(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。また、後続の実施形態においては、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分に百以上の位だけが異なる参照符号を付することにより対応関係を示し、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0014】
(第1実施形態)
図1において、本発明を適用した第1実施形態は、充電回路1である。充電回路1は、電力変換装置2を備える。充電回路1は、交流電力を供給する交流電源3と、電力変換装置2から供給される直流電力によって充電される二次電池によって提供される直流電源4とを備える。電力変換装置2は、交流電源3の電力を直流電力に変換する。また、電力変換装置2は、直流電源4の電力を交流電力に変換する。充電回路1は、負荷としての直流電源4に電力を供給する電源回路を構成する。交流電源3は、大規模な電力網を通じて供給される電源、例えば商用電源、または発電機によって提供される。直流電源4は、二次電池である。二次電池は、車両に搭載された車載型の二次電池、可搬型の二次電池、または地上に固定された定置型の二次電池である。二次電池は、例えばリチウムイオン電池によって提供される。
【0015】
電力変換装置2は、フィルタ回路5と、ブリッジ回路6と、昇降圧型のコンバータ回路7と、直流用の平滑コンデンサ8と、制御装置9とを備える。フィルタ回路5は、高周波ノイズを除去する。
【0016】
ブリッジ回路6は、交流電源3と直流電源4との間に配置されている。ブリッジ回路6は、複数のスイッチ素子11−14を有するフルブリッジ回路である。ブリッジ回路6は、交流から直流へのAC/DC変換と、直流から交流へのDC/AC変換とを提供する。例えば、ブリッジ回路6は、交流電力を整流し全波整流電圧を出力する。ブリッジ回路6は双方向の整流回路とも呼ぶことができる。
【0017】
ブリッジ回路6は、ブリッジ回路のそれぞれのアームに、第1スイッチ素子11(以下、Q1と呼ぶ)、第2スイッチ素子12(以下、Q2と呼ぶ)、第3スイッチ素子13(以下、Q3と呼ぶ)、および第4スイッチ素子14(以下、Q4と呼ぶ)を備える。Q1とQ2との間、およびQ3とQ4との間が、一対の交流端とされる。Q1とQ3との間、およびQ2とQ4との間が、一対の直流端とされる。
【0018】
コンバータ回路7は、ブリッジ回路6と直流電源4との間に配置されている。コンバータ回路7は、複数のスイッチ素子15−18とリアクトル19とを有するHブリッジ型のコンバータ回路である。コンバータ回路7は、双方向に電圧を昇降圧変換することが可能である。
【0019】
コンバータ回路7は、交流電源3側に配置され、直列接続された第5スイッチ素子15(以下、Q5と呼ぶ)と、第6スイッチ素子16(以下、Q6と呼ぶ)とを備える。Q5とQ6とは、ブリッジ回路6から供給される電圧に対して順方向に直列に接続されている。さらに、コンバータ回路7は、直流電源4側に配置され、直列接続された第7スイッチ素子17(以下、Q7と呼ぶ)と、第8スイッチ素子18(以下、Q8と呼ぶ)とを備える。Q7とQ8とは、直流電源4の電圧に対して順方向に直列に接続されている。
【0020】
Q5とQ6との間と、Q7とQ8との間との間には、インダクタンス素子がリアクトル19(以下、Lと呼ぶ)として設けられている。さらに、Q7とQ8とに対して並列となるように、出力キャパシタとしてのコンデンサ8が設けられている。
【0021】
コンバータ回路7は、昇降圧チョッパ回路とも呼ぶことができる。コンバータ回路7は、昇圧コンバータ回路としての構成要素と、降圧コンバータ回路としての構成要素とを備える。交流電源3から直流電源4へ電力が供給されるとき、Q8は昇圧コンバータ回路のスイッチ素子を提供する。交流電源3から直流電源4へ電力が供給されるとき、Q5は降圧コンバータ回路のスイッチ素子を提供する。直流電源4から交流電源3へ電力が供給されるとき、Q6は昇圧コンバータ回路のスイッチ素子を提供する。直流電源4から交流電源3へ電力が供給されるとき、Q7は降圧コンバータ回路のスイッチ素子を提供する。
【0022】
Q1−Q8は、IGBT素子(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ素子)である。よって、Q1−Q8は、スイッチングトランジスタと、逆接続ダイオードとの並列回路として構成されている。
【0023】
制御装置9は、ブリッジ回路6およびコンバータ回路7の複数のスイッチ素子11−18を制御する。制御装置9は、ブリッジ回路6およびコンバータ回路7のQ1−Q8を制御する制御手段を提供する。制御装置9は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納している。記憶媒体は、半導体メモリまたは磁気ディスクによって提供されうる。プログラムは、制御装置9によって実行されることによって、制御装置9をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置9を機能させる。制御装置9が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0024】
電力変換装置2は、交流電圧vacを検出する交流電圧検出部としての電圧検出器21を備える。電力変換装置2は、直流電圧vbを検出する直流電圧検出部としての電圧検出器22を備える。電力変換装置2は、交流電流iacを検出する交流電流検出部としての電流検出器23を備える。電力変換装置2は、リアクトル電流iLを検出するリアクトル電流検出部としての電流検出器24を備える。ブリッジ回路6とコンバータ回路7との間における入力電圧は、交流電圧vacの絶対値|vac|として求められる。なお、交流電圧vacを検出する代わりに、入力電圧を検出してもよい。これら複数の検出器21、22、23、24からの検出信号は、制御装置9に入力される。
【0025】
