(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754787
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】太陽電池素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
H01L31/04 264
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-30156(P2014-30156)
(22)【出願日】2014年2月20日
(62)【分割の表示】特願2009-247220(P2009-247220)の分割
【原出願日】2009年10月28日
(65)【公開番号】特開2014-90217(P2014-90217A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512127176
【氏名又は名称】ヘレウス プレシャス メタルズ ノース アメリカ コンショホーケン エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100094709
【弁理士】
【氏名又は名称】加々美 紀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】中村 正美
(72)【発明者】
【氏名】新藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】金作 整
【審査官】
井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−209032(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/097264(WO,A1)
【文献】
特開2010−184852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−50/15
H01B 1/00−1/24
H01L 21/28−21/288
C03C 1/00−14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一導電型を呈する半導体基板を用意する工程、
前記半導体基板の受光面側の表面にテクスチャ構造を形成すると共に、半導体基板の前記導電型とは逆の導電型を呈する領域の拡散層を形成する工程、
前記拡散層上に窒化珪素の反射防止膜を設ける工程、
前記反射防止膜上に表面電極を形成する工程、
前記受光面と反対側の基板表面に裏面電極を形成する工程、
を含む太陽電池素子の製造方法において、
前記表面電極を、銀を主成分とする導電性粉末と、網目形成成分として酸化テルルを酸化物換算で30〜90モル%含むテルル系ガラスフリットと、有機ビヒクルを含み、鉛含有量が1000ppm以下である導電性ペーストを前記反射防止膜上に塗布し、ピーク到達温度500〜900℃で焼成することによって形成することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。
【請求項2】
前記表面電極を、前記裏面電極の形成工程における焼成よりも前または後または同時に焼成することによって形成することを特徴とする請求項1記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項3】
前記テルル系ガラスフリットが、酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項4】
前記テルル系ガラスフリットが、前記酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上を合計で5〜60モル%含むことを特徴とする請求項3記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項5】
前記テルル系ガラスフリットが、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化アルミニウムの何れか一種以上を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項6】
前記テルル系ガラスフリットが以下の成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池素子の製造方法。
酸化テルル:30〜90モル%
酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上:合計で5〜60モル%
酸化亜鉛:0〜50モル%
酸化ビスマス:0〜25モル%
