【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の主要な目的は、組成物X’を形成する目的で混合されるための少なくとも二つの異なる部分AおよびBを含む多成分系Sの形を呈する、重付加反応により架橋可能および/または硬化可能である組成物Xであって、
a)部分Aが、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属、好ましくはカールシュテット白金で構成される少なくとも一つの触媒Eと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− 無機酸が塩化白金酸のようには白金を含まないことを条件として、少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含み、
b)部分Bが、
− 同一であるか異なるものであるケイ素原子に結合した水素原子を1分子につき少なくとも2個有する少なくとも一つのポリオルガノシロキサンH
を含んでいる、
組成物Xからなる。
【0014】
「無機酸」という表現には、触媒として公知である塩化白金酸などの白金の酸誘導体が含まれないものと理解される。
【0015】
出願人は、全く意外にも、まさに本発明の目的となっていること、すなわち、保管のために多成分の形で包装された一つの組成物の同じ部分の中で有機酸または無機酸と組み合わされたα−α’−アセチレンジオールをヒドロシリル化阻害剤として使用することによって、以下のことが可能になるということを発見した。すなわち、
− シリコーン媒質中でのα−α’−アセチレンジオール阻害剤の溶解度を改善し、完全に透明かつ無色の混合物を得ること、
− 阻害剤が真性α−アセチレンアルコールタイプのものである場合と比べて、系の成分を制限された数に維持すること、および
− ECHなどの真性α−アセチレンアルコールに匹敵する、阻害開始温度での性能を有しながら、酸無しの同一の系と比べて、周囲温度での阻害時間を改善すること。
【0016】
好ましい一実施形態によると、本発明に係る組成物Xは、
a)部分Aが、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属、好ましくはカールシュテット白金で構成される少なくとも一つの触媒Eと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− オルトリン酸、オルト亜リン酸、過ヨウ素酸、硫酸、亜硫酸およびチオ硫酸からなる群から選択される少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含み、
b)部分Bが、
− 同一であるか異なるものであるケイ素原子に結合した水素原子を1分子につき少なくとも2個有する少なくとも一つのポリオルガノシロキサンH
を含んでいる、組成物である。
【0017】
好ましい一実施形態によると、組成物には、少なくとも一つの添加剤Fを含み、部分AおよびBと異なるものである、第三の部分Cが含まれる。
【0018】
好ましくは、阻害剤D1は、下記式(1)
(R
1)(R
2)(OH)C−C≡C−C(OH)(R
3)(R
4) (1)
のα−α’−アセチレンジオールであり、
式中、
− 同一であるか異なるものであるラジカルR
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状の一価のアルキル基、シクロアルキル基、(シクロアルキル)アルキル基、芳香族基またはアリールアルキル基を表し、
− ラジカルR
1、R
2、R
3およびR
4は、一つ以上の置換基によって任意に置換される5、6、7または8員の脂肪族環を形成するような形で2個ずつ結合され得る。
【0019】
好ましくは、阻害剤D1は、下記式(2)〜(9)のα−α’−アセチレンジオールからなる群から選択される。
【化1】
【0020】
好ましくは、[阻害剤D1]/[酸D2]のモル比は、0.1〜20、好ましくは1〜10、そしてより一層好ましくは2.5〜6.5である。
【0021】
好ましい一実施形態によると、酸D2は、水溶液の形でかつ25℃で、値が−0.9≦pKa≦+6.5の間隔内に含まれるpKaを少なくとも一つ示す。
【0022】
本発明に係る有用な酸D2の例は、例えば以下の酸からなる群から選択される。
メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、安息香酸、エタン二酸、1,3−プロパン二酸、1,4−ブタン二酸、1,5−ペンタン二酸、1,6−ヘキサン二酸、ベンゼンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、パラアミノ安息香酸、アジピン酸、オルトアミノ安息香酸、安息香酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ピルビン酸、サリチル酸、コハク酸、シュウ酸、グルタル酸、フタル酸、ベンゼン−1,4−ジカルボン酸、ピクリン酸、ピメリン酸、フマル酸、ピメリン酸、グリコール酸、セバシン酸、クロロエタン酸、ジクロロエタン酸、トリフルオロ酢酸、アスコルビン酸、ジクロロエタン酸、トリクロロ酢酸、酒石酸、ホウ酸、クロロ硫酸、フルオロホウ酸、フルオロ硫酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、オルトリン酸、オルト亜リン酸、過ヨウ素酸、亜硫酸およびチオシアン酸、チオ硫酸。
