(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の聴診器、あるいは特許文献2の生体音検出装置によれば、静止状態である人体等の生体の心音、肺音等の生体内の音を検出することができる。これに対し、変形性関節症の診断のための生体音検出は、動作状態における生体内の音を検出できることが望ましい。例えば、膝関節における異常音の検出は、実際に膝関節を動かしてみて、その際の関節音を検出することが望ましい。
【0007】
このように、動作状態における生体内の音を検出しようとすると、生体が動作することで生じる音も生体音検出センサが検出することが生じ、生体音が微小音の場合、その検出が不正確になることが生じる。生体が動作することで生じる音としては、皮膚とセンサとの間の移動による音、信号線の移動による音、生体が移動することで生じる風の音等が考えられる。
【0008】
本発明の目的は、生体の動作により生じるノイズ音が入り込むことを抑制して、動作状態における生体内の音を検出できる生体用音響セン
サを用いた診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る診断システムは、被検査者の関節近傍の皮膚上に取り付けられる生体用音響センサと、被検査者の関節近傍の皮膚上に取り付けられ、関節近傍の屈伸角度を検出する角度センサと、被検査者の関節の屈伸に伴う運動加速度を検出する加重計と、生体用音響センサと、角度センサと、加重計の検出結果に基づいて関節症の診断を行う診断装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る生体用音響センサは、振動を検出するセンサデバイスと、センサデバイスの検出部に接続され、アンテナ状に細長く延びて先端部に生体接触部を有する接触プローブと、内部にセンサデバイスを保持し、一方側に接触プローブを外側に導く開口部を有するカップ状の内側ケース体と、内側ケース体のカップ状外周の全体を覆うように、内側ケース体と緩衝材を介して隙間を開けて配置されるカップ状の外側ケース体と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る生体用音響センサにおいて、カップ状の外側ケース体は、互いに緩衝材を介して隙間を開けて配置される複数のカップ状体から構成されることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る生体用音響センサにおいて、センサデバイスの検出信号を無線信号に変換して外部
に送信する送信部を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る生体用音響センサにおいて、接触プローブは、内側ケース体の開口部に垂直な方向に対し、予め定められた傾斜角度の傾斜形状の生体接触部を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る生体用音響センサを用いる診断システムにおいて、 診断装置は、予め定めた信号検出期間の生体用音響センサの検出信号について、診断に役立つように予め定めた複数の信号処理の情報を診断情報とし、関節症の進行度を症状グレードとし、診断情報について予め定めた典型判断基準に基づいて、複数の症状グレードのそれぞれに関連付けて、当該症状グレードに対応する典型診断情報を記憶する記憶部と、診断対象者についての生体用音響センサの実検出信号を予め定めた信号検出期間について取得する取得部と、取得した実検出信号についての診断情報である実診断情報を生成する実診断情報生成部と、実診断情報を検索キーとして、記憶部を検索し、予め定めた相関関係条件に基づいて、実診断情報に最も相関関係が強い典型診断情報を特定する特定部と、特定された典型診断情報に対応する症状グレードを出力する出力部と、を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る生体用音響センサを用いる診断システムにおいて、診断情報は、生体用音響センサの検出信号についての周波数成分ごとの強さ分布である周波数スペクトル特性の情報であり、典型診断情報は、検出信号の周波数スペクトル特性の特徴をパターン化したスペクトル特性パターン情報であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る生体用音響センサを用いる診断システムにおいて、診断情報は、生体用音響センサの検出信号についての周波数成分ごとの強さ分布である周波数スペクトル特性の情報であり、典型診断情報は、検出信号の周波数スペクトル特性を特徴付けるスペクトルピーク値とその周波数の組合せであるピーク情報であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る生体用音響センサを用いる診断システムにおいて、記憶部は、複数の症状グレードのそれぞれに対応付けて、当該症状グレードに対応する関節症診断映像を記憶し、出力部は、症状グレードを示す番号とともに、当該症状グレードに対応する関節症診断映像を出力することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る生体用音響センサを用いる診断システムにおいて、記憶部は、複数の症状グレードのそれぞれに対応付けて、当該症状グレードに対応する典型診断説明を記憶し、出力部は、症状グレードを示す番号とともに、当該症状グレードに対応する典型診断説明を出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記構成により、診断システムは、被検査者の関節近傍の皮膚上に取り付けられる生体用音響センサと、同様に被検査者の関節近傍に取り付けられてその部分の屈伸角度を検出する角度センサと、被検査者の関節の屈伸に伴う運動加速度を検出する加重計とを含む。例えば、被検査者に膝関節の屈伸を行わせて、その際に生じる異常音を生体用音響センサで検出し、角度センサ、加重計の検出結果を参照して、他のノイズとの区別をすることが可能となる。これにより、変形性膝関節症の診断を適切に行うことが可能になる。診断の対象は、膝関節以外の関節であってもよい。