制御装置9は、交流電源3から直流電源4へ電力を供給する順方向モードを提供するように複数のスイッチ素子11−18を制御する。順方向モードは、交流電源3から供給される交流電力によって直流電源4を充電するための充電モードとも呼ぶことができる。制御装置9は、交流電圧vacを直流電圧vbに変換するために、昇圧制御、および降圧制御を切換えて、または同時に提供する。昇圧制御においては、ブリッジ回路6およびコンバータ回路7は昇圧コンバータ回路として機能する。降圧制御においては、ブリッジ回路6およびコンバータ回路7は降圧コンバータ回路として機能する。さらに、制御装置9は、昇圧制御と降圧制御との両方において、交流電圧vacと交流電流iacとの位相をほぼ一致させる力率改善制御(PFC制御)を実行することができる。交流電流iacの目標電流iac*は、交流電圧vacに基づいて生成することができる。また、Lに流れる電流を制御することによって交流電流iacの位相を制御することができる。そこで、制御装置9は、コンバータ回路7のLに流れるリアクトル電流iLが目標値iL*に一致するように、コンバータ回路7の少なくともひとつのスイッチ素子を制御する。リアクトル電流iLの目標値iL*は、入力電流iacの目標電流iac*から生成される。
【0026】
制御装置9は、直流電源4から交流電源3へ電力を供給する逆方向モードを提供するように複数のスイッチ素子11−18を制御する。逆方向モードは、逆潮流モードとも呼ぶことができる。制御装置9は、直流電圧vbを交流電圧vacに変換するために、昇圧制御、および降圧制御を切換えて、または同時に提供する。昇圧制御においては、ブリッジ回路6およびコンバータ回路7は昇圧コンバータ回路として機能する。降圧制御においては、ブリッジ回路6およびコンバータ回路7は降圧コンバータ回路として機能する。
【0027】
逆潮流モードにおいて、制御装置9は、Q7およびQ8をスイッチング制御、すなわちオンオフ制御することにより降圧制御を提供する。このとき、Q7とQ8とは、互いに反転駆動される。また、逆潮流モードにおいて、制御装置9は、Q6をスイッチング制御することにより昇圧制御を提供する。昇圧制御においては、Q5とQ6とは、互いに反転駆動することができる。代わりに、昇圧制御においては、Q5は、継続的にOFF状態においてもよい。制御装置9は、Q6およびQ7のスイッチング制御により直流電圧vbを昇降圧制御して交流電圧vacと同等の電圧をQ1のエミッタとQ3のエミッタとの間に発生させる。
【0028】
逆潮流モードにおいて、制御装置9は、ブリッジ回路6によって直流電圧から交流電圧への変換を行うようにQ1−Q4を制御する。具体的には、制御装置9は、交流電圧vacの極性に応じて、Q1とQ4との対と、Q2とQ3との対とをスイッチング制御する。Q1とQ4との対と、Q2とQ3との対とは、反転駆動される。この結果、Q1−Q4は、交流電圧vacの周波数でスイッチング制御される。なお、ハイサイドのスイッチ素子とローサイドのスイッチ素子が反転駆動される場合、デッドタイムが付与される。
【0029】
逆潮流モードにおいて、制御装置9は、交流電源3の電源品質を損なわないために、無効電力制御を実行する。制御装置9は、逆潮流モードにおいて、無効電力を注入するように、ブリッジ回路6とコンバータ回路7とに含まれる複数のスイッチ素子11−18を制御する。無効電力制御においては、例えば、交流電源3の電圧上昇を抑制するように、交流電源3へ無効電流が供給される。以下の説明では、逆潮流モードを提供するための制御装置9の構成を説明する。
【0030】
図2は、Q5およびQ6を制御するための制御装置9の部分的な構成を示す。制御装置9は、複数の機能的なブロック31−39を備える。入力部31は、直流電圧vbを入力する。1/N変換部32は、直流電圧vbを1/vbに変換する。入力部33は、交流電圧vacを入力する。ピーク検出部(PKDT)34は、交流電圧vacのピーク電圧PKVを検出し、出力する。乗算部35は、1/vbとPKVとを乗算し、PKV/vbを算出する。定数部36は、定数1を出力する。加算部37は、定数1と−PKV/vbとを加算する。この結果、1−PKV/vbが得られる。パルス幅変調部(PWM)38は、1−PKV/vbに対応するデューティ比をもつパルス信号を出力する。このパルス信号は、Q6のための駆動信号として利用される。Q6の駆動信号は、Q6dutyと呼ばれる。反転部39は、Q6dutyを反転することにより、Q5のための駆動信号を出力する。Q5の駆動信号は、Q5dutyと呼ばれる。この結果、交流電圧vacと直流電圧vbで決まる時比率でONとOFFとが反転する信号によってQ6が駆動される。Q6のスイッチング動作によって、昇圧制御が提供される。
【0031】
図3は、Q1−Q4、およびQ7−Q8を制御するための制御装置9の部分的な構成を示す。制御装置9は、複数の機能的なブロック41−61を備える。
【0032】
発生部41は、正弦波sinθを出力する。発生部42は、有効電流指令値Iacp*を発生し、出力する。乗算部43は、Iacp*にsinθを乗算することにより、iacp*を算出する。発生部44は、余弦波cosθを出力する。発生部45は、無効電流指令値Iacq*を発生し、出力する。乗算部46は、Iacq*にcosθを乗算することにより、iacq*を算出する。加算部47は、iacp*とiacq*とを加算することにより、電流の指令値iac*を算出する。この結果、指令値iac*は、iac*=(Iacp*×sinθ)+(Iacq*×cosθ)として求められる。
【0033】
入力部48は、Q6dutyを入力する。定数部49は、定数1を出力する。加算部50は、定数1と−Q6dutyとを加算する。この結果、1−Q6dutyが得られる。入力部51は、交流電圧vacを入力する。指令部(RTCM)52は、リアクトル電流の指令値iL*を設定する。指令部52は、iac*、1−Q6duty、およびvacを入力する。指令部52は、これらの入力に基づいて指令値iL*を設定し、出力する。
【0034】
入力部53は、Lに流れるリアクトル電流iLを入力する。加算部54は、指令値iL*と、−iLとを加算する。この結果、偏差diLが求められる。偏差diLは、diL=iL*−iLである。
【0035】
入力部55は、Q5dutyを入力する。入力部56は、直流電圧vbを入力する。判定部(ZCDT)57は、交流電圧vacがゼロになっていること、すなわち交流電圧vacのゼロクロスを判定し、ゼロクロスを示す判定信号ZCを出力する。判定部57は、交流電圧vacの極性の反転を判定する判定部でもある。
【0036】
制御部(CNTM)58は、リアクトル電流iLが指令値iLに一致するようにQ7およびQ8を制御する。制御部58は、diL、1−Q6duty、Q5duty、iacq*、vb、およびvacを入力する。制御部58は、これらの入力に基づいてリアクトル電流iLを指令値iLに制御する。制御部58は、フィードバック制御およびフィードフォワード制御によってリアクトル電流iLを指令値iLに制御する。
【0037】
制御部58は、パルス幅変調された信号を出力する。制御部58の出力は、Q7のための駆動信号として利用される。反転部59は、Q7のための駆動信号を反転することにより、Q8のための駆動信号を出力する。なお、ハイサイドのQ7とローサイドのQ8が反転駆動される場合、デッドタイムが付与される。
