(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極板および負極板間にセパレータとなる液保持体を介して捲回または積層してなる電極群に有機電解液を浸透または浸漬させてリチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なう二次電池に用いられるリチウム二次電池用液保持体であって、
前記液保持体は、空孔率の異なる表面処理を施すことなく親水性の再生セルロース繊維層を少なくとも2層有する多層構造であり、前記再生セルロース繊維層が再生セルロース繊維を叩解後、抄造された紙であり、
前記負極板との界面側の繊維層の空孔率が、前記正極板との界面側の繊維層の空孔率よりも小さく、かつ前記負極板との界面を構成する繊維層Aの空孔率が40%〜80%であり、前記正極板との界面を構成する繊維層Bの空孔率が60%〜90%であり、これら繊維層全体における平均の空孔率が50%以上であることを特徴とするリチウム二次電池用液保持体。
前記液保持体は、前記繊維層Aと、前記繊維層Bと、これらの層間に設けられた合成樹脂フィルムの層との3層構造であることを特徴とする請求項6記載のリチウム二次電池用液保持体。
正極板と負極板とがセパレータとなる液保持体を介して捲回または積層して形成される電極群と、前記電極群に浸透または浸漬される有機電解液とを備えてなり、リチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なうリチウム二次電池であって、
前記液保持体が、請求項1から請求項7までのいずれか1項記載のリチウム二次電池用液保持体であることを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1などの上記提案手段だけでは、数百サイクルであったサイクル寿命を2000から3000サイクルレベルにすることは可能であるが、車載や定置用としての10〜20年、10000〜20000サイクルを実現するには不十分であった。特に、合金系負極のバインダーの接着力強化で合金の体積膨張を緩和する方式では、合金活物質の微細化や集電箔からの剥離防止技術としてバインダーの使用量が増えるため、設計容量に満たなかったり、コストアップに繋がり、産業用電池としての要求性能を満足させるには困難であった。
【0007】
従来の提案は二次電池の主材に関する提案が多く、一応の効果が期待できる。しかし、電池の寿命故障原因を調べてみると、電池の寿命原因は、主材である活物質の劣化よりも、電極間の微少短絡や電極内での液枯れに起因する場合が多く見られた。
【0008】
特許文献2の提案は、含浸性に優れるセルロース繊維をセパレータに利用することで、ポリエチレンフィルムなどを用いる場合よりも電解液を保持しやすい。しかし、空孔率が一定の単層構造であるため、正・負電極板のそれぞれの性状に合わせて界面での空孔率を調整できないことや、電解液が電池缶壁へ移動しやすいこと等により、液枯れを十分に防止できない場合がある。また、特許文献2の技術は、デンドライトの析出を防止し得るリチウムイオン吸蔵電位が0.2V(vs.Li/Li
+)以上のリチウムチタン酸化物等を負極活物質として用いることを前提としており、それ以外の炭素材などの負極活物質を用いる場合に適用すること困難である。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、電極内または電極とセパレータ界面に電解液の保持が可能であり、電極内での液枯れを防止できるとともに、デンドライトの析出と成長を抑制できるリチウム二次電池用液保持体、および、これを用いた産業用用途として使用可能なサイクル寿命を達成できるリチウム二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリチウム二次電池用液保持体は、正極板および負極板間にセパレータとなる液保持体を介して捲回または積層してなる電極群に有機電解液を浸透または浸漬させてリチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なう二次電池に用いられるリチウム二次電池用液保持体であって、上記液保持体は、空孔率の異なる表面処理を施すことなく親水性の再生セルロース繊維層を少なくとも2層有する多層構造であり、上記再生セルロース繊維層が再生セルロース繊維を叩解後、抄造された紙であり、上記負極板との界面側の繊維
