(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753957
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】安定な水性液剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/427 20060101AFI20150702BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20150702BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20150702BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20150702BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20150702BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
A61K31/427
A61K9/08
A61K47/34
A61K47/10
A61P27/02
A61P43/00 111
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-559729(P2014-559729)
(86)(22)【出願日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2014052040
(87)【国際公開番号】WO2014119642
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2014年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-17877(P2013-17877)
(32)【優先日】2013年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-171433(P2013-171433)
(32)【優先日】2013年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】鹿村 悠子
(72)【発明者】
【氏名】東村 由佳
【審査官】
安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/143254(WO,A1)
【文献】
特開平11−228404(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/064828(WO,A1)
【文献】
特表2010−540682(JP,A)
【文献】
特開平02−286627(JP,A)
【文献】
特開2005−247800(JP,A)
【文献】
国際公開第02/067977(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/427
A61K 9/08
A61K 47/10
A61K 47/34
A61P 27/02
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、及びチロキサポール又はオクトキシノールを含有する水性液剤であって、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が0.0002w/v%で、上限濃度が0.05w/v%の範囲から選択される、水性液剤。
【請求項2】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、及びチロキサポールを含有する水性液剤であって、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が0.0002w/v%で、上限濃度が0.05w/v%の範囲から選択される、水性液剤。
【請求項3】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、及びオクトキシノールを含有する水性液剤であって、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が0.0002w/v%で、上限濃度が0.05w/v%の範囲から選択される、水性液剤。
【請求項4】
チロキサポールの水性液剤全量に対する下限濃度が0.01w/v%で、上限濃度が0.5w/v%の範囲から選択される請求項1又は2に記載の水性液剤。
【請求項5】
オクトキシノールの水性液剤全量に対する下限濃度が0.01w/v%で、上限濃度が0.5w/v%の範囲から選択される請求項1又は3に記載の水性液剤。
【請求項6】
さらにアルコールを含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項7】
アルコールの水性液剤全量に対する下限濃度が0.1w/v%で、上限濃度が5w/v%の範囲から選択される請求項6記載の水性液剤。
【請求項8】
アルコールが、グリセリン、糖アルコール、グリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、請求項6又は7に記載の水性液剤。
【請求項9】
アルコールが、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、請求項6又は7に記載の水性液剤。
【請求項10】
アルコールが、プロピレングリコールを含む、請求項6又は7に記載の水性液剤。
【請求項11】
波長600nmの透過率が98%以上である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項12】
