特許第5754753号(P5754753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754753
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】車両のドライブトレインを制御する方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/184 20120101AFI20150709BHJP
   F01P 7/04 20060101ALI20150709BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20150709BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20150709BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20150709BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B60W30/184
   F01P7/04 A
   B60W30/14
   B60W10/11
   B60W10/06
   B60W10/00 106
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-543538(P2013-543538)
(86)(22)【出願日】2010年12月17日
(65)【公表番号】特表2014-503410(P2014-503410A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】EP2010007730
(87)【国際公開番号】WO2012079608
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2013年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】500277711
【氏名又は名称】ボルボ ラストバグナー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】エリクッソン,アンダース
(72)【発明者】
【氏名】スティーン,マルカス
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−324613(JP,A)
【文献】 特開2007−303451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
F01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両、特に実用車のドライブトレインを制御する方法であり、前記ドライブトレインは冷却システムを備えたエンジンを含み、前記冷却システムはエンジンファンを含み、前記冷却システム及び前記ドライブトレインは電子制御装置(ECU)によって制御され、前記ECUは近づいているルートの地形データを利用できる方法であって、
・前記車両の近づいているルートの地形を測定するステップと、
・前記近づいているルートの前記地形に応じて決まる前記エンジンの負荷を推定するステップと、
・前記近づいているルート間の前記冷却システムの温度変化を推定するステップと、
・前記車両の前記近づいているルート間で前記冷却システムの実際の温度が第1温度閾値以下に維持されるように、前記推定された温度変化に応じて前記ドライブトレインを制御するステップと、
を含んでおり、
前記第1温度閾値は前記エンジンファンが起動される前記冷却システム及び前記エンジンの温度に応じて決まり、
該方法が、
・前記冷却システムの前記実際の温度が前記第1温度閾値以下に維持されるように、前記エンジンの燃料スロットルを制御するステップ、及び/又は
・前記エンジンの出力トルクを制限するステップ、及び/又は
・前記冷却システムの前記実際の温度が前記第1温度閾値以下に維持されるように、変速機のシフト方法を制御するステップ、
を更に含む、方法。
【請求項2】
・前記近づいているルート間で前記冷却システムの実際の温度勾配が温度勾配閾値以下に維持されるように、前記ドライブトレインを制御するステップ、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1温度閾値は、前記近づいているルートの前記地形が、前記車両が坂の頂上に近づいており、その後の下り勾配が前記冷却システムを所定の温度閾値以下に冷却するのに十分であるような場合、前記所定の温度閾値よりも大きな最高温度閾値に調整される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記冷却システムの前記温度変化の前記推定は、更に前記車両の周囲の実際の天候及び風条件に応じて決まる、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
自動速度制御装置と共に使用するように適応される、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
・前記自動速度制御装置の設定速度を制限する又は低下させるステップ、
を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記冷却システムの前記実際の温度が前記所定の温度閾値に近い場合、
・シフトダウンを開始するステップ、
を更に含む、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記近づいているルートの前記地形が、前記車両が下り勾配にいる又は間もなく到達することを示している場合にのみ、前記シフトダウンが開始される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
・上り勾配への接近中に前記車両の前記速度が上がるように、且つ前記速度を用いて前記上り勾配を登っている間にエンジン負荷が全体的に低くなるようにすることができるように、前記エンジンを制御するステップ、
