(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754794
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】鉛フリーソルダペースト
(51)【国際特許分類】
B23K 35/22 20060101AFI20150709BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20150709BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20150709BHJP
B23K 35/363 20060101ALI20150709BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20150709BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
B23K35/22 310A
B23K35/14 Z
B23K35/26 310A
B23K35/363 E
C22C13/00
H05K3/34 512C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-283(P2010-283)
(22)【出願日】2010年1月5日
(62)【分割の表示】特願2006-527796(P2006-527796)の分割
【原出願日】2006年5月24日
(65)【公開番号】特開2010-120089(P2010-120089A)
(43)【公開日】2010年6月3日
【審査請求日】2010年1月5日
【審判番号】不服2013-6998(P2013-6998/J1)
【審判請求日】2013年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2005-151805(P2005-151805)
(32)【優先日】2005年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113930
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 正洋
(74)【復代理人】
【識別番号】230115200
【弁護士】
【氏名又は名称】幸谷 泰造
(72)【発明者】
【氏名】上島 稔
【合議体】
【審判長】
木村 孔一
【審判官】
松嶋 秀忠
【審判官】
小川 進
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K35/22-35/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が5〜300nmのAg、Au、Cuから選択される単体金属ナノ粒子又は粒子径が5〜300nmのナノ粒子表面にAg、Au、Cuから選択される金属をめっきしたナノ粒子をアルコール系溶剤中に分散された分散液と、Sn-Ag-Cu系はんだ粉末又はSn-Zn系はんだ粉末と、フラックスの3種類を混和することにより、はんだ粉末表面に粒子径が5〜300nmのナノ粒子を付着させたソルダペーストの製造方法。
【請求項2】
前記、単体金属ナノ粒子がAg、Au、Cuから選択される単体金属ナノ粒子1種以上を用いたことを特徴とする請求項1に記載のソルダペーストの製造方法。
【請求項3】
前記、Ag、Au、Cuから選択される金属を粒子表面にめっきされるナノ粉末が、SiC、SiN、TiN、C、Ni、Co、Al2O3、SnO2、ZrO2、TiO2、CeO2、CaO2、Mn3O4、MgO、ITOから選択されるナノ粉末を1種以上用いたことを特徴とする請求項1に記載のソルダペーストの製造方法。
【請求項4】
前記、分散液が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、クレゾール、α-テレピネオール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレンモノ2−エチレルヘキシルエーテル、フェニルグリコールから選択される1種以上のアルコール系溶剤に分散させたことを特徴とする分散液を用いる請求項1に記載のソルダペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のはんだ付けに使用するソルダペースト、特にSn−Zn系鉛フリーソルダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品のはんだ付け方法としては、鏝付け法、フロー法、リフロー法、等がある。
リフロー法は、はんだ粉とフラックスからなるソルダペーストをプリント基板の必要箇所だけに印刷法や吐出法で塗布し、該塗布部に電子部品を搭載してからリフロー炉のような加熱装置でソルダペーストを溶融させて電子部品とプリント基板をはんだ付けする方法である。このリフロー法は、一度の作業で多数箇所のはんだ付けができるばかりでなく、狭いピッチの電子部品に対してもブリッジの発生がなく、しかも不要箇所にははんだが付着しないという生産性と信頼性に優れたはんだ付けが行えるものである。