層の空孔率が、上記正極板との界面側の繊維
層の空孔率よりも小さく、かつ
上記負極板との界面を構成する繊維層Aの空孔率が40%〜80%であり、
上記正極板との界面を構成する繊維層Bの空孔率が60%〜90%であり、これら繊維層全体における平均の空孔率が50%以上であることを特徴とする。
【0011】
上記負極板との界面を構成する繊維層Aの空孔率が
50%〜60%であり、上記正極板との界面を構成する繊維層Bの空孔率が
70%〜80%であることを特徴とする。また、上記液保持体は、(1)上記繊維層Aと、上記繊維層Bとの2層構造、または、(2)上記繊維層Aと、上記繊維層Bと、これらの層間に設けられた合成樹脂フィルムの層との3層構造、であることを特徴とする。
【0012】
上記繊維層が、セルロース繊維を主材料として形成されることを特徴とする。また、上記負極板に用いる負極活物質が、炭素材であることを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウム二次電池は、正極板と負極板とがセパレータとなる液保持体を介して捲回または積層して形成される電極群と、上記電極群に浸透または浸漬される有機電解液とを備えてなり、リチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なうリチウム二次電池であって、上記液保持体が、本発明のリチウム二次電池用液保持体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウム二次電池電用液保持体は、空孔率の異なる親水性の繊維層を少なくとも2層有する多層構造であり、これら繊維層全体における平均の空孔率が50%以上であるので、従来のフィルムセパレータと比較して液保持体としての空孔率が大きく、保持できる電解液量が多くなる。また、空孔率の異なる繊維層の多層構造であるので、各電極板における活物質表面の性状に合わせて、これらと隣接する繊維層の空孔率をそれぞれ適宜設定できる。活物質表面に合わせた空孔率を有する繊維層を設けることで、電極界面において、充放電中にリチウムイオンが容易に移動可能となり、この界面でのリチウムイオンの易動状態を長期にわたり維持できる。このため、容易に大電流充放電が可能となり、電解液の電極界面での保液量も変化しにくく、液保持体から電池缶壁への電解液の移動も少なく、電極内および電極界面における液枯れを防止できる。さらに、液保持体を全体としては高い空孔率を有しながら、負極板側に空孔率の低い繊維層を向けた構造とすることで、大電流充放電時、特に充電時の負極表面での金属リチウムによるデンドライトの析出と成長を抑制できる。これらの結果、この液保持体をセパレータとして用いることで、電極材抵抗が極めて低くでき大電流充放電(高出力)が可能であるとともに、サイクル寿命特性が極端に改善される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
リチウム二次電池において、セパレータとする液保持体の空孔率は、本来、正極・負極の活物質表面の空孔率に合わせて十分に高くすることが好ましい。これは、リチウムイオンの移動を容易とし、電解液の電極界面での保液性を向上させるためである。しかし、負極表面では金属リチウムによるデンドライト析出が起こり、液保持体の空孔率が高いほど、デンドライトが析出・成長しやすく、これにより短絡も起こり易くなる。これらの点を考慮し、本発明では、液保持体を全体としては高い空孔率を有しながら、負極板側に空孔率の低い繊維層を向けた多層構造とすることで、大電流充放電時、特に充電時の負極表面での金属リチウムによるデンドライトの析出と成長を抑制し、電池内部短絡を防止している。
【0017】
本発明のリチウム二次電池用液保持体は、正極板および負極板間にセパレータを介して捲回または積層してなる電極群に有機電解液を浸透または浸漬させてリチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なう二次電池において、このセパレータとして用いられる。
【0018】