酸化アルミニウム:0〜25モル%
【請求項7】
前記テルル系ガラスフリットが、前記導電性粉末100重量部に対して0.1〜10重
量部含まれることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の太陽電池素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を主成分とする導電性粉末とガラスフリットを含む焼成型の導電性ペーストを用いて表面電極を形成する太陽電池素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な太陽電池素子は、シリコン系の半導体基板、拡散層、反射防止膜、裏面電極、表面電極(以下、「受光面電極」と称することもある)を備えている。このうち、特に表面電極の形成に際しては、銀を主成分とする導電性粒子、ガラスフリット、有機ビヒクル等を混合した導電性ペーストを用い、スクリーン印刷や孔版印刷等によって電極形成を行っている。
【0003】
一例として
図1に示される結晶系シリコン太陽電池においては、一般にテクスチャ構造と呼ばれる凹凸形状を形成したp型結晶系シリコン基板4の表面(受光面)に拡散層3を形成する。ここで拡散層3は、半導体基板4の受光面にリン(P)等の不純物を拡散させることによって形成され、半導体基板4とは逆の導電型を呈する領域であり、本例ではn型で説明する。n型拡散層3は、例えば半導体基板4を拡散炉中に配置してオキシ塩化リン(POCl
3)などの中で加熱することによって形成される。この拡散層3の上には、反射防止機能と併せて太陽電池素子の保護のため、窒化珪素、酸化珪素、酸化チタン等からなる絶縁性の反射防止膜2を形成する。例えば窒化珪素(以下「SiN」と称する)の場合には、シラン(SiH
4)とアンモニア(NH
3)との混合ガスを用いたプラズマCVD法などで形成される。反射防止膜2は、半導体基板4との屈折率差等を考慮して、例えば屈折率が1.8〜2.3程度で5〜100nm程度の厚みに形成される。
その後、反射防止膜2上に、スクリーン印刷法等により、前述した導電性ペーストを用いて表面電極1をグリッド状に印刷・塗布し、500〜900℃程度の温度で焼成することにより表面電極1を形成する。この焼成の際、通常、導電性ペーストに含まれるガラスフリットの作用により、反射防止膜2を溶解・除去することによって、表面電極1とn型拡散層3との電気的接触が達成される。これは一般的にはファイアースルーと称されている。
一方、半導体基板4の裏面側には、例えばアルミニウムなどが拡散した高濃度p型のBSF層が形成されると共に裏面電極5が形成される。
【0004】
ファイアースルーが良好に行われるためには、導電性ペースト中のガラスフリットとして、反射防止膜2との溶解性の良いガラスを使用することが望まれる。その中でも、従来、表面電極形成の導電性ペーストに含まれるガラスフリットとしては、ガラスの軟化点の調整がし易く、基板との密着性(接着強度)にも優れ、比較的ファイアースルーを良好に行うことができ、優れた太陽電池特性が得られるといった理由から、酸化鉛を含むガラスが多く使用されてきた。
例えば特許文献1、2、4に記載されている太陽電池電極形成用銀ペーストにおいては、硼珪酸鉛ガラスフリットが使用され、特許文献3においては硼珪酸鉛系の他、硼酸鉛系のガラスフリットが記載されている。
【0005】
ところで、前述したファイアースルーにおいて、表面電極1の焼成の際、ガラスフリットの作用のばらつき等により表面電極1が反射防止膜2を貫通せず、表面電極1と半導体基板4のn型拡散層3との間で安定なオーミックコンタクトが得られなかったり、接着強度もばらつくといった問題があった。オーミックコンタクトが不充分になると出力の取り出しに際して損失が生じ、太陽電池の変換効率が低下したり、また電流電圧特性が悪化したりするといった問題があった。
【0006】
一方、特許文献4の段落〔0004〕や特許文献5の段落〔0017〕等に記載されているように、ファイアースルーが過剰である場合にも電圧特性が劣化するという問題が知られている。前述したように反射防止膜2の厚みはせいぜい5〜100nm程度であり、表面電極1が反射防止膜2を突き抜け、更にその下層であるn型拡散層3をも突き抜けて半導体基板4内部までをも侵食してしまった場合には、pn接続が破壊され、電流−電圧特性の測定から得られる曲線因子(フィルファクター、以下「FF」)に悪影響を与えることに成りかねない。また、今後、高効率化を図るためにn型拡散層3を更に薄層化しようとする場合、突き抜けがより起こり易くなるため、その制御が一層困難となる。
【0007】
