特許第5754268号(P5754268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754268
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】リフティングマグネット
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/06 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
   B66C1/06 J
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-147407(P2011-147407)
(22)【出願日】2011年7月1日
(65)【公開番号】特開2013-14398(P2013-14398A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2014年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 明
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 明
(72)【発明者】
【氏名】森川 文雄
【審査官】 遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−62791(JP,A)
【文献】 特開2007−137661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のケースと、前記ケースに収容されたコイルと、前記コイルの巻線間に充填される含浸樹脂とを備え、前記ケースを、天板と、底板と、前記コイルの内周側に配置されるスプールと、前記コイルの外周側に配置されるヨークとを用いて構成し、これら天板、底板、スプール及びヨークと前記コイルとの間に前記含浸樹脂を充填可能な絶縁空間を形成したリフティングマグネットであって、
前記絶縁空間のうち、前記コイルと前記天板との間の第1絶縁空間、前記コイルと前記底板との間の第2絶縁空間、及び前記コイルと前記スプールとの間の第3絶縁空間に、相互に種類の異なる第1絶縁材及び第2絶縁材を層状に重ねた絶縁材積層部を配置し、
前記絶縁材積層部は、未硬化状態の前記含浸樹脂が通過可能であり且つ前記第2絶縁材よりも機械的強度が高い前記第1絶縁材を、前記天板、前記底板、前記スプールに接触又は前記含浸樹脂が充填された空間を介して対面させるととともに、未硬化状態の前記含浸樹脂が通過不能であり且つ前記第1絶縁材よりも絶縁性能が高い第2絶縁材同士を重ね合わせていないものであることを特徴とするリフティングマグネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフティングマグネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、製鉄所等でスクラップ等の重量鋼材を吊り上げて搬送するために、リフティングマグネットが利用されている。この種のリフティングマグネットは、中央部にスプールを設けた金属製のケースと、スプールの周囲に設けられてケースに収容されるコイルとを備え、ケース内に含浸樹脂を注入し、コイルの巻線間及びコイルとケースとの間に充填することでコイルを絶縁しつつケース内にコイルを固定するように構成しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このようなリフティングマグネットにおいては、含浸樹脂の熱伝導率がコイルやケースといった金属部材の熱伝導率に比べて低いため、コイル内に発生した熱が放散されにくく、含浸樹脂の内部で大きな熱勾配が発生し、コイルが極めて高温となることがある。そして、コイルの高温化は起磁力の低下を招き、リフティングマグネットを長時間使用すると吊り量(リフティングマグネットにより吊り下げることができる鋼材の重量)が大きく低下するという問題が生じる。このような問題を解決すべく、前掲の特許文献1では、熱放散性や絶縁性の観点、あるいは注入時の樹脂内の空隙発生・気泡発生や通電時のコイルの温度上昇抑制という観点から、含浸樹脂にシリカなどの充填材を含有させることにより、熱伝導率を向上させた含浸樹脂を用いたリフティングマグネットが提案されている。
【0004】
また、コイルとケースとの間に形成されて含浸樹脂を充填可能な空間に1枚又は複数枚の絶縁材を配置したリフティングマグネットも知られている。このような絶縁材や含浸樹脂を有するリフティングマグネットにおいては、通電時のコイルの発熱を適切に放散できるように、上述した含浸樹脂の熱伝導率を高くすることに加えて、例えばコイルとケースとの間に形成されて含浸樹脂が充填可能な空間(絶縁空間)を狭く設定したり、絶縁材の熱伝導率を高くする方法も考えられる。
【0005】
しかしながら、含浸樹脂の熱伝導率を高くするためには、充填材を多量に添加する必要があり、コストアップのみならず、コイル内部への含浸性が低下したり
、気泡が生じ易くなど、良好な絶縁信頼性を得ることができないという問題が考えられる。また、絶縁空間を従来よりも大幅に狭く設定した場合には、当然のことながら含浸樹脂が充填されるスペースが小さくなるため、耐衝撃性や絶縁性能が大きく低下し、1種類の絶縁材に高い熱伝導性や絶縁性を付与するための技術開発にはコストも嵩むという問題がある。
【0006】