眼科用である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項13】
点眼剤である、請求項12記載の水性液剤。
【請求項14】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤において、チロキサポール又はオクトキシノールを配合することを特徴とする、水性液剤中における光及び熱に対する(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法であって、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が0.0002w/v%で、上限濃度が0.05w/v%の範囲から選択される、安定化方法。
【請求項15】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤において、チロキサポールを配合することを特徴とする、水性液剤中における光及び熱に対する(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法であって、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が0.0002w/v%で、上限濃度が0.05w/v%の範囲から選択される、安定化方法。
【請求項16】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤において、オクトキシノールを配合することを特徴とする、水性液剤中における光及び熱に対する(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法であって、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が0.0002w/v%で、上限濃度が0.05w/v%の範囲から選択される、安定化方法。
【請求項17】
さらにアルコールを配合することを特徴とする、請求項14〜16のいずれか一項に記載の安定化方法。
【請求項18】
アルコールが、グリセリン、糖アルコール、グリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、請求項17記載の安定化方法。
【請求項19】
アルコールが、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、請求項17記載の安定化方法。
【請求項20】
アルコールが、プロピレングリコールを含む、請求項17記載の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法、及び安定化された(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸含有水性液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor:以下、PPARと称する。)δアゴニスト作用を有する薬剤であることが報告されている(特許文献1参照)。また、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩(以下、化合物Aと称することもある。)が、PPARδアゴニストであり、マイボーム腺上皮細胞又は角膜上皮細胞の増殖促進剤として有用であることが報告されている(特許文献2参照)。
【0003】
本発明者らは、化合物Aを含有する水性液剤の開発過程において、化合物Aが水に難溶であるとともに、水溶液中で光に対して極めて不安定であり、添加剤との組合せによっては、熱に対して不安定となることを確認した。このことは、従来難溶性薬物の可溶化剤として汎用されているポリソルベート80を配合すると、化合物Aの水溶液中での熱安定性が極めて低下することでも示されている(後述する試験例2,比較例1参照)。
【0004】
化合物Aを含有する水性液剤の優れた薬理効果を充分に活用するには、その水溶性、製造工程及び流通工程、使用時、並びに開封後長期間の光や熱に対する安定性を担保することが非常に重要である。しかし、これまで化合物Aの光や熱に対する安定性およびその安定化については報告例がない。
【0005】
一般に、薬物の安定化は、薬物固有の物性及び化学的性質のみならず、薬物の性状、使用される添加剤の物性や化学的性質、並びにそれらの組合せ方などにより影響を受けるため、その調製法を一般化するのは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/033493号
【特許文献2】国際公開第2008/143254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光や熱に対する安定性の高い(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸含有水性液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、化合物Aを有効成分として含有する組成物に、チロキサポール又はオクトキシノールを配合することにより、該組成物中の化合物Aの光及び熱に対する安定性が顕著に向上することを見出した。また、チロキサポール又はオクトキシノールに加えて、アルコール(例えば、グリセリン、糖アルコール、グリコール、エタノール等)を配合すると熱に対する化合物Aの安定性が更に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
[1](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、及びチロキサポール又はオクトキシノールを含有する水性液剤、
