(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の多結晶シリコン製造における上記問題を解決したものであり、多結晶シリコン製造プロセスやトリクロロシラン製造プロセス、又は転換プロセスから分離されたポリマーを分解してトリクロロシランに転換する製造装置及びその製造方法を提供する
。
この場合、各工程で分離されるポリマーのうち、特に塩化工程で生じるポリマーには原料として用いた金属シリコンの微粉や金属シリコン中の不純物(Fe、Al、Ti、Ni等)が反応して生成された金属塩化物が含まれているため、これらの不純物による配管閉塞の問題も生じやすい。
本発明は、この塩化工程で分離したポリマーであっても、配管閉塞の問題を生じることなくポリマーの分解効率を高めることをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトリクロロシラン製造方法に用いて好適な装置は、高沸点クロロシラン類を含有するポリマーと塩化水素とを分解炉内に導入し、高温下で反応させることにより前記ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造装置であって、前記分解炉内に、該分解炉の内部空間を加熱する加熱手段と、前記分解炉の内底部を除き内部空間を内側空間と外側空間とに二分する上下方向に沿う中心管体と、該中心管体の内側空間又は外側空間のいずれか一方の空間に前記ポリマー及び前記塩化水素を供給する原料供給管と、他方の空間から反応後のガスを導出する反応ガス導出管とが設けられるとともに、前記原料供給管は、前記ポリマーを供給するポリマー供給管と、前記塩化水素を供給する塩化水素供給管とを備え、前記ポリマー供給管及び前記塩化水素供給管から供給されるポリマー及び塩化水素の合流部が、少なくとも200℃以上の温度領域に形成され
、加熱炉内の空間を螺旋状に仕切るようにフィンが配置される。
【0009】
このトリクロロシラン製造装置にあっては、ポリマーと塩化水素とを反応させることにより、ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するので、ポリマーを加水分解して廃棄処理する負担を大幅に軽減することができ、また回収したトリクロロシランを再利用することによって原料の使用効率を高め、多結晶シリコンの製造コストを低減することができる。
【0010】
ところで、塩化工程で生じたポリマーは、他の反応工程や転換工程の高温下で生じたポリマーと比べて、塩化アルミニウム(AlCl
3)などの金属塩化物やポリマー中に含まれる高沸点成分(四塩化珪素よりも沸点の高いもの)の含有割合が多いことから、室温や温度が比較的低いところでは、閉塞等の影響が発生し易い。例えば、ポリマー中の高粘性を有するポリマー等は、比較的、気化しにくいことから、塩化水素と混合する段階が室温付近では、揮発しやすい成分が優先的に揮発し、不揮発成分となる高粘性のポリマーが金属塩化物の固形分とともに配管等に付着して残存することによる閉塞を誘発し易い。そのため、塩化水素については、200℃以上の温度領域で、ポリマーに接触あるいは混合するように分解炉に導入することが望ましい。200℃以上の温度では、塩化アルミニウム等の昇華及び高粘性のポリマーの蒸発が生じ、室温付近で配管内に残存していた上述の固形分や高粘性のポリマーが揮発するため、閉塞は起きにくくなる。
【0011】
したがって、本発明では、ポリマーと塩化水素とを200℃以上の温度で合流させるようにしたので、塩化アルミニウム等の不純物を多く含む塩化工程からのポリマーであっても、塩化アルミニウムやポリマーの昇華や蒸発等の反応が安定して行われ、配管等への局所的な付着が抑制されるとともに、分解炉内への原料供給が安定して行われるので、分解炉内の温度変動を抑制することができる。
【0012】
また、
上記のトリクロロシラン製造装置において、前記ポリマー供給管及び前記塩化水素供給管から供給されるポリマー及び塩化水素の合流部が、前記分解炉の内部空間に形成されるとともに、前記原料供給管における前記分解炉への接続部は、前記ポリマー供給管又は前記塩化水素供給管のいずれか一方の供給管が他方の供給管の周囲を囲む二重管状に設けられているとよい。