図2は、市販の太陽電池基板の表面電極と半導体基板との界面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したものである。なお、この市販の太陽電池においては、表面電極中に鉛系のガラスが使用されている。
図2において表面電極層1と、反射防止膜であるSiN層2との間には、導電性ペースト中の銀成分を含んだ鉛系ガラス層6が存在し、この一部7がSiN層2を突き破ってシリコン基板(又はn型拡散層)4とコンタクトしているが、その一部8においてファイアースルーが進みすぎ、突起状に深く半導体基板4の内部にまで侵食している様子が窺える。
【0008】
これとは別に、近年、環境問題に対する意識の高まりから、太陽電池に対しても鉛を使用しない材料・部品への切り換えが望まれている。それ故、従来は鉛系ガラスと同様に、ガラスの軟化点の調整がし易く、基板との密着性(接着強度)にも優れ、ファイアースルーを良好に行うことができ、優れた太陽電池特性が得られることを目指して、代替材料・部品の開発が進められてきた。
【0009】
一例として、特許文献3では硼珪酸亜鉛系のガラスフリット、特許文献4では硼珪酸ビスマス系及び硼珪酸亜鉛系のガラスフリット、特許文献6には硼珪酸系のガラスフリット、そして特許文献7には硼酸亜鉛系のガラスフリットを用いて、表面電極を形成しようとしている。しかしながら、発明者等の研究によれば、これらの鉛フリーガラスを使用した場合にあっても、ファイアースルーが充分でなく、オーミックコンタクトが得られなかったり、或いは、
図2と同様、ファイアースルーが進みすぎて表面電極の一部が深く半導体基板に侵食しているケースが度々見られるなど、ファイアースルーのコントロールが難しかった。
【0010】
なお、蛍光表示管の封着用途(特許文献8)や光ファイバ材料用途(特許文献9)に用いられるガラスとして、テルル系ガラスが知られている。一般にテルル系ガラスは、低融点且つ高耐久性で銀を固溶しやすいという性質を備えていることが知られているが、その一方で酸化珪素との反応性が極めて低く、近年、反射防止膜として珪素系のものが多く用いられていることもあって、太陽電池の表面電極形成用途としては、過去、殆ど検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−213754号公報
【特許文献2】特開2001−093326号公報
【特許文献3】特開2001−118425号公報
【特許文献4】特開平10−326522号公報
【特許文献5】特開2004−207493号公報
【特許文献6】特表2008−543080号公報
【特許文献7】特開2009−194121号公報
【特許文献8】特開平10−029834号公報
【特許文献9】特開2007−008802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、鉛を含有しないにも拘わらず、良好な太陽電池特性の得られる電極を形成可能な太陽電池電極形成用導電性ペーストを得、この導電性ペーストを表面電極形成に用いて太陽電池素子を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の構成よりなる。
(1)一導電型を呈する半導体基板を用意する工程、
前記半導体基板の受光面側の表面にテクスチャ構造を形成すると共に、半導体基板の前記導電型とは逆の導電型を呈する領域の拡散層を形成する工程、
前記拡散層上に
窒化珪素の反射防止膜を設ける工程、
前記反射防止膜上に表面電極を形成する工程、
前記受光面と反対側の基板表面に裏面電極を形成する工程、
を含む太陽電池素子の製造方法において、
前記表面電極を、銀を主成分とする導電性粉末と、網目形成成分として酸化テルルを酸化物換算で
30〜90モル%含む
テルル系ガラスフリットと、有機ビヒクルを含
み、鉛含有量が1000ppm以下である導電性ペーストを前記反射防止膜上に塗布し、ピーク到達温度500〜900℃で焼成することによって形成することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。
(2)前記表面電極を、前記裏面電極の形成工程における焼成よりも前または後または同時に焼成することによって形成することを特徴とする前記(1)記載の太陽電池素子の製造方法。
(3)前記テルル系ガラスフリットが、酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の太陽電池素子の製造方法。
(4)前記テルル系ガラスフリットが、前記酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上を合計で5〜60モル%含むことを特徴とする前記(3)記載の太陽電池素子の製造方法。
