【実施例】
【0016】
JIS D 5301:2006に規定される55B24サイズの公称電圧12V、定格容量36Ah(5時間率)の鉛蓄電池を、電解液中のAlイオン、Liイオン、及びMgイオンの含有量を変えて作製した。Pb-0.07mass%Ca-1.5mass%Snの鉛合金シートをエキスバンド加工し、高さが115mm、幅が100mm、厚さが1.0mmの正極格子とした。ボールミル法で作製した鉛粉100mass%に対し、0.1mass%のアクリル繊維、13mass%の水及び10mass%の希硫酸(20℃での比重:1.40)を加えて混練した正極活物質ペーストを、正極格子1枚当たり50g充填した。充填後に正極格子を50℃、相対湿度50%で48時間放置して熟成し、次いで50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の正極板とした。Pb-0.05mass%Ca-0.5mass%Snの鉛合金シートをエキスバンド加工し、高さが115mm、幅が100mm、厚さが0.7mmの負極格子とした。ボールミル法で作製した鉛粉100mass%に対し、0.15mass%のリグニン、0.2mass%のカーボンブラック、0.5mass%の硫酸バリウム、0.1mass%のアクリル繊維、13mass%の水及び10mass%の希硫酸(20℃での比重:1.40)を加えて混練した負極活物質ペーストを、負極格子1枚当たり、45g充填した。充電後に負極格子を50℃、相対湿度50%で48時間放置して熟成し、次いで50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の負極板とした。正負の格子の材質と製造方法、及び正負の活物質ペーストの製造方法、組成、熟成条件等は任意である。
【0017】
押出し法によって成型したポリエチレン樹脂製セパレータを二つ折りにし、両サイドをメカニカルシールによって袋状にしセパレータとした。セパレータに収納した未化成の負極板8枚と、未化成の正極板7枚とを交互にスタックし、COS方式(キャストオンストラップ方式)で同極性の極板の耳同士を溶接し、未化成の正負の極板群とした。正負の極板群を6個、ポリプロピレン製の電槽内に収納してセル間を直列に接続し、電槽の蓋を溶着した後、20℃で比重が1.230の希硫酸を注液し、25℃の水槽中で電槽化成を行い、鉛蓄電池とした。電解液は水,硫酸,Alイオン,Liイオン,Mgイオン以外の成分を含有していても良い。実施例の鉛蓄電池は遊離の電解液がある液式鉛蓄電池であるが、制御弁式鉛蓄電池でも良い。
【0018】
作製した鉛蓄電池の種類を表1に示す。各鉛蓄電池を6個ずつ作製し、
図4に示すアイドリングストップ寿命試験(以下、IS寿命試験という。)と
図5に示す軽負荷寿命試験とに3個ずつ供試した。結果は3個の鉛蓄電池の平均値で示し、AlイオンもLiイオンもMgイオンも含有しない従来例の性能を100とする相対値で結果を示す。IS寿命試験はSBA S 0101:2006に規定され、25℃の気槽内で、45Aの定電流での59秒間の放電と300A、1秒間のパルス放電を行った後、14Vの定電圧で60秒間、最大電流100Aで充電するサイクルを、3600サイクル毎に40〜48時間放置しながら反復する。そして300A、1秒間のパルス放電時の放電電圧が7.2V未満になると寿命とする。IS寿命試験では充電不足の環境で充放電を繰り返した際の寿命を測定し、実施例ではサルフェーションによる寿命を測定することになり、実用的には130以上の寿命性能が必要である。
【0019】
軽負荷寿命試験はJIS D 5301:2006に規定され、41℃の水槽内で、25Aの定電流で240秒間放電した後、14.8Vの定電圧で600秒間、最大電流25Aで充電するサイクルを反復し、480サイクル毎に370Aで30秒間放電する。そして370Aの放電30秒目の放電電圧が7.2V以下になると寿命とする。軽負荷寿命試験は、過充電状態になる条件で使用した際の寿命を測定し、実施例では電解液中のAlイオンとLiイオンとによる正極活物質の軟化の影響を測定することになり、実用的には80以上の寿命性能が必要である。
【0020】
表1の従来例と比較例1とを比較すると、AlイオンとLiイオンとを電解液に含有させることにより、IS寿命性能が著しく向上するが、その一方で軽負荷寿命性能が許容値以下に低下することが分かる。また軽負荷寿命性能が低下した比較例1等の鉛蓄電池を解体すると、正極活物質の軟化による脱落が生じていた。次にAlイオンもLiイオンも含有しない電解液に、Mgイオンを含有させても、IS寿命性能は向上せず、軽負荷寿命性能も向上しなかった。Mgイオンの効果はAlイオンおよびLiイオンを含有する場合に得られることがわかった。
【0021】
【表1】
【0022】
AlイオンとLiイオンとを含有する電解液にMgイオンを含有させる場合、Mgイオンを0.2mmol/L含有させても意味が無いが、0.5mmol/L以上含有させるとIS寿命性能を高く保ちながら、軽負荷寿命性能も許容値以上にできることが分かった。そしてAlイオンとLiイオンとを含有する電解液にMgイオンを4mmol/L含有させると、IS寿命性能が急減することが分かった。上記の特徴は、
・ Alイオン含有量とLiイオン含有量が共に0.1mol/Lの系でも、
・ Alイオン含有量が0.3mol/L、Liイオン含有量が0.1mol/Lの系でも、
・ Alイオン含有量が0.1mol/L、Liイオン含有量が0.3mol/Lの系でも、共通であった。Mgイオン含有量の影響を
図1に示す。なおMgイオンに替えて、電解液にNaイオンを3m mol/L含有させても、軽負荷寿命性能は向上しなかった(比較例17)。
【0023】
電解液中のAlイオン及びLiイオンの作用はIS寿命性能を向上させることにあり、その副作用は軽負荷寿命性能を低下させることにある。電解液中のAlイオン含有量の影響を
図2に示す。Liイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Liイオン濃度が0.3mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Liイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が1mmol/Lの系でも、Alイオン濃度が0.01mol/LではIS寿命性能が不足し、0.4mol/Lでは軽負荷寿命性能が許容範囲に達しないことが分かった。
【0024】
電解液中のLiイオン含有量の影響を
図3に示す。Alイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Alイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が1mmol/Lの系でも、Alイオン濃度が0.3mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Liイオン濃度が0.01mol/LではIS寿命性能が不足し、0.4mol/Lでは軽負荷寿命性能が許容範囲に達しないことが分かった。
【0025】
以上のことから、鉛蓄電池のIS寿命性能と軽負荷寿命性能とを共に実用的な範囲に保つ条件は、電解液がMgイオンを0.5mmol/L以上3mmol/L以下、Alイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、Liイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度で含有することであることが分かる。実施例では、電解液は水と硫酸と、Mgイオンと、Alイオンと、Liイオンのみを含むが、IS寿命性能と軽負荷寿命性能とを損ねない範囲で、上記以外の金属イオンあるいはアニオン等を含んでいても良い。