【0013】
分解炉の内部は、例えば、400℃以上の高温状態であり、ポリマーと塩化水素との合流部を分解炉の内部に設けることにより、塩化アルミニウムやポリマーの昇華や蒸発を確実に行わせることができる。また、ポリマーと塩化水素との供給管を二重管状に設けることで、分解炉には、一方の流れを他方が取り囲むように供給され、確実に混合流体とすることができるので、高効率の反応を行わせることができる。
【0014】
さらに、
上記のトリクロロシラン製造装置において、前記ポリマー供給管及び前記塩化水素供給管から供給されるポリマー及び塩化水素の合流部が前記分解炉の外部に形成されるとともに、前記反応ガス導出管が前記原料供給管の合流部の周囲を囲むように形成されているとよい。
【0015】
分解炉から導出される反応後のガスは高温状態となっており、その反応ガス導出管が原料供給管の合流部を囲んでいるので、分解炉の外部にポリマーと塩化水素との合流部を設けた場合にも、導出される反応ガスの熱を利用して、合流部を効率的に加熱することができ、塩化アルミニウムやポリマーの昇華や蒸発を有効に行わせることができる。また、予め、ポリマーと塩化水素とを原料供給配管内で合流させてから予熱した状態で分解炉へ供給するので、分解炉で高効率な反応を行わせることができる。
【0016】
そして、本発明のトリクロロシラン製造方法は、
内底部を除き内部空間を内側空間と外側空間とに二分する上下方向に沿う中心管体と、該中心管体の外側空間を螺旋状に仕切るフィンとが設けられた分解炉を用い、高沸点クロロシラン類を含有するポリマーと塩化水素とを
前記分解炉内に導入し、高温下で反応させることにより前記ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造方法であって、前記分解炉を加熱しておき、
前記中心管体の内側空間に前記ポリマー及び塩化水素を供給するとともに、前記ポリマー及び塩化水素の混合流体を前記フィンに沿って螺旋状に移動しながら加熱して反応させ、反応後のガスを前記外側空間から導出しており、前記内側空間に前記ポリマー及び塩化水素を供給する前、又は前記内側空間内で、前記反応後のガスの熱を利用して前記ポリマー及び塩化水素を少なくとも200℃以上とした高温域で合流させ
て前記混合流体とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリマーを分解してトリクロロシランを製造するので、ポリマーを加水分解して廃棄処理する負担を大幅に軽減することができ、また回収したトリクロロシランを再利用することによって原料の使用効率を高め、多結晶シリコンの製造コストを低減することができる。また、この場合に、ポリマーと塩化水素とを200℃以上の温度で合流させるようにしたので、塩化アルミニウム等の不純物を多く含む塩化工程からのポリマーであっても、塩化アルミニウムやポリマーが配管等に付着することにより引き起こされる配管の閉塞を防止し、分解炉内への原料供給を安定して行うことができ、分解炉でのポリマーの分解効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1〜
図4は、第1実施形態のトリクロロシラン製造装置を示している。このトリクロロシラン製造装置1は、上下方向に沿って配置された筒状の分解炉2と、分解炉2の上方から該分解炉2の中心に沿って内底部まで挿入された中心管体3と、この中心管体3の上端部に接続される原料供給管15と、中心管体3の外側に形成される反応室4の上部から反応ガスを導出する反応ガス導出管7とが備えられた構成とされている。
【0020】
分解炉2は、有底筒状に形成され上部フランジ8aを有する炉本体8と、その炉本体8の上部フランジ8aにボルト9により着脱可能に接合された端板10と、炉本体8の周囲から内部を加熱する加熱手段11とから構成されている。なお、炉本体8の内底面8bは球殻状の凹面とされている。
加熱手段11は、炉本体8の外周面を囲む胴部ヒータ11aと、炉本体8の外底面を覆う底部ヒータ11bとによって構成されている。図中符号12は加熱手段11としてのヒータの外側を覆う枠体を示す。
【0021】
