【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0048】
<実施例1>
先ず、イオン交換水に分散剤、塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を、合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が20原子%となるような割合で加え、撹拌溶解し、塩酸を更に加えてpHを1.30に調整した。分散剤にはポリアクリル酸を用いた。
【0049】
一方、イオン交換水に塩化クロム(III)を加えて撹拌溶解し、これに金属亜鉛(Zn)を投入することでクロムイオンを3価から2価に還元し、全クロムイオン中の2価のクロム比が70%以上となるように調製した。これを還元剤水溶液とした。
【0050】
次に、スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合し、撹拌保持時間を24時間としてスズイオンとコバルトイオンを還元反応させた。この混合液の温度は25℃であり、pHは1.30[a.u.](arbitrary units:任意単位)(
図2)であり、撹拌速度は0.5m/秒であった。
【0051】
その後、撹拌混合した液を静置し、合成した粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。続いて、沈降物にイオン交換水を加えて撹拌洗浄、静置沈降及び上澄み液除去の操作を数回繰り返し、最後にエタノールで撹拌洗浄、静置沈降及び上澄み液除去を行った。得られた沈降物を真空乾燥することで、スズとコバルトの合計量に対するコバルトの割合が20原子%である複合粒子からなり、この複合粒子が切断面において複合粒子の表面に連通する複数のポアを有し(
図3)、コバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在し、更に複合粒子内部の平均空間率が20%である負極活物質を得た。
【0052】
<実施例2>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを1.00[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は30%であった。
【0053】
<実施例3>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを0.71[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は40%であった。
【0054】
<実施例4>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを0.57[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は50%であった。
【0055】
<実施例5>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを0.43[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は70%であった。
【0056】
<実施例6>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを0.34[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は80%であった。
【0057】
<比較例1>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを1.50[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は10%であった。
【0058】
<比較例2>
スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液とを所定の割合で混合した混合液のpHを0.25[a.u.](
図2)としたこと以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。この負極活物質の複合粒子内部の平均空間率は90%であった。
【0059】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜6と比較例1及び2の負極活物質について、ICP定量分析を行い、複合粒子中のスズ、コバルト、クロム、亜鉛の各含有量を求めた。得られた結果を次の表1に示す。なお、表1中の「<0.001」及び「<2」は、ICPの検出限界以下の測定値であったことを示す。また、表1の「負極活物質の構造」の「ポア」において、「有」は負極活物質の複合粒子が複数のポアを有することを示し、「負極活物質の構造」の「Co位置」において、「偏在」はコバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在することを示す。上記複数のポアの存在やコバルトの偏在は、負極活物質の電子顕微鏡写真や、この負極活物質の断面における電子顕微鏡写真により確認した。
【0060】
また実施例1〜6と比較例1及び2の負極活物質を用い、負極活物質粉末を導電助剤、結着剤、溶媒と混合しスラリーをそれぞれ調製した。即ち、合成した負極活物質粉末、アセチレンブラック、カーボンナノファイバ(CNF)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)及びn−メチルピロリジノン(NMP)を質量比で80:5:5:10:100の割合となるように秤量し、混練機を用いて混練することでスラリーを作製した。
【0061】
次に、得られたスラリーをアプリケータを用いて銅箔上に活物質密度が5mg/cm
2となるように塗布し、乾燥、圧延し、幅3cm長さ3cmに切断することで負極電極を作製した。
【0062】
