【文献】
Exp. Opin. Ther. Patents,1997年,Vol.7, No.2,P.179-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基が、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選択され、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基が、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、およびバリン(V)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項4記載の二重特異性抗体。
両方のCH3ドメインが、該CH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの位置にシステイン(C)残基を導入することによってさらに改変されることを特徴とする、請求項5記載の二重特異性抗体。
第1の抗原に対する二重特異性抗体の結合親和性が、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて10分の1以下に低減されていることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明の1つの局面は、
a)VH
1ドメインおよびVL
1ドメインを含み、第1の抗原に結合する第1の抗体、ならびに
b)第2の抗原に結合する第2の抗体
を含み、
VH
1ドメインが、N末端において第1のペプチドリンカーを介して第2の抗体に融合されており、VL
1ドメインが、N末端において第2のペプチドリンカーを介して第2の抗体に融合されている、二重特異性抗体において、
リンカーのうちの一方は腫瘍または炎症に特異的なプロテアーゼの切断部位を含み、他方のリンカーはプロテアーゼ切断部位を含まないこと;および
第1の抗原に対する二重特異性抗体(プロテアーゼ切断部位が切断されていない)の結合親和性が、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて5分の1またはそれ以下に低減されていることを特徴とする、
二重特異性抗体である。
【0032】
本発明による二重特異性抗体は、プロテアーゼ切断部位が切断された後に二重特異性(すなわち、第1の抗原および第2の抗原に結合する能力)を保持していることを特徴とする。
【0033】
「抗体」という用語は、本発明による特徴的な特性が保持される限り、限定されるわけではないが、全長抗体、抗体断片、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびさらに遺伝的に操作された抗体を含む様々な形態の抗体を包含する。「抗体断片」は、全長抗体の一部分、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位を含む。抗体断片の例には、Fv断片、Fab断片、ダイアボディ、および単鎖抗体分子が含まれる。さらに、抗体断片は、V
Hドメインの特徴を有する、すなわち、V
Lドメインと組み合わさって機能的な抗原結合部位を形成することができるか、またはV
Lドメインの特徴を有する、すなわち、V
Hドメインと組み合わさって、機能的な抗原結合部位を形成することができ、それによって該特性を提供するポリペプチドを含む。
【0034】
「全長抗体」という用語は、2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる抗体を意味する。全長抗体の重鎖は、N末端からC末端に向かって、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)(VH-CH1-HR-CH2-CH3と略される);ならびに任意で、サブクラスIgEの抗体の場合、抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)からなるポリペプチドである。好ましくは、全長抗体の重鎖は、N末端からC末端に向かって、VH、CH1、HR、CH2、およびCH3からなるポリペプチドである。全長抗体の軽鎖は、N末端からC末端に向かって、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)(VL-CLと略される)からなるポリペプチドである。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)は、κ(カッパ)またはλ(ラムダ)であり得る。全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインの間(すなわち、軽鎖と重鎖の間)および全長抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介して相互に連結されている。典型的な全長抗体の例は、IgG(例えばIgG1およびIgG2)、IgM、IgA、IgD、ならびにIgEのような天然抗体である。本発明による全長抗体は、単一の種、例えばヒトに由来してよく、またはそれらはキメラ抗体もしくはヒト化抗体でもよい。本発明による全長抗体は、VHおよびVLのペアによってそれぞれ形成される2つの抗原結合部位を含み、これらの部位は両方とも同じ抗原に特異的に結合する。該全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端とは、該重鎖または軽鎖のC末端に位置する最後のアミノ酸を示す。
【0035】
本明細書において使用される「鎖」という用語は、ポリペプチド鎖(例えば、VHドメイン、VLドメイン、抗体重鎖、抗体軽鎖、CH1-VH 断片など)を意味する。
【0036】
本明細書において使用される「可変ドメイン」(軽鎖(VL)の可変ドメイン、重鎖(VH)の可変ドメイン)とは、抗原への抗体の結合に直接関与する、軽鎖および重鎖のペアのそれぞれを意味する。可変ヒト軽鎖および可変ヒト重鎖のドメインは同じ一般構造を有し、各ドメインは、配列が広範囲に渡って保存され3つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)によって連結された4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβシート構造を採用し、CDRはβシート構造を連結するループを形成し得る。各鎖のCDRは、フレームワーク領域によって三次元構造の状態で維持され、他の鎖のCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖CDR3領域および軽鎖CDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、したがって、本発明のさらに別の目的を提供する。例えば、VH
1ドメインという用語は、第1の(1)抗原に結合する第1の抗体の抗体重鎖可変ドメイン(VH)を意味し、VL
1ドメインという用語は、該第1の抗原に結合する該第1の抗体の対応する抗体軽鎖可変ドメイン(VL)を意味する。
【0037】
「超可変領域(HVR)」または「抗体の抗原結合部分もしくは抗原結合部位」という用語は、本明細書において使用される場合、抗原結合を担っている、抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」領域または「FR」領域とは、本明細書において定義する超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖は、N末端からC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各鎖のCDRは、このようなフレームワークアミノ酸によって隔てられている。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域である。CDR領域およびFR領域は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)の標準的な定義に従って決定される。
【0038】
本明細書において使用される場合、「結合(binding)」または「結合する」という用語は、インビトロアッセイ法における、好ましくは、精製した野生型抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ法(BIAcore, GE-Healthcare Uppsala, Sweden)における、抗原のエピトープへの抗体の結合を意味する。結合親和性は、K
D(=k
D/ka)値に基づいて定義される。kaは、抗体/抗原複合体における抗体の結合速度定数であり、k
Dは解離定数である。
【0039】
抗体特異性とは、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を意味する。例えば、天然の抗体は単一特異性である。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。抗体が複数の特異性を有する場合、認識されるエピトープは、単一の抗原と、または複数の抗原と関連していてよい。
【0040】
本明細書において使用される「単一特異性」抗体という用語は、1つまたは複数の結合部位を有し、各結合部位が同じ抗原の同じエピトープに結合する抗体を意味する。
【0041】
本出願内で使用される「価」という用語は、抗体分子中に特定の数の結合部位が存在することを示す。例えば、天然抗体または本発明による全長抗体は、2つの結合部位を有し、二価である。したがって、「三価の」という用語は、抗体分子中に3つの結合部位が存在することを示す。
【0042】
「単離された」抗体とは、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって測定した場合に95%または99%を超える純度まで精製される。抗体純度を評価するための方法に関する概要については、例えばFlatman, S., et al., J.Chromatogr. B 848(2007)79-87を参照されたい。
【0043】
「単離された」核酸とは、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸には、その核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子が含まれるが、その核酸分子は、染色体外に存在するか、または天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0044】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団を構成する個々の抗体は、存在し得る変種抗体を除いて、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。このような変種抗体は、例えば天然に存在する変異を含むか、またはモノクローナル抗体調製物を作製する間に発生し、これらは通常少量で存在する。様々な決定基(エピトープ)を対象とする様々な抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られたものであるという抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用するためのモノクローナル抗体は、限定されるわけではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含むトランスジェニック動物を使用する方法を含む、様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法および他の例示的な方法は、本明細書において説明される。
【0045】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部分は特定の供給源または種に由来するが、重鎖および/または軽鎖の残りの部分は異なる供給源または種に由来する抗体を意味する。
【0046】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基およびヒトFRに由来するアミノ酸残基を含むキメラ抗体を意味する。一定の態様において、ヒト化抗体は、HVR(例えばCDR)のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト抗体のものに相当し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト抗体のものに相当する、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を任意で含んでよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化型」とは、ヒト化を受けた抗体を意味する。