【0020】
上記構成により、生体用音響センサは、振動を検出するセンサデバイスの検出部に接続され、アンテナ状に細長く延びて先端部に生体接触部を有する接触プローブを備える。これによって、生体音の検出領域を絞ることができ、余計なノイズを拾うことが抑制できる。
【0021】
また、一方側に接触プローブを外側に導く開口部を有するカップ状の内側ケース体の内部にセンサデバイスが保持され、その内側ケース体のカップ状外周の全体を覆うように、内側ケース体と緩衝材を介して隙間を開けて、カップ状の外側ケース体が配置される。つまり、二重構造のケース体の内部にセンサデバイスが配置されるので、センサデバイスが外部からのノイズを拾うことを抑制できる。
【0022】
また、生体用音響センサにおいて、カップ状の外側ケース体は、互いに緩衝材を介して隙間を開けて配置される複数のカップ状体から構成される。つまり、外側ケース体そのものが、二重構造、あるいは三重構造等の多重構造で構成され、その内側の内側ケース体の内部にセンサデバイスが配置される。これによって、さらに一層、センサデバイスが外部からのノイズを拾うことを抑制できる。
【0023】
また、生体用音響センサにおいて、センサデバイスの検出信号を無線信号に変換して外部
に送信する送信部を含むので、信号線を外部に引き出すことが不要となる。これにより、信号線の移動によるノイズを無くすことができる。
【0024】
また、生体用音響センサにおいて、接触プローブは、内側ケース体の開口部に垂直な方向に対し、予め定められた傾斜角度の傾斜形状の生体接触部を有する。これにより、生体の皮膚表面に対し、傾斜した方向に接触プローブの先端部である生体接触部を押し当てることが容易になる。例えば、膝関節音を検出しやすい骨の部位が皮膚の表面に対し傾斜していることがある。このような場合でも、接触プローブの先端部をその傾斜面に適合して接触させることができ、膝関節音を正確に検出できる。
【0025】
また、診断装置は、生体用音響センサの検出信号についての周波数スペクトル特性の情報を診断情報とし、関節症について予め定めた典型判断基準に基づいて、複数の症状グレードのそれぞれに関連付けて、当該症状グレードに対応する典型診断情報を記憶する。そして、診断対象者についての生体用音響センサの実検出信号を取得すると、取得した実検出信号の周波数スペクトル特性の情報である実診断情報を生成し、実診断情報に最も相関関係が強い典型診断情報を特定して、その典型診断情報に対応する症状グレードを出力する。したがって、生体用音響センサを用いて、関節症の診断を効果的に行うことができる。
【0026】
また、典型診断情報は、検出信号の周波数スペクトル特性の特徴をパターン化したスペクトル特性パターン情報であるので、記憶されている症状グレード別のスペクトル特性パターンと実診断におけるスペクトル特性のパターンとを比較すれば、関節症の診断を効果的に行うことができる。
【0027】
また、典型診断情報は、検出信号の周波数スペクトル特性を特徴付けるスペクトルピーク値とその周波数の組合せであるピーク情報であるので、記憶されている症状グレード別のピーク情報と実診断におけるピーク情報とを比較すれば、関節症の診断を効果的に行うことができる。
【0028】
また、記憶部は、複数の症状グレードのそれぞれに対応付けて、当該症状グレードに対応する関節症診断映像を記憶し、出力部は、症状グレードを示す番号とともに、当該症状グレードに対応する関節症診断映像を出力する。これによって、関節症の診断を視覚的にも効果的に行うことができる。
【0029】
また、記憶部は、複数の症状グレードのそれぞれに対応付けて、当該症状グレードに対応する典型診断説明を記憶し、出力部は、症状グレードを示す番号とともに、当該症状グレードに対応する典型診断説明を出力するので、関節症の診断を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、診断システムとして、変形性膝関節症診断システムを説明するが、生体用音響センサは、生体の動作により生じるノイズ音を抑制する必要があるものであれば、膝関節音以外の生体音を検出するものであってもよい。例えば、膝関節以外の関節の音、心音、肺音、血管の脈音、腱の音等の検出に用いることができる。なお、以下では、検出する生体音を膝関節音とし、生体用音響センサが取り付けられる生体上の部位を膝の側面として説明するが、膝の側面以外の他の部位であってもよい。
【0032】
また、以下では、カップ状のケース体を2重構造として説明するが、3重構造以上の多重構造であっても、勿論構わない。また、以下で説明する形状、寸法、材質等は、説明のための一例であって、生体用音響センサが適用される状況に応じ、適宜変更することができる。
【0033】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0034】
図1は、生体用音響センサ12が膝関節音の検出に用いられる様子として、生体用音響センサ12を用いる変形性膝関節症診断システム10の構成が示されている。
図1では、変形性膝関節症診断システム10の構成要素ではないが、被検査者8が示されている。
