特許第5754042号(P5754042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スング、ジン キュングの特許一覧

特許5754042鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板
<>
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000008
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000009
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000010
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000011
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000012
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000013
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000014
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000015
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000016
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000017
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000018
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000019
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000020
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000021
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000022
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000023
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000024
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000025
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000026
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000027
  • 特許5754042-鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板 図000028
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754042
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】鉄及び鉄系合金における表面{100}面形成方法、これを用いた無方向性電気鋼板の製造方法及びこれを用いて製造された無方向性電気鋼板
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20150702BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20150702BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20150702BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C21D9/46 501A
   C22C38/00 303U
   C22C38/04
   H01F1/16 A
【請求項の数】23
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2009-542654(P2009-542654)
(86)(22)【出願日】2007年12月21日
(65)【公表番号】特表2010-513716(P2010-513716A)
(43)【公表日】2010年4月30日
(86)【国際出願番号】KR2007006737
(87)【国際公開番号】WO2008078921
(87)【国際公開日】20080703
【審査請求日】2009年11月11日
【審判番号】不服2014-1718(P2014-1718/J1)
【審判請求日】2014年1月30日
(31)【優先権主張番号】10-2006-0133074
(32)【優先日】2006年12月22日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】509176260
【氏名又は名称】スング、ジン キュング
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】スング、ジン キュング
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 井上 猛
【審判官】 木村 孔一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−108345(JP,A)
【文献】 特開平02−274844(JP,A)
【文献】 特開2001−115243(JP,A)
【文献】 特開昭53−031518(JP,A)
【文献】 特開2005−171294(JP,A)
【文献】 特開平09−176826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D1/76,8/12,9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
系合金からなる金属板材面に平行な{100}面を前記金属板材の表面に形成させるための方法であって、
i)前記金属板材の内部領域及び表面領域のうち、少なくとも一領域の酸素を減少させるか、前記金属板材を外部の酸素から遮断しながら、ii)オーステナイト相が安定した温度及び前記板材の表面が酸化されない条件で前記金属板材を熱処理する熱処理ステップと、
前記熱処理された金属板材を、前記表面が酸化されない状態で冷却させてフェライト相に相変態させるステップと、を含み、
前記板材の表面が酸化されない条件は、前記板材に添加された元素が酸化されない条件であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記鉄系合金は、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、炭素(C)、及び燐(P)からなる群から選択された少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理前の金属板材は、40ppm以下の溶存酸素を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理ステップは、前記金属板材の全体または前記金属板材の表面のオーステナイト相が安定した温度下でなされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理ステップは、10−3torr以下の圧力でなされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理は、還元性ガス雰囲気下でなされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記還元性ガス雰囲気は、水素ガス、及び炭化水素ガスからなる群から選択された少なくとも1つの還元性ガスで構成され、前記還元性ガス雰囲気は、キャリヤガスとして不活性ガスを更に含み、前記熱処理ステップは、露点が−10℃以下のガス雰囲気下でなされることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記還元性ガスの圧力が0.1気圧以下になる圧力条件下で熱処理することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理ステップは、前記金属板材と離隔するように配置された酸素吸着物質(oxygen getter)の存在下でなされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸素吸着物質は、チタン、ジルコニウム、及び石墨からなる群から選択された少なくとも1つの物質であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理前の金属板材の酸素除去、または酸素遮断のために、酸素反応性元素を添加するステップを更に含むが、前記酸素反応性元素は、0.5質量%以下の炭素、6.5質量%以下のケイ素、及び3.0質量%以下のマンガンから選択された少なくともいずれか1つの元素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理前の金属板材の表面に酸素反応性コーティング層を形成するステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酸素反応性コーティング層は、炭素とマンガンから選択されたいずれか1つの元素を含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記相変態は、前記オーステナイト相が安定した温度から前記金属板材を所定の冷却速度で冷却させることによりなされて、
前記金属板材がケイ素を3.0質量%未満含み、
ェライト及びオーステナイトが共存する区間の冷却速度を50℃/hr乃至1000℃/hrの範囲に維持させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記相変態は、前記オーステナイト相が安定した温度から前記金属板材を所定の冷却速度で冷却させることによりなされて、
前記金属板材がFe−Si−C合金であり、炭素を0.03%乃至0.5%を含み、
フェライト及びオーステナイトが共存する区間の冷却速度を600℃/hr以上に維持させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記相変態は、前記オーステナイト相が安定した温度から前記金属板材を所定の冷却速度で冷却させることによりなされて、
前記金属板材がFe−Si−Mn合金であり、マンガン0.1%乃至3.0%を含み、
フェライト及びオーステナイトが共存する区間の冷却速度を100℃/hr以下に維持させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記熱処理ステップは、20分以内になされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
i)鉄系合金からなる金属板材の内部領域及び表面領域のうち、少なくとも一領域の酸素を減少させるか、前記金属板材の表面領域を外部の酸素から遮断しながら、オーステナイト相が安定した温度及び前記板材の表面が酸化されない条件で前記金属板材を熱処理する熱処理ステップと、
前記熱処理された金属板材を、前記表面が酸化されない状態で冷却させてフェライト相に変化させる相変態ステップを含む金属板材の表面{100}面形成ステップと、