本発明のリチウム二次電池電用液保持体を用いたリチウム二次電池の一例について図に基づいて説明する。
図1は本発明のリチウム二次電池の一例を示す断面図および一部拡大図であり、特に正極板、負極板および液保持体が積層されて形成された電極群の断面図を示す。
図1に示すように、本発明のリチウム二次電池は、負極合剤層1bと箔状負極集電体1aとを有する負極板1と、正極合剤層2bと箔状正極集電体2aとを有する正極板2とが、セパレータとなる液保持体3を介して積層されることにより形成される電極群を備える。この電極群は上記のように積層されるものの他に、負極板および正極板が液保持体を介して捲回されているものも挙げられる。上記電極群は封口される電池ケースの内部で電解液に浸漬されている(図示省略)。
【0019】
まず、液保持体3について詳細に説明する。
液保持体は、少なくとも2層の繊維層を有する多層構造体である。各繊維層は、正極板および負極板と並行に積層されている。積層方法は、
図1に示すように、これらの層(A,B)が直接に接触して積層するほか、間に別のフィルム層などを介在させて積層させてもよい。各繊維層は、親水性の繊維状形成体からなる層であり、有機電解液を保持できる空孔部分(繊維間空隙)を有する構造である。この繊維状形成体は、後述する繊維材料を材料として用いた不織布や、該材料を用いて抄造された紙である。また、各繊維層間で空孔率が異なる。空孔率の異なる複数の繊維層からなる多層構造を採用することで、各電極板における活物質表面の性状(形状や空孔率)に合わせて、これらと隣接する繊維層の空孔率をそれぞれ適宜設定でき、充放電中における電極界面でのリチウムイオンの易動状態の維持が図れる。
【0020】
リチウム二次電池の有機電解液は、その溶媒として極性有機溶媒を用いることから、親水性の液保持体と親和性を有する。よって、この液保持体は、有機電解液を含浸しやすく、保持しやすい。
【0021】
上記フィルム層は、繊維層の空孔率を高くした際における電池内部短絡や発熱などを防止し、安全性向上を図るために、必要に応じて追加するものである。本発明で使用できるフィルム層としては、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂からなる合成樹脂フィルムが挙げられる。
【0022】
液保持体の全体の厚みは、20〜100μm程度である。液保持体を構成する各繊維層の厚みは、全体の厚みが上記範囲に収まる範囲で適宜決定できる。また、各繊維層の厚みは、同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
液保持体は、繊維層全体における平均の空孔率が50%以上である。該空孔率を50%以上とすることで、保持体の繊維間空隙に保持される有機電解質の保液量が多くなり、液枯れを防止し得る。ここで、「繊維層全体における平均の空孔率」とは、各繊維層の空孔率から算出した平均の値である。各繊維層の平面サイズは同じであり、各繊維層の厚みは適宜決定できることから、第1層(空孔率X:厚みa)と、第2層(空孔率Y:厚みb)との2層構成である場合、平均の空孔率αは、α=aX/(a+b)+bY/(a+b)で算出できる。第1層と第2層との厚みが同じである場合、平均の空孔率αは、α=(X+Y)/2となる。3層以上の場合も、これに準じて算出できる。
【0024】
また、各繊維層自体の空孔率は、次のように計算できる。繊維層を一定体積(実体積V、実重量W)取り出し試験片とする。この繊維層を形成する繊維の真密度をAとすると、試験片における繊維占有体積はW/Aとなる。実体積Vから、繊維占有体積W/Aを引くと、計算上の空孔体積が求められる。よって、空孔率(%)=100×(V−W/A)/Vとなる。これは、100×(1−(W/V)/A)と表現でき、W/Vは試験片の見掛け密度であることから、空孔率(%)=100×(1−見掛け密度/繊維の真密度)として計算できる。
【0025】