図1の例では、被検査者8が椅子に座っている状態と椅子から立上る状態との間の運動を行うことで、膝を屈伸させ、その際の膝関節において異常音が検出されるか否かを判断するシステムである。膝の屈伸はこの他に、椅子に座っている状態において被検査者8が自力で足を屈伸させ、または、椅子に座っている状態において被検査者8の足を医者等の第三者の力で足を屈伸させた動きであってもよい。
図1は説明の便宜上、被検査者8が立上る状態の説明図を示している。変形性膝関節症診断システム10は、変形性膝関節症の早期発見のために、被検査者8の膝の側面、すなわち、膝関節の近傍の皮膚上に生体用音響センサ12が取り付けられる。
図1の例では、生体用音響センサは、被検査者8の左右の膝のそれぞれの両側側面の皮膚上に合計4つ取付けられているが、これは左右の膝関節の様子を診断する場合を例として示したもので、診断目的に応じ、生体用音響センサ12の取付数を増減することができる。
【0035】
変形性膝関節症診断システム10は、生体用音響センサ12とともに、被検査者8の関節近傍の皮膚上に取り付けられ、関節近傍の屈伸角度を検出する角度センサ60と、被検査者8の関節の屈伸に伴う運動加速度を検出する加重計62と、これらから引き出されるケーブル線16と、これらの検出信号について適当なフィルタ処理を行いながら増幅する生体用音響センサアンプ64と角度センサアンプ66と加重計アンプ68と、生体用音響センサ12と角度センサ60と加重計62の検出結果に基づいて関節症の診断を行う診断装置18とを備える。角度センサ60、加重計62は、被検査者8が椅子に座っている状態と椅子から立上る状態との間の運動のタイミングを正確に検出できるので、これらの検出結果を参照して、生体用音響センサ12の検出データについて、運動に伴うノイズを区別することが可能となる。
【0036】
図2には、生体用音響センサ12を、これが取り付けられる膝の側から見た様子が斜視図で示されている。また、
図3は、生体用音響センサ12の断面図である。生体用音響センサ12は、ここでは、被検査者8の膝にしっかりと取り付けられて、被検査者8が膝の屈伸を行う際の関節音を検出する機能を有するセンサである。生体用音響センサ12を被検査者8の膝にしっかりと取り付ける方法としては、適当なバンド具、適当な接着テープ等を用いることができる。
【0037】
生体用音響センサ12は、音を検出する一種のマイクロフォンであるが、関節音を検出する際に、それ以外のノイズ、特に生体の動作により生じるノイズ音が入り込むことを抑制する構造を有している。
【0038】
生体用音響センサ12は、振動を検出するセンサデバイス20と、センサデバイス20の検出部に接続される接触プローブ30と、内部にセンサデバイス20を保持するカップ状の内側ケース体36と、内側ケース体36のカップ状外周の全体を覆うカップ状の外側ケース体38を備えて構成される。
【0039】
センサデバイス20は、振動を検出する機能を有するセンサである。センサデバイス20としては、一種のマイクロフォンであるので、ボイスコイル型のマイクロフォン、静電容量の変化を用いるコンデンサマイクロフォン等も用いることができるが、微小音を検出できるものとして、ここでは、圧電素子が用いられる。具体的には、円板状のピエゾ素子の円板両面にそれぞれ電極を設け、ピエゾ素子の伸縮により生じる電気信号をこの両電極の間の電圧によって検出する。
【0040】
振動板22は、円板状のセンサデバイス20が貼り付けられて配置される金属円板である。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、黄銅等を用いることができる。振動板22は、その外周部が緩衝材34によって支持されて、後述する内側ケース体36に取り付けられる。したがって、振動板22は、その中心位置に外力が加えられたときに、外周部が固定端として振動する振動円板として機能する。
【0041】
この振動板22が振動することで、その上に貼り付けられるセンサデバイス20であるピエゾ素子が湾曲し、これによって生じる軸方向に伸縮し、軸方向に沿って圧電信号としての電圧差が現れることになる。振動板22は、センサデバイス20の円板両面のそれぞれに設けられる2つの電極のうちで、振動板22に接触する側の電極と電気的に接続される。
【0042】
したがって、振動板22に接続される信号線26は、センサデバイス20の2つの信号線の一方側の信号線となる。具体的には接地信号線となる。センサデバイス20の円板両面のそれぞれに設けられる2つの電極のうちで、振動板22に接触する側と反対側の電極から引き出される信号線24は、センサデバイス20の2つの信号線の他方側の信号線となる。これら2つの信号線24,26は、ケーブル線16を構成する内部信号線にしっかりと接続される。
【0043】
接触プローブ受台28は、センサデバイス20の円板の他方側、すなわち、振動板22に接続される側の反対側の表面に取り付けられる部材で、接触プローブ30が拾う生体音に対応する微小振動を振動板22に伝える機能を有する。具体的には、接触プローブ受台28は、円板状のセンサデバイス20の中心位置にしっかりと固定されて配置される。
【0044】
円板状のセンサデバイス20の中心位置は、円板状の振動板22の中心位置であり、上記のように振動板22の外周部は緩衝材34を介して固定される。外周部が固定された円板は、その中心位置に外力が加えられたときに、その中心位置が最も大きな振幅として振動する。したがって、接触プローブ受台28は、振動板22を振動させるのにもっとも効率のよい位置に配置されている。また、同時に、センサデバイス20は、振動板22が最大振幅となる位置に配置されていることになる。換言すれば、接触プローブ受台28は、センサデバイス20において、接触プローブ30の振動を検出するのに最も効率のよい検出部のところに配置されていることになる。
【0045】
かかる接触プローブ受台28は、センサデバイス20と接触プローブ30との間の電気的絶縁を図るために、例えば、プラスチック製の円板を用いることができる。
