【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。
【0033】
1.センチニクバエの飼育
センチニクバエは、日本大学内P1A飼育室で飼育した。飼育には、逃亡・臭気対策として、動物個別飼育装置を使用した。飼育装置内の温度は27℃とし、6 am〜10 pmの16時間を照明し、昼夜を作った。幼虫は、餌としてレバーを与え、レバーの中で4〜5日飼育した。最終齢である三齢幼虫をレバーから取り出し、木屑の中で蛹化させた。その後、蛹を成虫用の網カゴに移し、餌として砂糖、粉ミルク、水を与え、9日目に羽化させた。
【0034】
2.遺伝子組換え用プラスミド
本実施例で使用したpiggyBacトランスポゾンシステム(Fraser MJ, Ciszczon T, Elick T, Bauser C. 1996. Precise excision of TTAA-specific lepidopteran transposons piggyBac (IFP2) and tagalong (TFP3) from the baculovirus genome in cell lines from two species of Lepidoptera. Insect Mol Biol. 5(2):141-51.)は、Malcolm J. Fraser, Jr博士(University of Notre Dame、インディアナ州、米国)から分与していただいた。このpiggyBacシステムを基に、表1に示すプロモーター及び遺伝子を有するプラスミドを作製した。
【表1】
上記表において、プラスミド(v)及び(vi)は、プラスミド(i)〜(iv)に含まれるDsRed又はGFP遺伝子の宿主ゲノムへの組換えを促進するヘルパープラスミドである。
【0035】
3.遺伝子導入
羽化後4〜5日目のメスを氷上麻酔したのち、腹部を圧迫し、子宮口から胚を取り出した。取り出した胚の卵黄部に、ガラスキャピラリーを用いて、プラスミド(i)〜(iv)のいずれか1種類とプラスミド(v)及び(vi)のいずれか1種類とを水で懸濁した溶液(100 ng/μL)を微少量マイクロインジェクションした。遺伝子を導入した胚は、25℃で4日間保温した後、レバーに播種し、先に述べた飼育環境で成虫になるまで飼育した。
マイクロインジェクションには、ガラスキャピラリーを加熱して2回引き伸ばす(2段引き)ことにより先端を細くし、さらに研磨機(ナリシゲ、EG-400)で先端を研磨することにより作製するものを用いた。
【0036】
4.導入遺伝子の発現解析
導入した遺伝子が胚で発現しているかどうか、検討を行った。インジェクションから1日目に正常に発生していると判断される胚を回収し、導入遺伝子のmRNA発現をRT-PCR法で検出した。
-80℃で保存しておいた胚にRNA later ice(Ambion社)を添加し、-20℃に16時間以上放置した。RNAの抽出はHigh Pure RNA Tissue Kit(Roche社)を用い取扱説明書に従って行った。RT-PCR法は、Transcriptor One Step RT-PCR Kit(Roche社)を用い取扱説明書に従って行った。逆転写反応およびPCR反応には以下のプライマーを用いた。
DsRed mRNAの検出: phMGFP-F1, DsRed-R1
トランスポゼース mRNAの検出: phMGFP-F1, pBorf-R1もしくはpBorf-R2
GFP mRNAの検出: phMGFP-F1, phMGFP-R1もしくはphMGFP-R2
各プライマーの塩基配列は以下の通り。
phMGFP-F1: AGAAGTTGGTCGTGAGGC(配列番号3)
phMGFP-R1: GTCAGGTCCATAGTCTGC(配列番号4)
phMGFP-R2: CTTGGCGAAGACACGGTTA(配列番号5)
DsRed-R1:CTTCACGTACACCTTGGAG(配列番号6)
pBorf-R1:TATCGCTCTGGACGTCATC(配列番号7)
pBorf-R2:TGGCAAGGTCAAGATTCTG(配列番号8)
【0037】
プライマーはそれぞれ反応液中に終濃度0.4μMとなるように加えた。反応はKitの説明書に従い、50℃30分間の逆転写反応を行った後、94℃で7分間加熱して逆転写酵素を失活させたのち、変性94℃、10秒-アニーリング54℃、30秒-伸長反応68℃、30秒のサイクルを10回行い、以降35回目まで伸長反応を3秒ずつ伸ばした。その後68℃で7分間加熱し4℃で保存した。PCR産物はアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0038】
プラスミド(iv)+(vi)の組み合わせを導入した胚のRT-PCRの結果を
図2に示す。DsRed遺伝子の発現を示すバンドが、14個体中6個体で確認された(
図2A)。また、同じ個体についてトランスポゼース遺伝子の発現を示すバンドは、14個体中5個体で確認された(
図2B)。