【0047】
抗体の「クラス」とは、その重鎖が有する定常ドメインまたは定常領域のタイプを意味する。抗体には5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(イソタイプ)、例えば、IgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IgA
1、およびIgA
2にさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ、およびμとそれぞれ呼ばれる。
【0048】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生されるか、または非ヒト供給源に由来し、ヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を使用する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的には除く。
【0049】
「Fv断片」は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体軽鎖可変ドメイン(VL)からなるポリペプチドである。
【0050】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
第2の抗体が全長抗体であること;ならびに
VH
1ドメインが、N末端において第1のリンカーを介して第2の抗体の第1の重鎖のC末端に融合されていること、および
VL
1ドメインが、N末端において第2のリンカーを介して第2の抗体の第2の重鎖のC末端に融合されていること
を特徴とする。
【0051】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、C末端からN末端に向かって、以下のポリペプチド鎖を含むことを特徴とする
1本のVH
1-ペプチドリンカー-CH3-CH2-CH1-VH
2鎖
2本のCL-VL
2鎖
1本のVL
1-ペプチドリンカー-CH3-CH2-CH1-VH
2鎖。
(例示的な図として、
図2aも参照されたい)。
【0052】
このようなヘテロ二量体二重特異性抗体の収率を改善するために、例えば、WO 96/027011、Ridgway, J.B., et al., Protein Eng. 9(1996)617-621、およびMerchant, A.M., et al., Nat. Biotechnol. 16(1998)677-681においていくつかの例を用いて詳細に説明されている「ノブイントゥーホール(knob-into-hole)」技術によって、全長抗体のCH3ドメインを改変することができる。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面を改変して、これら2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増大させる。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれが、「ノブ」となることができ、他方が「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入により、ヘテロ二量体はさらに安定し(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16(1998)677-681;Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270(1997)26-35)、収率は上昇する。
【0053】
したがって、本発明の1つの局面において、前記二重特異性抗体は、全長抗体の重鎖の第1のCH3ドメインと全長抗体の第2のCH3ドメインとが、抗体CH3ドメイン間の元の境界面に改変を含む境界面でそれぞれ接し;
i)一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方の重鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起(「ノブ」)が生じること、および
ii)他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみ(「ホール」)が生じること
をさらに特徴とする。
【0054】
言い換えると、全長抗体の重鎖の第1のCH3ドメインと全長抗体の第2のCH3ドメインとが、抗体CH3ドメイン間の元の境界面を含む境界面でそれぞれ接し;
該境界面は、二重特異性抗体の形成を促進するように改変されており、この改変は、
i)一方の重鎖のCH3ドメインが、
二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面と接する、一方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面内で、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方の重鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起(「ノブ」)が生じるように、
改変されること、および
ii)他方の重鎖のCH3ドメインが、
二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの元の境界面と接する第2のCH3ドメインの元の境界面内で、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみ(「ホール」)が生じるように、
改変されること
を特徴とする。
【0055】
好ましくは、側鎖の体積がより大きい前記アミノ酸残基(「ノブ」)は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0056】
好ましくは、側鎖の体積がより小さい前記アミノ酸残基(「ホール」)は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、およびバリン(V)からなる群より選択される。
【0057】
本発明の1つの局面において、両方のCH3ドメインは、CH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの位置にシステイン(C)残基を導入することによってさらに改変される。
【0058】
1つの好ましい態様において、前記二重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、Y407V変異を含む。また、例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中へのY349C変異および「ホール鎖」のCH3ドメイン中へのE356C変異またはS354C変異の導入による、CH3ドメイン間のさらなる鎖間ジスルフィド架橋も使用され得る(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16(1998)677-681)。したがって、別の好ましい態様において、前記二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にE356C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含むか、または前記二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含む(一方のCH3ドメイン中の追加のY349C変異および他方のCH3ドメイン中の追加のE356C変異またはS354C変異が鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。しかし、EP 1870459A1において説明されている他のノブインホール技術もまた、代わりにまたは追加で使用することができる。前記二重特異性抗体の好ましい例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるR409D;K370E変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるD399K;E357K変異である(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。
【0059】
別の好ましい態様において、前記二重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、Y407V変異、ならびにそれらに加えて、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異を含む。
【0060】
別の好ましい態様において、前記二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含むか、または前記二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異、ならびにそれらに加えて、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異を含む。
【0061】
1つの態様において、隆起は、導入されたアルギニン(R)残基を含む。1つの態様において、隆起は、導入されたフェニルアラニン(F)残基を含む。1つの態様において、隆起は、導入されたチロシン(Y)残基を含む。1つの態様において、隆起は、導入されたトリプトファン(W)残基を含む。
【0062】
1つの態様において、くぼみは、導入されたアラニン(A)残基によって形成される。1つの態様において、くぼみは、導入されたセリン(S)残基によって形成される。1つの態様において、くぼみは、導入されたトレオニン(T)残基によって形成される。1つの態様において、くぼみは、導入されたバリン(V)残基によって形成される。
【0063】
好ましくは、このような二重特異性抗体は、
a)ジスルフィド架橋によって;かつ/または
b)(VH
1およびVL
1ドメインがFab断片の一部分となるように)CH1ドメインおよびCLドメインによって、
VH
1ドメインおよびVL
1ドメインが安定化されていることを特徴とする。
【0064】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、C末端からN末端に向かって、以下のポリペプチド鎖を含むことを特徴とする
1本のCH1-VH
1-ペプチドリンカー-CH3-CH2-CH1-VH
2鎖;
2本のCL-VL
2鎖
1本のCL-VL
1-ペプチドリンカー-CH3-CH2-CH1-VH
2鎖。
(例示的な図として、
図2bも参照されたい)。
【0065】
本発明の1つの局面において、本発明による二重特異性抗体の内部で、VH
1/VL
1ドメインまたはVH
2/VL
2ドメイン(存在する場合)は、ジスルフィドによって安定化され得る(好ましくは、CH1ドメインおよびCLドメインがそれぞれのC末端で融合されていない場合)。VH
1/VL
1ドメインまたはVH
2/VL
2ドメインのこのようなジスルフィド安定化は、VH
1/VL
1またはVH
2/VL
2の可変ドメイン間にジスルフィド結合を導入することによって実現され、例えば、WO 94/029350、US 5,747,654、Rajagopal, V., et al., Prot.Engin.(1997)1453-1459;Reiter, Y., et al., Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiter, Y., et al., Protein Engineering 8(1995)1323-1331;Webber, K.O., et al., Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiter. Y., et al., Immunity 2(1995)281-287;Reiter, Y., et al., JBC 269(1994)18327-18331;Reiter, Y., et al., International Journal of Cancer 58(1994)142-149;またはReiter, Y., Cancer Research 54(1994)2714-2718において説明されている。
