(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5754718
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】核医学画像データの定量化
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
G01T1/161 D
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-244584(P2014-244584)
(22)【出願日】2014年12月3日
【審査請求日】2014年12月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】立石 宇貴秀
(72)【発明者】
【氏名】大▲さき▼ 洋充
(72)【発明者】
【氏名】西田 和正
(72)【発明者】
【氏名】浜田 一男
【審査官】
小田倉 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−174654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨疾患診断薬を用いて得られる核医学画像データの定量値を出力するシステムであって、
前記核医学画像データを読み込む第1手段と;
前記核医学画像データの被験者の性別情報を読み込む第2手段と;
前記被験者の年齢情報を読み込む第3手段と;
前記被験者の身長情報を読み込む第4手段と;
前記被験者の体重情報を読み込む第5手段と;
前記被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込む第6手段と;
前記核医学画像データから所定の情報を得る第7手段と;
前記第2手段により得られた性別情報と、前記第3手段により得られた年齢情報と、前記第4手段により得られた身長情報と、前記第5手段により得られた体重情報との少なくともいずれかに基づいて、骨ミネラル量または骨ミネラル密度を計算する第8手段と;
前記第7手段により得られた前記所定の情報を、前記第6手段により得られた投与放射能量情報と、前記第8手段により得られた骨ミネラル量または骨ミネラル密度とに基づいて正規化する第9手段と;
前記第9手段により得られた正規化値を出力する第10手段と;
を備え、前記所定の情報は、減衰補正された関心領域の中の放射能量を、前記関心領域の体積で割った値である、システム。
【請求項2】
前記関心領域は、前記核医学画像データの1画素に相当する領域である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第10手段は、前記第9手段により得られた正規化値を、関心領域に関して積算してから出力するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記正規化値は、
SUVbone={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(kBq)÷骨ミネラル量(g)}
または、
SUVbone={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(kBq)÷骨ミネラル密度(g/m2)}
で定義される値であるSUVboneである、請求項1から3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記第1〜第10手段は、いずれも、前記システムの処理手段がプログラム命令を実行されることにより形成される、請求項1から4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
システムの処理手段に実行されることにより、前記システムに、
骨疾患診断薬を用いて得られる核医学画像データを読み込むことと;
前記核医学画像データの被験者の性別情報を読み込むことと;
前記被験者の年齢情報を読み込むことと;
前記被験者の身長情報を読み込むことと;
前記被験者の体重情報を読み込むことと;
前記被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込むことと;
前記核医学画像データから所定の情報を得ることと;
前記性別情報と、前記年齢情報と、前記身長情報と、前記体重情報との少なくともいずれかに基づいて、骨ミネラル量または骨ミネラル密度を計算することと;
前記所定の情報を、前記投与した放射能量に関する情報と、前記骨ミネラル量または前記骨ミネラル密度とに基づいて正規化することと;
前記正規化した情報を出力することと;
を遂行させるプログラム命令を有し、ここで前記所定の情報は、減衰補正された関心領域の中の放射能量を、前記関心領域の体積で割った値である、コンピュータプログラム。
【請求項7】
骨疾患診断薬を用いて得られる核医学画像データの定量値を出力するシステムであって、
前記核医学画像データを読み込む第1手段と;
前記核医学画像データの被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込む第2手段と;
前記被験者の骨ミネラル量または骨ミネラル密度に関する情報を読み込む第3手段と;
