【実施例1】
【0019】
(臨床検体)本実施例の材料として、山口大学附属病院において、インフォームドコンセントのもと組織採取と研究利用に書面にて同意が得られた大腸癌の患者さんより、正常大腸粘膜の検体を177検体、大腸癌組織の検体を222検体を採取し、TWIST1遺伝子、EZH2遺伝子発現の検証のための材料とした。検体はDNA/RNA抽出まで、凍結保存した。
All Prep DNA/RNA Mini Kit(Qiagen社製)を用いてDNAとtotal RNAの抽出を行った。2mlチューブへ製品付属のRLT plusバッファーを600μl添加し、βメルカプトエタノール6μlを添加後、凍結検体を加え、径が5mmのステンレススチールビーズ(Qiagen社製)を1個加え、Qiagen Mixer Mill MM300(Qiagen社製)を用いて検体の超音波破砕(30Hz,10分間)を行った。破砕した検体をAll Prep DNAスピンカラム(Qiagen社製)に移し、10000rpm、30秒間遠心した。ろ液は後述のRNA抽出に用いた。遠心後のスピンカラムを室温または4℃において、新しい2mlチューブにセットしてインキュベートした。このスピンカラムは後述のDNA抽出に用いた。
【0020】
(DNA抽出)インキュベートしたDNAスピンカラムに500μlのAW1バッファー(製品付属)を添加し、10000rpm、30秒間遠心して廃液を捨てた後にスピンカラムを2mlのコレクションチューブにセットした。次いで、製品付属のAW2バッファーを500μl添加し、15300rpm、2分間遠心を行った。これらの操作によりDNA試料の洗浄を行った。スピンカラムを新しい1.5mlチューブに移し、100μlのEBバッファー(製品付属)を直接カラムのメンブレンに添加し、室温で1分間インキュベートした後、10000rpm、1分間遠心して、DNAを溶出した。
【0021】
(RNA抽出)
上述のRNAを含むろ液に、70%エタノールを400μl添加し、ピペットでよく混和した後、RNeasyスピンカラムに600μlをアプライし、11000rpm、20秒間遠心した。廃液を捨て、残りのろ液を同じカラムにアプライし、11000rpm、20秒間遠心した。700μlのRW1バッファー(製品付属)をカラムに添加し、15分間インキュベート後、11000rpm、20秒間遠心して液を捨てた。スピンカラムを2mlコレクションチューブに移し、500μlのRPEバッファー(製品付属)を加えて11000rpm、20秒間遠心し、ろ液を捨てた。更に500μlのRPEバッファーを加えて11000rpm、20秒間遠心し、ろ液を捨てた。これらの操作によりRNA試料の洗浄を行った。カラムを新しい1.5mlチューブに移し、50μlのRNaseフリー水を直接カラムのメンブレンに添加し、11000rpm、1分間遠心して全RNA(total RNA)を溶出した。
【0022】
(cDNAの合成)上記で抽出したtotalRNAを鋳型に、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit with RNase Inhibitor(Applied Biosystems社製)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。チューブに2μlの10×RTバッファー(製品付属)、0.8μlの25×dNTP mix(100mM)、2μlの10×RT Random Primers(製品付属)、1μlのRNase阻害剤、1μlのMultiscribe Reverse Transcriptase、2μgのtotal RNAを加え、ヌクレアーゼフリー水を加えて全量を20μlとした。25℃−10分間、37℃−2時間、85℃−5秒間のプログラムで逆転写反応を行った。試薬類はキット添付のものを使用した。
【0023】
(定量的PCR)上記で合成したcDNAを鋳型とし、TWIST1遺伝子とEZH2遺伝子の発現を比較するためにTaqMan法(Roche)による定量的PCRを行った。プライマー及びプローブはApplied Biosystems社製の以下のものを用いた。
内因性コントロール:βアクチン(製品番号:4326315E)