ii)前記金属板材面と平行な{100}面が形成された金属板材の表面集合組織を内部に成長させる内部成長ステップと、を含み、
前記板材の表面が酸化されない条件は、前記板材に添加された元素が酸化されない条件であることを特徴とする無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理された金属板材を、前記表面が酸化されない状態で冷却させて、前記フェライト相に変化させるステップにおいて、前記表面に形成される高密度{100}集合組織は、前記熱処理された金属板材を前記オーステナイト相が安定した温度から冷却させることを特徴とする請求項18に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記内部成長ステップは、前記表面{100}集合組織が形成された金属板材を冷却させるか、前記鉄系合金の内部に含まれたオーステナイト相安定化元素を前記金属板材から除去させることによりなされることを特徴とする請求項18に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項21】
前記内部成長が完了した金属板材には、前記金属板材の表面から厚み方向に前記金属板材の厚みの半分以上の粒子サイズを有する{100}集合組織が形成されていることを特徴とする請求項18に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項22】
前記表面高密度{100}面形成ステップ及び内部成長ステップは、30分以内になされることを特徴とする請求項18に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項23】
前記金属板材はマンガンを0.1乃至1.5質量%含み、
前記フェライト及びオーステナイトが共存する区間の冷却は100℃/hr以下の速度でなされることを特徴とする請求項18に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、発電機、小型変圧器などに使われる優れる集合組織特性を有する無方向性電気鋼板に関するものであり、またその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料は2つの重要な磁気特性が求められるが、鉄損が低くなければならず、磁束密度が高くなければならない。鉄系軟磁性材料で鉄損を減少させる方法は、磁区の移動を容易にする方法(ヒステリシス損失減少)と比抵抗を増加させる方法(渦流損減少)等を含む。
【0003】
磁区の移動を容易にするためには、酸素、炭素、窒素、タイタニウムなどの不純物を除去して鉄及び鉄系合金の純度を上げなければならない。比抵抗を増加させるためには、シリコン、アルミニウム、マンガンなどの含有量を増加させなければならない。
【0004】
鉄系bcc(体心立方体)結晶は磁気異方体であるので、結晶集合組織が鉄及び鉄系合金の磁気特性に及ぼす影響が非常に大きいと知られている。無方向性電気鋼板の最適の集合組織は{100}面が板材面に平行に配列されたものであるが(この後には{100}集合組織という)、その理由は{100}面には2つの磁化容易方向、<001>、が存在し、磁化難易方向、<111>、は存在しないためである。
【0005】
{100}集合組織を形成する既存の方法はいろいろなものがある。薄いFe−3%Si板材を1000℃以上のHS雰囲気で熱処理すれば、{100}面が板材面に平行な粒子が選択的に成長することが観察された。このような結果が表れる理由は、熱処理雰囲気で硫黄または酸素が表面に吸着されて表面エネルギーに異方性を誘発させたためであると考えられている。直接鋳造法を用いる方法は、本発明者が韓国特許No.95−48472/1995に公開したが、ケイ素鋼板に{100}集合組織が高密度に形成される。しかしながら、この方法を用いて製造された板材は表面が粗く、厚みが均一でないので、このようなケイ素鋼を電気鋼板に使用するためには、この問題が解決されなければならない。
【0006】
前述したように、{100}集合組織を有する軟磁性鋼板を製造する既存の方法が知られている。しかしながら、量産のためには解決すべき問題があるので、{100}集合組織を有する軟磁性鋼板を商業的に生産することは容易でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のように従来の方法が持っている不完全性を克服しようとするものである。
【0008】
本発明の目的は、反復再現が可能で、効果的で、かつ効率的な高密度{100}集合組織を有する軟磁性鋼板を熱処理工程を用いて製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鉄及び鉄系合金板材がオーステナイト(γ)相が安定した温度下で熱処理される時、板材の内部領域及び表面領域のうち、少なくとも一領域の酸素の影響を減少させるか、熱処理雰囲気で酸素の影響を減少させる時、そして上記熱処理された金属板材をフェライトに相変態させる時、高密度の{100}集合組織が板材の表面に形成されるということを明らかにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による無方向性電気鋼板は、{100}集合組織が格段に向上して、鉄損、磁束密度、及び透磁率などの磁気特性が従来の無方向性電気鋼板に比べて非常に優れる。
【0011】
本発明に従う無方向性電気鋼板製造方法によると、高密度{100}集合組織を効率的で、かつ効果的に製造することができる。板材の表面に{100}粒子を形成させ、この表面粒子を内部に成長させる過程がγ→α相変態単一工程ステップであって、短時間内になされる。このように、工程時間が短いため、量産のための連続熱処理工程が可能であり、したがって生産費用を格段に減少させることができる。
【0012】
本発明で提示した方法は鉄及び鉄系合金に一般的に適用できる。また、本発明は多様な組成の合金に対して詳細な方法を明らかにしているので、より高密度の{100}集合組織を有する無方向性電気鋼板を製造することができる。
【0013】
一方、本発明に従う無方向性電気鋼板は格段に向上した{100}集合組織を持っているので、鉄損、磁束密度、及び透磁率などの磁気特性が従来の無方向性電気鋼板に比べて非常に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明について詳細に説明する。
【0015】
図1】純鉄1試片を1気圧水素ガス雰囲気で熱処理する時、熱処理温度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図2】純鉄2試片を6×10−6torr 真空中で熱処理する時、材料の酸素濃度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図3】純鉄2試片を1000℃で30分間熱処理する時、真空度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図4】チタニウムゲッター(getter)を使用して6×10−6torr真空熱処理をする時、ケイ素濃度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図5】Fe−1.5%Si試片を1150℃で15分間熱処理する時、真空度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図6】Fe−1.0%Si試片を1気圧水素ガス雰囲気で熱処理する時、熱処理温度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図7】Fe−3.0%Si−0.3%C試片を1050℃で15分間熱処理する時、漏洩ガスが{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図8】Fe−0.4%Si−0.3%Mn試片を1000℃で10分間熱処理する時、真空度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図9】Fe−2.0%Si−1.0%Mn−0.2%C試片を1100℃で10分間熱処理する時、真空度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図10】Fe−1.0%Si試片を1気圧水素ガス雰囲気で熱処理する時、熱処理雰囲気の露点が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図11】Fe−1.5%Si−0.1%C試片を1150℃で15分間熱処理する時、水素ガスの圧力が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図12】Fe−1.0%Si試片を4.1×10−1torr水素ガス雰囲気で熱処理する時、熱処理時間が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図13】Fe−1.0%Si試片を9×10−2torr水素雰囲気で1050℃で20分間熱処理する時、冷却速度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図14】Fe−1.0%Si試片をチタニウムゲッターを使用して6×10−6torr真空で1050℃で15分間熱処理をする時、真空冷却温度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図15】Fe−1.5%Si−1.5Mn試片を6×10−6torr真空で1050℃で10分間熱処理をする時、冷却速度が{100}集合組織形成に及ぼす影響を示すグラフである。
図16】純鉄1試片を1気圧水素ガス雰囲気下で930℃で1分間熱処理した時に表れるよく発達した貫通型粒子組織を示す光学顕微鏡写真である。
図17】Fe−1.0%Si試片をチタニウムゲッターを使用して6×10−6torr真空で1150℃で15分間熱処理をした時に表れるよく発達した貫通型粒子組織を示す光学顕微鏡写真である。
図18】Fe−1.0%Si試片を5×10−6torr真空雰囲気で1050℃で15分間熱処理をした時に表れる試片の粒子分布を示すグラフである。
図19】Fe−1.5%Si−0.7%Mn試片を6×10−6torr真空雰囲気で1100℃で10分間熱処理し、真空冷却を実施した時に表れる微細組織を示す光学顕微鏡写真である。
図20】Fe−1.5%Si−0.7%Mn試片を6×10−6torr真空雰囲気で1100℃で10分間熱処理し、25℃/hrの冷却速度で冷却を実施した時に表れる微細組織を示す光学顕微鏡写真である。
図21】Fe−1.5%Si−0.1%C試片を950℃で15分間、水分を含有した水素雰囲気で脱炭させた場合に表れるよく発達した柱状晶微細組織を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付された図面を参照しつつ詳細に説明する。 本発明は、ここに説明される実施形態に限定されず、他の形態に具体化されることもできる。むしろ、ここに紹介される実施形態は開示された内容が徹底し、かつ完全になるように、そして当業者に本発明の思想が十分伝えられるようにするために提供されるものである。
【0017】