前記核医学画像データから所定の情報を得る第4手段と;
前記第4手段により得られた前記所定の情報を、前記第2手段により得られた投与放射能量情報と、前記第3手段により得られた骨ミネラル量または骨ミネラル密度とに基づいて正規化する第5手段と;
前記第5手段により得られた正規化値を出力する第6手段と;
を備え、前記所定の情報は、減衰補正された関心領域の中の放射能量を、前記関心領域の体積で割った値である、システム。
【請求項8】
システムの処理手段に実行されることにより、前記システムに、
骨疾患診断薬を用いて得られる核医学画像データを読み込むことと;
前記核医学画像データの被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込むことと;
前記被験者の骨ミネラル量または骨ミネラル密度に関する情報を読み込むことと;
前記核医学画像データから所定の情報を得ることと;
前記所定の情報を、前記投与した放射能量に関する情報と、前記骨ミネラル量または前記骨ミネラル密度とに基づいて正規化することと;
前記正規化した情報を出力することと;
を遂行させるプログラム命令を有し、ここで前記所定の情報は、減衰補正された関心領域の中の放射能量を、前記関心領域の体積で割った値である、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核医学画像データの処理に関し、より詳細には、核医学検査の結果を客観的に評価することを目的とした新たな手法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
PETやSPECT、シンチグラフィーなどの核医学の技法に基づく画像化技術の原理は、放射線物質でマーキングした薬剤(放射性医薬品)を体内に投与し、体内から放出される放射線を検出して画像化するというものである。組織に異常が存在すると、正常組織に比べて放射性医薬品の代謝の様子が変化する。そこで、所望の代謝特性を有する放射性医薬品を選択して用いることにより、組織の機能異常を画像化することができる。
【0003】
PETやSPECT等で得られる一次的な画像は、放射線のカウント値を画像化したものである。このような画像においては、放射性医薬品の集積度が高い部位が明るく表示される。すなわち、当該部位に対応する画素は高い画素値を有する。しかし、放射能カウント値は様々な因子の影響を受けるため、特定の画素や関心領域の画素値が高いからといって、対応する組織に異常があるかどうかは必ずしも明らかではない。そこで、各画素値をある規則に従って正規化することにより、画素値を客観的に評価できるようにしようという試みがなされてきた。そのような正規化値として最も有名であるのがSUV(Standardized Uptake Value)である。SUVは次のような値である。
【0004】
[式1]
SUV={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(MBq)÷被験者の体重(kg)}
【0005】
すなわちSUVとは、関心領域の放射能濃度を体重あたりの放射能投与量で正規化した値であり、放射能または放射性医薬品の取り込み量を反映する指標となりうる値である。
【0006】
SUVは、同じように働いている組織については、被験者に依存せず同じような値となることが期待されていた。すなわち、例えば異常のない肝臓組織であれば被験者によらず同じような値となり、例えば異常のない肺組織であれば被験者によらず同じような値をとる、というような性質を有することが期待されていた。もしそうであれば、異なる被験者による複数の測定結果や、被験者は同一であるが時期の異なる複数の測定結果を互いに比較することが可能になる。(なお、測定値を比較可能な値に変換することを、本願の技術分野では「定量化する」という。)近年では、体重をそのまま用いるのではなく、脂肪を除いた体重(除脂肪体重という)を使ってSUVを修正した値を用いることも行われている。
【非特許文献1】Yoshifumi Sugawara, Kenneth R. Zasadny et al, "Reevaluation of the Standardized Uptake Value for FDG: Variations with Body Weight and Methods for Correction", November 1999 Radiology, 213, 521-525.
【発明の開示】
【0007】
しかし本願発明者は、放射性医薬品が骨疾患診断薬である場合は、SUVを用いることに疑いを抱いた。骨疾患診断薬は、例えばがんが骨へ転移しているかどうかを検出するためなどに使用される放射性医薬品であるが、これは骨に分布する薬剤である。SUVは体重を用いて正規化を行った値であり、骨に関する情報で正規化を行った値ではない。
【0008】
本願発明者は、次の被験者群を用いて、SUVの妥当性を検証する実験を行った。
・ 被験者数:15名(男性8名,女性7名)
・ 年齢:57−79歳(平均67歳)
・ 体重:39−69kg(平均53.3kg)
【0009】
これらの被験者に対して本願発明者は、骨疾患診断薬として
18F−NaFを投与してPET測定を行い、得られた画像データに対して腰椎に関心領域を設定してSUVを計算し、横軸に年齢をとって結果をグラフにプロットした。なお放射能投与量は133.7−217.8MBqで、平均176.1MBqであった。この結果を