[2](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、及びチロキサポールを含有する水性液剤、
[3](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、及びオクトキシノールを含有する水性液剤、
[4](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤全量に対する下限濃度が約0.0002w/v%で、上限濃度が約0.05w/v%の範囲から選択される上記[1]〜[3]のいずれかに記載の水性液剤、
[5]チロキサポールの水性液剤全量に対する下限濃度が約0.01w/v%で、上限濃度が約0.5w/v%の範囲から選択される上記[1]、[2]又は[4]に記載の水性液剤、
[6]オクトキシノールの水性液剤全量に対する下限濃度が約0.01w/v%で、上限濃度が約0.5w/v%の範囲から選択される上記[1]、[3]又は[4]に記載の水性液剤、
[7]さらにアルコールを含有する、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の水性液剤、
[8]アルコールの水性液剤全量に対する下限濃度が約0.1w/v%で、上限濃度が約5w/v%の範囲から選択される上記[7]記載の水性液剤、
[9]アルコールが、グリセリン、糖アルコール、グリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、上記[7]又は[8]に記載の水性液剤、
[10]アルコールが、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、上記[7]又は[8]に記載の水性液剤、
[11]アルコールが、プロピレングリコールを含む、上記[7]又は[8]に記載の水性液剤、
[12]波長600nmの透過率が98%以上である、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の水性液剤、
[13]眼科用である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の水性液剤、
[14]点眼剤である、上記[13]記載の水性液剤、
[15](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、チロキサポール、及びプロピレングリコールを含有する点眼剤、
[16](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩、オクトキシノール、及びプロピレングリコールを含有する点眼剤、
[17](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤に用いられ、チロキサポール又はオクトキシノールを含有することを特徴とする、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤中における光及び熱に対する安定化剤、
[18](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤に用いられ、チロキサポールを含有することを特徴とする、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤中における光及び熱に対する安定化剤、
[19](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤に用いられ、オクトキシノールを含有することを特徴とする、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の水性液剤中における光及び熱に対する安定化剤、
[20]さらにアルコールを含有する、上記[17]〜[19]のいずれかに記載の安定化剤、
[21]アルコールが、グリセリン、糖アルコール、グリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、上記[20]記載の安定化剤、
[22]アルコールが、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、上記[21]記載の安定化剤、
[23]アルコールが、プロピレングリコールを含む、上記[21]記載の安定化剤、
[24](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤において、チロキサポール又はオクトキシノールを配合することを特徴とする、水性液剤中における光及び熱に対する(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法、
[25](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤において、チロキサポールを配合することを特徴とする、水性液剤中における光及び熱に対する(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法、
[26](3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩を含有する水性液剤において、オクトキシノールを配合することを特徴とする、水性液剤中における光及び熱に対する(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸又はその製剤学的に許容される塩の安定化方法、
[27]さらにアルコールを配合することを特徴とする、上記[24]〜[26]のいずれかに記載の安定化方法、
