【実施例】
【0030】
[実施例1]
実施例1では、本発明の研磨カス飛散防止組成物を用いて爪を研磨した例を示す。
【0031】
1.研磨カス飛散防止組成物の調製
50%エタノール水溶液50mLに、ヒドロキシプロピルセルロース5g、グルコマンナン4gおよび尿素10gを混和して、第1の溶液を調製した。一方、100%エタノール50mLに、サリチル酸3gを混和して、第2の溶液を調製した。第1の溶液と第2の溶液を混和して、白色〜透明のゲル状組成物(本発明の研磨カス飛散防止組成物)を調製した。
【0032】
得られたゲル状組成物(pH2.5)の組成を表2に示す。
【表2】
【0033】
図1は、調製したゲル状組成物を使用して爪を研磨した様子を示す写真である。これらの写真に示されるように、調製したゲル状組成物を足の爪に塗布し(
図1A参照)、グラインダー(ミニルーターNo.28510;プロクソン社)を用いて爪を研磨したところ(
図1B参照)、研磨カスはほとんど飛散しなかった。研磨カスは、爪の周囲に付着している固形化したゲルの中に包含されていた(
図1C参照)。
【0034】
2.研磨カスの飛散防止効果の確認
本発明の組成物による研磨カスの飛散防止効果を確認するために、研磨カスの飛散距離を測定した。
【0035】
本実験では、紫外線を照射すると蛍光を発する爪用トップコート(カッピングシーラー;スターネイル社)を用いて、足の爪の研磨カスの飛散距離を測定した。
図2は、足の爪に蛍光性トップコートを塗布する様子を示す写真である。
図2Aは、蛍光性トップコートを塗布する前の足の親指の写真である(可視光を照射して撮影)。
図2Bは、蛍光性トップコートを塗布した後の足の親指の写真である(紫外線を照射して撮影)。
【0036】
図3および
図4は、蛍光性トップコートを塗布し、ゲル状組成物を塗布していない爪を研磨した様子を示す写真である。
図3は、低速回転のグラインダーを用いて5分間研磨した様子を示す写真であり、
図4は、高速回転のグラインダーを用いて5分間研磨した様子を示す写真である。
【0037】
低速回転のグラインダーを用いて研磨した場合、
図3Aに示されるように、蛍光性トップコートが付着した研磨カスは爪の周囲および作業台上に飛散した。また、
図3Bおよび
図3Cに示されるように、蛍光性トップコートが付着した研磨カスは施術者の両手にも付着していた。
【0038】
また、高速回転のグラインダーを用いて研磨した場合、
図4Aおよび
図4Bに示されるように、研磨カスの飛散範囲が拡大した。また、研磨カスは施術者の両腕(前腕および上腕)やマスクなどにも付着していた。
【0039】
図5Aおよび
図5Bに示されるように、高速回転のグラインダーを用いて研磨したときの研磨カスの最大飛散距離を計測した。その結果、ゲル状組成物を塗布せずに爪を研磨した場合、研磨カスの最大飛散距離の平均値は52.5cmであった(n=15)。
【0040】
図6は、アルコールを含ませた綿で研磨後の足の甲を拭いた後の様子を示す写真である。
図6Aに示されるように、可視光で観察すると研磨カスがほとんど除去されたように見えたが、
図6Bに示されるように、紫外線を照射すると微細な研磨カスが残存していることがわかった。このことから、研磨カスが一旦飛散してしまうと、研磨カスを完全に除去するのは困難であることがわかる。
【0041】
図7は、蛍光性トップコートを塗布した上で、ゲル状組成物も塗布した爪を研磨した様子を示す写真である。
図7Aは、高速回転のグラインダーを用いて5分間研磨した様子を示す写真であり、
図7Bは、研磨後に研磨カスの最大飛散距離を計測した様子を示す写真である。
【0042】
図7Aおよび
図7Bに示されるように、ゲル状組成物を塗布した上で爪を研磨した場合、研磨カスの最大飛散距離の平均値は23.9cmであった(n=15)。
【0043】
図8は、ゲル状組成物を塗布した場合および塗布しなかった場合における、高速回転のグラインダーを用いて研磨したときの研磨カスの最大飛散距離を示すグラフである。このグラフから、本発明の組成物を塗布することで、研磨カスの飛散距離を有意に減少させうることがわかる。
【0044】
図9は、爪やすりを用いて手指の爪に対して同様の実験を行ったときの実験結果を示すグラフである。このグラフに示されるように、本発明の組成物を塗布せずに研磨すると、研磨カスが平均13cm飛散したが、本発明の組成物を塗布することで、研磨カスの飛散を完全に防止することができた。
【0045】
また、本発明の組成物の代わりに、市販されている超音波検査用のゲル(ソノゼリー;東芝医療用品株式会社)を用いても研磨カスの飛散を抑制できるかどうかを調べた。
図10は、その結果を示す写真である。
図10Aは、超音波検査用ゲルを塗布した上で、グラインダーを用いて爪を研磨した後の様子を示す写真である。
図10Bは、本発明の組成物を塗布した上で、グラインダーを用いて爪を研磨した後の様子を示す写真である。
【0046】
図10Aに示されるように、市販の超音波検査用ゲルを塗布しても、研磨カスの飛散を防止することはできなかった。一方、