(5)前記テルル系ガラスフリットが、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化アルミニウムの何れか一種以上を含むことを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の太陽電池素子の製造方法。
(6)前記テルル系ガラスフリットが以下の成分を含むことを特徴とする前記(1)記載の太陽電池素子の製造方法。
酸化テルル:
30〜90モル%
酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上:合計で5〜60モル%
酸化亜鉛:0〜50モル%
酸化ビスマス:0〜25モル%
酸化アルミニウム:0〜25モル%
(7)前記テルル系ガラスフリットが、前記導電性粉末100重量部に対して0.1〜10重量部含まれることを特徴とする前記(1)乃至(6)の何れか一項に記載の太陽電池素子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のように鉛系ガラスを含有することなく、太陽電池特性の良好な太陽電池電極を形成できる導電性ペーストを得、この導電性ペーストを用いて太陽電池を製造することにより、従来と同等以上の性能・特性の太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】従来の鉛系ガラスを用いた表面電極と基板との界面のTEM写真である。
【
図3】本発明のTe系ガラスを用いた表面電極と基板との界面のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る導電性ペースト及び太陽電池素子の製造方法の一実施形態について説明する。但し、本発明の範囲は以下に限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明に適用される導電性ペーストについて説明する。本発明の表面電極形成に用いる導電性ペーストは、銀を主成分とする導電性粉末及びガラスフリットを有機ビヒクルに分散させたものである。以下、各成分について説明する。
【0018】
導電性粉末としては銀を主成分にする他は特に制限はなく、その形状は、球状、フレーク状、樹枝状等、従来用いられているものが使用される。また、純銀粉末のほか、少なくとも表面が銀層からなる銀被覆複合粉末や、銀を主成分とする合金等を用いてもよい。銀粉末は、平均粒径が0.1〜10μmのものが好ましい。また平均粒径や粒度分布、形状等の異なる二種以上の銀粉末を混合して用いても良く、更に、銀粉末と銀以外の導電性粉末とを混合して用いても良い。銀粉末と複合化、合金化、或いは混合する金属としては、本発明の作用効果が損なわれない限り特に制限はないが、例えばアルミニウム、金、パラジウム、銅、ニッケル等が挙げられる。但し、導電性の観点からは純銀粉末を使用することが望ましい。
【0019】
本発明においては、電極形成用導電性ペーストのガラスフリットとして、酸化テルルを網目形成成分とするテルル系ガラスを使用したことを特徴する。特に、本発明は太陽電池の表面(受光面)電極形成に好適であり、太陽電池表面の窒化硅素等の反射防止膜に本発明のペーストを印刷・焼成することによって、優れた太陽電池特性を発揮する電極が得られる。
【0020】
本発明に使用されるテルル系ガラス(以下、「Te系ガラス」)において、酸化テルルは単独ではガラス化しないがガラスの主要構造を形成する網目形成成分であり、その含有量はガラスフリット全体に対して酸化物換算で25〜90モル%である。25モル%未満或いは90モル%を越えるとガラス形成が困難であり、好ましくは30〜80モル%、更に好ましくは40〜70モル%の範囲である。
【0021】
本発明者等の研究によれば、Te系ガラスを含有する導電性ペーストを太陽電池の表面電極形成用途として用いた場合には、
図2で述べたような、表面電極が半導体基板内部への深い侵食が殆ど生じず、ファイアースルーのコントロールが容易であり、充分なオーミックコンタクトを得ることができる。
【0022】
図3は、本発明の製造方法で形成した表面電極とシリコン基板との界面の一部を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したものである。表面電極層1とSiN層2との間には、銀成分を含むTe系ガラス層9と、微小な銀粒子11が連なって析出した酸化珪素層10とを備えた特有の構造となっており、本発明者等は、これは酸化珪素との反応性が低く、且つ、銀を固溶しやすいというTe系ガラスの特性によるものと考えている。すなわち、電極形成時の焼成の際、銀がイオンとしてTe系ガラス中に大量に固溶し、その後、銀イオンはガラス層を介して緩やかにSiN層に拡散し、酸化還元反応により、電極との界面部分においてSiN層の表層の一部を酸化珪素に変化させると共に、極めて微細な銀粒子として析出したと考えられる。更に、表面電極が反射防止膜を突き破っても、シリコン基板に対して深く侵入しにくいため、従来の導電性ペーストに比べて焼成温度に対する依存性が低く、ファイアースルーのコントロールが容易であり、しかも今後予想される太陽電池の更なる薄層化、ひいては、より一層のn型拡散層の薄層化に対しても対応が可能である。