【0038】
発生部45は、通常は、無効電流指令値Iacq*を0に設定する。交流電源3の電圧が正弦波を超えて上昇した場合、発生部45は、無効電流指令値Iacq*を所定の値に設定する。所定の値は、交流電源3の交流電圧の変動分、例えば正弦波からの上昇を抑制するように、所定の無効電流を注入するように設定される。この結果、交流電源3に無効電流が注入され、交流電圧の上昇が抑制される。
【0039】
この構成によると、ブロック41−47は、無効電流制御、すなわち無効電力制御を提供するための設定部を提供する。ブロック41-47は、無効電流指令値Iacq*に応じて指令値iac*を設定する。指令部52は、交流電流の指令値iac*に基づいてリアクトル電流の指令値iL*を設定する。ブロック44−52は、逆潮流モードにおいて交流電圧vacの上昇を検知したときに、無効電流iacq*を注入するように指令値iL*を設定する無効電流注入部を提供する。
【0040】
さらに、制御部58は、指令値iL*と、実際のリアクトル電流iLとの偏差diLを小さくするようにデューティ比を設定し、このディーティ比をもつ駆動信号を出力する。この結果、Q7およびQ8は、リアクトル電流iLを指令値iL*に維持しながら、直流電圧vbを交流電圧vacに降圧する。Q7およびQ8のスイッチング動作によって、降圧制御が提供される。
【0041】
整流部(RCTM)60は、交流電圧vacに基づいてQ1−Q4の駆動信号を出力する。整流部60は、交流電圧vacの極性に応じて、Q1−Q4を駆動する。言い換えると、整流部60は、交流電圧vacが正であるか負であるかに応じて、Q1−Q4を駆動する。整流部60の出力は、Q1およびQ4のための駆動信号として利用される。反転部61は、Q1のための駆動信号を反転することにより、Q2およびQ3のための駆動信号を出力する。
【0042】
図4は、整流部60を詳細に示す。整流部60は、vac>0であるとき、すなわち交流電圧vacが正であるとき、Q1およびQ4をON状態に駆動するための信号を出力する。整流部60は、vac≦0であるとき、すなわち交流電圧vacが負または0であるとき、Q1およびQ4をOFF状態に駆動するための信号を出力する。
【0043】
図5は、指令部52を詳細に示す。指令部52は、指令値iac*に基づいて指令値iLを設定する。指令部52は、交流電圧vacと指令値iac*との関係に基づいて、指令値iLの極性を決定する。指令部52は、(1)、(2)、および(3)を含む3つの場合を判別する。(1)sign(iac*)=sign(vac)の場合、すなわち、指令値iac*の極性と、交流電圧vacの極性とが同じである場合、指令値iL*は、iL*=|iac*|×1/(1−Q6duty)で与えられる。すなわち、指令値iL*は、指令値iac*の絶対値に、Q6のスイッチングによる影響を考慮した係数を掛けることによって求められる。(2)vac>0 AND iac*≦0の場合、すなわち、交流電圧vacが正であり、かつ、指令値iac*が0以下、すなわち0または負である場合、指令値iL*は、iL*=iac*×1/(1−Q6duty)で与えられる。
(3)vac≦0 AND iac*>0の場合、すなわち、交流電圧vacが0以下、すなわち0または負であり、かつ、指令値iac*が正である場合、指令値iL*は、iL*=−iac*×1/(1−Q6duty)で与えられる。
【0044】
図6は、制御部58を示す。制御部58は、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを切り替えて実行する。制御部58は、複数のブロック71−83を備える。
【0045】
フィードバック制御部(FBCM)71は、フィードバック制御量FBを設定する。入力部72は、偏差diLを入力する。PI演算部73は、偏差diLを小さくするための制御量を算出する。PI演算部73は、比例積分制御に基づいて制御量PI(diL)を算出する。PI演算部73は、フィードバック量を演算する演算部でもある。比例積分制御に代えて、P制御、PID制御、ヒステリシス制御などの種々のフィードバック制御方法を利用することができる。発生部74は、|vac|×Q5dutyを出力する。加算部75は、PI(diL)と|vac|×Q5dutyとを加算する。発生部76は、1/vbを出力する。乗算部77は、|vac|×Q5duty+PI(diL)に、1/vbを乗算する。この結果、フィードバック制御量FBは、FB=(|vac|×Q5duty+PI(diL))/vbで与えられる。
【0046】
フィードバック制御部71は、リアクトル電流iLを指令値iL*にフィードバック制御するように、複数のスイッチ素子11−18を制御する。フィードバック制御部71は、リアクトル電流iLと指令値iL*との偏差diLに基づいてリアクトル電流iLを指令値iL*に接近させるように設定されるデューティ比FBで少なくともひとつのスイッチ素子をスイッチング制御する。よって、リアクトル電流iLを指令値iL*に接近させることができる。
【0047】
フィードフォワード制御部(FFCM)78は、フィードフォワード制御量FFを設定する。フィードフォワード制御部78は、リアクトル電流iLを急激に変化させるように、複数のスイッチ素子11−18を制御する。フィードフォワード制御量FFは、Q7を駆動する信号のデューティ値にインパルス状の所定値Fdutyを与える。所定値Fdutyは、同じ時期に、偏差diLに基づいてフィードバック制御部71によって与えられるフィードバック制御量FBよりも十分に大きく設定されている。所定値Fdutyは、リアクトル電流iLが最小値から急激に増加するように設定されている。所定値Fdutyは、固定値とすることができる。所定値Fdutyは、ゼロクロスにおいて、リアクトル電流iLが負の所定値から正の所定値へほぼ反転するように設定することができる。
【0048】
所定値Fdutyは、Fduty=(L×ΔiL×f/vb)×C×100(%)によって与えられる値とすることができる。上式において、Lはリアクトルのインダクタンス、ΔiLはゼロクロス直後において実現すべきリアクトル電流の変化量、fはQ7のスイッチング周波数、vbは直流電圧、Cは1以下の係数である。所定値Fdutyを採用することにより、ゼロクロスの直後に、フィードフォワード制御部78によって、リアクトル電流iLが、望ましい所定の応答ΔiLを示す。
【0049】
係数Cは、所定値Fdutyをわずかに小さくするために設定することができる。所定値Fdutyを(L×ΔiL×f)/vb×100(%)よりわずかに小さくすることにより、フィードフォワード制御からフィードバック制御への移行を滑らかに実施することができる。この結果、リアクトル電流iLを滑らかに制御することができる。