液保持体は、負極板との界面側の繊維層の空孔率が、正極板との界面側の繊維層の空孔率よりも小さい構造としている。「負極板との界面側の繊維層の空孔率が、正極板との界面側の繊維層の空孔率よりも小さい」とは、液保持体を構成する任意の2つの層に着目した際に、その2つの層を、極板との位置関係により正極界面側と負極界面側とに区別すると、負極界面側の繊維層の空孔率が、正極界面側の繊維層の空孔率よりも小さい、ことを意味する。すなわち、負極板に近い繊維層ほど空孔率が小さく、正極板に近い繊維層ほど空孔率が大きい構造とする。負極板側に空孔率の低い繊維層を向けることで、大電流充放電時、特に充電時の負極表面での金属リチウムによるデンドライトの析出と成長を抑制でき、この結果、電池内部短絡を防止することができる。
【0026】
各繊維層の空孔率としては、上述したように、繊維層全体における平均の空孔率で50%以上を確保できる範囲であればよい。具体的な範囲としては、負極板と隣接し、該負極板との界面を構成する繊維層Aの空孔率が40%〜80%であり、正極板と隣接し、該正極板との界面を構成する繊維層Bの空孔率が60%〜90%であることが好ましい。この範囲内とすることで、充放電中における正・負電極界面でのリチウムイオンの易動状態を維持し得る。また、繊維層Aの空孔率が80%をこえると、デンドライトの析出・成長を抑制できないおそれがある。また、繊維層Aの空孔率が40%未満であると、それ以上の場合と比較して、有機電解液の保液量が少なくなるため、少ないサイクルでの液枯れのおそれがある。繊維層Bの空孔率は高い方が好ましいが、90%をこえると、引張強度の低下により、実使用できなくなるおそれがある。
【0027】
また、繊維層Aの空孔率が50%〜60%、繊維層Bの空孔率が70%〜80%であることがより好ましい。空孔率が最も小さくなる繊維層Aの空孔率を50%以上にし、すべての繊維層の空孔率を50%以上とすることで、有機電解質の保液量が多くなり、液枯れをより防止しやすくなる。
【0028】
繊維層は、親水性と絶縁性を有するものであれば、その主材料としては、無機繊維および有機繊維のいずれを用いてもよい。また、本来、親水性を有さない繊維表面に対して、酸素および/または硫黄含有官能基(スルホン酸基、スルホン酸塩基、スルホフルオライド基、カルボキシル基、カルボニル基など)を導入する、親水性モノマーをグラフト重合する、界面活性剤を付着させる、などの親水性処理を施したものであってもよい。
【0029】
本発明に使用できる無機繊維としては、ガラス繊維、セラミックス繊維などが挙げられる。本発明に使用できる有機繊維としては、セルロースなどの天然繊維、天然繊維から再生・精製した再生繊維、合成樹脂繊維などが挙げられる。合成樹脂繊維の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらの共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂などが挙げられる。これらの繊維は、単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
これらの中でも、別途表面処理などを施さずに親水性を有し、耐熱性等にも優れることから、天然物由来のセルロース繊維、特に再生セルロース繊維を主材料として用いることが好ましい。セルロース繊維の原料としては、特に限定されず、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、竹パルプ、エスパルトパルプ、コットンパルプなどが挙げられる。また、再生セルロース繊維としては、低酸溶紡糸による高重合度の再生セルロース繊維(ポリノジックレーヨン)、アミン・オキサイド系有機溶剤を用いた溶剤紡糸レーヨンなどが挙げられる。なお、セルロース繊維は、洗浄、脱水、除塵などにより、不純物を除去したものを用いる。
【0031】
また、短絡などを防止するため、これら繊維を叩解機で叩解して、繊維層を高密度化することが好ましい。叩解することで、繊維層が高密度となり引張強度に優れ、また、イオン透過性にも優れる。ただし、高密度化が過ぎると繊維間空隙が減少して所定の空孔率を維持できなくなるため、叩解度(JIS P 8121)は本発明の空孔率を確保できる範囲とする。また、叩解した繊維と、他の繊維とを混合して使用することもできる。
【0032】
繊維層は、上記繊維を原料とし、例えば、長網式、短網式、円網式などの抄紙機を用いて抄造することで製造できる。また、長網式と円網式とを組み合わせた長網・円網コンビネーション抄紙機などを用いて、空孔率の異なる繊維層を重ね抄き合わせることにより、繊維層間の密着性に優れる。