【0003】
ところで従来のリフロー法に用いられていたソルダペーストは、はんだ粉がPb-Sn合金であった。このPb-Sn合金は、共晶組成(Pb-63Sn)では融点が183℃であり、熱に弱い電子部品に対しても熱影響が少なく、またはんだ付け性に優れているため未はんだやディウエット等のはんだ付け不良の発生も少ないという特長を有している。このPb-Sn合金を用いたソルダペーストではんだ付けされた電子機器が古くなったり、故障したりした場合、機能アップや修理をせず廃棄処分されていた。プリント基板を廃棄する場合、焼却処分でく埋め立て処分をしていたが、埋め立て処分をするのは、プリント基板の銅箔にはんだが金属的に付着しており、銅箔とはんだを分離して再使用することができないからである。この埋め立て処分されたプリント基板に酸性雨が接触すると、はんだ中のPbが溶出し、それが地下水を汚染するようになる。そしてPbを含んだ地下水を長年月にわたって人や家畜が飲用するとPb中毒を起こすことが懸念されている。そこで電子機器業界からはPbを含まない所謂「鉛フリーはんだ」が強く要求されてきている。
【0004】
鉛フリーはんだとは、Snを主成分としたものであり、現在使われている鉛フリーはんだは、Sn-3.5Ag(融点:221℃)、Sn-0.7Cu(融点:227℃)、Sn-9Zn(融点:199℃)、Sn-58Bi(融点:139℃)等の二元合金の他、これらにAg、Cu、Zn、Bi、In、Sb、Ni、Cr、Co、Fe、Mn、P、Ge、Ga等の第三元素を適宜添加したものである。なお本発明でいう「系」とは、合金そのもの、或いは二元合金を基に第三元素を一種以上添加した合金である。例えばSn-Zn系とは、Sn-Zn合金そのもの、或いはSn-Znに前述第三元素を一種以上添加した合金であり、Sn-Ag系とはSn-Ag合金そのもの、或いはSn-Agに前述第三元素を一種以上添加した合金である。
【0005】
現在多く使用されているSn-Ag系、Sn-Cu系、およびSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだは、融点が220℃以上であるため、ソルダペーストにしてリフロー法に使用すると、リフロー時のピーク温度が250℃以上となってしまい、電子部品やプリント基板を熱損傷させてしまうという問題があった。
【0006】
Sn-Zn系鉛フリーはんだは従来のPb-Sn共晶はんだの融点に近いものであり、例えばSn-9Zn共晶の鉛フリーはんだは融点が199℃で、従来のPb-Sn共晶はんだのリフロープロファイルで使用が可能である。そのため電子部品やプリント基板に対する熱影響も少ない。しかしながら、Sn-9Zn共晶のソルダペーストは、ぬれ性が悪いのでSn-Zn共晶近辺の合金にBiを添加したSn-8Zn-3Bi鉛フリーはんだ使用のソルダペーストが多く使用されている。これらのSn-Zn系鉛フリーはんだは、融点が従来のSn-Pbはんだに近いこと、なおかつ人に対する必須成分であるZnを使用しているため、他の鉛フリーはんだに比較して人体に有害でないこと、ZnはIn、Ag、Biなどに比較して地球上の埋蔵量が多く、単価も安いことなど他の鉛フリーはんだに比較して優れた特性を持っている。そのためはんだ付け性が悪いにもかかわらずソルダペースト用のはんだとして、特にSn-Ag系鉛フリーはんだでは部品の耐熱性がないため使用できないプリント基板に使用されている。
【0007】
しかしSn-Zn系鉛フリーはんだは、一般的に使用されるFR-4のようなCuランドのプリント基板ではんだ付けを行った後、高温に放置するとはんだ付けの接合強度が低下する問題があった。これは、ZnとCuとの反応性が高いためCuランドの基板を使用した場合、高温の状態を長く続けるとSn-Zn系鉛フリーはんだ中のZnが合金層を通過してCu中に入り込み、カネンダルボイドと呼ばれる金属間化合物とはんだ間に多数のボイドを発生させ、はんだ付けの接合強度を低下させて信頼性が損なわれるようになる。そのためSn-Zn系鉛フリーはんだを使用するときは、Auめっきが必須となることから、電子機器の製造コストが高騰する問題が生じていた。
【0008】
また、Sn-Zn系鉛フリーはんだをCuランドのプリント基板にはんだ付けしたときに接合強度を低下させる要因として湿度がある。湿度が高いとZnは酸化してZn2+イオンになりやすく、容易にSn-Zn系鉛フリーはんだ中のZnが合金層を通過してCu中に入り込み、多数のボイドを発生させる。この現象は、湿度が80%以上になると温度が100℃以下でも顕著に現れる。また、ボイドは結露でも発生しやすく、はんだの強度を低下させる原因となっていた。
【0009】
