特許第5753909号(P5753909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753909ヒドロシリル化反応阻害剤および安定した硬化性シリコーン組成物の調製を目的とするその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753909
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】ヒドロシリル化反応阻害剤および安定した硬化性シリコーン組成物の調製を目的とするその使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20150702BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20150702BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20150702BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20150702BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20150702BHJP
   C09D 183/05 20060101ALI20150702BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K5/053
   C08J7/04 ZCFH
   C09D183/07
   C09D183/05
   B32B27/00 101
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-545455(P2013-545455)
(86)(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公表番号】特表2014-507501(P2014-507501A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】FR2011000665
(87)【国際公開番号】WO2012085364
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年8月27日
(31)【優先権主張番号】10005111
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513054037
【氏名又は名称】ブルースター シリコンズ フランス
【氏名又は名称原語表記】BLUESTAR SILICONES FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】マロー,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マーダディ,ヤシン
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−057144(JP,A)
【文献】 特開平11−222524(JP,A)
【文献】 特開2008−013768(JP,A)
【文献】 特開2007−131750(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/076710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
B32B 27/00−27/42
C08J 7/00−7/18
C08K 5/00−5/59
C09D 183/00−183/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物X’を形成する目的で混合されるための少なくとも二つの異なる部分AおよびBが多成分形態に包装された、重付加反応により架橋可能および/または硬化可能である組成物Xであって、
a)部分Aが、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属で構成される少なくとも一つの触媒Eと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− 無機酸が塩化白金酸のようには白金を含まないことを条件として、少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含み、
b)部分Bが、
− 同一であるか異なるものであるケイ素原子に結合した水素原子を1分子につき少なくとも2個有する少なくとも一つのポリオルガノシロキサンH