【0046】
接触プローブ30は、センサデバイス20の検出部に配置される接触プローブ受台28に根元部が固定されて接続され、そこからアンテナ状に細長く延びて先端部32に生体接触部を有する針状の部材である。先端部32は、
図2で説明した被検査者8の膝部の皮膚に押し付けられて接触する部分で、被検査者8が膝を屈伸するときに膝関節のところで摩擦音あるいは接触音を発するときに、その音を、皮膚、あるいはその下の筋肉、あるいはその下の骨の微小な振動として取得する機能を有する。
【0047】
先端部32で取得された微小な振動は、細長い接触プローブ30に沿って伝播し、根元部において、接触プローブ受台28に伝達されることになる。かかる接触プローブ30としては、振動を効率的に伝播させるピアノ線、黄銅線等の金属材料、あるいは硬質なプラスチック材料の細線等で構成することができる。
【0048】
接触プローブ30の直径及び先端部32の形状は適当に小さい寸法であることが好ましい。接触プローブ30の直径が小さい寸法のときは、被検査者8の皮膚に対する押し付け圧力が大きくなるので、被検査者8にはやや負担がかかる。一方で、皮膚の上に接触プローブ30が押し付けられた圧痕が残るので、これを利用して、関節音を捉えやすい部位に接触プローブ30の先端部32を正確に配置することができる。
【0049】
関節音を捉えやすい部位としては、膝において大腿骨と脛骨が向かい合う膝関節の部分のうち、表皮が薄く、大腿骨、脛骨に近い部位である。これらの部位は、狭い範囲であるので、接触プローブ30の先端部32を正確に位置決めすることが好ましい。そこで、上記のように、接触プローブ30の直径及び先端部32の形状の寸法を適当に小さくすることで、特別な位置決め装置を用いることなく、容易にその位置決めをかなり正確に行うことが可能となる。
【0050】
上記のように、振動板22、センサデバイス20、接触プローブ受台28、接触プローブ30は、この順序に、順次積み重ねられ、あるいは接続固定されて一体化される。この分を広義のセンサ部と呼ぶことにすると、このセンサ部は、内側ケース体36と、外側ケース体38の二重構造のケース体の内部に収納される。
【0051】
内側ケース体36は、一方側に開口部を有するカップ状の部材である。上記の広義のセンサ部は、この内側ケース体36の内部に配置される。広義のセンサ部のうち、接触プローブ30の先端部32は、この内側ケース体36の開口部から突き出るが、それ以外の振動板22、センサデバイス20、接触プローブ受台28は、内側ケース体36のカップ状の内部に配置されるように収容される。かかる内側ケース体36は、アルミニウム等の軽金属をカップ状に成形したものを用いることができる。
【0052】
振動板22に関連して若干説明した緩衝材34は、この内側ケース体36のカップ状の内面の底部に配置される円環状の部材である。円環の外径は、振動板22の直径と同じかやや小さめに設定される。緩衝材34の円環状の上下側面のうち、一方側面は内側ケース体36の内面の底部に適当な接着材によって固定され、他方側面には振動板22の外周部が適当な接着材で固定される。これによって、振動板22と内側ケース体36との間で機械的な振動を相互に絶縁できる。
【0053】
すなわち、緩衝材34は、振動板22と内側ケース体36との間の振動伝達を効果的に抑制する機能を有する部材である。かかる緩衝材34としては、シリコン樹脂等の軟質プラスチックあるいは適当なゲル材等を用いることができる。
【0054】
外側ケース体38は、内側ケース体36よりも一回り大きな外形を有するカップ状部材である。すなわち、内側ケース体36のカップ状外周の全体を覆うように、内側ケース体36の外周とは隙間を開けて配置されるカップ状部材である。隙間としては、例えば、0.5mmから1mm程度とすることができる。もっとも、これよりも広い隙間、狭い隙間であっても構わないが、内側ケース体36と外側ケース体38とは直接には接触しないようにすることが必要である。なお、外側ケース体38の材質等は、内側ケース体36と同様のものとすることができる。
【0055】
内側ケース体36の側面と外側ケース体38の側面には、位置を合わせて信号線用の開口部が設けられる。この開口部は、センサデバイス20からの信号線24、振動板22からの信号線26のそれぞれを、ケーブル線16を構成する内部信号線に接続して、生体用音響センサ12の外部に引き出すためのものである。ブッシュ44は、この開口部とケーブル線16との隙間をなくすために設けられる。これによって、ケーブル線16が不必要に動くことを抑制し、外部の振動や音が内側ケース体36の内側に入り込むことを抑制することができる。
【0056】
接触盤40は、内側ケース体36のカップ状の開口部と、外側ケース体38のカップ状の開口部とを塞ぐように配置される円板状の部材である。接触盤40の外径は、外側ケース体38のカップ状の開口部における外径と同じに設定される。そして、外側ケース体38のカップ状の開口部における円環状端部と、内側ケース体36のカップ状の開口部における円環状端部とは、相互に接触しないように、外側ケース体38のところで説明した隙間を開けるようにして、埋め込まれるように、接触盤40に配置され固定される。
【0057】
接触盤40の中央部には、接触プローブ30の先端部32が突き出ることができるように、中央開口穴42が設けられる。接触盤40という名称は、この部分で、被検査者8の膝部の皮膚に接触するからである。かかる接触盤40としては、緩衝材34と同様の材質で構成される円板を用いることができる。
【0058】
このように、接触盤40は、緩衝材34と同様の材質であるので、内側ケース体36と外側ケース体38とは、緩衝材を介して隙間を開けて配置されることになる。これによって、内側ケース体36と外側ケース体38との間で、機械的振動を絶縁できる。