図1に示す。
【0010】
図1のグラフから明らかなにように、結果には年齢依存性が見られる。試しに結果を直線でフィッティングしてみると、
y = 0.0557x + 1.813
となった。なおR
2 = 0.3584であった。回帰直線の傾きが有意ではないという帰無仮説によって5%水準で検定すると、P=0.018となって、傾きに有意性が認められた。
【0011】
すなわち、本願発明者の実験によれば、骨疾患診断薬についてはSUVに年齢依存性が存在することが示された。これは、骨疾患診断薬の取り込み量を反映する指標として、SUVは相応しいものではない可能性を示唆するものである。そうだとすれば、骨疾患診断薬に対する核医学データを定量化するための、新たな手法を確立することが急務である。
【0012】
本願発明者は、骨疾患診断薬が分布する骨に関連する指標として、骨ミネラル量(Bone Mineral Contents: BMC)および骨ミネラル密度(Bone Mineral Density: BMD)に着目した。従来のSUVで使用されてきた体重に代えて、BMCまたはBMDを核医学画像の正規化に用いることにより、骨疾患診断薬の定量評価の安定性を高められると考えた。
【0013】
この考えに基づき、本願発明者は、例えば、骨疾患診断薬の取り込み量を反映する指標として、従来のSUVの代わりに、次の式[3]または[4]で定義されるSUVboneを使用することを提案する。
【0014】
[式2]
SUVbone={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(kBq)÷骨ミネラル量(g)}
【0015】
[式3]
SUVbone={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(kBq)÷骨ミネラル密度(g/m
2)}
【0016】
なお、式2及び式3において、「関心領域」とは、画素1個に相当する領域である場合もあれば、複数の画素からなる領域である場合もある。
SUVboneの有用性を示すデータを次に
図2に載せる。
【0017】
図2Aは、
図1のグラフを作成したものと同じ実験データについて、
図1の結果を導いたものと同じ関心領域を設定し(すなわち腰椎に関心領域を設定し)、式2で定義されるSUVboneを計算して、横軸に年齢をとってグラフにプロットしたものである。比較のため、
図1に示したものと同じ、従来のSUVについてもグラフにプロットしている。一見して明らかなように、SUVboneは年齢依存性が極めて低く、年齢によらずほぼ一定の値を示している。試しにSUVboneを直線でフィッティングしてみると、
y = 0.0009x + 0.1371
となった。R
2 = 0.0854であった。すなわち事実上年齢依存性はみられなかった。統計的な有意性の有無を確かめるために、回帰直線の傾きが有意ではないという帰無仮説を5%水準で検定した。すると、P=0.29となって、回帰直線の傾きは統計的にも認められなかった。
【0018】
つまり、BMCを核医学画像の正規化に用いるという本願発明は、骨に集積する性質を有する放射性医薬品の取り込み量の定量化に、極めて有用であることが示された。
【0019】
式3で定義されるSUVboneについても、その有用性を示すデータを紹介する。
図2Bは、
図1のグラフを作成したものと同じ実験データについて、
図1の結果を導いたものと同じ関心領域を設定し(すなわち腰椎に関心領域を設定し)、式3で定義されるSUVboneを計算して、横軸に年齢をとってグラフにプロットしたものである。
図2Aと同様に、
図1に示したものと同じ従来のSUVについても、比較のためにグラフにプロットしている。一見して明らかなように、式3で定義されるSUVboneは年齢依存性が極めて低く、年齢によらずほぼ一定の値を示している。試しにSUVboneを直線でフィッティングしてみると、
y = 0.0002x + 0.0918
となった。R
2 = 0.0089であった。すなわち事実上年齢依存性はみられなかった。統計的な有意性の有無を確かめるために、回帰直線の傾きが有意ではないという帰無仮説を5%水準で検定した。すると、P=0.73となって、回帰直線の傾きは統計的にも認められなかった。すなわち、回帰直線の傾きは統計的にもゼロであり、SUVboneの年齢依存性は統計的にも存在しないことが示された。
【0020】
つまり、BMDを核医学画像の正規化に用いるという本願発明は、骨に集積する性質を有する放射性医薬品の取り込み量の定量化に、極めて有用であることが示された。
【0021】
従って、本願発明の実施形態は、一般に、核医学画像データから得られる情報を、骨ミネラル量(Bone Mineral Contents: BMC)または骨ミネラル密度(Bone Mineral Density: BMD)で正規化することを特徴とする。
【0022】
実施形態によっては、BMCやBMDは、被験者の性別、年齢、身長、体重から推定してもよい。
【0023】
本願発明の好適な実施形態の一例は次のようなシステムであって、該システムは、
核医学画像データを読み込む第1手段と;
前記核医学画像データの被験者の性別情報を読み込む第2手段と;
