特許第5754539号(P5754539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5754539LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法
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  • 特許5754539-LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754539
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20150709BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
   C01G53/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-202797(P2014-202797)
(22)【出願日】2014年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-99914(P2015-99914A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-214458(P2013-214458)
(32)【優先日】2013年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】藤井 順
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−110177(JP,A)
【文献】 特開2009−010367(JP,A)
【文献】 特許第3079262(JP,B2)
【文献】 国際公開第2009/157189(WO,A1)
【文献】 特開2009−215109(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/074115(WO,A1)
【文献】 特開2010−013325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤とを含み、
前記LaNiO3前駆体と前記有機溶媒と前記安定化剤の合計100質量%に対する前記LaNiO3前駆体の混合割合が酸化物換算で1〜20質量%であり、前記安定化剤の混合割合が前記LaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0モルを超え10モル以下であり、残部が前記有機溶媒により占められ、
前記LaNiO3前駆体がLa源の硝酸ランタン・6水和物とNi源の酢酸ニッケル・4水和物とからなり、
前記有機溶媒のHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHが、それぞれ14<dD<20、3<dP<26、及び3<dH<30の関係を満たす
ことを特徴とするLaNiO3薄膜形成用組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒が、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、エタノール、酢酸、ヘキサメチレンテトラミン、酢酸イソアミル、グリセロール1,2−カルボナート、炭酸ジエチル及び乳酸からなる群より選ばれた1種の単一溶媒又は2種以上の混合溶媒である請求項1記載のLaNiO3薄膜形成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のLaNiO3薄膜形成用組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のLaNiO3薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を有する基板を大気圧の酸化雰囲気又は含水蒸気雰囲気中で仮焼した後、或いは所望の厚さになるまで前記塗膜の形成から仮焼までを2回以上繰り返した後、結晶化温度以上の温度で焼成することにより(100)面に優先配向するLaNiO3薄膜を形成する工程と
