【実施例】
【0048】
1.電池の製造
参考例1
(1)負極の作製
60%のLa、20%のCe、5%のPr、15%のNdとなるように調整した希土類成分を準備した。そして、この希土類成分、Ni、Co、Mn及びAlをモル比で1.00:3.80:0.70:0.25:0.35の割合で混合した後、誘導溶解炉に投入して溶解させ、これを冷却してインゴットを作製した。
【0049】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴン雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施して均質化した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して水素吸蔵合金粉末を得た。そして、得られた水素吸蔵合金粉末を篩い分けによりサイズの異なる2つのグループの水素吸蔵合金粉末に選別した。得られた水素吸蔵合金粉末につきレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によりそれぞれ粒度分布を測定したところ、重量積分50%にあたる平均粒径は、一方のグループ(第1粒子)が45μmであり、他方のグループ(第2粒子)が100μmであった。
【0050】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、(La
0.60Ce
0.20Pr
0.05Nd
0.15)Ni
3.80Co
0.70Mn
0.25Al
0.35であった。また、この水素吸蔵合金粉末についてX線回折測定(XRD測定)を行ったところ、結晶構造は、CaCu
5型であった。
【0051】
得られた第1粒子の粉末100質量部に対し、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエン共重合ゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50質量%)0.5質量部(固形分換算)、ケッチェンブラック0.5質量部、水50質量部を添加して常温下において混練し、負極合剤スラリー(第1スラリー)を調製した。
【0052】
また、得られた第2粒子の粉末100質量部に対し、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエン共重合ゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50質量%)0.5質量部(固形分換算)、ケッチェンブラック0.5質量部、水50質量部を添加して常温下において混練し、負極合剤スラリー(第2スラリー)を調製した。
【0053】
次に、鉄製の孔あき板に対し、巻回された際に電極群の最外周部50となる部分の中央62から本体部56及び最内周部58に亘る範囲の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように第1スラリーを塗布した後、この第1スラリーを乾燥させた。このとき、第1スラリーは、厚さ0.745mm、単位体積当たりの水素吸蔵合金量が2.8g/cm
3となるように塗布した。
【0054】
その後、最外周部50となる部分の中央62から巻き終わり端42に亘る範囲の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように第2スラリーを塗布した後、この第2スラリーを乾燥させた。このとき、第2スラリーは、厚さ0.425mm、単位体積当たりの水素吸蔵合金量が2.8g/cm
3となるように塗布した。
なお、上記した孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0055】
第1スラリー及び第2スラリーの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末を含む負極合剤層を保持した孔あき板をロール圧延した後、裁断し、AAサイズ用の負極26を作成した。なお、負極1枚当たりの水素吸蔵合金量は9.0gとした。
【0056】
ここで、ロール圧延の際、直径300mmのローラーを用いて、最外周部50のうち第1スラリーが塗布された領域、本体部56及び最内周部58にかかる押圧力が100kNとなるように調節するとともに、最外周部50のうち第2スラリーが塗布された領域にかかる押圧力が10kNとなるように調節してロール圧延を行った。圧延後の各部の厚さは、最外周部50のうち第1スラリーが塗布された領域、本体部56及び最内周部58が、0.390mm、最外周部50のうち第2スラリーが塗布された領域が、0.370mmであった。このときの本体部56と最外周部50の巻き終わり端42寄りの部分(最外周部50のうち第2スラリーが塗布された領域)との厚さの比は、1:0.95であった。
【0057】
また、得られた負極26について、水素吸蔵合金粒子の粒径を測定したところ、最外周部50のうち第1スラリーが塗布された領域、本体部56及び最内周部58に含まれる合金粒子の粒径は32μmであり、最外周部50の中央62から巻き終わり端42までの間に含まれる合金粒子の粒径は58μmであった。また、水素吸蔵合金粒子の充填密度は、最外周部50のうち第1スラリーが塗布された領域、本体部56及び最内周部58で5.6g/cm