そこで、本発明者は、絶縁空間を従来よりも若干小さく設定するとともに、含浸樹脂の熱伝導率を若干高くすることによって、大幅なコストアップを回避しつつ、良好な熱放散性を得ることが可能なリフティングマグネットの開発を検討した。また、本発明者は、絶縁材として、機械的強度を高めるための第1絶縁材と、絶縁性を向上させるための第2絶縁材という機能が異なる2種類の絶縁材を適用し、これら絶縁材を適宜に層状に重ねた絶縁材積層部を絶縁空間に配置するという斬新な技術を案出した。ここで、第1絶縁材は、未硬化状態の含浸樹脂が通過可能な例えばメッシュ状のものであり、第2絶縁材は、未硬化状態の含浸樹脂が通過不能な例えばフィルム状のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−62791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の構成を採用したリフティングマグネットは、熱伝導率が向上して、耐衝撃性及びコイルへの含浸性も向上したものの、絶縁空間内において含浸不良が生じ、絶縁信頼性が悪化することがある。つまり、絶縁材の積層パターンによっては、絶縁材同士の間やケースと絶縁材との間に含浸不良による空隙が生じていた。
【0009】
以上のような問題に鑑みて、本発明は、良好な絶縁信頼性を得ることができるとともに、熱伝導性の向上にも貢献する絶縁空間(絶縁部)を有するリフティングマグネットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、種類の異なる絶縁材を積層した絶縁材積層部として、未硬化状態の含浸樹脂が通過不能な第2絶縁材を連続して重ねた構成を採用した場合に、2枚以上重なった第2絶縁材同士の間に含浸樹脂が含浸せず、第2絶縁材同士の間に空隙が生じた点と、絶縁材積層部として、金属性のケースに第2絶縁材を直接接触させた構成を採用した場合に、含浸樹脂が第2絶縁材とケースとの間に含浸せず、第2絶縁材とケースとの間で空隙が生じた点に着目して、このような含浸不良による空隙が、絶縁部として機能する絶縁空間で発生することを防止し、絶縁信頼性に優れた本発明に係るリフティングマグネットを案出するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、金属製のケースと、ケースに収容されたコイルと、コイルの巻線間に充填される含浸樹脂とを備え、ケースを、天板と、底板と、コイルの内周側に配置されるスプールと、コイルの外周側に配置されるヨークとを用いて構成し、これら天板、底板、スプール及びヨークとコイルとの間に含浸樹脂が充填可能な絶縁空間を形成したリフティングマグネットに関するものである。
【0012】
ここで、含浸樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ワニス等の樹脂材料と、この樹脂材料に混合される充填材とを含有したものが好ましく、樹脂材料と充填材の他に、硬化剤や促進剤等を適宜含有させることができる。なお、含浸樹脂中に占める充填材の割合や含浸樹脂自体の熱伝導率は適宜の値に設定することができる。また、充填材としては、ドロマイト、チタニア、ベリリヤ、窒化アルミニウム、窒化ボロン、マグネシア、金属粉末、炭化ケイ素、カーボンブラック、黒鉛から選択される何れか一種又は複数種の組み合わせからなるものを挙げることができる。これらの材料のなかでも、ドロマイトが安全性やコスト面からも好適であるが、チタニア、ベリリヤ、窒化アルミニウム、窒化ボロン、マグネシアについては安価に入手できれば有用な素材である。また、金属粉末、炭化ケイ素、カーボンブラック、黒鉛は導電性物質であるため、適宜の絶縁対策を施したものであれば有用な素材として利用できる。なお、以上の他にもシリカやアルミナ等も充填材の候補として考えられる。
【0013】
そして、本発明に係るリフティングマグネットは、絶縁空間のうち、コイルと天板との間の第1絶縁空間、コイルと底板との間の第2絶縁空間、及びコイルとスプールとの間の第3絶縁空間に、相互に種類の異なる第1絶縁材及び第2絶縁材を層状に重ねた絶縁材積層部を配置し、絶縁材積層部の具体的な構成として、未硬化状態の含浸樹脂が通過可能であり且つ第2絶縁材よりも機械的強度が高い第1絶縁材を、天板、底板、スプールに接触又は含浸樹脂が充填される空間を介して対面させるととともに、未硬化状態の含浸樹脂が通過不能であり且つ第1絶縁材よりも絶縁性能が高い第2絶縁材同士を重ね合わせていない構成を採用していることを特徴としている。
【0014】
ここで、第1絶縁材としては、ガラスクロス、ガラスマット、アルミナクロス、テトロンクロス等を挙げることができ、第2絶縁材しては、アラミド繊維、マイカ、フレキシブルマイカ、フッ素樹脂、イミド系樹脂、PET等を挙げることができる。
【0015】
このように、本発明のリフティングマグネットでは、絶縁空間のうち、コイルと天板との間である第1絶縁空間、コイルと底板との間である第2絶縁空間、コイルとスプールとの間である第3絶縁空間に配置する絶縁材積層部を、ケースを構成する天板、底板、スプールには第2絶縁材ではなく未硬化状態の含浸樹脂が通過可能な第1絶縁材を直接または含浸樹脂が充填された空間を介して対面させるという条件(第1条件)と、未硬化状態の含浸樹脂が通過不能な第2絶縁材を連続して積層しないという条件(第2条件)とを両方満たすように構成している。これにより、第2絶縁材を連続して重ねて使用した場合に生じ得る不具合、つまり未硬化状態の含浸樹脂が2枚以上重なった第2絶縁材同士の間に十分に充填されず、その部分で空隙が生じるという不具合を解消することができるとともに、金属性の天板、底板及びスプールにそれぞれ第2絶縁材を直接接触させた場合に生じる不具合、つまり未硬化状態の含浸樹脂が天板、底板又はスプールと第2絶縁材との間に十分に充填されず、その部分で空隙が生じるという不具合も解消することができ、空隙のない良好な充填状態を得ることができ、絶縁信頼性に優れた絶縁部として機能する絶縁空間を実現することができる。
【0016】