本発明の一特徴によれば、金属板材の表面に{100}面が板材面に平行な集合組織を形成する方法は、i)鉄または鉄系合金板材を板材の内部領域及び表面領域のうち、少なくとも一領域の酸素を減少させるか、熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化した状態で熱処理するステップ、ii)上記板材をオーステナイト(γ)相が安定した温度(以後、この温度区域をオーステナイト温度という)下で熱処理するステップ、及びiii)上記板材をフェライト(α)相に相変態させる(以下、γ→α相変態という)ステップを含む。上記金属板材の表面に{100}集合組織を有する粒子を形成させた後には、その粒子が内部に成長してその粒子のサイズが少なくとも板材の厚みの半分以上に成長するようになれば、その板材を構成する大部分の粒子が{100}集合組織を有するようになる。本発明において、上記{100}集合組織を板材の表面に形成するステップ、及び上記{100}集合組織を有する表面粒子が内部に成長するステップは、場合によっては同時になされるか、あるいは別途の工程によりなされており、連続してなされることができる。
【0018】
本発明の更に他の特徴に従う無方向性電気鋼板は、鉄またはFe−Si合金からなり、柱状晶粒子を持っており、{100}集合組織が少なくとも25%の表面積を占有する。熱処理条件を厳格に統制する場合、全ての板材の表面を{100}集合組織を有する粒子に作ることができる。
【0019】
表面集合組織形成方法
本発明に従う表面集合組織形成方法は、熱処理ステップ及び相変態ステップを含む。上記表面集合組織は{100}面、{111}面などを含む。また、本発明は鉄または鉄系合金からなる金属板材を表面集合組織形成の対象とする。上記熱処理は熱処理対象である金属板材のオーステナイト(γ)相が安定した温度範囲下でなされなければならない。
【0020】
オーステナイト温度は与えられた合金系の組成によって決まるので、熱処理温度は合金の化学的組成によって異なるように決まらなければならない。上記金属板材はγ→α相変態ステップを経ることによって、表面に所定の集合組織が形成できる。γ→α相変態の間、原子構造の全面的な再配列が発生する。γ→α相変態は、温度(冷却)、組成、あるいは温度及び組成の変化により発生できる。γ→α相変態は金属板材の組成変化を通じてなされることができるが、上記組成変化とは、内部に含まれた元素が熱処理雰囲気ガスと反応して発生するか、合金元素が熱処理中に蒸発して発生する。上記表面集合組織の形成は、上記γ→α相変態と密接な関係がある。したがって、意図する表面集合組織を得るためには、冷却速度を精密に調節する必要がある。
【0021】
本発明によれば、上記γ→α相変態は表面の原子配列を変える道具として使われることができ、それによって、表面に特定の集合組織を有するようにすることができる。再結晶が発生する温度で発生する相変態は、原子配列を変化させることに非常に大きい影響を与えることができる。その原因は、γ→α相変態に従うエネルギー変化が(約1000J/mole)電位の密度(dislocation density)及び粒界面積と関連したエネルギー変化に比べて格段に大きいためである。たとえオーステナイトとフェライトとの間に結晶方位関係(crystallographic orientation relationship)が存在するという事実はよく知られているが(例えば、Krudjumow-Sachs関係)、24個のバリアント(variant)が同等な確率で発生するため、γ→α相変態の後には、集合組織は特定の面に対する選択性がなくなる。本発明では特定の雰囲気でγ→α相変態を行って、板材の表面の原子配列を全面的に再配列する方法が公開された。
【0022】
表面{100}集合組織形成方法
本発明の一特徴に従う方法により、金属板材の表面に{100}集合組織を形成するためには、特定の条件下で熱処理するステップが含まれなければならない。熱処理の主なパラメータである加熱速度、熱処理温度、熱処理時間、冷却速度、そして熱処理ガス雰囲気などの実験条件のうち、最も重要なパラメータは熱処理雰囲気の内部に存在する酸素の量である。
【0023】
高密度{100}集合組織を得るためには熱処理雰囲気に存在する酸素の量が十分に低くて板材の表面で酸化が発生してはならない。本発明に従う表面{100}集合組織形成方法は、上記金属板材が一般的な鉄からなる金属板材だけでなく、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、燐(P)などを含む鉄系合金板材にも適用できる。上記の元素は、本発明の効果を妨害せず、後述するように、上記の元素は{100}集合組織形成に有害な影響を与える酸素の影響を減少させるために使われることができる。
【0024】
上記の熱処理は、上記金属板材のオーステナイト相(austenite phase)が安定した温度範囲内でなされる。上記オーステナイト相が安定した温度範囲は、与えられた合金系の組成によって決まるので、熱処理温度は上記板材の表面の化学的組成によって異なるように決定されなければならない。オーステナイト安定化元素であるマンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、炭素(C)等を添加すれば熱処理温度を低め、それで工程の効率を向上させることができる。
【0025】
本発明によると、γ→α相変態は板材の表面の原子を再配列させる道具として利用できるので、{100}集合組織を形成させることができる。γ→α相変態は、温度(冷却)、組成、あるいは温度及び組成の変化により発生できる。金属板材の組成変化は熱処理途中に発生できるが、これは板材の内部に含まれた合金元素が熱処理雰囲気ガスと反応するか、マンガンなどのオーステナイト相を安定化させる合金元素が熱処理中に蒸発して発生する。上記の表面{100}集合組織の形成は、上記γ→α相変態と密接な関係がある。したがって、高密度{100}集合組織を板材の表面に形成させるためには、γ→α相変態の冷却速度を精密に調節する必要がある。
【0026】
本発明に従う板材の表面に{100}集合組織を形成する方法は、熱処理を真空雰囲気下または特定のガス雰囲気下で実施するステップを含む。また、上記鉄及び鉄系合金は40ppm以下の溶存酸素(oxygen in solution)を含有するように調節されて{100}集合組織を形成することに有害な影響を与える酸素の効果を最小化させなければならない。上記の熱処理が真空雰囲気下でなされる場合、熱処理雰囲気圧力は10−3torr以下でなされて、好ましくは10−5torr以下の熱処理雰囲気圧力でなされる。このように低い雰囲気圧力を必要とする理由は、熱処理雰囲気で低い酸素分圧を維持するためである。
【0027】
本発明において、熱処理を実施する際、酸素分圧が高ければ、表面に{100}集合組織形成が妨害を受ける。上記熱処理雰囲気は、還元性ガス(H2 or hydrocarbon gases)、不活性ガス(He、Ne or Ar)、あるいは上記2種類の混合ガスを主な要素にして熱処理を実施することができる。上記還元性ガスは、金属板材の表面で酸素と反応してHOあるいはCOの形態で酸素を除去することができる。
【0028】
熱処理を実施する際、上記還元性ガスを使用する場合、上記還元性ガスの圧力は特別に制限されないが、略1気圧以内のものが好ましくて、より好ましくは、10−1気圧以下乃至10−5気圧以上になるようにする。また、熱処理雰囲気の露点は調節できるので、熱処理の前や熱処理の途中にオーステナイト温度で如何なる形態の酸化も発生してはならない。なぜならば、還元性あるいは不活性雰囲気で水分は酸素を供給する役目をすることができるためである。
【0029】
本発明では、鉄及び鉄系合金内に存在する酸素の量がγ→α相変態を用いて{100}集合組織を形成することに非常に重要なパラメータである。鉄及び鉄系合金において、侵入型原子形態で存在する酸素は一定な水準以下に調節されなければならない。仮に、酸素の含有量が高ければ{100}集合組織形成は妨害を受けるようになる。
【0030】
また、上記{100}集合組織を形成する熱処理の前に酸洗工程(picking process)により板材の表面に存在する酸化物を除去することが好ましい。熱処理雰囲気の純度を上げるために、{100}形成熱処理を実施する前に雰囲気ガスから酸素及び/又は水分を除去する追加的なステップが含まれることもできる。雰囲気ガスに存在する酸素と水分を除去するために多様な形態の吸収剤(absorbents)が使われることができる。
【0031】
一方、表面に{100}集合組織を形成することに有害な酸素の影響を減少させるために、炭素マンガンなどの元素を添加するか、コーティングすることができる。炭素原子は板材の表面に存在する酸素と反応して一酸化炭素を形成しながら板材の表面に存在する酸素を除去することができる。マンガンの場合には熱処理温度でマンガンの蒸気圧が非常に高いので、金属板材の表面から蒸発したマンガン原子が熱処理雰囲気から飛んでくる酸素分子を防いで酸素が金属表面と接触することを防いでいるようである。上記元素を合金に添加する場合には、炭素は0.5%未満、そしてマンガンは3.0%未満にする。上記の元素を板材の表面にコーティングしても{100}集合組織を形成することに同一な有益な効果がある。また、鉄、ニッケル、銅など、ケイ素鋼より酸素と反応性の少ない元素をコーティングしても{100}集合組織を形成することに有害な酸素の影響を減らすことができる。この元素は酸素を含む熱処理雰囲気から板材の表面を保護するだけでなく、オーステナイト相が安定化される温度を低めて熱処理温度を低めることができる。
【0032】
本発明で提示した板材の表面に{100}集合組織を形成する方法は、上記板材をオーステナイトからフェライトに冷却させるステップを含む。表面{100}集合組織の形成はγ→α相変態と密接な関係があるので、相変態中の冷却速度が{100}集合組織形成に重要な役目をする。γ→α相変態が発生する温度区間では冷却速度が3000℃/hr以下になることが好ましい。
【0033】
相変態区間で冷却速度を調節すれば{100}集合組織形成をより強化させて、{111}面形成を抑制させることができる。上記γ→α相変態が冷却を通じて誘導する場合、金属板材の化学的組成及び熱処理温度などによって最適冷却速度が変わる。例えば、上記金属板材がケイ素を含むケイ素鋼からなる場合、最適冷却速度は50℃/hr乃至1000℃/hrである。
【0034】
しかしながら、上記金属板材がケイ素を含み、冷却前の熱処理が1100℃以上でなされた場合には、上記相変態が実質的になされる区間の冷却速度が3000℃/hr以上の場合にも高密度{100}集合組織を形成することができる。また、上記金属板材がFe−Si−C合金であり、炭素を0.03%乃至0.5%を含有する場合には、上記相変態が実質的になされる区間の適切な冷却速度は600℃/hr以上である。上記金属板材がFe−Si−Mn合金であり、マンガンを0.1%乃至3.0%含有する場合には、適切な冷却速度は100℃/hr以下である。熱処理時間も上記{100}集合組織に影響を与えることができる。最適の熱処理時間は1分乃至60分であり、最大120分を超過しないことが好ましい。
【0035】
本発明では上記金属板材の表面照度(R)が{100}集合組織形成と密接な関係がある。高密度{100}集合組織を形成するためには、上記金属板材の表面照度が0.1μm以下になるように維持されることが好ましい。したがって、{100}形成熱処理を実施する前に熱処理対象の金属板材の表面が滑らかなものが好ましい。
【0036】
本発明で提示した方法を使用すれば、板材の表面に高度に集積された{100}集合組織を30分以内に形成することができ、好ましくは数分振りに形成される。このように熱処理時間が短いため、本発明は量産に適した連続熱処理工程の適用が可能である。
【0037】
本発明では集合組織形成を評価する指標として面強度、Phklを使用した。面強度Phklは、次の通り定義される。
【0038】
【数1】
hkl:多重因子(multiplicity factor)
hkl:(hkl)面のX−線(X−ray)強度
R,hkl:ランダムな試片の(hkl)面のX−線(X−ray)強度
【0039】