【0033】
液保持体の構造は、デンドライトの析出と成長の抑制が可能であり、かつ、構造が単純で生産性にも優れることなどから、負極板との界面を構成する繊維層Aと、正極板との界面を構成する繊維層Bとの2層構造(
図1参照)、または、必要に応じてこれら繊維層間に1層の合成樹脂フィルムの層を設けた3層構造とすることが好ましい。
【0034】
次に、液保持体3以外の構成について詳細に説明する。
負極板1は、箔状負極集電体1aと、この両面に形成された負極合剤層1bとからなる。負極合剤層1bは、活物質となるリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な材料を主材料とし、該材料と、結着剤と、分散溶媒等とを混練してペースト状にし、これを箔状負極集電体1aの両面に塗布して形成される。箔状負極集電体1aとしては、電気化学的性質、箔状への加工性やコスト面から、銅箔が用いられている。
【0035】
リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な材料としては、炭素材、リチウム−アルミニウム合金、シリコン系またはスズ系リチウム合金やそれらの酸化物混合体、さらにはチタン酸リチウムなどが挙げられる。この中で、不可逆容量が小さいなどの理由から、炭素材を用いることが好ましいが、近年、チタン酸リチウムやシリコン酸化物およびシリコン金属混合体が高容量材料として用いられつつある。
【0036】
本発明の液保持体は、いずれの負極活物質を用いる場合にも使用可能であるが、特に、金属リチウムによるデンドライト析出が起こる範囲のリチウムイオン吸蔵電位である物質を用いる場合に有効である。すなわち、リチウムイオン吸蔵電位が0.2V(vs.Li/Li
+)よりも卑な電位でリチウムを吸蔵する活物質を用いる場合に適用することが好ましい。このような負極活物質としては、炭素材が挙げられる。
【0037】
正極板2は、箔状正極集電体2aと、この両面に形成された正極合剤層2bとからなる。正極合剤層2bは、活物質となる、層状またはスピネル状のリチウム含有金属酸化物やその固溶体、リチウム含有金属リン酸化合物やリチウム含有金属珪酸化物およびそれらのフッ化物、さらにはリチウム含有化合物を主材料とし、該材料と、結着剤と、分散溶媒等を混練してペースト状にし、これを箔状正極集電体2aの両面に塗布して形成される。箔状正極集電体2aとしては、性能上、アルミニウム箔が用いられている。
【0038】
層状またはスピネル状リチウム含有金属酸化物としては、LiCoO
2、Li(Ni/Co/Mn)O
2、LiMn
2O
4が挙げられ、その固溶体としては、Li
2MnO
3−LiMO
2(M=Ni,Co,Mn)などが挙げられる。リチウム含有金属リン酸化合物としては、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4などが挙げられ、リチウム含有金属珪酸化物としては、LiFeSiO
4などが挙げられ、そのフッ化物としては、Li
2FePO
4・Fなどが挙げられる。リチウム含有化合物としては、LiTi
2(PO
4)
3、LiFeO
2などが挙げられる。これらの中で、電気化学特性、安全性やコスト面で、LiCoO
2、Li(Ni/Co/Mn)O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4を用いることが好ましい。
【0039】
正極集電体を除く正極合剤層の密度は 1.8〜3.6 g/cc であり、負極集電体を除く負極合剤層の密度は 1.2〜1.7 g/cc であることが好ましい。上記範囲外であると、特に下限側は活物質である合剤層と集電体との密着性が低下し、サイクル性能が低下するおそれがある。また、上限側では極板の多孔性が確保されず、電解液の拡散性が抑制されて、結果、大電流充放電性能が低下するおそれがある。このような密度範囲とする場合、負極合剤層は、正極合剤層よりも、空孔率が高くなるため、本来であれば、液保持体は負極界面側の繊維層の空孔率を正極界面側よりも高くすることが好ましい。本発明では、金属リチウムによるデンドライトの析出と成長を抑制するため、あえて、負極界面側の繊維層の空孔率を小さく設定しつつ、全体としては高い空孔率(50%以上)を確保している。