【0023】
本発明に係るTe系ガラスにおいては酸化テルルが網目形成成分としてガラスのネットワークを形成しているものであるが、酸化テルル以外にガラスネットワークの形成を補う成分として、酸化タングステン、酸化モリブデンの何れか一種以上を含むことが望ましい。
【0024】
酸化タングステンと酸化モリブデンは共にTe系ガラスのガラス化範囲の拡大と安定化に寄与する。酸化物換算で5モル%未満或いは60モル%より多いとガラス形成が困難となる。好ましくは10〜50モル%の範囲で含まれる。
【0025】
本発明に係るTe系ガラスにおいて好ましくは、更に亜鉛、ビスマス、アルミニウムの何れか一種以上を含み、特にこれらはタングステン及び/又はモリブデンと組み合わせて含まれることが望ましい。
【0026】
亜鉛はガラス化範囲の拡大と安定化に寄与するが、酸化物換算で50モル%より多く含まれるとガラス形成が困難となる。好ましくは5〜30モル%の範囲で含まれる。
【0027】
ビスマスはガラス化範囲の拡大と化学的耐久性の向上に寄与するが、酸化物換算で25モル%より多く含まれると結晶相を晶出しやすくなりガラスの安定性を損なう。好ましい含有量は0.5〜22モル%の範囲である。
【0028】
アルミニウムはガラスの化学的耐久性の向上に寄与するが、酸化物換算で25モル%を越えると添加の効果が顕著でなくなってくる。2〜20モル%の範囲で含まれることが好ましい。
【0029】
本発明に係るTe系ガラスは、SiN層との反応性や銀の固溶量を調整するため、更にリチウム、ナトリウムといったアルカリ金属元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムといったアルカリ土類金属元素、ジスプロシウム、イットリウム、ニオブ、ランタン、銀、ジルコニウム、チタン、硼素、ゲルマニウム、リン、タンタルといった元素を含んでいても良く、それらの酸化物換算での含有量は好ましくは合計で50モル%以下である。
【0030】
その他、本発明に係るTe系ガラスとしては、軟化点が300〜550℃であることが望ましい。軟化点が300℃より低い場合はファイアースルーが行われやすくなり、表面電極がSiN層のみならず、n型拡散層までも突き抜けてpn接合が破壊される可能性が高くなる。また、軟化点が550℃より高い場合はガラスが表面電極と反射防止膜との接合界面に十分供給されず、前述した特有の構造を得ることが出来ず、オーミックコンタクトが損なわれ、また電極の接着強度も低下する。
【0031】
本発明において導電性ペーストには、上述のTe系ガラスフリットの他に、Te系以外のガラスフリットと併用しても良い。焼成温度やSiN層に対する反応性等を制御し、太陽電池素子としての特性をコントロールするために、Te系以外のガラスフリットとして、SiO
2−B
2O
3系、SiO
2−B
2O
3−ZnO系、SiO
2−Bi
2O
3系、B
2O
3−ZnO系等、公知のガラスの中から、適宜、Te系ガラスと組み合わせることができるが、好ましくはSiO
2−B
2O
3系、SiO
2−B
2O
3−ZnO系ガラスと併用することが望ましい。
【0032】
本発明で用いる導電性ペーストに含まれるガラスフリットは、太陽電池電極形成用の導電性ペーストにおいて通常含まれ得る量で構わないが、一例として、導電性粒子100重量部に対し、0.1〜10重量部であることが好ましい。ガラスフリットの配合量が導電性粉末100重量部に対して、0.1重量部より少ないと、蜜着性、電極強度が極めて弱くなる。また10重量部を超えると、電極表面にガラス浮きを生じたり、界面に流れ込んだガラスにより接触抵抗が増加するといった問題が生じる。
なお、従来の太陽電池電極形成用導電性ペーストにおいては、ファイアースルーを良好に行うために、或る程度の量のガラスフリットを配合しなければならなかったが、本発明の導電性ペーストは、ガラスの配合量を抑えた場合でも充分なオーミックコンタクトが得られるため、導電性の高い電極を得ることができる。より望ましいガラスフリットの配合量は、導電性粒子100重量部に対して0.1〜5重量部である。
【0033】
特に限定されないが、本発明で用いる導電性ペーストに配合されるガラスフリットとしては、平均粒径0.5〜5.0μmのものであることが望ましい。
【0034】
なお、本発明で用いる導電性ペーストは実質的に鉛成分を含まないものであり、詳細には、導電性ペースト中の鉛含有量は1000ppm以下である。