上記Phklが有する意味は、特定面に対する選択性がないランダムな方位を有する粒子からなる試片で表れる(hkl)面対比対象試片では何倍の(hkl)面が存在するかを概略的に示す値である。
【0040】
本発明に従う{100}集合組織形成方法は、鉄または鉄合金に汎用的に、また源泉的に適用できる。以下では、代表的な鉄合金板材に本発明を一般的に適用させたものである。以下の類型は、後述する実施形態を通じて具体的に確認できる。以下、説明される合金の化学的組成は、鉄に意図的に含んだ有効成分元素であり、不回避な不純物は無視された。
【0041】
(1)Fe−Si
1.5重量%以下のケイ素を含むFe−Si合金板材に上記高密度{100}集合組織を形成するためには、次のような条件で熱処理を実施しなければならない;熱処理温度区間は910乃至1250℃、そして熱処理雰囲気は:i)10−5torr以下の真空、または、ii)1気圧以下の還元性ガス雰囲気。上記Fe−Si合金板材をオーステナイト相が安定した温度で熱処理した後、フェライト相に変態が発生するように冷却させる。
【0042】
(2)Fe−Si−C
2.0乃至3.5重量%のケイ素及び0.5重量%以下の炭素を含むFe−Si−C合金板材に上記高密度{100}集合組織を形成するためには、次のような条件で熱処理を実施しなければならない;熱処理温度区間は800乃至1250℃、そして熱処理雰囲気は、i)10−3torr以下の真空、または、ii)1気圧以下の還元性ガス雰囲気。上記Fe−Si−C合金板材をオーステナイト相が安定した温度で熱処理した後、フェライト相に変態が発生するように冷却、または上記金属板材の組成を変化させる(脱炭)。
【0043】
(3)Fe−Si−Mn
1.0乃至3.5重量%のケイ素、及び1.5重量%以下のマンガンを含むFe−Si−Mn合金板材に上記高密度{100}集合組織を形成するためには、次のような条件で熱処理を実施しなければならない;熱処理温度区間は800乃至1250℃、そして熱処理雰囲気は、i)10−3torr以下の真空、または、ii)1気圧以下の還元性ガス雰囲気。上記Fe−Si−Mn合金板材をオーステナイト相が安定した温度で熱処理した後、フェライト相に変態が発生するように冷却または上記金属板材の組成を変化させる(板材の表面で蒸発によりマンガン原子が除去されて表れる組成変化、以下、脱マンガンという)。
【0044】
(4)Fe−Si−Mn−C
1.0乃至3.5重量%のケイ素及び1.5重量%以下のマンガン及び0.5重量%以下の炭素を含むFe−Si−Mn−C合金板材に上記高密度{100}集合組織を形成するためには、次のような条件で熱処理を実施しなければならない;熱処理温度区間は800乃至1250℃の温度下、そして熱処理雰囲気は、i)10−3torr以下の真空、または、ii)1気圧以下の還元性ガス。上記Fe−Si−Mn−C合金板材をオーステナイト相が安定した温度で熱処理した後、フェライト相に変態が発生するように冷却または上記金属板材の組成を変化させる(脱炭及び/又は脱マンガン)。
【0045】
(5)Fe−Si−Ni
1.0乃至4.5重量%ケイ素、3.0重量%以下のニッケルを含むFe−Si−Ni合金板材に上記板材面に上記高密度{100}集合組織を形成するためには、次のような条件で熱処理を実施しなければならない;熱処理温度区間は800乃至1250℃の温度下、そして熱処理雰囲気は、i)10−5torr以下の真空、または、ii)1気圧以下の還元性ガス雰囲気。上記Fe−Si−Ni合金板材をオーステナイト相が安定した温度で熱処理した後、フェライト相に変態が発生するように冷却させる。
【0046】
表1は、本発明で使われた合金の化学的組成を表している。別途の表示がない限り、%は重量%を意味する。表1に表れた組成を有するインゴットは真空誘導溶解工程により用意された。上記インゴットを高温鍛造して20mm厚みの板材に加工した。上記板材を熱間圧延して2mm厚みの板材に加工した。熱間圧延工程を経た後、表面に存在する酸化スケールを除去するために60℃の18%HCl溶液で酸洗を実施した。上記板材は冷間圧延により0.3mm、0.5mmなど、多様な厚みを有する冷間圧延板材に製造された。下記の表1に記載された成分のうち、極微量の元素は別途の言及がなければ意図的に添加された元素でなく、その含有量は合金の内部に存在する不純物水準の含有量である。このように、極微量の不純物が本発明の{100}集合組織の形成に及ぼす影響は殆どないというはずである。
【0047】
【表1】
【実施例1】
【0048】
図1は、純鉄1を熱処理する時、板材及び熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化させた状態で、上記板材をオーステナイト相が安定した温度範囲内で熱処理を実施し、上記板材にγ→α相変態が発生すると、その結果、上記板材に{100}集合組織が高密度で形成されることを示す。熱処理は還元性雰囲気下で実施された(1気圧水素、露点:−54℃)。熱処理炉の温度が850℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を850℃で5分間維持した後、希望する熱処理温度まで600℃/hrの加熱速度で加熱した。上記希望する熱処理温度で1分間を維持した後、850℃まで600℃/hrの冷却速度で冷却させた。熱処理が終わった試片は常温のチャンバーに取り出して冷却させた。
【0049】
鉄をフェライト相が安定した910℃以下の温度で熱処理した場合は、{111}集合組織が強く形成される。このような挙動は鉄から表れる一般的な現象である。しかしながら、試片がオーステナイトが安定した910℃以上の温度で熱処理すれば、板材の表面に{100}集合組織が強く形成され(表面の60%以上が{100}集合組織である)、殆ど大部分の{111}集合組織が消える。硫黄を7ppm含有している純鉄で{100}集合組織が形成されたということは極めて例外的な現象である。なお、{100}集合組織を形成するために930℃の温度であれば充分であり、総熱処理時間も20分未満である。商用鋼板水準の純度を有する鉄板でこのような現象が観察された例はない。このような結果が意味するところは、還元性雰囲気(酸素の影響を最小化させた熱処理雰囲気)でγ→α相変態を通じて高密度{100}集合組織を形成することは純鉄の固有な特性ということである。
【0050】
{100}集合組織の形成は、材料の内部の酸素量に非常に大きい影響を受ける(図2)。熱処理は真空雰囲気で実施した(6×10−6torr)。熱処理炉の温度が希望する熱処理温度に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を上記希望する温度で30分間維持した後、試片を常温のチャンバーに取り出して冷却させた。910℃以下の温度で熱処理を実施した後には{100}面の強化は発見されない(P100=約1)。しかしながら、試片を910℃以上の温度で熱処理すれば、材料の内部の酸素量が{100}集合組織の形成に非常に大きい影響を与える。材料の内部の酸素量が31ppmの場合は、高密度{100}集合組織が1000℃熱処理で発見されたが、材料の内部の酸素量が45ppmの材料で同一な熱処理を実施する時は{100}集合組織の強化は見つからなかった。このような結果が意味するところは、材料の内部の酸素がγ→α相変態を通じて{100}集合組織の形成を妨害し、したがって{100}集合組織を形成するためには鉄の内部に存在する酸素量を40ppm以下に調節しなければならないということである。
【0051】
熱処理雰囲気内に存在する酸素も{100}集合組織形成に大きい影響を及ぼす(図3)。酸素を31ppm含有した鉄を多様な真空度の真空雰囲気下で熱処理した。熱処理炉の温度が1000℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を上記熱処理温度で30分間維持した後、常温のチャンバーに取り出して冷却させた。この実験結果、{100}集合組織が強化される条件は1×10−4torr以下の真空であった。なお、真空圧が低くなるほど{100}集合組織は強化された。真空熱処理雰囲気の中では真空圧が低いほど酸素の分圧は低くなるため、上記の結果は熱処理雰囲気の中に存在する酸素は{100}集合組織形成に有害な影響を与えると解釈できる。
【0052】
これで、鉄で酸素含有量を最小化させ、熱処理雰囲気で酸素の影響を排除した状態を作り、この状態を維持しながらγ相が安定した温度区間で熱処理を実施した後、α相が安定した温度区間に冷却させる時、板材に{100}集合組織が強く形成されることを確認した。なお、本発明は{100}集合組織を形成する迅速で、かつ効率の良い方法を明らかにしている。僅か5分以内の熱処理を通じて板材の表面に高密度{100}集合組織を形成することができる。
【実施例2】
【0053】
図4は、Fe−Si合金を熱処理する時、熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化させた状態で、上記板材をオーステナイト相(austenite phase)が安定した温度範囲内で熱処理を実施し、上記板材にγ→α相変態が発生すると、その結果、上記板材に{100}集合組織が高密度で形成されるということを示す。熱処理は真空雰囲気下で実施された(6×10−6torr、Tiゲッター使用)。この熱処理では試片の横に酸素ゲッター(getter)であるTi板を共に取り付けて熱処理を実施して、真空雰囲気中に存在する酸素の影響を最小化させようとした。熱処理は熱処理炉の温度が1150℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。1150℃下で15分を維持させた後、常温のチャンバーに上記試片を取り出して冷却させた。1150℃ではシリコン含有量が0、1.0、1.5%の場合には、オーステナイト相が安定し、シリコン含有量が2.0、2.5、3.0%の場合にはフェライト相が安定する。
【0054】
図4を参照すると、冷却中にγ→α相変態を経験した材料はよく発達した{100}集合組織を示す。しかしながら、γ→α相変態がない材料では{100}集合組織の面強度は1以下であり(ランダムな方位を有する試片)、{111}、{211}面が強く表れる。このような結果から酸素が欠乏された雰囲気でγ→α相変態をさせて高密度{100}集合組織を形成する方法をFe−Si二元系合金システムにも適用できることが分かる。シリコンは鉄系軟磁性材料で主な合金元素であるため、この結果は非常に意味がある。なお、{100}集合組織の形成は鉄よりFe−Si合金でより一層容易に発生するようである。このような結果はシリコンが板材の内部の酸素を清掃する効果(酸素清掃効果、oxygen scavenging effect)があるためであると説明することができる。実施形態1に示すように、鉄の内部に存在する酸素はγ→α相変態により形成される{100}集合組織の形成を妨害する。しかしながら、鉄より酸素と親和力(affinity)がより大きいシリコンが主な合金元素であれば、シリコンは鉄系合金の内部に存在する侵入型酸素原子と反応して{100}集合組織形成を妨害する侵入型酸素量を減らすことになる(酸素清掃効果)。したがって、{100}集合組織の形成は鉄よりFe−Si合金でより一層容易に発生する。
【0055】
