(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記高温ハングアップ抑止手段は、上記温度制御手段による上記ヒータの給電量が予め定めた下限値あるいは下限値以下の状態が予め定めた時間以上継続したとき、高温ハングアップ状態が生じたものとして、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源装置。
上記高温ハングアップ抑止手段は、上記波長変換素子の温度が上記目標温度よりも予め定めた一定温度以上高い状態が予め定めた時間以上継続したとき、高温ハングアップ状態が生じたものとして、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源装置
【背景技術】
【0002】
映画やホームシアター用等に利用される投射型プロジェクタの光源としてレーザ光を用いた装置の開発が進められている。これらの光源となるレーザ光源には、半導体レーザ素子から直接放射される光を用いる場合と、該半導体レーザ素子から放射された光を非線形光学結晶により他の波長に変換して用いる場合とが知られている。
最近では、青色や緑色のレーザ光源として該非線形光学結晶に、周期的分極反転型ニオブ酸リチウム(PPLN:Periodically Poled Lithium Niobate)や周期分極反転型タンタル酸リチウム(PPLT:Periodically Poled Lithium Tantalate)等を用いたレーザ光源が開発されている。
【0003】
このような技術としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。該公報によれば、半導体レーザからなる光源と、該光源から放射されたレーザ光を入射し第2高調波に変換する波長変換素子(非線形光学結晶として、例えばPPLNを用いた場合)と、該波長変換素子から放出された所定の波長の光を選択して前記光源に向かって反射させる外部共振器(例えば体積ブラッググレーティング:VBG:Volume Bragg Grating)とを具備したレーザ光源装置が記載されている。
また、該波長変換素子を取り付けるサブベースとの間には温度調節ユニットが設けられていることが記載されている。更に、該温度調節ユニットを用いて該波長変換素子の温度を調節することにより、波長変換素子の分極反転周期のピッチを調整することができるため、光の変換効率を向上させることが可能となることが記載されている。
【0004】
図10はレーザ光源装置の概略構成を示すブロック図である。
レーザ光源ユニットLH上に実装された波長変換素子(例えばPPLN)5は、レーザ光源素子(例えば半導体レーザ、以下半導体レーザとして説明する)2から放出される光の波長を入射光よりも短波長化する波長変換を行う機能を有しており、例えば、赤外線を緑色の光に変換することができる。
点灯回路20は、給電回路U1と、パルス状の電力を供給するパルス回路U2から構成され、半導体レーザ2を点灯させるための電圧・電流を供給する。
この波長変換素子5は、所定の温度まで上昇させることで擬似位相整合され光変換の効率を上昇させる特徴を持ち、非常に精度の良い温度制御が必要となる。そのため、波長変換素子5を加熱するための加熱手段7(以下、ヒータ7として説明する)を備え、ヒータ7の温度を検出する温度検出手段Th1、例えばサーミスタを配置している。
【0005】
また、制御部21は、制御手段21aと温度制御手段21bとヒータ7を駆動するドライブ回路U3から構成される。上記給電回路U1は、制御部21の制御手段21aによって半導体レーザ2に印加する電圧や流す電流が、予め設定された値、あるいは外部から設定された値になるように制御される。また、その給電の開始、停止などの制御がなされる。上記制御部21の制御手段21aと温度制御手段21bは、例えば演算処理装置(CPUあるいはマイクロプロセッサ)で構成される。
また、パルス回路U2は制御手段21aによって制御される。制御手段21aはパルス回路U2のスイッチング素子をオン・オフし、半導体レーザ2を駆動するパルス出力を発生する。
温度制御手段21bは温度検出手段Th1により検出された温度と、目標温度である設定温度との差に基づき上記ヒータ7への給電量を制御し、波長変換素子の温度が上記設定温度になるようにフィードバック制御する。
【0006】
上記フィードバック制御方式としては、一般的に「オン・オフ−PID制御」として知られている制御方式を用いることができる。PID制御は、比例要素と積分要素と微分要素を組み合わせて、目標の温度となるように制御する方式である。なお、本実施例で使用したPWM出力の周波数は例えば、略数kHz程度の値が適用される。
【0007】
図11は、上記制御部21の温度制御手段21bにおける制御処理の一例を示すフローチャートである。
図11のフローチャートは、前述した制御部21内に実装されたマイクロコンピュータにおけるソフトウエア処理により実現することができ、制御部21の温度制御手段21bは、例えば以下のフローチャートに示される処理を実行し、波長変換素子5の温度を設定温度に制御する。
制御部21の温度制御手段21bは、波長変換素子5の温度を目標温度に制御するために、波長変換素子5の温度を温度検出手段Th1で検出し、検出した温度と目標温度となる上記設定温度とを比較することで、ヒータ7への出力操作量を周期的に実行し制御する。これについて、その代表的手法である比例要素と積分要素とを組み合わせたPI制御を例として説明する。
【0008】
図11において、ステップ(B01)でヒータ制御を開始し、まず、ステップ(B02)において波長変換素子5の温度実測値(PPLN温度実測値)を温度検出手段Th1により測定し、温度実測値(Tm_PPLN)を得る。
次に、ステップ(B03)にて波長変換素子5の目標温度、即ち、波長変換素子5の温度設定値(PPLN温度設定値)を読み込み、温度設定値(Ts_PPLN)を得る。
そして、ステップ(B04)にて上記温度設定値(Ts_PPLN)と、温度検出手段Th1より測定された温度実測値(Tm_PPLN)とを比較して、その差分(en)を求める。この差分(en)を用いて、ステップ(B05)において、PI演算を行う。このPI演算において、ヒータ7への給電量、即ち、ヒータ7への操作量を数式(1)より求める。
MV
n=MV
n−1+Kp×e
n+Ki×e
n‐1・・・(1)