3、最外周部50の中央62から巻き終わり端42までの間で3.2g/cm
3であった。
【0058】
(2)正極の作製
金属ニッケルに対して、亜鉛3.0質量%、コバルト1質量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌しながら、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下して反応させ、ここでの反応中、pHが13〜14に維持されるようにして沈殿物を生成させた。ついで、生成した沈殿物を濾別して、10倍量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、正極活物質としての水酸化ニッケル粉末を得た。
【0059】
得られた水酸化ニッケル粉末89.5質量%と水酸化コバルト10質量%と酸化イットリウム0.5質量%とからなる混合粉末に、結着剤としての40質量%ヒドロキシプロピルセルロースディスパージョン溶液を混合粉末の質量に対して50質量%となるように添加して、正極合剤スラリーを作製した。
【0060】
ついで、正極合剤スラリーを面密度(目付)が約600g/m
2、多孔度が95%、厚みが約2mmのニッケル発泡体に充填し、これを乾燥させ、正極活物質密度が約2.9g/cm
3となるように調整して圧延した後、所定の寸法に切断して非焼結式ニッケル極からなる正極24を得た。
【0061】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量40g/m
2)であった。
【0062】
有底円筒形状の外装缶10内に上記電極群22を収納するとともに、アルカリ電解液(リチウム及びカリウムを含有した30質量%の水酸化ナトリウム水溶液)2.2gを注入した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量が1600mAhのAAサイズの密閉型ニッケル水素二次電池2を組み立てた。このニッケル水素二次電池を電池Aと称する。
【0063】
参考例2
第1スラリーを本体部56及び最内周部58に塗布し、第2スラリーを最外周部50の全体に塗布し、ロール圧延の際、本体部56及び最内周部58にかかる押圧力が100kN、最外周部50にかかる押圧力が10kNとなるように調節してロール圧延を行ったこと以外は
参考例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池B)を組み立てた。
【0064】
得られた負極26について、水素吸蔵合金粒子の粒径を測定したところ、本体部56及び最内周部58に含まれる合金粒子の粒径は32μmであり、最外周部50に含まれる合金粒子の粒径は58μmであった。また、水素吸蔵合金粒子の充填密度は、本体部56及び最内周部58で5.6g/cm
3、最外周部50で3.2g/cm
3であった。
【0065】
参考例3
第1スラリーを本体部56及び最外周部50に塗布し、第2スラリーを最内周部58の全体に塗布し、ロール圧延の際、本体部56及び最外周部50にかかる押圧力が100kN、最内周部58にかかる押圧力が10kNとなるように調節してロール圧延を行ったこと以外は
参考例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池C)を組み立てた。
得られた負極26について、水素吸蔵合金粒子の粒径を測定したところ、本体部56及び最外周部50に含まれる合金粒子の粒径は32μmであり、最内周部58に含まれる合金粒子の粒径は58μmであった。また、水素吸蔵合金粒子の充填密度は、本体部56及び最外周部50で5.6g/cm
3、最内周部58で3.2g/cm
3であった。
【0066】
実施例
1
第1スラリーを本体部56に塗布し、第2スラリーを最外周部50及び最内周部58の全体に塗布し、ロール圧延の際、本体部56にかかる押圧力が100kN、最外周部50及び最内周部58にかかる押圧力が10kNとなるように調節してロール圧延を行ったこと以外は
参考例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池D)を組み立てた。
【0067】
得られた負極26について、水素吸蔵合金粒子の粒径を測定したところ、本体部56に含まれる合金粒子の粒径は32μmであり、最外周部50及び最内周部58に含まれる合金粒子の粒径は58μmであった。また、水素吸蔵合金粒子の充填密度は、本体部56で5.6g/cm
3、最外周部50及び最内周部58で3.2g/cm
3であった。
【0068】
比較例1
第1スラリーを本体部56、最外周部50及び最内周部58の全ての部分に塗布し、ロール圧延の際、本体部56、最外周部50及び最内周部58にかかる押圧力が100kNとなるように調節してロール圧延を行ったこと以外は
参考例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池E)を組み立てた。
得られた負極26について、水素吸蔵合金粒子の粒径を測定したところ、粒径は32μmであり、水素吸蔵合金粒子の充填密度は、5.6g/cm
3であった。
【0069】
比較例2
第2スラリーを本体部56、最外周部50及び最内周部58の全ての部分に塗布し、ロール圧延の際、本体部56、最外周部50及び最内周部58にかかる押圧力が100kNとなるように調節してロール圧延を行ったこと以外は
