特許第5754837号(P5754837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5754837-被覆造粒種子の乾燥方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754837
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】被覆造粒種子の乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   A01C 1/06 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
   A01C1/06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-188975(P2010-188975)
(22)【出願日】2010年8月26日
(65)【公開番号】特開2012-44912(P2012-44912A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】596005964
【氏名又は名称】住化農業資材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 美香
(72)【発明者】
【氏名】天野 里子
(72)【発明者】
【氏名】西村 亮
【審査官】 井上 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−014234(JP,A)
【文献】 特開2007−020529(JP,A)
【文献】 特開平08−070628(JP,A)
【文献】 特開平05−207807(JP,A)
【文献】 特開平07−289021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含有する被覆造粒種子を絶対湿度が14g/kg(DA)以下で、温度が50℃未満の供給空気で乾燥させる第1工程と、第1工程によって得られた被覆造粒種子を温度50℃以下の供給空気でさらに乾燥させる第2工程とを有することを特徴とする被覆造粒種子の乾燥方法。
【請求項2】
第1工程において被覆造粒種子の限界含水率近傍まで被覆造粒種子を乾燥させる請求項記載の乾燥方法。
【請求項3】
第2工程において被覆造粒種子の平衡含水率近傍まで被覆造粒種子を乾燥させる請求項1又は2記載の乾燥方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の乾燥方法によって乾燥されたことを特徴とする被覆造粒種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆造粒種子の乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種子を利用する分野において播種作業を省力化し、少ない労働力で大規模な作業をするために多様な形状をした種子を一定の形状や特定の重量に被覆造粒する技術、すなわち種子コーティングがますます重要となってきている。とりわけ、農業生産においては効率的でかつ、計画的な栽培を行うための高性能な種子が要求されている。その一つとして、被覆造粒化によって発芽性能の低下しない被覆造粒種子が求められている。そのためには、被覆造粒後の乾燥行程における乾燥不足を防止することが重要である。
【0003】
そこで、これまで被覆造粒種子の乾燥方法に関して種々の提案がなされている。例えば特許文献1では、被覆造粒種子を振動又は転動させながら所定温度以上の熱風を被覆造粒種子に接触通過させる乾燥方法が提案されている。また特許文献2では、乾燥温度を変えて2段階で乾燥を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-207807号公報
【特許文献2】特開平8-70628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、乾燥工程における供給空気を所定温度に制御していても、被覆造粒種子を乾燥させる時季や場所などによって、被覆造粒種子の性能に差が生じることがあり、被覆造粒種子の性能差を小さくする乾燥方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況下で本発明者らは鋭意検討を行った結果、被覆造粒種子の乾燥処理において供給空気の温度のみならず供給空気の湿度も被覆造粒種子の性能に影響を与えるとの知見を得、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る被覆造粒種子の乾燥方法は、水分を含有する被覆造粒種子を、絶対湿度が14g/kg(DA:Dry Air)以下、温度が50℃未満の供給空気で乾燥させる第1工程と、第1工程によって得られた被覆造粒種子を温度50℃以下の供給空気でさらに乾燥させる第2工程とを有することを特徴とする。
【0008】
また、第1工程において被覆造粒種子の限界含水率近傍まで被覆造粒種子を乾燥させるのが好ましい。
【0009】
そしてまた、第2工程において被覆造粒種子の平衡含水率近傍まで被覆造粒種子を乾燥させるのが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記記載の乾燥方法によって乾燥されたことを特徴とする被覆造粒種子が提供される。
【0011】
なお、本明細書において「限界含水率」とは、被覆造粒種子の定率乾燥期間と減率乾燥期間の境界における含水率をいい、「平衡含水率」とは、無限時間乾燥後に到達する含水率をいう。これらの値はあらかじめ水分を含有した被覆造粒種子を所定の供給空気温度にて乾燥させながら、一定時間毎に被覆造粒種子の表面温度又は含水率を測定することによって知ることができる。すなわち、図1に示すように、縦軸を含水率又は種子温度とし、横軸を乾燥時間としてグラフを作製したとき、定率乾燥期間IIから減率乾燥期間IIIに移るときの含水率が「限界含水率」であり、十分に乾燥した状態の含水率が「平衡含水率」である。