ここで、MVnは今回の操作量、MVn−1は前周期の操作量、enは今回算出した温度の差分値、en−1は前周期での温度差分値、Kp、Kiは定数である。
【0009】
PI演算により算出された操作量(MVn)は制御部21より送出するPWM信号のオン幅として更新することになるが、ステップ(B06)、ステップ(B07)にて、操作量(MVn)が最大値(MVn上限値)を上回っている場合にはその最大値を、最小値(MVn下限値)を下回っている場合には最小値を操作量(MVn)として上下限制限を行う(ステップ(B08)、ステップ(B09))。
そしてステップ(B06〜B9)にて、最終的に決定した操作量を、制御部21より送出するPWM信号のオン幅(Duty(n))として更新し、その周期のヒータ制御を終了する(ステップ(B10,B11))。
このステップ(B01)からステップ(B11)までの一連の動作を所定の周期で繰り返す。本フローチャートを周期的に実行しフィードバック制御を行うことで、前記波長変換素子5が最適な温度になるよう安定的に制御される。
ここで説明している制御アルゴリズムは、比例制御と積分要素からなるPI制御方式を用いているが、例えばPID制御のようにDifferential(微分)要素を加えた制御を含め他のフィードバック制御方式を用いても構わない。
【0010】
なお、波長変換素子5(例えばPPLN)は、該波長変換素子の温度によってレーザ光の変換効率が変化し、光変換効率を最大とすることができる最適な温度が存在する。
このため上記温度制御手段21bは、温度検出手段Th1により検出された波長変換素子5の温度が、上記光変換効率が最大となる温度となるように、ヒータ7を制御してその温度を制御するのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、波長変換素子5(例えばPPLN)を用いたレーザ光源装置では、該PPLNの温度によってレーザ光の変換効率が変化することから、波長変換素子5の温度をモニタしながらヒータ回路等により最適な温度を設定しなければならない。
図12は、波長変換素子の設定温度と、波長変換素子に加わる熱量との関係を示す図である。同図の横軸は、波長変換素子の温度をフィードバック制御している際の設定温度を示し、線Aはレーザ光源からの基本波光が波長変換素子に照射される際の輻射熱による波長変換素子の加熱量(以下IR輻射熱量ともいう)、線Bはヒータ7による加熱量(ヒータ7への給電量)、線Cはこれらの合計である総熱量を示す。
なお、同図(a)は後述する高温ハングアップ状態になっていない場合を示し、(b)は高温ハングアップ状態になった場合を示す。
【0013】
図12(a)に示すように、波長変換素子の設定温度を上昇していくと、ヒータの給電量がある温度Tcで最大となる現象が生ずる。
一般的に波長変換素子5の温度を上昇させる場合は、単純にヒータへの給電量が増加すれば、波長変換素子の温度は上昇していくはずである。しかし、実際には
図12(a)に示すように、ヒータ7への給電量は、ある設定温度で極大となる。
この給電量が極大となる波長変換素子の設定温度は、レーザ光源の光出力が最大となる(すなわち波長変換素子の変換効率が最も高い)設定温度と一致する。
【0014】
この現象は、以下のように説明することができる。
ヒータ7への給電量が最大となる温度(Tc)周辺では、半導体レーザ2から出力される赤外線の大半が可視光に変換されているが、赤外線が可視光に変換される割合が低い温度領域では、そのほとんどが赤外線のまま閉じ込められ波長変換素子5を加熱する、いわゆる、輻射熱による加熱(前記IR輻射による加熱)に使われる。
前述したように、
図10に示したレーザ光源装置では、設定した目標温度に制御するために波長変換素子5の温度をフィードバック制御しているため、この赤外線の外乱の増減に依存してヒータ7への給電量も増減制御される。したがって波長変換素子5が輻射熱を多く受ける領域ではヒータ7への給電量は少なくても充分設定した温度となり、逆に可視光への変換効率が高いポイント(温度Tc付近)では、上記輻射熱が低減しているので、ヒータ7への給電量を増加するように温度制御手段21bが制御する。このため、給電量の最も高い点が波長変換素子の変換効率が最も高い温度領域となるものと考えられる。
【0015】
ところで、一般的にプロジェクタ光源では、使用環境や点灯条件によって光量の調整が必要となる。例えば、晴れた日の野外で映像を投射する場合と、映画館等の屋内を暗くして投射する場合では、必要となる光量は異なる。また、プロジェクタを省電力モードで点灯する場合と、通常電力で点灯する場合とでは、光源に投入される電力が大きく異なる。このように、光源となるレーザ光源装置に対して、レーザ点灯電流の増減制御が必要となる。
しかし、レーザ光量増加指令に従いレーザ点灯電流を増加させると、以下に説明するように、波長変換素子5温度が波長変換最適温度より高温で保持されてしまう高温ハングアップ状態となり、所望の変換光出力が得られず光量が大幅に減少する場合があることが分かった。
【0016】
以下、上記高温ハングアップについて説明する。
前記したレーザ光源装置において、レーザ光量増加指令に従いレーザ点灯電流を増加させると、レーザ光による波長変換素子5の加熱量も増加する。このため波長変換素子5の温度が一時的に上昇する。
レーザ光による波長変換素子5の加熱量が増加すると、
図12に示すIR輻射熱量A、総熱量Cが増加する。このため、温度制御手段21bは、ヒータ7への給電量を減少させるように制御するが、ヒータ回路への出力を遮断しても波長変換素子5の温度が下がらなくなると、
図12(b)に示すように、波長変換素子5の温度を制御できなくなる。この結果、波長変換素子5の温度が上昇し、波長変換素子5の温度は、
図12(b)に示す高温ハングアップ状態の領域に入り、高温ハングアップ2の状態になる。
すなわち、
図12(b)において、ヒータ7への給電量を制御して波長変換素子の温度を上昇させていくと、高温ハングアップ1の温度で基本波光による波長変換素子5の加熱量が温度維持に必要なエネルギよりも大きくなる。その場合ヒータ7への給電を停止しても波長変換素子5の温度は上がり続け、高温ハングアップ2の温度まで上昇して停止する。この高温ハングアップに陥ると、ヒータ7への給電を停止しても波長変換素子(PPLN)の温度を下げることができない。
【0017】
図13は、高温ハングアップ状態になるときの動作を示すタイムチャートである。同図において(a)は調光トリガ、(b)は半導体レーザ2のレーザ電流、(c)はIR輻射熱量、(d)はヒータ7への給電量、(e)は波長変換素子の温度である。