上記作製した負極を用いて半電池を組み、充放電サイクル試験を行った。対極及び参照極にはリチウム金属を用い、電解液には1M濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解した炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)の等体積溶媒を用いた。充電は電圧が5mVとなるまで0.5mA/cm
2の定電流条件で実施し、その後、電流が0.01mA/cm
2になるまで5mVの定電圧条件で実施した。
【0063】
放電は電圧が1Vになるまで0.5mA/cm
2の定電流条件で実施した。充電と放電を各1回実施した状態を1サイクルとし、100サイクルまでの充放電試験を行い、初回の活物質重量あたりの放電容量と、100サイクル目の放電容量の初回放電容量に対する割合を寿命特性として性能評価した。得られた評価結果を次の表1に示す。
【0064】
【表1】
表1から明らかなように、複合粒子内部の平均空間率が10%である比較例1では、初回放電容量が555mAh/gと低くなり、また複合粒子内部の平均空間率が90%である比較例2では、初回放電容量が490mAh/gと低くなったのに対し、複合粒子内部の平均空間率が20〜80%の範囲内である実施例1〜6では、初回放電容量が573〜803mAh/gと大きくなった。これらの結果から、複合粒子内部の平均空間率には初回放電容量を高めるのに最適な範囲が存在することが確認された。なお、比較例1では、スズのリチウムとの反応面積が狭過ぎたため、初回放電容量が低くなり、比較例2では、リチウムと反応するスズの量が少な過ぎたため、初回放電容量が低くなったのに対し、実施例1〜6では、リチウムとの反応面積が広く、かつリチウムと反応するスズの量が比較的多かったため、初回放電容量が高くなったものと推察される。
【0065】
また、複合粒子内部の平均空間率が10%である比較例1では、寿命特性が89.0%と低かったのに対し、複合粒子内部の平均空間率が20〜90%の範囲内である実施例1〜6及び比較例2では、寿命特性が94.0〜98.5%と高くなった。これは、比較例1では、複合粒子がこの粒子表面に連通するポアを有せず、電池充電時の複合粒子の体積膨張を吸収できなかったため、寿命特性が低くなったのに対し、実施例1〜6及び比較例2では、複合粒子がこの粒子表面に連通する複数のポアを有し、電池充電時の複合粒子の体積膨張を複数のポアが吸収して緩和できたため、寿命特性が高くなったものと推察される。
【0066】
<実施例7>
合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が5原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0067】
<実施例8>
合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が10原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0068】
<実施例9>
実施例4と同様に、合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が20原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製して負極活物質を得た。
【0069】
<実施例10>
合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が30原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0070】
<実施例11>
合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が40原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0071】
<比較例3>
合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が3原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0072】
<比較例4>
合成して得られる複合粒子のスズとコバルトの合計に対するコバルト割合が45原子%となるような割合で塩化スズ(II)及び塩化コバルト(II)を加えてスズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液を調製したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0073】
<比較例5>
スズとコバルトの合計に対するコバルト割合が20原子%であり、中心部と外周部での組成の偏りがなく粒子が略均一組成物となっているスズ−コバルト粉を負極活物質とした。
【0074】
<比較試験2及び評価>
実施例7〜11及び比較例3〜5の負極活物質について、上記比較試験1と同様に、ICP定量分析を行い、複合粒子中のスズ、コバルト、クロム、亜鉛の各含有量を求めた。得られた結果を次の表2に示す。なお、表2中の「<0.001」及び「<2」は、ICPの検出限界以下の測定値であったことを示す。また、表2の「負極活物質の構造」の「ポア」において、「有」は負極活物質の複合粒子が複数のポアを有することを示し、「負極活物質の構造」の「Co位置」において、「偏在」はコバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在することを示す。上記複数のポアの存在やコバルトの偏在は、負極活物質の電子顕微鏡写真や、この負極活物質の断面における電子顕微鏡写真により確認した。
【0075】
実施例7〜11及び比較例3〜5の負極活物質を用い、上記比較試験1と同様に、負極電極を作製した。またこの負極電極を用い、上記比較試験1と同様に、半電池を組み、充放電サイクル試験を行い、初回の活物質重量あたりの放電容量と、100サイクル目の放電容量の初回放電容量に対する割合を寿命特性として性能評価した。得られた評価結果を次の表2に示す。