これらのSn-Zn系鉛フリーはんだの接合強度を向上させる技術として、Sn-Zn系鉛フリーはんだにフラックス中に分散させた1B族を構成元素として含む金属粉末が混合されたソルダペースト(特開2002-224880号公報)やSn-Zn系鉛フリーはんだにAgを添加した鉛フリーはんだ合金(特開平9-253882号公報)などが開示されている。
【0010】
ところでナノ粒子を用いたはんだ合金が従来から提案されていた。ナノ粒子とは、nmオーダーの粒径を持った粉末のことで、従来のμmオーダーの粒径を持った粉末の間に入り込み、さまざまな特性をしめす。ナノ粒子を用いたはんだの技術については、はんだの球状粒子表面にNiナノ粒子を配置させて耐破断特性を向上させた(特開2003-062687号公報)やSn-Zn系鉛フリーはんだを自己組織化したナノ粒子のはんだ合金(特開2004-268065号公報)などが開示されている。
【特許文献1】特開2002-224880号公報
【特許文献2】特開平9-253882号公報
【特許文献3】特開2003-062687号公報
【特許文献4】特開2004-268065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のようにSn-Zn系鉛フリーはんだ合金とCuを接合したものが高温、高湿下に曝されると、はんだの接合強度が著しく低下する問題があった。そのため一般的に使用されるFR-4のようなCuランドの基板が使用できず、高価なAuめっきのプリント基板が必須で製造コストが押し上げられていた。そこで耐高温、耐湿性に優れたSn-Zn系鉛フリーはんだ合金が求められている。しかし、従来技術である特許文献1のSn-Zn系鉛フリーはんだにフラックス中に分散させた1B族を構成元素として含む金属粉末が混合されたソルダペーストでは、特許文献1の表3を見ても判るように、Sn-Zn系鉛フリーはんだ粉末に添加する1B族の金属粉末は、Sn-Zn系鉛フリーはんだ粉末に対して1割以上存在しているため、リフローのピーク温度を上げないとはんだが溶融せず、従来のSn-Pbはんだとほぼ同一の温度プロファイルでリフロー可能であるというSn-Zn系鉛フリーはんだの利点を無くしてしまう。さらに単体の1B族金属粉末を用いると、一般的なリフロープロファイルでは金属粉末が溶解せず、溶融後のはんだの中に粉末が粒子として残ってしまう。はんだ中に存在する1B族金属粒子は常温の金属強度を向上させるが、高温と低温に繰り返し曝される環境下では、溶融後のSn-Zn系鉛フリーはんだとはんだ中の1B族金属粒子との強度が異なるので、はんだ内部に金属疲労が発生して、はんだの強度低下をまねく原因となる。 また特許文献2のように、Sn-Zn系鉛フリーはんだ合金にAgを添加するとSn-Zn系鉛フリーはんだ合金の金属強度が向上するが、金属強度をより強くするにはAgの添加量を多くしなければならない。しなしながら、Sn-Zn系鉛フリーはんだ合金にAgの添加量を多くしてしまうと液相線温度が上昇してしまい、Sn-Zn系鉛フリーはんだ合金の特徴である耐熱性のない部品に用いることができなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、Sn-Zn系の鉛フリーはんだ粉末表面に粒子径が5〜300nmで、Ag、AuおよびCuを1種類以上含んだナノ粒子を付着させることにより、固化後のはんだ組織が微細化し、高温、高湿下の環境に曝されても接合強度が低下しない溶融後のはんだ接合が得られることを見い出して本発明を完成させた。
また本発明者は、フラックス中にAg,Au,およびCuを1種類以上含んだ粒子径が5〜300nmナノ粒子を分散させることで、フラックスを用いるはんだ付け実装時に、はんだとこれらのナノ粒子を融合させ、はんだ付け部の組織を微細化することで、実装後の接合強度の高いはんだ接合が得られることを見い出して本発明を完成させた。
【0013】
本発明者がSn-Zn系鉛フリーはんだではんだ付けしたCuのはんだ付け部の強度が低下する原因について検討を行った結果、銅とはんだの界面に酸化されやすいCu-Znの合金層が生成されるためであることが分かった。従来のSn-Pbはんだ、Sn-Ag系鉛フリーはんだおよびSn-Bi系鉛フリーはんだがCuとはんだ付けされるときは、はんだ中のSnとCuが反応してSn-Cuの合金層を形成する。しかし、Sn-Zn系鉛フリーはんだでCuをはんだ付けした場合ではCu-Znの合金層が形成される。Cu-Znの合金層は、はんだで形成されたフィレット内部だけでなく、フィレットの裾野となる外部に出ているはんだに水分が付着すると水分が電解液となり、はんだ中のZnが選択的に酸化されてイオン化してしまう。そして酸化されたZnイオンは、Cu-Znの合金層に移動してCu-Znの合金となり、さらにZnイオンは該合金層を通過してCuの部分まで移動する。そして、Znイオンが移動した後のSn-Zn系鉛フリーはんだでは脱Znのボイドが発生するのである。この現象はCu-Zn合金層の界面に発生したボイドが徐々に界面に沿って進行することにより、はんだ付け部の強度が低下する。そして最後には接合界面で剥離するようになる。