図12において、(1)同図(a)に示すように、調光トリガが入力されると、(2)同図(b)に示すようにレーザ電流IL1からIL2(増加量A)に増加する。
(3)レーザ電流増加と同時に、同図(c)に示すようにレーザ電流の増加分に相当するIR輻射による加熱量が増加する。
(4)IR輻射による加熱量の増加に伴い同図(e)に示すように、波長変換素子5の温度が上昇する。
(5)波長変換素子5の温度が上昇し、波長変換効率が最大となる波長変換素子の最適温度を越えることにより、同図(c)に示すようにIR輻射による加熱量は更に増加し、同図(e)に示すように波長変換素子5の温度を更に増加させる。
(6)上記(3)〜(5)の動作中、ヒータ7への給電量は温度制御手段21bのフィードバック制御により、同図(d)に示すように順次小さくなるが、温度制御系の応答遅れ等により波長変換素子の温度は上昇を続ける。
(7)波長変換素子の温度が同図(e)に示す高温ハングアップ1の温度を超えると、ヒータへの給電を停止しても温度を下げることができなくなり、高温ハングアップ状態となる。そして、波長変換素子5の温度は上がり続け、高温ハングアップ2の温度まで上昇する。
【0018】
以上のように、レーザ光量増加指令に従いレーザ点灯電流を増加させると、レーザ光による波長変換素子5の加熱量も増加し、波長変換素子5の温度が最適な温度に下がらなくなり制御ができなくなる(高温ハングアップ状態になる)場合がある。
この高温ハングアップ状態では、波長変換素子5の温度が波長変換効率が最大となる最適温度より高温で保持されてしまい、所望の変換光出力が得られず光量が大幅に減少し、レーザ光量増加指令前より却って光量が減少した状態が維持されてしまう。
【0019】
本発明は上記問題点を解決するものであって、本発明の課題は、高温ハングアップ状態となり、波長変換素子の温度制御が制御不能に陥った場合に、早急に制御可能状態に回復させ、高い光出力を回復することを可能にしたレーザ光源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
温度によって変換効率が変化し、光変換効率を最大とする最適な温度が存在する波長変換素子を用いて波長変換を行うレーザ光源装置において、波長変換素子の温度制御を、ペルチェ素子のような冷却も行える手段を用いずにヒータ等の加熱手段で行い、かつ基本波光をパッケージ外に漏らさない構造であって波長変換されない基本波光の一部が波長変換素子の加熱に寄与するレーザ光源装置においては、前記したように高温ハングアップ状態となることがある。
この高温ハングアップ状態とは、上記レーザ光源装置において、波長変換素子の変換効率が最大となる温度より高温領域において、その温度を維持するために必用な熱量よりも基本波光による加熱量(IR輻射熱量)が大きくなってしまうことにより、ヒータ等の加熱手段への給電量の増減で波長変換素子の温度を制御できなくなり、ヒータ等の加熱手段への給電を停止しても温度を下げることができなくなる状態である。
本発明は、レーザ光源装置に高温ハングアップ抑止手段を設け、高温ハングアップ状態になったとき、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させ、このような高温ハングアップ状態から回復できるようにする。
例えば、以下のようにして高温ハングアップ状態から回復させる。
温度制御手段による上記ヒータの給電量が予め定めた下限値あるいは下限値以下の状態が予め定めた時間以上継続したとき、半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。あるいは、波長変換素子の実測温度が波長変換素子の制御目標温度より高い状態となっている時間幅を検出し、該時間幅が予め設定した一定値より大きくなった場合に、半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。
これにより、レーザ光による波長変換素子の加熱量を減少させ、波長変換素子を温度制御可能状態に戻して、高い変換効率の光量が安定して得られるようになる。
また、上記半導体レーザへの給電量の減少分は、上記半導体レーザへの給電量の増加した後に上記高温ハングアップ状態が生じたとき、上記半導体レーザへの給電量の増加分に比例した値としてもよい。
すなわち、本発明は以下のようにして前記課題を解決する。
(1)半導体レーザと、該レーザから放射されたレーザ光を波長変換する波長変換素子と、該波長変換素子を加熱するためのヒータと、該半導体レーザに給電するための給電回路と、該ヒータに給電するためのヒータ給電回路と、上記波長変換素子の温度を検出し上記ヒータへの給電量を制御して該波長変換素子の温度を目標温度に制御する温度制御手段を備え、上記半導体レーザに給電するための給電回路と上記ヒータ給電回路とを制御する制御部と、を有するレーザ光源装置において、上記制御部に、上記波長変換素子の変換効率が最大となる温度より高温領域において上記ヒータへの給電量を低減させても波長変換素子の温度を制御できなくなる高温ハングアップ状態が生じたとき、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させ該高温ハングアップ状態を抑止する高温ハングアップ抑止手段を設ける。
(2)上記(1)において、上記高温ハングアップ抑止手段は、上記温度制御手段による上記ヒータの給電量が予め定めた下限値あるいは下限値以下の状態が予め定めた時間以上継続したとき、高温ハングアップ状態が生じたものとして、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。
(3)上記(1)において、上記高温ハングアップ抑止手段は、上記波長変換素子の温度が上記目標温度よりも予め定めた一定温度以上高い状態が予め定めた時間以上継続したとき、高温ハングアップ状態が生じたものとして、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。
(4)