を含んでいる、
組成物X。

【請求項2】
前記触媒Eがカールシュテット白金で構成される、請求項1に記載の組成物X。
【請求項3】
a)部分Aが、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属で構成される少なくとも一つの触媒Eと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− オルトリン酸、オルト亜リン酸、過ヨウ素酸、硫酸、亜硫酸およびチオ硫酸からなる群から選択される少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含み、
b)部分Bが、
− 同一であるか異なるものであるケイ素原子に結合した水素原子を1分子につき少なくとも2個有する少なくとも一つのポリオルガノシロキサンH
を含んでいる、
請求項1または2に記載の組成物X。
【請求項4】
少なくとも一つの添加剤Fを含み、部分AおよびBと異なるものである、第三の部分Cが存在する、請求項1または2に記載の組成物X。
【請求項5】
阻害剤D1が、下記式(1)
(R1)(R2)(OH)C−C≡C−C(OH)(R3)(R4) (1)
のα−α’−アセチレンジオールであり、
式中
− 同一であるか異なるものであるラジカルR1、R2、R3およびR4が互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状の一価のアルキル基、シクロアルキル基、(シクロアルキル)アルキル基、芳香族基またはアリールアルキル基を表し、かつ
− ラジカルR1、R2、R3およびR4が、一つ以上の置換基によって任意に置換される5、6、7または8員の脂肪族環を形成するような形で2個ずつ結合され得る、
請求項1〜3のいずれか一つに記載の組成物X。
【請求項6】
阻害剤D1が、下記式(2)〜(9)のα−α’−アセチレンジオールからなる群から選択される、請求項1〜3またはのいずれか一つに記載の組成物X。
【化1】
【請求項7】
[阻害剤D1]/[酸D2]のモル比が、0.1〜20である、請求項1または2に記載のシリコーン組成物X。
【請求項8】
[阻害剤D1]/[酸D2]のモル比が1〜10である、請求項1または2に記載のシリコーン組成物X。
【請求項9】
[阻害剤D1]/[酸D2]のモル比が2.5〜6.5である、請求項1または2に記載のシリコーン組成物X。
【請求項10】
酸D2が、水溶液の形でかつ25℃で、値が−0.9≦pKa≦+6.5の間隔内に含まれるpKaを少なくとも一つ示す、請求項1、2または7〜9のいずれか一つに記載のシリコーン組成物X。
【請求項11】
酸D2が、メタン酸、オルトリン酸、ヘプタン酸、トリフルオロ酢酸およびマロン酸からなる群から選択される、請求項1、または7〜10のいずれか一つに記載のシリコーン組成物X。
【請求項12】
ポリオルガノシロキサンVおよびポリオルガノシロキサンHの割合は、ポリオルガノシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するポリオルガノシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一つに記載のシリコーン組成物X。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一つに記載の組成物Xの各部分の混合により得られる、シリコーン組成物X’。
【請求項14】
請求項13に記載のシリコーン組成物X’の架橋または硬化によって得られる、シリコーンエラストマーY。
【請求項15】
固体支持体上で非粘着性および防湿性の架橋エラストマーコーティングを実施するための被覆加工ベースとして有用である、請求項13に記載のシリコーン組成物X’の使用方法。
【請求項16】
前記固体支持体が紙、ボール紙、セルロースシート、金属製シートまたはプラスチック材料フィルムなどの可撓性固体支持体である、請求項15に記載のシリコーン組成物X’の使用方法。
【請求項17】
60℃超の温度での加熱によって架橋もしくは硬化された請求項12に記載のシリコーン組成物X’、または請求項14に記載のシリコーンエラストマーYを用いて少なくとも部分的にコーティングされた、固体支持体。
【請求項18】
可撓性支持体S上への被覆加工方法であって、
a) 請求項1〜12のいずれか一つに記載のシリコーン組成物Xを調製するステップと、
b) シリコーン組成物Xの各部分を混合して組成物X’を形成するステップと、
c) その後、前記可撓性支持体S上に前記シリコーン組成物X’を連続的にまたは不連続的に被着させるステップと、