中心管体3は、直管状に形成され、分解炉2の端板10に、これを貫通した状態に分解炉2の中心軸Cに沿って垂直に固定されており、この中心管体3を分解炉2の上方に延長するように、原料供給管15が接続されている。この原料供給管15は、ポリマー供給管5及び塩化水素供給管6を備えており、図示例では、中心管体3との接続部においては塩化水素供給管6が中心管体3と同じ径でポリマー供給管5より大きい筒状に形成され、塩化水素供給管6がポリマー供給管5の周囲を囲む二重管部13が形成されている。また、中心管体3における端板10からの炉本体8内への挿入長さは、炉本体8の深さよりも若干短く設定されており、端板10を炉本体8の上部フランジ8aに固定した際に、下端開口部3aが炉本体8の内底面8bから若干離間して配置されるようになっている。
【0022】
また、この分解炉2内に挿入されている部分の中心管体3の外周面と分解炉2の炉本体8の内周面との筒状空間が反応室4とされており、この反応室4に面している中心管体3の外周面には複数のフィン14が固定されている。このフィン14は、例えば中心管体3の長さ方向に沿う螺旋状に形成され、その外周端が炉本体8の内周面に近接し、これらの間の隙間が小さく設定されていることにより、ほぼ反応室4の内部を螺旋状の空間に仕切るように設けられている。
反応ガス導出管7は、図示例では端板10に3本設けられており、反応室4を上昇しながら反応したガスを分解炉2の外部へ導出するようになっている。この反応ガス導出管7は、高温の反応ガスを冷却するガス冷却手段、反応ガスを吸引するガス吸引手段(いずれも図示略)に接続されている。
【0023】
また、
図3に示すように、端板10から上方に突出しているポリマー供給管5及び塩化水素供給管6の途中位置には、この両供給管5,6の内部に通じる連通口21a,21bが形成されるとともに、端板10にも、反応ガス導出管7とは別に反応室4に通じる連通
口22が形成され、これら連通口21a,21b,22に、加圧ガス注入管23と炉内流体排出管24とが、それぞれ分岐管23a,23b,24a,24bを介して接続されている。加圧ガス注入管23は、不活性ガスや窒素等をいずれかの連通口21a,21b,22から中心管体3又は反応室4内に加圧状態で注入するものであり、中心管体3又は反応室4のいずれかに流路を切り替えるための弁25,26が設けられている。炉内流体排出管24は、加圧ガスの注入によって追い出される酸化シリコンを含む炉内流体を両供給管5,6又は反応室4から排出するためのものであり、両供給管5,6又は反応室4のいずれかに流路を切り替えるための弁27,28が設けられている。そして、炉内流体排出管24は、サイクロン29に接続され、サイクロン29で補集された酸化シリコンは酸化シリコン処理系30で処理される。
【0024】
これら加圧ガス注入管23及び炉内流体排出管24は、分解炉2の運転時には各弁25〜28が閉じられており、後述のようにメンテナンス時等に開放して分解炉内の清掃のために用いられる。なお、連通口22を
図1に示すポリマー供給管5及び塩化水素供給管6の一方とは別個に設けることとしたが、反応ガス導出管7を連通口22として兼用させてもよい。
【0025】
次に、このトリクロロシラン製造装置1を含む多結晶シリコン製造のプロセス例を
図5により説明する。以下では、トリクロロシランをTCS、テトラクロロシラン(四塩化珪素)をSTCと称す。
図示する製造プロセスには、金属シリコン(Me−Si)と塩化水素(HCl)を反応させて粗TCSを製造する流動塩化炉31、流動塩化炉31で生成した粗TCSを含む生成ガスを蒸留する蒸留塔32、精製された高純度のTCSを後工程から回収したSTC、TCSと共に蒸発させる蒸発器33、この蒸発器33から供給されるガスと水素(H
2)とを混合した原料ガスによって多結晶シリコンを製造する反応炉34、反応炉34の排ガスからクロロシラン類を分離する凝縮器35が設けられている。
【0026】
凝縮器35で液化分離したクロロシラン類は複数の蒸留塔からなる蒸留系36に導入され、段階的に蒸留され、TCS,STC,ポリマーに分離される。回収されたTCSおよびSTCは蒸発器33に戻され、原料ガスとして再利用される。また、凝縮器35から抜き出されたガスには水素および塩化水素などが含まれており、水素回収系37に導入され、水素が分離される。分離した水素は蒸発器33から出た原料ガスとともに反応炉34に戻されて再利用される。