を含むLaNiO3薄膜の形成方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の方法により形成されたLaNiO3薄膜を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜キャパシタ、強誘電体メモリ(Ferroelectric Random Access Memory、FeRAM)用コンデンサ、圧電素子又は焦電型赤外線検出素子等の電極に用いられるLaNiO3薄膜を化学溶液法(Chemical Solution Deposition、CSD法)により形成するための組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法に関する。更に詳しくは、ピンホールの発生が極めて少なく、均一な成膜が可能なLaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、LaNiO3薄膜は、スパッタ法等の真空蒸着法にて形成される他、LaNiO3前駆体を溶媒に溶解させたゾルゲル液(組成物)を塗布して塗膜を形成し、これを所定の温度で焼成して結晶化させるゾルゲル法等の化学溶液堆積(CSD:Chemical Solution Deposition)により形成される(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載された透明導電性薄膜の製造方法では、先ずランタン塩とニッケル塩と水溶性有機バインダーを溶解させた水溶液からなる塗布液を調製した後、基材上に上記塗布液を塗布する。次に酸素雰囲気中において500〜800℃の温度で焼成する。これにより、20〜800℃の温度における体積抵抗率が2×10-5Ω・m以下、又は表面抵抗が300Ω/□以下になるように調整された膜厚のLaNiO3の組成を有するペロブスカイト型構造の金属酸化物からなる薄膜が得られる。このように構成された透明導電性薄膜の製造方法では、ペロブスカイト型構造を有するLaNiO3からなる透明導電性薄膜を効率良く製造できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3079262号(請求項3、段落[0011])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ゾルゲル法等のCSD法によるLaNiO3薄膜の形成方法は、未だ十分に確立されているとは言えず、例えば組成物中に含まれる溶媒の種類や焼成温度等の成膜条件の違いにより、様々な不具合を生じさせる場合がある。上記従来の特許文献1に示された透明導電性薄膜の製造方法では、焼成後の薄膜にボイドが多数発生し、均一に成膜できないという不具合が生じる場合がある。これは、使用される組成物中に、表面張力が大きい水溶性成分が溶媒として含まれているため、成膜直後の塗膜に多数のピンホールが発生することが主な原因と考えられる。ボイドの発生により、膜厚が不均一になると膜の抵抗率が増大する等の問題が発生する。このような事情に鑑み、本発明者らは、ゾルゲル法によりLaNiO3薄膜を形成するに際し、特に組成物に含まれる材料の選択等の観点から改良を試み、その結果、成膜直後の塗膜に発生するピンホールを低減し、これにより焼成後の薄膜に発生するボイドを大幅に抑制し、均一な成膜を行うことができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0005】
本発明の目的は、ピンホールの発生が極めて少なく、均一に成膜できる、LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法を提供することにある。本発明の別の目的は、LaNiO3前駆体の析出(沈殿)の発生を抑制でき、保存安定性を向上できる、LaNiO3薄膜形成用組成物を提供することにある。本発明の更に別の目的は、焼成後のLaNiO3薄膜にクラックが発生するのを抑制できる、LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、LaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤とを含み、LaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤の合計100質量%に対するLaNiO3前駆体の混合割合が酸化物換算で1〜20質量%であり、安定化剤の混合割合がLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0モルを超え10モル以下であり、残部が有機溶媒により占められ、LaNiO3前駆体がLa源の硝酸ランタン・6水和物とNi源の酢酸ニッケル・4水和物とからなり、有機溶媒のHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHが、それぞれ14<dD<20、3<dP<26、及び3<dH<30の関係を満たすLaNiO3薄膜形成用組成物である。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点のいずれかに基づく発明であって、更に有機溶媒が、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、エタノール、酢酸、ヘキサメチレンテトラミン、酢酸イソアミル、グリセロール1,2−カルボナート、炭酸ジエチル及び乳酸からなる群より選ばれた1種の単一溶媒又は2種以上の混合溶媒であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のいずれかに記載のLaNiO3薄膜形成用組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法である。