同一な理由により、Fe−Si合金はより一層厳格に酸素が欠乏された雰囲気で熱処理を実施しなければならない。Fe−1.5%Si合金を多様な真空度で真空熱処理を実施した。熱処理は熱処理炉が1150℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。上記試片は1150℃下で15分を維持させた後、常温のチャンバーに取り出して冷却させた。鉄とは異なり、{100}集合組織の強化は1×10−5torr以下の真空で発見される(5図)。6×10−6torr、または3×10−6torr(Tiゲッター使用)等、真空圧が減少すればするほど{100}集合組織の形成は増加する。この場合、シリコンが持っている酸素に対する高い親和力のため、合金の内部のシリコンが熱処理雰囲気に存在する酸素と反応をするようである。板材の表面に存在する酸素(侵入型原子の形態あるいは酸化物の形態)は鉄及び鉄系合金の{100}集合組織形成を妨害するので、酸素と親和力が大きい元素が合金に添加されているほど熱処理雰囲気はより一層厳格に管理されなければならない。
【実施例3】
【0056】
図6は、Fe−1.0%Si合金板材を熱処理する時、熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化させた状態で、上記板材をオーステナイト相が安定した温度範囲内で熱処理を実施し、上記板材にγ→α相変態が発生すると、その結果、上記板材に{100}集合組織が高密度で形成されることを示す。熱処理は還元性雰囲気下で実施された(1気圧水素ガス、露点:−55℃)。熱処理炉の温度が950℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を950℃で5分間維持した後、希望する熱処理温度まで600℃/hrの加熱速度で加熱した。上記希望する熱処理温度で5分間を維持した後、950℃まで600℃/hrの冷却速度で冷却させた。熱処理が終わった試片は、常温のチャンバーに取り出して冷却させた。
【0057】
Fe−1.0%Si合金ではオーステナイト相の安定区域は約1000〜1310℃であり、970℃以下の温度ではフェライト相が安定し、(α+γ)2相が同時に安定した温度区域は970〜1000℃である。Fe−1.0%Si試片をフェライト相が安定した970℃以下で熱処理を実施すれば、{111}面が主に形成される。このような挙動はケイ素含有鋼で表れる一般的な現象である。しかしながら、オーステナイト相が安定した1000℃以上では熱処理を実施すれば高密度の{100}集合組織が形成され(表面の80%以上が{100}集合組織)、殆ど大部分の{111}面は消える。
【0058】
このような結果から導出できる結論は、Fe−Si合金板材を熱処理する時、板材または熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化させた状態で、上記板材をオーステナイト相が安定した温度範囲内で熱処理を実施し、上記板材にγ→α相変態が発生すれば、その結果、上記板材に{100}集合組織が高密度で形成されることを示すということである。なお、本発明は{100}集合組織を形成する迅速で、かつ効率の良い方法を明らかにしている。僅か5分以内の熱処理を通じて高密度{100}集合組織を形成することができる。
【実施例4】
【0059】
表2は、合金板材を熱処理する時、熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化させた状態で、γ→α相変態が発生すれば、上記板材に{100}集合組織が高密度で形成されることを表す。熱処理は多様な真空雰囲気で実施された。真空熱処理中、6×10−6torr、Tiゲッターの熱処理は試片の横に酸素ゲッターであるTi板を共に取り付けて熱処理を実施して、雰囲気に存在する酸素の影響を最小化した場合である。真空熱処理中、4.1×10−1torr Hは熱処理炉に水素ガスを100cc/minで供給すると共に、ロータリーポンプを用いて熱処理炉の内部の水素ガスを除去してその圧力を維持した。熱処理炉の温度が希望する熱処理温度に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。上記希望する熱処理温度で一定時間を維持した後、熱処理が終わった試片は常温のチャンバーに取り出して冷却させた(FC)。一部の熱処理の場合には、試片を400℃/hrの冷却速度でフェライト相まで炉冷させたし、その後、試片を常温のチャンバーに取り出して冷却させた。
【0060】
表2に表している合金系は、Fe−Si、Fe−Si−C、Fe−Si−Mn、Fe−Si−Mn−C、Fe−Si−Ni、Fe−Si−Alなどであり、オーステナイト相が安定した温度範囲で熱処理を実施し、また熱処理雰囲気で酸素の影響を最小化させるか、好ましくは無酸素雰囲気であれば、高密度の{100}集合組織がいつも形成されるということを表す。
【0061】
【表2】
*FH:常温試片を熱処理温度に加熱された炉に装入。
**FC:熱処理温度に加熱した試片を常温のチャンバーに取り出し。
【0062】
炭素が含まれたFe−Si合金を実験した理由は、炭素がオーステナイト相を安定化させる元素であるためである。炭素含有元素を使用する時に表れる長所は、低いA温度のため、熱処理温度を低めることができ、オーステナイト相が存在しない材料でも炭素を添加してオーステナイト相を安定化させることができるということである。Fe−3%Si合金は、炭素がなければオーステナイト相が安定した温度区間がない。したがって、{100}集合組織は形成できない。しかしながら、この合金に0.3%の炭素を添加し、1100℃熱処理を実施すれば、{100}集合組織がよく発達する。また、炭素は与えられた合金系のA温度を低めるため、熱処理温度を低めることができる。表2に表すように、Fe−1.5%Si組成の合金系でA温度は炭素量が50ppmから1000ppmへ増加するにつれて1080℃から970℃に低くなる。熱処理温度が1050℃の場合、Fe−1.5%Si−0.1%Cでは{100}集合組織がよく発達するが、Fe−1.5%Siでは{100}集合組織は発達しない。たとえ炭素は軟磁性材料の磁気特性を熱化させる問題があるが、炭素は脱炭工程を通じて容易に除去することができる。しかしながら、炭素の含有量があまり高ければ加工性が悪くなり、いろいろな形態の炭化物が形成されて深刻な問題をもたらすことがある。したがって、Fe−Si合金で炭素含有量は0.5%未満に制限されなければならない。
【0063】
マンガンが添加されたFe−Si合金を実験した理由は、i)マンガンは電気鋼板に一般的に添加される合金元素であって、渦流損を減少させる役目をし、ii)オーステナイト相を安定化させる元素であるためである。表2を参照すると、マンガンは{100}面形成を弱化させ、その代りに{310}面を強化させることと表れた。Fe−0.4Si−0.3MnとFe−1.0%Si−1.5%Mn合金系ではγ→α相変態の後に{100}集合組織が形成されることが観察されるが、その強度はランダムな面を有する試片で表れる強度の2〜4倍に過ぎない。また、{310}面の強度もランダムな面を有する試片で表れる強度の2〜4倍である。このような結果は、マンガンが{100}面と{310}面を安定化させると判断されるが、この際、{310}面の形成は冷却速度に大きい影響を受ける。マンガンを含有したFe−Si合金では粒子成長挙動がFe−Si合金とは完全に異なり、このような理由により集合組織形成が異なるように表れたようである。Fe−Si−Mn合金系で高密度{100}集合組織を形成する方法は後述する。マンガンが含まれた合金では熱処理温度がA温度より相当に高くなければならない(約50〜100℃)。熱処理の途中に表面でマンガンは非常に速い速度で蒸発するため、表面でのマンガンの組成は材料の内部の組成に比べて非常に低い。板材の表面でマンガンが除去されれば、板材の表面のA温度は増加し、また{100}集合組織は板材の表面で形成されるため、表面に存在する相をオーステナイトに安定化させるためには、熱処理温度が与えられた合金のA温度より格段に高まらなければならない。マンガンは鉄損とA温度を低める有益な効果を持っているので、含まれていなくても本発明に問題を引き起こさない。
【0064】
炭素とマンガンを含有したFe−Si合金を実験した理由は、オーステナイト安定化元素である2元素の効果を同時に説明するためである。Fe−2.0%Si−1.0%Mn−0.2%C合金を1100℃で熱処理すれば、{100}集合組織がよく発達する。このような結果は、Fe−Si−Mn合金で発見される弱い{100}面形成が炭素を添加することにより克服できることを表す。マンガンと炭素を含有したFe−Si合金でもマンガンの蒸発のため、熱処理温度は与えられた合金のA温度より高くなければならない(約50乃至100℃)。
【0065】
ニッケルを含有したFe−Si合金を実験した理由は、ニッケルがオーステナイト安定化元素であるためである。また、ニッケル添加はいろいろな有益な点がある;i)熱処理温度で安定する(深刻な蒸発などが発生しない。)、ii)Fe−Si合金の比抵抗を高めて渦流損を減少させる、そしてiii)Fe−Si合金の引張強度を上げる。Fe−2.0%Si−1.0%Ni合金は、1090℃で{100}集合組織がよく発達する。ニッケルは鉄損とA温度を低める有益な効果を持っているので、含まれていなくても本発明に問題を引き起こさない。
【0066】
アルミニウムを含有したFe−Si合金を実験した理由は、アルミニウムが電気鋼板に添加される一般的な合金元素であって、渦流損を減少させる役目をするためである。表2を参照すると、アルミニウムは{100}集合組織形成を弱化させるようである。アルミニウムが添加されていない材料では(Fe−1.0%Si)、{100}面強度は16であったが、単純に0.1%アルミニウムを添加すれば、その値が6.65に減少した(60%減少)。このような{100}集合組織形成にアルミニウムが及ぼす有害な影響は、アルミニウムと酸素との間の高い親和力ためであると判断される。アルミニウムは酸素と非常によく反応するため、熱処理雰囲気の中に微量の酸素が存在しても板材の表面に存在するアルミニウムは酸素分子と反応する。したがって、{100}集合組織の形成が弱化される。アルミニウムが添加された合金は熱処理の後にはいつも表面光沢が消えるが、その原因もこのような理由ためであると考えられる。したがって、Fe−Si合金でアルミニウムの含有量は0.3%未満に制限されなければならない。
【実施例5】
【0067】
たとえ熱処理雰囲気の中に存在する酸素が{100}集合組織形成に大きい影響を与えているが、熱処理雰囲気に使用可能な酸素の分圧はFe−Si合金の組成に従って変化する。Fe−Si−C、Fe−Si−Mn、Fe−Si−Mn−C合金を多様な真空度で真空熱処理した。熱処理炉の温度が希望する熱処理温度に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。上記熱処理温度で希望する時間を維持して全ての粒子をオーステナイトに変態させた後、試片を常温のチャンバーに取り出して冷却させた。熱処理炉の内部の真空度はニードルバルブを用いて調節した。漏洩気体は空気を使用したのであり、場合によっては99.999%純度のArガスを使用したこともある。
【0068】
炭素を含有した合金では{100}集合組織の形成を妨害する酸素の影響を炭素が緩和させてくれるようである。炭素は板材の表面に存在する酸素と反応して一酸化炭素(CO)を形成しながら酸素を除去する重要な役目をするようである。Fe−3.0%Si−0.3%C合金で空気を漏洩して真空圧を調節する時、{100}集合組織は真空圧1×10−3torr以下で形成されたが、この値はFe−Si合金で必要な真空圧(1×10−5torr)対比100倍も高い圧力である(図7)。なお、空気の代わりにArガスを用いて真空圧を調節すれば、{100}集合組織は真空圧が1×10−1torrあるいはそのより高くても形成される。このような結果が示すことは、i)熱処理雰囲気の中に存在する酸素は{100}集合組織形成を妨害し、ii)したがって、熱処理雰囲気で酸素分圧を減少させることが{100}集合組織形成に必要条件であり、そしてiii)炭素が板材の表面で酸素を除去する重要な役目をするということである。
【0069】