d) 60℃超の温度での加熱により、シリコーン組成物X’を架橋させるステップと
を含む方法。
【請求項19】
可撓性支持体Sが、紙製、織物製、ボール紙製、金属製またはプラスチック材料製であることを特徴とする、請求項18に記載の被覆加工方法。
【請求項20】
可撓性支持体Sが、織物製、紙製、ポリ塩化ビニル(PVC)製、ポリエステル製、ポリプロピレン製、ポリアミド製、ポリエチレン製、ポリウレタン製、ガラス繊維不織布製またはポリエチレンテレフタレート(PET)製であることを特徴とする、請求項19に記載の被覆加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、阻害剤化合物の使用、詳細には、ヒドロシリル化反応によって得られるシリコーンエラストマー前駆体であるシリコーン組成物の硬化を阻害するのに好適な阻害剤化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロシリル化反応は、シリコーン産業において、官能化されたシランまたはシロキサンを獲得するためだけでなく、ポリメチルヒドロシロキサンオイルとポリメチルビニルシロキサンオイルの間での架橋によって得られるシリコーン架橋構造の調製のためにも広く用いられている。これらの反応は、一般に、白金、特にシリコーン媒質内での溶解度および高い反応性のために高く評価されているカールシュテット白金での有機金属触媒作用によって実施される。これらの条件下で、ヒドロシリル化反応は、周囲温度で高い反応速度を有し、数分で反応を完了するのに触媒が数十ppm(百万分率)あれば充分である。したがって紙またはポリマーフィルム製の支持体上に防湿性および非粘着性のフィルムまたはコーティングを形成するためには、ヒドロシリル化反応により架橋可能なシリコーン組成物が使用される。しかしながら、これらの利用分野のためには、調合物浴を調製し、輸送しかつ使用する時間を得る目的で、一時的にヒドロシリル化反応を阻害する必要がある。重付加系の一時的阻害は、温度の効果によって熱活性化可能な阻害剤として作用する有機化合物を使用することによってか、または紫外線によって活性化可能な光触媒系を使用することにより可能となる。例えば、紙の非粘着性の利用分野については、調合物浴が周囲温度で数時間、液体状態にとどまること、そして調合物浴が支持体上に被着され、100〜150℃の間に温度が維持されている被覆加工炉内に導入された時点で、架橋が極めて急速(数秒)であることが求められる。
【0003】
重付加反応により架橋可能および/または硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物のポットライフを延長させる必要がある場合、硬化阻害剤を組み込むのが標準的である。硬化阻害剤は、周囲温度での硬化を減速するものの、より高温での硬化は遅延させない化合物である。これらの硬化阻害剤は、コーティング組成物から取り除かれるのに充分な程度の揮発性を有する。
【0004】
オレフィン不飽和を有する置換基を担持する有機ケイ素ポリマー(特にビニルポリマー)、オルガノヒドロシロキサンポリマーおよび白金または白金化合物タイプの触媒をベースとする、硬化可能なシリコーン組成物内のヒドロシリル化阻害剤として、250℃未満の沸点をもつアセチレンアルコール、特に2−メチル−3−ブチン−2−オールおよびエチニルシクロヘキサノール(ECH)などのα−アセチレン化合物を使用することが公知である。例えば、米国特許第3445420号明細書を参照のこと。
【0005】
これらのアセチレン化合物の存在は、周囲温度で硬化反応の触媒として作用するのを妨げることによって白金触媒を阻害するが、高温ではそうではない。実際、このタイプの阻害剤を含む硬化可能なシリコーン組成物は、組成物の温度を阻害剤の沸点または昇華点より高い温度まで上昇させ、こうして阻害剤またはその阻害剤の一部分を蒸発させ、そして触媒がヒドロシリル化反応の触媒として作用できるようにし、ひいてはシリコーン組成物の硬化を可能にすることによって硬化され得る。
【0006】
しかしながら、広く使用されてはいるものの、エチニルシクロヘキサノール(ECH)には、これらの組成物をその使用前に保管するにあたり、カールシュテット白金という非常に広く用いられている白金触媒の存在下では包装することができないという欠点がある。実際、これら二つの化合物が、周囲温度(20℃)で共存する場合、コロイドの形での白金の沈殿が観察され、これらのコロイドは調合物を強力に着色する(わずか数時間で黒色へと変化する黄色の出現)。これは、このような組成物の保管にとって重大な問題である。このような理由から、ECHのような真性α−アセチレンアルコールを使用する重付加シリコーン組成物は、その使用まで、「多成分」形態で包装され、すなわち、組成物の構成要素は、次のものを分離する形で、異なる部分(すなわち成分中)に入れられる:
− 着色の問題を回避するため、触媒阻害剤、および
− 安全性のため、触媒のオルガノヒドロシロキサンポリマー。
【0007】
こうして、紙の非粘着性における利用分野向けの従来の重付加シリコーン組成物は、その使用まで、以下の異なる3部分または4部分を一般に含む多成分の形で包装される:
− 少なくともポリメチルビニルシロキサンと、調合物の安定性および使用を保証するヒドロシリル化反応の阻害剤とを含む、第1の部分(I)、
− 少なくとも一つのヒドロシロキサンポリマーを含む第2の部分(II)、
− 白金系触媒を含む第3の部分(III)、
− 任意に、所望の利用分野に固有の特性をもたらす調合物添加剤を含む第4の部分(IV)。
【0008】
多成分形態に包装されたこれらの組成物の使用に際しては、部分(I)と触媒作用部分(III)を直接混合してはならないことが公知である。この理由から、一般的な実践方法は、ポリメチルビニルシロキサンおよびヒドロシロキサンポリマーを含む部分(I)および(II)を予め混合してから、触媒作用部分(III)を導入して、触媒の沈殿現象および組成物の着色を回避することにある。
【0009】
ヒドロシリル化反応阻害剤のうち、α−α’−アセチレンジオールは、これらの問題を有しない。α−α’−アセチレンジオールは、上述の沈殿現象を導くことなく白金触媒の存在下に置くことができる。このことには、重付加系のための成分の数を削減できるという利点がある。しかしながら、これは、シリコーン媒質中で溶解度の低い阻害剤であり、不透明の調合物をもたらす。このため、透明度が不可欠の基準である紙の非粘着性の利用分野では特に、これらの利用には制限がある。その上、例えば化合物2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(TMDD)などのα−α’−アセチレンジオールを含む組成物は、最も多くの場合、真性α−アセチレンアルコール(例えばECH)を含む組成物よりも、周囲温度で急速に架橋する。この事実からも同様に、被覆加工浴の安定性に関係する補足的制約条件(シリコーン組成物を含むゲル化の問題)を追加することなく有効に、被覆加工された支持体の生産を準備できるようにするためには、周囲温度での架橋時間が長くなってしまう、紙の非粘着性の利用分野では特に、それらの利用には制限があることが分かる。
【0010】
したがって、先行技術の提案は、特に、防湿性コーティングを調製するためのシリコーン組成物の支持体上への被覆加工のような要求度の高い利用分野について、充分な解決法をもたらすものではないことを認めざるを得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の本質的な目的の一つは、
− 保管の際に、阻害剤の存在下で白金触媒が包装された場合に白金触媒の沈殿の問題をもはや有さず、
− 特に機械上での被覆加工作業の際に、組成物の全構成要素が、組成物の使用の前に混合される場合、周囲温度で数時間安定しており、かつ
− 100〜180℃の従来の硬化温度で支持体上で急速に架橋する、
重付加反応により硬化することのできるシリコーン組成物Xを提供することにある。
【0012】
本発明のもう一つの本質的な目的は、本発明に係る組成物を使用する可撓性支持体上への被覆加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の主要な目的は、組成物X’を形成する目的で混合されるための少なくとも二つの異なる部分AおよびBを含む多成分系Sの形を呈する、重付加反応により架橋可能および/または硬化可能である組成物Xであって、
a)部分Aが、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属、好ましくはカールシュテット白金で構成される少なくとも一つの触媒Eと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− 無機酸が塩化白金酸のようには白金を含まないことを条件として、少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含み、
b)部分Bが、
− 同一であるか異なるものであるケイ素原子に結合した水素原子を1分子につき少なくとも2個有する少なくとも一つのポリオルガノシロキサンH
を含んでいる、
組成物Xからなる。
【0014】