半導体レーザと、該レーザから放射されたレーザ光を波長変換する波長変換素子と、該波長変換素子を加熱するためのヒータと、該半導体レーザに給電するための給電回路と、該ヒータに給電するためのヒータ給電回路と、上記波長変換素子の温度を検出し上記ヒータへの給電量を制御して該波長変換素子の温度を目標温度に制御する温度制御手段を備え、上記半導体レーザに給電するための給電回路と上記ヒータ給電回路とを制御する制御部とを有するレーザ光源装置であって、上記制御部は、上記波長変換素子の変換効率が最大となる温度より高温領域において上記ヒータへの給電量を低減させても波長変換素子の温度を制御できなくなる高温ハングアップ状態を抑止する高温ハングアップ抑止手段を備え、上記高温ハングアップ抑止手段は、上記半導体レーザへの給電量の増加した後に上記高温ハングアップ状態が生じたとき、上記半導体レーザへの給電量を、上記半導体レーザへの給電量の増加分に比例した量だけ減少させる。
(5)上記(1)(2)(3)(4)において、波長変換素子として、周期的分極反転型ニオブ酸リチウムを用いる。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)レーザ光量増加(点灯電流増加)に伴い、波長変換素子の基本波光による加熱量が増加し、波長変換素子の変換効率が最大となる温度より高温領域においてヒータへの給電量を低減させても波長変換素子の温度を制御できなくなる高温ハングアップ状態が生じたとき、半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させるようにしたので、高温ハングアップ状態から回復させることができる。このため、レーザ光源装置を制御可能な状態に回復させて、変換効率が高く安定した光量の出射光を得ることができる。
(2)ヒータの給電量が予め定めた下限値あるいは下限値以下の状態が予め定めた時間以上継続したこと、あるいは、波長変換素子の温度が目標温度よりも予め定めた一定温度以上高い状態が予め定めた時間以上継続したことにより高温ハングアップ状態が生じたことを検出するようにしたので、波長変換素子の温度を制御する処理の一部を改良することで、比較的簡単に、また新たなハードウェア等を追加することなく、高温ハングアップ状態が生じたことを検出することが可能となる。
(3)半導体レーザへの給電量の増加したことにより高温ハングアップ状態が生じたとき、上記半導体レーザへの給電量の増加分に比例した量だけ、半導体レーザへの給電量を減少させることにより、レーザへの給電量の増加が小さいときは、出射光の減少量を小さくすることができ、明るさが減少したことを、人の目に気付かせないようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の実施例のレーザ光源装置の構成を示す図である。
図1に示すようにレーザ光源装置は、レーザ光源ユニットLHと、半導体レーザを点灯させるための点灯回路20と制御部21とを有する。
レーザ光源ユニットLHにおいて、熱伝導性の高い材質、例えば銅(Cu)で形成されるベースプレート(ヒートシンク)となる基板1には、レーザ光の漏れを防ぎ、また内部に収納された部材を外気や埃から遮断するとともに断熱する遮断容器(例えばアルミニウム製)3が取り付けられている。
遮断容器3内の上記基板1上には、基本波光として赤外光を放射する半導体レーザ2が設けられている。半導体レーザ2は例えば、1064nmを放射する外部共振器型面発光レーザアレイである。
【0024】
該半導体レーザ2に対向する位置には、上記基本波光の特定の狭帯波長域の光を高い反射率(例えば99.5%)で反射する基本波光反射素子4(例えば、前記VBG)が配置され、上記半導体レーザ2に対し外部共振器を構成する。なお、基本波光反射素子4は、変換光は透過させる。
また、半導体レーザ2と基本波光反射素子4との間には、基本波光の波長の内の一部の光(位相整合した波長の光、位相整合温度は例えば80C°〜100C°)を変換して波長変換光(第二次高調波:SHG)とする波長変換素子(例えば前記PPLN)5が配置される。該波長変換素子5は、上記半導体レーザ2が出力する基本波光である赤外光を可視光または紫外光に変換する。
波長変換素子5には、伝熱板6が熱的に接触して配置され、伝熱板6上には、波長変換素子5を加熱する手段である加熱手段(例えばヒータ)7と、波長変換素子5の温度を検出する温度検出手段Th1(例えばサーミスタ)とが設けられる。
上記半導体レーザ2、波長変換素子5、基本波反射素子4により、外部共振器型垂直面発光レーザを構成しており、ここでは、上記半導体レーザ2、波長変換素子5、基本波反射素子4から構成される部分を光源部12と呼ぶ。
【0025】
上記遮断容器3の基板1に対向する面には、ダイクロイック出力ミラー10が設けられ、前記基本波光反射素子4を透過して出力される波長変換光は、該ダイクロイック出力ミラー10から出射する。
ダイクロイック出力ミラー10は、前記基本波光反射素子4で反射されずに透過した基本波光を透過させずに反射する。ダイクロイック出力ミラー10で反射した基本波光は、ビームダンプ11(例えば黒アルマイト処理アルミプレート)に入射し吸収される。ビームダンプ11は上記遮断容器3と熱的に接触している。
また、半導体レーザ2と上記波長変換素子5との間には、基本波光を透過し、波長変換光を反射させて、横方向に取り出すダイクロイックミラー8が設けられ、該ダイクロイックミラー8により反射された波長変換光は、反射ミラー9で、前記基本波光反射素子4を透過した波長変換光と同じ方向に反射され、上記ダイクロイック出力ミラー10を透過して出射する。
すなわち、本発明が対象とするレーザ光源装置の光源部12は、半導体レーザ2から放射された基本波光を波長変換する波長変換素子5と、該波長変換素子5の出射側に配置され、該波長変換素子5から出射した光の内、基本波光の特定の狭帯波長域の光を高い反射率で反射する上記半導体レーザ2に対し外部共振器を構成する基本波光反射素子4(例えば、VBG)を備えている。
なお、その他、各部材を保持する保持部材等が設けられているが、同図には図示していない。
【0026】
図1において、半導体レーザ2から出射した基本波光は、同図の矢印に示すように、ダイクロイックミラー8を介して波長変換素子5に入射する。
波長変換素子5に入射した光の内の一部の光は波長変換され、この波長変換された光は基本波光反射素子4を透過し、ダイクロイック出力ミラー10を介して出射する。また、波長変換素子5で波長変換されなかった基本波光は、基本波光反射素子4で反射されて波長変換素子5に入射して、波長変換素子5で波長変換される。この波長変換された光はダイクロイックミラー8で反射して、反射ミラー9、ダイクロイック出力ミラー10を介して出射する。