マンガンを含有した合金では、{100}集合組織を形成することに有害な影響を与える酸素の影響をマンガンが微弱に緩和させてくれるようである。板材の表面で蒸発されたマンガン原子が熱処理雰囲気に存在する酸素原子から板材の表面を遮るようである。Fe−0.4%Si−0.3%Mn合金が1000℃で10分間熱処理される際、{100}集合組織は真空圧が7×10−5torr以下の時に形成されたが、この圧力はFe−Si合金(1×10−5torr)対比約10倍位高い圧力である(8図)。しかしながら、7×10−5torrという真空圧は、特別な意味を有する値ではない。このような限界真空圧は、マンガン含有量、熱処理温度、熱処理時間によって変わる。例えば、仮に上記熱処理で熱処理時間が1時間に増加されれば、{100}集合組織は2×10−5torr以下の真空圧で形成されるようになる。
【0070】
炭素とマンガンを含有したFe−Si合金では2元素を同時に使用する効果が非常に大きくて、真空圧が1×10−2torr以下で{100}集合組織が形成される(図9)。なお、{310}面の強化現象も発見されないので{100}集合組織が強く形成される。
【0071】
このような結果から分かることは、熱処理雰囲気だけでなく、合金系も注意を払って選択しなければ酸素の影響を最小化することができず、したがって、高密度{100}集合組織を形成できるということである。
【実施例6】
【0072】
水素ガス雰囲気で熱処理を実施する時は、{100}集合組織を形成するためには露点の調節が最も重要である。図1及び図6を参照すると、高密度の{100}集合組織がHガス雰囲気など、還元性ガス雰囲気で形成できる。還元性雰囲気を使用する時に表れることができる長所は、板材の表面に存在する酸素を還元性雰囲気により除去できるということである。しかしながら、金属の酸化は非常に低い酸素分圧で発生するため、還元性ガスは厳格に制御されて板材の表面を酸化させないようにしなければならない。商業的に販売されている水素ガス(dry H2)も熱力学的にはHO−H混合ガスであるので、熱処理条件でHO、H、そしてO間に形成された平衡によりHOから発生した酸素が金属の表面に影響を与えることがある。したがって、HOから発生した酸素によって{100}集合組織形成は妨害を受けることがある。
【0073】
Fe−1%Si合金で{100}集合組織を形成する適した露点を決定するために、多様な露点を有する1気圧の水素ガスで熱処理を実施した。熱処理炉の温度が950℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を950℃で5分間維持した後、1030℃まで600℃/hrの加熱速度で加熱した。上記希望する熱処理温度で10分間を維持した後、950℃まで600℃/hrの冷却速度で冷却させた。熱処理が終わった試片は常温のチャンバーに取り出して冷却させた。図10を参照すると、Fe−Si合金を露点が−50℃以下の1気圧水素雰囲気で熱処理を実施すれば、高密度の{100}集合組織が形成されるということである。驚くべきなことは、上記熱処理温度領域ではFe−1%Si合金の酸化(SiO)が水素雰囲気の露点が約−50℃以上で発生するということである。このような結果が意味するところは、熱処理雰囲気の露点は与えられた合金で酸化が発生しない位に選択されるべきであるということである。これと類似している実験が鉄(H、930℃、5分)、Fe−1.5%Si(H、1150℃、15分)、そしてFe−1.5%Si−0.1%C(H+50% Ar、1150℃、15分)等で遂行された。各合金で表れる臨界露点は、−10℃、−50℃、そして−45℃である。Fe−1.5%Si合金では炭素を添加するにつれて臨界露点が炭素が低い合金対比5℃増加した。炭素含有合金において(0.1%C)、炭素は酸素と反応して一酸化炭素(CO)を作る反応であって、酸素を除去する重要な役目をするようである。
【0074】
Fe−1.5%Si−0.1%C合金が多様な圧力の水素ガス雰囲気下で熱処理された。熱処理炉の温度が1150℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を1150℃で15分間を維持した後、常温のチャンバーに取り出して冷却させた。熱処理中にガス圧力はロータリーポンプとガス入口及び出口のニードルバルブを用いて調節された。漏洩ガスは高純度水素を使用したのであり、このガスの露点は約−65℃であった。図11を参照すると、{100}集合組織は多様な水素圧力下で形成される。特に、{100}集合組織の強化は10torr未満で明確に表れる。低い圧力で{100}面の強化現象が発生する理由は、i)試片自体あるいはシステムから汚染されたガスが速かに除去されるため、あるいは、ii)低いHO分圧に従って酸化挙動が遅く進行されるためであると考えられる。これと類似な挙動がFe−1%Si、Fe−2.5%Si−1.5%Mn−0.2%でも観察された。このような結果が意味するところは、多様な還元性ガス雰囲気下でγ→α相変態が発生すれば、高密度の{100}集合組織が形成できるということである。
【0075】
酸素ゲッター(getter)は熱処理雰囲気で酸素とHOを除去する効率の良い手段である。Fe−1%Si合金を1気圧及び0.01気圧水素ガス雰囲気で熱処理した。水素ガスの露点は−44℃であるので、{100}集合組織は大きく発達しない条件であった。熱処理炉の温度が1050℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を1050℃で10分間を維持した後、常温のチャンバーに取り出して冷却させた。酸素ゲッターでチタニウム板材を試片の横に配置させた。1050℃でチタニウムの酸化は1×10−27気圧以上で発生するので、上記熱処理雰囲気ではFe−1%Si合金に酸化が発生しない。水素雰囲気ではチタニウムが水分を除去する。表3を参照すると、{100}集合組織の形成は酸素ゲッターを使用すれば強化される。1気圧水素雰囲気でTiゲッターを使用しない場合はP100値が1.91であるが、Tiゲッターを使用した場合はP100値が4.56である。また、0.01気圧水素ガス雰囲気でもTiゲッターを使用しない場合はP100値が4.57であるが、Tiゲッターを使用した場合はP100値が8.17である。このような結果が意味するところは、酸素ゲッター(getter)材料は熱処理雰囲気で酸素とHOを除去する効率の良い手段になることができるということである。上記の結果から再確認できることは、熱処理雰囲気で酸素とHOが効率の良く除去されれば、γ→α相変態を通じて高密度の{100}集合組織が形成されるということである。
【0076】
【表3】
【実施例7】
【0077】
炭素コーティングは{100}集合組織形成を強化させることができる。炭素は酸素を効率の良く除去できるが、その理由は、炭素が熱処理雰囲気から板材の表面に吸着されるか、または材料の内部から表面へ偏析(segregated)された酸素と容易に反応するためである。しかしながら、材料の内部の炭素含有量は低いことが好ましいが、その理由は炭素が軟磁性材料の磁気特性を大きく劣化させるためである。炭素は板材の表面のみで酸素を除去するので、炭素の効果を見るために板材の全体の炭素濃度が高い必要はない。むしろ{100}面を形成する熱処理を実施する前に蒸着や浸炭工程などを用いて板材の表面に炭素をコーティングすることもできる。
【0078】
炭素コーティングが{100}集合組織形成に及ぼす影響を炭素含有量が50ppmのFe−1.5%Si組成を有する板材から観察した。炭素の表面コーティングは3×10−5torrの真空中で蒸着を通じて実施した。真空蒸着条件は直径1mmの黒鉛棒に50Aの電流を15秒及び25秒の間流して実施した。表面に蒸着された炭素は数ナノミリメートルの厚みを有することと判断される。
【0079】
上記の板材を2.2×10−5torr真空条件で熱処理した。熱処理炉の温度が1150℃に到達すれば、試片を炉の中心部に押し込んだ。試片を1150℃で15分間を維持した後、常温のチャンバーに取り出して冷却させた。表4を参照すると、炭素をコーティングしていないFe−1.5%Si合金板材では{100}集合組織の強化が発生しない(P100=0.41)。これと類似な結果は図5にある。しかしながら、炭素をコーティングした材料では強い{100}集合組織が形成される。このような結果から得られる結論は、表面にコーティングされた炭素が{100}集合組織を形成することに有害な熱処理雰囲気に存在する酸素の影響を減少させることができるということである。
【0080】
表4を参照すると、炭素も酸素ゲッターの役目をすることができる。炭素コーティングを実施していない試片と表面に炭素を蒸着した上記試片を共に真空熱処理する場合、上記結果とは異なり、コーティングを実施していない試片の表面で比較的高い表面{100}集合組織強化現象が発見された(P100=3.95)。このような結果が表れた理由は、上記金属板材の表面に蒸着された炭素が熱処理雰囲気内で酸素ゲッターの役目をしたためであると判断される。これによって、炭素コーティングがなくても、低い真空度で、γ→α相変態を通じて高密度{100}集合組織が形成できる。
【0081】
【表4】
*炭素蒸着した試片(炭素コーティング、25秒)と共に真空熱処理を実施する。
【0082】
炭素コーティングは板材の表面及び熱処理雰囲気内に存在する酸素を除去する役目をするだけでなく、マンガン含有合金ではオーステナイト相を安定化させる役目をすることができる。マンガンを含有した試片Fe−2.5%Si−1.5%MnのA温度は1045℃であるが、{100}集合組織は6×10−6torr、Tiゲッター使用真空熱処理で、1200℃で15分間熱処理を実施しても形成されなかった。このような現象が発生した理由は、板材の表面にマンガン含有量が非常に低かったためであると考えられる。前述したように、熱処理温度でマンガンの蒸気圧は非常に大きい(鉄の約10000倍)。EDX分析結果によると、上記合金で表面のマンガン含有量は0.3%である。したがって、上記熱処理の途中に、表面に安定した相はフェライトである。このような状況では表面でγ→α相変態が発生しないので{100}集合組織は発達しない。
【0083】
【表5】
【0084】
上記試片に炭素コーティングを実施して熱処理の途中で板材の表面の相がオーステナイト相になるようにした。炭素コーティングは前述した条件と同一な条件で15秒間実施した。熱処理は6×10−6torr、Tiゲッターを使用する真空雰囲気の中で、1100℃で15分間実施した。表5を参照すると、炭素をコーティングしてオーステナイト相を安定化させることは{100}集合組織形成に驚くべき影響を与える。炭素をコーティングしていない場合には{100}集合組織の強化が発生しないが(P100=0.81)、炭素をコーティングした材料では高密度{100}集合組織が形成される(P100=14.97)。一方、このような結果から分かる事実は、マンガンを含有した材料で表面に、鉄、マンガン、ニッケル、炭素など、オーステナイト安定化元素をコーティングすれば、安定的に高密度の{100}集合組織を形成させることができるということである。
【実施例8】
【0085】
本発明を商業生産に適用するためには、冷却速度、加熱速度、熱処理時間などの工程パラメータを明確に定義する必要がある。本発明により明らかになった方法によれば、酸素が稀薄な雰囲気でγ→α相変態が発生することが{100}集合組織の形成に重要なパラメータである。この際、γ→α相変態はオーステナイト粒子から{100}集合組織を有するフェライト粒子が核生成されるステップ、そして上記核が相変態を通じて成長するステップから構成される。したがって、相変態の速度が{100}集合組織の形成に及ぼす影響を綿密に観察する必要がある。また、オーステナイト相で表れる集合組織がフェライト相で表れる集合組織に影響を与えることがあるが、その理由は、オーステナイト相の粒子とフェライト相の粒子との間には方位関係(orientation relationships)が存在するためである。したがって、オーステナイト相で有するようになる集合組織がフェライト相で{100}集合組織を形成することに非常に重要でありえる。このような実験パラメータのうち、オーステナイト相で表れる集合組織は熱処理時間に影響を受けることがあり、相変態速度は冷却速度に影響を受けることがある。