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1又は第2の観点のいずれかに記載のLaNiO3薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布して塗膜を形成する工程と、この塗膜を有する基板を大気圧の酸化雰囲気又は含水蒸気雰囲気中で仮焼した後、或いは所望の厚さになるまで塗膜の形成から仮焼までを2回以上繰り返した後、結晶化温度以上の温度で焼成することにより基板上に(100)面に優先配向するLaNiO3薄膜を形成する工程とを含むLaNiO3薄膜の形成方法である。
【0013】
本発明の第5の観点は、第3又は第4の観点に記載の方法により形成されたLaNiO3薄膜を有する電子部品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物は、従来のように溶媒として水溶性成分を使用せず、LaNiO3前駆体と有機溶媒とを含み、この有機溶媒のHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHがそれぞれ上記関係を満たすことにより、成膜直後の塗膜に発生するピンホールを極めて少なくすることができる。また、組成物に安定化剤を上記の割合で含ませることにより、保存安定性を向上させることができる。更にLaNiO3前駆体を所定の割合で含むことにより、焼成後のLaNiO3薄膜にクラックが発生するのを抑制でき、LaNiO3前駆体の析出(沈殿)が発生するのを抑制できる。
【0016】
また、LaNiO3前駆体のLa源として、硝酸塩である硝酸ランタン・6水和物を使用し、LaNiO3前駆体のNi源として、酢酸塩である酢酸ニッケル・4水和物を使用することにより、比較的高濃度の組成物を調製した場合でも保存安定性をより向上させることができる。
【0017】
本発明の第2の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物では、有機溶媒がエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、エタノール、酢酸、ヘキサメチレンテトラミン、酢酸イソアミル、グリセロール1,2−カルボナート、炭酸ジエチル及び乳酸からなる群より選ばれた1種の単一溶媒又は2種以上の混合溶媒であるので、塗膜性を向上させることができる。
【0018】
本発明の第3の観点のLaNiO3薄膜の形成方法では、上記LaNiO3薄膜形成用組成物を用いてLaNiO3薄膜を形成することにより、成膜直後の塗膜に発生するピンホールが極めて少ないので、このピンホールに起因するボイドが焼成後に殆ど発生しない均一な膜厚のLaNiO3薄膜を形成することができる。
【0019】
本発明の第4の観点のLaNiO3薄膜の形成方法では、LaNiO3薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布して塗膜を形成することにより、成膜直後の塗膜に発生するピンホールが極めて少なくなり、その後、上記塗膜を有する基板を大気圧の酸化雰囲気又は含水蒸気雰囲気中で仮焼した後、或いは所望の厚さになるまで塗膜の形成から仮焼までを2回以上繰り返した後、結晶化温度以上の温度で焼成するので、上記ピンホールに起因するボイドが焼成後に殆ど発生せずかつ(100)面に優先配向する均一な膜厚のLaNiO3薄膜を形成することができる。
【0020】
本発明の第5の観点のLaNiO3薄膜を有する電子部品では、例えば強誘電体メモリや圧電素子等を製造する際に、上記方法で形成されボイドが殆ど発生しない均一な薄膜を強誘電体メモリのキャパシタ電極や圧電体電極に使用することで、疲労特性に優れたデバイスが得られる。また、本発明の形成方法で得られる膜は透光性を有するため、焦電型赤外線検出素子の電極膜にも利用できる。更に、LaNiO3薄膜は(100)面に自己配向性を有するため、特に薄膜キャパシタや圧電素子等を製造する際に、誘電体層の結晶配向性を制御するための結晶配向性制御層として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1で形成したLaNiO3薄膜のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