また、蒸留系36からのSTCの一部は転換炉38により水素(H
2)と反応してTCSに転換され、その反応ガスから水素回収設備39により水素を分離した後、TCS、STCを含む反応ガスが蒸留系36に戻される。
なお、蒸発器33にSTCも添加して、多結晶シリコン製造の原料ガスとすることとしたが、STCを添加しないで原料ガスとする場合もある。
【0027】
この一連の製造プロセスにおいて、TCSを生成する塩化工程後の蒸留塔32、及び多結晶シリコンを製造する反応工程やSTCをTCSに転換する転換工程後の蒸留系36の各蒸留塔の塔底から分離される蒸留残にそれぞれポリマーなどが含まれている。これらポリマーがトリクロロシラン製造装置1によって分解されてTCSとして転換される。得られたTCSは、例えば、流動塩化炉31に供給され、多結晶シリコン製造原料として再利用される。
【0028】
次に、このトリクロロシラン製造装置1によってポリマーを分解してTCSを製造する方法について説明する。
塩化工程後の蒸留塔32または反応工程や転換工程後の蒸留系36で分離されるポリマーには高沸点クロロシラン類が概ね20〜40質量%程度含まれている。具体的には、例えば、上記ポリマーにはTCS:約1〜3質量%、STC:約50〜70質量%、Si
2H
2Cl
4:約12〜20質量%、Si
2Cl
6:約13〜22質量%、その他の高沸点クロロシラン類:約3〜6質量%が含まれている。
【0029】
そのポリマーは塩化水素とともにトリクロロシラン製造装置1の分解炉2に導入される。ポリマーと塩化水素の量比はポリマーに対して塩化水素10〜30質量%が好ましい。塩化水素の量が上記量比よりも多いと未反応の塩化水素が増えるので好ましくない。一方、ポリマーの量が上記量比よりも多いと粉末状のシリコンが大量に発生し、設備のメンテナンスの負担が増大し、操業効率が大幅に低下する。
ポリマーは450℃以上の高温下で塩化水素と反応して TCSに転換される。分解炉2内の温度、具体的には反応室4の温度は450℃〜700℃が好ましい。炉内温度が450℃より低いと、ポリマーの分解が十分に進まない。また、炉内温度が700℃を上回ると、生成したTCSが塩化水素と反応してSTCが生じる反応が進み、TCSの回収効率が低下する傾向があるので好ましくない。
【0030】
なお、ポリマー(高沸点クロロシラン類含有物)としては、前述したようにSTCより沸点の高い高沸点クロロシラン類、例えばテトラクロロジシラン(Si
2H
2Cl
4)や六塩化二珪素(Si
2Cl
6)などが含まれ、これにTCS、STC等が含有されている。この高沸点クロロシラン類からTCSへの分解反応には、以下の式で示される反応が含まれる。
(1)テトラクロロジシラン(Si
2H
2Cl
4)の分解反応
Si
2H
2Cl
4+HCl→SiH
2Cl
2+SiHCl
3
Si
2H
2Cl
4+2HCl→2SiHCl
3+H
2
(2)六塩化二珪素(Si
2Cl
6)の分解反応
Si
2Cl
6+HCl→SiHCl
3+SiCl
4
なお、この反応時に、塩化水素ガス中の水分(H
2O)がTCS、STCと反応すると酸化シリコンが析出される。
SiHCl
3+2H
2O→SiO
2+H
2+3HCl
SiCl
4+2H
2O→SiO
2+4HCl
【0031】
分解炉2内を加熱手段11によって加熱した状態として、ポリマー及び塩化水素をポリマー供給管5及び塩化水素供給管6からそれぞれ中心管体3に供給すると、これらポリマー及び塩化水素は、中心管体3内で混合流体となって下端開口部3aから反応室4内に供給される。この場合、中心管体3の上部で、二重管部13の内側から供給されるポリマーの流れを、外側から供給される塩化水素が取り囲むように合流混合されるので、確実に混合流体とすることができる。また、中心管体3は、筒状の炉本体8内をその長さ方向に沿って配置されているとともに、外周面と一体のフィン14が炉本体8の内周面に近接しているため、炉本体8の外側の加熱手段11からの熱が中心管体3の周囲の反応室4及びフィン14を経由して伝わり、その熱で内部の混合流体が加熱される。炉本体8内の温度は200℃以上の温度、例えば、400℃以上となっており、このため、塩化アルミニウム等の昇華及び高粘性のポリマーの蒸発等が生じ、室温付近で配管内に残存していた固形分や高粘性のポリマーが揮発するため、閉塞は起きにくくなる。