【0012】
また、本明細書において「限界含水率近傍」とは、「1.25×限界含水率」以下を意味し、「平衡含水率近傍」とは、「(1±0.1)×平衡含水率」の範囲を意味するものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乾燥方法によれば、乾燥させる時季や場所などによらず、発芽性能を劣化させずに被覆造粒種子を乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】乾燥工程における被覆造粒種子の含水率と表面温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る乾燥方法の大きな特徴は、乾燥工程を第1工程と第2工程とに分け、第1工程では、絶対湿度の低い供給空気で被覆造粒種子を乾燥させ、そして第2工程では、温度の低い供給空気で被覆造粒種子を乾燥させることにある。これにより、種子の発芽性能を劣化させることなく種子の乾燥を行うことができる。以下、各工程について順に説明する。
【0016】
第1工程では、供給空気の絶対湿度を14g/kg(DA)以下とすることが重要である。従来は専ら供給空気の温度制御によって種子の発芽性能の劣化防止が試みられていたが、本発明では、従来まったく着目されていなかった供給空気の絶対湿度を所定値以下とすることによって発芽性能の劣化を防止した。供給空気のより好ましい絶対湿度は10g/kg(DA)以下である。また、供給空気の好ましい下限値は4g/kg(DA)である。供給空気の調湿は従来公知の方法及び装置で行えばよく、例えば、除湿機と加湿機とを併用すればよい。また、供給空気の調湿時期は、供給空気の加熱前及び加熱後のいずれであってもよく、加熱と同時であってもよい。
【0017】
第1工程における供給空気の温度は、種子の発芽性能の劣化を抑制する観点から50℃未満とする。より好ましくは45℃以下である。
【0018】
第1工程で用いる乾燥装置としては、空気を供給しながら種子を乾燥するものであれば特に限定はなく、従来公知の装置を用いることができる。例えば、回転式通気乾燥機等が挙げられる。また、空気の供給量は、装置の大きさや種子の充填量などから適宜決定すればよいが、例えば、風速が約1m/s〜約10m/sとなる範囲が好ましい。
【0019】
第1工程の終点指標としては、例えば限界含水率を用いることができる。限界含水率は前述の測定により求めることができ、乾燥中の被覆造粒種子の含水率を常時又は定期的に監視し、被覆造粒種子の含水率が限界含水率に達したところで第1工程を終了すればよい。また、乾燥処理を開始してから限界含水率となるまで乾燥時間を予め測定しておき、乾燥時間で第1工程の終点を管理するようにしてもよい。限界含水率は種子の種類や被覆層の厚みなどによって異なり、例えば、レタスやダイコン等の野菜種子の場合には、約5湿重量%〜約20湿重量%程度である。
【0020】
次に、第2工程では供給空気の温度を50℃以下とすることが重要である。このような低い温度で乾燥を行うことで種子の発芽性能の劣化が抑えられる。より好ましい供給空気の温度は40℃以下である。
【0021】
第2工程で用いる乾燥装置としては、50℃以下の温度で空気を供給できるものであれば特に限定はなく、例えば、回転式通気乾燥機や除湿乾燥機等が挙げられる。また、空気の供給量は、装置の大きさや種子の充填量などから適宜決定すればよいが、例えば、風速が約1m/s〜約10m/sとなる範囲が好ましい。
【0022】
第2工程の終点指標としては、例えば被覆造粒種子の平衡含水率を用いることができる。平衡含水率は、前述の測定により求めることができ、乾燥中の被覆造粒種子の含水率を常時又は定期的に監視し、被覆造粒種子の含水率が平衡含水率に達したところで第2工程を終了する。また、乾燥処理を開始してから平衡含水率となるまで乾燥時間を予め測定しておき、乾燥時間で第2工程の終点を管理するようにしてもよい。平衡含水率は種子の種類や被覆層の厚みなどによって異なり、例えば、レタスやダイコン等の野菜種子の場合には、約3湿重量%〜約6湿重量%程度である。
【0023】
本発明に係る乾燥方法の対象である被覆造粒種子としては、種子表面を粉体材料で被覆したものであれば特に限定はない。例えば、粉体材料と、水又は水溶性バインダーとを用いて種子の表面の被覆したものが挙げられる。この場合、コーティング装置に種子を入れ、コーティング装置を回転させながら水又はバインダー水溶液を種子の表面にスプレー法などによって塗布し、次に、粉体材料を投入して粉体と種子とを結合させることによって、種子表面に被覆層を形成できる。この操作を繰り返すことによって被覆層の層厚を調整できる。コート種子の粒径としては通常1〜5mm程度であり、裸種子の大きさや形状等から粒径及び被覆層厚を適宜決定すればよい。
【0024】
粉体材料としては、例えば、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、シリカ、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、イライト、ハロサイト、ミクロサイト、バーミキュライト、ピートモス、砂、クレーなどが挙げられる。また水溶性バインダーとしては、例えば、デンプン、PVA、CMC、MC、HPC、ゼラチンなどが挙げられる。
【0025】