本発明の組成物は、LaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤とを含む。またLaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤の合計100質量%に対するLaNiO3前駆体の混合割合は、酸化物換算で1〜20質量%、好ましくは3〜15質量%である。また安定化剤の混合割合は、LaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0モルを超え10モル以下であり、2〜8モルであることが好ましい。更に有機溶媒のHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHは、それぞれ次の関係を満たす。分散成分dDは、14<dD<20、好ましくは15<dD<17の関係を満たし、分極成分dPは、3<dP<26、好ましくは5<dP<9の関係を満たし、水素結合成分dHは、3<dH<30、好ましくは13<dH<22の関係を満たす。なお、有機溶媒のHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHは、蒸発熱、分子体積、屈折率及びダイポールモーメントの値より計算できる。具体的には、蒸発熱からdTotを計算でき、ダイポールモーメントと分子体積の値からdPを計算でき、屈折率からdDが計算できるので、残りのdHも上記dTot、dP及びdDから計算できる。ここで、dTotとはdD、dP及びdHの和である。
【0024】
上記LaNiO3前駆体は、形成後のLaNiO3薄膜において複合金属酸化物(LaNiO3)を構成するための原料であり、La又はNiの各金属元素の金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体又は金属アミノ錯体が挙げられるけれども、本発明では、溶媒への溶解度の高さや保存安定性等の面から、LaNiO3前駆体は、硝酸ランタン・6水和物(La源)と酢酸ニッケル・4水和物(Ni源)とからなる。なお、LaNiO3前駆体は、予め加熱等の手段により脱水処理されること、又は前駆体の合成中に蒸留等の手段により脱水処理されることが、塗膜に発生するピンホールを抑制する観点から好ましく、La源やNi源が水和物であるので、脱水処理は必須である。
【0025】
LaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤の合計100質量%に対するLaNiO3前駆体(La源とNi源の合計)の混合割合を酸化物換算で1〜20質量%の範囲内に限定したのは、LaNiO3前駆体の割合が1質量%未満では、塗布膜の膜厚が薄くなりすぎるため、焼成後のLaNiO3薄膜にクラックが発生する不具合が生じ、20質量%を越えるとLaNiO3前駆体の析出(沈殿)を生じる等の保存安定性が悪化するからである。なお、酸化物換算での割合とは、組成物に含まれる金属元素が全て酸化物になったと仮定した時に、LaNiO3前駆体と有機溶媒と安定化剤の合計100質量%に占める金属酸化物の割合のことをいう。また、La源となるLaNiO3前駆体又はNi源となるLaNiO3前駆体の混合比は、La元素とNi元素の金属原子比(La/Ni)が1:1になるような割合とするのが好ましい。
【0026】
一方、有機溶媒としては、カルボン酸、ヒドロキシ酸(例えば、乳酸)、アミン類(例えば、ヘキサメチレンテトラミン)、アミド類、アルコール(例えば、エタノールや1−ブタノール、ジオール以外の多価アルコール)、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれた1種の単一溶媒又は2種以上の混合溶媒を用いることが好ましい。この有機溶媒は、組成物中の他の構成成分以外の残部を占め、上記有機溶媒を含ませることで、組成物中に占める他の構成成分の濃度や割合等を調整できる。
【0027】
カルボン酸としては、具体的には、酢酸、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0028】
また、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミル、グリセロール1,2−カルボナート、炭酸ジエチルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジメチルメタノールアミン、2−メチル−1−ブタノールを用いるのが好適である。
【0029】
また、有機溶媒としては、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、エタノール、酢酸、ヘキサメチレンテトラミン、酢酸イソアミル、グリセロール1,2−カルボナート、炭酸ジエチル及び乳酸からなる群より選ばれた1種の単一溶媒又は2種以上の混合溶媒を用いることが特に好ましい。
【0030】