そして、この中心管体3内で混合流体中のSTC等の大部分が蒸発し、そのガスも含めた混合流体が中心管体3の下端開口部3aから反応室4内に導入される。
【0032】
そして、反応室4内に導入された混合流体は、上昇流となって反応室4内を下方から上方に流れるが、この反応室4内には、中心管体3からフィン14が突出して配置されているため、このフィン14の裏面に案内されながら上昇する。このフィン14は螺旋状に形成され、反応室4内の空間を螺旋状に仕切るように配置しているため、混合流体は、フィン14に沿う螺旋流となって攪拌しながら上昇し、その間に炉本体8の内周面、フィン1
4の表面などから熱を受けて加熱され、反応が促進され、TCSとなって反応ガス導出管7から外部に導出される。
この反応ガス導出管7から導出されるTCSを含む反応ガスは、塩化水素が残っているので、その塩化水素を塩化反応に利用するため、そのまま多結晶シリコン製造工程の流動塩化炉31に導入されるか(
図5参照)、又は、図示はしないが、凝縮されて、その凝縮液が塩化工程後の蒸留塔32に導入されることにより、多結晶シリコン製造工程で再利用される。
【0033】
本実施のトリクロロシラン製造装置1においては、ポリマーと塩化水素との合流部は、分解炉2の内部空間に配置された中心管体3の上部に設けられている。前述したように、分解炉2の内部は400℃以上の高温状態であり、このように、分解炉2内でポリマーと塩化水素とを接触あるいは混合することで、昇華や蒸発等の反応が安定して行われ、塩化アルミニウム等の金属塩化物やポリマーが配管等に付着することにより引き起こされる配管の閉塞を防ぐことができるとともに、分解炉2内への原料供給が安定して行われるため、分解炉2内の温度変動を抑制することができ、ポリマーの分解効率を高めることができる。
また、中心管体3の上端部には、塩化水素供給管6がポリマー供給管5の周囲を囲む二重管部13が接続されているので、中心管体3にポリマーの流れを塩化水素が取り囲むように供給され、確実に混合流体とすることができる。
【0034】
上述の実施形態においては、二重管部13として、塩化水素供給管6がポリマー供給管5の周囲を囲む構成としたが、ポリマー供給管5が塩化水素供給管6の周囲を囲む構成としてもよい。しかし、反応に要するポリマー供給量及び塩化水素供給量は、ポリマー供給量の方が少量であるので、内側の供給管をポリマー供給管とすると、少量のポリマーを取り囲みながら塩化水素が供給されるので混合しやすく、第1実施形態のように、塩化水素供給管6がポリマー供給管5の周囲を囲む構成とした方が、より効率的である。
【0035】
また、このトリクロロシラン製造装置1では、ポリマーと塩化水素とを直管状の中心管体3によって分解炉2の内底部まで案内し、この内底部から中心管体3の周りの反応室4内に導入しており、この反応室4においては、
図1の破線矢印で示すように、ポリマーと塩化水素との混合流体がフィン14に接触しながら上部まで中心管体3の周りを螺旋状に移動しながら上昇し、その間に加熱手段11により炉本体8の内周面及びフィン14の表面から熱を受けて加熱される。また、この反応室4は、フィン14によって螺旋状に形成されることから、上下方向の長さに比べて螺旋方向に長い流路となり、したがって反応室4における温度分布もより均一になり、高効率な分解反応を行わせることができる。
【0036】
また、中心管体3が直管状に形成され、ポリマーと塩化水素とを分解炉2の内底部まで速やかに案内するので、これらポリマーと塩化水素とが中心管体3内で反応することが抑えられ、反応に伴って生成される酸化シリコンも中心管体3の内面に付着することは少なくなり、中心管体3内が酸化シリコンによって閉塞状態となる現象を抑制することができる。
【0037】
また、このようにしてTCSを製造することにより、炉本体8の内底部に
図3の鎖線で示すように酸化シリコンSが堆積した場合には、分解炉2の運転を停止し、加圧ガス注入管23から不活性ガス等の加圧ガスを注入すると、その加圧ガスの圧力によって内底部の酸化シリコンSの堆積物が崩壊して、粉砕されながら舞い上げられ、炉内流体排出管24から炉内流体とともに酸化シリコンSを外部に排出することができる。