【0040】
本発明の液保持体は、上述した以外の任意の正・負電極材に対しても適用可能である。本発明においては、リチウム二次電池の出力特性向上、長寿命化だけでなく、車載用として将来求められる小形軽量電池としての高容量材料として効果の大きい正・負電極材の組み合わせとして、特に次の組み合わせを想定している。すなわち、正極板の正極合剤層には、主材として、長寿命で低コスト、かつ安全性の高い粉体表面に導電性カーボンコートを施したオリビン形LiPePO
4を用い、この主材にカーボン導電材であるアセチレンブラックとカーボンナノチューブとを結合させて用いる。一方、対向の負極板の負極合剤層には、高容量、高回生および長寿命を考慮して導電性カーボンをコートした黒鉛粉体(人造黒鉛または易黒鉛粉体)と導電性カーボンであるアセチレンブラックやカーボンナノチューブ等と結合させた炭素材を用いることが最良と考える。この正・負電極材の組み合わせにおいても、本発明の液保持体をセパレータとして介在させることで、金属リチウムによるデンドライトの析出と成長を抑制でき、電池内部短絡を防止できる。
【0041】
リチウム二次電池において、上述する電極群が浸漬される有機電解液としては、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを用いることが好ましい。
【0042】
リチウム塩を含む非水電解液における非水溶媒としては、極性有機溶媒が挙げられ、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などが挙げられる。これらの極性有機溶媒は、親水性の液保持体と親和性を有する。
【0043】
また、上記溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、ホウ四フッ化リチウム(LiBF
4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSO
3CF
3)などが挙げられる。
【0044】
その他、
図1の構成のリチウム二次電池において、箔状負極集電体1aおよび箔状正極集電体2aに、これら集電体を貫通する複数の孔を設け、該孔の周囲を箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出させた構造とすることもできる。
【実施例】
【0045】
実施例1
リチウム二次電池の正極板を以下の方法で製造した。
二次粒子径が2〜3μmの導電性カーボンが表面にコートされたオリビン型リン酸鉄リチウムを正極活物質とし、該活物質86重量部に、導電剤として8重量部の導電性カーボンおよび導電性カーボン繊維体の混合体と、結着剤として6重量部のポリフッ化ビニリデンを添加した。これに分散溶媒として、N−メチルピロリドンを添加し、混練して、正極合剤(正極スラリー)を作製した。20μm厚さで、150mm幅のアルミニウム箔を準備する。上記正極スラリーを該アルミニウム箔の両面に塗布、乾燥した。その後、プレス、裁断してリチウム二次電池用の正極板を得た。アルミニウム箔の両面に正極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の正極総厚さは160μmであった。
【0046】
次に、リチウム二次電池の負極板を以下の方法で製造した。
表面にカーボンコートした炭素材(ソフトカーボン)を90重量部とこれに導電剤としてアセチレンブラックとカーボンナノチューブをさらに複合化して、この複合粉体95重量部に結着剤として5重量部のポリフッ化ビニリデンを添加し、これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加し混練して、負極合剤(負極スラリー)を作製した。10μm厚さで、150mm幅の銅箔を準備する。上記負極スラリーを塗工乾燥し、その後、プレス、裁断してリチウム二次電池用の負極板を得た。銅箔の両面に負極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の負極総厚さは120μmであった。
【0047】