「無機酸」という表現には、触媒として公知である塩化白金酸などの白金の酸誘導体が含まれないものと理解される。
【0015】
出願人は、全く意外にも、まさに本発明の目的となっていること、すなわち、保管のために多成分の形で包装された一つの組成物の同じ部分の中で有機酸または無機酸と組み合わされたα−α’−アセチレンジオールをヒドロシリル化阻害剤として使用することによって、以下のことが可能になるということを発見した。すなわち、
− シリコーン媒質中でのα−α’−アセチレンジオール阻害剤の溶解度を改善し、完全に透明かつ無色の混合物を得ること、
− 阻害剤が真性α−アセチレンアルコールタイプのものである場合と比べて、系の成分を制限された数に維持すること、および
− ECHなどの真性α−アセチレンアルコールに匹敵する、阻害開始温度での性能を有しながら、酸無しの同一の系と比べて、周囲温度での阻害時間を改善すること。
【0016】
好ましい一実施形態によると、本発明に係る組成物Xは、
a)部分Aが、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属、好ましくはカールシュテット白金で構成される少なくとも一つの触媒Eと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− オルトリン酸、オルト亜リン酸、過ヨウ素酸、硫酸、亜硫酸およびチオ硫酸からなる群から選択される少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含み、
b)部分Bが、
− 同一であるか異なるものであるケイ素原子に結合した水素原子を1分子につき少なくとも2個有する少なくとも一つのポリオルガノシロキサンH
を含んでいる、組成物である。
【0017】
好ましい一実施形態によると、組成物には、少なくとも一つの添加剤Fを含み、部分AおよびBと異なるものである、第三の部分Cが含まれる。
【0018】
好ましくは、阻害剤D1は、下記式(1)
(R1)(R2)(OH)C−C≡C−C(OH)(R3)(R4) (1)
のα−α’−アセチレンジオールであり、
式中、
− 同一であるか異なるものであるラジカルR1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状の一価のアルキル基、シクロアルキル基、(シクロアルキル)アルキル基、芳香族基またはアリールアルキル基を表し、
− ラジカルR1、R2、R3およびR4は、一つ以上の置換基によって任意に置換される5、6、7または8員の脂肪族環を形成するような形で2個ずつ結合され得る。
【0019】
好ましくは、阻害剤D1は、下記式(2)〜(9)のα−α’−アセチレンジオールからなる群から選択される。
【化1】
【0020】
好ましくは、[阻害剤D1]/[酸D2]のモル比は、0.1〜20、好ましくは1〜10、そしてより一層好ましくは2.5〜6.5である。
【0021】
好ましい一実施形態によると、酸D2は、水溶液の形でかつ25℃で、値が−0.9≦pKa≦+6.5の間隔内に含まれるpKaを少なくとも一つ示す。
【0022】
本発明に係る有用な酸D2の例は、例えば以下の酸からなる群から選択される。
メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、安息香酸、エタン二酸、1,3−プロパン二酸、1,4−ブタン二酸、1,5−ペンタン二酸、1,6−ヘキサン二酸、ベンゼンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、パラアミノ安息香酸、アジピン酸、オルトアミノ安息香酸、安息香酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ピルビン酸、サリチル酸、コハク酸、シュウ酸、グルタル酸、フタル酸、ベンゼン−1,4−ジカルボン酸、ピクリン酸、ピメリン酸、フマル酸、ピメリン酸、グリコール酸、セバシン酸、クロロエタン酸、ジクロロエタン酸、トリフルオロ酢酸、アスコルビン酸、ジクロロエタン酸、トリクロロ酢酸、酒石酸、ホウ酸、クロロ硫酸、フルオロホウ酸、フルオロ硫酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、オルトリン酸、オルト亜リン酸、過ヨウ素酸、亜硫酸およびチオシアン酸、チオ硫酸。
【0023】
別の好ましい実施形態によると、酸D2は、メタン酸、オルトリン酸、ヘプタン酸、トリフルオロ酢酸およびマロン酸からなる群から選択される。
【0024】
[阻害剤D1]/[触媒C]のモル比が10〜60であり、[酸D2]/[触媒C]のモル比が10〜60であることが有利である。