さらに、本発明のリフティングマグネットであれば、空隙のない絶縁信頼性に優れた絶縁空間を形成することによって、絶縁空間に空隙が生じた場合と比較して熱伝導性の向上も図ることができる。そして、本発明のリフティングマグネットであれば、有効な耐衝撃性を確保可能な範囲内で絶縁空間を従来よりも小さく設定した場合であっても十分な絶縁効果を得ることができ、絶縁空間の狭小化に伴って熱伝導効果をより一層向上させることができる。また、絶縁空間の狭小化により充填樹脂の使用量を低減することも可能であるため、コストダウン及び軽量化をも図ることができる。
【0017】
さらに、本発明のリフティングマグネットは、第1絶縁材よりも絶縁性能が高い第2絶縁材を備えた絶縁積層部を絶縁空間に配置しているため、絶縁空間の絶縁性能を有効に高めることができるとともに、第2絶縁材よりも機械的強度が高い第1絶縁材を備えた絶縁積層部を絶縁空間に配置することによって、耐衝撃性を高めることができる。このような技術を採用することによって、有効な耐衝撃性及び絶縁性能を確保しつつ絶縁空間を従来よりも小さく設定することが可能であり、絶縁空間の狭小化に伴う熱伝導効果の向上を図ることが可能である。
【0018】
なお、絶縁空間のうち、コイルとヨークとの間の絶縁空間(第4絶縁空間)は、他の絶縁空間(第1絶縁空間、第2絶縁空間、第3絶縁空間)と比較して十分に大きいため、他の絶縁空間よりも含浸樹脂を多く充填でき、良好な絶縁性能を得ることが可能である。したがって、この第4絶縁空間には、第1絶縁材よりも絶縁性能が高い一方で含浸樹脂を通過させないという特性を有する第2絶縁材を敢えて配置する必要性は乏しいと考えられる。しかしながら、本発明は、第4絶縁空間に、上述の第1条件及び第2条件を満たす絶縁材積層部を配置する態様を除外するものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な絶縁性を維持しながらコイルの放熱性能を向上させることができ、コイルの温度上昇とそれに伴う起磁力及び吊り量の低下を防止・抑制することができ、コストダウンや軽量化にも資するリフティングマグネットを得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るリフティングマグネットの外観を示す斜視図。
図2】同リフティングマグネットの外観を示す平面図。
図3】同リフティングマグネットの外観を示す正面図。
図4】同リフティングマグネットの内部構造を一部省略して模式的に示す縦断面図。
図5図4の要部を模式的に示す図。
図6】同リフティングマグネット内のコイル内部の状態を模式的に示す断面図。
図7】同リフティングマグネットの製造工程を模式的に示す図。
図8】同実施形態の一実施例における第1絶縁空間内の絶縁構成と性能評価を比較例と対比させた表として示す図。
図9】同実施例における第2絶縁空間内の絶縁構成と性能評価を比較例と対比させた表として示す図。
図10】同実施例における第3絶縁空間内の絶縁構成と性能評価を比較例と対比させた表として示す図。
図11】同実施例における第4絶縁空間内の絶縁構成と性能評価を比較例と対比させた表として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
図1図2図3は、それぞれ本発明の一例である本実施形態のリフティングマグネット1の外観を示す斜視図、平面図、正面図であり、図4はこのリフティングマグネット1の内部の概要を一部省略して示す模式的な縦断面図であり、図5図4の一部を拡大して模式的に示す図である。これら各図に示すように、本実施形態に係るリフティングマグネット1は、扁平な概略円筒状のケース2と、ケース2の内部に配置されるコイル3とを備え、ケース2とコイル3との間に、含浸樹脂4を充填可能な絶縁空間5を形成したものである。なお、図4及び図5ではコイル3の形態を省略形で記載している。
【0023】
ケース2は、それぞれ鉄等の金属材料からなる天板21と、底板22と、スプール23と、横板に相当するヨーク24とを主体として構成したものである。天板21と底板22は、上下に対をなして配置される例えば概略円盤状の部材である。天板21の上面には、端子箱21aが溶接等により取り付けられる。ヨーク24は、天板21と底板22の周縁部同士をつなぐように配置される円筒形状の部材であり、本実施形態のリフティングマグネット1においては磁路として機能している。スプール23は、天板21、底板22、ヨーク24で包囲されたケース2内部の空間において、天板21と底板22の中央部同士の間に配置される円柱状若しくは円筒状の部材であり、このスプール23の周囲にコイル3が配置されることとなる。
【0024】
コイル3は、平角線と呼ばれる断面形状が扁平な導電性の金属線材31(本発明の巻線に相当、図6参照)をスプール23の外周面に沿って巻き回したものである。なお、コイル3はスプール23に対して直接巻き回したもの(直巻き)であってもよいし、予め別途に用意される型(ボビン)の周りに線材31を巻き回し、離型したコイル3をスプール23とヨーク24との間の空間に収めて底板22に載置したもの(型巻き)であっても構わない。型巻きの場合は、直巻きの場合よりも、スプール23とコイル3との間の隙間が大きくなる傾向がある。コイル3における金属線材31の巻き数は、リフティングマグネット1の設定吊り量等の能力に応じて適宜設定することができる。なお、金属線材31の形状は上述した平角線に限られるものではなく、断面が略円形状のものを採用してもよいし、金属線材31の材質も適宜に設定することができる。
【0025】
