【実施例】
【0021】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0022】
図1〜3において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0023】
上記車両1の車体2の内部が車室3とされ、この車室3の一側部が助手席4とされている。
【0024】
上記車体2は、車室3の前端部に位置して車両1の幅方向に延び、車体2の骨格部材を構成するフロントカウル7と、このフロントカウル7から下方に延出して車室3の下部前面を形成するダッシュパネル8と、このダッシュパネル8の下端縁部から後方に延びて車室3の下面を形成する不図示のフロアパネルと、上記車室3の上面を形成するルーフ9とを備えている。
【0025】
また、上記車体2は、上記フロントカウル7とルーフ9の前端縁部との間を閉じるよう後上方に向かって延び、車室3の上部前面を形成するウィンドシールド10と、上記車室3の前下部に設置されて車両1の幅方向に延び、上記フロントカウル7とダッシュパネル8とに支持される樹脂製のインスツルメントパネル11とを備えている。
【0026】
上記助手席4には、乗員14が前方に向かって着座可能なシート15が設けられている。このシート15は上記フロアパネルに支持されるシートクッション16と、このシートクッション16の後端部から上方に突出するシートバック17と、このシートバック17の突出端に取り付けられるヘッドレスト18とを備えている。また、上記シート15上に着座した乗員14を、その着座状態に拘束可能とするシートベルト装置20が設けられている。
【0027】
前記インスツルメントパネル11は、車両1の幅方向かつ前後方向に延びて上記インスツルメントパネル11の上面部を形成する上部パネル23と、この上部パネル23の後端縁部から下方に向かって一体的に延出する縦向きの後部パネル24とを備えている。上記上部パネル23から後部パネル24への遷移部は、後上方に向かって凸の円弧形状とされている。上記上部パネル23は、上記シートバック17の上部前方に配置されている。
【0028】
上記助手席4における上記上部パネル23の後部には凹部26が形成され、この凹部26は後上方に向かって開口している。この凹部26は、上記上部パネル23の後部の一部分を下方に向かって膨張させることにより形成されている。具体的には、上記上部パネル23の一般部23aの後部に形成された開口23bの開口縁部から前下方に向かって一体的に延出する筒状体23cと、この筒状体23cの下端部開口を閉じるようこの筒状体23cの下端部に一体的に形成される底板23dとにより形成されている。また、この底板23dの面方向の中央部には、上記凹部26の内外を連通させる連通孔27が形成されている。
【0029】
上記助手席4には、車両1の前突時に乗員14を保護するエアバッグ装置30が設けられている。このエアバッグ装置30は、上記上部パネル23の上方に配置されてその下面部32aの車両1前後方向における中途部が上記上部パネル23における凹部26の底板23dに固着具31により取り付けられるアウタバッグ32と、このアウタバッグ32内に収容されてその下面部33aの前後方向における中途部が上記底板23dに上記固着具31により取り付けられるインナバッグ33と、上記上部パネル23の下方に配置されて上記底板23dの下面に上記固着具31により取り付けられ、車両1の前突時にガス34を発生するインフレータといわれるガス発生器35とを備えている。
【0030】
上記固着具31は、上記底板23dにその上方から重ねられる固着プレート38と、この固着プレート38から下方に向かって突出し、上記底板23dに形成された複数(4つ)のボルト孔39を貫通する複数(4本)のスタッドボルト40と、これらボルト40に捻回されるナット41とを備えている。上記固着プレート38には、前記連通孔27と互いに連通する開口42が形成されている。
【0031】
上記アウタバッグ32とインナバッグ33とのそれぞれ下面部32a,33aの前後方向における中途部は互いに重ね合わされて、上記凹部26の底板23dと固着具31の固着プレート38との間に挟み付けられている。上記アウタバッグ32とインナバッグ33との各下面部32a,33aには、それぞれ上記連通孔27および固着プレート38の開口42と互いに連通する開口32b,33bが形成されている。
【0032】
なお、
図1,2中二点鎖線で示すように、上記アウタバッグ32の下面部32aと上面部32cとのそれぞれ前部に重ね合わされて、この前部を補強する補強布43を上記アウタバッグ32の前部に縫合してもよい。
【0033】
上記ガス発生器35から発生したガス34は、上記連通孔27、および各開口42,32b,33bを通して上記インナバッグ33に流入した後、上記アウタバッグ32内に流入させられるようになっている。そして、このアウタバッグ32内へのガス34の流入により、上記アウタバッグ32は瞬間的に膨張させられる。また、その後、上記アウタバッグ32内のガス34は、上記アウタバッグ32、インナバッグ33、および補強布43の通気性により、アウタバッグ32の外部に排出されて、自然に収縮させられる。