ターゲット遺伝子:TWIST1(製品番号:Hs01675818_s1)、及びEZH2(Hs00544830_m1)
10ngのcDNA、1×TaqMan Gene Expression Master Mix(製品付属)、1×TaqMan Probe Mix(900nM each primer、250nM FAM dye−labeled TaqMan MGB probe)に滅菌水を加え、全量を20μlとした。ABI Prism 7900HT sequence detection system(Applied Biosystems,Warrington,UK)を使用して定量PCRを行った。温度条件は、(1)50℃−2分、95℃−10分の後、(2)95℃−15秒、60℃−30秒にて40サイクル行った。全ての反応は二重測定にて行い、またmRNAの発現レベルは検体番号528を標準サンプル(発現量=1)とし、2
−ΔΔCT法(ΔΔCt法,Applied Biosystems)にて解析し相対発現量を求めた。上述の通り、本法においては基準となるサンプル(標準サンプル)と比較して、未知サンプルにおける値を測定するため、標準サンプルは任意の検体で良いが、発現量が極端に高くも低くもない検体からNo.528を選択した。
【0024】
(結果)
図1に、大腸癌罹患者の正常大腸粘膜と大腸癌組織におけるTWIST1遺伝子の発現量の比較を示した。グラフ縦軸は相対発現量(対数値)を、横軸は正常大腸粘膜と大腸癌組織とをそれぞれ表し、グラフ中の白丸(○)は各々の発現量を示している。正常大腸粘膜におけるTWIST1発現量の中央値は0.710(グラフ中の横棒)であったのに対し、大腸癌組織では1.835と正常大腸粘膜の2.5倍以上の値を示し、有意に高値であった(P<0.0001、Mann−Whitney U test、以下同じ)。
【0025】
図2に、大腸癌組織におけるTWIST1の発現量と生命予後との関係を示す。グラフ縦軸は相対発現量(対数値)を、横軸は生存群(N=94)と死亡群(N=27)をそれぞれ示し、グラフ中の白丸(○)は各々の発現量を示している。大腸癌組織におけるTWIST1の発現量の中央値は、生存群で0.627と正常大腸粘膜と変わらないレベルであったのに対し、死亡群では4.251と6.5倍以上という高い発現量を示し、統計的にも有意に高値であった(P<0.0001)。
図2の結果を基に作成したROC曲線(Receiver operating characteristic curve)を
図3に示す。ROC曲線の作成法は常法に従い、特異度、感度ともに最も良い値をカットオフ値とした。グラフ縦軸は検出感度を、横軸は100.0%−特異度を示している。解析の結果より、TWIST1遺伝子発現のカットオフ値を1.289とした時に最適である事が示され、このときの予後予測の感度は74%、特異度は64%であった。下記表1に、カットオフ値1.289を適用したときのデータを示した。
【0026】
【表1】
*感度=74% (20/27), 特異度=64% (60/94), 陽性的中率=37% (20/54), 陰性的中率=90% (60/67)
P = 0.0008, Odd比5.042(95%信頼区間 1.934-13.146 Fisherテストによる)
【0027】
図4に、大腸癌患者の正常大腸粘膜におけるTWIST1発現量を生存群と死亡群で比較した結果を示す。グラフ縦軸はTWIST1発現量(相対値)を、横軸は生存群(N=85)と死亡群(N=25)をそれぞれ示し、グラフ中白丸(○)が各々のデータである。正常大腸粘膜におけるTWIST1の発現に着目すると、生存群では中央値が0.244と低い値であったのに対し、死亡群では同値が3.283であり、生存群の13倍以上と非常に高い値を示しまた統計的に有意な差であった(P=0.0010)。
図4の結果を基に作成したROC曲線を、
図5に示す。ROC曲線の作成法は常法に従った。グラフ縦軸は検出感度を、横軸は100.0%−特異度を示している。解析の結果より、TWIST1遺伝子発現のカットオフ値を1.286とした時に最適である事が示され、このときの予後予測の感度は72%、特異度は74%であった。下記表2に、カットオフ値1.286を適用したときのデータを示した。