このようなコイル3とケース2との間に形成される絶縁空間5は、図5に示すように、コイル3と天板21との間の第1絶縁空間51、コイル3と底板22との間の第2絶縁空間52、コイル3とスプール23との間の第3絶縁空間53、コイル3とヨーク24との間の第4絶縁空間54からなるものと捉えることができる。そして、第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53には、種類及び機能の異なる第1絶縁材A及び第2絶縁材Bを適宜のパターンで積層した絶縁材積層部6を配置し、その状態で充填させた未硬化状態の含浸樹脂4を熱硬化させている。なお、第4絶縁空間54には、後述するように第1絶縁材Aのみを配置し、その状態で充填させた未硬化状態の含浸樹脂4を熱硬化させている。
【0026】
第1絶縁材Aは、未硬化状態の含浸樹脂4が通過可能な例えばメッシュ状をなし、第2絶縁材Bよりも機械的強度が高いものである。第1絶縁材Aとしては、ガラスクロス、アルミナクロス、テトロンクロス、ガラスマット等を挙げることができる。
【0027】
第2絶縁材Bは、未硬化状態の含浸樹脂4が通過不能な例えばフィルム状をなし、第1絶縁材Aよりも絶縁性能が高いものである。第2絶縁材Bとしては、アラミド繊維、マイカ、フレキシブルマイカ、フッ素樹脂、イミド樹脂、PET等を挙げることができる。
【0028】
このような第1絶縁材Aと第2絶縁材Bとを適宜の積層パターンで層状に重ねてなる絶縁材積層部6は、次の2つの条件を満たす構成を有する。すなわち、第1条件は、第1絶縁材Aを、天板21、底板22、スプール23に接触又は含浸樹脂4が充填された空間(以下、「含浸樹脂充填空間4S」と称す)を介して対面させるという条件であり、第2条件は、第2絶縁材B同士を連続して重ね合わせないという条件である。これらの条件を満たす範囲内であれば、絶縁材積層部6の積層パターンは適宜変更することができる。例えば、第1絶縁材A同士を連続して重ね合わせたり、第2絶縁材Bを第1絶縁材Aで挟んだり、同一の絶縁材積層部6を、第1絶縁材Aとして機能するが種類(素材)は異なる複数種の絶縁材を用いて構成したり、第2絶縁材Bとして機能するが種類(素材)は異なる複数種の絶縁材を用いて構成することができる。共通の絶縁空間内に配置される絶縁材積層部6を構成する第1絶縁材A及び第2絶縁材Bは、厚み寸法(積層方向に沿った寸法)が相互に異なっていても構わないが、厚み寸法以外の寸法(平面サイズ)は同一ないし略同一に揃えておくことが好ましい。
【0029】
ここで、図5に示すように、本実施形態において、第1絶縁空間51に配置した絶縁材積層部6は、コイル3側から第1絶縁材A、第2絶縁材B、第1絶縁材Aの順番で積層したものであり、この絶縁材積層部6を第1絶縁空間51に配置した状態で、コイル3側の第1絶縁材Aがコイル3に直接接触し、反コイル3側の第1絶縁材Aが天板21に含浸樹脂4が充填された空間(含浸樹脂充填空間4S)を介して対面している。なお、図5では、連続して重なる第1絶縁材A同士の境界線を省略して各第1絶縁材Aに共通のハッチングを付している。
【0030】
また、第2絶縁空間52に配置した絶縁材積層部6は、コイル3側から第1絶縁材A、第1絶縁材A、第2絶縁材B、第1絶縁材Aの順番で積層したものであり、この絶縁材積層部6を第1絶縁空間51に配置した状態で、反コイル3側の第1絶縁材Aが底板22に直接接触し、コイル3側の第1絶縁材Aが含浸樹脂充填空間4Sを介してコイル3に対面している。
【0031】
第3絶縁空間53に配置した絶縁材積層部6は、コイル3側から第1絶縁材A、第1絶縁材A、第2絶縁材B、第1絶縁材A、第1絶縁材Aの順番で積層したものであり、この絶縁材積層部6を第3絶縁空間53に配置した状態で、コイル3側の第1絶縁材Aがコイル3に直接接触し、反コイル3側の第1絶縁材Aがスプール23に直接接触している。
【0032】
なお、本実施形態のリフティングマグネット1は、コイル3とヨーク24との間の第4絶縁空間54に第1絶縁材Aのみを配置している。そして第4絶縁空間54に第1絶縁材Aを配置した状態で、この第1絶縁材Aがコイル3に直接接触するとともに、含浸樹脂充填空間4Sを介してヨーク24に対面している。
【0033】
ここで、各絶縁空間5(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)内における共通の構成として、未硬化状態の含浸樹脂4が通過可能な第1絶縁材Aをコイル3に直接接触させるか、あるいは含浸樹脂充填空間4Sを介してコイル3に対面させている点を挙げることができる。
【0034】
各絶縁空間5(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)に充填される含浸樹脂4は、樹脂材料と充填材とを混合し、加熱により硬化させたものである。この含浸樹脂4は、図5に示したように、コイル3とケース2(天板21、底板22、スプール23、ヨーク24)との間の絶縁空間5(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)に充填されるだけでなく、図6に示すように、コイル3内の小さい隙間、すなわちスプール23に巻き回された金属線材31同士の隙間にも浸透して充填されている。このように含浸樹脂4は、ケース2内のあらゆる空間・隙間に充填され、硬化後には、ケース2とコイル3とを含浸樹脂4により一体化させている。
【0035】
本実施形態では、樹脂材料に例えばエポキシ樹脂を採用し、充填材に例えばドロマイト(苦灰石、CaMg(CO)を採用している。樹脂材料についてはエポキシ樹脂の他にも、シリコーンやウレタン樹脂、或いはワニス等を適用できる。ドロマイトとしては、例えば粒径3〜20μmの略球形状の粒子を利用し、ドロマイトの含浸樹脂4全体に対する割合を例えば55〜60重量%としている。このようなドロマイトを充填材とし、樹脂材料であるエポキシ樹脂に混合した含浸樹脂4の熱伝導率は約0.5W/(m・K)である。ここで、樹脂材料及び充填材の種類については必ずしもこの限りではなく、また、含浸樹脂4の全体に占める充填材の割合は例えば40重量%以上65重量%以下の範囲で、また樹脂材料と充填材とを混合した含浸樹脂4の熱伝導率が例えば0.4W/(m・K)以上0.56W/(m・K)以下の範囲で任意に設定することが好ましいが、上記数値以外の適宜の値に設定してもよい。