【0066】
ジスルフィドによって安定化されたFvの1つの態様において、本発明による抗体に含まれるFv(VH
1/VL
1またはVH
2/VL
2)の可変ドメイン間のジスルフィド結合は、各Fvについて独立に以下より選択される:
i)重鎖可変ドメイン44位と軽鎖可変ドメイン100位の間、
ii)重鎖可変ドメイン105位と軽鎖可変ドメイン43位の間、または
iii)重鎖可変ドメイン101位と軽鎖可変ドメイン100位の間。
【0067】
1つの態様において、本発明による抗体に含まれるFvの可変ドメイン間のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン44位と軽鎖可変ドメイン100位の間に存在する。
【0068】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
第2の抗体がFv断片であること;ならびに
VH
1ドメインが、N末端において第1のリンカーを介して第2の抗体Fv断片の第1の鎖のC末端に融合されていること、および
VL
1ドメインが、N末端において第2のリンカーを介して第2の抗体Fv断片の第2の鎖のC末端に融合されていること
を特徴とする。
【0069】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、第1の抗体が全長抗体であることをさらに特徴とする。
【0070】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、C末端からN末端に向かって、以下のポリペプチド鎖を含むことをさらに特徴とする
a)2本のCH3-CH2-CH1-VH
1-ペプチドリンカー-VH
2鎖
2本のCL-VL
1-ペプチドリンカー-VL
2鎖;または
b)2本のCH3-CH2-CH1-VH
1-ペプチドリンカー-VL
2鎖
2本のCL-VL
1-ペプチドリンカー-VH
2鎖。
(例示的な図として、
図2cも参照されたい)。
【0071】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、VH
2ドメインおよびVL
2ドメインがジスルフィド架橋によって安定化されていることをさらに特徴とする。
【0072】
「Fab断片」は、2本のポリペプチド鎖からなり、(それぞれN末端からC末端に向かって)、第1の鎖は抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体定常ドメイン1(CH1)からなり、第2の鎖は抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなる。
【0073】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
第2の抗体がFab断片であること;ならびに
VH
1ドメインが、N末端において第1のリンカーを介して第2の抗体Fab断片の第1の鎖のC末端に融合されていること、および
VL
1ドメインが、N末端において第2のリンカーを介して第2の抗体Fab断片の第2の鎖のC末端に融合されていること
を特徴とする。
【0074】
したがって、VH
1ドメインは、N末端において第1のリンカーを介して第2の抗体のCH1ドメインのC末端に融合されており、VL
1ドメインは、N末端において第2のリンカーを介して第2の抗体のCLドメインのC末端に融合されているか;または
VH
1ドメインは、N末端において第1のリンカーを介して第2の抗体のCLドメインのC末端に融合されており、VL
1ドメインは、N末端において第2のリンカーを介して第2の抗体のCHドメインのC末端に融合されている。
【0075】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、第1の抗体が全長抗体であることをさらに特徴とする。
【0076】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、C末端からN末端に向かって、以下のポリペプチド鎖を含むことをさらに特徴とする
a)2本のCH3-CH2-CH1-VH
1-ペプチドリンカー-CH1-VH
2鎖
2本のCL-VL
1-ペプチドリンカー-CL-VL
2鎖;または
b)2本のCH3-CH2-CH1-VH
1-ペプチドリンカー-CL-VL
2鎖
2本のCL-VL
1-ペプチドリンカー-CH1-VH
2鎖。
(例示的な図として、
図2dも参照されたい)。
【0077】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、第1の抗体がFv断片であることを特徴とする。
【0078】
1つの態様において、このような二重特異性抗体は、C末端からN末端に向かって、以下のポリペプチド鎖を含むことをさらに特徴とする
a)1本のVH
1-ペプチドリンカー-CH1-VH
2鎖
1本のVL
1-ペプチドリンカー-CL-VL
2鎖;または
b)1本のVH
1-ペプチドリンカー-CL-VL
2鎖
1本のVL
1-ペプチドリンカー-CH1-VH
2鎖。
(例示的な図として、
図2eも参照されたい)。
【0079】
本発明の範囲内で使用される「ペプチドリンカー」という用語は、例えば、合成起源のアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。好ましくは、該ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長、好ましくは5〜100アミノ酸長、より好ましくは10〜50アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。異なる抗原または異なるエピトープに応じて、プロテアーゼ切断の前に、第1の結合親和性が、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて5分の1またはそれ以下に(1つの態様において、10分の1またはそれ以下に、1つの態様において、20分の1またはそれ以下に)低減されるように、リンカー長を変更することができる。1つの態様において、第1の抗原に対する二重特異性抗体の結合親和性は、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて5分の1〜1000分の1の間(好ましくは、10分の1〜1000分の1の間、好ましくは、10分の1〜500分の1の間)に低減されている。ペプチドリンカーの各末端は、1つのポリペプチド鎖(例えば、VHドメイン、VLドメイン、抗体重鎖、抗体軽鎖、CH1-VH鎖など)に結合されている。
【0080】
本発明による二重特異性抗体内のペプチドリンカーのうちの一方は、プロテアーゼ切断部位を含まない。1つの態様において、プロテアーゼ切断部位を含まない該ペプチドリンカーは、例えば、(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、G=グリシン、S=セリンであり、(x=3、n=3、4、5、もしくは6、およびm=0、1、2、もしくは3)または(x=4、n=2、3、4、5、もしくは6、およびm=0、1、2、もしくは3)であり、好ましくはx=4、およびn=2、3、4、5、または6、およびm=0である。
【0081】
本発明による二重特異性抗体内の他方のペプチドリンカーは、腫瘍または炎症に特異的なプロテアーゼの切断部位を含む。一般に、ペプチドリンカー内のプロテアーゼ切断部位は、プロテアーゼによって切断されるアミノ酸配列またはモチーフである。様々なプロテアーゼに対する天然または人工のプロテアーゼ切断部位は、例えば、Database, Vol.2009, Article ID bap015, doi:10.1093/database/bap015および参照されるMEROPSペプチドデータベース(http://merops.sanger.ac.uk/)において説明されている。
【0082】
本明細書において使用される「腫瘍または炎症に特異的なプロテアーゼの切断部位」とは、腫瘍または炎症に特異的なプロテアーゼ(またはペプチダーゼ)によって切断されるアミノ酸配列またはモチーフを意味する。「腫瘍または炎症に特異的なプロテアーゼ」という用語は、腫瘍領域または(例えば、腫瘍組織の)炎症領域における発現レベルが、(例えば、対応する正常組織の)腫瘍または炎症のない領域における各発現レベルと比べて高いプロテアーゼを意味する。腫瘍または炎症に特異的な典型的プロテアーゼは、例えば、表1および(表1に示す)対応する文献において説明されている。本明細書において使用されるプロテアーゼまたはペプチダーゼという用語は交換可能である。
C=癌;I=炎症。
【0083】
(表1)腫瘍および/または炎症に特異的なプロテアーゼ
所在:ex=細胞外;pm=形質膜;cs=細胞表面;es=内膜系;en=エンドソーム;sg=分泌顆粒;ly=リソソーム;ER=小胞体;TGN=トランスゴルジ網;(本明細書において使用される「マトリックスメタロペプチダーゼ」という用語は、「マトリックスメタロプロテイナーゼ」と同義である)。
【0084】
したがって、本発明の1つの局面において、腫瘍または炎症に特異的なプロテアーゼとは、MMP1、MMP2、MMP9、MMP3、MMP7、MMP12、MMP13、MMP14、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII、カテプシンB、カテプシンL、カテプシンS、カテプシンK、カテプシンF、カテプシンH、カテプシンL2、カテプシン0、好中球エラスターゼ、血漿カリクレイン、KLK3、ADAM10、ADAM17、ADAMTS1、AMSH、γ-セクレターゼ成分、uPA、FAP、APCE、ADAMメタロペプチダーゼ9、ADAMメタロペプチダーゼ28、ADAM様デサイシン1、カルパイン2の(m/II)大サブユニット、カスパーゼ1(アポトーシス関連システインペプチダーゼ)(IL-1Pコンバターゼ)、グランザイムA(グランザイム1、CTL関連セリンエステラーゼ3)、カリクレイン関連ペプチダーゼ11、レグマイン、Nアセチル化α結合型酸性ジペプチダーゼ様1、およびヘプシンから、好ましくはMMP1、MMP2、MMP9、MMP13、uPA、FAP、APCEからなる群より選択されるプロテアーゼを意味する。
【0085】
本明細書において使用される「腫瘍または疾患に特異的なプロテアーゼの切断部位」とは、腫瘍または疾患に特異的なプロテアーゼ(またはペプチダーゼ)によって切断されるアミノ酸配列またはモチーフを意味する。「腫瘍または疾患に特異的なプロテアーゼ」という用語は、組織領域における発現レベルが、その特定の組織(例えば、肺、前立腺、膵臓、卵巣など)において、またはその特定の疾患領域において典型的である(例えば、腫瘍疾患の場合、例えば、発現レベルが、腫瘍のない領域、すなわち、対応する正常組織における各発現レベルと比べて高い)プロテアーゼを意味する。本明細書において使用されるプロテアーゼまたはペプチダーゼという用語は、交換可能である。
【0086】
1つの態様において、第1の抗原に対する二重特異性抗体の結合親和性は、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて10分の1またはそれ以下に低減されている。
【0087】
1つの態様において、第1の抗原に対する二重特異性抗体の結合親和性は、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて20分の1またはそれ以下に低減されている。
【0088】
1つの態様において、第1の抗原に対する二重特異性抗体の結合親和性は、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて5分の1〜100000分の1の間に低減されている。
【0089】
1つの態様において、第1の抗原に対する二重特異性抗体の結合親和性は、プロテアーゼ切断部位が切断されている対応する二重特異性抗体と比べて5分の1〜1000分の1の間(好ましくは、10分の1〜1000分の1の間、好ましくは、10分の1〜500分の1の間)に低減されている。
【0090】
「エフェクター機能」とは、抗体のアイソタイプによって変わる、抗体のFc領域に起因し得る生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合および補体依存性細胞障害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方調節;ならびにB細胞活性化が含まれる。