【0035】
本発明で用いる導電性ペーストには、その他必要により、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤として通常添加され得る可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属酸化物、金属有機化合物等を適宜配合することができる。また、本出願人による特開2007−242912号公報に記載されている炭酸銀、酸化銀、酢酸銀といった銀化合物を配合しても良く、その他、焼成温度や太陽電池特性等の改善のため、酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン等を適宜添加しても良い。
【0036】
本発明の製造方法において、導電性ペーストは、前述した導電性粉末、ガラスフリット、適宜添加剤と共に有機ビヒクルと混合され、スクリーン印刷その他の印刷方法に適したレオロジーのペースト、塗料、またはインク状とされる。
有機ビヒクルとしては特に限定はなく、銀ペーストのビヒクルとして通常使用されている有機バインダーや溶剤等が適宜選択して配合される。例えば有機バインダーとしては、セルロース類、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル等が、また溶剤としてはアルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、これらの混合溶剤が挙げられる。ここで有機ビヒクルの配合量は特に限定されるものではなく、導電性粉末、ガラスフリットなどの無機成分をペースト中に保持し得る適切な量で、塗布方法等に応じて適宜調整されるが、通常導電性粉末100重量部に対して5〜40重量部程度である。
【0037】
上記の導電性ペーストが適用される本発明の太陽電池素子の製造方法の一例として以下のようにして太陽電池素子が製造される。
半導体基板は好ましくは単結晶シリコンまたは多結晶シリコンからなり、例えば、硼素などを含有することにより一導電型(例えばp型)を呈するようにしたものである。半導体基板の受光面側の表面に、リン原子などを拡散させて拡散層を形成することにより、逆導電型(例えばn型)を呈する領域を形成し、さらにその上に窒化シリコン等の反射防止膜を設ける。また受光面と反対側の基板表面には、裏面電極並びに高濃度のp型のBSF層を形成するため、アルミニウムペーストおよび銀ペースト、または銀−アルミニウムペーストを塗布・乾燥させる。そして前記反射防止膜上に本発明に係る導電性ペーストを用いてスクリーン印刷法など通常の方法で塗布・乾燥させ、その後、ピーク到達温度500〜900℃の高温で総焼成時間1〜30分間程度焼成して有機ビヒクル成分を分解、揮散させて、表面電極、裏面電極、BSF層を同時に形成する。なお、表面電極、裏面電極は必ずしも同時に焼成する必要はなく、裏面電極の焼成後に表面電極を形成しても良く、また表面電極焼成後に裏面電極を形成してもよい。また、高い光電変換効率を得るために、半導体基板の受光面側の表面は凹凸状(或いはピラミッド状)のテクスチャ構造を有することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<1.予備実験>
〔試料1〜11の作製〕
銀粉末100重量部と、表1に示す組成のガラスフリット2重量部とを、エチルセルロース1.6重量部、ブチルカルビトール6.4重量部からなる有機ビヒクル中に分散させて導電性ペースト(試料1〜11)を作製した。表中、ガラス組成の各成分はいずれも酸化物換算でのモル%で示されている。
【0040】
表中の銀粉末の欄に記載された粉末は以下の通りである。なお、以下における平均粒径は、レーザー式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布の重量基準の積算分率50%値である。
「銀粉末X」・・・平均粒径D50=1.8μmの球状粉
「銀粉末Y」・・・平均粒径D50=1.5μmの球状粉
「銀粉末Z」・・・平均粒径D50=2.6μmの球状粉
〔電極形成と評価〕
上記作製した導電性ペーストの初期評価を行うため、以下のようにして、TLM(transmission line model)法に基づき接触抵抗を測定した。
【0041】
まずアルカリエッチング法によりピラミッド型テクスチャを形成した2cm×2cmの正方形状のp型シリコン基板を各試料について10枚ずつ用意し、各基板に対して、その一主面側にリンを拡散させたn型の領域(拡散層)を形成し、更にその上にプラズマCVD法によりSiN層を平均厚みが75nmとなるように形成した。