本発明者が、はんだの強度と組織の関係を検討した結果、Sn-Ag-CuではAg3Sn金属間化合物の晶出物が、そしてSn-Zn系ではZnの晶出物が合金組織内に分散し、強度が向上することがわかった。一方、これらの晶出物を微細にするためには、冷却速度を向上させることや晶出物の核となる微細な物質を添加することが知られているが、はんだ付けにおいて冷却速度を制御することは困難であり、急激な冷却は残留応力の原因となるため、好ましくない。また、晶出物の核となる物質は経験的に知られているものがあるが、Ag3SnやZnの核となる物質はいまだ発見されていない。このように、冷却速度を制御できないプロセスで合金組織を微細化することは、非常に困難であり、現実的に不可能である。
【0014】
Sn-Ag-Cu系やSn-Zn-Bi系で接合強度を向上させる方法としては、Snマトリックスに固溶するBi、Sbの添加が検討されているが、Biに関しては過剰な添加は固相線の低下を引き起こし、リフトオフやリフロー後のフローはんだ付け時における接合部剥離につながる。またSbに関しては、Ag、Cu、Znと金属間化合物を形成し、強度を増加させるが同時に液相線温度も増加するため、はんだ付け作業性やSbの毒性による規制が現時点でも検討中であることを考慮すると本質的な解決策とはいえない。
【0015】
前述のように、Sn-Ag-Cu系やSn-Zn系鉛フリーはんだの合金組織が微細化できない原因は、冷却速度と晶出物の核生成に依存するが、これらははんだ付けプロセスでは制御不可能なことにある。
本発明者が推察したはんだ付け後のはんだ組織微細化のメカニズムは次の通りである。1.Ag、AuおよびCuのナノ粒子は、粒子径が5〜300nm程度であり、その粒径の細かさから、エタノールのような溶剤中でも均一に分散し、ほとんど沈殿することない。つまり、これらのナノ粒子は見かけ上液体と扱うことが可能であり、ナノ粒子の溶融温度以下におけるリフロー温度で固相の状態で残存しても、ソルダペーストによるはんだ付け性に悪影響を及ぼさない。
2.見かけ上液体として存在する粒子径が5〜300nmのAg、AuおよびCuのナノ粒子は、Sn-Zn系鉛フリーはんだ粉末中のZnと優先的に反応して、Zn-Ag、Zn-Au、Zn-Cuの金属間化合物の核を生成する。特に、ZnはAg、Au、Cuと固溶体を形成し、Znリッチな状態では理論的にナノ粒子の再表層にはAgが固溶したZn単相が形成されると考えられ、液相中に晶出物と同様の微細な物質が存在すれば、それらは晶出物の核となることは理論的に明らかであり、Zn中にAu,Ag,Cuなどが固溶することは、核生成に好都合である。
3.生成した金属間化合物の核の一部は、リフロー工程中で液相に溶解する部分とSn-Zn系鉛フリーはんだ中に完全に溶解せず、数nm〜数百nmのクラスター(金属と合金中の成分が反応したもの)として、液相中に存在する。
4.Sn-Zn系鉛フリーはんだが冷却されるとこれらのZnと反応し液相中に分散しているナノクラスターが核となり、Znの晶出サイトが増加し、結果的にZnの晶出サイズが微細化される。本発明のソルダペーストでは、金属間化合物の核がクラスターとして溶融したはんだ中に多数存在するので、Znの微細化ははんだの外面だけでなく、はんだ内部にも達し、接合部全体が微細化される。
【0016】
本発明の鉛フリーはんだは、Ag、AuおよびCuなどがZnと反応し、且つ、Znに対して固溶度が大きく、Znリッチ側でZnとの合金化により、その固相線温度が低下しない金属でしか得られない。例えば引用文献3のように、Niのナノ粒子ではZn中にNiがほとんど固溶しないため、例えばNi-Znの化合物が形成されたとしても、Ni-ZnとZnの結晶構造が大きく異なる。また晶出するZnは核とはならないため、はんだ組織の微細化も発生しない。
【発明の効果】
【0017】
本発明では粒子径が5〜300nmで、Ag、AuおよびCuを1種類以上含んだナノ粒子を含有したエタノール溶液とフラックスとはんだ粉末が混和されたソルダペーストを使用することにより、はんだ付け後のはんだ組成を微細化されるので、接合強度を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例2のはんだ組織断面図。組織の微細化試験で○に該当するものである。
【
図2】比較例2のはんだ組織断面図。組織の微細化試験で×に該当するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に使用するナノ粒子は、単体金属のAg、Au、Cuのナノ粒子を使用しても良く、現在、ナノ粒子化が成功しているSiC、SiN、TiN、C、Ni、Co、Al2O3、Sn02、ZrO2、Ti02、CeO2、CaO2、Mn3O4、MgO、ITO(In2O3+SnO2)などの他の成分のナノ粒子にAg、Au、Cuをめっきしたものでも良い。他の成分のナノ粒子にAg、Au、Cuをめっきしたものでも、微粉末表面のAg、Au、CuとZnが反応して晶出するZnの核を生成するため同様の効果が得られる。