【0028】
【表2】
*感度=72% (18/25), 特異度=74% (64/87), 陽性的中率=44% (18/41), 陰性的中率=90% (64/71)
P = 0.0001, Odd比7.155(95%信頼区間 2.646-19.350 Fisherテストによる)
【0029】
図6に、大腸癌患者の正常大腸粘膜と大腸癌組織におけるEZH2遺伝子の発現量(相対値)比較を示す。グラフ縦軸はEZH2発現量の相対値(対数値)を、横軸は正常大腸粘膜(N=118)と大腸癌組織(N=137)をそれぞれ示している。EZH2遺伝子の発現量の中央値は、正常大腸粘膜では0.505であったのに対し、大腸癌組織では0.769(グラフ横棒)であり、大腸癌組織で有意に高値であった(P=0.0001)。
【0030】
図7に、大腸癌患者の大腸癌組織におけるEZH2遺伝子の発現量を生存群と死亡群で比較した結果を示す。グラフ縦軸はEZH2発現量(相対値)を、横軸は生存群(N=95)と死亡群(N=27)をそれぞれ示し、グラフ中白丸(○)が各々のデータである。また生存群の中央値は0.617であったのに対し、死亡群では1.957(グラフ横棒)と3倍も高く、死亡群において有意に高値であった(P=0.0032)。また
図7の結果を基に作成したROC曲線を、
図8に示す。ROC曲線の作成法は常法に従った。グラフ縦軸は検出感度を、横軸は100.0%−特異度を示している。解析の結果より、EZH2遺伝子発現のカットオフ値を1.067とした時に最適である事が示され、このときの予後予測の感度は63%、特異度は70%であった。下記表3に、カットオフ値1.067を適用したときのデータを示した。
【0031】
【表3】
*感度=63% (17/27), 特異度=70% (66/96), 陽性的中率=37% (17/46), 陰性的中率=87% (66/76)
P = 0.0032, Odd比3.869(95%信頼区間 1.581-9.469 Fisherテストによる)
【0032】
図9に、大腸癌患者の正常大腸粘膜におけるEZH2遺伝子の発現量を生存群と死亡群で比較した結果を示す。グラフ縦軸はEZH2発現量(相対値)を、横軸は生存群(N=80)と死亡群(N=23)をそれぞれ示し、グラフ中白丸(○)が各々のデータである。正常大腸粘膜におけるEZH2の発現に着目すると、生存群では中央値が0.438と低い値であったのに対し、死亡群では同値が0.680であり、統計的に有意な差であった(P=0.0032)。
図9の結果を基に作成したROC曲線を、
図10に示す。ROC曲線の作成法は常法に従った。グラフ縦軸は検出感度を、横軸は100.0%−特異度を示している。解析の結果より、EZH2遺伝子発現のカットオフ値を0.5747とした時に最適である事が示され、このときの予後予測の感度は74%、特異度は66%であった。下記表4に、カットオフ値0.5747を適用したときのデータを示した。
【0033】
【表4】
*感度=74% (17/23), 特異度=66% (53/80), 陽性的中率=39% (17/44), 陰性的中率=90% (53/59)
P = 0.0008, Odd比5.562(95%信頼区間 1.966-15.735 Fisherテストによる)
【0034】
上記の結果より、大腸癌組織におけるTWIST1遺伝子とEZH2遺伝子の発現量の関係を統計解析した結果を
図11に示す。統計解析はSpearman検定を用い、グラフ横軸はTWIST1の相対発現量を、縦軸はEZH2遺伝子の相対発現量をそれぞれ示し、白丸(○)が生存群、黒丸(●)が死亡群を示し、丸一つが各々のサンプルを表している。検定の結果、r値は0.7456、P<0.0001と有意な正の相関関係が見られた。
【0035】
一方、大腸癌患者の正常大腸粘膜におけるTWIST1遺伝子とEZH2遺伝子の発現量の関係を統計解析した結果を
図12に示す。統計解析はSpearman検定を用い、グラフ横軸はTWIST1の相対発現量を、縦軸はEZH2遺伝子の相対発現量をそれぞれ示し、白丸(○)が生存群、黒丸(●)が死亡群を示し、丸一つが各々のサンプルを表している。検定の結果、r値は0.5357、P<0.0001と有意な正の相関関係が見られた。