[28]アルコールが、グリセリン、糖アルコール、グリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、上記[27]記載の安定化方法、
[29]アルコールが、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール及びエタノールから選択される少なくともいずれかを含む、上記[27]記載の安定化方法、ならびに
[30]アルコールが、プロピレングリコールを含む、上記[27]記載の安定化方法、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイボーム腺機能不全、角膜上皮障害、ドライアイ等の眼疾患の治療剤として有用な化合物Aを含有する、光及び熱に対する安定性が高い水性液剤を提供することができる。また、チロキサポール、オクトキシノールの配合は、化合物Aを含む水溶液の光及び熱に対する安定性を向上させるとともに、化合物Aの溶解性を向上させるという効果をも有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本明細書中、特に言及しない限り、w/v%は、第十六改正日本薬局方における質量対容量百分率を意味する。また、コンタクトレンズとは、特記しない限り、ハード、酸素透過性ハード、ソフト等のあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する。
【0012】
本発明における水性液剤は、化合物AのPPARδアゴニスト作用によりマイボーム腺上皮細胞又は角膜上皮細胞の増殖促進剤として有用であるので、マイボーム腺機能不全、角膜上皮障害、ドライアイ等の眼疾患の治療に用いることができる。
【0013】
本発明において用いられる化合物Aは、製剤学的に許容されるすべての塩を含む。製剤学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の無機塩基との塩、アンモニウム塩及びメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、ピコリン、エタノールアミン、リジン、アルギニン等の有機塩基との塩が挙げられるが、これらに限定されない。化合物Aは、国際公開第03/033493号に記載の方法により製造することができる。
【0014】
本発明の水性液剤において、配合する化合物Aの割合は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、水性液剤全量に対して、例えば、下限は、通常約0.00001w/v%、好ましくは約0.0001w/v%、より好ましくは約0.0002w/v%、特に好ましくは約0.001w/v%、最も好ましくは約0.005w/v%、上限は、通常約1w/v%、好ましくは約0.1w/v%、より好ましくは約0.05w/v%、特に好ましくは約0.01w/v%配合することができる。
【0015】
本発明の水性液剤は、化合物Aにチロキサポール又はオクトキシノールを配合することにより調製でき、さらに、必要に応じてアルコールを配合することにより光及び熱に安定な化合物A含有水性液剤を提供することができる。
【0018】
で表される化合物である。Formaldehyde, polymer with oxirane and 4−(1,1,3,3−tetramethylbutyl)phenol、サペリノンと称されることもある。例えば、Ruger Chemical Co.,Inc.より、Tyloxapol USPとして入手することができる。
また、オクトキシノールは、下記式:
【0020】
で表される化合物である。α−[4−(1,1,3,3−tetramethylbutyl)phenyl]−ω−hydroxypoly(oxy−1,2−ethanediyl)、polyethylene glycol p−isoctylphenyl ether、Triton X 100と称されることもある。例えば、ナカライテスク社からTriton(R)X−100として入手することができる。
中でも、点眼用途に使用する観点から、チロキサポールが特に好ましい。
【0021】
本発明の水性液剤に用いるチロキサポールの配合量は、化合物Aの配合量に応じて適宜設定してよいが、チロキサポールの水性液剤全量に対する下限は、通常約0.001w/v%、好ましくは約0.01w/v%、より好ましくは約0.05w/v%、上限は、通常約1.0w/v%、好ましくは約0.5w/v%、より好ましくは約0.2w/v%、特に好ましくは約0.1w/v%である。
本発明の水性液剤は、チロキサポールに加えて、眼科用途に使用し得る他の慣用の界面活性剤を、化合物Aの安定性を損なわない範囲で適宜組み合わせて使用することもできる。
【0022】
本発明の水性液剤に用いるオクトキシノールの配合量は、化合物Aの配合量に応じて適宜設定してよいが、オクトキシノールの水性液剤全量に対する下限は、通常約0.001w/v%、好ましくは約0.01w/v%、より好ましくは約0.05w/v%、上限は、通常約1.0w/v%、好ましくは約0.5w/v%、より好ましくは約0.2w/v%、特に好ましくは約0.1w/v%である。
本発明の水性液剤は、オクトキシノールに加えて、眼科用途に使用し得る他の慣用の界面活性剤を、化合物Aの安定性を損なわない範囲で適宜組み合わせて使用することもできる。
【0023】