また本発明に使用するナノ粒子は、Ag、Au、Cuから選択した1種類の金属のナノ粒子を使用しても良く、さらにAg、Au、Cuを2種類以上混合したナノ粒子を用いても良い。
【0020】
本発明に使用するナノ粒子はnmオーダーの粒径粒子であれば同様の効果が得られるが、5nm未満のナノ粒子を製造することは現状では困難であり、1000nmを超える粒子粒径の粉末では、合金の強度を向上させるためには晶出物を数100nm程度に微細化する必要があり、晶出物の核としては300nm以下が好ましい。また、これらのナノ粒子ははんだ溶融中に一部は溶解するため、Zn晶出初期の核は添加したナノ粒子径より更に小さくなると考えられる。 本発明の粒子径が5〜300nmで、Ag、AuおよびCuを1種類以上含んだナノ粒子を含有したエタノール溶液とフラックスとはんだ粉末を混和したソルダペースト全量中の0.01質量%〜2.0質量%が好ましい。ナノ粒子が0.01質量より少ないとSn-Zn系の鉛フリーはんだ粉末との金属間化合物の核の生成量が少ないためはんだの微細化効果が得られなくなる。しかるに、ナノ粒子が2.0質量%を超えて添加されるとSn-Zn系の鉛フリーはんだと反応したナノ粒子が液相温度を大きく上昇させてしまい、低温でのはんだの融合特性を低下させ、Sn-Zn系鉛フリーはんだ合金の特徴である耐熱性のない部品に用いることができなくなってしまう。ちなみに本発明ではナノ粒子を使用してAg、Au、Cuと金属間化合物の核を生成させるため、特許文献2のようにSn-Zn系の鉛フリーはんだ中に溶解して添加する場合では、添加したAgは完全に溶融され、金属間化合物および、Ag,Au,Cuが固溶したZnの核は確率論により生成するため、このような方法で晶出物を微細化できない。つまり、液相中で、液体の流動特性を阻害しない程度にZnの核が大量に均一に分散することが本発明における現象である。
【0021】
また別の発明は、粒子径が5〜300nmで、Ag、AuおよびCuから選ばれた1種類以上含んだナノ粒子を含有したエタノール溶液とフラックスとはんだ粉末を混和したソルダペーストを使用してはんだ付けすることによって、はんだ付け後のはんだ組織を微細化する方法である。
【0022】
5〜300nmで、Ag、AuおよびCuから選ばれた1種類以上含んだナノ粒子は、粒径が微細であるため、外気に触れるとすぐに酸化してしまう。そのため該ナノ粒子を不活性ガス中に封止するか、油中で保存するなど外気に触れない保存形態が取られる。しかしナノ粒子を不活性ガス中に封止しても、ソルダペーストの製造時に外気に触れてしまうので、酸化してSn-Zn系鉛フリ−はんだ粉末との反応性が弱まってしまい、はんだボールを多く発生させる。
また油中で保管する方法では、保管した油と一緒にはんだ粉末およびフラックスと混和してソルダペーストを製造すると、油自体にははんだ付け性がないので、はんだ付け性が劣化して、はんだボールが多くなる。
また、松脂やフラックスにナノ粒子を混和して保存することも考えられるが、松脂やフラックスはナノ粒子と反応してしまうのでナノ粒子の保存には適さない。
そこで本発明では、粒子径が5〜300nmで、Ag、Au、Cuから選ばれた1種類以上含んだナノ粒子をアルコール系溶剤中に分散させて、アルコール系溶剤と一緒にはんだ粉末およびフラックスと混和してソルダペーストを製造する。
【0023】
アルコール系溶剤とは、水酸基を含んでいるアルコール類の中で、常温で液状のものである。アルコール系溶剤に含まれている水酸基は、リフローで加熱されてフラックスの活性剤が分解する際に活性剤がイオンに解離して酸化物を除去する働きを助長させる。本発明に使用するアルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの脂肪族アルコール、クレゾールなどの芳香族アルコール、α-テレピネオールなどのテルペン系アルコールや、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレンモノ2−エチレルヘキシルエーテル、フェニルグリコールなどのグリコールエーテル類などが好適である。さらにナノ粒子は、一般のμmオーダーの粒子に比較して水分の存在があると、ナノ粒子表面が酸化しやすいため、本発明に使用するアルコール系溶剤は、その中でもより水分を吸湿しにくく、ソルダペーストで使用されているものが好ましい。そのため本発明に使用するアルコール系溶剤としては、吸湿しにくいα-テレピネオールなどのテルペン系アルコールや、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレンモノ2−エチレルヘキシルエーテル、フェニルグリコールなどのグリコールエーテル類などがより好ましい。
【実施例1】
【0024】
本発明の実施例および比較例に使用するフラックスは、次のものである。
変性ロジン 42質量%
イソシアヌル酸トリス2.3ジブロモプロピルエーテル 6質量%