【0025】
本発明の一変形形態によると、ポリオルガノシロキサンVおよびオルガノヒドロポリシロキサンHの割合は、オルガノポリシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するオルガノヒドロポリシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものである。
【0026】
有利には、本発明に係るポリオルガノシロキサンVは、
− 下記式(V.1)の少なくとも二つのシロキシル単位を有し、:
abSiO4-(a+b)/2 (V.1)
(式中、
− Tはアルケニル基であり、
− Zは、少なくとも一つのハロゲン原子により任意に置換された1〜8個の炭素原子を有するアルキル基と、アリール基とからなる群から選択された、一価の炭化水素基であり、
− aは、1または2に等しく、bは0、1または2に等しく、a+bの和は1〜3である)
− 任意に、他のシロキシル単位の少なくとも一部分は、下記式(V.2)の単位である:
cSiO4-c/2 (V.2)
(式中、
− Zは、上述のものと同じ意味を有し、cは0、1、2または3に等しい)。
【0027】
一般に、オルガノポリシロキサンVは、少なくとも50mPa・sに等しく、好ましくは200,000mPa・s未満である粘度を有する。
【0028】
有利には、本発明に係るオルガノヒドロポリシロキサンHは、
− 下記式(H.1)の少なくとも二つ、好ましくは少なくとも三つのシロキシル単位を有し、:
deSiO4-(d+e)/2 (H.1)
(式中、
− Lは、触媒の活性に対して不利な作用を示さず、少なくとも一つのハロゲン原子により任意に置換された1〜8個の炭素原子を有するアルキルと、アリールとからなる群から選択された、一価の炭化水素基であり、
− Hは水素原子であり、
− dは、1または2に等しく、eは0、1または2に等しく、d+eの和は1、2または3である)
− 任意に、他のシロキシル単位の少なくとも一部分は、下記式(H.2)の単位である:
gSiO4-g/2 (H.2)
(式中、
− Lは、上述のものと同じ意味を有し、gは0、1、2または3に等しい)。
【0029】
一般に、オルガノヒドロポリシロキサンHの動粘度は、少なくとも10mPa・sに等しく、好ましくは20〜1000mPa・sである。
【0030】
有利には、ポリオルガノシロキサンVおよびポリオルガノシロキサンHの割合は、ポリオルガノシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するポリオルガノシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものである。詳細には、シロキシル単位(V.1)および(H.1)の割合は、オルガノポリシロキサンV中のケイ素に結合したアルケニルラジカルに対するオルガノヒドロポリシロキサンH中のケイ素に結合した水素原子のモル比が、0.4〜10となるようなものである。
【0031】
本発明の一変形形態によると、本発明に係るシリコーン組成物Xは、例えば紙製の固体支持体用の非粘着性シリコーンコーティングの分野における従来の一つ以上の添加剤を含むことができる。これは例えば、シリカ粒子または分岐鎖状ポリオルガノシロキサンなどのミスト防止(「anti−misting」)添加剤であり得る。
【0032】
別の変形形態によると、本発明に係るシリコーン組成物Xは、粘着調節系ならびにこのタイプの利用分野における通常の添加剤、例えば殺菌剤、不凍剤、湿潤剤、消泡剤、充填剤、合成ラテックスまたは着色剤を含むこともできる。
【0033】
本発明の別の目的は、上述のとおりの組成物Xの各部分を混合することによって得られるシリコーン組成物X’にある。
【0034】
本発明に係るシリコーン組成物X’は、可撓性支持体または可撓性材料上に、五本ローラー付き被覆加工ヘッド、エアナイフシステムまたは均し棒システムなどの、紙の被覆加工産業用機械上で使用される装置を用いて塗布可能であり、その後70〜200℃に加熱したトンネル炉内を循環させることにより硬化される。この炉内の通過時間は、温度によって決まる。この時間は、一般には、およそ100℃の温度でおよそ5〜15秒であり、およそ180℃の温度でおよそ1.5〜3秒である。
【0035】
シリコーン組成物X’は、さまざまなタイプの紙(スーパー仕上げ紙、塗工紙、グラシン紙)、ボール紙、セルロースシート、金属シート、プラスチック材料フィルム(ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などのあらゆる可撓性材料または可撓性基材上に被着され得る。