これらの正・負極電極板を用いて3.4V−500mAhのPouch形電池を試作した。正・負極電極板間に介在させる隔離体および液保持体として、セルロース繊維製で、液保持体全体としての平均の空孔率が70%で、正極界面側に空孔率80%、負極界面側に空孔率60%で各40μmの繊維層をオンマシンで2層貼りせた、総厚さ80μmのものを用いた。セルロース繊維としては、溶剤紡糸再生セルロース繊維を用い、該繊維を所定の叩解度まで叩解し、長網・円網コンビネーション抄紙機により2層紙を抄造した。長網で抄紙した層の空孔率が60%、円網で抄紙した層の空孔率が80%となる二重紙となっている。
【0048】
比較例1
実施例1の正極板および負極板を用いて、隔離体および液保持体として、ポリエチレン製の一層80μm、空孔率40%のフィルムセパレータを用いて同様の電池を試作した。
【0049】
比較例2
実施例1の正極板および負極板を用いて、隔離体および液保持体として、セルロース繊維製の一層80μm、空孔率45%のセパレータを用いて同様の電池を試作した。
【0050】
比較例3
実施例1の正極板および負極板を用いて、隔離体および液保持体として、セルロース繊維製で、液保持体全体としての平均の空孔率が40%で、正極界面側に空孔率50%、厚さ40μmの繊維層を、負極界面側に空孔率30%、厚さ40μmの繊維層を有するものを用いて同様の電池を試作した。
【0051】
実施例2
実施例1の正極板および負極板を用い、隔離体および液保持体としてセルロース繊維製で、液保持体全体としての平均の空孔率が70%で、正極界面側に空孔率80%、負極界面側に空孔率60%で各30μmの繊維層を2層と、より安全性を配慮して、この2層間にポリオレフィン製フィルムを1層加えて張り合わせた総厚さ80μmのものを用いて同様の電池を試作した。
【0052】
実施例1〜2と、比較例1〜3の5種類の電池を作製し、先ずは0.5Aと15Aの定電流にて2.0Vまでの放電容量を測定し、0.5A時の容量に対する15A時の容量比率を算出した。次いで、それぞれの電池を50%充電した状態に調整し、それぞれ0.1,0.5,1,1.5,2.5Aで回路解放時から10秒間だけ放電し、10秒後の電圧を測定して、それぞれの放電電流時の開路電圧からの電圧降下に対する電流値との関係をプロットしたI−V特性直線から、直線の傾きを最小二乗法にて算出した値を求め、これを電池の50%充電時の直流抵抗値として比較した。
【0053】
さらに、同5種類の電池を用いて、1.5A放電(4.0〜2.0V)と1.5A定電流の4.0V定電圧充電(0.025A時充電終了)の充放電条件にて25℃中で、充放電間は10分の休止を入れたサイクル寿命試験を行った。寿命判定はそれぞれの電池の初期容量に対する70%放電容量に達した際のサイクル数とした。それぞれの充放電試験結果を下記の表1〜3に纏めた。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表1〜3に示すとおり、本発明の液保持体を用いることで、車載または定置用として低抵抗、高出力でかつ長寿命の電池を提供可能となった。これは、親水性の繊維状液保持体により、正・負電極界面で電解液が豊富に確保されたこと、またそのことにより、界面でのリチウムイオンの移動状態が長期にわたり維持された結果と考える。
【0058】
次に、過充電安全性試験を各電池で行った。方法としては、25℃の恒温槽中に各電池を宙吊り状態で保持し、満充電から300%の過充電状態にした際の発煙、発火、電池の温度上昇について調べた。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
従来のポリエチレン製フィルムセパレータ(比較例1)では、正極がLiFePO
4であるが故に発火はないものの、負極での金属リチウムのデンドライト析出により一部が発煙した。これに対して、繊維状の液保持体では、いずれの例でも発火、発煙はなかった。しかし、デンドライト析出による発熱や電解液の分解による発熱が、同じ繊維状の液保持体でも空孔率の低い比較例2のものに比して本発明の実施例のものは抑制されることが分かった。さらに、繊維状の液保持体中にフィルム層が入った実施例2のものは、フィルムによるデンドライト析出がさらに抑制され発熱が抑えられた。これらは繊維状の液保持体によって電解液がフィムル状セパレータよりも多く入り、電解液の熱伝導性向上により発熱抑制できたものと考えられる。