【0050】
フィードフォワード制御部78は、リアクトル電流iLと指令値iL*との偏差diLに依存することなく設定される所定のデューティ比Fdutyで少なくともひとつのスイッチ素子をスイッチング制御する。この結果、フィードバック制御部71における制御手法に制約されることなく、リアクトル電流iLを急激に増加させることができる。
【0051】
選択部(SLTM)79は、フィードバック制御量FBとフィードフォワード制御量FFとのいずれか一方だけを選択的に出力する。入力部80は、無効電流指令値Iacq*を入力する。入力部80は、判定部57からゼロクロスを示す信号ZCを入力する。
【0052】
選択制御部(SLCM)82は、無効電流指令値Iacq*と、ゼロクロスZCとに基づいて、選択部79を制御する。選択制御部82は、ゼロクロスが検出され(ZC)、かつ、無効電流指令値Iacq*がある(Iacq*≠0)場合に、選択部79を一時的に(1)に切換える。この結果、選択部79は、無効電流を流すことが求められており、かつ、ゼロクロスが検出された直後の一時的な期間だけ、フィードフォワード制御量FFを出力する。上記以外の期間においては、選択部79は、フィードバック制御量FBを出力する。以下の説明では、無効電流を流すことが求められており、かつ、ゼロクロスが検出された直後の一時的な期間を、過渡制御期間と呼ぶ。
【0053】
選択部79と選択制御部82とは、過渡制御期間にフィードフォワード制御部78がスイッチ素子をスイッチング制御し、残りの期間においては、フィードバック制御部71がスイッチ素子をスイッチング制御するように、フィードフォワード制御部78とフィードバック制御部71とを切換える切換部を提供する。
【0054】
言い換えると、切換部は、逆潮流モードにおいて、無効電流が注入されるときに、ゼロクロスを判定した直後の一時的な期間だけ、フィードフォワード制御部79によるスイッチ素子の制御を有効とする有効化部を提供する。具体的には、有効化部は、フィードフォワード制御部79によるスイッチ素子の制御を有効とする。有効化部は、上記の一時的な期間以外の残りの期間においては、フィードフォワード制御部79によるスイッチ素子の制御を無効化する。フィードフォワード制御部78、選択部79、および選択制御部82は、無効電流を流すことが求められており、かつ、ゼロクロスが検出されたことに応答して、リアクトル電流iLを急上昇させるようにインパルス状の制御量を与える過渡的な制御手段を提供している。無効電流を流すことが求められており、かつ、ゼロクロスが検出されたことは、過渡制御条件と呼ぶことができる。
【0055】
逆潮流モードにおいて、無効電流が注入されると、交流電流iacの位相にずれが発生する。交流電流iacの歪みを抑制するためには、リアクトル電流iLを急激に変化させる必要がある。逆潮流モードにおいて、無効電流が注入されるときは、リアクトル電流iLは、フィードバック制御部71による制御だけでは望ましい応答を示さないことがある。この構成では、ゼロクロス直後に、フィードフォワード制御部78によるスイッチ素子の制御を有効とするから、リアクトル電流iLを急激に増加させることができる。
【0056】
パルス幅変調部(PWM)83は、選択部79から出力される制御量FFまたはFBに対応するデューティ比をもつパルス信号を出力する。このパルス信号は、Q7のための駆動信号として利用される。
【0057】
図7は、制御部58を提供する演算処理を示す。制御処理190は、無効電流を出力することが求められている期間における、ゼロクロスの直後の短期間だけに、フィードフォワード制御量FFによるスイッチング制御を有効化させる。ステップ191では、制御装置9は、過渡制御時期が到来したか否かを判定する。具体的には、制御装置9は、ゼロクロスが検出され、かつ、無効電流の出力が求められているか否かを判定する。ステップ191の判定処理は、ZC AND Iacq*≠0と表すことができる。
【0058】
過渡制御時期が到来した場合、ステップ192へ進む。ステップ192では、制御装置9は、フィードフォワード制御量FFを算出する。過渡制御時期が到来していない場合、ステップ193へ進む。ステップ193では、制御装置9は、フィードバック制御量FBを算出する。
【0059】
ステップ194では、制御装置9は、パルス幅変調処理(PWM)を実行する。ステップ194では、フィードフォワード制御量FFまたはフィードバック制御量FBに応じたデューティ比をもつパルス信号が設定される。ステップ195では、制御装置9は、パルス信号を出力する。
【0060】
この実施形態によると、Q7は、フィードフォワード制御量FFまたはフィードバック制御量FBに基づいて制御される。この結果、無効電流を出力中に、ゼロクロスが検出された場合に限り、フィードバック制御量FBが無効化され、フィードフォワード制御量FFが有効化される。
【0061】
図8は、無効電流を出力しているときの電力変換回路2の作動状態を示している。直流電圧vbは、交流電圧vacの最大値より小さい。交流電流iacは、交流電圧vacの位相よりわずかに進んだ位相をもっている。リアクトル電流iLは、交流電圧vacがゼロクロスするタイミング、例えば時刻taにおいて急激に増加している。リアクトル電流iLは、残部の期間においては、交流電流iacに対応して滑らかに変化している。Q1−Q4は、交流電圧vacの極性に対応するようにスイッチングされている。Q6(Q5)は、図示されるように所定の周期でスイッチングされる。Q7およびQ8は、直流電圧vbを交流電圧vacに変換するようにスイッチングされる。
【0062】
Q7は、逆潮流時に降圧のためのスイッチング素子を提供する。Q7の駆動信号のデューティ比Q7dutyは、図示されるように変化する。Q7dutyは、ゼロクロスの直後に、フィードフォワード制御量FFによって急激に増加する。図示の例では、フィードフォワード制御量FFは、ゼロクロスの後の時刻taと時刻tbとの間に与えられている。
【0063】
フィードフォワード制御量FFが与えられる期間は、ゼロクロスの直後である。フィードフォワード制御量FFは、短時間だけ与えられる。フィードフォワード制御量FFが与えられる期間は、交流電圧vacのゼロクロス後の増加過程、またはゼロクロス後の減少過程より短い。フィードフォワード制御量FFが与えられる期間は、交流電圧vacがゼロクロスの後にピーク値に到達するまでの期間より短い。フィードフォワード制御量FFが与えられる期間は、リアクトル電流iLのゼロクロス後の増加過程より短い。フィードフォワード制御量FFが与えられる期間は、リアクトル電流iLが最小値に到達してから、再び最大値に到達するまでの期間より短い。フィードフォワード制御量FFが与えられる期間は、フィードバック制御部71がリアクトル電流iLを安定的に制御できる程度の大きさにリアクトル電流iLが到達するように設定することができる。