【0036】
次に、本実施形態のリフティングマグネット1の製造工程について、図7の模式図を参照して説明する。
【0037】
まず、底板22とスプール23とを溶接により接合する(同図、工程<I>)。接合に際しては、例えば図示されるように、底板22の中央部に形成された取付孔22aに、やや先細となったスプール23の下端部23aを挿入し、両者を溶接することとしている。次に、スプール23の外周面に第3絶縁空間53に配置すべき絶縁材積層部6を配置するとともに、底板22上に第2絶縁空間52に配置すべき絶縁材積層部6を載置した状態で(図示省略)、スプール23の外周面に沿ってコイル3を形成する(同図、工程<II>)。コイル3の形成に際しては、スプール23に金属線材31を巻き付けてコイル3形状とする。そして、コイル3の外周面に第4絶縁空間54に配置すべき絶縁材(本実施形態では1枚の第1絶縁材A)を配置するとともに、コイル3上に第1絶縁空間51に配置すべき絶縁材積層部6を載置した状態で(図示省略)、底板22、スプール23、コイル3の組と、天板21とスプール23、天板21とヨーク24をそれぞれ溶接し、天板21の上面に端子箱21aを溶接により取り付ける(同図、工程<III>)。
【0038】
次に、ケース2及びコイル3を上下反転させて例えば木製の台座7等に載置し、ヨーク24と底板22とを溶接により接合し、スプール23の下端とヨーク24の下端に接地部材(インナーポール23p、アウターポール24p)を溶接により取り付ける(同図、工程<IV>)。このように、ケース2及びコイル3を一旦上下反転させるのは、図中工程<III>の状態でインナーポール23p及びアウターポール24pを溶接するには、ケース2をクレーン等で吊り下げてインナーポール23p及びアウターポール24pを溶接しなければならず、作業上無理があり、安全性にも問題があるからである。最後に、組み立てられたケース2及びコイル3の上下を元に戻し、密閉されたケース2の内部を減圧して真空状態にするとともに、ヨーク24に形成した樹脂注入口241から例えば一端に真空ポンプ(図示省略)を接続したホースhを介して、コイル3が配置されたケース2内に未硬化状態の含浸樹脂4を注入する(同図、工程<V>)。ここで、含浸樹脂4を注入する際の真空条件(減圧条件)は、例えば800Pa以下である。そして、ケース2内に含浸樹脂4を十分に充填し終えた段階で注入を終了した後、ホースhを取り外したケース2全体を加熱して含浸樹脂4を硬化させることにより、ケース2とコイル3と含浸樹脂4とが一体となったリフティングマグネット1の製作が完了し、図4に示すリフティングマグネット1を得ることができる。
【0039】
上述した工程<V>の通り、本実施形態のリフティングマグネット1の製造工程においては、コイル3を収容したケース2内を真空状態として含浸樹脂4を注入するため、含浸樹脂4はケース2とコイル3との絶縁空間5(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)の間のみならず、図6に示したように、コイル3の内部の隙間にまで浸透する。この際、コイル3とヨーク24との間の第4絶縁空間54に配置している第1絶縁材Aは、未硬化状態の含浸樹脂4を通すものであるため、ヨーク24側からケース2内に注入された含浸樹脂4は第4絶縁空間54のみならず、第1絶縁材Aを通過してコイル3内にも含浸して充填される。さらに、図5では便宜上、第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53及び第4絶縁空間54が相互に各絶縁空間に配置した絶縁材積層部6によって隙間無く密閉された空間として示しているが、実際には、各絶縁空間(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)同士の境界部分には多かれ少なかれ隙間が存在し、その隙間から含浸樹脂4が各絶縁空間(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)の隅々にまで行き渡り、各絶縁空間5(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53)は含浸樹脂4で満たされる。
【0040】
そして、本実施形態に係るリフティングマグネットでは、各絶縁空間5(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)に配置したメッシュ状をなす第1絶縁材Aの各網目(図示省略)に含浸樹脂4が含浸した状態となり、1枚又は複数枚重ねた第1絶縁材A自体には空隙が生じていない良好な含浸状態を得ることができる。一方、第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53に配置した絶縁材積層部6のうちフィルム状をなす第2絶縁材Bには含浸樹脂4が含浸する空隙がそもそも存在せず、各絶縁材積層部6において第2絶縁材B同士を連続して重ねていないため、第2絶縁材B同士の間に含浸樹脂4が十分に充填されずに空隙が生じ得る事態を回避することができる。
【0041】
さらに、本実施形態に係るリフティングマグネット1は、各絶縁材積層部6のうち、ケース2を構成する天板21、底板22、スプール23にそれぞれ直接接触する部分又は含浸樹脂充填空間4Sを介して対面する部分に第1絶縁材Aを配置しているため、各網目に含浸樹脂4が含浸した状態にある第1絶縁材Aとケース2との間に不要な空隙が生じることを防止することができる。
【0042】