前記被験者の年齢情報を読み込む第3手段と;
前記被験者の身長情報を読み込む第4手段と;
前記被験者の体重情報を読み込む第5手段と;
前記被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込む第6手段と;
前記核医学画像データから所定の情報を得る第7手段と;
前記第2手段により得られた性別情報と、前記第3手段により得られた年齢情報と、前記第4手段により得られた身長情報と、前記第5手段により得られた体重情報との少なくともいずれかに基づいて、骨ミネラル量または骨ミネラル密度を計算する第8手段と;
前記第7手段により得られた前記所定の情報を、前記第6手段により得られた投与放射能量情報と、前記第8手段により得られた骨ミネラル量または骨ミネラル密度とに基づいて正規化する第9手段と;
前記第9手段により得られた正規化値を出力する第10手段と;
を備える。
【0024】
本願発明の好適な実施形態の一例は次のようなコンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムは、
システムの処理手段に実行されることにより、前記システムに、
核医学画像データを読み込むことと;
前記核医学画像データの被験者の性別情報を読み込むことと;
前記被験者の年齢情報を読み込むことと;
前記被験者の身長情報を読み込むことと;
前記被験者の体重情報を読み込むことと;
前記被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込むことと;
前記核医学画像データから所定の情報を得ることと;
前記性別情報と、前記年齢情報と、前記身長情報と、前記体重情報との少なくともいずれかに基づいて、骨ミネラル量または骨ミネラル密度を計算することと;
前記所定の情報を、前記投与した放射能量に関する情報と、前記骨ミネラル量または前記骨ミネラル密度とに基づいて正規化することと;
前記正規化した情報を出力することと;
を遂行させるプログラム命令を有する。
【0025】
本願発明の好適な実施形態の一例は次のようなシステムであって、該システムは、
核医学画像データを読み込む第1手段と;
前記核医学画像データの被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込む第2手段と;
前記被験者の骨ミネラル量または骨ミネラル密度に関する情報を読み込む第3手段と;
前記核医学画像データから所定の情報を得る第4手段と;
前記第4手段により得られた前記所定の情報を、前記第2手段により得られた投与放射能量情報と、前記第3手段により得られた骨ミネラル量または骨ミネラル密度とに基づいて正規化する第5手段と;
前記第5手段により得られた正規化値を出力する第6手段と;
を備える。
【0026】
本願発明の好適な実施形態の一例は次のようなコンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムは、
システムの処理手段に実行されることにより、前記システムに、
核医学画像データを読み込むことと;
前記核医学画像データの被験者に投与した放射能量に関する情報を読み込むことと;
前記被験者の骨ミネラル量または骨ミネラル密度に関する情報を読み込むことと;
前記核医学画像データから所定の情報を得ることと;
前記所定の情報を、前記投与した放射能量に関する情報と、前記骨ミネラル量または前記骨ミネラル密度とに基づいて正規化することと;
前記正規化した情報を出力することと;
を遂行させるプログラム命令を有する。
【0027】
本発明の好適な具現化形態のいくつかを、特許請求の範囲に含まれる請求項に特定している。しかしこれらの請求項に特定される構成が、本明細書及び図面に開示される新規な技術思想の全てを含むとは限らない。出願人は、現在の請求項に記載されているか否かに関わらず、本明細書及び図面に開示される新規な技術思想の全てについて、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】核医学の手法による骨転移診断において、SUVに年齢依存性が存在することを示すグラフである。
【
図2A】本願発明者が提案するSUVbone(BMC使用)に年齢依存性が見られないことを示すグラフである。
【
図2B】本願発明者が提案するSUVbone(BMD使用)に年齢依存性が見られないことを示すグラフである。
【
図3】本発明を具現化しうるシステムの構成を説明するための図である。
【
図4】本発明による処理の例を説明するための図である。
【0029】
図3は、本明細書で開示される様々な処理を実行しうるハードウェアの例である、装置又はシステム100の主な構成を説明するための図である。
図3に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102,主記憶装置104,補助記憶装置106,ディスプレイ・インターフェース107,周辺機器インタフェース108,ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、補助記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやSSDなどを用いることができる。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、キーボードやマウス、タッチパネルのようなユーザインタフェースを接続することができ、これは周辺機器インタフェース108を介して接続される。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。