【0064】
フィードバック制御部71とフィードフォワード制御部78とは、スイッチ素子11−18を所定の周期でスイッチング制御する。選択部79と選択制御部82とがフィードフォワード制御部78によるスイッチ素子の制御を有効とする期間は、1回の所定の周期に対応する。言い換えると、フィードフォワード制御量FFは、Q7dutyの1周期だけ与えられる。よって、スイッチ素子は、ゼロクロス後の1周期だけ、フィードフォワード制御部78によって制御される。1周期のフィードフォワード制御によって、リアクトル電流iLは、急激に変化する。また、1周期のフィードフォワード制御は、リアクトル電流iLの過剰な応答を抑制する。さらに、1周期のフィードフォワード制御は、他の制御、すなわちフィードバック制御部71による制御への滑らかな移行を可能とする。
【0065】
Q7dutyは、ゼロクロスの直後以外の大部分の期間において、フィードバック制御量FBによって滑らかに増加し、減少する。図示の例では、フィードバック制御量FBは、時刻tbと時刻teとの間に与えられている。
【0066】
図中には、フィードフォワード制御量FFが与えられる期間、すなわち時刻taと時刻tbとの間における、フィードバック制御量FBに起因するQ7dutyが破線によって図示されている。時刻taと時刻tbとの間においては、フィードフォワード制御量FFは、フィードバック制御量FBより大きい。特に、ゼロクロスの直後においては、フィードフォワード制御量FFは、フィードバック制御量FBより十分に大きい。
【0067】
図9は、無効電流を出力しているときの電力変換回路2の作動状態を示している。図中には、電力変換回路2の各部の観測波形が図示されている。交流電圧vacは正弦波である。交流電圧vacは、時刻taと時刻teとにおいてゼロクロスZCを迎えている。交流電流iacは、交流電圧vacに対してややずれた位相を有している。無効電力制御に起因して、交流電流iacは、交流電圧vacに対いてやや進んだ位相を有している。交流電流iacは、スイッチング素子のスイッチングに起因する微小な変動を伴っている。交流電流iacは、時刻taと時刻teとにおいて、わずかに歪みDSTを生じている。
【0068】
リアクトル電流iLは、スイッチング素子のスイッチングに起因する変動を伴っている。リアクトル電流iLは、ゼロクロスZCにおいてステップ状に増加している。無効電力を出力しない場合は、リアクトル電流iLは交流電圧vacと同位相に制御される。よって、無効電力を出力しない場合は、リアクトル電流iLは、図示されるような急激に変化した波形とならない。
【0069】
Q7の駆動信号のデューティ比Q7dutyは、フィードバック制御量FBに対応してゆるやかに変化している。交流電流iacの歪みDSTを抑制し、交流電流iacを正弦波に一致させるためには、リアクトル電流iLを急激に変化させるように、Q7をスイッチング制御する必要がある。このような急激な応答を生じさせるために、フィードフォワード制御量FFが与えられる。Q7dutyは、ゼロクロスZCの直後に、一時的に、フィードフォワード制御量FFに対応する値Fdutyになる。図示の例では、フィードフォワード制御量FFが与えられることにより、ゼロクロスZCの直後にリアクトル電流iLが急激に増加し、歪みDSTが小さく抑制されている。
【0070】
図10に図示されるように、時刻taの前において、偏差diLが小さくなると、フィードバック制御量FBはほぼゼロになる。Q7のスイッチングのための1周期だけ、フィードフォワード制御量FFが与えられている。時刻taの後、すなわちゼロクロスZCの後の第2番目の周期から、フィードバック制御量FBが与えられている。フィードバック制御量FBは、マイクロコンピュータによる離散系での演算処理に起因して、やや遅れた応答を示す。また、ゼロクロスZCの直後は偏差diLが小さいので、比例成分が小さい。また、ゼロクロスZCの直後は偏差diLの継続期間も短いので、積分成分が小さい。よって、フィードバック制御量FBは、PI制御にも起因して遅れた応答を示す。フィードフォワード制御量FFは、フィードバック制御量FBの遅れを補償して、リアクトル電流iLを急激に増加させるために貢献している。
【0071】
図11は、電力変換回路2の高調波歪率HDRを示すグラフである。横軸は、高調波の次数HO、すなわちn次高調波のnを示す。この実施形態によると、3次高調波から39次高調波までの各高調波の歪率HDRは、3%を下回る。3次高調波から39次高調波の総合高調波歪率THDは、5%を下回る。この実施形態によると、系統連系機器に求められる多くの規制が要求する要求値を満足することができる。
【0072】
以上に述べた実施形態によると、交流電圧vacのゼロクロスZCが判定された直後の一時的な期間だけ、フィードフォワード制御部79によるスイッチ素子の制御が有効とされる。この結果、ゼロクロスZCの直後に、フィードフォワード制御部79によって、リアクトル電流iLが急激に増加される。このため、無効電流指令値iacq*が注入されているときであっても、交流電流iacの歪みが抑制される。
【0073】
(第1比較例)
第1比較例は、フィードバック制御量FBだけをパルス幅変調部83に出力するように構成されている。したがって、第1比較例では、逆潮流モードにおいて無効電流を出力しているときに、フィードバック制御量FBだけでスイッチング制御を実行している。すなわち、第1比較例では、フィードフォワード制御量FFを与えない。
【0074】
図12は、第1比較例の観測波形を示す。第1比較例では、ゼロクロスZCが検出される時刻ta、teにおいて、交流電流iacに大きな歪みDSTが表れている。
【0075】
図13に図示されるように、フィードバック制御量FBは、時刻taの後に、制御遅れDLcだけ経過した後に、増加する。このため、リアクトル電流iLは、時刻taの後に、応答遅れDLrだけ経過した後に、所定の目標値付近まで増加する。さらに、フィードバック制御量FBは、制御遅れDLcの後に、偏差diLの大きさに起因してオーバーシュートおよびアンダーシュートを生じる。この結果、リアクトル電流iLには、振動的な波形OSCが表れる。これらの応答遅れDLrと、振動的な波形OSCに起因して、交流電流iacに大きな歪みDSTが表れる。
【0076】
図14に図示されるように、第1比較例によると、歪率HDRが3%を上回る高調波が存在する。また、総合高調波歪率THDは、10%を上回っている。