被覆造粒する種子に特に限定はなく、農園芸で一般に使用される野菜種子、草花種子、緑化・飼料用種子などに適用できる。例えば、キュウリ、メロン、カボチャ等のウリ科、ナス、トマト、ペチュニア等のナス科、エンドウ、インゲン、アルファルファ、クローバー等のマメ科、タマネギ、ネギ等のユリ科、ダイコン、カブ、ハクサイ、キャベツ、ハナヤサイ、ハボタン、ストック、アリッサム等のアブラナ科、ニンジン、セルリー等のセリ科、ゴボウ、レタス、シンギク、アスター、ジニア、ヒマワリ等のキク科、シソ、サルビア等のシソ科、ホウレンソウ等のアカザ科、ロベリア等のキキョウ科、デルフィニウム等のキンポウゲ科、キンギョソウ等のゴマノハグサ科、プリムラ等のサクラソウ科、ベゴニア等のシュウカイドウ科、ビオラ、パンジー等のスミレ科、ユーストマ等のリンドウ科、デントコーン、シバ類、ソルゴー類等のイネ科の種子などが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1
皿型回転造粒装置を用いて被覆造粒した直後のレタス被覆種子(含水率約40湿重量%)1kgを、回転式通気乾燥機の回転ドラム内に投入し、絶対湿度3.9g/kg(DA)、温度30℃の空気を回転ドラム内に供給した(風速5.0m/s)。そして、被覆造粒種子の含水率が約11.1湿重量%程度(限界含水率:約9湿重量%)になるまで約50分間乾燥させた。乾燥している間の被覆造粒種子の表面温度は20℃〜30℃に維持されていた。
次いで、温度35℃の恒温槽中で含水率が約2.8湿重量%程度(平衡含水率:約3湿重量%)になるまで120分間静置乾燥させた。
そして下記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0028】
(発芽試験)
被覆造粒種子50粒/シャーレを、直径9cmのシャーレ内にろ紙(アドバンテック社製、No.2)2枚を重ねて敷き詰め、4.5mLの水を加えた上に播種した。このシャーレを30℃・明条件(約3000ルックス)下に置いた。そして、播種後2日経過後の発芽率(%)を測定した。
【0029】
実施例2
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を14.3g/kg(DA)とし、被覆造粒種子の含水率が約11.4湿重量%程度(限界含水率:約10湿重量%)になるまで約50分間乾燥させた以外は実施例1と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0030】
比較例1
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を18.0g/kg(DA)とし、被覆造粒種子の含水率が約12.8湿重量%程度(限界含水率:約12湿重量%)になるまで約50分間乾燥させた以外は実施例1と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0031】
実施例3
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を5.2g/kg(DA)、温度を45℃とし、被覆造粒種子の含水率が約6.9湿重量%程度(限界含水率:約6%)になるまで約35分間乾燥させた以外は実施例1と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0032】
実施例4
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を13.8g/kg(DA)とし、被覆造粒種子の含水率が約8.8湿重量%程度(限界含水率:約8%)になるまで約35分間乾燥させた以外は実施例3と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0033】
比較例2
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を17.1g/kg(DA)とし、被覆造粒種子の含水率が約9.2湿重量%程度(限界含水率:約8%)になるまで約35分間乾燥させた以外は実施例3と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0034】
比較例3
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を4.2g/kg(DA)、温度を55℃とし、被覆造粒種子の含水率が約6.6湿重量%程度(限界含水率:約6湿重量%)になるまで約25分間乾燥させた以外は実施例1と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0035】
比較例4
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を13.9g/kg(DA)とし、被覆造粒種子の含水率が約8.3湿重量%程度(限界含水率:約7%)になるまで約25分間乾燥させた以外は比較例3と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0036】
比較例
回転ドラムに供給する空気の絶対湿度を15.4g/kg(DA)とし、被覆造粒種子の含水率が約8.6湿重量%程度(限界含水率:約7%)になるまで約25分間乾燥させた以外は比較例3と同様にして被覆造粒種子を乾燥した。そして、前記の発芽試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、第1工程において、絶対湿度が14g/kg(DA)以下の供給空気で被覆造粒種子を乾燥した実施例1〜4では、発芽率が93%以上と高い値であった。これに対し、第1工程において、絶対湿度が14g/kg(DA)を超える供給空気で被覆造粒種子を乾燥した比較例1,2,5では、発芽率が78%以下と低い値であった。また、第1工程の乾燥温度を55℃と高めた比較例3,4の乾燥方法では、被覆造粒種子の発芽率は88%,86%と、実施例1〜4の乾燥方法に比べて発芽率は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の乾燥方法は、乾燥させる時季や場所などにかかわらず、発芽性能を劣化させることなく被覆造粒種子を乾燥でき有用である。
図1