また、コイル3内の微小な隙間も含めてケース2内の絶縁空間5全体(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53、第4絶縁空間54)に隙間無く含浸樹脂4を充填した本実施形態に係るリフティングマグネット1は、コイル3の放熱性を極めて良好なものとすることができ、長時間の使用後でも吊り量が大幅に低減することのない実用性に優れたものになる。加えて、各絶縁空間5内に充填された含浸樹脂4及び各絶縁材A,Bが協働して、コイル3の絶縁を図る絶縁部として機能するとともに、耐衝撃性の向上にも貢献することにより、良好な絶縁性及び耐衝撃性を得ることが可能なリフティングマグネット1を実現することができる。
【0043】
次に、本実施形態に係るリフティングマグネット1のうち、特に絶縁部として機能する絶縁空間5内の構造、特に絶縁材積層部6の具体的な一例(実施例)に関する構造及び性能(絶縁信頼性、熱伝導効果)を、図8乃至図11を参照しながら、従来のリフティングマグネットに相当する比較例1と、本実施例に係るリフティングマグネット1を案出する前段階のリフティングマグネットに相当する比較例2と対比して述べる。なお、以下の説明及び図8乃至図11中における「絶縁厚み」とは、絶縁材A,Bを含めて含浸樹脂4が充填される絶縁空間5内においてコイル3とケース2(天板21、底板22、スプール23、ヨーク24)とが対面する方向の寸法であり、各絶縁空間51,52,53,54内に形成される絶縁部の厚みと同義である。また、図8乃至図11中における各絶縁材(A),(B)の右側に記載している数値は、各絶縁材(A),(B)の積層方向の寸法である「厚み」とその枚数を表す。そして、性能評価項目である「絶縁信頼性」は、絶縁空間内に空隙が存在しない場合に「良」(同図中「○」で示す)とし、空隙が存在する場合に「不良」(同図中「×」で示す)とするものであり、「熱伝導効果」(熱伝導性)は、所定の基準値を満たす場合に「良」(同図中「○」で示す)として、所定の基準値を満たさない場合に「不良」(同図中「×」で示す)とするものである。
【0044】
まず、天板21側の絶縁空間5(第1絶縁空間51)内の構成について図8を参照しながら説明する。比較例1では、第1絶縁空間51内に、天板21側から順に厚み2.5mmの第1絶縁材A(ガラスマット)を1枚、厚み0.5mmの第2絶縁材B(アラミド繊維)を1枚積層した絶縁材積層部6をコイル3に接触する位置に配置するとともに、この絶縁材積層部6と天板21との間に厚み0.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、この絶縁材積層部6と含浸樹脂充填空間4Sとによって第1絶縁空間51内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を3.5mmに設定している。
【0045】
比較例2では、第1絶縁空間51内に、天板21側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚、厚み0.5mmの第2絶縁材B(マイカ)を2枚積層した絶縁材積層部6をコイル3に接触する位置に配置するとともに、この絶縁材積層部6と天板21との間に厚み0.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、この絶縁材積層部6と含浸樹脂充填空間4Sとによって第1絶縁空間51内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を2.0mmに設定している。
【0046】
そして、実施例では、第1絶縁空間51内に、天板21側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚、厚み0.5mmの第2絶縁材B(マイカ)を1枚、厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚積層した絶縁材積層部6をコイル3に接触する位置に配置するとともに、この絶縁材積層部6と天板21との間に厚み0.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、この絶縁材積層部6と含浸樹脂充填空間4Sとによって構成される第1絶縁空間51内の絶縁部の厚み(絶縁厚み)を2.0mmに設定している。
【0047】
以上の構成を有する各例について検証したところ、比較例1は、絶縁信頼性が「良」であるものの熱伝導性で所定の基準値を満たさなかった。また、比較例2は、熱伝導性で所定の基準値を満たしたものの絶縁信頼性が「不良」であった。一方、実施例は、絶縁信頼性及び熱伝導性ともに「良」であった。
【0048】
次に、底板22側の絶縁空間5(第2絶縁空間52)内の構成について図9を参照しながら説明する。比較例1では、コイル3側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を4枚、厚み1.0mmの第2絶縁材B(マイカ)を1枚積層した絶縁材積層部6を底板22に接触する位置に配置するとともに、この絶縁材積層部6とコイル3との間に厚み0.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、この絶縁材積層部6と含浸樹脂充填空間4Sとによって第2絶縁空間52内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を3.5mmに設定している。
【0049】
比較例2でが、コイル3側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を2枚、厚み1.0mmの第2絶縁材B(マイカ)を2枚積層した絶縁材積層部6を底板22に接触する位置に配置するとともに、この絶縁材積層部6とコイル3との間に厚み0.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、この絶縁材積層部6と含浸樹脂充填空間4Sとによって第2絶縁空間52内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を2.5mmに設定している。