【0036】
被着される組成物の量は、一般に、処理すべき表面1m2あたりおよそ0.1〜5gであり、これはおよそ0.1〜5μmの層の被着に相当する。
【0037】
こうして被覆加工された材料または支持体はその後、圧力に感応するゴム、アクリルまたは他の、任意の接着材料と接触させることができる。このとき、接着材料は、前記支持体または材料から容易に切り離すことができる。
【0038】
本書中で問題になっている粘度は全て、25℃でそれ自体公知の方法で測定される動粘度の大きさに対応する。
【0039】
本出願の以下の部分においては、さまざまなシロキシル単位を示すためM、D、TおよびQの文字が使用される通常の表記法を用いて、従来どおりの形でポリオルガノシロキサンオイルについて記載する。この表記法では、シロキシル単位のケイ素原子は、同数の酸素原子と一つ(M)、二つ(D)、三つ(T)または四つ(Q)の共有結合で結合する。1酸素原子が二つのケイ素原子間で共有される場合、それは1/2として計数化され、省略した式中においては言及されない。これに対し、酸素原子が、ケイ素原子に結合したアルコキシル基またはヒドロキシル基に属する場合、この化学官能基は、省略式中でカッコ内に記される。既定では、ケイ素原子の残りの結合は、炭素原子と結合しているものとみなす。一般にC−Si結合によりケイ素に結合した炭化水素基は言及されず、最も多くの場合、アルキル基、例えばメチル基に相当する。炭化水素基が、特定の官能基を有する場合、それは、上付文字で記される。例えば、省略式:
− Mviは、ケイ素原子が酸素原子に結合しており、C−Si結合を形成する炭化水素基の一つがビニル基である単位、すなわちジアルキルビニルシロキシル単位を表し、
− M’は、ケイ素原子が一水素原子、所定の一原子および二つのメチル基に結合している単位を表す。
【0040】
参考として、以下のものを引用することができる:NOLL「Chemistry and technology of silicones」、第1.1章、1〜9頁、Academic Press、1968年−第2版。
【0041】
別の態様によると、本発明は、以上に記載されたとおりの本発明に係るシリコーン組成物X’の架橋または硬化によって得られる、シリコーンエラストマーYに関する。
【0042】
本発明は、固体支持体、好ましくは、紙、ボール紙、セルロースシート、金属製シートまたはプラスチック材料フィルムなどの可撓性固体支持体上で非粘着性および防湿性の架橋エラストマーコーティングを実施するための被覆加工ベースとしての、本発明に係るシリコーン組成物X’の使用にも関する。
【0043】
本発明の別の目的は、60℃超、好ましくは70℃〜200℃の温度での加熱によって架橋もしくは硬化された、上述のとおりの本発明に係るシリコーン組成物X’、または上述のとおりの本発明に係るシリコーンエラストマーYを用いて少なくとも部分的にコーティングされた、固体支持体にある。
【0044】
本発明はまた、可撓性支持体S上への被覆加工方法にも関するものであって、該方法は、
a)上述のとおりの本発明に係るシリコーン組成物Xを調製するステップと、
b)シリコーン組成物Xの各部分を混合して組成物X’を形成するステップと、
c)その後、前記可撓性支持体S上に前記シリコーン組成物X’を連続的にまたは不連続的に被着させるステップと、
d)60℃超、好ましくは70℃〜200℃の温度での加熱により、シリコーン組成物X’を架橋させるステップと、
を含む。
【0045】
好ましくは、可撓性支持体Sは、紙製、織物製、ボール紙製、金属製またはプラスチック材料製である。
【0046】
例えば、可撓性支持体Sは、織物製、紙製、ポリ塩化ビニル(PVC)製、ポリエステル製、ポリプロピレン製、ポリアミド製、ポリエチレン製、ポリウレタン製、ガラス繊維不織布製またはポリエチレンテレフタレート(PET)製であり得る。
【0047】
最後に、本発明の最終の目的は、
− ケイ素原子に結合したアルケニルラジカルを1分子につき少なくとも2個有する、少なくとも一つのポリオルガノシロキサンVと、
− 白金族に属する少なくとも一つの金属で構成される少なくとも一つの触媒Cと、
− α−α’−アセチレンジオールである少なくとも一つの阻害剤D1と、
− 無機酸が塩化白金酸のようには白金を含まないことを条件として、少なくとも一つの有機酸または無機酸D2と
を含む、シリコーン組成物に関する。
【0048】
この組成物は、本発明に係る組成物Xの部分Aとして有用である。
【0049】
以下の非限定的な実施例により、本発明をより良く理解し、その全ての利点および変形実施態様を把握することができる。
【実施例】
【0050】