【0023】
別の好ましい実施形態によると、酸D2は、メタン酸、オルトリン酸、ヘプタン酸、トリフルオロ酢酸およびマロン酸からなる群から選択される。
【0024】
[阻害剤D1]/[触媒C]のモル比が10〜60であり、[酸D2]/[触媒C]のモル比が10〜60であることが有利である。
【0025】
本発明の一変形形態によると、ポリオルガノシロキサンVおよびオルガノヒドロポリシロキサンHの割合は、オルガノポリシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するオルガノヒドロポリシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものである。
【0026】
有利には、本発明に係るポリオルガノシロキサンVは、
− 下記式(V.1)の少なくとも二つのシロキシル単位を有し、:
T
aZ
bSiO
4-(a+b)/2 (V.1)
(式中、
− Tはアルケニル基であり、
− Zは、少なくとも一つのハロゲン原子により任意に置換された1〜8個の炭素原子を有するアルキル基と、アリール基とからなる群から選択された、一価の炭化水素基であり、
− aは、1または2に等しく、bは0、1または2に等しく、a+bの和は1〜3である)
− 任意に、他のシロキシル単位の少なくとも一部分は、下記式(V.2)の単位である:
Z
cSiO
4-c/2 (V.2)
(式中、
− Zは、上述のものと同じ意味を有し、cは0、1、2または3に等しい)。
【0027】
一般に、オルガノポリシロキサンVは、少なくとも50mPa・sに等しく、好ましくは200,000mPa・s未満である粘度を有する。
【0028】
有利には、本発明に係るオルガノヒドロポリシロキサンHは、
− 下記式(H.1)の少なくとも二つ、好ましくは少なくとも三つのシロキシル単位を有し、:
H
dL
eSiO
4-(d+e)/2 (H.1)
(式中、
− Lは、触媒の活性に対して不利な作用を示さず、少なくとも一つのハロゲン原子により任意に置換された1〜8個の炭素原子を有するアルキルと、アリールとからなる群から選択された、一価の炭化水素基であり、
− Hは水素原子であり、
− dは、1または2に等しく、eは0、1または2に等しく、d+eの和は1、2または3である)
− 任意に、他のシロキシル単位の少なくとも一部分は、下記式(H.2)の単位である:
L
gSiO
4-g/2 (H.2)
(式中、
− Lは、上述のものと同じ意味を有し、gは0、1、2または3に等しい)。
【0029】
一般に、オルガノヒドロポリシロキサンHの動粘度は、少なくとも10mPa・sに等しく、好ましくは20〜1000mPa・sである。
【0030】
有利には、ポリオルガノシロキサンVおよびポリオルガノシロキサンHの割合は、ポリオルガノシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するポリオルガノシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものである。詳細には、シロキシル単位(V.1)および(H.1)の割合は、オルガノポリシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するオルガノヒドロポリシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものである。
【0031】
本発明の一変形形態によると、本発明に係るシリコーン組成物Xは、例えば紙製の固体支持体用の非粘着性シリコーンコーティングの分野における従来の一つ以上の添加剤を含むことができる。これは例えば、シリカ粒子または分岐鎖状ポリオルガノシロキサンなどのミスト防止(「anti−misting」)添加剤であり得る。
【0032】
別の変形形態によると、本発明に係るシリコーン組成物Xは、粘着調節系ならびにこのタイプの利用分野における通常の添加剤、例えば殺菌剤、不凍剤、湿潤剤、消泡剤、充填剤、合成ラテックスまたは着色剤を含むこともできる。
【0033】
本発明の別の目的は、上述のとおりの組成物Xの各部分を混合することによって得られるシリコーン組成物X’にある。
【0034】
本発明に係るシリコーン組成物X’は、可撓性支持体または可撓性材料上に、五本ローラー付き被覆加工ヘッド、エアナイフシステムまたは均し棒システムなどの、紙の被覆加工産業用機械上で使用される装置を用いて塗布可能であり、その後70〜200℃に加熱したトンネル炉内を循環させることにより硬化される。この炉内の通過時間は、温度によって決まる。この時間は、一般には、およそ100℃の温度でおよそ5〜15秒であり、およそ180℃の温度でおよそ1.5〜3秒である。