【0086】
γ→α相変態による{100}集合組織の形成は、圧下率、再結晶温度、加熱速度など、熱処理試片が経る履歴に大きい影響を受けない。たとえこのようなパラメータが{100}集合組織で表れる方向性に影響を与えることはできるが、板材面に平行な{100}面が形成される程度は殆ど同一であったのであり、その差が大きくなかった。
【0087】
Fe−1%Si合金で最適の熱処理時間を求めるために、4.1×10−1torr水素ガス雰囲気(露点:約−60℃)を使用したのであり、1050℃で多様な時間に亘って熱処理を実施した。図12を参照すると、たとえ{100}集合組織の形成は熱処理時間が変化するにつれて変化するが、熱処理時間にかかわらず、{100}集合組織はよく形成される。最適の熱処理時間は5分以上20分以内である。熱処理時間が長くなれば{100}集合組織が弱化されるはされたが、相変わらず高密度の{100}集合組織が形成される(P100=約14)。したがって、最適の熱処理時間は20分以内であり、好ましくは10分以内である。このように熱処理時間が短いため、本発明は連続熱処理炉で作業が可能であり、したがって、生産コストを格段に減少させることができる。
【0088】
最適の冷却速度は1000℃/hr以下である。Fe−1%Si合金を9.0×10−2torr水素ガス雰囲気(露点:約−60℃)で、1050℃で20分間熱処理を実施した。その後、上記試片を1000℃まで400℃/hrの冷却速度は炉冷させた後、950℃まで50、100、200、400、及び600℃/hrの冷却速度で炉冷させた。上記合金で(α+γ)2つの相が共存する温度区域は970から1000℃である。熱処理が終わると、試片を常温のチャンバーに取り出して冷却させた。一方、1つの試片は1050℃熱処理の後、すぐに常温のチャンバーに取り出して冷却させた(以後、真空冷却という)。図13を参照すると、冷却速度が600℃/hr以下の場合には冷却速度にかかわらず、{100}集合組織がよく形成されることが分かる(P100>約15)。しかしながら、冷却速度があまり大きくて(例えば、真空冷却)、{100}集合組織形成が弱化される(P100=約7)。このような結果が意味するところは、γ→α相変態による{100}集合組織の形成は{100}集合組織を有する粒子の選択的な核生成ためであるということである。冷却速度が大きくなるほどγ→α相変態は短い時間内に完了されなければならない。このような場合には、たとえ表面エネルギーの異方性のため、{100}集合組織を形成しようとする傾向は存在するが、ランダムな(random)核生成また発生できるので、{100}集合組織が弱化するものである。しかしながら徐冷を実施した試片では{100}集合組織を有する粒子が選択的に核生成できるので、{100}集合組織が強く形成されるものである。
【0089】
高密度{100}集合組織を形成するためには、(α+γ)2相が共存する温度区域の冷却速度が重要なパラメータとなる。Fe−1%Si合金を1050℃で15分間真空中で熱処理(4.0×10−6torr、Tiゲッター使用)を実施した。その後、400℃/hrの冷却速度で多様な温度まで冷却させた。熱処理が終わると、試片を常温のチャンバーに取り出して冷却させた(真空冷却)。図14を参照すると、真空冷却をオーステナイト相が安定した温度区間で実施すれば、{100}集合組織が弱く形成され(P100=約4)、フェライト相が安定した温度区間で実施すれば、{100}集合組織が強く形成される(P100=約16)。また、(α+γ)2相が共存する温度区間(970 to 1000℃)で常温冷却を実施すれば、相変態が進行するほど(温度が低くなるほど)より多い{100}面が形成される。したがって、高密度の{100}集合組織を形成するためには、(α+γ)2相が共存する温度区域冷却速度が適切に調節されなければならない。
【0090】
(α+γ)2相が共存する温度区域冷却速度は、与えられた合金の組成によって変わる。
【0091】
炭素を含有したFe−Si合金では、例えば真空冷却のような高い冷却速度で{100}集合組織がよく形成される。これは、徐冷する際、いろいろな形態の炭化物のような多様な相が{100}集合組織の形成に影響を与えるためであると考えられる。したがって、炭素が含まれた材料で多様な相が形成されることが予測されれば、速い冷却を適用しなければならない。
【0092】
マンガンが添加されたFe−Si合金では、徐冷が{100}集合組織の形成に助けになる。Fe−1.5%Si−1.5%Mn合金を1100℃で10分間真空熱処理した(6×10−6torr)。その後、試片を多様な冷却速度で850℃まで冷却させた。熱処理が完了すると、試片を常温のチャンバーに取り出して冷却させた。図15を参照すると、冷却速度は600℃/hr以下にならなければならず、好ましくは100℃/hr以下にならなければならない。低い冷却速度で高密度{100}集合組織が形成される理由は、α/γ相境界面の低い移動速度ためであると考えられる。マンガンが含まれた合金では、i)マンガンが含まれていないFe−Si合金に比べて粒子のサイズが相対的に小さく、ii)冷却速度が低くなるほど粒子のサイズが大きくなった。粒子のサイズと{100}集合組織との間の関係はマンガンにより引き起こされたα/γ相境界面の低い移動速度という概念と説明することができる。マンガンはα/γ相境界面の移動速度を落とす傾向がある。この場合、仮に冷却速度が速ければγ→α相変態は短い時間内に完了されなければならない。たとえ表面エネルギーの異方性のため、{100}集合組織を形成しようとする傾向は存在するが、ランダムな(random)核生成が発生し、それで速い冷却速度では{100}集合組織が弱化されるものである。しかしながら、徐冷を実施した試片では選択的に核生成された{100}集合組織を有する粒子が十分に成長することができる。それでマンガンを含有したFe−Si合金では徐冷が{100}集合組織の形成に助けになる。
【0093】
無方向性電気鋼板の製造方法
優れる{100}面強度を有する無方向性電気鋼板を製造するためには、適切な粒子構造を有する{100}集合組織が非常に重要である。前述した{100}集合組織形成方法は、板材の表面に{100}集合組織を形成させる方法に対するものであった。したがって、{100}集合組織を有する無方向性電気鋼板を完成するためには、この表面に形成された{100}集合組織を内部に成長させて粒子のサイズが少なくとも板材の厚みの半分以上にならなければならない。このような粒子構造を持たなければ優れる磁気特性を有する無方向性電気鋼板が完成できない。
【0094】
本発明に従う無方向性電気鋼板の製造方法は、金属板材の内部領域及び表面領域のうち、少なくとも一領域の酸素を減少させるか、熱処理雰囲気で酸素の影響を減少させた状態で、γ→α相変態を通じて金属板材の表面{100}集合組織形成ステップ、及び上記表面{100}集合組織を内部に成長させて粒子のサイズが少なくとも板材の厚みの半分以上になるステップを含む。上記γ→α相変態は、上記熱処理された金属板材を上記オーステナイト相が安定した温度から温度を変化させるか(冷却)、組成を変化させるか(脱炭、脱マンガン)、温度と組成を共に変化させることにより誘導することができる。
【0095】
Fe、Fe−Si、Fe−Si−Niなどの合金では、粒子の成長が冷却により発生する、いわゆるマッシブ変態(massive transformation)により完成できる。試片が冷却されれば、γ→α相変態は試片の表面から始まる。この方法では、粒子の成長はγ→α相変態の完了と共に完成される。γ→α相変態が進行しながら{100}集合組織を有するフェライト粒子がオーステナイト粒子で核生成し、この粒子がオーステナイト粒子を消耗しながら成長する。マッシブ変態では粒子成長速度が非常に速いので、最終フェライトの粒子サイズは板材の厚みより大きくなる(一般的な粒子サイズは400μm以上)。したがって、マッシブ変態を用いると、非常に簡単で、かつ効率の良く粒子を成長させて{100}集合組織を有する無方向性電気鋼板を製造することができる。この方法を用いると、{100}集合組織の形成及び粒子の成長がγ→α相変態という単一工程により発生するので、表面粒子を成長させる別途の工程が必要でない。したがって、この工程を無方向性電気鋼板を製造することに採用するならば、連続熱処理工程が可能である。
【0096】
マンガンを含有した合金でも{100}集合組織を有する板材の表面の粒子成長はγ→α相変態の完了と共に完成される。しかしながら、この場合には粒子の成長が拡散により発生するようであるので、冷却速度が十分に低くなければ、異なる方位を有する粒子の核生成を抑制しながら表面に形成された{100}集合組織を有する粒子が内部に成長できない。マンガンが添加されれば、Fe−Si合金はマッシブ変態(massive transformation)の特徴である組成不変(composition invariant)、速い成長(fast growing)、界面主導(interface-controlled)などを失うようである。マンガン含有鋼では(α+γ)2相が共存する温度区域の冷却速度が100℃/hr以下に調節されなければならない。この方法では{100}集合組織の形成及び粒子の成長がγ→α相変態という単一工程で発生するが、粒子成長に長い時間がかかるので、無方向性電気鋼板を製造することには単位(batch)熱処理工程が適合する。
【0097】
上記金属板材が炭素を含む場合、上記内部成長ステップは表面{100}面が形成された金属板材を脱炭させることにより、上記表面{100}集合組織を有する粒子を内部に成長させることができる。上記金属板材を脱炭させるステップは、水分を含有した水素雰囲気(wet hydrogen)、乾燥した水素雰囲気(dry
hydrogen)、低い真空度の真空雰囲気などが使われることができる。
【0098】
水分を用いた脱炭を実施する場合には、脱炭が非常に速く発生して10分以内に粒子成長が完了する。この方法では脱炭工程を実施する前に板材の表面に{100}集合組織を有する粒子が形成されていなければならない。脱炭が起こる温度では厚み方向にαとγ相の配置が重要である。脱炭を実施する温度では、上記金属板材の表面は{100}集合組織を有するフェライト粒子が安定し、内部はオーステナイト相が安定しなければならない。オーステナイト安定化元素である炭素が除去されながら(脱炭)拡散によって相変態が発生する時は、表面に存在する{100}集合組織を持っているフェライト粒子がフェライト横に存在するオーステナイト粒子を消耗しながら成長して、柱状晶粒子を形成するようになる。水分を用いた脱炭を実施する場合には金属板材の表面がオーステナイト相になればならないが、その理由は、水分が酸素を金属の表面に供給するようになるためである。板材の表面に存在する酸素は脱炭に寄与できるが、板材の表面に形成された{100}集合組織を消えるようにすることができる。脱炭工程は短時間内になされるので、連続脱炭工程が採用されることもできる。
【実施例9】
【0099】