2.3ヒドロキシ安息香酸 3質量%
ジフェニルグアニジン 8質量%
水素添加ひまし油 7質量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 34質量%
【0025】
上記のフラックスを用いて、ソルダペーストを作りその特性を比較した。
ソルダペーストの製造方法は、はんだ粉末、フラックス、ナノ粒子の分散液を攪拌機に投入して混和した。実施例および比較例のソルダペースト配合は次の通りである。
実施例(1):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
300nmCu粉のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.2質量%(Cu量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
実施例(2):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
10nmCu粉のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.2質量%(Cu量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量% 実施例(3):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
100nmAg粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.025質量%(Ag量として、0.01質量%)
フラックス 11.475質量%
実施例(4):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 84.5質量%
100nmAg粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 5.0質量%(Ag量として、2.0質量%)
フラックス 10.5質量%
実施例(5):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
100nmAu粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.2質量%(Au量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
実施例(6):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.3質量%
100nmAg、100nmAu混合粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.4質量%(Ag、Cu量として、共に0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
【0026】
比較例(1): (特許文献3)
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
100nmNi粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.2質量%(Cu量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
比較例(2):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 82.5質量%
100nmAg粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 7.5質量%(Ag量として、3.0質量%)
フラックス 10.0質量%
比較例(3):
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
1,500nmAg粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.2質量%(Ag量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
比較例(4): (特許文献2)
Sn-3Bi-0.08Ag-8Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
フラックス 11.5質量%
比較例(5): (特許文献1)
Sn-9Znはんだ粉末(20〜40μm) 80.0質量%
純Cu金属粉末(20〜40μm) 8.0質量% フラックス 12.0質量%
【0027】
1).試験方法
実施例および比較例のソルダペーストを3216チップ抵抗部品搭載用の140×120×1mmのガラスエポキシ基板のCuパターン上に印刷後、千住金属製リフロー炉SNR725を使用して、プリヒート温度150℃、120秒、本加熱205℃以上、35秒の条件でリフロー加熱して試験基板とする。