この酸化シリコンの排出方法について
図4により説明すると、
図4(a)に示すように各弁25〜28の開閉を操作する。まず、弁26,28を開いて、他の弁25,27を閉じることにより、加圧ガス注入管23を中心管体3の連通口21に連通させた状態とする
とともに、反応室4の連通口22に炉内流体排出管24を連通させた状態とする(図中、黒塗りの弁が閉鎖状態、白抜きの弁が開放状態であることを示す)。そして、
図4(a)の破線矢印で示すように、加圧ガスを分岐管23bを経由して中心管体3から分解炉2内に注入し、内底部の酸化シリコンSを崩壊し、粉砕しながら舞い上げ、反応室4から炉内流体排出管24を経由してサイクロン29に排出する。所定時間後、
図4(b)に示すように弁25〜28の開閉を切り替えて、
図4(a)の場合とは逆に反応室4から圧力ガスを注入して中心管体3から排出する。これを交互に繰り返すことにより、分解炉2の内部を清掃する。この場合、
図4(a)に示す状態と、
図4(b)に示す状態とを切り替えずに、そのいずれか一方の状態だけで清掃するようにしてもよい。
排出された酸化シリコンSはサイクロン29によって捕集され、酸化シリコン処理系30に送られる。なお、中心管体3の下端開口部3a内に若干の酸化シリコンSが付着していたとしても、上記の操作により除去することができるが、中心管体3が直管状であるので、例えば、上方から棒状のものを挿入するなどにより、酸化シリコンSを脱落させることも容易である。
【0038】
図6および
図7は、本発明の第2実施形態のトリクロロシラン製造装置を示している。
第1実施形態のトリクロロシラン製造装置1は、ポリマー供給管5及び塩化水素供給管6と、これら両供給管5,6の二重管部13とからなる原料供給管15を中心管体3の上端部に接続して、ポリマーと塩化水素とを中心管体3の内部で合流するように構成し、反応ガス導出管7を原料供給管15から離して設けた構成とされていたが、この第2実施形態のトリクロロシラン製造装置41では、ポリマー供給管5及び塩化水素供給管6と分解炉2との間に、ポリマー供給管5と塩化水素供給管6とにより別々に供給されるポリマーと塩化水素とを合流する合流管16が備えられており、これらポリマー供給管5及び塩化水素供給管6と合流管16とにより原料供給管17が構成され、反応ガス導出管7は、その合流管16の周囲を囲むように形成されている。その他の構成は第1実施形態のものと同じであり、共通部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0039】
このように構成したトリクロロシラン製造装置41においては、ポリマー及び塩化水素が分解炉2の外部に設けられた合流管16で合流されるが、その合流管16が、反応後の高温状態(例えば、400℃)のガスが導出される反応ガス導出管7で囲まれているので、この導出される反応ガスの熱を利用して、合流管16を効率的に加熱することができ、塩化アルミニウム等の金属塩化物やポリマーの昇華や蒸発を合流管16内で生じさせることができる。また、予め、ポリマーと塩化水素とを原料供給配管17内で合流させてから予熱した状態で分解炉2へ供給するので、反応室4内での温度分布が均一になり、分解炉2で高効率な反応を行わせることができる。
【0040】
図8および
図9は、本発明の第3実施形態のトリクロロシラン製造装置を示している。
第1実施形態のトリクロロシラン製造装置1は、中心管体3の内側空間に連通するようにポリマー供給管5及び塩化水素供給管6と、これら両供給管5,6の二重管部13からなる原料供給管15が設けられ、中心管体3の外側空間に連通するように反応ガス導出管7が設けられる構成とされていたが、この第3実施形態のトリクロロシラン製造装置51は、逆に、中心管体3の外側にポリマー供給管5及び塩化水素供給管6と、これらの二重管部13とからなる原料供給管15が設けられ、中心管体3の内側空間に連通するように反応ガス導出管7が設けられている。その他の構成は第1実施形態のものと同じであり、共通部分に同一符号を付して、第1実施形態と異なる部分のみの説明を行う。
【0041】