【0035】
シリコーン組成物X’は、さまざまなタイプの紙(スーパー仕上げ紙、塗工紙、グラシン紙)、ボール紙、セルロースシート、金属シート、プラスチック材料フィルム(ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などのあらゆる可撓性材料または可撓性基材上に被着され得る。
【0036】
被着される組成物の量は、一般に、処理すべき表面1m
2あたりおよそ0.1〜5gであり、これはおよそ0.1〜5μmの層の被着に相当する。
【0037】
こうして被覆加工された材料または支持体はその後、圧力に感応するゴム、アクリルまたは他の、任意の接着材料と接触させることができる。このとき、接着材料は、前記支持体または材料から容易に切り離すことができる。
【0038】
本書中で問題になっている粘度は全て、25℃でそれ自体公知の方法で測定される動粘度の大きさに対応する。
【0039】
本出願の以下の部分においては、さまざまなシロキシル単位を示すためM、D、TおよびQの文字が使用される通常の表記法を用いて、従来どおりの形でポリオルガノシロキサンオイルについて記載する。この表記法では、シロキシル単位のケイ素原子は、同数の酸素原子と一つ(M)、二つ(D)、三つ(T)または四つ(Q)の共有結合で結合する。1酸素原子が二つのケイ素原子間で共有される場合、それは1/2として計数化され、省略した式中においては言及されない。これに対し、酸素原子が、ケイ素原子に結合したアルコキシル基またはヒドロキシル基に属する場合、この化学官能基は、省略式中でカッコ内に記される。既定では、ケイ素原子の残りの結合は、炭素原子と結合しているものとみなす。一般にC−Si結合によりケイ素に結合した炭化水素基は言及されず、最も多くの場合、アルキル基、例えばメチル基に相当する。炭化水素基が、特定の官能基を有する場合、それは、上付文字で記される。例えば、省略式:
− M
viは、ケイ素原子が酸素原子に結合しており、C−Si結合を形成する炭化水素基の一つがビニル基である単位、すなわちジアルキルビニルシロキシル単位を表し、
− M’は、ケイ素原子が一水素原子、所定の一原子および二つのメチル基に結合している単位を表す。
【0040】
参考として、以下のものを引用することができる:NOLL「Chemistry and technology of silicones」、第1.1章、1〜9頁、Academic Press、1968年−第2版。
【0041】
別の態様によると、本発明は、以上に記載されたとおりの本発明に係るシリコーン組成物X’の架橋または硬化によって得られる、シリコーンエラストマーYに関する。
【0042】
本発明は、固体支持体、好ましくは、紙、ボール紙、セルロースシート、金属製シートまたはプラスチック材料フィルムなどの可撓性固体支持体上で非粘着性および防湿性の架橋エラストマーコーティングを実施するための被覆加工ベースとしての、本発明に係るシリコーン組成物X’の使用にも関する。
【0043】
本発明の別の目的は、60℃超、好ましくは70℃〜200℃の温度での加熱によって架橋もしくは硬化された、上述のとおりの本発明に係るシリコーン組成物X’、または上述のとおりの本発明に係るシリコーンエラストマーYを用いて少なくとも部分的にコーティングされた、固体支持体にある。
【0044】
本発明はまた、可撓性支持体S上への被覆加工方法にも関するものであって、該方法は、
a)上述のとおりの本発明に係るシリコーン組成物Xを調製するステップと、
b)シリコーン組成物Xの各部分を混合して組成物X’を形成するステップと、
c)その後、前記可撓性支持体S上に前記シリコーン組成物X’を連続的にまたは不連続的に被着させるステップと、
d)60℃超、好ましくは70℃〜200℃の温度での加熱により、シリコーン組成物X’を架橋させるステップと、
を含む。
【0045】
好ましくは、可撓性支持体Sは、紙製、織物製、ボール紙製、金属製またはプラスチック材料製である。
【0046】
例えば、可撓性支持体Sは、織物製、紙製、ポリ塩化ビニル(PVC)製、ポリエステル製、ポリプロピレン製、ポリアミド製、ポリエチレン製、ポリウレタン製、ガラス繊維不織布製またはポリエチレンテレフタレート(PET)製であり得る。
【0047】
最後に、本発明の最終の目的は、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属で構成される少なくとも一つの触媒Cと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− 無機酸が塩化白金酸のようには白金を含まないことを条件として、少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含む、シリコーン組成物に関する。
【0048】
この組成物は、本発明に係る組成物Xの部分Aとして有用である。
【0049】
以下の非限定的な実施例により、本発明をより良く理解し、その全ての利点および変形実施態様を把握することができる。