次にSiN層上に、上記作製した試料1〜11を用いて、幅100μm、厚さ15μmの細線形状の表面電極を2mmピッチで複数本形成し、細線電極間の抵抗値をデジタルマルチメーター(HEWLETT PACKARD社製:3458A MULTIMETER)を用いて測定し、接触抵抗を求めた上で評価を行った。
なお、本例においては、表面電極の焼成温度はピーク温度800℃で行った。
【0042】
得られた結果を表1に併せて示す。なお、表中の「接触抵抗」の欄の符号は以下の通りである。
◎:10枚の基板の接触抵抗の平均値が0.05Ωcm
2未満
○:10枚の基板の接触抵抗の平均値が0.05Ωcm
2以上0.08Ωcm
2未満
△:10枚の基板の接触抵抗の平均値が0.08Ωcm
2以上、0.10Ωcm
2未満
×:10枚の基板の接触抵抗の平均値が0.10Ωcm
2以上
また表中「突抜」の欄においては、上述したように表面電極とシリコン基板との界面をTEM写真で目視観察し、表面電極のSiN層からシリコン基板側への突き抜けを以下の基準で評価した。
A:SiN層からシリコン基板側への最大の侵食が100nm未満
B:最大の侵食が100nm以上200nm未満
C:最大の侵食が200nm以上300nm未満
D:最大の侵食が300nm以上
既述したように、導電性ペーストに含まれるガラスフリットとしてTe系ガラスを用いた場合、表1に示されている通り、概ね良好な接触抵抗が得られている。
【0043】
【表1】
〔試料12〜81の評価〕
導電性ペースト中に含まれるガラスの組成と、使用する銀粉末を表2−1、表2−2に示すものとした他は、試料1〜11の場合と同様にして接触抵抗を求め評価した。その結果を表2−1、表2−2に併せて示す。表中、ガラス組成の各成分は酸化物換算でのモル%で示されている。
【0044】
【表2-1】
【0045】
【表2-2】
〔試料82〜130の評価〕
導電性ペースト中に含まれるガラス組成と使用する銀粉末を表3−1、表3−2に示すものにし、更にペースト中のガラスの配合量を同表に示した部数(重量部)に変えた以外は、試料1〜11の場合と同様にして接触抵抗を求め評価した。その結果を表3−1、表3−2に併せて示す。
【0046】
〔比較試料1〜2の評価〕
更に比較試料1、2として、ガラス組成とその配合量、使用する銀粉末を表3−2に示すものとした導電性ペーストを作製し、上記と同様に接触抵抗を求め評価した。その結果を表3−2に併せて示す。
【0047】
表3−1、3−2中、ガラスの部数は銀粉末100重量部に対しての重量部であり、ガラス組成の各成分は酸化物換算でのモル%で示されている。
【0048】
【表3-1】
【0049】
【表3-2】
上記の表から明らかなように、本発明の導電性ペーストで形成された表面電極は、該電極層がSiN層を突き破ってシリコン基板側に深く侵入することのない、電極間の接触抵抗も低いものであった。比較例の表面電極では、電極層の一部がSiN層を突き破ってシリコン基板側に深く侵入していることが確認された。
【0050】
<2.太陽電池素子の諸特性の評価>
予備実験と同様、アルカリエッチング法によりピラミッド型テクスチャを形成した2cm×2cmのp型シリコン基板の一主面側にn型拡散層とSiN層を順次形成した後、更に反対面側にアルミニウムペーストを用いて裏面電極を形成し、その後、SiN層上に、前述した試料44、79、88、123を用いて、焼成後に幅100μm、厚さ15μm、ピッチ2mmの櫛形の表面電極が得られるように櫛形パターンを印刷した後、これをピーク温度800℃で焼成して表面電極を形成して太陽電池素子を準備した。また、それぞれの試料について同様に櫛形パターンを形成した後、ピーク温度760℃、780℃で焼成し、焼成温度だけが異なる太陽電池素子を準備した。
【0051】
更に、比較試料1、2について同様に櫛形パターンを形成した後、ピーク温度800℃で焼成して太陽電池素子を準備した。
【0052】
準備した太陽電池素子に対して、ソーラーシミュレーター(WACOM社製:WXS−50S−1.5, AM1.5G)および高電流ソースメータ(KEITHLEY社製:2400型)を用いてI−Vカーブの測定を行い、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)、最大出力点(Pmax)、変換効率(Eff)を求めた。
その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
本発明の製造法に適用される導電性ペーストで形成された表面電極を備えた太陽電池素子は、焼成温度に対する依存性が低く、優れた太陽電池特性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1 表面電極
2 反射防止膜
3 拡散層
4 基板
5 裏面電極
6,9 ガラス層
10・・・酸化珪素層