を更に含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特に大型車両又は類似の車両等の実用車のエンジン温度を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両エンジンにおける効率的な作業環境を得るために、エンジンには冷却システムが設けられている。通常、エンジンは、冷却液及びエンジンファンを備えた熱交換器を利用する。冷却システムの温度はエンジンの作業負荷に応じて決まるため、エンジン内では、冷却液の温度が高くなり過ぎるのを避けるために、エンジンファンが熱交換器上に強制的に空気流を送る。今日、エンジンファンの起動及び制御はサーモスタットによって制御されている。
【0003】
大型実用車では特に、エンジンファンが電力を消費する主なものであり、そのため車両の燃料効率に大きな影響を与える。エンジンファンの起動を回避することを目的とする幾つかの方法がある。前記方法は、車両の補助システムを利用して短期間でエンジンから熱を抽出することで、エンジンファンの起動が遅延又は回避される。しかしながら、これらの方法は、運転室の加熱のような前記補助システムの用途が、必ずしも必要とされたり求められたりするとは限らないという欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した問題を解決し、それによってより効率的にドライブトレインを制御する方法を提案することを目的とする。
【0005】
本発明は、エンジン及び冷却システムの温度が、エンジンファンの起動温度に応じて決まる所定の閾値以下に維持されるように車両のドライブトレインが制御されている場合、エンジンファンの起動を回避することができるという所見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、車両、特に実用車のドライブトレインを制御する方法を提供する。本方法は、冷却システムを備えたエンジンを含むドライブトレインに適応しており、前記冷却システムはエンジンファンを含み、冷却システム及びドライブトレインは電子制御装置(ECU)によって制御され、前記ECUは近づいているルートの地形データを利用できる方法であって、
・車両の近づいているルートの地形を測定するステップと、
・近づいているルートの地形に応じて決まるエンジンの負荷を推定するステップと、
・近づいているルート間の冷却システムの温度変化を推定するステップと、
・車両の近づいているルート間で冷却システムの実際の温度が温度閾値以下に維持されるように、推定された温度変化に応じてドライブトレインを制御するステップと、
を含んでおり、前記温度閾値は前記ファンが起動される温度に応じて決まる。
【0007】
この方法の利点は、更なる冷却を行うために冷却ファンを起動しなければならない回数を減らし、それによってエンジンを冷却するのに必要なエネルギーを削減することである。従って、近づいているルートの地形が測定されると、近づいているルートの前記地形やドライブトレインの仕様のような影響因子を考慮して、近づいているルート間のエンジンの負荷の推定をアルゴリズムによって実行することができる。ECUは、利用可能なあらゆる情報源(即ち、ナビゲーションシステム、デジタルマップ、又はルート情報のデータベース)から近づいているルートの地形に関する情報を得ることができる。それにより、温度変化も推定することができ、エンジンファンが起動されるピーク温度を見つけることができる。それにより、エンジン及び冷却システム温度を、エンジンファンが起動される温度閾値以下に維持する、補正されたドライブトレインの制御方法が実施される。本発明の方法を用いることにより、高電力を消費するエンジンファンの起動を回避することができるので、燃料が節約される。エンジンファンの起動の完全な回避は、全てのルートで得ることができるわけではないだろう。しかしながら、本発明の方法をできる限り実施することができる。本方法は、超過及び/又は交差してはならない加速度、車速等の限界値を伴って完成させることが可能であり、本発明の方法は、限界値のうちの1つに到達する範囲まで実施される。
【発明の効果】
【0008】
本方法は、通常、十分な空気流を熱交換器上に供給するために高出力エンジンを有し、そのため大きなエンジンファンをも有する実用車にとって、特に効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による方法は、冷却システム及びエンジンファンを有するエンジンを備えたドライブトレインを含む車両に適応している。冷却システム及びドライブトレインは電子制御装置(ECU)によって制御され、ECUは地形データを備えたナビゲーションシステムを利用できる。冷却システム及びドライブトレインを制御するECUは、周知の技術である。
【0010】
ナビゲーションシステムは、車両の操縦者にとって利用可能な、又は車両のECUによって使用されるだけのブラックボックスシステムとしての、あらゆる種類の衛星を利用したナビゲーションシステムであってよい。衛星を利用したナビゲーションシステムは最も一般的なナビゲーションシステムであるが、その他の技術に基づいた何らかの他の種類のナビゲーションシステムを本発明の方法において使用することも可能である。
【0011】
本発明の方法は、エンジンファンの起動に対する閾値に応じてドライブトレインを制御するという考えに基づいており、そのため、エンジンファンの起動が回避されるようにエンジン及び/又は冷却システムの温度を維持することを目的としている。これにより、車両の燃料消費量を削減することになる。
【0012】
本発明の方法の第1ステップは、車載ナビゲーションシステムを用いて車両の近づいているルートの地形を測定することである。ナビゲーションシステムは、市販の地図を含む地図データベースや、ルートに沿った以前のドライブから記録された道路情報を含むデータベースからの道路情報にアクセスすることができる。近づいているルートに関する地形情報(即ち、高度の変化)を含むその他の情報源も同様に適している。
【0013】
近づいているルートの地形に基づいて、エンジンの負荷が推定される。エンジンの推定された負荷に基づいて、近づいているルート間の冷却システムの温度変化の推定が導き出される。ドライブトレインのパラメータの全てがわかっているので、そのような推定は容易に行われるものであり、周知である。更に、本方法は、エンジンの負荷に影響を与え、ECUがアクセスできる入手可能な全てのデータ、例えば、車速、車両加速度、更には、入手可能な場合は車両質量を使用するように適応される。