1.組織の微細化
1日放冷後の実施例及び比較例の試験基板を1000倍に設定した電子顕微鏡で観察し、はんだ組織の微細化を比較する。
組織の微細化が見られたものを○、組織の微細化が見られなかったものを×と判定した。
2.チップ部品の接合強度試験
株式会社レスカ製STR-1000継手強度試験機で、横幅3mm、奥行き2mmのシェアーツールを用いて、試験速度5mm/min(JEITA推奨0.5〜9mm/min)で、3216チップ部品の接合強度(シェアー強度試験)を実施した。各サンプルで8〜15点dataをとり、その平均値を比較した。接合強度は、実用上75N以上必要である。
【0028】
実施例および比較例の結果を表1に示す。
【表1】
また温度サイクル後の組織変化の代表例として、
図1および
図2を示す。
図1は、実施例2のAgナノ粒子を添加して組織の微細化が起きたもので、組織の微細化試験で○に該当するものである。
図2は、比較例2の初めからはんだ合金中にAgを添加したもので、組織の微細化が起きておらず、組織の微細化試験で×に該当するものである。
【実施例2】
【0029】
下記の保存方法によるナノ粒子、はんだ粉末とフラックスを混和してソルダペーストを作り、ソルダボール試験を行い、加熱時に発生するソルダボールを比較する。
該試験に使用するフラックスは、実施例1で使用したものを用い、ソルダペーストの配合は、各実施例および比較例がCu量として0.08質量%となるように設定した。
実施例(1):
Sn-3Bi-8Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
20nmCu粒子のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル40%分散液 0.2質量%(Cu量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
実施例(2):
Sn-3Bi-8Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
20nmCu粒子のα-テレピネオール40%分散液 0.2質量%(Cu量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
比較例(1): (窒素中に保管した粉体を直接はんだ粉末と混和。)
Sn-3Bi-8Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
20nmCu粒子の粉末(窒素中保管のもの) 0.08質量%
フラックス 11.42質量%
比較例(2):
Sn-3Bi-8Znはんだ粉末(20〜40μm) 88.5質量%
20nmCu粒子の熱媒体油40%分散液 0.2質量%(Cu量として、0.08質量%)
フラックス 11.3質量%
【0030】
実施例および比較例の結果を表2に示す。
【表2】
【0031】
1.ソルダボール試験
試験方法(JISZ 3284 付属書11に準ず。)
各実施例および比較例のソルダペーストをアルミナ基板に印刷し、印刷後1時間以内に250℃に設定したソルダバスにアルミナ基板を乗せ、ソルダペーストを溶融させる。
凝固したはんだの外観を10〜20倍の拡大鏡で、ソルダボールの粒径および数を50倍の拡大鏡で観察し、付属書11表1および付属書11
図1に規定するはんだ粒子の凝集状態によって評価する。
【0032】
2).試験結果
「実施例1」では、実施例のソルダペーストの凝固したはんだは、組織の細分化が見られ温度サイクル後のクラックの発生も無かったが、比較例のソルダペーストの凝固したはんだは、温度サイクルを加えるとクラックの発生が見られた。特に特許文献3を参照した比較例3については、リフロー後のはんだが未溶融の状態となっており、Cu粉末も溶解せずそのまま残ってしまった。
「実施例2」では、実施例のナノ粒子をアルコール系溶剤に分散させたソルダペーストは、はんだボールの発生が少なかったが、比較例の窒素中に保存したものや油中に分散させたものははんだボールの発生が多かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の粒子径が5〜300nmで、Ag、Au、Cuから選ばれた1種類以上含んだナノ粒子を含有したエタノール溶液とフラックスとはんだ粉末を混和したソルダペーストは、Sn-Zn系はんだ合金だけでなく、Sn-Ag系はんだ合金、Sn-Cu系はんだ合金、Sn-Ag-Cu系はんだ合金にも、各化合物の核となりうるナノ粒子を選択することではんだ組織の微細化の効果を及ぼす。そのためSn-Ag系はんだ合金、Sn-Cu系はんだ合金、Sn-Ag-Cu系に粒子径が5〜300nmで、各化合物の核となりうるナノ粒子を1種類以上を含有したエタノール溶液とフラックスとはんだ粉末を混和したソルダペーストは、接合強度が大きいはんだ合金得ることができる。