【0059】
上記構成の寸法の一例を以下に示す。すなわち、外側ケース体38のカップ状の外径は27mm、内径は25mm、高さは11.5mm、厚さは1mmである。内側ケース体36のカップ状外径は24mm、内径は22mm、高さは9.5mm、厚さは1mmである。外側ケース体38の内径と内側ケース体36の外径との間の隙間は0.5mmである。接触盤40の外径は27mm、厚さは2mm、中央開口穴42の内径は5mmである。外側ケース体38のカップ状の円環状端部と内側ケース体36のカップ状の円環状端部とが接触盤40に埋め込まれる深さは1mmである。
【0060】
振動板22の外径は20mm、厚さは0.2mm、センサデバイス20の外径は14mm、厚さは0.23mm、接触プローブ受台28の外径は6mm、高さは3mmである。接触プローブ30の直径は1.5mm、接触プローブ受台28に埋め込まれる根元部の長さは1mm、接触プローブ受台28から先端部32までの高さは5.57mm、接触盤40から突き出る高さは1.5mmである。緩衝材34の外径は20mm、内径は16mm、高さは2mmである。
【0061】
なお、上記の寸法の値はあくまで例示である。さらに小型の構成例としては、上記寸法の約60%の寸法とすることができる。この場合には、生体用音響センサ12の全体としての外径を15mm、高さを10mmとすることができる。
【0062】
上記構成によれば、生体用音響センサ12は、カップ状の開口部に接触盤40が配置され、その接触盤40の中央部に接触プローブ30の先端部32が突き出している形態を有している。そして、その接触盤40の表面を被検査者8の膝部の皮膚に接触させて固定することで、接触プローブ30の先端部32が膝関節の所定の部位に接触し、その部位における関節音を拾って、センサデバイス20に伝達することができる。
【0063】
その際に、センサデバイス20は、緩衝材を介して隙間を開けて相互に配置される外側ケース体38と内側ケース体36の二重構造のカップ状体の内部に収納配置されるので、センサデバイス20が外部からの振動、音等のノイズを拾うことを十分に抑制できる。また、センサデバイス20の検出部に配置される接触プローブ30は、アンテナ状に細長く延びて、その先端部32が接触盤40から突き出るので、生体音の検出領域を絞ることができ、余計なノイズを拾うことが抑制できる。
【0064】
図4から
図7は、
図2,3の構成の変形例のいくつかを示す図である。
図4は、ケーブル線16を内側ケース体36、外側ケース体38のそれぞれのカップ状の頂部から引き出す構成の生体用音響センサ13の例を示す図である。
図2、
図3では、ケーブル線16が、内側ケース体36、外側ケース体38のそれぞれの側面から引き出されていた。
図4の構成によれば、ケーブル線16は、内側ケース体36、外側ケース体38のカップ状の中心線上に沿って引き出されるので、仮にケーブル線16に外力がかかったとしても、その外力の影響は、生体用音響センサ13の中心線に対称となり、偏心的な振動やノイズの影響を少なくすることができる。
【0065】
図5は、センサデバイス20の検出信号を無線信号に変換して外部に送信する送信部を含む電子部品を備える構成の生体用音響センサ14の例を示す図である。送信部を含む電子部品としては、信号処理回路と送信回路とアンテナとを含むセンサ用IC50を用いることができる。センサ用IC50は、内側ケース体36に設けられる適当な基板52に取付けられ、信号線24,26を介してセンサデバイス20と接続される。そして、センサデバイス20から取得する信号について信号処理回路を介して無線通信に適するように信号処理し、送信回路を経てアンテナに出力する機能を有する。
【0066】
電源としては、図示されていないが、小型の電池を備える構成としてもよく、センサ用IC50に無線電力受信回路を含む構成として、外部から供給される高周波電力信号を受信し、これに基づいて必要な電力をまかなうものとしてもよい。なお、基板52が設けられる内側ケース体36の部分と、その箇所に対応する外側ケース体38の部分は、アンテナから送信される無線信号が外部に到達できるように、それぞれ適当な樹脂窓54,56で構成される。また、
図6に示されるように、4つの生体用音響センサ14を用いる場合には、それぞれからの無線信号が混線しないように、それぞれの無線信号の周波数を異なるもの等としてもよい。このような構成によって、
図2から
図4で説明したような生体用音響センサ12からのケーブル線16を省略することができる。ケーブル線16を省略することで、ケーブル線16に起因する振動やノイズをなくすことができる。
【0067】
図6は、
図5の生体用音響センサ14を用いる変形性膝関節症診断システム10の構成を示す図である。ここでは、生体用音響センサ14と生体用音響センサアンプ64の間に通信制御部63が設けられる。通信制御部63は、アンテナと受信回路と信号処理回路とを含んで構成され、生体用音響センサ14から送信される無線信号をアンテナで受信し、受信した信号について信号処理回路を介して生体用音響センサアンプ64に出力する機能を有する。なお、生体用音響センサ14が電源を有しない場合は、無線電力送信を行う機能を有するものとしてもよい。
【0068】
また、通信制御部63に送信回路を設け、これに対応して生体用音響センサ14に受信回路を設けることで、生体用音響センサ14と診断装置18との間で相互交信するものとしてもよい。また、場合によっては、角度センサ60、加重計62にも適当なセンサ用ICを設けて、通信制御部63と無線交信できるものとしてもよい。
【0069】