このトリクロロシラン製造装置51は、ポリマーと塩化水素とを原料供給管15から高温状態の分解炉2内に供給し、フィン14の上面に流下させ、このフィン14の表面で合流混合しながら昇華および蒸発させるとともに、
図8の破線矢印で示すようにフィン14に沿って螺旋状に案内する。これらの混合流体は、このフィン14に沿って移動する間に
加熱手段11により炉本体8の内周面及びフィン14の表面から熱を受けて加熱され、分解および反応が促進され、TCSとなってガス導出管7から外部に導出される。この反応室4は、フィン14によって螺旋状に形成されることから、上下方向の長さに比べて螺旋方向に長い流路となり、反応室4内における温度分布もより均一になり、高効率な分解および反応を行わせることができる。
【0042】
図10および
図11は、本発明の第4実施形態のトリクロロシラン製造装置を示している。第3実施形態のトリクロロシラン製造装置51は、原料供給管15を構成する塩化水素供給管6とポリマー供給管5とが分解炉2との接続部では二重管状に設けられていたが、この第4の実施形態のトリクロロシラン製造装置61では、原料供給管18は、端板10に複数のポリマー供給管5及び塩化水素供給管6が別々に取り付けられる構成とされている。図示例では、ポリマー供給管5と塩化水素供給管6とが、円周上に交互に配列されている。その他の構成は第3実施形態のものと同じであり、共通部分に同一符号を付して説明を省略する。
このように構成したトリクロロシラン製造装置61においては、ポリマーと塩化水素とが別々に分解炉2に供給されるが、中心管体3の外側の反応室4を流下する間に合流混合される。その合流部においては、高温に加熱された分解炉2内でポリマーと塩化水素とが接触あるいは混合されるので、塩化アルミニウムやポリマーの昇華や蒸発を確実に行わせることができる。
【0043】
図12は、本発明の第5実施形態のトリクロロシラン製造装置を示している。このトリクロロシラン製造装置71は、第2実施形態と同様に、原料供給管17がポリマー供給管5及び塩化水素供給管6と合流管16とから構成され、その合流管16が中心管体3に接続されており、その合流管16及び中心管体3の内部に、芯棒72の回りに第2のフィン74を固定してなる攪拌部材75が設けられた構成とされている。この場合、第2実施形態と同様の反応ガス導出管7が形成されており、攪拌部材75は、
図12に示すように合流管16の上端部から炉本体8の内底面8b付近にまで達する長さに形成されており、先端部が中心管体3の下端開口部3aから突出した状態とされている。
この場合、攪拌部材75は、上端が合流管16の壁に支持されており、この上端の支持を解除することにより、上下動あるいは回転させることが可能となっている。その他の構成は第2実施形態のものと同じであり、共通部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
このトリクロロシラン製造装置71においては、ポリマー供給管5と塩化水素供給管6とにより供給された原料が、合流管16の内部で混合されて中心管体3から反応室4内に導入されるのであるが、合流管16及び中心管体3の内部に設けた攪拌部材75により効果的に混合されるとともに、反応ガス導出管7で囲まれた合流管16内で予熱された状態で分解炉2へ供給されるので、中心管体3の下端開口部3aから導入された後の反応室4内での分解および反応効率をより高めることができる。
また、攪拌部材75は上下動あるいは回転させることができるので、メンテナンス時に、攪拌部材75を上下動あるいは回転させることにより、中心管体3の下端開口部3a付近に酸化シリコンが付着している場合にはこれを強制的に取り除くことができるとともに、炉本体8の内底部に堆積した酸化シリコンを崩壊させることができる。したがって、第1実施形態のトリクロロシラン製造装置において説明した加圧ガス注入管23から加圧ガスの注入による酸化シリコンの外部への排出を効率的に行うことができる。
なお、攪拌部材75は、合流管16又は中心管体3のいずれか一方だけに設けるようにしてもよい。
【0045】
図13及び
図14は、本発明のトリクロロシラン製造装置におけるフィンの変形例を示している。このフィン81は、いわゆるスタティックミキサの構造をなしている。すなわち、このフィン81は、方形の板部材を180°ずつ逆方向に捻ってなる複数のエレメン