【0076】
【表2】
表2から明らかなように、複合粒子が切断面において複合粒子の表面に連通する複数のポアを有し、コバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在する構造である実施例7〜11と比較例3及び4では、いずれも高い寿命特性を示したのに対し、粒子中のコバルトとスズとを略均一とした比較例5では、寿命特性が40.0%と非常に低い結果であった。この結果から、複合粒子が切断面において複合粒子の表面に連通する複数のポアを有し、コバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在した構造をとる複合粒子は非常に高いサイクル特性が得られることが確認された。
【0077】
また、複合粒子が切断面において複合粒子の表面に連通する複数のポアを有し、コバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在した構造とし、コバルト割合を変動させた実施例7〜11と比較例3及び4を比較すると、実施例7〜11のコバルト割合が5〜40原子%の範囲では、高い初回放電容量が得られ、かつ寿命特性も高い結果になったのに対し、比較例3の3原子%のようにコバルト割合が低くなると、寿命特性が低下し、比較例4の45原子%のようにコバルト割合が高くなると、初回放電容量が低くなる傾向が見られた。これらの結果から、粒子中のコバルト割合には適切な範囲が存在することが確認された。
【0078】
<実施例12>
合成して得られる複合粒子に質量比で0.005%のクロムが更に含まれるように、スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液との混合割合を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0079】
<実施例13>
合成して得られる複合粒子に質量比で0.1%のクロムが更に含まれるように、スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液との混合割合を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0080】
<実施例14>
合成して得られる複合粒子に質量比で1%のクロムが更に含まれるように、スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液との混合割合を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0081】
<実施例15>
合成して得られる複合粒子に質量比で5ppmの亜鉛が更に含まれるように、還元剤水溶液を調製する際の金属亜鉛投入量を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0082】
<実施例16>
合成して得られる複合粒子に質量比で25ppmの亜鉛が更に含まれるように、還元剤水溶液を調製する際の金属亜鉛投入量を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0083】
<実施例17>
合成して得られる複合粒子に質量比で50ppmの亜鉛が更に含まれるように、還元剤水溶液を調製する際の金属亜鉛投入量を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0084】
<実施例18>
合成して得られる複合粒子に質量比で1.5%のクロムが更に含まれるように、スズイオン及びコバルトイオンを含む水溶液と還元剤水溶液との混合割合を調節したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0085】
<実施例19>
合成して得られる複合粒子に質量比で75ppmの亜鉛が更に含まれるように、還元剤水溶液を調節する際の金属亜鉛投入量を調整したこと以外は実施例4と同様にして負極活物質を得た。
【0086】
<比較試験3及び評価>
実施例12〜19の負極活物質について、上記比較試験1と同様に、ICP定量分析を行い、複合粒子中のスズ、コバルト、クロム、亜鉛の各含有量を求めた。得られた結果を次の表3に示す。なお、表3中の「<0.001」及び「<2」は、ICPの検出限界以下の測定値であったことを示す。また、表3の「負極活物質の構造」の「ポア」において、「有」は負極活物質の複合粒子が複数のポアを有することを示し、「負極活物質の構造」の「Co位置」において、「偏在」はコバルトが複合粒子の外面及びポアの内面に偏在することを示す。上記複数のポアの存在やコバルトの偏在は、負極活物質の電子顕微鏡写真や、この負極活物質の断面における電子顕微鏡写真により確認した。
【0087】
実施例12〜19の負極活物質を用い、上記比較試験1と同様に、負極電極を作製した。またこの負極電極を用い、上記比較試験1と同様に、半電池を組み、充放電サイクル試験を行い、初回の活物質重量あたりの放電容量と、100サイクル目の放電容量の初回放電容量に対する割合を寿命特性として性能評価した。得られた評価結果を次の表3に示す。
【0088】
【表3】
表3から明らかなように、クロムを0.005〜1%又は亜鉛を5〜50ppm更に含有させた実施例12〜17では、クロムの含有量が0.001%未満及び亜鉛の含有量が2ppm未満と低い実施例4の結果に比べ、高い初回放電容量が得られた。一方、クロムの含有量が1.5%と高い実施例18及び亜鉛の含有量が75ppmと高い実施例19では、実施例4の結果と同程度の高い初回放電容量が得られているが、寿命特性が低い結果となった。これらの結果から、クロムや亜鉛を所定量含有することで初回放電容量値を高めることができる一方、クロムや亜鉛を含有し過ぎると、その特性が低下してしまうことから、クロムと亜鉛の含有量には適切な範囲が存在することが確認された。