参考例1と同様にして負極26を作製したが、圧延後の負極26は平坦にならず波打った形状となり、電池を組み立てることができなかった。
【0070】
2.ニッケル水素二次電池の試験
(1)初期活性化処理
電池A〜電池Eに対し、温度25℃の下にて、0.1Cの充電電流で16時間の充電を行った後に、0.2Cの放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる操作を1サイクルとする充放電サイクルを合計2サイクル行うことにより各電池に対し初期活性化処理を行った。
【0071】
(2)電池容量測定
初期活性化処理済みの電池A〜電池Eに対し、0.1Cの充電電流で16時間充電し、0.2Cの放電電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電し、各電池につき容量の測定を行った。
ここで、比較例1の電池Eの容量を100として、各電池の容量との比を求め、その結果を電池容量比として表1に示した。
【0072】
(3)サイクル寿命特性試験
初期活性化処理済みの電池A〜電池Eに対し、25℃の雰囲気下にて、1.0Cの充電電流で電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電し、その後、30分間放置した。
ついで、同一の雰囲気下にて1.0Cの放電電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電した後、30分間放置した。
【0073】
上記充放電のサイクルを1サイクルとし、各電池につき放電ができなくなるまでのサイクル数を数え、その回数をサイクル寿命とした。ここで、比較例1の電池Eがサイクル寿命に至ったときのサイクル数を100として、各電池のサイクル寿命との比を求め、その結果をサイクル寿命特性比として表1に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
3.電池の評価
(1)表1より、電池A,B,C,Dと、電池Eとでは、電池容量に差がないことがわかる。つまり、本発明に係る電池A,B,C,Dは、電池Eのように負極全体において水素吸蔵合金の高密度化を図って高容量化された電池と同程度に高容量化が図られていると言える。これは、電池A,B,C,Dに含まれる負極では、部分的に水素吸蔵合金の粒径を大きくするとともに水素吸蔵合金の密度を低くしているが、このような部分は、正極と片面でしか対向しておらず電池の充放電反応に関与する割合が比較的低い最外周部あるいは最内周部であるので、電池反応への影響が小さいことと、電池の充放電反応に関与する割合が高い本体部では、電池Eと同様に水素吸蔵合金の密度が高められていることによりもたらされているものと考えられる。
【0076】
(2)表1より、
参考例1の電池Aは、比較例1の電池Eに対してサイクル寿命特性が向上していることがわかる。これは、電池Aでは、最外周部にて部分的に水素吸蔵合金の大径粒子を含むため、負極中の水素吸蔵合金粉末の比表面積が低減され、アルカリ電解液による腐食反応の進行度合いが電池Eに比べて遅くすることできたためと考えられる。
【0077】
(3)また、
参考例2の電池Bは、比較例1の電池Eに対してサイクル寿命特性が更に向上していることがわかる。これは、電池Bでは、水素吸蔵合金粒子を最外周部全体で大粒径化したので、大粒径化された水素吸蔵合金の量が相対的に増えたことにより比表面積が更に低減されたためと考えられる。
【0078】
(4)更に、
参考例3の電池Cは、比較例1の電池Eに対して
参考例2と同レベルでサイクル寿命特性が向上していることがわかる。つまり、電池Cの負極は、最外周部に比べて範囲が狭い最内周部で水素吸蔵合金粒子の大粒径化をしているにもかかわらず、電池Bと同レベルのサイクル寿命特性を発揮している。これは、電極群の中心部は電池反応の際に発生する熱がこもりやすい部位であるため、この部位に位置付けられる負極の最内周部では、水素吸蔵合金の大粒径化の効果が表れやすいためと考えられる。
【0079】
(5)また、実施例
1の電池Dは、電池A,B,Cよりも更にサイクル寿命特性が向上していることがわかる。これは、電池Dでは、最外周部及び最内周部の両方で水素吸蔵合金の大粒径化をしたので、水素吸蔵合金粉末の比表面積が更に低減したためと考えられる。
【0080】
(6)また、負極の全体で水素吸蔵合金の粒径を大きくした比較例2では、電池の組み立てが不能であったが、
参考例1〜
3及び実施例1に係る負極では、電池A,B,C,Dを良好に組み立てることができた。電池A,B,C,Dの負極では、電池反応への影響が小さい部分の水素吸蔵合金の粒径を大きくしているが、斯かる部分は、高密度化する必要性が低いためロール圧延の際の荷重を低く抑えることができ、負極芯体へのダメージを最小限にすることができた。このため、得られる負極は形状的品質が高く、電池の組み立てが可能となった。
【0081】
(7)以上より、本発明によれば、負極の最外周部及び最内周部の水素吸蔵合金に平均粒径が比較的大きい粒子を用い、充填密度を低く設定することで、電池のサイクル寿命特性の向上と負極の形状的品質の向上とを両立させることが可能なニッケル水素二次電池用の負極を得ることができ、また、この負極を備えたサイクル寿命特性に優れたニッケル水素二次電池を得ることができるので、本発明の工業的価値は極めて高いといえる。