【0034】
図4,5において、上記インナバッグ33は、上下に重ねられて車両1の平面視(
図4)での外縁部同士が互いに縫合される上、下布材45,46を有している。また、
図4,5中の符号47は上記縫合された縫合部を示している。上記上、下布材45,46は、その自由状態で前後方向に長い長円形状とされ、互いに同形同大とされている。上記インナバッグ33の下面部33aは上記下布材46により構成されて、上記開口33bが形成されている。また、上記インナバッグ33の上面部33cは上記上布材45により構成されている。
【0035】
上記上布材45の前部、および上、下布材45,46の各後端部に、上記インナバッグ33内に流入したガス34を上記アウタバッグ32内に噴出させる第1〜第3ガス噴出口48〜50が形成されている。これら各ガス噴出口48〜50はそれぞれ円形で、その径寸法は、第1ガス噴出口48>第3ガス噴出口50>第2ガス噴出口49とされている。
【0036】
図3において、上記アウタバッグ32とインナバッグ33とは、それぞれ折り畳まれて上記凹部26内に収容される。具体的には、上記インナバッグ33の後部は螺旋状に折り畳まれて、このインナバッグ33の前後方向における中途部の上面に重ね合わされ、上記インナバッグ33の前部は上記のように折り畳まれたインナバッグ33の後部の上面に重ね合わされている。そして、上記インナバッグ33は上記アウタバッグ32内の底部に収容されると共に、上記凹部26の底部に収容される。一方、上記アウタバッグ32の上面部32cは、前後方向でジグザグ形状に折り畳まれて上記のように折り畳まれたインナバッグ33の上方で上記凹部26の上部側に収容される。
【0037】
なお、図示しないが、上記凹部26の開口23bを閉じるカバー体が設けられている。
【0038】
図1〜3において、車両1の前突時には、不図示の加速度センサーなどの検出信号により上記ガス発生器35が作動して、このガス発生器35からガス34(A)が発生する。このガス34(A)は、上記連通孔27、および各開口32b,33b,42を通して上記インナバッグ33内に流入する。すると、このインナバッグ33内に流入したガス34(B)により、上記インナバッグ33は、
図1,2中破線、および
図3中一点鎖線で示すように、瞬間的に膨張させられる。
【0039】
次に、上記インナバッグ33内に流入したガス34(B)は、上記第1〜第3ガス噴出口48〜50から上記アウタバッグ32内に噴出するよう流入する。そして、上記第1〜第3ガス噴出口48〜50から噴出するガス34(C)〜34(E)により、
図1,2中実線、および
図3中一点鎖線で示すように、上記アウタバッグ32が瞬間的に乗員14側に向かって膨張させられる。すると、前突時に、その慣性力により前方移動する乗員14は、上記アウタバッグ32により緩衝されながら支持されることとなって、上記乗員14が保護される。
【0040】
上記の場合、車両1の側面視(
図3)で、上記ガス34(B)の流入により膨張したインナバッグ33における縫合部47は、上記凹部26の上方で、この凹部26の開口23bの前、後開口縁部を結ぶ仮想線とほぼ平行に延びている。また、上記インナバッグ33の下布材46の外縁部側は上記凹部26の開口23bから上方に向かうに従いこの開口23bから離反するよう傾斜し、倒立の角錐台筒形状となる。また、上記インナバッグ33の上布材45はドーム形状となる。また、上記インナバッグ33に形成された前記第1〜第3ガス噴出口48〜50は、いずれも上記上部パネル23の一般部23aの上方に位置させられる。
【0041】
ここで、前記したように、膨張する以前の折り畳まれた状態のインナバッグ33では(
図3中実線)、このインナバッグ33の後部の上面に、このインナバッグ33の前部が重ねられている。このため、前記したようにガス34(B)が上記インナバッグ33に流入するときには、このインナバッグ33の前部側が後部側よりも早く膨張させられる。すると、上記インナバッグ33内に流入したガス34(B)のうち、インナバッグ33の前部内に流入したガス34(C)が、より早く上記第1ガス噴出口48を通り上記アウタバッグ32の前部内に向かって噴出するよう流入する。よって、このアウタバッグ32の前部が、より早く迅速に膨張させられて、このアウタバッグ32の前部下面が上記上部パネル23の上面に圧接させられる。
【0042】
また、この場合、車両1の側面視(
図1,3)で、上記のように膨張したアウタバッグ32の前部上面は前下方に向かって直線状に延びることとされる。また、この際、上記アウタバッグ32の前部下面と、このアウタバッグ32の前部上面とのなす角が鋭角とされ、上記アウタバッグ32の前部は三角形の頂部形状とされる。
【0043】