【0091】
本明細書における「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部分を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列のFc領域および変種Fc領域を含む。1つの態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで伸びる。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在する場合もあれば存在しない場合もある。本明細書において別段の指定が無い限り、Fc領域中または定常領域中のアミノ酸残基の番号付与は、EU指標とも呼ばれるEU番号付与方式に従い、これは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)において説明されている。
【0092】
抗体断片は、本明細書において説明するように、無傷の抗体のタンパク質分解消化ならびに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌(E.coli)もしくはファージ、または哺乳動物細胞)による作製を非限定的に含む様々な技術によって作製することができる。
【0093】
本発明による抗体は、組換え手段によって作製される。したがって、本発明の1つの局面は、本発明による抗体をコ―ドする核酸であり、さらなる局面は、本発明による抗体をコ―ドする核酸を含む細胞である。組換え作製のための方法は、現況技術において広く知られており、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現と、それに伴うその後の抗体単離および通常は薬学的に許容される純度までの精製とを含む。前述したように宿主細胞において抗体を発現させる場合、改変された各軽鎖および重鎖をコードする核酸が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、または大腸菌細胞のような適切な原核宿主細胞または真核宿主細胞において実施され、抗体はこれらの細胞から回収される(上清または溶解後の細胞)。抗体を組換えによって作製するための一般的方法は現況技術において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17(1999)183-202;Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8(1996)271-282;Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16(2000)151-160;Werner, R.G., Drug Res. 48(1998)870-880といった総説論文で説明されている。すなわち、本発明による二重特異性抗体は、組換えによって発現される。
【0094】
二重特異性抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどによって、培地から適宜分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を用いて、容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNAの供給源として役立つことができる。単離した後、DNAを発現ベクター(その後、さもなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しないHEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクトされる)中に挿入して、宿主細胞中での組換えモノクローナル抗体の合成を実現することができる。
【0095】
二重特異性抗体のアミノ酸配列変種(または変異体)は、適切なヌクレオチド変更を抗体DNAに導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製される。しかしながら、このような改変は、例えば前述したように、極めて限定された範囲でのみ実施することができる。例えば、これらの改変によって、IgGアイソタイプおよび抗原結合などの前述の抗体特徴が変わることはないが、組換え作製の収率、タンパク質安定性が改善し得るか、または精製が容易になり得る。
【0096】
本出願において使用される「宿主細胞」という用語は、本発明による抗体を生じるように操作できる任意の種類の細胞系を意味する。1つの態様において、HEK293細胞およびCHO細胞が宿主細胞として使用される。本明細書において使用される場合、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という表現は交換可能に使用され、このような呼称はすべて、子孫を含む。したがって、「形質転換体」および「形質転換細胞」という単語は、転換(transfer)の回数に関わらず、初代対象細胞およびそれに由来する培養物を含む。意図的な変異または偶発性の変異が原因で、すべての子孫のDNA内容物が全く同一ではない場合があることもまた、理解されている。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能または生物活性を有する変種子孫が含まれる。
【0097】
NS0 細胞における発現は、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32(2000)109-123;Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73(2001)261-270によって説明されている。一過性発現は、例えば、Durocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30(2002)E9によって説明されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989)3833-3837;Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(1992)4285-4289;およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204(1997)77-87によって説明されている。好ましい一過性発現系(HEK 293)は、Schlaeger, E.-J., and Christensen, K., Cytotechnology 30(1999)71-83およびSchlaeger, E.-J., J. Immunol. Methods 194(1996)191-199によって説明されている。
【0098】
例えば、原核生物に適した制御配列には、プロモーター、任意でオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、およびポリアデニル化シグナルを使用することが公知である。
【0099】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係で配置されている場合、「機能的に連結」されている。例えば、プレ配列もしくは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、そのポリペプチドのDNAに機能的に連結されており;プロモーターもしくはエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、そのコード配列に機能的に連結されており;または、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に機能的に連結されている。一般に、「機能的に連結される」とは、連結されるDNA配列が隣接していていること、分泌リーダーの場合、隣接し、かつリーディングフレーム中にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接していなくてもよい。連結は、好都合な制限部位におけるライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合には、合成のオリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の手法に従って使用される。
【0100】
本明細書において使用される「形質転換」という用語は、宿主細胞中へのベクター/核酸の移行プロセスを意味する。手ごわい細胞壁障壁を持たない細胞が宿主細胞として使用される場合、トランスフェクションは、例えば、Graham, F.L., and van der Eb, A.J., Virology 52(1973)456-467によって説明されているようなリン酸カルシウム沈殿法によって実施される。しかしながら、核注入またはプロトプラスト融合など細胞中にDNAを導入するための他の方法もまた、使用され得る。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含む細胞が使用される場合、例えば、トランスフェクションの1つの方法は、Cohen, S.N, et al, PNAS. 69(1972)2110-2114以下参照(et seq)によって説明されているような塩化カルシウムを用いたカルシウム処理である。
【0101】
本明細書において使用される場合、「発現」とは、核酸がmRNAに転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNA(転写物とも呼ばれる)が続いてペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。転写物およびコードされるポリペプチドは、まとめて遺伝子産物と呼ばれる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来している場合、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを含み得る。
【0102】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を宿主細胞中に、かつ/または宿主細胞間で移行させる、核酸分子、特に自己複製する核酸分子である。この用語は、細胞中へのDNAまたはRNAの挿入(例えば染色体組込み)のために主として機能するベクター、DNAまたはRNAの複製のために主として機能する複製ベクター、ならびにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、前述の機能のうちの複数を提供するベクターも含まれる。
【0103】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞中に導入された場合に、転写されポリペプチドに翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」とは、通常、所望の発現産物をもたらすように機能できる発現ベクターからなる適切な宿主細胞を意味する。
【0104】
抗体の精製は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知の他の技術を含む標準技術によって、細胞構成要素または他の混在物、例えば、他の細胞核酸または細胞タンパク質を除去するために実施される。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York(1987)を参照されたい。微生物タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、および混合モードの交換)、硫黄親和性吸着(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを使用)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザアレーン親和性(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を使用)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)親和性材料およびCu(II)親和性材料を使用)、サイズ排除クロマトグラフィー、ならびに電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)などの様々な方法が十分に確立されており、タンパク質精製のために広く普及して使用されている(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75(1998)93-102)。