【0077】
(第2実施形態)
上記実施形態では、PI演算部73は、予め設定された固定のゲインに基づいて比例積分制御のための演算を実行した。これに代えて、この実施形態では、可変のゲインが用いられる。フィードバック制御のためのゲインは、フィードフォワード制御からフィードバック制御への切換え時に小さく抑制され、その後に徐々に増加するように調節される。
【0078】
図15は、制御部58の構成を示す。フィードバック制御部271は、ゲイン制御部284を備える。ゲイン制御部284は、選択部79から切換信号を入力する。切換信号は、フィードフォワード制御量FFからフィードバック制御量FBへの切換えを示す。ゲイン制御部284は、切換信号に応答して、PI演算部273におけるゲインを変化させる。ゲイン制御部284は、比例ゲインKpおよび積分ゲインKiの少なくとも一方を変化させる。
【0079】
ゲイン制御部284は、切換信号に応答して、ゲインを減少させ、その後に、ゲインを再び増加させる。ゲイン制御部284は、切換信号に応答して、ゲインを最小値に減少させる。その後、ゲイン制御部284は、短時間だけゲインを最小値に維持する。さらに、その後に、ゲイン制御部284は、ゲインを徐々に増加させる。ゲインが最小値に向けて減少するときの減少速度は、ゲインが徐々に増加されるときの増加速度より速い。
【0080】
ゲイン制御部284は、交流電圧vacがゼロクロスした後の短い期間だけ、ゲインを抑制する。ゲイン制御部284は、ゼロクロスの後、交流電圧vac、交流電流iac、またはリアクトル電流iLがピーク値に到達するまでの期間だけ、ゲインを抑制するように構成することができる。
【0081】
ゲインが小さく調節されている期間は、フィードバック制御量FBが抑制される。また、ゲインが徐々に増加する期間は、フィードバック制御量FBが徐々に増加する。この結果、ゲインが小さく調節されている期間、すなわちゼロクロスの直後においては、フィードバック制御量FBによる制御は緩慢な応答性を提供する。この結果、リアクトル電流iLおよび交流電流iacは、安定的に制御される。一方、ゲインが徐々に増加する期間においては、フィードバック制御量FBによる制御は、徐々に速い応答性を提供する。この結果、リアクトル電流iLおよび交流電流iacは、目標値に追従して正確に制御される。
【0082】
図16に図示されるように、ゲインKpおよび/またはゲインKiは、最大値Gmaxと最小値Gminとの間で調節される。以下、ゲインKpが調節される場合を説明する。ゲイン制御部284は、ゼロクロスに対応する時刻taにおいて、ゲインKpを、最大値Gmaxから最小値Gminに向けて急激に減少させる。ゲイン制御部284は、時刻taの後、ゲインKpを徐々に増加させる。ゲインKpは、時刻Tfにおいて最大値Gmaxに復帰する。よって、ゲイン制御部284は、時刻taと時刻tfとの間の期間において、ゲインKpを最大値Gmaxより小さい値に抑制する。
【0083】
ゲイン制御部284は、ゼロクロスが判定された後に、フィードバック制御部71におけるフィードバック制御のための制御ゲインKp、Kiを徐々に増加させる。この結果、フィードバック制御部71による制御量が、抑制状態から徐々に増加する。この結果、ゼロクロス後に、フィードバック制御部71による過剰な制御が抑制される。しかも、フィードバック制御部71による制御を徐々に効かせることができる。
【0084】
ゲイン制御部284は、ゼロクロスが判定された直後に、フィードバック制御部71におけるフィードバック制御のための制御ゲインKp、Kiを極小値に設定する。この結果、フィードバック制御部による制御量が抑制される。この結果、ゼロクロス後に、フィードバック制御部71による過剰な制御が抑制される。
【0085】
図示されるように、ゲイン制御部284は、フィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換わった直後は、ゲインを低く設定し、その後に、徐々にゲインを増加させる。ゲインが最小値Gminにあるときに、この低いゲインに基づいて算出されたフィードバック制御量FBに基づいて少なくとも1周期のスイッチングが実行される。ゲイン制御部284は、低いゲインに基づく制御が実行された後に、ゲインを徐々に上昇させる。ゲインの上昇につれて、フィードバック制御量FBが徐々に増加する。
【0086】
フィードバック制御、すなわちPI制御のためのゲインは、ほとんどの期間において大きい値に設定される。ゲインは、交流電圧vac、交流電流iac、またはリアクトル電流iLが極大値に到達する前に、最小値Gminより大きい値に増加される。言い換えると、ゲインが小さいのはゼロクロス付近のみとされる。このため、すべての期間にわたってゲインを小さく設定する場合よりも、制御偏差を小さくできる。
【0087】
図17および
図18に図示されるように、この実施形態でも、フィードフォワード制御量FFとフィードバック制御量FBとの両方が与えられる。フィードバック制御量FBは、時刻taの後、徐々に増加する。フィードバック制御量FBは、時刻tfの後に急速に増加する。この結果、フィードフォワード制御量FFからフィードバック制御量FBへ移行した直後、すなわちフィードバック制御の開始時において、リアクトル電流iLおよび交流電流iacの変動が抑制される。特に、フィードバック制御量FBに起因するリアクトル電流iLおよび交流電流iacの過剰な応答、例えばオーバーシュートまたはアンダーシュートが抑制される。また、時刻tfの後は、大きいゲインに基づいて高い応答性が提供される。
【0088】
図19に図示されるように、この実施形態によると、各高調波の歪率HDRは、3%を下回る。総合高調波歪率THDは、5%を下回る。この実施形態によると、系統連系機器のために規定された多くの規制が要求する要求値を満足することができる。
【0089】
この実施形態によると、先行する実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、この実施形態によると、ゲインの調節によって、ゼロクロスの直後における交流電流の歪み抑制と、リアクトル電流の制御性の向上とが両立される。
【0090】
(第2比較例)
第2比較例は、PI演算部73(273)におけるゲインを最大値に固定している。第2比較例では、フィードフォワード制御量FFが与えられている。
【0091】
図20に図示されるように、第2比較例では、ゼロクロスZCが検出される時刻ta、teにおいて、交流電流iacに大きな歪みDSTが表れている。
【0092】