使用製品
− 鎖末端でビニル化されたポリジメチルシロキサンオイル(V.1):平均式Mv175vi、25℃での粘度=100mPa・s。
− 鎖末端でビニル化されたポリジメチルシロキサンオイル(V.2):25℃での粘度=350mPa・s。
− ポリメチルヒドロシロキサンオイル(H.1):(オイル100gあたり0.73モルのSiH、すなわち6.84ミリモルのSiH)。
− 触媒(C):Pt触媒(2800ppm)+鎖末端でビニル化されたポリジメチルシロキサンオイル(V.2)の混合物の形でのカールシュテット白金。
− 阻害剤(D1.I1)(本発明):2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(TMDD)。
− 阻害剤(D1.C1)(比較例):1−エチニル−1−シクロヘキサノール(ECH)。
− トリフルオロ酢酸(D2.I1):CF3COOH、(pK1=:0.23)。
− ヘプタン酸(D2.I2):CH3(CH25COOH、(pK1=:4.89)。
− オルトリン酸(D2.I3):(H3PO4)、(pK1=2.15)。
【0051】
実施例1:
重付加反応により架橋可能および/または硬化可能でありかつ二成分形態で包装されているシリコーン組成物の部分Aを、以下の表1に列挙された成分から調製する。
【0052】
【表1】
【0053】
阻害剤(D1.I1)を、目的の部分A(部分A1およびA2)中に添加する前に30分間50℃でビニル化ポリジメチルシロキサンオイル(V1)中で予め可溶化させる。当初、四つの混合物(部分A1〜A4)は、清澄かつ無色である。混合物を次に周囲温度で24時間、撹拌下に置くと、それらは以下の様相を呈する:
− 調合物A1(本発明)は、完全に清澄である。
− ECHおよびPt触媒を含む二つの調合物、部分A3とA4(比較例)は、黄色/栗色に着色し、コロイドの形での白金の一部分の沈殿を示していた。酸を添加しても、沈殿現象を回避することはできない(部分A4)。
− 調合物、部分A2(比較例)は、乳状で白色不透明の様相を呈している。
【0054】
実施例2:
実施例1中に記載の部分の各々に対して、0.93gのポリメチルヒドロシロキサンオイル(H.1)を含む部分Bを添加した。各組成物について一つの試料を採取し、DSC(「示差走査熱量測定法」、METLERタイプの器具)で分析する。10℃/分の勾配による25〜200℃の温度傾斜を用いて、開放したアルミニウムカプセルで分析を実施する。同様に、周囲温度での架橋に必要な時間および浴の寿命も測定する。以下の表2に、熱プロフィール、発熱ピークの特徴的データ(ピーク温度(℃)およびオンセット/エンドセットのΔ温度(℃))を示す。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例3:本発明に係る「α−α’−アセチレンジオール+酸」阻害系についての周囲温度における阻害時間の改善の証明
重付加反応により架橋可能および/または硬化可能でありかつ二成分形態で包装されているシリコーン組成物の部分Aを調製し、部分Bに混合する。結果として得られた組成物を以下の表3に記す。
【0057】
【表3】
【0058】
各組成物について一つの試料を採取し、実施例2におけるものと同じ条件下で、DSC(「示差走査熱量測定法」、METLERタイプの器具)で分析する。結果を以下の表4に記す。
【0059】
【表4】
【0060】
酸の存在下では、基準である組成物(C−4)に比較して、本発明に係る組成物(I−2)、(I−3)および(I−4)について、より高いピーク温度(℃)が見られ、これは酸の遅延効果を充分に示している。さらに、酸の存在下では、基準である組成物(C−4)に比較して、本発明に係る組成物について、より低いオンセット/エンドセットのΔ温度(℃)が見られ、これは、反応の初めと終りにおける遅延効果の減少を示している。
【0061】
我々は同様に、組成物全体について、周囲温度で、ただし減量した阻害剤TMDD(D1.I1)(0.240ミリモル)を用いて、架橋時間を続いて調査した。周囲温度での架橋時間を、以下の表5に記す。
【0062】
【表5】
【0063】
これらの結果は、周囲温度での架橋時間との関係における、有機酸および無機酸の遅延効果を明確に示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【特許文献1】米国特許第3445420号明細書
【非特許文献】
【0065】
【非特許文献1】NOLL「Chemistry and technology of silicones」、第1.1章、1〜9頁、Academic Press、1968年−第2版