ト82が90°ずつ位相をずらした状態で長手方向に交互に設けられた構成とされている。そして、このスタティックミキサ構造のフィン81は、流体が一つのエレメント82を通過するごとに二つに分割される分割作用と、エレメント82の捻れ面に沿って中央部から外側へ、あるいは外側から中央部へと流体が移動させられる混合(又は転換)作用と、一つのエレメント82ごとに回転方向が反転して攪拌される反転作用との複合作用によって流体が攪拌混合されるものである。
このスタティックミキサ構造のフィン81を中心管体3の外周面に設けることにより、反応室4内での攪拌混合を効果的に行うことができ、反応効率をより高めることができる。
なお、このスタティックミキサ構造のフィン81の場合、エレメント82が90°ずらした位置に配置されるので、最低2枚のエレメントが必要であるが、分解炉の容量に応じて5〜20枚のエレメントを設けるとよい。
【0046】
また、上記各実施形態のトリクロロシラン製造装置において、
図15に示すように、炉本体8の内底部にステンレス鋼等からなる球状の転動部材85を複数設けておく構成としてもよい。この
図15では第5実施形態の攪拌部材75を設けた例で示したが、この場合は、攪拌部材75を上下動あるいは回転させることにより、転動部材85を炉本体8の内底面8b上で転動させることができ、その転動によって酸化シリコンSを確実に崩壊することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例におけるTCSの製造には、
図1〜
図4に示すトリクロロシラン製造装置1を用いた。ポリマーとしては、高沸点クロロシラン類が約40質量%含まれるものを使用し、ポリマーと塩化水素との合流部の温度や、ポリマーに対する塩化水素の割合は、表1に示すものとした。装置稼動中のポリマー及び塩化水素の供給量は一定とした。
表1において、「合流部の温度」とは、ポリマーと塩化水素との合流部である中心管体3の上部の温度を示し、「ポリマーに対する塩化水素の割合」とは、分解炉2内の反応室4へ導入するポリマーと、塩化水素との比率(HCl/ポリマー)を示す。また、「流量低下の有無」には、150時間まで反応を継続させて導入する塩化水素の流量、または、ポリマーの流量の低下がみられた場合を「有」、流量の低下がみられなかった場合を「無」とした。流量の低下がみられた場合には装置を停止して、開始から塩化水素または、ポリマーの流量の低下の現象がみられるまでの時間を、「反応時間」に示した。また、流量の低下がみられなかった場合は、「反応時間」を「−」で示した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなように、ポリマーと塩化水素を200℃以上で合流させた場合には、塩化水素または、ポリマーの流量の低下はみられなかった。
これに対して、合流部の温度が200℃よりも低い温度の場合は、30時間以上経過すると、塩化水素または、ポリマーの流量低下がみられた。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態ではフィン14を中心管体3の外周面に固定状態に設けたが、中心管体3との間には隙間をあけ、炉本体8の内周面に固定してもよい。
また、加圧ガス注入管23からの注入ガスが炉本体8の内底面8bまで達し易くするために、その注入方向に存在するフィン14に注入方向に沿って孔を設けるようにしてもよい。
【0051】
また、
図6及び
図12の第2、第5実施形態において、合流管16の外側に伝熱用のフィンを設けてもよい。
また、上述した第5実施形態において設けた攪拌部材75を、
図1,
図8及び
図10に示す第1,第3及び第4実施形態の中心管体3に設けてもよい。
また、上記実施形態では、酸化シリコン排出のための炉内流体排出管24を端板10に設けられた連通口22に接続して設けたが、炉本体8の底部に接続して設けてもよい。
また、上記実施形態では、フィンを構成する複数のエレメントを連続的に配置したが、断続的に配置したものでもよく、また、直線状、管状のものも含む。例えば、フラットな板状のものを分解炉の長さ方向に間隔を開けて複数配置してもよく、その場合、一部が上下に重なるようにして所定角度ずつずらして配置するとよい。