また、波長変換素子5で波長変換されずにダイクロイックミラー8に入射する基本波光は、ダイクロイックミラー8を透過し半導体レーザ2に入射する。
一方、基本波光反射素子4で反射せずに該素子を透過した基本波光、及び、上記ダイクロイックミラー8を透過せずに反射し、反射ミラー9で反射した基本波光は、同図の矢印に示すようにダイクロイック出力ミラー10で反射して、ビームダンプ11に入射して吸収される。
【0027】
上記波長変換素子5としては、周期的分極反転構造を持つニオブ酸リチウム(LiNbO3)、マグネシウムがドープされたニオブ酸リチウム(MgO:LiNbO
3)、タンタルニオブ酸リチウム(LiTaNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、あるいはチタン酸リン酸カリウム(KTiOPO
4)等を用いることができ、一般的には、周期的分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)、周期分極反転Mgドープニオブ酸リチウム(PPMgLN)、周期的分極反転タンタル酸リチウム(PPLT)、周期的分極反転チタン酸リン酸カリウム(PPKTP)と呼ばれる擬似位相整合型波長変換素子を用いることができる。
【0028】
本実施例の光源装置には
図1に示すように、制御部21、点灯回路20が設けられる。
上記点灯回路20は上記半導体レーザ2にパルス状の電力を供給し、半導体レーザ2を点灯させる。上記制御部21は、上記点灯回路20を制御するなど、レーザ光源装置の動作を制御するとともに、波長変換素子5の温度を制御して、波長変換素子5が最適な波長変換効率となる温度になるように制御する。
すなわち、制御部21には温度検出手段Th1により検出された波長変換素子5の温度が入力され、制御部21は、波長変換素子の変換効率が最大となるときの波長変換素子の温度を、波長変換素子の最適設定温度とし、加熱手段(例えばヒータ)7による加熱量を制御して波長変換素子5の温度が上記最適設定温度になるように、波長変換素子5の温度をフィードバック制御する。
【0029】
図2は、本発明の実施例のレーザ光源装置における制御部および点灯回路の構成を示すブロック図である。
点灯回路20は、同図に示すよう、例えば降圧チョッパや昇圧チョッパに代表されるあるいはその他の方式のスイッチング回路などから構成される給電回路U1と、パルス状の電力を供給するパルス回路U2から構成され、半導体レーザ2の状態あるいは点灯シーケンスに応じて、適合する電圧・電流を半導体レーザ2に出力する。
レーザ種によっては、略数百kHzの矩形波状のパルス電圧をレーザに印加する方式がよく知られている。本実施例では、パルス回路U2が給電回路U1の出力段に配置され、所望の周波数にてパルスを生成して、前記半導体レーザ2に出力する。
なお、前記と異なるレーザ種によっては、その限りでなく、パルス回路U2を省き、前記給電回路U1からの出力電圧を直接的に上記半導体レーザ2に相当するレーザ光源に印加してもかまわない。
【0030】
本実施例で示される半導体レーザ2は赤外線を発光するものであり、可視光に変換するために波長を変換する素子である波長変換素子5(例えばPPLN)を有している。
この波長変換素子5は、所定の温度まで上昇させることで、擬似位相整合され光変換の効率を上昇させる特徴を持ち、非常に精度の良い温度制御が必要となる。そのため、レーザ光源ユニットLHにおいても、波長変換素子5とそれを昇温するための加熱手段7(以下、ヒータ7として説明する)を備え、ヒータ7の温度(すなわち波長変換素子5の温度)を検出する素子温度検出手段Th1、例えばサーミスタを配置している。
【0031】
また、制御部21は制御手段21aと温度制御手段21bとドライブ回路U3から構成され、温度制御手段21bの出力により、ヒータ7を駆動するドライブ回路U3が駆動される。
上記給電回路U1は、制御部21によって、半導体レーザ2に印加する電圧や流す電流が、予め設定された値、あるいは外部から設定された値になるように制御される。また、その給電の開始、停止などの制御がなされる。上記制御部21の制御手段21aと温度制御手段21bは、例えば、演算処理装置(CPUあるいはマイクロプロセッサ)で構成される。
また、パルス回路U2は制御部21の温度制御手段21bによって制御される。温度制御手段21bは、高い光出力効率を得るための最適なパルス周波数とデューティサイクル比を決定し、その値に従って、パルス回路U2のスイッチング素子をオン・オフし、半導体レーザ2を駆動するパルス出力を発生する。
【0032】
制御部21の温度制御手段21bは、高温ハングアップ抑止手段21cを備え、高温ハングアップ抑止手段21cは、後述するように、高温ハングアップ状態になったとき、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させ該高温ハングアップ状態を抑止する。これにより、波長変換素子の過昇温の抑制が可能となり、高温ハングアップから回復させることができる。
温度制御手段21bは素子温度検出手段Th1により検出された温度と、波長変換素子の変換効率が最大となる温度である設定温度との差に基づき上記ヒータ7への給電量を制御し、波長変換素子5の温度が上記設定温度になるように制御する。
すなわち、温度制御手段21bは、ドライブ回路U3を駆動してヒータ7への給電量を制御し、素子温度検出手段Th1により検出された波長変換素子5の温度が上記設定温度になるようにフィードバック制御する。
具体的には、温度制御手段21bは、ヒータ7への給電量を制御するための給電量を示す信号をドライブ回路U3へ送出し、ドライブ回路U3がヒータ7を駆動して、波長変換素子5の温度が上記設定温度になるようにフィードバック制御する。
ドライブ回路U3の出力形態は、電圧レベルを出力するものでもよく、PWM方式を用いて給電量を制御するものでも良い。
【0033】
図3は、本発明のレーザ光源装置における点灯回路20で使用することのできる前記給電回路U1の具体化された一構成例を示す図である。
降圧チョッパ回路を基本とした前記給電回路U1は、DC電源M1より電圧の供給を受けて動作し、前記半導体レーザ2への給電量調整を行う。