更に、有機溶媒のHSP値は、ハンセン溶解度パラメータであり、ある物質が他の物質にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標である。このハンセン溶解度パラメータは、溶解性を3次元ベクトル(分散成分dD、分極成分dP、水素結合成分dH)で表し、そのベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断される。上記分散成分dDはファンデルワールスの力であり、分極成分dPはダイポール・モーメントの力であり、水素結合成分dHは水やアルコールなどが持つ力である。ここで、有機溶媒のHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHを、それぞれ14<dD<20、3<dP<26、及び3<dH<30の範囲内に限定したのは、これらの範囲を外れると、LaNiO3前駆体の有機溶媒への溶解性が悪くなって、LaNiO3前駆体が析出したり、又は基板に塗布した塗膜にピンホールが発生し、或いは組成物の基板への塗膜性が悪化して焼成後の薄膜にクラックが発生するためである。具体的には、有機溶媒のHSP値の分散成分dDを14<dD<20の範囲内に限定したのは、14以下ではLaNiO3前駆体が析出してしまい、20以上でもLaNiO3前駆体が析出してしまうからである。また有機溶媒のHSP値の分極成分dPを、3<dP<26の範囲内に限定したのは、3以下ではLaNiO3前駆体が析出してしまい、26以上では基板に塗布したLaNiO3薄膜形成用組成物の塗膜にピンホールが発生してしまうからである。更に有機溶媒のHSP値の水素結合成分dHを、3<dH<30の範囲内に限定したのは、3以下ではLaNiO3前駆体が析出してしまい、30以上では基板に塗布したLaNiO3薄膜形成用組成物の塗膜にピンホールが発生してしまうからである。
【0031】
一方、安定化剤としては、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、ジオール、トリオール、カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、N−メチルホルムアミド)、多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらの安定化剤を添加することにより、組成物の保存安定性を向上させることができる。このうち、特に保存安定性を向上させる効果が高いことから、N−メチルホルムアミドやジエタノールアミン等のアルカノールアミン類が好ましい。安定化剤の混合割合を、LaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0モルを超え10モル以下に限定したのは、安定化剤の割合が上限値を越えると安定化剤の熱分解が遅くなり、薄膜にクラックが発生する不具合が生じるからである。このうち、安定化剤の割合は、上記LaNiO3前駆体の合計量1モルに対して2〜8モルとするのが好ましい。安定化剤として好ましいカルボン酸には、酢酸、オクチル酸又は2−エチルヘキサン酸等が挙げられる。このうち、有機溶媒と同一のカルボン酸を安定化剤として使用する場合は、上述の安定化剤の割合の上限が安定化剤としてのカルボン酸の割合を示し、それを超える組成物中の残部が有機溶媒としてのカルボン酸の割合を示す。

【0032】
本発明のLaNiO3薄膜形成用組成物を得るには、先ず、上述のLa源となるLaNiO3前駆体とNi源となるLaNiO3前駆体をそれぞれ用意し、これらを上記所望の金属原子比を与える割合になるように秤量する。また、上記安定化剤を用意し、上記LaNiO3前駆体(La源となるLaNiO3前駆体とNi源となるLaNiO3前駆体の合計量)1モルに対して上述の所定の割合となるように秤量する。次に、反応容器内に、Ni源となるLaNiO3前駆体と、上述の有機溶媒と、上記安定化剤とを投入して混合する。なお、Ni源が水和物の場合、脱水のための蒸留を行う。ここに、La源となるLaNiO3前駆体を添加して、好ましくは窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、80〜200℃の温度で10分〜2時間加熱し反応させることで合成液(混合溶液)を調製する。なお、La源が水和物の場合、脱水のための蒸留を行う。その後、上述の有機溶媒を更に添加して、上記前駆体濃度を上述の所望の範囲になるまで希釈し(重量調整)、攪拌することで組成物が得られる。なお、調製後は、組成物の経時変化を抑制するため、好ましくは窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、80〜200℃の温度で10分〜2時間加熱しておくのが望ましい。また、反応容器内に、Ni源となるLaNiO3前駆体と、La源となるLaNiO3前駆体と、有機溶媒とを投入して混合し、脱水のための蒸留を行った後に、安定化剤を添加して、不活性ガス雰囲気中、80〜200℃の温度で10分〜2時間加熱し反応させることで合成液(混合溶液)を調製し、有機溶媒を更に添加して重量調整を行うことにより、組成物を得てもよい。
【0033】
本発明では、上記調製された組成物を濾過処理等によって、パーティクルを除去して、粒径0.5μm以上(特に0.3μm以上とりわけ0.2μm以上)のパーティクルの個数が溶液1ミリリットル当たり50個/ミリリットル以下とするのが好ましい。なお、組成物中のパーティクルの個数の測定には、光散乱式パーティクルカウンターを用いる。
【0034】