本発明の水性液剤に用いるアルコールとしては、グリセリン等の多価アルコール;マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、1,2−ペンチレングリコール、1,2−ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール(2価アルコール);エタノール等の1価アルコール等が挙げられ、好ましくは、グリセリン、マンニトール又はプロピレングリコールであり、特に好ましくは、プロピレングリコールである。これらアルコールは1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。アルコールの配合量は、アルコールの種類、化合物A、及びチロキサポール、オクトキシノールの配合量等に応じて適宜設定してよいが、水性液剤全量に対する下限は、通常約0.01w/v%、好ましくは約0.1w/v%、より好ましくは約0.5w/v%、上限は、通常約10w/v%、好ましくは約5w/v%である。
【0024】
本発明の水性液剤の好ましい態様は、化合物A、チロキサポール及びプロピレングリコールを含有する水性液剤である。
【0025】
また、本発明の水性液剤の別の好ましい態様は、化合物A、オクトキシノール及びプロピレングリコールを含有する水性液剤である。
【0026】
本発明の水性液剤における適切なpHは、適用部位、剤形等により異なるが、点眼剤として使用するには、通常、約6.0〜約8.6である。
pHの調整は、後記する緩衝剤、pH調整剤等を用いて、当該技術分野で既知の方法により行うことができる。また、使用する緩衝剤、pH調整剤等の種類は、水性液剤中の化合物Aの安定性に影響を及ぼさない。
【0027】
本明細書において、光及び熱に安定であるとは、化合物Aを含む水溶液において、光及び熱による化合物Aの分解が抑制されていることを意味する。具体的には、化合物Aを含む水溶液を無色ガラスアンプルに充填して保存した場合、光に安定であるとは、チロキサポール又はオクトキシノールを添加していない参考例と比較して、12000ルクス又は24000ルクスの光照射後の分解物の生成が抑制されていること、すなわち、化合物Aの残存率がより高いことを意味する。また、熱に安定であるとは、80℃、1週間保存後の化合物Aの残存率が70%以上であることを意味し、化合物Aの残存率が80%以上であることが好ましく、化合物Aの残存率が90%以上であることがより好ましい。熱に安定である特に好ましい態様は、チロキサポール又はオクトキシノールを添加していない参考例よりも80℃、1週間保存後の化合物Aの残存率が高い場合である。
【0028】
本発明の水性液剤には、必要に応じて、緩衝剤、等張化剤、保存剤、溶解補助剤、安定化剤、キレート剤、清涼化剤、粘稠剤、pH調整剤等の各種の添加剤を配合することができる。
【0029】
緩衝剤としては、例えば、公知のホウ酸緩衝剤(ホウ砂等)、クエン酸緩衝剤(クエン酸ナトリウム等)、炭酸緩衝剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等)、酒石酸緩衝剤(酒石酸ナトリウム等)、グルコン酸緩衝剤(グルコン酸ナトリウム等)、酢酸緩衝剤(酢酸ナトリウム等)、リン酸緩衝剤(リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、グルタミン酸やイプシロンアミノカプロン酸等の各種アミノ酸、トリス緩衝剤、グッド緩衝剤(MES、MOPS、PIPES、HEPES、BES、TES等)等、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
等張化剤としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩類、ホウ酸等が挙げられる。
【0031】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ソルビン酸又はその塩、グルコン酸クロルヘキシジン、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、クロロブタノール、チメロサール等が挙げられる。
【0032】
溶解補助剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセリン等が挙げられる。
【0033】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸、チオグリコール酸ナトリウム、塩酸システイン、アスコルビン酸、シクロデキストリン、縮合リン酸又はその塩、亜硫酸塩、クエン酸又はその塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0034】
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、チオグリコール酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオ乳酸、チオグリセリン、縮合リン酸又はその塩(縮合リン酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0035】
粘稠剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0036】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸又はその塩(ホウ砂)、塩酸、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム等)、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等)、酒石酸又はその塩(酒石酸ナトリウム等)、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンやメグルミン等のアミン類、等が挙げられる。
【0037】
清涼化剤としては、メントール、ボルネオール、カンフル、ハッカ油、ユーカリ油、ペパーミント油等が挙げられる。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0038】