【0105】
本発明の1つの局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物である。本発明の別の局面は、薬学的組成物を製造するための、本発明による抗体の使用である。本発明のさらなる局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物を製造するための方法である。別の局面において、本発明は、本発明による抗体を含み、薬学的担体と合わせて製剤化された組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0106】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤も含んでよい。微生物の存在の防止は、前記の滅菌手順、ならびに様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸などを含めることの両方によって徹底することができる。。また、糖および塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物中に含めることが望ましい場合もある。さらに、注射可能な薬剤形態の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど吸収を遅延させる作用物質を含めることによって実現することができる。
【0107】
選択された投与経路に関わらず、適切な水和型で使用され得る本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0108】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性とならずに、個々の患者、組成物、および投与様式にとって望ましい治療応答を達成するのに有効である量の活性成分を得られるように変更することができる。選択される投薬量レベルは、使用される本発明の個々の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される個々の化合物の排出速度、治療の継続期間、使用される個々の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的健康状態、および以前の病歴、ならびに医薬分野で周知である同様の因子を含む様々な薬物動態学的因子に依存すると考えられる。
【0109】
これらの組成物は、無菌であり、かつ注射器によって組成物を送達可能である程度に流動性でなければならない。水のほかに、担体は、好ましくは、等張性の緩衝生理食塩水である。
【0110】
適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング剤の使用、分散系の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール、および塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。
【0111】
本発明の1つの態様は、癌治療のための本発明による二重特異性抗体である。
【0112】
本発明の別の局面は、癌治療のための前記薬学的組成物である。
【0113】
本発明の別の局面は、癌治療のための医薬を製造するための、本発明による抗体の使用である。
【0114】
本発明の別の局面は、本発明による抗体をそのような治療を必要とする患者に投与することによって、癌に罹患している患者を治療する方法である。
【0115】
本発明の1つの態様は、炎症の治療のための本発明による二重特異性抗体である。
【0116】
本発明の別の局面は、炎症の治療のための前記薬学的組成物である。
【0117】
本発明の別の局面は、炎症の治療のための医薬を製造するための、本発明による抗体の使用である。
【0118】
本発明の別の局面は、本発明による抗体をそのような治療を必要とする患者に投与することによって、炎症を患っている患者を治療する方法である。
【0119】
本明細書において使用される場合、「薬学的担体」は、生理学的に適合性である任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに等張化剤および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、または表皮投与(例えば、注射または輸注による)に適している。
【0120】
本発明の組成物は、当技術分野において公知の様々な方法によって投与することができる。当業者には理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なる。ある種の投与経路によって本発明の化合物を投与するために、化合物の不活性化を防止するための材料で化合物をコーティングすること、または化合物の不活性化を防止するための材料と共に化合物を同時投与することが必要な場合がある。例えば、適切な担体、例えば、リポソーム、または希釈剤中に入れて、化合物を対象に投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が含まれる。薬学的担体には、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注射液剤または分散剤を用時調製するための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質に対してこのような媒体および作用物質を使用することは、当技術分野において公知である。
【0121】
「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語句は、本明細書において使用される場合、経腸投与および局所投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射および輸注を含む。
【0122】
本明細書において使用される「癌」という用語は、増殖性疾患、例えば、リンパ腫、リンパ性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞上皮肺癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭部または頸部の癌、皮膚黒色腫または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、胃の癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、腟癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌または尿管癌、腎細胞癌、腎う癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊椎腫瘍、脳幹神経膠腫、多形性神経膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、およびユーイング肉腫を意味し、上記の癌のいずれかの難治性変種または上記の癌のうちの1種もしくは複数種の組合せを含む。
【0123】
本明細書において使用される「炎症」という用語は、関節炎、関節リウマチ、膵炎、肝炎、脈管炎、乾癬、多発性筋炎、皮膚筋炎、喘息、炎症性喘息、自己免疫疾患(例えば、エリテマトーデス、炎症性関節炎を含む)、腸炎症性疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、セリアック病を含む)、および関連する疾患を意味する。
【0124】
本明細書において使用される場合、「治療(treatment)」(およびその文法的変形、例えば「治療する(treat)」または「治療すること(treating)」とは、治療される個体の自然経過を変更しようとする臨床的介入を意味し、予防のため、または臨床的病状の過程のいずれかに実施され得る。治療の望ましい効果には、疾患の発生または再発の予防、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な任意の病理学的転帰の低減、転移の予防、疾患の進行速度の低減、疾患状態の改善または緩和、および寛解または予後改善が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅らせるため、または疾患の進行を遅くするために使用される。
【0125】
作用物質、例えば薬学的製剤/組成物の「有効量」とは、所望の治療的結果または予防的結果を実現するのに必要な投薬量および期間で有効な量を意味する。
【0126】
以下の実施例、配列リスト、および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において説明される。本発明の精神から逸脱することなく、説明される手順に変更を加え得ることが理解されよう。
【実施例】
【0128】
実験手順
組換えDNA技術
Sambrook, J. et al., Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York(1989)において説明されているように、標準的方法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の取扱い説明書に従って使用した。
【0129】
DNAおよびタンパク質の配列解析および配列データの管理
ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的情報は、Kabat, E.A. et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No 91-3242において示されている。抗体鎖のアミノ酸は、EU番号付与に従って番号を付けた(Edelman, G.M., et al., PNAS 63(1969)78-85;Kabat, E.A., et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No 91-3242)。GCG(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)のソフトウェアパッケージバージョン10.2およびInfomaxのVector NTI Advance suiteバージョン8.0を、配列の作製、マッピング、解析、アノテーション、および図示のために使用した。
【0130】
DNA配列決定
DNA配列は、SequiServe(Vaterstetten, Germany)およびGeneart AG(Regensburg, Germany)で実施された二重鎖配列決定によって決定した。
【0131】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、合成オリゴヌクレオチドおよび自動遺伝子合成によるPCR産物から、Geneart AG(Regensburg, Germany)が調製した。独特な制限エンドヌクレアーゼ切断部位にはさまれたこれらの遺伝子セグメントをpGA18(ampR)プラスミド中にクローニングした。形質転換された細菌からプラスミドDNAを精製し、UV分光法によって濃度を測定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列をDNA配列決定によって確認した。適切な場合および/または必要な場合には、5'-BamHI制限部位および3'-XbaI制限部位を使用した。構築物はすべて、真核細胞において分泌するようにタンパク質を導くリーダーペプチドをコードする5'末端DNA配列を用いて設計した。
【0132】
発現プラスミドの構築
重鎖VHまたはVL融合タンパク質および軽鎖タンパク質をコードする発現プラスミドのいずれの構築にも、Roche製の発現ベクターを使用した。このベクターは以下のエレメントから構成される:
・選択マーカーとしてのヒグロマイシン耐性遺伝子、
・エプスタイン・バー(Epstein-Barr)ウイルス(EBV)の複製起点oriP、
・大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製起点、
・大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子、
・ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
・ヒト1-免疫グロブリンポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列、ならびに
・独特のBamHI制限部位およびXbaI制限部位。
【0133】
免疫グロブリン融合遺伝子を遺伝子合成によって調製し、説明したようにpGA18(ampR)プラスミド中にクローニングした。合成されたDNAセグメントを有するpG18(ampR)プラスミドおよびRoche製発現ベクターを、BamHI制限酵素およびXbaI制限酵素(Roche Molecular Biochemicals)で消化し、アガロースゲル電気泳動に供した。次いで、重鎖および軽鎖をコードする精製したDNAセグメントを、単離したRoche製発現ベクターのBamHI/XbaI断片に連結して、最終的な発現ベクターを得た。この最終的な発現ベクターを大腸菌細胞に形質転換し、発現プラスミドDNAを単離し(ミニプレップ)(Miniprep)、制限酵素解析およびDNA配列決定に供した。正確なクローンをLB-Amp培地150ml中で増殖させ、再びプラスミドDNAを単離し(マキシプレップ)(Maxiprep)、配列の完全性をDNA配列決定によって確認した。
【0134】
HEK293細胞における免疫グロブリン変種の一過性発現
製造業者の取扱い説明書に従って(Invitrogen, USA)FreeStyle(商標)293発現系(Expression System)を用いて、ヒト胚性腎臓293-F 細胞を一過性トランスフェクションすることによって、組換え免疫グロブリン変種を発現させた。簡単に説明すると、懸濁させたFreeStyle(商標)293-F細胞を、37°C/8%CO
2、FreeStyle(商標)293発現培地中で培養し、トランスフェクション実施日に、新鮮な培地中に生細胞1〜2×10
6個/mlの密度でこれらの細胞を播種した。最終トランスフェクション体積250mlに対して293fectin(商標)(Invitrogen, Germany)325μlと1:1のモル比率の重鎖および軽鎖のプラスミドDNA 250μgを用いて、DNA-293fectin(商標)複合体をOpti-MEM(登録商標)I培地(Invitrogen, USA)中で調製した。最終トランスフェクション体積250mlに対して293fectin(商標)(Invitrogen, Germany)325μlと1:1:2のモル比率の「ノブイントゥーホール」重鎖1および2ならびに軽鎖のプラスミドDNA 250μgを用いて、「ノブイントゥーホール」DNA-293fectin複合体をOpti-MEM(登録商標)I培地(Invitrogen, USA)中で調製した。トランスフェクション後7日目に、14000gで30分間遠心分離することによって、抗体を含む細胞培養上清を回収し、滅菌フィルター(0.22μm)に通してろ過した。精製するまで、上清を-20℃で保存した。
【0135】
二重特異性抗体および対照抗体の精製
Protein A-Sepharose(商標)(GE Healthcare, Sweden)を用いたアフィニティークロマトグラフィーおよびSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーによって、二重特異性抗体および対照抗体を細胞培養上清から精製した。簡単に説明すると、ろ過した滅菌済み細胞培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na
2HPO
4、1mM KH
2PO
4、137mM NaCl、および2.7mM KCl、pH7.4)で平衡にしたHiTrap ProteinA HP(5ml)カラムに添加した。未結合タンパク質は、平衡緩衝液で洗い流した。0.1Mクエン酸緩衝液、pH2.8を用いて抗体および抗体変種を溶出させ、0.1ml 1M Tris、pH8.5を用いてタンパク質含有画分を中和した。次いで、溶出させたタンパク質画分を集め、Amicon Ultra遠心ろ過装置(MWCO:30K、Millipore)を用いて体積3mlまで濃縮し、20mMヒスチジン(Histidin)、140mM NaCl、pH6.0で平衡化したSuperdex200 HiLoad 120ml 16/60ゲルろ過カラム(GE Healthcare, Sweden)に載せた。高分子量凝集物が5%未満である、精製された二重特異性抗体および対照抗体を含む画分を集め、1.0mg/mlの分取物として-80℃で保存した。
【0136】
精製タンパク質の解析
280nmにおける光学濃度(OD)を測定し、アミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いることによって、精製タンパク質試料のタンパク質濃度を決定した。還元剤(5mM 1,4-ジチオトレイトール)の存在下および不在下でのSDS-PAGEおよびクーマシーブリリアントブルーを用いた染色によって、二重特異性抗体および対照抗体の純度および分子量を解析した。NuPAGE(登録商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen, USA)を製造業者の取扱い説明書に従って使用した(4〜20% Tris-グリシンゲル)。二重特異性抗体試料および対照抗体試料の凝集物含有量を、25℃で、ランニング緩衝液(200mM KH
2PO
4、250mM KCl、pH 7.0)を流したSuperdex 200分析用サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を用いた高速SECによって解析した。タンパク質25μgを流速0.5ml/分でカラムに注入し、50分間に渡って無勾配で溶出させた。安定性を解析するために、濃度1mg/mlの精製タンパク質を4°Cおよび40℃で7日間インキュベートし、次いで、高速SECによって評価した。ペプチド-N-グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)を用いた酵素処理によってN-グリカンを除去した後、還元された二重特異性抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸主鎖の完全性をNanoElectrospray Q-TOF質量分析法によって検証した。
【0137】
実施例1
標的1に非制限的に二価で結合し、標的2に低い程度で(reduced)結合する、本発明による二重特異性抗体の設計
本発明者らは、第1の試みにおいて、第2の抗原に特異的な第2の結合部分として1つの付加的なFvを有する、第1の抗原に結合する全長抗体に基づく誘導体を作製した(
図2aを参照されたい)。本発明者らは、VHCys44とVLCys100の間に鎖間ジスルフィドを導入した(WO 94/029350、US 5,747,654、Rajagopal, V., et al., Prot. Engin.(1997)1453-1459;Reiter, Y., et al., Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiter, Y., et al., Protein Engineering 8(1995)1323-1331;Webber, K.O., et al., Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiter. Y., et al., Immunity 2(1995)281-287;Reiter, Y., et al., JBC 269(1994)18327-18331;Reiter, Y., et al., International Journal of Cancer 58(1994)142-149;またはReiter, Y., Cancer Research 54(1994)2714-2718)。dsFvのVHCys44は、全長抗体の第1の重鎖のCH3ドメインに融合し、対応するVLCys100モジュールは、全長抗体の第2の重鎖のCH3ドメインに融合した。
【0138】
dsFvが、細菌封入体のリフォールディングまたは周辺質分泌により、別々に発現されたモジュールからまずまずの収率で組み立てられ得ることが以前に示された(WO 94/029350、US 5,747,654;Rajagopal, V., et al., Prot. Engin.(1997)1453-1459)。
【0139】
本発明者らは、dsFvの一方の構成要素を、コネクターペプチドを介して一方のH鎖のC末端と連結し、対応する他方の構成要素を、別のコネクターペプチドによって第2のH鎖のC末端と連結した。結果として得られたタンパク質を
図3aに示し、コネクターペプチドを
図3bに記載した。このアプローチの理論的根拠は、H鎖を効果的に二量体化することにより、dsFv構成要素を引き合わせ、そのヘテロ二量体化を容易にするというものであった。2つのVHモジュールまたは2つのVLモジュールを含む分子の非生産的組立てを減らすために、相補的ノブイントゥーホール変異をIgGのH鎖中に設定した(set)。これらの変異は、異なるH鎖のヘテロ二量体化を強いるためにMerchant, A.M., et al., Nature Biotechnology 16(1998)677-681およびRidgway, J.B., et al., Protein Eng. 9(1996)617-621によって考案されたものであり、一方のH鎖におけるT366W変異ならびに対応する他方の鎖におけるT366S変異、L368A変異、およびY407V変異からなる。dsFvを含む二重特異性物(bispecifics)を作製するための本発明者らの設計では、VHCys44に融合されているCH3ドメイン上に「ノブ」を有し、相補的な「ホール」は、VLCys100を有するH鎖中に導入した。
【0140】
ヘテロ二量体dsFvの両方の構成要素をCH3につなぐ。かさ高いCH3ドメインにVHおよびVLのN末端をこのように同時に結合させても、Fvの構造は影響を受けない。しかしながら、CDR領域はCH3が位置している方向に向くため、状況に応じて(例えば、リンカーの長さまたはそれぞれの抗原構造に応じて)抗原に対する接近容易性が制限される場合がある。さらに、2つの連結箇所でつながれているため、Fvが回転するか、またはCH3の隣に移動する自由は、極めて限られた程度しか残らない。そのため、抗原はCH3とFvの間に割り込む必要がある。このことは、抗原への接近容易性に影響を及ぼし親和性を低減させる可能性がある。本発明者らは実際に、二重特異性抗体の二重連結されたdsFv部分においてこのことを認めた(表3のSPRデータを参照されたい)。立体障害に起因する抗原接近容易性の問題と一致して、親和性測定により、二重につながれたdsFvの結合速度が有意に低下していることが明らかになった。それでもなお、抗原が一旦結合すると、解離速度は未改変抗体のものと同じであることから、Fvの構造の完全性は損なわれていないと思われる。二重特異性抗体のIgG様接近可能アーム(予想通り、最大限の親和性を有する)の結合に関する親和性の値、ならびに二重につながれた付加的なdsFvの親和性の値を表3に列挙する。本発明者らは、二重につないだ後の立体障害が原因で結合速度が低下しているdsFvモジュールに対して、「制限的な結合モードまたは低減された結合モード」という用語を使用する。
【0141】
例示的に、以下の抗体を設計し、組換えによって発現させた(
図2aも参照されたい):
【0142】
実施例2
標的1に非制限的に二価で結合し、標的2に低い程度で(reduced)結合する本発明による二重特異性抗体の発現および精製
分泌性の二重特異性抗体誘導体を作製するために、一過性発現を利用した。L鎖および改変されたH鎖をコードするプラスミドをHEK293浮遊細胞中に同時トランスフェクトした。分泌された抗体誘導体を含む培養上清を1週間後に回収した。収率に影響を与えることなく、精製前にこれらの上清を凍結し-20℃で保存することができた。従来のIgGと同じ様式でプロテインAおよびSECによって二重特異性抗体を上清から精製した。このことから、これらの二重特異性抗体がプロテインAに結合する能力を十分に有することが分かる。
【0143】
細胞培養上清における発現収率は、一過性に発現させた未改変抗体よりも低かったが、それでもなお、まずまずの範囲内であった。全精製工程の完了後、収率が4mg/L〜20mg/Lの間の均質なタンパク質が得られた。付加的なdsFv部分のVHとVLの間にペプチドリンカーがないことにもかかわらず、安定性の解析において、濃度依存性または温度依存性の異常な崩壊または凝集の徴候は示されなかった。これらのタンパク質は安定であり、凍結解凍への耐性が十分にあった。還元条件下および非還元条件下における三価の二重特異性抗体誘導体およびそれらの構成要素の大きさ、均質性、および組成を