図10Bに示されるように、本発明の組成物を塗布した場合は、研磨カスの飛散はほとんど観察されなかった。これは、本発明の組成物と超音波検査用ゲルとの粘度の違いによるものと考えられる。すなわち、本発明の組成物は、研磨カスの飛散を防ぐのに好適な粘度に調整されているのに対し、超音波検査用ゲルは、超音波検査に好適な粘度に調整されており、研磨カスの飛散を防ぐには粘度が低いためと考えられる。
【0047】
以上の結果から、本発明の組成物は、超音波検査用ゲルなどに比べて研磨カスの飛散防止効果に優れていることがわかる。
【0048】
3.抗白癬菌効果の確認
本発明の組成物による抗白癬菌効果を確認するために、培養実験を行った。
【0049】
爪白癬の患者から、本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨したときの研磨カス(足趾爪甲部およびその周辺部)を採取した。また、同一の患者から、本発明の組成物を塗布して爪を研磨したときの研磨カス(足趾爪甲部およびその周辺部)も採取した。
【0050】
図11は、研磨カスを採取する様子を示す写真である。
図11Aに示されるように、本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨した場合は、飛散した研磨カスを採取した。一方、
図11Bに示されるように、本発明の組成物を塗布して爪を研磨した場合は、固形化したゲル(研磨カスを包含する)を採取した。
【0051】
採取した研磨カスまたはゲルを、滅菌綿棒を用いてサブローデキストロース寒天培地(血清成分添加)上に塗抹した。塗抹後の培地は、30℃の恒温槽内に静置した。
【0052】
図12は、培養9日目の様子を示す写真である。左側が本発明の組成物を塗布して爪を研磨したときの研磨カス(固形化したゲル)を塗抹した培地であり、右側が本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨したときの研磨カス(飛散した研磨カス)を塗抹した培地である。この写真からわかるように、本発明の組成物を塗布しなかった場合は、研磨カスが糸状菌陽性であった(右側のシャーレ)。これに対し、本発明の組成物を塗布した場合は、研磨カスが糸状菌陰性であった(左側のシャーレ)。
【0053】
図13は、別の患者についての、培養9日目の様子を示す写真である。この患者でも、本発明の組成物を塗布しなかった場合、研磨カスは糸状菌陽性であった(右側のシャーレ)。これに対し、本発明の組成物を使用した場合、研磨カスは糸状菌陰性であった(左側のシャーレ)。この後、30日目まで培養しても、同一の結果であった。
【0054】
また、本発明の組成物の代わりに、前述の超音波検査用ゲルを用いても白癬菌を殺菌できるかどうかを調べた。
図14は、培養9日目の様子を示す写真である。この写真からわかるように、超音波検査用ゲルを使用した場合、研磨カスは糸状菌陽性であった。これは、超音波検査用ゲルには、殺菌成分が配合されていないためと考えられる。
【0055】
さらに、本発明の組成物の代わりに、市販されているアルコールを含むゲル状の手指消毒殺菌剤(ゴージョーMHS;ゴージョージャパン株式会社)を用いても白癬菌を殺菌できるかどうかを調べた。
図15は、培養9日目の様子を示す写真である。
図15Aと
図15Bとでは、研磨カスを採取した患者が異なる。
図15Aおよび
図15Bにおいて、左側は足趾爪甲部の研磨カスを塗抹した培地であり、右側は足趾爪甲部の周辺部の研磨カスを塗抹した培地である。これらの写真からわかるように、アルコールを含むゲル状の手指消毒殺菌剤を使用した場合も、研磨カスは糸状菌陽性であった。これは、手指消毒殺菌剤は粘度が低く、白癬菌を死滅させる前にアルコールが揮発してしまったためと考えられる。これに対し、本発明の組成物は、アルコールが揮発しにくいため、白癬菌が死滅するまで白癬菌をアルコールに接触させることができる(
図13参照)。
【0056】
以上の結果から、本発明の組成物は、手指消毒殺菌剤や超音波検査用ゲルなどに比べて抗白癬菌効果に優れていることがわかる。
【0057】
[実施例2]
実施例2では、本発明の研磨カス飛散防止組成物を用いて皮膚を研磨した例を示す。
【0058】
本実施例では、実施例1で調製したゲル状組成物(本発明の研磨カス飛散防止組成物)を足の裏に塗布した後、角質やすり(ビューティーフット;ピー・シャイン株式会社)を用いて足の裏の皮膚を研磨した。
【0059】
図16Aは、研磨する前の足の裏の様子を示す写真である。この写真に示されるように、足の裏には胼胝および鶏眼が形成されていた。
図16Bは、ゲル状組成物を使用して足の裏の皮膚を研磨した後の様子を示す写真である。この写真に示されるように、ゲル状組成物を使用して足の裏の皮膚を研磨することで、胼胝および鶏眼を除去することができた。研磨後の皮膚は滑らかであった。なお、研磨中に研磨カスはほとんど飛散しなかった。
【0060】
以上の結果から、本発明の組成物は、爪の研磨だけでなく、皮膚の研磨にも適用できることがわかる。