給電回路U1においては、前記制御部21により、FET等のスイッチング素子Q1を駆動して、前記DC電源M1からの電流をオン・オフし、チョークコイルL1を介して平滑コンデンサC1を充電し、前記半導体レーザ2に電流を供給するように構成されている。なお、前記スイッチング素子Q1がオン状態の期間は、前記スイッチング素子Q1を通じた電流により、直接的に前記平滑コンデンサC1への充電と負荷である前記半導体レーザ2への電流供給が行われるとともに、チョークコイルL1に磁束の形でエネルギを蓄え、前記スイッチング素子Q1がオフ状態の期間には、前記チョークコイルL1に磁束の形で蓄えられたエネルギによってフライホイールダイオードD1を介して前記平滑コンデンサC1への充電と前記半導体レーザ2への電流供給が行われる。
なお、先に
図2に関連して説明した、前記給電回路U1の停止状態とは、前記スイッチング素子Q1がオフ状態で停止している状態を指す。
【0034】
前記降圧チョッパ型の前記給電回路U1においては、前記スイッチング素子Q1の動作周期に対する、前記スイッチング素子Q1がオン状態の期間、すなわちデューティサイクル比により、前記半導体レーザ2への給電量を調整することができる。ここでは、あるデューティサイクルを有するゲート駆動信号が前記制御部21によって生成され、ゲート駆動回路G1を介して、前記スイッチング素子Q1のゲート端子を制御することにより、前記DC電源からの電流のオン・オフが制御される。
前記半導体レーザ2への電流と電圧とは、給電電流検出手段I1と給電電圧検出手段V1とによって、検出できるように構成されている。なお、前記給電電流検出手段I1については、シャント抵抗を用いて、また、前記給電電圧検出手段V1については、分圧抵抗を用いて簡単に実現することができる。
【0035】
前記給電電流検出手段I1からの給電電流検出信号、および、前記給電電圧検出手段V1からの給電電圧検出信号は、前記制御部21に入力され、制御部21は、前記ゲート駆動信号を出力して、スイッチング素子Q1をオン・オフ制御し、目標電流が出力されるようにフィードバック制御する。これにより適切な電力あるいは電流をレーザへ供給することが可能となる。
【0036】
図4は、本発明のレーザ光源装置における点灯回路20で使用することのできるパルス回路U2の簡略化された一構成例を示す図である。
パルス回路U2は、FET等のスイッチング素子Q2を用いた回路により構成されている。
スイッチング素子Q2は、ゲート駆動回路G2を介して制御部21より生成される信号に従って駆動される。スイッチング素子Q2は、オン・オフの動作を高速に繰り返し、オンとなる度に、前記給電回路U1の出力により充電されるコンデンサ群C2から該スイッチング素子Q2を介して、半導体レーザ2に給電が行われる。
【0037】
例えば、略数百kHzの矩形波状のパルス電圧をレーザに印加する方式においては、パルス駆動方式のほうが、単純なDC駆動よりも、半導体素子、例えばレーザダイオード内の接合部温度(ジャンクション温度)を低減することができ、その結果、光出力の効率を上昇させる効果がある。一般的に言って、レーザダイオードをDC駆動すると順方向電圧がパルス駆動に比して低下するため、同程度の電力をレーザダイオードに給電することになると、供給電流を増加させる必要があり、結果として電流増大による損失が増加し、ジャンクションの温度が増加するからである。
いずれにしても、制御部21は、より高い光出力効率を得るための最適なパルス周波数とデューティサイクル比を決定し、その値に従って、半導体レーザ2を駆動することができる。ただし、コスト上の兼ね合いから、多少の光出力効率の悪化を前提としてパルス回路U2を削除して、半導体レーザ2等を直接的にDCで駆動する形態としても構わない。
【0038】
図5は、本発明のレーザ光源装置におけるドライブ回路U3と、前記制御部21の温度制御手段21bと、波長変換素子5等の接続関係を示す簡略化された一構成例を示す図である。
前記レーザ光源ユニットLHは、波長変換素子5を搭載し、光出力を最大とする、即ち光波長変換の効率が最大となる条件が存在する。その条件とは、前記波長変換素子5の温度であり、適切な温度条件を与えることにより高い変換効率を得ることができる。したがって、波長変換素子5の温度を外部から昇温することにより、波長変換素子5を最適な温度に調整する機構が必要となる。そのために、該波長変換素子5近傍にヒータ7を設け、波長変換素子5の温度が最適な温度となるようにヒータ7を制御することが肝要となる。
【0039】
ここでの波長変換素子5の適切な温度条件について補足すると、製造上の要因あるいは波長変換素子5の構成や製造上の理由により、個体ごとにその最適値は異なり、例えば、略80°C〜100°C程度の温度であって、同範囲程度の「ばらつき」が存在する。
制御部21を構成する演算処理装置(CPUあるいはマイクロプロセッサ)は、前述したように波長変換素子5の最適な温度条件になるように、制御を行う必要がある。
波長変換素子5の温度を所望の温度に一定に保つために、間接的にはヒータ7の温度を制御することで、これを実現する。したがって、温度検出手段Th1をヒータ7の近傍の伝熱板6(
図1参照)に配置している。
【0040】
制御部21は前記したように温度制御手段21bを有し、温度制御手段21bは、温度検出手段Th1により波長変換素子5の温度情報を取得する。そして、設定温度と上記温度検出手段Th1により検出された温度とを比較して、ヒータ7への給電量をフィードバック制御する。
ここでのヒータ7への給電方法の形態としては、制御部21の温度制御手段21bからのPWM信号のパルス信号を、ドライブ回路U3のゲート駆動回路G3を介して前記スイッチング素子Q3のゲート端子に送出し、該スイッチング素子Q3をオン・オフ制御する。
その結果、前記ヒータ7には、例えばDC24VのDC電源から所定の周期で、所定のパルス電圧が給電される。このように、制御部21は、ヒータ7の給電量を制御し、その結果、前記波長変換素子5が最適な温度になるよう安定的に制御する。
【0041】
図6は、本発明の実施例のレーザ光源装置の点灯回路における、ドライブ回路U3より前記ヒータ7に給電される電流波形を簡略化したタイミングチャートである。
ヒータ7への給電量をフィードバック制御するために、制御部21の温度制御手段21bは、同図に示すPWM1周期とPWMオン幅を決定して、PWM信号を生成する。
なお、上記PWM信号の代わりに、周波数変調信号等のPWM信号と同様のアナログ量を表す信号を生成するようにしてもよい。
このオン幅の増減によりヒータ7への給電量が調整され、波長変換素子5の温度が制御される。
【0042】
次に、本発明に係る高温ハングアップ抑止手段21cについて説明する。