図7は、接触プローブ30の先端部33が、接触盤40の平面に垂直な方向に対し、予め定められた傾斜角度の傾斜形状を有する構成の生体用音響センサ15の例を示す図である。これにより、生体の皮膚表面に対し、傾斜した方向に接触プローブの先端部である生体接触部を押し当てることが容易になる。例えば、膝関節音を検出しやすい骨の部位が皮膚の表面に対し傾斜していることがある。このような場合でも、接触プローブの先端部をその傾斜面に適合して接触させることができ、膝関節音を正確に検出できる。
【0070】
図8は、診断装置18の詳細な構成を説明する図である。上記のように、診断装置18は、生体用音響センサ14と角度センサ60と加重計62の検出結果に基づいて関節症の診断を行う装置である。なお、
図8では、無線交信が可能な生体用音響センサ14が図示されているが、勿論、有線で診断装置18に接続される形式の生体用音響センサを用いることもできる。なお、角度センサ60、加重計62は、診断検査のために被検査者が膝を屈伸するときの運動のタイミングを正確に検出し、運動に伴うノイズを区別するために用いられるものである。以下ではこれらによって、運動に伴うノイズが適切に除去されたものとして、生体用音響センサ14の検出データに基づく膝関節症の診断について説明する。
【0071】
診断装置18は、生体用音響センサ14と無線交信を行うための通信制御部63と、診断のためのデータ処理等を行う制御部80と、制御部80に接続される記憶部90と、制御部80に接続され診断結果を表示する表示部70を含んで構成される。表示部70は、ディスプレイやプリンタ等を用いることができる。かかる診断装置18としては、適当なコンピュータを用いることができる。診断装置18は、
図1で説明したように、被検査者8の膝部分に生体用音響センサ14を取り付け、被検査者8に椅子に座っている状態と椅子から立上る状態との間の運動を行ってもらい、そのときの膝の屈伸に伴う膝関節からの生体音を生体用音響センサ14で検出し、その検出結果に基づいて診断を行なう装置である。
【0072】
診断装置18の制御部80は、生体用音響センサの実検出信号の周波数スペクトル特性の情報である実診断情報を生成する実診断情報生成部82と、実診断情報を検索キーとして、記憶部を検索し、予め定めた相関関係条件に基づいて、実診断情報に最も相関関係が強い典型診断情報を特定する典型診断情報特定部84と、特定された典型診断情報に対応する症状グレードを出力する症状グレード出力部86を含んで構成される。かかる機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、関節症診断プログラムを実行することで実現できる。かかる機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0073】
記憶部90は、関節症診断プログラム等を格納する機能を有する記憶装置であるが、ここでは特に、診断に用いられる典型診断情報ファイル92を記憶する機能を有する。典型診断情報ファイル92は、関節症の進行度を症状グレードとして、症状グレードごとの典型診断情報100を複数の症状グレードについてまとめたデータファイルである。ここで、典型診断情報100とは、生体用音響センサ14の検出信号について、診断に役立つように予め定めた複数の信号処理の情報を診断情報とし、予め各症状グレードについての診断情報を集め、分析し、その結果、各症状グレードについてそれぞれ典型的と考えることができる診断情報のことである。
【0074】
診断情報は、上記のように、生体音響センサ14の検出信号について、診断に役立つような複数の信号処理の情報であるが、これには、周波数解析、統計的解析、変動音解析等における信号処理の情報が含まれる。周波数解析には、パワースペクトル、フーリエスペクトル、位相スペクトル、自己相関関数、クロススペクトル、相互相関関数、周波数応答関数、インパルスレスポンス、コヒーレンス等が含まれる。統計的解析には、ヒストグラム、標本自己相関、正規確率プロット、散布図・回帰分析、ステレオグラム、区間統計、標本相互相関、3次元散布図、3次元区間統計等が含まれる。変動音解析には、ラウドネス、シャープネス、ラフネス、変動強度、AI、トーナリティ、時間変動、変動音Core、変動音Mask,ラウドネ
ス変動Core、ラウドネス変動Mask等が含まれる。以下では、診断情報は、生体音響センサの検出信号についての周波数成分ごとの強さ分布である周波数スペクトル特性の情報として、説明を続ける。
【0075】
図9は、記憶部90に記憶される典型診断情報100の例を示す図である。典型診断情報100は、症状グレードを関節症の進行度を示す数字で示す症状グレード欄102、その症状グレードに対応する周波数スペクトル特性の特徴をパターン化したスペクトル特性パターン情報104と、スペクトル特性パターン情報104に対応する詳細な周波数スペクトル特性106と、その症状グレードに対応する関節症診断映像108と、関節症診断映像の模式
図110と、その症状グレードに対応する典型診断説明欄112を含んで構成される。この
図9は、例として、グレード2についての典型診断情報100が示されている。なお、関節症診断映像108は、膝関節の部分をX線撮像装置で撮像した映像画像である。X線撮像装置で撮像した映像画像に代えて、あるいはそれに加えて、MRI撮像装置で撮像した映像画像を用いるものとしてもよい。
【0076】
典型診断情報100は、これらの各データをそれぞれ検索キーとして、他のデータを読み出すことができる。例えば、
図9の例で、症状グレード=2を検索キーとすれば、その症状グレードに対応するスペクトル特性パターン情報104、周波数スペクトル特性106、関節症診断映像108、関節症診断映像の模式
図110、典型診断説明欄112をそれぞれ読み出すことができる。また、スペクトル特性パターン情報として、