懸濁剤を調製する場合、懸濁化剤としては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、モノステアリン酸アルミニウム等を使用できる。
【0039】
乳剤を調製する場合、油には、例えば、ヒマシ油、オリーブ油、ゴマ油、ダイズ油、ツバキ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、メンジツ油等の植物油やスクワラン等の動物油、その他、流動パラフィン等を使用できる。乳化剤としては、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビットミツロウ、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80等の界面活性剤、ポリビニルピロリドン、精製卵黄レシチンや大豆レシチン等を使用することができる。
【0040】
本発明で用いられる水性液剤は、例えば、眼科用の点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ用剤、注射剤等として使用できるが、眼局所に投与される点眼剤がとりわけ好ましい。投与方法としては、点眼等の滴下投与、洗眼カップを用いる洗眼等が好ましいが、特に限定されない。
【0041】
前記コンタクトレンズ用剤は、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズを含むあらゆるコンタクトレンズに適用できる。
【0042】
本発明の点眼剤の形態としては、水溶液剤、懸濁剤、乳剤等が挙げられるが、好ましくは、水溶液剤である。
【0043】
本発明の水性液剤は、好ましくは、澄明な水性液剤である。ここで、水溶液剤が「澄明」とは、特に言及しない限り、波長600nmの光線透過率が98.0%以上の状態を意味し、無色澄明に限らず、他の含有成分によって呈色された有色澄明であることをも包含する。透過率が98.0%未満の状態は濁っている状態として取り扱う。
【0044】
本発明の点眼剤は、自体公知の調製法(例えば、第十六改正日本薬局方、製剤総則、点眼剤の項等に記載された方法)に従って製造される。例えば、蒸留水又は精製水に可溶化剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤等のその他の添加剤を溶解させ、次いで化合物Aを溶解させ、アルコールを加えて、所定の浸透圧及びpHに調整し、無菌環境下、ろ過滅菌処理し、洗浄滅菌済みの容器に無菌充填することにより本発明の点眼剤を製造することができる。
【0045】
点眼剤として製剤化される場合、水性液剤は、眼への滴下を容易にするための液滴量を制御可能な小径の注液孔を備えた点眼容器に収容されていることが好ましい。該容器の材質は、特に限定されないが、水分透過性の低い容器、各成分が吸着し難い容器、透明性の高い容器等が好ましい。該容器の材質は、具体的には、例えば、合成樹脂、ガラス、セルロース、パルプ等が用いられる。スクイズ性及び耐久性の観点から、該容器は合成樹脂製のものが好ましい。合成樹脂の具体例としては、ポリエチレン樹脂(例えば、低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0046】
点眼容器は、別々に成形された容器本体と中栓部材とが嵌合された容器や、容器の成形と同時に液剤が密封充填される一体成形充填容器(例えば、国際公開第2004/006826号)等が挙げられる。一体成形充填容器を採用した場合、容器と水性液剤とが一環生産されるため、コスト面又は衛生面に優れている。点眼容器は、1回ずつ使い捨てにするユニットドーズ型の容器(例えば、特開平9−207959号公報)であってもよい。この容器を採用した場合、角膜に対して安全性の高い、保存剤を配合しない製剤の処方化が可能となる。これらの容器は、紫外線遮断性フィルムで密着包装されていてもよい。また、容器は、紫外線遮断性を高めるため、着色されていてもよい。本発明の点眼剤は光に対する安定性が向上しているため、光透過性容器または光半透過性容器のいずれであっても好ましく使用することができる。
【0047】
本発明の水性液剤は、投与対象の年齢、体重、状態、治療目的、投与形態等に応じて変動はあるが、点眼剤として使用する場合には、通常、1日1〜8回、1回に片眼あたり1〜2滴、すなわち、1回あたり約50〜200μLの量を滴下、噴霧又は塗布することにより投与する。また、洗眼薬として使用する場合は、1回あたり数mLを用いて1日1ないし数回、洗眼するのに用いる。
【実施例】
【0048】
本発明は、以下の試験例及び製剤例によって詳しく説明されるが、これらは本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。以下の試験例及び製剤例においては、化合物Aとして、(3−{2−[4−イソプロピル−2−(4−トリフルオロメチル)フェニル−5−チアゾリル]エチル}−5−メチル−1,2−ベンズイソキサゾール−6−イル)オキシ酢酸を使用した。また、下記実施例及び製剤例の全ての製剤は、波長600nmの光線透過率が98.0%以上の澄明な水性液剤である。
以下の試験例において、HCO−60はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を、MYS−40はステアリン酸ポリオキシル40を示す。
【0049】
[試験例1]化合物Aの水溶液中の光安定性
【0050】
(試験方法)