高温ハングアップ抑止手段21cは、前記したように、波長変換素子の変換効率が最大となる温度より高温領域において上記ヒータへの給電量を低減させても波長変換素子の温度を制御できなくなる高温ハングアップ状態が生じたとき、上記半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させ該高温ハングアップ状態を抑止する。
上記高温ハングアップ状態になったことは、例えば以下のようにして検出して、半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。
(1)温度制御手段による上記ヒータの給電量が予め定めた下限値あるいは下限値以下の状態が予め定めた時間以上継続したとき、高温ハングアップ状態になったとして、半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。
(2)波長変換素子の実測温度が波長変換素子の制御目標温度より高い状態となっている時間幅を検出し、該時間幅が予め設定した一定値より大きくなったとき、高温ハングアップ状態になったとして、半導体レーザへの給電量を予め定められた量だけ減少させる。
【0043】
上記(1)(2)の高温ハングアップ抑止動作は、制御部内に実装された波長変換素子の温度を目標温度に制御するソフトウエア処理の中で実現することができ、制御部21の温度制御手段21bは、以下の処理を実行することにより、上記高温ハングアップになったとき、高温ハングアップ状態から回復させる。
図7は、本発明の実施例の温度制御手段において実行される高温ハングアップ抑止機能を有する温度制御処理のフローチャートであり、同図は上記(1)のように、ヒータの給電量が予め定めた下限値あるいは下限値以下の状態が予め定めた時間以上継続したとき、高温ハングアップ状態になったものとして、高温ハングアップ状態から回復させる場合の処理を示す。
図7の処理は、ヒータの温度(波長変換素子の温度)を検出し、検出した温度と目標温度とを比較して、その偏差に基づきヒータへの出力操作量(給電量)を周期的に演算するものであり、その代表的手法であるPI制御を用いて説明する。
【0044】
図7において、ステップ(B01)でヒータ制御を開始し、まず、ステップ(B02)において波長変換素子5の温度と相関があるヒータ7により加熱される伝熱板6の現在の温度、即ち波長変換素子5の温度実測値(PPLN温度実測値)を温度検出手段Th1により測定し、温度実測値(Tm_PPLN)を得る。
次に、ステップ(B03)にて波長変換素子5の目標温度、即ち、波長変換素子(PPLN)温度と相関があるヒータの目標温度(これは予め制御部21内に設定されている)である温度設定値(Ts_PPLN)を読み込む。
そして、ステップ(B04)にて上記温度設定値(Ts_PPLN)と、温度検出手段Th1より測定された温度実測値(Tm_PPLN)とを比較して、その差分(en)を求める。この差分(en)を用いて、ステップ(B05)において、前記したPI演算を行う。このPI演算において、ヒータ7への給電量、即ち、ヒータ7への操作量を数式(1)より求める。
MV
n=MV
n−1+Kp×e
n+Ki×e
n‐1・・・(1)
ここで、MV
nは今回の操作量、MV
n−1は前周期の操作量、e
nは今回算出した温度の差分値、e
n−1は前周期での温度差分値、Kp、Kiは定数である。
【0045】
PI演算により算出された操作量(MV
n)は制御部21より送出するヒータ7へのPWM信号のオン幅として更新することになるが、ステップ(B06、B07)にて、操作量が最大値(MV上限値)を上回っている場合にはその最大値(MV上限値)を、最小値(MV下限値)を下回っている場合には最小値(MV下限値)を操作量として上下限制限を行う。ステップ(B08、B10)。
また、最小値(MV下限値)を操作量として選択した回数を積算するために、ステップB07で最小値を選択した場合は、ステップ(B08)でCounterに1加算し、最小値を選択しなかった場合ステップ(B09)でCounterを0にリセットする。
そしてステップ(B11)にて、最終的に決定した操作量を、制御部21より送出するPWM信号のオン幅(Duty(n))として更新する。
【0046】
ステップ(B12)では、Counterの数値と予め制御部21内で設定されている数値Mとを比較し、Counterの数値がMより大きかった場合には、ヒーター加熱を最小まで下げても目標温度まで下げられない状態である、高温ハングアップ状態と判定して、ステップ(B13)でレーザへの供給電流を予め制御部21内で設定されている規定値ΔILだけ減ずる。また、Counterの数値がMより大きくない場合には、ステップ(B14)で処理を終了する。
ILを減ずることで波長変換素子へのIR加熱が減少した状態でステップ(B02)からの一連の制御を繰り返すことにより、高温ハングアップ状態から回復させることができ、供給電流も一定値で安定する。
このステップ(B01)からステップ(B14)までの一連の動作を所定の周期で繰り返す。本フローチャートを周期的に実行しフィードバック制御を行うことで、高温ハングアップを回避しながら前記波長変換素子(PPLN)が最適な温度になるよう安定的に制御することができる。
なお、ここで説明している制御アルゴリズムは、比例制御と積分要素からなるPI制御方式を用いているが、前記したように、例えばPID制御のようにDifferential(微分)要素を加えた制御を含め他のフィードバック制御方式を用いても構わない。
【0047】
図8は本発明の実施例の温度制御手段において実行される高温ハングアップ抑止機能を有する温度制御処理のフローチャートであり、同図は上記(2)のように波長変換素子の制御目標温度より高い状態となっている時間幅が予め設定した一定値より大きくなったとき高温ハングアップ状態になったものとして、高温ハングアップ状態から回復させる場合の処理を示す。
図8において、ステップB01〜B11までの処理は
図7と同じであり、ステップ(B01)でヒータ制御を開始し、ステップ(B02)において、温度実測値(PPLN温度実測値)を温度検出手段Th1により測定し、温度実測値(Tm_PPLN)を得る。次に、ステップ(B03)にて温度設定値(Ts_PPLN)を読み込み、ステップ(B04)にて上記温度設定値(Ts_PPLN)と、温度実測値(Tm_PPLN)とを比較して、その差分(en)を求める。
ステップ(B05)において、前記した(1)式によりPI演算を行う。
【0048】