しかも、上記の場合、アウタバッグ32の前部に補強布43が重ね合わされて縫合されているとすると、上記アウタバッグ32の前部内からその外部にガス34が排出されることは上記補強布43により抑制され、かつ、上記アウタバッグ32の前部は補強布43による補強によって剛性が向上させられることから、上記アウタバッグ32の前部は、より迅速に上記した三角形の頂部形状にされると共に、この形状のままに、より確実に保持される。
【0044】
このため、前記したように、車両1の前突時に、慣性力により前方移動する乗員14が膨張したアウタバッグ32により支持され、この際、上記乗員14がアウタバッグ32に対し前方に向かう外力Fを与えるときには、上記したように三角形の頂部形状に迅速に保形されたアウタバッグ32の前部下面が上記上部パネル23に圧接させられて、上記外力Fに対抗する。
【0045】
よって、上記外力Fに基づくモーメントによって上記アウタバッグ32が容易に前方に転動しがちになったり、上記アウタバッグ32の前部に対し後部側が前上方に向かって屈曲しがちになったりすることは防止され、このアウタバッグ32の後部側は、乗員14側の所望方向へ向かっての位置精度のよい膨張状態が維持される。この結果、上記乗員14は上記アウタバッグ32により、より確実に緩衝されながら支持されて、上記乗員14はより確実に保護される。
【0046】
また、上記したように、アウタバッグ32の前部は三角形の頂部形状となるよう膨張させられるため、このアウタバッグ32の前部を前記従来の技術のように前方に凸の円弧形状のように膨張させることに比べて、このアウタバッグ32の容量を小さくできると共に、ガス発生器35の容量も小さくできる。よって、上記エアバッグ装置30は小型かつ安価に提供できる。
【0047】
また、前記したように、インナバッグ33が、上下に重ねられて車両1の平面視(
図4)での外縁部同士が互いに縫合される上、下布材45,46を有し、車両1前後方向での上記下布材46の中途部分を上部パネル23に取り付け、上記上、下布材45,46のそれぞれの後端部に、上記インナバッグ33内に流入したガス34(E)を上記アウタバッグ32内に噴出させるガス噴出口50を形成している。
【0048】
このため、前記したように、ガス発生器35から発生したガス34(B)の流入によりインナバッグ33が膨張させられたとき、このインナバッグ33において剛性が比較的大きい上記上、下布材45,46の縫合部47により、このインナバッグ33は所定形状に保形されると共に上記上部パネル23に対する所定位置に位置決めされる。
【0049】
そして、上記のように保形されて位置決めされたインナバッグ33の上、下布材45,46の各後端部に第2、第3ガス噴出口49,50が形成されていることから、上記インナバッグ33内に流入したガス34(B)のうち、インナバッグ33の後部内に流入したガス34(D)(E)は、上記第2、第3ガス噴出口49,50を通して上記アウタバッグ32の後部内の所望部に向かって正確に噴出するよう流入する。よって、このアウタバッグ32の後部側は、乗員14側の所望方向に向かって位置精度よく膨張させられる。
【0050】
特に、上記第2、第3ガス噴出口49,50のうち、第3ガス噴出口50は第2ガス噴出口49よりも開口面積が大きく、かつ、上記下布材46の後端部であって、剛性の高い縫合部47の近傍に形成されている。このため、上記第3ガス噴出口50を通して上記アウタバッグ32内に噴出するよう流入するガス34(E)は、上記アウタバッグ32の下面部32aを上記上部パネル23に対し、より確実に、かつ、安定して押し当てるよう作用する。よって、上記上部パネル23に対する所定位置にアウタバッグ32が位置決めされることとなって、このアウタバッグ32の後部側は、乗員14側の所望方向に向かって、より位置精度よく膨張させられる。
【0051】
この結果、車両1の前突時に、慣性力により前方移動する乗員14は、上記のように位置精度よく膨張させられたアウタバッグ32により、より確実に緩衝されながら支持されて、上記乗員14はより効果的に保護される。
【0052】
また、上記エアバッグ装置30によれば、ガス発生器35から発生したガス34の流入によりアウタバッグ32が膨張させられる際、上記ウィンドシールド10の存在にかかわらず、上記アウタバッグ32は、その下面部32aが上記上部パネル23に圧接させられることにより、乗員14側の所望方向に位置精度よく膨張させられる。よって、上記アウタバッグ32を膨張させる際に,このアウタバッグ32の前部上面を、従来の技術のようにウィンドシールド10に圧接させることはしないで足りることから、ウィンドシールド10とインスツルメントパネル11の上部パネル23との組み合わせ体の形状や、この上部パネル23へのアウタバッグ32の取付位置が各種車両1毎に相違するとしても、上記エアバッグ装置30は上記各種車両1に共通のものとして、それぞれに適用することができる。
【0053】
また、上記したように、膨張するアウタバッグ32の前部上面は、上記従来の技術のようにウィンドシールド10には圧接させないで足りるため、その分、上記アウタバッグ32の容量を小さくできると共に、ガス発生器35の容量も小さくできる。よって、この点でも、上記エアバッグ装置30は小型かつ安価に提供できる。