組成物中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数が50個/ミリリットルを越えると、長期保存安定性が劣るものとなる。この組成物の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数は少ない程好ましく、特に30個/ミリリットル以下であることが好ましい。
【0035】
上記パーティクル個数となるように、調製後の組成物を処理する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような方法が挙げられる。第1の方法としては、市販の0.2μm孔径のメンブランフィルタを使用し、シリンジで圧送する濾過法である。第2の方法としては、市販の0.05μm孔径のメンブランフィルタと加圧タンクを組み合せた加圧濾過法である。第3の方法としては、上記第2の方法で使用したフィルタと溶液循環槽を組み合せた循環濾過法である。
【0036】
いずれの方法においても、溶液圧送圧力によって、フィルタによるパーティクル捕捉率が異なる。圧力が低いほど捕捉率が高くなることは一般的に知られており、特に、第1の方法、第2の方法について、粒径0.5μm以上のパーティクルの個数を50個以下とする条件を実現するためには、溶液を低圧で非常にゆっくりとフィルタに通すのが好ましい。
【0037】
続いて、本発明のLaNiO3薄膜の形成方法について説明する。先ず、上記LaNiO3薄膜形成用組成物を基板上に塗布し、所望の厚さを有する塗膜を形成する。塗布法については、特に限定されないが、スピンコート、ディップコート、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法又は静電スプレー法等が挙げられる。LaNiO3薄膜を形成する基板はその用途等によっても異なるが、例えば、薄膜キャパシタ等の結晶配向性制御層として利用する場合には、下部電極が形成されたシリコン基板やサファイア基板等の耐熱性基板が用いられる。基板上に形成する下部電極としては、PtやIr、Ru等の導電性を有し、LaNiO3薄膜と反応しない材料が用いられる。また、基板上に密着層や絶縁体膜等を介して下部電極を形成した基板等を使用することができる。具体的には、Si基材上にSiO2層とTi層とPt層(最上層)とをこの順に積層した基板や、Si基材上にSiO2層とTiO2層とPt層(最上層)とをこの順に積層した基板が挙げられる。また、Si基材上にSiO2層とIr層とIrO層とPt層(最上層)とをこの順に積層した基板や、Si基材上にSiO2層とTiN層とPt層(最上層)とをこの順に積層した基板が挙げられる。更に、Si基材上にSiO2層とTa層とPt層(最上層)とをこの順に積層した基板や、Si基材上にSiO2層とIr層とPt層(最上層)とをこの順に積層した基板が挙げられる。但し、基材上に絶縁体層と密着層と下部電極とをこの順に積層した基板であれば、上記基板に限定されない。一方、強誘電体メモリ用コンデンサや圧電素子、焦電型赤外線検出素子等の電極に利用する場合には、シリコン基板、Si基材にSiO2を積層した基板、サファイア基板等の耐熱性基板を使用することができる。
【0038】
基板上に塗膜を形成した後は、この塗膜を仮焼し、更に焼成して結晶化させる。仮焼は、ホットプレート又はRTA(Rapid Thermal Annealing)装置等を用いて、所定の条件で行う。仮焼は、溶媒を除去するとともに金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させるために行うことから、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行うのが望ましい。空気中での加熱でも、加水分解に必要な水分は空気中の湿気により十分に確保される。なお、仮焼前に、特に低沸点成分や吸着した水分子を除去するため、ホットプレート等を用いて60〜120℃の温度で、1〜5分間低温加熱を行ってもよい。仮焼は、150〜550℃の温度で1〜10分間することにより行うのが好ましい。組成物の塗布から仮焼までの工程は、一回の塗布で所望の膜厚が得られる場合には、塗布から仮焼までの工程を一回行った後、焼成を行う。或いは、所望の膜厚になるように、塗布から仮焼までの工程を複数回繰り返して、最後に一括で焼成を行うこともできる。
【0039】
焼成は、仮焼後の塗膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程であり、これによりLaNiO3薄膜が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気はO2、N2、Ar、N2O又はH2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。焼成は、好ましくは450〜900℃で1〜60分間保持することにより行われる。焼成は、RTA(Rapid Thermal Annealing)法により行ってもよい。室温から上記焼成温度までの昇温速度は10〜100℃/秒とすることが好ましい。