図9に示すスペクトル特性パターン情報104の図表データが検索キーとして与えられると、その図表データに対応する症状グレード欄102が読み出され、その症状グレード=2に対応する他のデータが読み出される。
【0077】
スペクトル特性パターン情報の図表データが検索キーとして与えられる場合は、パターン認識技術を用いて、記憶部90に格納されている各典型診断情報100について、それぞれのスペクトル特性パターン情報104の図表データが読み出されて、検索キーとして与えられる図表データとの比較が行われる。比較は、予め定めた相関関係条件に基づいて、検索キーの図表データと、記憶部90に格納されている図表データとの相関関係の程度を評価することで行われる。そして、もっとも相関関係が強い図表データが特定されると、そのスペクトル特性パターン情報104が典型診断情報として読み出される。
【0078】
スペクトル特性パターン情報について、図表同士の比較によって検索を行うのは、上記のようにパターン認識技術を用いて行うことができるが、その他に、周波数スペクトル特性パターン情報を特徴付ける特徴事項を検索キーとすることもできる。周波数スペクトル特性のパターン情報を特徴付ける特徴事項としては、例えば、その周波数スペクトル特性において、最大のスペクトル値を示すときのスペクトルピーク値とその周波数の組合せであるピーク情報を用いることができる。このように、数値化した特徴事項を検索キーとすることで、検索時間が格段に短縮できる。
【0079】
図10は、膝関節症の診断を行うのに適した生体用音響センサ14の取付位置を説明する図である。
図10には、膝関節症に関連する膝関節の周辺部分の各要素が示されている。ここでは、大腿骨120、膝蓋骨122、腓骨124、脛骨126、関節軟骨128が示されている。生体用音響センサ14は、表皮が薄く骨に近い部位の皮膚表面に取り付けることがよい。
図10では好ましい取付位置として、AからFが示されている。
【0080】
Aは、大腿骨120の内側顆と呼ばれる部分に対応する位置である。Bは、大腿骨120の外側顆と呼ばれる部分に対応する位置である。Cは、脛骨126の内側顆と呼ばれる部分に対応する位置である。Dは、脛骨126の外側顆と呼ばれる部分に対応する位置である。Eは、脛骨126の粗面と呼ばれる部分に対応する位置である。Fは、膝蓋骨122の上縁外側と呼ばれる部分に対応する位置である。
【0081】
図11は、膝関節症の進行の様子を、
図10で説明した膝関節部分の図を用いて示す図である。膝関節症の進行度は、グレードと呼ばれる数字で示される。
図11では、膝関節症の進行を6つの状態で示している。
図11で(0)として示されている状態は、正常状態である。正常状態においては、大腿骨120と脛骨126との間の隙間が正常で、大腿骨120と脛骨126が向かい合う荷重面の摩耗が見られない。
【0082】
図11で(1)として示される状態と(2)として示される状態は、膝関節症の初期段階で、それぞれグレード1、グレード2と呼ばれる。グレード1の状態においては、大腿骨120と脛骨126との間の内側端部に、骨棘ができている状態130が示されている。グレード2の状態においては、関節の間の隙間である関節列
隙が狭くなってきている状態132が示されている。具体的には、関節列隙が3mm以下となった状態をグレード2としている。上記のように、
図9は、このグレード2における典型診断情報である。
【0083】
図11で(3)として示される状態は、膝関節症の中期段階で、グレード3と呼ばれる。グレード3の状態においては、関節列隙がさらに狭くなって、関節列隙が閉鎖している状態、またはそれによって亜脱臼となっている状態134が示されている。
【0084】
図11で(4)として示される状態と(5)として示される状態は、膝関節症の終期段階で、それぞれグレード4、グレード5と呼ばれる。グレード4では、関節列隙がなくなって、荷重面の一部が摩耗によって欠損している状態136が示されている。グレード5では、荷重面の摩耗または欠損がさらに進み、大腿骨120と脛骨126のずれが生じている状態138が示されている。具体的には、荷重面における関節軟骨128の摩耗または欠損が5mm未満のときをグレード4、摩耗または欠損が5mm以上のときをグレード5と区別することができる。
【0085】
次に、膝関節症の疑いのある被検査者について、生体用音響センサ14を取り付け、膝の屈伸運動を行ってもらい、そのときに検出された生体用音響センサ14の信号と、膝関節症の進行度を示す症状グレードとを関連付けた結果を説明する。関連付けは、同じ被検査者について、膝関節の部分をX線撮像装置で撮像し、その映像画像について、
図11で説明した症状グレード分類基準を用いて症状グレードを決定することで行った。数多くの検査結果を分類し、各症状グレードについて典型的な例を抜き出して整理した結果を
図12と
図13に示す。
【0086】
図12は、生体用音響センサ14の検出信号を適当に増幅した波形を症状グレード別に並べたものである。横軸は時間で、
図12で示されている範囲は、被検査者が椅子に座って静止し膝が屈曲している状態から立上って膝を伸展するまでの診断期間で、5秒間である。この診断期間は、膝の屈曲静止状態から、膝の伸展し終わった期間として、屈伸運動の速度の目安として予め固定して設定される。もっとも5秒間以外であっても、予め定めた時間であればよく、例えば、これを3秒間としてもよい。縦軸は、検出信号の電圧である。
【0087】
図12では、上段側から下段側に向かって、(0),(1),(2),(3),(4),(5)として、それぞれ
図11で説明した正常状態、グレード1の状態、グレード2の状態、グレード3の状態、グレード4の状態、グレード5の状態が示されている。