【0039】
インジェクション後4日目に胚の生存率を以下の式に従って求めた。
4日目生存率=4日目の生存胚の数/(遺伝子導入した胚の数−1日目に回収した胚の数)
また、インジェクション後4日目に、1日目と同様に導入遺伝子の発現をRT-PCRで確認した。生存率及び導入遺伝子の発現確認の結果を表2に示す。
【表2】
【0040】
5.導入遺伝子から発現したタンパク質の検出
プラスミド(iv)+(vi)の組み合わせを導入した胚について、インジェクションから3又は4日目に、蛍光顕微鏡を用いてDsRed蛍光タンパク質の発現を検出し、同時に、胚の発生率を確認した。その結果を表3に示す。
【表3】
図3に、顕微鏡観察により確認されたプラスミド(iv)+(vi)をインジェクションした胚(導入後2日目)のDsRedタンパク質発現を示す(x 135倍)。
【0041】
6.インジェクションした胚の発生
インジェクションした胚の発生能を確認するため、項目「1.センチニクバエの飼育」と同様の条件で胚を成虫になるまで飼育した。その結果、約10%程度の胚が成虫まで成長した。この成長率は、非インジェクション群と同程度のものであった。結果を表4に示す。
【表4】
【0042】
7.成虫の生殖器を含む組織での導入遺伝子の存在
導入した遺伝子が、成虫の生殖器を含む組織で発現しているかどうかを確認するため、インジェクション群の成虫の生殖器周囲の組織を採取し、ゲノムDNAに対してGFP又はDs Red特異的プライマーを用いてPCRを行った。
DNAの抽出はWizard Genomic DNA Prufirication Kit(Promega社)を用い、説明書に従って行った。PCR法は、プライマーにphMGFP-F1とDsRed-R1を用い、Ex taq (Takara社)を用いて説明書に従って行った。反応液を94℃で5分間加熱した後、変性94℃、20秒-アニーリング60℃、10秒-伸長反応72℃、1分のサイクルを35回行い、72℃で10分間加熱した後4℃で保存した。PCR産物はアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0043】
その結果、4/45個体で遺伝子の存在を確認することができた(
図4)。センチニクバエは、蛹化時に幼虫組織の崩壊が起こるため、導入遺伝子は、染色体内に組み込まれていなければ幼虫組織の崩壊とともに分解されているはずである。従って、この結果は、導入遺伝子が染色体に組み込まれ、センチニクバエの遺伝子組換えが生じたことを示している。
【0044】
8.インジェクションDNAの濃度検討
インジェクション群と非インジェクション群とで胚の発生率が大きな差を示さなかったことから、インジェクションするDNA量を増加することを検討した。そこで、インジェクションするプラスミド懸濁液の濃度を100 ng/μLから500 ng/μLに増加させて、先と同様の条件で胚にマイクロインジェクションを行った。その結果を、表5に示す。
【表5】
【0045】
プラスミド懸濁液の濃度を100 ng/μLから500 ng/μLに増加させた結果、生存数や蛍光を発する胚の割合には大きな変化は見られなかった(表5)。しかしながら、100 ng/μLのプラスミド濃度の場合と比べ、胚がより強く蛍光を発することが確認された。
図5に500 ng/μLのプラスミド濃度でインジェクションを行った3日目の胚のDsRedの蛍光発現を示す。DsRed蛍光は、DsRed用フィルターを通じて観察したが(
図5A)、発現量が強いため、GFPフィルター(
図5B)、YFPフィルター(
図5C)を通じても観察することができた。但し、明視野では観察されない(
図5D)。
【0046】
9.次世代胚での導入遺伝子の存在
導入遺伝子が次世代の胚に受け継がれているかどうかを検討した。次世代の胚は、先の項目「6.インジェクション(プラスミド(iv)+(vi))した胚の成長」で発生させた個体を相互に掛け合わせることにより得られた。胚を2〜3個づつまとめ、Phire Animal Tissue Direct PCR Kit (Fynnzymes社)を用い説明書に従ってゲノムDNAを抽出し、このゲノムDNAを鋳型として、導入遺伝子に対しPCR増幅を行った。プライマーはphMGFP-F1とDsRed-R1を用いた。その結果、5個体の子宮から得た10サンプルのうち、2サンプルで、DsRed遺伝子の存在を示すバンドが確認された(
図6)。従って、本発明の方法により導入した遺伝子は、次世代に受け継がれることが示された。
【0047】
10.プラスミドの懸濁媒体の検討
プラスミドの懸濁媒体を検討し、最終的に水のみを使用すると胚でDsRed蛍光が見られることが分かった。
【表6】
プラスミドは(iv)+(vi)を用い、水とトランスフェクション試薬(Insect GeneJuice Transfection Reagent(Novagen社)を用いた場合、胚で蛍光は見られなかったが、トランスフェクション試薬を除き水のみに変更すると胚でDsRed蛍光が認められた。