【0050】
そして、実施例では、コイル3側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚、厚み0.5mmの第2絶縁材B(マイカ)を1枚、厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚積層した絶縁材積層部6を底板22に接触する位置に配置するとともに、この絶縁材積層部6とコイル3との間に厚み0.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、この絶縁材積層部6と含浸樹脂充填空間4Sとによって第2絶縁空間52内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を2.5mmに設定している。
【0051】
以上の構成を有する各例について検証したところ、比較例1は、絶縁信頼性が「良」であったものの熱伝導性では所定の基準値を満たさなかった。また、比較例2は、熱伝導性で所定の基準値を満たしたものの絶縁信頼性が「不良」であった。一方、実施例は、絶縁信頼性及び熱伝導性ともに「良」であった。
【0052】
次に、スプール23側の絶縁空間5(第3絶縁空間53)内の構成について図10を参照しながら説明する。比較例1では、第3絶縁空間53内において、スプール23側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を5枚、厚み0.5mmの第2絶縁材B(アラミド繊維)を2枚、厚み0.5mmのその他の材料(テープなど)を1枚分相当積層し、第3絶縁空間53内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を4.0mmに設定している。
【0053】
比較例2では、第3絶縁空間53内に、スプール23側から順に厚み0.5mmの第2絶縁材B(アラミド繊維)を5枚、厚み0.3mmの第2絶縁材B(フレキシブルマイカ)を1枚積層した絶縁材積層部6を配置し、第3絶縁空間53内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を2.3mmに設定している。なお、絶縁材積層部6のうち第2絶縁材B(アラミド繊維)がスプール23に接触するとともに、第2絶縁材B(フレキシブルマイカ)がコイル3に接触している。
【0054】
実施例では、第3絶縁空間53内に、スプール23側から順に厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を2枚、厚み0.3mmの第2絶縁材B(フレキシブルマイカ)を1枚、厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を2枚積層した絶縁材積層部6を配置し、第3絶縁空間53内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を2.3mmに設定している。なお、絶縁材積層部6のうち第1絶縁材A(ガラスクロス)がスプール23に接触するとともに、第1絶縁材A(ガラスクロス)がコイル3に接触している。
【0055】
以上の構成を有する各例について検証したところ、比較例1は、絶縁信頼性及び熱伝導性ともに「不良」であり、比較例2は、熱伝導性で所定の基準値を満たしたものの絶縁信頼性は「不良」あった。一方、実施例は、絶縁信頼性及び熱伝導性ともに「良」であった。
【0056】
最後に、ヨーク24側の絶縁空間5(第4絶縁空間54)内の構成について図11を参照しながら説明する。比較例1では、第4絶縁空間54内においてコイル3に接触する位置に、コイル3側から順に、厚み2.5mmの第1絶縁材A(ガラスマット)を1枚、厚み0.2mmの第1絶縁材A(テープ)を1枚積層したもの配置するとともに、テープとヨーク24との間に厚み8.3mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、これらによって第4絶縁空間54内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を11.0mmに設定している。
【0057】
比較例2では、第4絶縁空間54内においてコイル3に接触する位置に、厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚配置するとともに、この第1絶縁材Aとヨーク24との間に厚み3.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、これらによって第4絶縁空間54内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を4.0mmに設定している。
【0058】
そして、実施例では、第4絶縁空間54内においてコイル3に接触する位置に、厚み0.5mmの第1絶縁材A(ガラスクロス)を1枚配置するとともに、この第1絶縁材Aとヨーク24との間に厚み3.5mmの空間(含浸樹脂充填空間4S)を形成し、これらによって第4絶縁空間54内に形成される絶縁部の厚み(絶縁厚み)を4.0mmに設定している。すなわち、第4絶縁空間54内の構成は、実施例と比較例2とで同一である。
【0059】
以上の構成を有する各例について検証したところ、比較例1は、絶縁信頼性が「良」であったものの熱伝導性は「不良」であった。比較例2及び実施例では、絶縁信頼性及び熱伝導性ともに「良」であった。