図21に図示されるように、リアクトル電流iLは、時刻taの直後に、フィードフォワード制御量FFに応答して急激に増加する。フィードバック制御量FBは、偏差diLの大きさに起因してオーバーシュートおよびアンダーシュートを生じる。この結果、リアクトル電流iLには、振動的な波形OSCが表れる。さらに、交流電流iacには大きな歪みDSTが表れる。このため、第2比較例では、交流電流iacの高調波歪率HDRが十分に抑制されない。
【0093】
(第3実施形態)
先行する実施形態では、Q6による昇圧制御と、Q7による降圧制御とを同時に実行した。これに代えて、交流電圧vacと直流電圧vbとの絶対値の大小関係に基づいて、Q6による昇圧制御と、Q7による降圧制御とを切換えて実行してもよい。
【0094】
図22は、Q1−Q4、およびQ6−Q8を制御するための制御装置9の部分的な構成を示す。1/N変換部362は、Q5dutyを1/Q5dutyに変換する。指令部352は、先行する実施形態の1/(1−Q6duty)の代わりに1/Q5dutyを利用して指令値iL*を設定する。制御部358は、diL、iacq*、vb、およびvacを入力する。制御部358は、これらの入力に基づいてリアクトル電流iLを指令値iLに制御する。制御部358は、フィードバック制御およびフィードフォワード制御によってリアクトル電流iLを指令値iLに制御する。
【0095】
制御部358は、パルス幅変調された信号を出力する。制御部358は、Q6のための駆動信号と、Q7のための駆動信号とを出力する。
【0096】
図23に図示されるように、指令部352は、指令値iac*に基づいて指令値iLを設定する。指令部352は、(1)、(2)、および(3)を含む3つの場合を判別する。(1)sign(iac*)=sign(vac)の場合、すなわち、指令値iac*の極性と、交流電圧vacの極性とが同じである場合、指令値iL*は、iL*=|iac*|×1/Q5dutyで与えられる。すなわち、指令値iL*は、指令値iac*の絶対値に、Q5のスイッチングによる影響を考慮した係数を掛けることによって求められる。(2)vac>0 AND iac*≦0の場合、指令値iL*は、iL*=|iac*|×1/Q5dutyで与えられる。(3)vac≦0 AND iac*>0の場合、指令値iL*は、iL*=|iac*|×1/Q5dutyで与えられる。
【0097】
図24に図示されるように、制御部358は、Q6によるフィードバック制御と、Q7によるフィードバック制御とを切換えて実行するように構成されている。
【0098】
Q6のためのフィードバック制御部(FBCM(Q6))371aは、Q6のためのフィードバック制御量FBaを設定する。入力部72aは、偏差diLを入力する。PI演算部73aは、偏差diLを小さくするための制御量を算出する。PI演算部73aは、比例積分制御に基づいて制御量PI(diL)を算出する。入力部74aは、vbを入力する。加算部75aは、−PI(diL)とvbとを加算する。発生部76aは、1/|vac|を出力する。乗算部77aは、vb−PI(diL)に、1/|vac|を乗算する。この結果、フィードバック制御量FBaは、FBa=(vb−PI(diL))/|vac|で与えられる。
【0099】
設定部387は、Q6をOFF状態に維持するための信号OFFを出力する。Q6のための選択部(SLTM(Q6))379aは、フィードバック制御量FBaと信号OFFとのいずれか一方だけを選択的に出力する。選択部379aは、3つの場合に応じて切換え可能に構成されている。後述する選択制御部382からの指令が(1)の場合に、選択部379aは、信号OFFを出力する。選択制御部382からの指令が(2)の場合に、選択部379aは、信号OFFを出力する。選択制御部382からの指令が(3)の場合に、選択部379aは、フィードバック制御量FBaを出力する。
【0100】
Q7のためのフィードバック制御部(FBCM(Q7))371bは、Q7のためのフィードバック制御量FBbを設定する。入力部72bは、偏差diLを入力する。PI演算部73bは、偏差diLを小さくするための制御量を算出する。PI演算部73bは、比例積分制御に基づいて制御量PI(diL)を算出する。発生部74bは、|vac|を出力する。加算部75bは、PI(diL)と|vac|とを加算する。発生部76bは、1/vbを出力する。乗算部77bは、|vac|+PI(diL)に、1/vbを乗算する。この結果、フィードバック制御量FBbは、FBb=(|vac|+PI(diL))/vbで与えられる。
【0101】
設定部388は、Q7をON状態に維持するための信号ONを出力する。Q7のための選択部(SLTM(Q7))379bは、フィードフォワード制御量FFと、フィードバック制御量FBbと、信号ONとのいずれかを選択的に出力する。選択部379bは、3つの場合に応じて切換え可能に構成されている。選択制御部382からの指令が(1)の場合に、選択部379bは、フィードフォワード制御量FFを出力する。選択制御部382からの指令が(2)の場合に、選択部379bは、フィードバック制御量FBbを出力する。選択制御部382からの指令が(3)の場合に、選択部379bは、信号ONを出力する。
【0102】
発生部385は、|vac|を出力する。入力部386は、vbを入力する。選択制御部(SLCM)382は、|vac|、vb、Iacq*、およびZCに基づいて、選択部379aおよび選択部379bを制御する。選択制御部382は、(1)、(2)、および(3)を含む3つの場合を判別する。
【0103】
(1)選択制御部82は、|vac|<vbであるときに、ゼロクロスが検出され(ZC)、かつ、無効電流指令値Iacq*がある(Iacq*≠0)場合に、選択部379a、379bを一時的に(1)に切換える。|vac|<vbであるときは、Q7による降圧制御が実行される。よって、Q6はOFF状態に維持される。一方、無効電流を流すことが求められており、かつ、ゼロクロスが検出された直後にだけ、選択部379bは、フィードフォワード制御量FFを出力する。この結果、Q7はフィードフォワード制御量FFに基づいて制御される。
【0104】
(2)選択制御部82は、|vac|<vbであるときに、ゼロクロスが検出されない(No ZC)、または、無効電流指令値Iacq*がない(No Iacq*≠0)場合に、選択部379a、379bを(2)に切換える。|vac|<vbであるときは、Q7による降圧制御が実行される。よって、Q6はOFF状態に維持される。一方、無効電流を流すことが求められておらず、または、ゼロクロスが検出された直後ではない場合には、選択部379bは、フィードバック制御量FBbを出力する。この結果、Q7はフィードバック制御量FBbに基づいて制御される。