【0014】
負荷及び温度の推定は一部で行われることが好ましく、その一部の長さは近づいているルートの地形に応じて決まる。その一部は、近づいているルートの、例えば1つ以上の坂などの関連する傾斜を含む部分であることが好ましく、エンジン及び冷却システムの推定された温度が第1閾値以下の所定値である下り勾配後にその部分を終わらせると都合が良い。
【0015】
冷却システムの推定された温度変化がいずれかの時点で第1閾値以上の温度に到達した場合、冷却システムの温度を前記第1温度閾値以下に維持する、ドライブトレインの代替制御が計算される。そして、このドライブトレインの代替制御が実施される。
【0016】
従って、ドライブトレインは、冷却システムの実際の温度が車両の近づいているルート間で第1温度閾値以下に維持されるように、推定された温度変化に応じて制御される。
【0017】
この制御がどのように実施されるかは、近づいている地形に応じて決まることが明らかである。しかしながら、この制御は、上り勾配の前の平坦な又は下り坂のルートの範囲で車両の速度を上げることによって実現することができる。車両の運動エネルギーを増大させることによって、車両は低いエンジン負荷で前記上り勾配を登ることが可能であり、そのため、エンジンの温度を第1温度閾値以上に上昇させる必要がない。
【0018】
第1温度閾値は、前記ファンが起動する、冷却システム及びエンジンの温度に応じて決まる。しかしながら、冷却システムの温度をこの第1温度閾値以下に維持することによって、車両は、冷却システムの温度を前記閾値以下に維持するためにエンジンファンを起動させることなく斜面を登ることが可能である。エンジンファンは比較的大きなエネルギーを消費するものであるので、変更後のドライブトレイン制御により燃料が節約される。
【0019】
本方法の更なる実施形態では、ドライブトレインは、冷却システムの実際の温度勾配が車両の近づいているルート間の温度勾配閾値以下に維持されるように制御される。特定の瞬間の温度をただ見る代わりに、第1温度閾値を超えた後の温度上昇が高くなり過ぎるのを防ぐために、温度勾配の勾配が監視される。温度勾配が急過ぎると測定された場合、車両は、近づいているルートのある部分の間のエンジンの負荷を軽減すること、従ってドライブトレインの制御方法を補正することが必要になる可能性がある。
【0020】
温度閾値は、近づいているルートの地形が、車両が坂の頂上に近づいており、その後の下り勾配が冷却システムを所定の温度閾値以下に冷却するのに十分であるような場合、前記所定の温度閾値よりも大きな最高温度閾値に調整してもよい。これにより、坂の頂上を通過するほんの少しの間にエンジンの温度をわずかに上昇させることが可能になる。冷却システムの実際の温度が一時的に温度閾値を超えるのを許容することによって、ECUはファンの起動を積極的に回避することができ、エネルギーが節約される。近づいている下り勾配では、エンジンの負荷が軽減され、車両の速度も下り勾配によって増加し、それによって空気流がエンジン及び冷却システムを冷却し、冷却システム内の冷却液の流量がそれに応じて維持又は増加されるため、エンジンの効果的な冷却が可能になるので、より高い最高温度閾値が可能である。
【0021】
本方法において、冷却システムの温度変化の推定は、更に車両の周囲の実際の天候及び風条件に応じて決まる場合がある。冷却システムの温度変化の予測に車両の周囲の実際の温度を用いることによって、より信頼性の高い予測がもたらされることになり、本発明の方法がより正確になる。
【0022】
本方法はまた、自動速度制御装置と共に使用するように適応されてもよい。自動速度制御装置の使用中に本発明の方法を実施することによって、本方法を自動的に実行することができる。また、自動速度制御装置の設定速度は、エンジンへの負荷及びそれによる熱発生を制限するように制限する又は低下させることができる。自動速度制御装置が起動せずに本方法を使用している場合、ECUは、自動速度制御装置が起動しているのと同じような範囲までドライブトレインを制御することはできないが、エンジンのトルク出力、変速機の1つ又は複数のギアの使用、及び変速機の強制シフトダウン又はアップを制限することは可能になる。
【0023】
エンジン及び冷却システムの温度を前記温度閾値以下に維持するために、エンジンのトルク限界を設定することができ、エンジンのトルクが制限される。更に、エンジンの燃料スロットルは、冷却システムの実際の温度が前記温度閾値以下に維持されるように制御することができる。本方法の目的を達成するための更なる方策は、エンジン及び冷却システムの実際の温度が前記温度閾値以下に維持されるように変速機のシフト方法を適応させることである。それらの全ての方策(エンジントルクの制限、燃料スロットル制御の補正、及びシフト方法の適応)は、互いに個別に又は組み合わせて使用することができる。
【0024】
例えば、冷却システムの実際の温度が所定の温度閾値に近い場合、シフトダウンが開始される。シフトダウンによりエンジンの速度が速まり、それによって冷却システム内の冷却液の流量が高まることになる。任意選択的には、近づいているルートの地形が、車両が下り勾配にいる又は間もなく到達することを示している場合にのみ、前記シフトダウンを開始してもよい。下り勾配の走行中のシフトダウンにより、高車速での走行と比べてエンジンの速度が速まることになる。エンジンの速度が速まることにより、冷却システム内の冷却液の流量が高まることになり、それによってエンジンの冷却がより効率的になる。下り勾配の運転中、前記第1閾値に到達していない場合であっても、エンジンファンを起動させることが更に好都合な場合があり、これはエンジンの温度を更に第1温度閾値以下に低下させるためである。
【0025】
代替的には、本方法は、上り勾配への接近中に車両の速度が上がるようにエンジンを制御するステップを更に含む。上り勾配に到達する前に車両の速度を上げることによって、車両の運動エネルギーが増大し、上り勾配を登っている間のエンジンの負荷を軽減することができ、冷却システムによるエンジンの冷却要求が低下することになる。