図4に示す。各タンパク質のアイデンティティおよび組成を、質量分析法によって確認した(表2)。
【0144】
(表2)二重特異性抗体誘導体の例示的な発現および精製
【0145】
タンパク質分解プロセシングによって、制限的な結合部位を特異的に活性化するためのコネクターペプチド
CH3ドメインにdsFv構成要素を二重につなぐことにより、抗原の接近が減少し、それによって、dsFvの機能性が不活性化される。1つのコネクターペプチドの周りをFvが自由に回転できれば、抗原への接近が増える可能性が高いと思われるが、dsFvは2つの連結点で融合されているため、高い可動性を持つことも、大きく回転することもできない。このような制限的なdsFv部分の不活性化された結合機能性を再活性化するために、本発明者らは、2つのコネクターペプチドのうちの一方に特異的プロテアーゼ認識部位を導入した(
図3bに概略的に示す)。このアプローチに関する本発明者らの理論的根拠は、2つの連結のうちの1つだけを解除するためにタンパク質分解切断を利用するというものであった。タンパク質分解プロセシングをした際、dsFvは依然として、他方のコネクターによって二重特異性抗体のIgG主鎖に共有結合的に連結されているはずである。しかし、二重連結とは異なり、たった1つの可動性の連結点で結合されているため、可動性が向上して、抗原への接近を容易にする自由な回転が可能になり得る。
図3bは、プロテアーゼによるプロセシングを可能にするために本発明者らが利用した様々なコネクター配列を示す。標準的な切断不可能コネクターは、様々なドメインから構成される融合タンパク質の作製のためにしばしば使用されているモチーフであるGly4Serリピート6個から構成されている。タンパク質分解プロセシングのために、本発明者らは、このコネクターの中心領域に特異的認識配列を導入した。
【0146】
第1の実験において、これらのコネクター配列は、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP2およびMMP9によって認識されることができる。高レベルのMMPの存在は、腫瘍のような罹病組織にかなり特異的である。一方、本発明者らが組換え発現のために使用するHEK293細胞のような大半の「正常な」哺乳動物細胞は、有意なレベルのこのようなMMPを有していない。したがって、制限的なdsFvを含む二重特異性実体は、不活性な前駆体として発現されるが、疾患組織においてMMP2および/またはMMP9に曝露されると活性化される。
【0147】
さらなるコネクター配列は、プロテアーゼウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)によって認識されることができる。uPAの過剰発現は、様々な悪性腫瘍において見出されており、そこで腫瘍の浸潤および転移に関与している。一方、本発明者らが組換え発現のために使用するHEK293細胞は、有意なレベルのuPAを有していない。したがって、制限的なdsFvを含む二重特異性実体は、不活性な前駆体として発現されるが、悪性の腫瘍性組織においてuPAに曝露されると活性化され得る。
【0148】
実施例3
MMP2/9部位を含む二重特異性抗体は、制限的な形態で発現および精製され、MMP2/9に曝露された場合にのみ活性化される
MMP2/9によって認識される配列をコネクター中に導入することにより、例えば、腫瘍内または炎症を起こした組織内でこれらのプロテアーゼに遭遇するまで第2の結合実体が不活性である、dsFvを含む二重特異性実体を作製するという選択肢が与えられる。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、一部の疾患組織、例えば腫瘍または炎症を起こした組織といった環境において高レベルで存在する(参考文献については表1を参照されたい)。配列GPLGMLSQ、GPLGLWAQ、およびGPLGIAGQは、MMP2およびMMP9の基質である(Netzel-Arnett, JBC, 1991;Netzel-Arnett, Biochemistry, 1993)。これらの配列をコネクター配列に組み入れて、MMP2/9によって解放することができるdsFv融合物を作製した(
図3bおよび
図3の凡例)。本発明者らが組換え発現のために使用したHEK293細胞は、有意なレベルのこれらのMMPを有していない。そのため、このようなコネクターを有する実体を発現し精製した結果、伸長された2つのH鎖を有する制限的な分子が得られた。プロテインAおよびSECによる精製後の収率(10〜20mg/L、表2を参照されたい)ならびに精製された分子の組成は、プレシジョン部位を含む二重特異性変種と事実上同一であった(上記を参照されたい)。SDS-PAGEにより、(Her3実体のL鎖に加えて)、65kDの高さの位置にタンパク質の(二本の)バンドが存在することが示されている。このバンドは、付加的なコネクターペプチド(2kd)およびVHドメインまたはVLドメイン(13kD)をC末端に有するH鎖(50kd)に相当する。
【0149】
CH3とVLの間のコネクター内のMMP2/9部位を切断することにより、dsFvの制限が解かれ、完全な結合機能性を有する解放されたdsFvが生じる。
図5bは、MMP部位を含むコネクターがMMP2の存在下で切断され得ることを示す。このプロセシングの結果は、伸長されたH鎖のうちの一方の通常の大きさ(52kd)への変換および付加的な13kDのVLドメインの出現として、目に見える。サイズ排除クロマトグラフィーおよび質量分析法によって示されているように、切断されるものの、分子は、安定なジスルフィド結合によって引き続き結合している。
【0150】
制限的な形態の二重特異性抗体およびMMP2によってプロセシングされた形態の二重特異性抗体の親和性の比較を表3に記載する:MMP2によるプロセシングによって、以前より既に完全に接近可能な抗原Her3に対する結合は変化しなかった。このことから、MMP2はコネクター中の認識配列を特異的に攻撃するが、抗体の他の位置は攻撃しないことが示唆される。他方、MMP2プロセシングによって立体障害を取り除くこと(resolvation)により、dsFvの機能性が完全に回復し、cMetに対する親和性が改善して5倍より大きくなった(表3)。
【0151】
(表3)三価の二重特異性抗体誘導体の結合親和性およびプロテアーゼ切断後の対応する二重特異性抗体との比較
【0152】
MMP2/9で切断可能なdsFvを含む二重特異性抗体誘導体を細胞アッセイ法においてさらに調査した:FACS実験(
図6)により、非制限的な<Her3>アームがHer3陽性癌細胞に特異的に結合することが示された。また、Her3に依存するシグナル伝達経路を妨害するそれらの機能性も、完全に保持されていた(
図7a)。
【0153】
MMP2/9によって活性化される制限的なdsFvを有する、MMP2/9認識部位を含む二重特異性物が生物学的機能性を示すかという疑問を検討するために、本発明者らは、HGFシグナル伝達の指標としてA549肺癌細胞におけるAKTリン酸化を測定した。
図7bは、HGFを介したAKTシグナル伝達に対するdsFvによる妨害の読み出し情報としてAKTリン酸化を測定した結果を示す。制限的な形態(不十分な結合)が細胞に適用された場合、ごくわずかな阻害活性しか認めることができないのに対し、フューリンにプロセシングされた完全な結合能力のある形態およびMMPにプロセシングされた完全な結合能力のある形態によっては、相当な阻害がもたらされている。このことから、活性をもたらすのにdsFvの解放が必要であることが裏付けられる。
【0154】
実施例4
uPA部位を含む二重特異性抗体は、制限的な形態で発現および精製され、uPAに曝露された場合にのみ活性化される
uPAによって認識される配列をコネクター中に導入することにより、例えば、悪性腫瘍内でuPAに遭遇するまで第2の結合実体が不活性である、dsFvを含む二重特異性実体を作製するという選択肢が与えられる。本発明者らは、uPAの好適な基質であることが示されている(Chung, Bioorganic and medical chemistry letters, 2006)ペプチド配列GGGRRを選択した。一方の重鎖のコネクター配列中にこの配列を組み入れて、uPAによって解放されるdsFv融合物を作製した(
図3b)。本発明者らが組換え発現のために使用するHEK293細胞は、有意なレベルのuPAを有していない。そのため、uPA認識部位を含むコネクターを有する実体を発現し精製した結果、伸長された2つのH鎖を有する制限的な分子が得られた。プロテインAおよびSECによる精製後の収率(6〜15mg/L、表2を参照されたい)ならびに精製された分子の組成は、プレシジョン部位を含む二重特異性変種と事実上同一であった(上記を参照されたい)。SDS-PAGEにより、(Her3実体のL鎖に加えて)、65kDの高さの位置にタンパク質のバンドが存在することが示されている。このバンドは、付加的なコネクターペプチド(2kd)およびVHドメインまたはVLドメイン(13kD)をC末端に有するH鎖(50kd)に相当する(
図4a)。
【0155】
CH3とVLの間のコネクター内のuPA部位を切断することにより、dsFvの制限が解かれ、完全な結合機能性を有する解放されたdsFvが生じる。
図5bは、uPA部位を含むコネクターがuPAの存在下で切断され得ることを示す。このプロセシングの結果は、伸長されたH鎖のうちの一方の通常の大きさ(52kd)への変換および付加的な13kDのVLドメインの出現として、目に見える。サイズ排除クロマトグラフィーおよび質量分析法によって示されているように、切断されるものの、分子は、安定なジスルフィド結合によって引き続き結合している。
【0156】
制限的な形態の二重特異性抗体およびuPAによってプロセシングされた形態の二重特異性抗体の親和性の比較を表3に記載する:uPAによるプロセシングによって、以前より既に完全に接近可能な抗原Her3に対する結合は変化しなかった。このことから、uPAはコネクター中の認識配列を特異的に攻撃するが、抗体の他の位置は攻撃しないことが示唆される。他方、UPAプロセシングによって立体障害を取り除くことにより、プレシジョンまたはフューリンによる切断に関して上記に示したのと同じ様に、dsFvの機能性が完全に回復し、cMetに対する親和性が改善して6倍大きくなった(表3)。
【0157】
uPAで切断可能なdsFvを含む二重特異性抗体誘導体を細胞アッセイ法においてさらに調査した:FACS実験により、プレシジョンまたはフューリンによって活性化された分子に関して認められたのと同じように有効に、非制限的な<Her3>アームがHer3陽性癌細胞に特異的に結合することが示された。また、Her3に依存するシグナル伝達経路を妨害するそれらの機能性も、完全に保持されていた(
図7a)。uPAによって切断可能なdsFvを含む二重特異性抗体がuPAによって活性化され得るかという疑問を検討するために、本発明者らは、A549肺癌細胞においてHGFシグナル伝達の指標としてのAKTリン酸化を測定した。対照として、フューリンによって活性化された完全に活性な分子および切断されていない(プレシジョン)制限的な分子を同じ様に使用した。
図7bは、HGFを介したAKTシグナル伝達に対するdsFvによる妨害の読み出し情報としてAKTリン酸化を測定した結果を示す。プロセシングされていない制限的な形態(不十分な結合)が細胞に適用された場合、阻害活性の低減を認めることができるのに対し、フューリンにプロセシングされた完全な結合能力のある形態によっては、十分な活性がもたらされている。このことから、活性を増大させるのにdsFvの解放が必要であることが裏付けられる。
【0158】
二重の活性を有する二重特異性抗体の作製に加えて、作製後にプロセシングされ得る1つの不活性化結合部分を有する二重特異性物が作製可能である。このような分子は、様々な用途に使用することができる。本発明者らは、uPA認識部位またはMMP認識部位によってプロセシングされ得る本発明者らの実験例分子を用いて、本発明者らが(非制限的な部分、例えばHer3によって)罹病細胞に不活性化モジュールを導くことができ、そこで第2の(例えばcMet)実体を選択的に活性化できることを証明する。
【0159】