【0040】
以上の工程により、LaNiO3薄膜が得られる。このように形成されたLaNiO3薄膜は、薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、強誘電体メモリ用コンデンサ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子等の電子部品に用いることができる。具体的には、LaNiO3薄膜は、表面抵抗率が低く、導電性等に優れ、また透光性を有するため、強誘電体メモリ用コンデンサの電極膜や圧電素子等の電極膜、更には焦電型赤外線検出素子の電極膜等に用いることができる。また、LaNiO3薄膜は(100)面に自己配向性を有するため、薄膜キャパシタ等において誘電体層の結晶配向性を(100)面に優先配向させるための結晶配向性制御層として好適に用いることができる。特に圧電素子の場合、圧電特性を向上させることができる。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0042】
<実施例1>
先ず、LaNiO3前駆体として、酢酸ニッケル・4水和物(Ni源)と硝酸ランタン・6水和物(La源)を用意し、これらをLaとNiの金属原子比が1:1となるように秤量した。また、安定化剤として、上記前駆体の合計量1モルに対して5モルとなる量のN−メチルホルムアミドを用意した。次いで、反応容器に、上記酢酸ニッケル・4水和物(Ni源)と、上記硝酸ランタン・6水和物(La源)と入れた後に、エチレングリコールモノプロピルエーテルを添加して合成液(混合溶液)を調製した。ここで、上記エチレングリコールモノプロピルエーテルのHSP値の分散成分dD、分極成分dP、及び水素結合成分dHは、それぞれdD=16.1、dP=8.7、及びdH=13.5であった。次に、上記合成液(混合溶液)を蒸留により脱水を行った後、安定化剤としてN−メチルホルムアミドを添加した。更に、この混合溶液をアルゴンガス(不活性ガス)雰囲気中、150℃の温度で20分間加熱し反応させることで合成液(混合溶液)を調製した後に、エチレングリコールモノプロピルエーテルで重量調整を行った。これによりLaとNiの金属原子比が1:1でありLaNiO3前駆体の濃度が酸化物換算で4質量%である組成物を得た。
【0043】
上記組成物をスピンコート法により基板上に塗布した。具体的には、上記組成物を、スピンコーター上にセットした一辺17mmの正方形の基板のPt層上に滴下して、3000rpmの回転速度で15秒間スピンコートを行うことにより、基板のPt層上に塗膜を形成した。ここで、上記基板は、Si基材上にSiO2層とTiO2層とPt層とをこの順に蒸着した耐熱性を有する積層基板であり、Si基材の結晶配向面は(100)面であった。次いで、上記基板上の塗膜を仮焼及び焼成する前に、この塗膜が形成された基板をホットプレートの上に置き、大気雰囲気中で75℃の温度に1分間保持することにより、低沸点成分や吸着した水分子を除去した(乾燥)。次に、上記基板上の塗膜をホットプレート上で450℃の温度に5分間保持することにより仮焼を行った。更に、この仮焼した塗膜を、RTA(Rapid Thermal Annealing)法により、酸素雰囲気中に10℃/秒の昇温速度で800℃まで昇温し、この温度に5分間保持する焼成を行って、基板上にLaNiO3薄膜を形成した。
【0044】
<実施例2〜13及び比較例1〜8>
実施例2〜13及び比較例1〜8の組成物は、表1に示すようにそれぞれ配合した。なお、表1に示した配合以外は、実施例1と同様にして、組成物を調製し、この組成物を基板上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を焼成してLaNiO3薄膜を作製した。なお、表1の有機溶媒の種類において、Aはエチレングリコールモノプロピルエーテルであり、Bはエチレングリコールモノイソプロピルエーテルであり、Cは3−メトキシ−1−ブタノールであり、Dはエタノールであり、Eは酢酸である。また、Fはヘキサメチレンテトラミンであり、Gは酢酸イソアミルであり、Hはグリセロール1,2−カルボナートであり、Iは炭酸ジエチルであり、Jは乳酸である。また、Kはメチルエチルエーテルであり、Lは炭酸プロピレンであり、Mはホルムアミドであり、Nはジブチルアミンであり、Pはジペンチルエーテルである。
【0045】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜13のLaNiO3薄膜の優先配向面をXRDパターンにより測定した。具体的には、X線回折(XRD)装置(パナリティカル社製、型式名:Empyrean)を用いた集中法により、LaNiO3薄膜のXRD分析を行った。その結果(実施例1のみ)を図1に示す。図1から明らかなように、実施例1のLaNiO3薄膜の優先配向面は(100)面であった。なお、図1において、2θが20度〜40度の範囲内であって、基板に由来する回折ピークを除いた最も強度の高い配向面を優先配向面とした。また、実施例2〜13のLaNiO3薄膜についても、上記と同様にXRD分析を行ったところ、優先配向面はいずれも(100)面であった。