【0030】
補助記憶装置106には、オペレーティングシステム(OS)110や、本明細書で開示される特徴的な処理を提供するための解析プログラム120などが格納されていることができる。システム100の最も基本的な機能は、OS110がCPU102に実行されることにより提供される。
【0031】
また、本明細書で開示される新規な処理は、解析プログラム120がCPU102に実行されることにより提供される。解析プログラム120を構成するプログラム命令群は、C++やJAVA(登録商標)など、既存の如何なるプログラム言語でプログラムされたものでもよく、好適なコンパイラにより実行可能形式に変換されて補助記憶装置106に格納されることができる。
【0032】
さらに補助記憶装置106には、解析プログラム120による解析の対象となる核医学画像データ132や、核医学画像データ132の各種測定条件を格納する測定条件データ134、処理中に計算される情報を格納するデータ136や、処理結果を格納するデータ138なども格納されていることができる。
【0033】
システム100は、
図1に描かれた要素の他にも、電源や冷却装置など通常のコンピュータシステムが備える装置と同様の構成を備えることができる。コンピュータシステムの実装形態には、記憶装置の分散・冗長化や仮想化、複数CPUの利用、CPU仮想化、DSPなど特定処理に適したプロセッサの使用、特定の処理をハードウェア化してCPUに組み合わせることなど、様々な技術を利用した様々な形態のものが知られている。本明細書に開示される事項は、どのような形態のコンピュータシステム上に搭載されてもよく、コンピュータシステムの形態によって本発明の範囲が限定されることはない。本明細書に開示される事項は、一般的に、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステムなどとして具現化されることができる。
【0034】
また、システム100の製造販売時や起動時には、データ132〜138は、補助記憶装置106の中に記憶されていない場合が多いことに注意されたい。これらのデータは、例えばネットワーク・インターフェース109を介して外部の装置からシステム100に転送されてきたデータであってもよい。実施形態によっては、データ136や138は、プログラム120や他のプログラムがCPU102に実行されることを通じて形成され、記憶されたものであってもよい。また、プログラム120やOS110の実装形態によっては、データ136や138は補助記憶装置106に格納されず、主記憶装置104にしか格納されない場合もある。場合によっては、データ134はデータ132に一体化されており、データ134は独立のデータファイルとして存在しないこともある。本発明の範囲は、データ132〜138の存在の有無によって限定されるものではないことを、念のために記しておく。
【0035】
次に、本実施例において解析の対象となる核医学画像データ132について説明する。核医学画像データ132は、例えば骨転移診断のためのPET測定によって得られる画像データであることができ、例えば、放射性医薬品として被験者に
18F−NaFを投与し、体内から放射される放射線をPET装置で検出して、その放射線カウント値に基づいて形成した画像データであることができる。通常、各画素値は放射能カウント値に対応する値を有しており、すなわち各画素値は放射能の強度を表している。なお本発明で解析の対象となりうる核医学画像データは、
18F−NaFを用いたPET画像に限られず、他の放射性医薬品(ヒドロキシメチレンジホスホン酸テクネチウム(
99mTc)注射液、メチレンジホスホン酸テクネチウム(
99mTc)注射液等)を用いた各種の核医学画像(PET画像、SPECT画像、シンチグラフィー画像)も、本発明による解析の対象となりうる。
【0036】
測定条件データ134は、核医学画像データ132に含まれるPET画像が作成される基となったPET測定に関わる各種の条件を格納している。測定条件データ134に格納される条件には、少なくとも被験者の性別、年齢、身長、体重が含まれていることが好ましく、また、放射性医薬品の投与量が含まれていることが好ましい。場合によっては、測定条件データ134の内容は核医学画像データ132に含まれており、測定条件データ134は独立のデータファイルとして存在しない場合もある。実施形態によっては、測定条件データ134に含まれている少なくともいずれかの条件は、周辺機器インタフェース108に接続されるキーボード等を利用してユーザが入力したものであってもよい。実施形態によっては、測定条件データ134は、補助記憶装置106の中ではなく、主記憶装置104の中に格納されていてもよい。
【0037】
次に、
図4を用いて、好適な実施例の特徴的な処理について説明する。この処理は、解析プログラム120がCPU102に実行されることによりシステム100が遂行する処理であってもよい。
【0038】