【0105】
(3)選択制御部82は、|vac|≧vbであるときに、選択部379a、379bを(3)に切換える。|vac|≧vbであるときは、Q6による昇圧制御が実行される。選択部379aは、フィードバック制御量FBaを出力する。この結果、Q6はフィードバック制御量FBaに基づいて制御される。一方、Q7はON状態に維持される。
【0106】
図25は、制御部358を提供する演算処理を示す。制御処理390は、|vac|がvbを下回るか否かに基づいて、Q6による昇圧制御と、Q7による降圧制御とを切換える。ステップ191、194、195は、先行する実施形態と同じである。ステップ396では、制御装置9は、|vac|がvbを下回るか否かを判定する。
【0107】
ステップ396の判定が|vac|<vbである場合、ステップ191へ進む。ステップ191、392、393では、制御装置9は、Q7によって降圧制御を実行する。制御時期が到来した場合、ステップ392へ進む。ステップ392では、制御装置9は、フィードフォワード制御量FFを算出する。同時に、ステップ392では、制御装置9は、Q6をOFF状態に維持するための信号OFFを設定する。制御時期が到来していない場合、ステップ393へ進む。ステップ393では、制御装置9は、フィードバック制御量FBbを算出する。同時に、ステップ393では、制御装置9は、Q6をOFF状態に維持するための信号OFFを設定する。
【0108】
ステップ396の判定が|vac|≧vbである場合、ステップ397へ進む。ステップ397では、制御装置9は、Q6によって昇圧制御を実行する。ステップ397では、制御装置9は、フィードバック制御量FBaを算出する。同時に、ステップ397では、制御装置9は、Q7をON状態に維持するための信号ONを設定する。
【0109】
図26に図示されるように、この実施形態では、Q7(Q8)と、Q6(Q5)とが、交互にスイッチングされている。この結果、スイッチング回数が抑制される。
【0110】
ゼロクロスの後の短時間、時刻taと時刻tbとの間において、Q7は、フィードフォワード制御量FFによって制御される。このとき、Q6はOFF状態に維持されている。時刻tbと時刻tcとの間においては、Q7はフィードバック制御量FBbによって制御される。このとき、Q6はOFF状態に維持されている。
【0111】
時刻tcと時刻tdとの間においては、Q6はフィードバック制御量FBaによって制御される。このとき、Q7はON状態に維持されている。
【0112】
時刻tdと時刻teとの間においては、Q7は、再びフィードバック制御量FBbによって制御される。このとき、Q6はOFF状態に維持されている。
【0113】
この実施形態によると、交流電圧vacの絶対値|vac|が直流電圧vbよりも小さい場合は、Q7をスイッチングすることにより、降圧制御が実行される。このとき、無効電流の供給が求められ、かつ、交流電圧vacがゼロクロスした場合は、一時的に、フィードフォワード制御が実施される。無効電流の供給が求められていない場合、または、ゼロクロスの後に一時的なフィードフォワード制御が実行された後は、フィードバック制御、すなわちPI制御が実行される。
【0114】
交流電圧vacの絶対値|vac|が直流電圧vbよりも大きい場合は、Q6をスイッチングすることにより、昇圧制御が実行される。このとき、フィードバック制御、すなわちPI制御が実行される。
【0115】
この実施形態では、|vac|=vbである場合、Q6による昇圧制御が選択される。これに代えて、|vac|=vbである場合、Q7による降圧制御が選択されてもよい。
【0116】
この実施形態によると、先行する実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、この実施形態によると、スイッチ素子15−18のスイッチング回数を抑制することができる。
【0117】
(第4実施形態)
上記実施形態では、選択部79、379a、379bは、選択制御部82、382に応答して、一時的にフィードバック制御量FBからフィードフォワード制御量FFへの切換えを実行した。これに代えて、選択制御部82、382に応答して、一時的にフィードバック制御量FBに、フィードフォワード制御量FFを加算して出力してもよい。
【0118】
例えば、
図27に図示される構成を採用することができる。この実施形態では、選択部479は、加算部479aと、スイッチ部479bとを備える。加算部479aは、フィードバック制御量FBとフィードフォワード制御量FFとを加算する。スイッチ部479bは、選択制御部82からの指令に応じてフィードフォワード制御量FFの伝達を断続する。この構成では、フィードバック制御量FBは、遮断されることなく、継続的に出力される。過渡制御期間だけ、フィードバック制御量FBにフィードフォワード制御量FFが加算される。無効電流指令値Iacq*があり、かつゼロクロスが検出された直後においては、フィードフォワード制御量FFは、フィードバック制御量FBより十分に大きい。よって、この構成においても、過渡制御期間だけ、フィードフォワード制御量FFが有効化される。
【0119】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0120】
例えば、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。
【0121】
上記実施形態では、複数のスイッチ素子11−18は、IGBTによって提供した。これに代えて、MOS−FET、またはバイポーラトランジスタなどの種々の半導体スイッチ素子を採用することができる。
【0122】
上記実施形態では、フィードフォワード制御部78は一定のフィードフォワード制御量FFを発生する。また、選択部79、379a、379bはフィードフォワード制御量FFの伝達を遮断、または許容することにより、フィードフォワード制御部78を無効化、または有効化した。これに代えて、フィードフォワード制御部78が、選択制御部82からの信号に応答してフィードフォワード制御量FFの大きさを調節するように構成してもよい。例えば、フィードフォワード制御部78に、選択制御部82からの指令をパラメータとしてフィードフォワード制御量FFの大きさを調節するマップ、または関数機能を設けることができる。この場合、フィードバック制御量FBとフィードフォワード制御量FFとを加算してパルス幅変調部83に出力する構成を採用することができる。このような構成においても、過渡制御期間だけ、フィードフォワード制御量FFが有効化される。
【0123】
ゲイン制御部284は、第3実施形態のフィードバック制御部371bに採用してもよい。