図12に示されるように、症状グレードが進むにつれて、検出信号の電圧が大きくなり、特に、グレード4,5では明らかに他の症状グレードと区別されることが分かる。
【0088】
図13は、
図12の検出波形について、フーリエ解析を行い、周波数ごとのパワースペクトラムをとって比較した結果を示す図である。フーリエ解析を行った波形は、
図12の波形、すなわち、診断期間の5秒の間の信号を1つの波形としたものである。
図13は、横軸に周波数、縦軸に周波数ごとのパワースペクトルの大きさとして電圧レベルをとって示す図である。これを周波数スペクトル特性と呼ぶことにする。
【0089】
図13では、上段側から下段側に向かって(S),(0),(1),(2),(3),(4),(5)と並べてある。(0)から(5)は、それぞれ
図11の(0)から(5)に対応し、(S)は、被検査者が椅子に座って静止し膝が屈曲している状態の周波数スペクトル特性である。具体的には、椅子に座って静止している状態において生体用音響センサ14からの検出信号を(0)から(5)のときの診断時間と同じ時間で取得し、これをフーリエ解析したものである。
【0090】
図13に示されるように、周波数スペクトル特性を比較すると、症状グレードが進むにつれて、電圧レベルが上昇し、特に、高周波側の電圧レベルが上昇することが分かる。概括的には、症状グレードが進むにつれて、周波数帯の広い範囲で電圧レベルが上昇する。
【0091】
図14は、
図13の周波数スペクトル特性を平滑化してパターン化した特性線として、各症状グレードの特性線を重ね合わせて比較した図である。横軸は周波数、縦軸はパワースペクトルの大きさを示す電圧レベルである。(0)から(5)は、
図13の(0)から(5)と同じで、症状グレードを示している。
図14の結果から、膝関節症の進行度を示す各症状グレードは、周波数スペクトル特性をパターン化した特性線によって、区別をすることができることが分かる。
【0092】
図15は、周波数スペクトル特性をパターン化した特性線の特徴事項について説明する図である。
図14を参照しながら、パターン化した特性線のそれぞれを特徴付ける事項をとして、症状グレードが進むにつれて電圧レベルが上昇することがある。この特徴事項は、パワースペクトルである電圧レベルの最大値V
Pと、最大値V
Pのときの周波数f
Pで示すことができる。この最大値V
Pは、周波数スペクトル特性を特徴付けるスペクトルピーク値であり、f
Pはそのときの周波数であるので、この組合せをピーク情報として、ピーク情報を特徴事項とすることができる。
【0093】
また、もう1つの特徴事項として、症状グレードが進むにつれて周波数帯の広い範囲で電圧レベルが上昇することがある。この特徴事項は、例えば、電圧レベルの最大値V
Pから20dB小さい電圧レベルV
0.1の周波数f
0.1で示すことができる。このように、周波数スペクトル特性を特徴付ける事項として、予め定めた基準で求める電圧レベルとその電圧レベルにおける周波数の組合せを用いることができる。
【0094】
図16は、上記の結果を用いて、生体用音響センサ14を用いて膝関節症の診断を行う手順を示すフローチャートである。最初に、被検査者を椅子に座らせて静止状態として、これを初期状態に設定する(S10)。具体的には、診断装置18の初期設定を行う。次に、被検査者を椅子から立上らせ、膝を伸展させて、これを荷重伸展時として、生体用音響センサ14からの信号を取得する(S12)。この信号は、実際に診断を行っているときの実検出信号である。
【0095】
実検出信号から周波数スペクトル特性データを生成し、その周波数スペクトル特性データをパターン化してスペクトル特性パターン情報を生成する。これを実診断情報とする(S14)。この処理手順は、制御部80の実診断情報生成部82の機能によって実行される。
【0096】
そして、実診断のスペクトル特性パターン情報を検索キーとして、記憶部90を検索し、パターン認識技術等を用いて、実診断のスペクトル特性パターンに最も相
関関係があるスペクトル特性パターンを特定する。特定されたスペクトル特性パターンが典型診断情報である(S16)。この処理手順は、制御部80の典型診断情報特定部84の機能によって実行される。
【0097】
図15で説明したように、実診断のスペクトル特性パターンについての特徴事項を用いて記憶部90を検索して、実診断のスペクトル特性パターンに最も相
関関係があるスペクトル特性パターンを特定するものとしてもよい。この場合には、記憶部90に記憶される典型診断情報について、周波数スペクトル特性を特徴付けるスペクトルピーク値とその周波数の組合せであるピーク情報と関連付けを予めつけておく。特徴事項を検索キーとすることで、数値検索を行うことができ、パターン認識技術を用いる検索に比べ、大幅に検索処理が容易になる。
【0098】
そして、特定されたスペクトル特性パターンに対応する症状グレードを出力する(S18)。この出力時に、症状グレードの他に、その症状グレードに対応するスペクトル特性パターン情報、それに対応する詳細な周波数スペクトル特性、その症状グレードに対応する関節症診断映像、関節症診断映像の模式図、その症状グレードに対応する典型診断説明も合わせて出力することが好ましい。具体的には、上記の
図9で示した典型診断情報100のようなデータシートを診断データとして出力することが好ましい。診断データは、表示部70に出力される。このようにすることで、被検査者は、一目で現在の膝関節症の状況を理解し、対応を考えることができる。
【0099】
図9ではグレード2についての典型診断情報100が示されているが、
図17から
図21に、正常状態、グレード1、グレード3、グレード4、グレード5についての典型診断情報140,142,144,146,148を示す。それぞれの内容は、
図11から
図14で説明したものと同様である。