ステップ200は処理の開始を示す。ステップ202では、解析プログラム120による解析処理を行う準備として、核医学画像データ132の少なくとも一部が、主記憶装置104へコピーされる。
【0039】
ステップ204では、投与放射能量を初めとする、核医学画像データ132に関する測定条件の情報の取得が行われる。このステップは、実施例によっては、前述の測定条件データ134をロードすることによって行われる。別の実施例では、核医学画像データ132の中に格納されている各種条件情報を読み取ることによって行われる。またさらに別の実施例では、周辺機器インタフェース108を介して接続されるキーボード等から各種条件の入力を受けてもよい。このとき解析プログラム120の命令に従うCPU102は、ディスプレイ・インターフェース107を介して、これに接続されるディスプレイ上に、測定条件を入力すべき旨のメッセージを表示してもよい。なお実施形態によっては、ステップ204によって得られる測定条件の情報には、核医学画像データ132の被験者の情報(性別、年齢、体重、身長等)を含んでいても良い。
【0040】
ステップ206では、骨ミネラル量(Bone Mineral Contents: BMC)または骨ミネラル密度(Bone Mineral Density: BMD)の計算が行われる。BMCやBMDは、被験者の性別、年齢、身長、体重から推定することができる。特に日本人についてはデータベースを用いた先行研究(例えば、European Journal of Clinical Nutrition (2001) 55, p.462-470)がある。この文献によると、BMCやBMDを、次の式から推定することができることが示されている。
骨ミネラル量(男性;kg)= -1.81 - 0.0015×年齢+1.89×身長+0.017×体重
骨ミネラル量(女性;kg)= -1.05 - 0.009×年齢+1.57×身長+0.017×体重
骨ミネラル密度(男性;g/m
2)= 0.934 - 0.00081×年齢+0.003×体重
骨ミネラル密度(女性;g/m
2)= 0.824 - 0.00368×年齢+0.137×身長+0.0026×体重
なお、これら式において、年齢の単位は年,体重の単位はkg,身長の単位はmである。
【0041】
本実施例において、解析プログラム120はこれらの式を内部に組み込んでおり、ステップ204で得た被験者の性別、年齢、身長、体重の各情報をこれらの式に代入することにより、骨ミネラル量BMCや骨ミネラル密度BMDを計算するように、CPU102を制御するように構成される。実施形態によっては、計算したBMC及び/又はBMDを、例えばデータ136として、例えば補助記憶装置106や主記憶装置104に格納してもよい。
【0042】
ステップ208は、核医学画像データ132から所定の情報を得る段階を示している。この情報は後に、BMC又はBMDを用いて正規化され(ステップ210)、マップや数値として出力される(ステップ214)。ステップ208で得る情報は、実施形態によって様々であることができる。ある実施形態では、それは各画素の画素値そのものである。この場合、既にステップ202でデータの読み込みが行われているため、ステップ208は不要となる。実施形態によっては、本ステップで得られる情報は、画素毎の放射能濃度であってもよい。そこで本ステップにおいて、画像データ132の各画素の画素値を放射能濃度に換算するために、各画素値に対して画素の容積の逆数といった、所定の係数が乗ぜられてもよい。
【0043】
実施形態によっては、ステップ208において、核医学画像データ132の各画素の画素値(カウント数)を補正するための補正が行われてもよい。この補正により、放射線が体内で吸収・散乱する効果や、放射性核種の崩壊に起因する放射能の減衰が補正されてもよい。これらの補正を行うことは、核医学の手法では一般的に行われているため、詳細は説明しない。実施形態によっては、核医学画像データ132は、予めこのような補正が施されたデータである場合がある。
【0044】
実施形態によっては、ステップ208において、複数の画素からなる領域における放射能カウント値や、複数の画素からなる領域における放射能濃度(すなわち、複数の画素からなる領域内の放射能量を、当該領域の体積で割った値)が計算されてもよい。これらの値は上述の減衰補正がなされた値であってもよい。
【0045】
実施形態によっては、ステップ208において、複数の情報が計算されてもよい。例えば、画素毎の放射能カウント値、画素毎の放射能濃度、複数の画素からなる領域における放射能カウント値、複数の画素からなる領域における放射能濃度のうちの2種類またはそれ以上の情報(値)が計算されてもよい。いずれも上述の減衰補正がなされた値であってもよい。
【0046】
ステップ210では、ステップ208で得た情報の正規化が行われる。具体的には、ステップ208で得た情報(値)を、(放射能投与量÷BMC)または(放射能投与量÷BMD)で割り算する。ここで放射能投与量はステップ204で得た値を用い、BMC又はBMDはステップ206で得た値を用いる。実施形態によっては、放射能投与量やBMC,BMDの単位を適宜変更してもよい。
【0047】
ステップ208で取得される情報が、例えば、減衰補正された放射能濃度であった場合、ステップ210の正規化処理により得られる値は、式2または式3で定義されたSUVboneとなる。
