圃場での作物の育成に適した堆肥を得ることができる。また、土壌菌として、前記の混合菌を含有する液肥を用いると、発酵初期段階において、バチルス属菌の増殖による発酵温度の上昇によって牛糞又は豚糞中の有害微生物を不活性化させ、乳酸菌が分泌する酸及び抗生物質によって有害微生物を死滅させ、牛糞又は豚糞に含まれる微生物分布をより良好にすることができる。さらに、前記混合菌を含有する液肥は、栄養分を豊富に含むため、微生物が活性化して、発酵を促進し、短期間での堆肥化を実現できる。なお、本実施形態に係る堆肥の製造方法は、嫌気条件下で行われるため、切り返しが不要であり、現地作業の軽減を図ることができる。嫌気条件を実現する方法としては、例えば、牛糞又は豚糞をポリエチレンシートで覆って嫌気条件とする方法、牛糞又は豚糞を圃場に堆積し、その上に土を被せて嫌気条件とする方法、牛糞又は豚糞を圃場に積み上げて堆積し、堆積した内部を実質的に嫌気条件とする方法である。なお、嫌気条件とは、前記発酵工程と同様に、若干の酸素の混入は許容される。液肥を堆肥化に使用する場合、液肥は30〜150倍に希釈して牛糞又は豚糞に散布することが好ましい。より好ましくは、50〜100倍に希釈して使用する。
【0055】
実施例2‐1として、牛糞の堆肥化を行った。すなわち、堆肥場に牛糞1000kgを堆積し、そこに実施例1で得た液肥を50倍希釈したものを100リットルかけ、その上にプラスチックシートを被せて嫌気条件とした。堆積後14日間経過後、中央部の温度は、60℃に達し、3週間経過後、最高温度の80℃に達した。その後、切り返しをすることなく放置すると、次第に温度は低下し、4週間後、無臭の牛糞堆肥が得られた。
【0056】
実施例2‐2として、豚糞の堆肥化を行った。すなわち、堆肥場に豚糞1000kgを堆積し、そこに実施例1で得た液肥を50倍希釈したものを100リットルかけ、その上にプラスチックシートを被せて嫌気条件とした。堆積後14日間経過後、中央部の温度は、60℃に達し、3週間経過後、最高温度の80℃に達した。その後、切り返しをすることなく放置すると、次第に温度は低下し、4週間後、無臭の豚糞堆肥が得られた。
【0057】
比較例2として、実施例2‐1において、牛糞に液肥をかけなかった以外は、実施例2‐1と同様に堆肥化を行った。すると、堆積後14日間経過後、中央部の温度は、20℃にまでしかならず、3週間経過後、最高温度は30℃までも達しなかった。その後、切り返しをすることなく放置すると、次第に温度は低下し、4週間後、牛糞堆肥が得られず、不快な臭気が発生していた。
【0058】
本実施形態に係る堆肥の製造方法は、短期間での堆肥化が可能であり、堆肥化における悪臭の発生が抑制でき、無臭の堆肥を得られることが確認できた。さらに、切り返しが不要で、作業の負担を軽減できた。
【0059】
液肥の別の用途としては、土壌改良材としての利用である。本実施形態に係る不耕起栽培方法は、本実施形態に係る液肥の製造方法で得られた液肥を、土壌に散布し、耕起せずに栽培を行う。液肥を土壌に散布すると、液肥に含まれる土壌菌が土壌粒子に付着し、土壌粒子を団粒化する。団粒化が起こると、土壌に適度な空隙が生じ、排水性、保水性及び通気性が高まり、作物の生育に適した土壌となる。通気性が良好な土壌では、作物の根が、細分化されて、生育が促進される。液肥は、酸化物を含有することで、更に団粒化を促進することができる点で、好ましい。酸化物を含有することで、酸化物から遊離した陽イオンが、土壌粒子に付着し、これに微生物菌体、微生物の分泌物又は腐植物質が付着して、粒子同士が密着して2次粒子化することで、団粒化が更に促進される。なお、焼却灰は、前記のとおり酸化物で構成されるため、本実施形態では、家きん糞尿発酵処理物に焼却灰を含有させることで、酸化物を液肥に含有させることができる。このようにして、液肥を土壌に散布することで、土壌を耕起せずに作物の栽培に適した状態にすることができ、不耕起栽培が可能となる。
【0060】
土壌は、例えば、圃場、鉢土である。圃場における不耕起栽培は、トラクタなどによる耕起が不要となり、省力化ができる。鉢土では、植え替え作業の回数を少なくすることができる。また、鉢の材質に関わらず、根が酸素を求めて鉢の底部で旋回するように伸びて根詰まりを起こす、所謂サークリング現象(ルーピング現象)を防止することができる。また、液肥は、良質な肥料であるため、本実施形態に係る不耕起栽培方法では、別途化学肥料などの肥料の散布が不要となる。土壌が圃場である場合、液肥は30〜150倍に希釈して散布することが好ましい。より好ましくは、50〜100倍に希釈して使用する。また、土壌が鉢土である場合、液肥は500〜2000倍に希釈して散布することが好ましい。より好ましくは、800〜1000倍に希釈して使用する。
【0061】