【0060】
以上の検証結果より、第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、及び第3絶縁空間53において共通している事項として、実施例及び比較例2が比較例1よりも熱伝導性が向上している点(第1事象)、実施例が比較例1及び比較例2よりも絶縁信頼性が向上している点(第2事象)、以上の点を挙げることができる。
【0061】
そして、第1事象については、比較例1に対して実施例及び比較例2では絶縁厚みを小さく設定していることが影響していることがわかる。つまり、絶縁厚みを小さく設定することによって熱伝導性が向上することがわかる。
【0062】
また、第2事象については、比較例2が第2絶縁材Bを連続して重ね合わせている構成、及びケース2に直接接触する位置または含浸樹脂充填空間4Sを介してケース2に対面する位置に第2絶縁材Bを配置した構成を採用しているのに対して、実施例が第2絶縁材Bを連続して重ね合わせていない構成、及びケース2に直接接触する位置または含浸樹脂充填空間4Sを介してケース2に対面する位置に第1絶縁材Aを配置した構成を採用していることが影響していることがわかる。すなわち、絶縁材積層部6を上述の第1条件及び第2条件の何れも満たす構成にすることによって絶縁信頼性が向上することがわかる。
【0063】
以上の考察より、本実施例に係るリフティングマグネット1では、第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53に配置するそれぞれ絶縁材積層部6を上述の第1条件及び第2条件を満たす構成としているため、第2絶縁材Bを連続して重ねて使用した場合に生じ得る不具合、つまり未硬化状態の含浸樹脂4が2枚以上重なった第2絶縁材B同士の間に十分に充填されず、その部分で空隙が生じるという不具合を解消することができるとともに、金属性の天板21、底板22及びスプール23にそれぞれ第2絶縁材Bを直接接触させた場合に生じる不具合、つまり未硬化状態の含浸樹脂4が天板21、底板22又はスプール23と第2絶縁材Bとの間に十分に充填されず、その部分で空隙が生じるという不具合も解消することができ、空隙のない良好な含浸状態を得ることができ、絶縁信頼性に優れた絶縁部として機能する第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53を実現することができる。
【0064】
さらに、本実施例のリフティングマグネット1であれば、空隙のない絶縁信頼性に優れた絶縁空間5を形成することによって、絶縁空間5に空隙が生じた場合と比較して熱伝導性の向上も図ることができる。したがって、有効な耐衝撃性を確保できる範囲内で絶縁空間5を従来よりも小さく(絶縁厚みを従来よりも薄く)設定した場合であっても十分な絶縁効果5を得ることができ、絶縁空間5の狭小化に伴って熱伝導効果をより一層向上させることができる。
【0065】
また、本実施例のリフティングマグネット1は、第1絶縁材Aよりも絶縁性能が高い第2絶縁材Bを備えた絶縁積層部6を絶縁空間5に配置しているため、絶縁空間5の絶縁性能を有効に高めることができるとともに、第2絶縁材Bよりも機械的強度が高い第1絶縁材Aを備えた絶縁積層部6を絶縁空間5に配置することによって、耐衝撃性を高めることができる。このような技術を採用することによって、有効な耐衝撃性及び絶縁性能を確保しつつ絶縁空間5を従来よりも小さく設定することが可能であり、絶縁空間5の狭小化に伴う熱伝導効果の向上を図ることが可能である。そして、絶縁空間5の狭小化によって含浸樹脂の使用量を低減することが可能であるため、リフティングマグネット1のコストダウン及び軽量化にも資する。
【0066】
また、絶縁空間5のうち、コイル3とヨーク24との間の第4絶縁空間54は、他の絶縁空間(第1絶縁空間51、第2絶縁空間52、第3絶縁空間53)と比較して十分に大きいため、他の絶縁空間51,52,53よりも含浸樹脂4を多く充填でき、図11に示すように、絶縁材積層部6を配置せずとも良好な絶縁性能を得ることが可能である。したがって、この第4絶縁空間54には、第1絶縁材Aよりも絶縁性能が高い一方で含浸樹脂4を通過させないという特性を有する第2絶縁材Bを敢えて配置する必要性は乏しいことがわかる。
【0067】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、絶縁空間のうちコイルとヨークとの間の第4絶縁空間に、上述の第1条件及び第2条件を満たす絶縁材積層部を配置することもできる。
【0068】
また、各絶縁材の材質や種類、サイズは適宜変更することができ、積層パターンも上述の第1条件及び第2条件を満たす範囲で適宜変更してもよい。
【0069】
また、各絶縁空間にそれぞれ同じ積層パターンの絶縁材積層部を配置することもできる。
【0070】
また、含浸樹脂の構成要素となる充填材には、上述したドロマイトの他にも、安価に入手することができればチタニア、ベリリヤ、窒化アルミニウム、窒化ボロン、マグネシアを適用することができ、絶縁処理を施せば金属粉末、炭化ケイ素、カーボンブラック、黒鉛等の導電性物質を適用することが可能であり、充填材はこれらのうち一種としてもよいし複数種を混在させてもよい。また、充填材の形状や含浸樹脂に占める割合など、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…リフティングマグネット
2…ケース
21…天板
22…底板
23…スプール
24…ヨーク
3…コイル
4…含浸樹脂
5…絶縁空間
51…第1絶縁空間
52…第2絶縁空間
53…第3絶縁空間
54…第3絶縁空間
6…絶縁材積層部
A…第1絶縁材
B…第2絶縁材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11