化合物Aの水溶液を下記処方に従って調製した。0.1%リン酸緩衝液にチロキサポール、オクトキシノール、ポリソルベート80、HCO−60又はMYS−40を所定量加えて溶かし、水酸化ナトリウムを用いてpHを7.5に調整した。その液に化合物Aを下記処方の所定量となるように加えて溶かし、0.22μmのメンブランフィルターでろ過滅菌し、5mLの無色ガラスアンプルに充填した。光安定性試験装置(型式:LT−120A−WCD、ナガノサイエンス株式会社製)にて白色光(総照度12000lux・h及び24000lux・h)曝光後、ガラスアンプル中の化合物Aの含量を測定した。
【0051】
保存後の化合物Aの定量は、絶対検量線法を用いた高速液体クロマトグラフ法(日本薬局方)により行った。
高速液体クロマトグラフ条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:313nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの高速液体クロマトグラフ用フェニル化シリカゲルを充填する(COSMOSIL 5PE−MS Packed Column、ナカライテスク)。
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相A:5mMリン酸緩衝液(pH 6.0)/アセトニトリル混液(60:40)
移動相B:5mMリン酸緩衝液(pH 6.0)/アセトニトリル/メタノール混液(20:40:40)
流速:約1.4mL/min
グラジエント溶出条件:
【0052】
【表1】
【0053】
【表2-1】
【0054】
【表2-2】
【0055】
(試験結果)
参考例では、製剤中の化合物Aが光に対して顕著に不安定であった。これに対し、チロキサポール又はオクトキシノールを配合することで、他の製剤(表2−1の比較例1、比較例2又は比較例3)よりも製剤中の化合物Aを光に対して安定化できた(表2−1の実施例1、2及び表2−2の実施例3〜9)。
【0056】
[試験例2]化合物Aの水溶液中の熱安定性
【0057】
(試験方法)
化合物Aの水溶液を下記処方に従って調製した。0.1%リン酸緩衝液にチロキサポール、オクトキシノール、ポリソルベート80、HCO−60又はMYS−40を所定量加えて溶かし、水酸化ナトリウムを用いてpHを7.5に調整した。その液に化合物Aを下記処方の所定量となるように加えて溶かした。0.22μmのメンブランフィルターでろ過滅菌し、5mLの無色ガラスアンプルに充填した。ガラスアンプルを80℃下で1週間保存し、保存後の化合物Aの含量を測定した。
【0058】
保存後の化合物Aの定量は、絶対検量線法を用いた高速液体クロマトグラフ法(日本薬局方)により行った。
高速液体クロマトグラフ条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:313nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの高速液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する(L−column ODS、化学物質評価研究機構)。
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:アセトニトリル/0.1%リン酸溶液混液(4:1)
流速:約1mL/min
【0059】
【表3-1】
【0060】
【表3-2】
【0061】
(試験結果)
チロキサポール又はオクトキシノールを配合した場合には、他の製剤(表3−1の比較例1、比較例2又は比較例3の製剤)と比較して、80℃下、1週間保存後の水溶液中の化合物Aの安定性を顕著に高く維持できた(表3−1、表3−2)。
試験例1及び試験例2の結果から、化合物Aの水溶液中の光及び熱に対する安定性を担保するためには、チロキサポール又はオクトキシノールを配合することが好ましいことが分かった。
【0062】
[試験例3]アルコールの添加による化合物Aの水溶液中の光及び熱安定性
【0063】
(試験方法)
化合物Aの水溶液を下記処方に従って調製した。0.1%リン酸緩衝液にチロキサポールを0.1w/v%加え、水酸化ナトリウムを用いてpHを7.5に調整した。さらにアルコールを所定量加えて溶かした。その液に化合物Aを下記処方の所定量となるように加えて溶かし、0.22μmのメンブランフィルターでろ過滅菌後、5mLの無色ガラスアンプルに充填した。ガラスアンプルを光照射条件及び80℃1週間保存条件下におき、それぞれの化合物Aの含量を測定した。化合物Aの定量は、試験例1及び試験例2と同様の方法により行った。
【0064】
【表4-1】
【0065】
【表4-2】
【0066】
(試験結果)
チロキサポール及びアルコールを共に配合した製剤は、アルコールの種類に依らず、化合物Aの光安定化効果を妨げることなく、熱安定化効果を更に向上できた(表4−1の実施例1、10〜13及び表4−2の実施例14〜16)。一方、アルコールを配合しても、チロキサポールを配合しない製剤では、水溶液中での化合物Aの光に対する安定性が顕著に低下した(表4−1の比較例4〜7及び参考例)。また、化合物Aの含有量に依らず、アルコールの配合による熱安定化向上効果を確認することができた(表4−1の実施例12及び表4−2の実施例14〜16)。
【0067】
[製剤例]
表5−1〜表5−5に示す処方に従い、定法により化合物A含有点眼剤を調製した(製剤例1〜37)。
【0068】
【表5-1】
【0069】
【表5-2】
【0070】
【表5-3】
【0071】
【表5-4】
【0072】
【表5-5】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、マイボーム腺機能不全、角膜上皮障害、ドライアイ等の眼疾患の治療剤として有用な化合物Aを含有する水性液剤において、チロキサポール又はオクトキシノールの配合により光及び熱に対する水性液剤中での化合物Aの安定性を顕著に向上させるとともに、化合物Aの溶解性をも高めた水性液剤を提供することができる。