【0046】
<比較試験2及び評価>
先ず、実施例1〜13及び比較例1〜8の組成物に沈殿物が形成されたか否か(沈殿物の有無)を調べた。この沈殿物には、合成物(混合溶液)のアルゴンガス(不活性ガス)雰囲気中での加熱反応時に析出したLaNiO3前駆体や、加熱反応後の冷却後に析出したLaNiO3前駆体を含む。次に、実施例1〜12及び比較例1〜9の組成物を用いてスピンコート法により一辺17mmの正方形の基板上に塗布し、この塗布直後の塗膜に、ピンホールがあるか否かを目視により調べた。具体的には、一辺17mmの正方形の基板上に塗布した直後の塗膜に、直径0.1mm以上のピンホールの個数でその有無を判断し、ピンホールが1個以上あったものを『ピンホールあり』とし、ピンホールがなかったものを『ピンホールなし』とした。更に、実施例1〜13及び比較例1〜8の焼成後のLaNiO3薄膜にクラックが発生した否かを調べた。具体的には、LaNiO3薄膜の表面を倍率10倍の光学顕微鏡を用いて観察し、クラックが存在した場合を『クラックあり』とし、クラックが存在しなかった場合を『クラックなし』とした。なお、沈殿物が生じたものについては塗膜評価を行わなかった。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、LaNiO3前駆体の含有割合が1質量%未満である比較例2では塗膜にピンホールが発生し、かつ塗膜の厚さが不均一であり、LaNiO3前駆体の含有割合が20質量%を超える比較例3では組成物に沈殿を生じた。また、有機溶媒のHSP値のdDが小さい比較例4では組成物に沈殿を生じ、有機溶媒のHSP値のdDが大きい比較例5では組成物に沈殿を生じた。また、有機溶媒のHSP値のdPが大きい比較例6では塗膜にピンホールが発生し、かつ塗膜の厚さが不均一であり、有機溶媒のHSP値のdPが小さい比較例7では組成物に沈殿を生じた。更に、有機溶媒のHSP値のdHが大きい比較例1では塗膜にピンホールが発生し、かつ塗膜の厚さが不均一であり、有機溶媒のHSP値のdHが小さい比較例8では組成物に沈殿を生じた。これらに対し、溶媒のHSP値のdD、dP及びdHが適切な値である実施例1〜13では塗膜にピンホールが全く発生せず、かつ塗膜の厚さが均一であった。このため実施例1〜13では焼成後のLaNiO3薄膜にクラックが発生しなかった。
【0049】
具体的には、LaNiO3前駆体の含有割合が0.8質量%と少ない比較例2では組成物に沈殿を生じなかったけれども、塗膜にピンホールが発生し、かつ塗膜の厚さが不均一であり、LaNiO3前駆体の含有割合が22質量%と多い比較例3では組成物に沈殿を生じたのに対し、LaNiO3前駆体の含有割合がそれぞれ1質量%及び20質量%と適切な量である実施例5及び6では組成物に沈殿が全く生じず、また塗膜にピンホールが全く発生せず、かつ塗膜の厚さが均一であった。
【0050】
また、有機溶媒のHSP値のdDが14.0と小さい比較例4では組成物に沈殿を生じ、有機溶媒のHSP値のdDが20.0と大きい比較例5では組成物に沈殿を生じたのに対し、有機溶媒のHSP値のdDがそれぞれ14.5及び19.4と適切な値である実施例8及び9では組成物に沈殿が全く生じず、また塗膜にピンホールが全く発生せず、かつ塗膜の厚さが均一であった。
【0051】
また、有機溶媒のHSP値のdPが3.0と小さい比較例7では組成物に沈殿を生じ、有機溶媒のHSP値のdPが26.2と大きい比較例6では組成物に沈殿を生じなかったけれども、塗膜にピンホールが発生し、かつ塗膜の厚さが不均一であったのに対し、有機溶媒のHSP値のdPが3.1及び25.5と適切な値である実施例10及び11では組成物に沈殿を生じず、また塗膜にピンホールが全く発生せず、かつ塗膜の厚さが均一であった。
【0052】
更に、有機溶媒のHSP値のdHが3.0と小さい比較例8では組成物に沈殿を生じ、有機溶媒のHSP値のdHが42.3と大きい比較例1では組成物に沈殿を生じなかったけれども、塗膜にピンホールが発生し、かつ塗膜の厚さが不均一であったのに対し、溶媒のHSP値のdHがそれぞれ3.5及び28.4と適切な値である実施例12及び13では組成物に沈殿を生じず、また塗膜にピンホールが全く発生せず、かつ塗膜の厚さが均一であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のLaNiO3薄膜形成用組成物は、薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、強誘電体メモリ用コンデンサ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子等の電子部品の製造に利用できる。
図1