この形態は、完全に活性化された形態においていくつかの望ましくない活性または非特異的活性を有する結合実体を標的化送達するために有利である。例えば、正常細胞上の標的を認識するが、正常細胞において機能することが望ましくないモジュールを、疾患組織に到達するまで覆い隠すことができる。そこで、組織特異的プロテアーゼによって第2の結合活性を解放し、完全な機能性を与えることができる。このアプローチによって、「悪」影響(sink effect)、すなわち、所望の位置に到達する前に多量の標的に望ましくない結合が起こることを防ぐことができる。また、抗原を有する非標的組織に対する抗体の潜在的な(毒性)副作用を緩和または防止することもできる。例えば、(uPAまたはMMPによる)腫瘍または炎症を起こした組織における、制限的なEGFR抗体の標的化された活性化によって、末梢組織における関連した生物学的(副)作用が緩和され得る。または、標的化されたデスレポーター活性化モジュールを覆い隠すことによって、他の組織において作用を示さずに、腫瘍または炎症を起こした組織における選択的活性化を行うことが可能になり得る。
【0160】
実施例5
標的1に非制限的に二価で結合し、標的2に低い程度で結合する四価の二重特異性抗体の設計(Tv_Erb-LeY_SS_M)
1つの標的抗原に対して非制限的な結合活性を有し、第2の抗原に対して制限的な活性を有するさらなる抗体誘導体の作製を可能にするために、本発明者らは、4つの抗原結合部位を有する分子を設計した。ここに説明する実施例において、本発明者らは、腫瘍細胞の表面でしばしば発現されるルイスY炭水化物抗原を認識する2つの結合部位を有する抗体誘導体を作製した。四価抗体誘導体の他の2つの結合部位は、多くの腫瘍細胞の表面で高いレベルで存在するが様々な正常組織上でも発現される抗原であるEGF受容体を認識した。
【0161】
1つの標的抗原に対して非制限的な結合活性を有し、第2の抗原に対して制限的な活性を有する四価抗体誘導体を作製するために本発明者らが選択した設計形式は、改変された完全長IgGに基づいた。これを
図8に示している:第1の特異性を有する抗体の対応するVHドメインおよびVLドメインが、第2の特異性を有する全長IgGのVHドメインおよびVLドメインのN末端に可動性リンカーペプチドによって融合されている。
【0162】
全長分子(第1の特異性)のN末端に位置するVH-VLヘテロ二量体を、VH44-VL100鎖間ジスルフィドによってさらに安定化した。これらの結合モジュールは、Y型のIgG誘導体の2つの(伸長された)アームにおいて完全に露出しており、したがって、同族の標的抗原に対する非制限的な結合を媒介する。本発明者らの実施例において、第1の(非制限的な)特異性は、ルイスY(LeY)抗原を対象とさせた。このために、マウス抗体B3の組換えdsFv(VHcys44-VLcys100)断片の以前に公開されている配列を選択した(Brinkmann, U., et al., PNAS 90(1993)7538-7542)。
【0163】
第2の特異性結合をもたらすVHドメインおよびVLドメインは、制限的な結合様式の結合モジュールを形成する。これらのFvドメインのN末端を、第1の特異性を有する付加的なVHドメインまたはVLドメインにつないだ。このように2箇所でN末端をつなぐことにより、第2の標的抗原に対する接近が制限される(その結果、親和性が低下する)。これらのつながれたFvによる第2の抗原結合の制限は、制限的なFvのドメインにVHcys44またはVLcys100を連結する2つのペプチドリンカーのうちの1つにプロテアーゼ部位を導入することによって、(組織/疾患特異的な様式で)解くことができる。本発明者らの実施例において、第2の(制限的な)特異性は、EGFR抗原を対象とさせた。このために、エルビタックス(Erbitux)(セツキシマブ(Cetuximab))の以前に公開されている配列を選択した({Li, 2005 1/id})。
【0164】
本発明者らがLeY dsFvのVHcys44をセツキシマブのVHドメインのN末端に連結するために適用した本発明者らのリンカー配列は、
であった。対応する第2のリンカーは、最後の8個のアミノ酸をプロテアーゼ認識配列で置き換えたものであり、配列
であった。本発明者らがLeY dsFvのVLcys100をセツキシマブのVLドメインのN末端に連結するリンカー配列中に導入したプロテアーゼ認識配列は、GPLGLWAQであった。この部位はMMP2およびMMP9によって認識および切断されて、切断、およびそれによって腫瘍において第2の特異性を解放することを可能にする(表1を参照されたい)。得られた本発明による四価抗体をTv_Erb-LeY_SS_Mと名付け、SEQ ID NO:16((MMP2およびMMP9によって切断可能な)プロテアーゼ切断部位を有するペプチドリンカーによってセツキシマブVL-Cκに融合されたB3 VHcys100からなる改変軽鎖)およびSEQ ID NO:17(プロテアーゼ切断部位を有していないペプチドリンカーによってセツキシマブ重鎖に融合されたB3 VHcys44からなる改変重鎖)に示す。
【0165】
本発明によるこの四価抗体Tv_Erb-LeY_SS_Mをコードする核酸配列を合成し(Geneart, Regensburg FRG)、核酸配列決定によってそれらのアイデンティティを確認した。この抗体誘導体のアミノ酸配列全体および対応する核酸配列をSEQ ID NO:16((MMP2およびMMP9によって切断可能な)プロテアーゼ切断部位を有するペプチドリンカーによってセツキシマブVL-Cκに融合されたB3 VHCys100からなる改変軽鎖)およびSEQ ID NO:17(プロテアーゼ切断部位を有していないペプチドリンカーによってセツキシマブ重鎖に融合されたB3 VHCys44からなる改変重鎖)に記載する。
【0166】
例示的に、以下の抗体を設計し、組換えによって発現させる(
図2cも参照されたい):
【0167】
実施例6
LeY抗原への非制限的な二価結合およびEGFRへの制限的で活性化可能な結合を示す四価二重特異性抗体(Tv_Erb-LeY_SS_M)の発現、精製、および特徴付け
プロテアーゼ切断部位を有していないペプチドリンカーによってセツキシマブVL-Cκに融合されたB3 VLCys100(アミノ酸配列はSEQ ID NO:16である)およびプロテアーゼ切断部位を有していないペプチドリンカーによってセツキシマブ重鎖に融合されたB3 VHCys44からなる改変重鎖(アミノ酸配列はSEQ ID NO:17である)をコードする核酸配列を、哺乳動物細胞における発現およびそれに続く分泌のためにベクター中にサブクローニングし、核酸配列決定によってこれらのベクターのアイデンティティを確認した。
【0168】
分泌性の二重特異性抗体Tv_Erb-LeY_SS_Mを作製するために、一過性発現を適用する。改変L鎖および改変H鎖をコードするプラスミドを、実施例1および実施例2で説明したのと同じ様式でHEK293浮遊細胞に同時トランスフェクトする。分泌された抗体誘導体を含む培養上清を1週間後に回収する。続いて、実施例2で説明したのと同じ様式でプロテインAおよびサイズ排除クロマトグラフィーによる精製にこれらの上清を供する。
【0169】
全精製工程の完了後、生物物理学解析および機能解析のための均質なタンパク質Tv_Erb-LeY_SS_Mが得られる。これらの解析には、安定性解析(濃度依存性または温度依存性の異常な崩壊または凝集がないことを確認する)ならびに還元条件下および非還元条件下における四価の二重特異性抗体誘導体およびそれらの構成要素の大きさ、均質性、および組成を検討する実験が含まれる。タンパク質Tv_Erb-LeY_SS_Mのアイデンティティおよび組成を、質量分析法によって確認する。
【0170】
LeY dsFvにEGFR可変領域を二重につなぐことにより、抗原の接近が減少し、それによって、EGFR結合モジュールの機能性が不活性化される。ただ1つのコネクターペプチドの周りをdsFvが自由に回転できれば、第2の抗原への接近が劇的に増える可能性が高いと思われるが、2つの連結点で融合されているため、高い柔軟性を持つことも、大きく回転することもできない。
【0171】
制限的な第2の結合部分の不活性化された結合機能性を再活性化するために、本発明者らは、2つのコネクターペプチドのうちの一方に特異的なプロテアーゼ認識部位を導入した(
図8に概略的に示す。SEQ ID NO:16を参照されたい)。このアプローチに関する本発明者らの理論的根拠は、2つの連結のうちの1つだけを解除するためにタンパク質分解切断を利用するというものであった。タンパク質分解プロセシングをした際、dsFvは依然として、他方のコネクターによって二重特異性抗体の主な分子IgGに共有結合的に連結されているはずである。しかし、二重連結とは異なり、たった1つの可動性の連結点で結合されているため、可動性が向上し、第2の抗原への接近を容易にする自由な回転が可能になり得る。
【0172】
タンパク質分解プロセシングによる、(EGFRを認識する)制限的な結合部位の特異的活性化を評価するために、本発明者らはマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)2および9によって認識され得るプロテアーゼ部位を含む融合配列を含む抗体誘導体を解析する。高レベルのMMPの存在は、腫瘍のような罹病組織にかなり特異的である。一方、本発明者らが組換え発現のために使用するHEK293 細胞のような大半の「正常な」哺乳動物細胞は、有意なレベルのこのようなMMPを有していない。したがって、制限的な結合部位を含む二重特異性実体は、不活性な前駆体として発現されるが、疾患組織においてMMP2および/またはMMP9に曝露されると活性化される。別のコネクター配列は、プロテアーゼウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)によって認識されることができ、uPAの過剰発現が様々な悪性腫瘍において見出されていることが理由である。
【0173】
実施例2における発明者らの発現研究により、本発明者らが組換え発現のために使用するHEK293細胞は、有意なレベルのMMP2およびMMP9を有していないことが示された。そのため、このようなコネクターを有する実体を発現させ精製すると、第2の結合部位が制限されている分子が生じる。これは、切断されていない伸長された軽鎖および重鎖の存在を示すSDS-PAGE解析によって可視化することができる。Tv_Erb-LeY_SS_MのVLCys100とVLの間のコネクター内のMMP2/9部位を切断すると、EGFR結合部分の制限が解かれる。
【0174】
このプロセシングの結果は、伸長された軽鎖のうちの一方が通常の大きさ(25kd)に変換され、付加的な13kDのVLcys100ドメインが出現するため、還元下のSDS-PAGE解析において可視化することができる。切断されるものの、分子は、安定なジスルフィド結合によって引き続き結合しており、これはサイズ排除クロマトグラフィーおよび質量分析法によって示されている。
【0175】
制限的なEGFR結合部分を解放する(resolvation)ことにより、LeY抗原ならびにEGFRに対する非制限的な結合機能性を有する解放された分子が生じる。制限的な結合モードから、解放された十分に接近可能な結合モードに変換する効果は、第2の標的抗原EGFRに対する結合親和性を測定することによって実証することができる。表面プラズモン共鳴解析によって、制限的なセツキシマブモジュールの同族抗原(EGFRの細胞外ドメイン)に対する親和性が制限的な形態で低下していることを示すことができる。MMP2/9切断によって制限が解かれ、それによって、セツキシマブ由来の結合モジュールの親和性が向上する。
【0176】
実施例7
MCSPに非制限的に二価で結合しCD95に低い程度で結合する本発明による二重特異性抗体の発現および精製
MCSPに非制限的に二価で結合しCD95に低い程度で結合する(
図2dに記載の)二重特異性抗体を、プロテアーゼ切断部位を有していないペプチドリンカーとして(G
4S)
3リンカーを用い、かつ腫瘍特異的プロテアーゼ切断部位を有するペプチドリンカーとしてMMP特異的プロテアーゼ切断部位(MMP1特異的、MMP2特異的、およびMMP9特異的、または交差特異的)を有する様々なリンカーを用いて、発現させる。分泌性の二重特異性抗体誘導体を作製するために、一過性発現を適用する。L鎖および改変されたH鎖をコードするプラスミドをHEK293浮遊細胞中に同時トランスフェクトする。分泌された抗体誘導体を含む培養上清を1週間後に回収する。プロテインAおよびSECによって、上清から二重特異性抗体を精製する。
【0177】
SDSpageおよび質量分析法によって、得られた精製済み二重特異性抗体を、大きさ、均質性、および組成に関してさらに調査する。切断前後の結合親和性を表面プラズモン共鳴解析によって測定する。