Fe、Fe−Si、Fe−Si−Ni合金を熱処理する時、酸素が稀薄な雰囲気で冷却を用いてγ→α相変態をさせて{100}集合組織を形成すれば、大きい柱状晶粒子が形成される。図1を参照すると、純鉄を露点が−54℃の1気圧水素ガス雰囲気で930℃で1分間熱処理を実施すれば、板材の表面に高密度の{100}集合組織が形成される(P100=18.72)。図16は、上記板材の断面微細組織を示している。平均粒子サイズは板材の厚みより大きくて(850μm対200μm)、いわゆる柱状晶粒子構造(または、竹構造、bamboo structure)が発達した。酸素が稀薄な熱処理雰囲気で試片の温度が低くなれば、γ→α相変態が表面から発生する。温度がより低くなるにつれて{100}集合組織を有するフェライト核がオーステナイト粒子を消耗しながら内部に成長する。マッシブ変態では粒子の成長速度が非常に大きいため、最終フェライト粒子のサイズは板材の厚みより大きくなる。このように、柱状晶粒子構造を形成することによって、{100}集合組織を有する板材が完成されるが、その理由は表面の集合組織が内部の集合組織と同一であるためである。このような挙動はFe−Si合金でも発見される。Fe−1.0%Si合金を6×10−6torr真空圧下のチタニウムゲッターを使用する雰囲気で1150℃で15分間熱処理した。図17は上記板材の断面微細組織を示している。酸素が稀薄な雰囲気で冷却を用いてγ→α相変態をさせれば、{100}集合組織を有する粗大な柱状晶粒子が形成される。Fe−Si−Ni合金でも類似な粒子成長挙動が観察された。Fe−2.0%Si−1.0%Ni合金を4.1×10−1torr水素雰囲気で、1090℃で15分間熱処理した(表2)。酸素が稀薄な雰囲気で冷却を用いてγ→α相変態をさせれば、{100}集合組織を有する粗大な柱状晶粒子が形成される。
【0100】
商用で販売される鋼水準の純度を有する材料では、柱状晶粒子の成長は一般的な現象でない。粒子成長では酸素のような不純物が重要な役目をするようである。酸素濃度が45ppmの試片を6×10−6torr真空雰囲気下で1000℃で30分間熱処理をしても{100}集合組織は形成されず(図2)、柱状晶粒子も観察されない。代りに、商用鋼板で観察されるものと類似な小さな等軸晶粒子が観察される。このような結果が意味するところは、柱状晶粒子の成長(マッシブ変態)は、鉄の純度、特に粒界の純度が左右するようであるということである。不純物は粒界に偏析(segregate)しようとする傾向があるが、その理由は、不純物の粒界偏析が粒界エネルギーを減少させるだけでなく、不純物原子により発生する弾性エネルギーも減少させるためである。粒界が移動する時は、偏析された原子は粒界に存在しようとする傾向があるので、粒界の移動速度は遅く動く不純物によって決定されるようになる。上記の例では侵入型酸素が柱状晶粒子を成長させることに重要な役目をすることと判断される。ケイ素を含有した合金ではケイ素が酸素を清掃する役目をするので、粒子が速く成長して柱状晶粒子を形成する。
【0101】
オーステナイト相における粒界の挙動が{100}集合組織の形成に大きい影響を与えるようである。上記と同一な純鉄試片(酸素含有量45ppm)を6×10−6torr真空雰囲気で1200℃30分を熱処理させた場合、{100}集合組織が形成される(P100=3.49)(図2)。この場合には、たとえ粒界に不純物が存在するが、熱処理温度が非常に高いため、粒界で不純物が速く拡散し、また粒界に偏析される不純物の濃度が低くて、粒界の移動が容易になったようである。したがって、相対的に不純な合金で高密度{100}集合組織を得るためには、酸素が稀薄な雰囲気で熱処理が高温で長時間遂行されなければならない。
【0102】
{100}集合組織の形成と柱状晶粒子の成長は、次のように説明することができる。酸素が稀薄な雰囲気で形成されたオーステナイト粒子が特定の集合組織を有することがフェライト相で{100}集合組織を形成する重要な前提条件である。鉄及び鉄系合金のオーステナイト相では表面エネルギーに異方性(anisotropy)が明らかに存在するようである。酸素が稀薄な雰囲気では金属表面が固有な特性を表すようになり、低い表面エネルギーを有する面が選択的に成長する。したがって、酸素が稀薄な雰囲気で熱処理を実施する時、オーステナイト相が安定した温度では特定の集合組織を有するオーステナイト粒子が発達する(以後、種子集合組織(seed texture)という)。オーステナイト粒子とフェライト粒子との間には方位関係が存在するので、特定の集合組織を有するオーステナイト粒子は{100}集合組織を有するフェライト粒子の種子粒子になる。オーステナイト相で形成される種子集合組織は、{100}面が板材面に平行な集合組織であると予測される。そのような推論をする根拠は、γ→α相変態を通じて得られる集合組織が{100}集合組織であるためである。Bainの主張によると、{100}γは{100}αに変化するという。酸素が稀薄な熱処理雰囲気でオーステナイト相が安定した温度でフェライト相が安定した温度に温度が低くなれば、板材の表面でフェライト粒子が核生成される。温度が続けて低くなれば、{100}集合組織を有するフェライト核は、オーステナイト粒子を消耗しながら内部に成長する。酸素が稀薄な雰囲気でオーステナイト相で形成される特定の集合組織(種子集合組織)は粒界に偏析された不純物により粒界の移動速度が遅くなって、前述したように、その形成が制限を受けることがある。したがって、たとえ酸素が稀薄な雰囲気でオーステナイト相が安定した温度で熱処理を実施すれば、種子集合組織を形成する充分な駆動力を有することになるが、粒界の移動速度が遅くと種子集合組織を有する粒子が徐々に成長するため、種子集合組織を形成することに制限を受けるようになる。種子集合組織を有するオーステナイト粒子無しではフェライトで{100}面の形成は困難である。
【0103】
図18は、Fe−1.0%Si試片の粒子サイズ分布を示しているが、この試片は5×10−6torr真空雰囲気で、1050℃で15分間熱処理を実施した。平均粒子の直径は430μmで、板材の厚みより大きい値を有する(300μm)。表面の90%以上が粒径300μmより大きい粒子でなされる。最大粒子のサイズは約1.02mmである。これと類似しているように処理されたFe、Fe−Si、Fe−Si−Ni合金でも粒子の80%以上が粒子サイズが0.2mm以上、1.5mm以下であったのであり、80%以上の粒子が柱状晶組織を持っている。
【0104】
このような{100}集合組織を有する無方向性電気鋼板を製造する方法は、{100}集合組織が形成されて内部に成長することが同時に速く発生するため、非常に簡単で、かつ効率の良い方法である。
【実施例10】
【0105】
マンガンを含有したFe−Si合金では、板材の表面に存在する{100}集合組織を有する粒子の成長はγ→α相変態により完成される。しかしながら、この場合には粒子の成長が拡散によって発生するようであるため、冷却速度が十分低くなければ、異なる方位を有する粒子の核生成を抑制しながら表面に形成された
{100}集合組織を有する粒子が内部に成長できない。Fe−1.5%Si−0.7%Mn試片を1100℃で10分間6×10−6torr真空条件で真空熱処理を実施した。図19及び図20は、冷却速度を調節する時、真空冷却と25℃/hrの冷却速度で各々冷却させた板材の断面微細組織を示している。真空冷却を実施した試片の微細組織は、いくつかの粗大な粒子の間に小さな等軸晶粒子が混在している形状であった。この場合、{100}集合組織は弱く形成されたのであり(P100=3.16)、柱状晶は発達しない。しかしながら、25℃/hrの冷却速度で冷却させた試片の微細組織は、大部分の粒子のサイズが板材厚みの半分以上に成長してある。表面に形成されたフェライト粒子は、内部にだけでなく、板材面に平行にも成長して粗大な柱状晶粒子を形成するので、表面の原子配列は板材の内部の原子配列と同一であるということができる。上記試片には強い{100}集合組織が形成された(P100=10.81)。したがって、{100}集合組織を有する板材は(α+γ)2相が安定した温度区間で徐冷により完成される。マンガンを含有したFe−Si合金では(α+γ)2相が安定した温度区間の冷却速度が100℃/hr以下にならなければならず、板材の表面に高密度の{100}集合組織を形成させること、及び上記{100}集合組織を有する表面粒子を内部に成長させることが10時間以内に完了する。
【実施例11】
【0106】
炭素を含む合金では、脱炭によりなされるγ→α相変態が{100}集合組織を有する表面粒子を内部に成長させる効率的な道具となることができる。脱炭がなされる温度では、板材の表面は{100}集合組織を持っているフェライト相であり、板材の内部はオーステナイト相でなければならない。脱炭が発生して拡散による相変態が発生する時は、表面に存在する{100}集合組織を持っているフェライト粒子が成長して柱状晶粒子を形成するようになる。Fe−1.5%Si−0.1%C合金試片を1100℃で10分間真空熱処理を実施した(5×10−6torr)。この熱処理結果、上記試片には{100}集合組織が表面に薄く形成された(P100>8)。このように表面に形成された{100}面を内部に成長させるために、脱炭熱処理をN−20%H雰囲気で、950℃で15分間実施した(露点:30℃)。上記試片の微細組織は両側表面から柱状晶が発達して、板材の中央で粒子が成長を止めた形態を示しており(図21)、したがって、板材の集合組織は表面の集合組織と同一であることが分かる。この試片には強い{100}集合組織が形成されている(P100=7。5)。したがって、{100}集合組織を有する板材は水分を含んだ雰囲気で脱炭を通じて完成できる。
【0107】
無方向性電気鋼板
本発明の無方向性電気鋼板の製造方法によると、板材面に平行な{100}面結晶粒子のうち、少なくとも1つの{100}集合組織を有する粒子が金属板材を垂直的に貫通するように形成されている無方向性電気鋼板を得ることができる。即ち、上記無方向性電気鋼板は貫通型柱状晶粒子を含む(bamboo組織)。図16図17、及び図20をまた参照すると、このような柱状晶の存在を確認することができる。上記ケイ素含有無方向性電気鋼板は、少なくとも5の{100}面強度を表すことができ、工程を最適化する場合、{100}集合組織でなされて、板材の表面は粗大な柱状晶粒子からなる板材を作ることができる(P100=約20)(図12)。
【0108】
本発明に従う無方向性電気鋼板は、4.5重量%以下のケイ素を含むことができる。また、上記無方向性電気鋼板はニッケルを含むことができ、好ましくは3.0重量%以下のニッケルを含むことができる。
【0109】
また、上記無方向性電気鋼板は、ケイ素2.0乃至3.5重量%、及びニッケル0.5乃至1.5重量%を含むことができる。上記無方向性電気鋼板がFe−Si−Niの場合、柱状晶結晶組織が形成され、{100}集合組織が非常に優れる。
【0110】
本発明に従う無方向性電気鋼板の製造方法により製造された無方向性電気鋼板は、800℃以上の温度下でオーステナイト相のみで存在する特徴を有する。板材の表面に{100}集合組織が形成され、この粒子が成長することがγ→α相変態によって完成されるため、{100}集合組織を有しながらこのような特徴が表れると、これは本発明で明らかにした製造方法により製造されたものであることを確認することができる固有の特徴である。
【0111】
また、本発明の他の特徴により製造された無方向性電気鋼板の場合には、柱状晶粒子が板材厚みの1/2以上を貫通するものである。この場合にもP100は5以上を有することができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明による無方向性電気鋼板は、電動機、発電機などの材料への使用に適している。
以上、本発明に従う実施形態を参照して説明したが、本発明は上記の実施形態のみに限定されるのではない。該当技術分野の熟練した当業者は特許請求範囲に記載された本発明の思想及び領域から外れない範囲内で本発明を多様に修正及び変更可能であることを理解することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21