【0048】
ステップ210で正規化された値はステップ214で出力されるが、実施形態によっては、出力の前に更なる処理を加えてもよい。
図4には、そのようなオプションの処理がステップ212で示されている。例えば、ステップ208で取得される情報が、減衰補正された画素毎の放射能濃度であり、それがステップ210で正規化される場合(すなわち、ステップ210によってSUVboneが計算される場合)、ステップ212において、SUVboneを、複数の画素からなる関心領域内で積算してもよい。
【0049】
ステップ214では、ステップ210及び/又は212で計算した値の出力が行われる。出力は、ステップ210及び/又は212で計算した値を画像化して表示することを含んでもよく、及び/又は、当該値を数値として表示することを含んでもよい。また、当該値をデータ138として補助記憶装置106に保存することを含んでもよい。
【0050】
ステップ210で計算される値が、画素毎の、正規化された放射能濃度である場合(すなわち、画素毎のSUVboneである場合)、これを画像として、あたかも断層像のようにマップ表示することが可能である。また、ステップ210又は212において、複数の画素からなる領域内における、正規化された放射能濃度が計算される場合、それを数値として表示してもよい。実施形態によっては、画素毎の正規化値のマップと、特定の関心領域の正規化値とが、一緒に表示されてもよい。これらの表示は、例えば、ディスプレイ・インターフェース107に接続されたディスプレイ上で行われてもよい。
【0052】
本発明の実施形態を好適な例を用いて説明してきたが、これらの例は本発明の範囲を限定するために紹介されたわけではなく、特許法の要件を満たし、本発明の理解に資するために紹介されたものである。本発明は様々な形態で具現化されることができ、本発明の実施形態には、ここに例示した以外にも多くのバリエーションが存在する。また本発明は、実施例で紹介した
18F−NaFを用いたPET画像以外にも、様々な放射性薬剤を用いた核医学画像(PET画像やSPECT画像、シンチグラフィー画像)にも適用可能である。
【0053】
本明細書に説明された各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。特にフローチャートで紹介された処理の順番は、必ず紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施するものの好みに応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したり、さらに複数のブロックを一体的に実装したり、逆に複数のサブブロックに分割したり、適当なループとして実行したりするように実装してもよい。また実施形態によっては、フローチャートのブロックのいくつかは実装されない場合がある。例えばステップ212が不要である実施形態があり得ることは前述の通りである。その他にも、実施形態によっては、BMCやBMDが予め計算されており、ステップ206で改めて計算し直す必要がない場合がある。またBMC及びBMDは、公知の方法によって別途測定された値であっても良い。BMC及びBMDの定量法としては、一般的な骨塩定量装置による方法の他、公知の種々の方法(例えば、「歯放、第18巻(1978)p.278〜295」記載の方法)を用いることができる。その場合は、ステップ206は、BMCやBMDの読み込み処理に置き換えられることが可能である。これらのバリエーションは全て本発明の範囲に含まれるものである。請求項に特定される処理の記載順も、処理の必須の順番を特定しているわけではなく、例えば処理の順番が異なる実施形態や、ループを含んで処理が実行されるような実施形態なども、請求項に係る発明の範囲に含まれるものである。現在の特許請求の範囲で特許請求がなされているか否かに関わらず、出願人は、本発明の思想を逸脱しない全ての形態について、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【符号の説明】
【0054】
100 システム
102 CPU
104 主記憶装置
106 補助記憶装置
107 ディスプレイ・インターフェース
108 周辺機器インタフェース
109 ネットワーク・インターフェース
110 OS
120 解析プログラム
【要約】
【課題】核医学データを定量化するための新たな手法を確立する
【解決手段】核医学画像データから得られる情報を、骨ミネラル量(Bone Mineral Contents: BMC)または骨ミネラル密度(Bone Mineral Density: BMD)で正規化することを特徴とする。実施形態によっては、従来のSUVに代えて、本願発明者が発明したSUVbone={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(kBq)÷骨ミネラル量(g)}またはSUVbone={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(kBq)÷骨ミネラル密度(g/m
2)}を用いる。BMCやBMDは、被験者の性別、年齢、身長、体重から推定してもよい。
【選択図】
図3