実施例3として、圃場における不耕起栽培を行った。すなわち、圃場に実施例1で得た液肥を50倍希釈したものを0.1ha(1反)あたり500リットルをかけ、耕起することなく1週間放置した。一方、比較例3として、実施例3において、圃場に液肥をかけずに耕起することなく放置した。実施例3の圃場の土壌と、比較例3の圃場の土壌とを比較したところ、実施例3の圃場の土壌は、団粒構造が形成されていたのに対し、比較例3の圃場の土壌は、単粒構造のままであった。
【0062】
実施例4として、種まき30日後のパンジーの苗をポリエチレン製のポリポット(型番9cm型、日本ポリ鉢販売社製)に用土を入れて鉢上げし、そこに、実施例1で得た液肥を900倍に希釈したものを4,5日おきに5mlずつかけた。比較例4として、液肥をかけない以外は実施例4と同様にした。1ヵ月後、ポリポットから出して根の状態を確認したところ、実施例4は根が細分化していたのに対し、比較例4はサークリング現象(根鉢現象)が発生していた。また、実施例4のパンジーは、比較例4のパンジーよりも、葉及び花の状態が良好であった。
【0063】
液肥は、肥料として次のように作用する。液肥に含まれる焼却灰及び炭化物由来の成分が、土壌をアルカリ性、かつ、還元状態にして、有害微生物を死滅させて、土壌中の微生物分布を良好にする。また、液肥に含まれる土壌菌は、土壌中の有機物の分解を促進して、低分子化してアミノ酸、糖などの作物の生育に利用可能な状態とする。また、土壌菌として、前記混合菌を用いた場合には、前述の発酵処理機構と同様に、発酵の各段階において微生物が適正に働くことで、有害微生物の発生を阻害し、かつ、有用成分を生成して、作物の生育を促進することができる。さらに、酵母は、前述のとおり、有用成分を合成して菌体内に蓄えているため、その菌体は、放線菌など他の有益菌の優良な栄養分となり、肥沃な土壌を形成することができる。
【0064】
液肥が光合成細菌を含有する場合には、更に次のような効果を奏する。水田形式の圃場においては、光合成細菌は根から吸収され、作物の葉面において、光合成細菌の菌体内に蓄積したアミノ酸、核酸、タンパク質などを作物に利用させて光合成を補助する。よって、天候不良などで日照時間が短く、作物が光合成を十分に行えない場合でも、作物を良好に生育させることができる。なお、液肥を作物の葉面に散布しても同様の効果を得ることができる。また、光合成細菌は、通常、嫌気条件下で窒素固定能力が高くなるが、土壌菌と共生することで、活性が高まり、好気条件下でも高い窒素固定を示し、土壌を肥沃にすることができる。陸田形式の圃場(畑)では、光合成細菌は生育することができないが、光合成細菌は、菌体内にアミノ酸、核酸、タンパク質などを蓄えているため、光合成細菌を栄養として、放線菌が増殖する。放線菌は、野菜などの病原菌であるフザリウムと拮抗関係にある有益微生物である。また、光合成細菌としての紅色硫黄細菌又は紅色非硫黄細菌は、カロチン色素を含有するため、作物に吸収されると、果実の色付きを良くしたり、つやを与えたりすることができる。
【0065】
液肥が酸化物を含有する場合には、更に次のような効果を奏する。土壌が酸性であると、カリウム又はリンが、土壌中のアルミニウム、鉄などと結合(固定化)して難溶性となり、肥料としての機能を果たさなくなるところ、酸化物を土壌に混合することで、その還元作用によって、カリウム又はリンの固定化を抑制することができる。また、前述のとおり、酸化物によって、土壌の団粒化が促進されると、余剰肥料が土壌の深層部に移動して、連作障害を抑制することができる。さらに、酸化物が、二酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンである場合には、余剰肥料を吸着して、連作障害を解消することができる。酸化物が二酸化ケイ素である場合には、二酸化ケイ素が肥料成分、ミネラル成分などを吸着して、ビヒクル効果によって、作物への吸収を促進する効果を奏する。また、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、二酸化チタン及び酸化亜鉛は、土壌中で安定した状態で存在し、作物に吸収されて、ミネラル成分として働く。
【0066】
液肥を肥料として使用する方法は、特に限定されないが、例えば、圃場に灌水する方法、圃場に散布する方法、葉面に散布する方法である。また、液肥は、動物に対して無害であり、栄養分を豊富に含むため、家畜、家きん又は魚などの動物の飼料として利用することができる。特に、光合成細菌を含有する液肥は、タンパク質が豊富で、アミノ酸組成のバランスに優れることから、飼料としてより適している。また、液肥のその他の用途としては、例えば、畜舎の臭気防止、作付け前の圃場の土壌改良、汚水処理である。なお、液肥は、用途に応じて、適宜希釈して用いることが好ましい。