ステップ(B06、B07)にて、PI演算により算出された操作量(MV
n)が最大値(MV上限値)を上回っているか、最小値(MV下限値)を下回っているかを調べ、上回っている場合にはその最大値(MV上限値)を、また、最小値(MV下限値)を下回っている場合には最小値(MV下限値)を操作量として上下限制限を行う。ステップ(B08、B10)。
そしてステップ(B11)にて、最終的に決定した操作量を、制御部21より送出するPWM信号のオン幅(Duty(n))として更新する。
次に、ステップ(B15)で温度設定値(Ts_PPLN)より温度実測値(Tm_PPLN)が大きいかを調べ、温度設定値(Ts_PPLN)より温度実測値(Tm_PPLN)が大きくない場合にはステップ(B09)で、でCounterを0にリセットする。温度設定値(Ts_PPLN)より温度実測値(Tm_PPLN)が大きい場合には、ステップ(B16)にて、Counterに1加算する。
【0049】
ステップ(B12)で、Counterの数値と予め制御部21内で設定されている数値Mとを比較し、Counterの数値がMより大きかった場合には、ヒータ加熱を最小まで下げても目標温度まで下げられない状態である、高温ハングアップ状態と判定して、ステップ(B13)でレーザへの供給電流を予め制御部21内で設定されている規定値ΔILだけ減ずる。また、Counterの数値がMより大きくない場合には、ステップ(B14)で処理を終了する。
ILを減ずることで前記したように波長変換素子(PPLN)へのIR輻射加熱が減少した状態でステップ(B02)からの一連の制御を繰り返すことにより、高温ハングアップ状態から回復させることができ、供給電流も一定値で安定する。
このステップ(B01)からステップ(B14)までの一連の動作を所定の周期で繰り返す。本フローチャートを周期的に実行しフィードバック制御を行うことで、高温ハングアップを回避しながら前記波長変換素子(PPLN)が最適な温度になるよう安定的に制御することができる。
なお、前記したように、比例制御と積分要素からなるPI制御方式に代えて、例えばPID制御を含め他のフィードバック制御方式を用いても構わない。
【0050】
図9は、上記高温ハングアップ状態になったときにレーザ電流を低下させて高温ハングアップ状態から回復させる際の動作を示すタイムチャートである。
同図において(a)は調光トリガ、(b)は半導体レーザ2のレーザ電流、(c)はIR加熱量、(d)はヒータ7への給電量、(e)は波長変換素子(ヒータ)の温度である。
図9において、(1)同図(a)に示すように、調光トリガが入力すると、(2)同図(b)に示すようにレーザ電流がIL1からIL2に増加する(増加量A)。
(3)レーザ電流増加と同時に、同図(c)に示すようにレーザ電流の増加分に相当するIR輻射による加熱量が増加する。
(4)IR輻射による加熱量の増加に伴い同図(e)に示すように、波長変換素子5の温度(ヒータ7の温度)が上昇する。
(5)波長変換素子5の温度(ヒータ7の温度)が上昇し、波長変換効率が最大となる波長変換素子の最適温度を越えることにより、同図(e)に示すようにIR輻射による加熱量は更に増加し、波長変換素子5の温度(ヒータ7の温度)を更に増加させる。
(6)上記(3)〜(5)の動作中、ヒータ7への給電量は温度制御手段21bのフィードバック制御により、同図(d)に示すように順次小さくなるが、温度制御系の応答遅れ等により波長変換素子5の温度(ヒータ7の温度)は上昇を続ける。
【0051】
(7)波長変換素子5の温度(ヒータ7の温度)が同図(e)に示す高温ハングアップ1の温度を超えると、ヒータへの給電を停止しても温度を下げることができなくなり、高温ハングアップ状態となる。そして、波長変換素子5の温度は上がり続け高温ハングアップ2の温度まで上昇する。
(8)上記のように、ヒータへの給電量が下限の状態が所定時間続いたり、波長変換素子の温度が設定値より大きな状態が所定時間以上続くことにより、高温ハングアップ状態になったことが検出されると、同図(b)に示すように、レーザ電流を所定量(ΔIL)低下させる。
(9)これにより、同図(c)に示すようにIR輻射による波長変換素子の加熱量は低下し、同図(e)に示すように、ヒータ温度(波長変換素子の温度)も低下し始める。
(10)波長変換素子の温度が低下し、同図(e)の点線に示す高温ハングアップ1のレベルより低下すると、同図(d)に示すようにヒータへの給電量は0レベルから回復し、また、同図(c)に示すようにIR輻射による波長変換素子の加熱量は低下し、高温ハングアップ状態から回復する。
(11)高温ハングアップ状態から回復すると、復帰処理を行う。すなわち、同図(b)に示すようにレーザ電流を元のレベルであるIL2に増加させる。これにより、同図(d)に示すようにヒータ温度(波長変換素子の温度)は上昇するが、レーザ電流の増加量が調光トリガ時の増加量より小さいので、高温ハングアップ1のレベルを越えることはなく、温度制御手段21bによる温度制御により、ヒータ温度(波長変換素子の温度)は、温度設定値に一致するように制御される。
【0052】
なお、上記復帰処理は、高温ハングアップが検出されてから予め設定した所定時間後に行うようにしてもよいし、また、ヒータへの給電量が所定の値まで回復したり、ヒータの温度(波長変換素子の温度)が温度設定値近傍まで低下したときに行うようにしてもよい。
また、上記実施例では、高温ハングアップ状態から回復させるため、レーザ電流をΔILだけ低下させる例を示したが、レーザ電流値の減じ方は、電流値そのものを低下させるほか、例えば、レーザ電流をオン・オフさせたり、周期的に電流値を低下させたり、レーザ電流の減少量を最初は大きく時間とともに減少させる等して、平均値としてレーザ電流が低下するようにすればよい。要するに、実質的にIR輻射による波長変換素子の加熱量が低下すれば、どのような手段を用いてもよく、出射光が減少したことが人の目に気付かせないような方法を採るのが望ましい。
【0053】
また、上記高温ハングアップ状態が検出されたときに低下させるレーザ電流量を、調光トリガにより半導体レーザの電流量を増加させる際の電流増加量に比例させ、レーザ電流の増加量が大きいときは、レーザ電流の低下量ΔILを大きくし、レーザ電流の増加量が小さいときは、レーザ電流の低下量ΔILを小さくするようにしてもよい。
このようにすることで、レーザ電流の増加量が小さいときは、出射光の減少量を小さくすることができ、明るさが減少したことを、人の目に気付かせないようにすることができる。