(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子を被覆する前記フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物が、非置換アルキル基を含有する有機珪素化合物と混合されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解液二次電池用負極材。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器や電気自動車の著しい発展に伴い、経済性と機器の長寿命化、小型軽量化の観点から、高容量、高エネルギー密度の非水電解液二次電池が強く要望されている。
【0003】
そのため、負極材として理論容量の高い珪素系活物質が注目されており、例えば特許文献1では、酸化珪素を非水電解液二次電池、例えばリチウムイオン二次電池用負極材として用いることで高容量の電極を得ている。しかしながら、初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりし、改良する余地がある。
【0004】
また、珪素系活物質を負極材に用いた非水電解液二次電池では、セル内部でガス発生が見られる。セル内部でガス発生は電池の安全性、信頼性に大きく関わる項目であることから対策が求められている。
【0005】
電池内部でガス発生が起こる理由としては、次のような機構が推定される。
【0006】
一般的なリチウムイオン二次電池で電解質として用いられるLiPF
6は、水と下記化学反応式(a)に示す反応を起こすことが知られている。
LiPF
6 + H
2O → LiF + 2HF + POF
3 …(a)
【0007】
また、SiO
2はHFと下記化学反応式(b)に示す反応を起こすことが知られている。
SiO
2 + 4HF → SiF
4 + 2H
2O …(b)
【0008】
すなわち、珪素系活物質を負極に用いた電池では、電池内部に微量存在する水と電解質であるLiPF
6との化学反応式(a)に示す反応によってHFガスが生成し、さらにそのHFガスが珪素活物質中に含まれるSiO
2と化学反応式(b)に示す反応を起こすことでガス発生が起こると考えられる。さらに、化学反応式(b)に示す反応では水が生成するため、上記二つの反応が電池内部で繰り返され、多量のガスが発生すると推定される。そのため、セル内部でのガス発生を抑制するためには、化学反応式(a)における水の混入を防ぐこと、及び粒子表面を修飾することで化学反応式(b)の反応を抑制することが有効であると考えられる。
【0009】
電池内部に混入する微量水分は、負極材料に吸着した吸着水の形で混入すると考えられる。これらの吸着は、活物質の表面に極わずかに存在する水酸基、カルボキシル基の濃度に依存すると考えられ、このような親水性基を疎水化することが、混入する水分量の低減には重要である。
【0010】
これまでに、粒子表面を修飾した珪素系活物質としては特許文献2、3、4などが報告されており、また負極活物質層上にフッ素樹脂の被膜を形成した負極として特許文献5、6、7などが報告されている。しかしながら、本発明者の検討によると、同様の手法にて作製した負極材は、セル内部でのガス発生の抑制が不十分であるか、又はガス発生は抑制されるものの、電池の充放電特性が著しく低下するなど、課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、高容量かつ初回充放電効率及びサイクル特性に優れ、さらに安全性、信頼性の高い非水電解液二次電池用負極材並びにこれを用いた非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、珪素系活物質の粒子を含む非水電解液二次電池用負極材であって、前記珪素系活物質の粒子の表面が導電性物質で被覆されたものであり、前記導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子が、さらにフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物で被覆されたものであることを特徴とする非水電解液二次電池用負極材を提供する。
【0014】
このような非水電解液二次電池用負極材であれば、高容量で初回充放電効率が高く、電池内部でのガス発生も従来の非水電解液二次電池に比べて抑制された安全性、信頼性の高い非水電解液二次電池用負極材となる。
【0015】
この場合、前記フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の被覆量が、前記導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子の0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
【0016】
フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の被覆量をこのようにすることにより、効果的に、高容量で初回充放電効率を高くすることができるとともに、電池内部でのガス発生が抑制された非水電解液二次電池用負極材とすることができる。
【0017】
また、前記フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物が、下記一般式(1):
【化1】
(式中、mは0以上7以下の整数、nは2以上10以下の整数である。)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0018】
このような構造を有する有機珪素化合物を用いることにより、より効果的に、電池内部でのガス発生を抑制することができる。
【0019】
また、前記導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子を被覆する前記フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物が、非置換アルキル基を含有する有機珪素化合物と混合されたものであることが好ましい。
【0020】
このように、フッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物を非置換アルキル基含有有機珪素化合物と混合したものを被覆に用いることにより、本発明の効果を高めることができる。
【0021】
また、前記非置換アルキル基を含有する有機珪素化合物がシラザン化合物であることが好ましい。また、前記フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物がシラザン化合物であることが好ましい。
【0022】
このようなフッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物や非置換アルキル基含有有機珪素化合物のシラザン化合物は、活物質表面の親水性官能基との反応性が高いので、効果的に疎水化を行うことができる。
【0023】
また、本発明では、前記珪素系活物質が酸化珪素及び珪素合金並びにこれらの混合物のいずれかからなるものとすることができる。
【0024】
これらのような材料からなる珪素系活物質の粒子を用いることにより、それぞれの材料の利点を生かしつつ、本発明による効果を付与することができる。
【0025】
また、本発明は、上記のいずれかの非水電解液二次電池用負極材を用いたものであることを特徴とする非水電解液二次電池を提供する。
【0026】
このように、上記のいずれかの非水電解液二次電池用負極材を用いた非水電解液二次電池であれば、高容量かつ初回充放電効率及びサイクル特性に優れ、また電池内部でのガス発生を低減することができ、安全性、信頼性が高い非水電解液二次電池とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高容量かつ初回充放電効率及びサイクル特性に優れ、また電池内部でのガス発生を低減することができ、安全性、信頼性が高く、製造方法が簡便であり工業的規模の生産にも十分耐え得る非水電解液二次電池用負極材、及び前記負極材を用いた非水電解液二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の非水電解液二次電池用負極材は、珪素系活物質の粒子を含み、珪素系活物質の粒子の表面が導電性物質で被覆されたものであり、導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子が、さらにフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物で被覆されたものである。これにより、活物質の表面に極わずかに存在する水酸基、カルボキシル基の濃度に依存すると考えられ、このような親水性基を疎水化することが、混入する水分量の低減には重要である。
【0030】
このような構造を有する非水電解液二次電池用負極材を用いた非水電解液二次電池であれば、従来に比べて高容量で、電池内部でのガス発生量も少なく、安全性、信頼性の高い非水電解液二次電池となる。また、電池の構造自体は一般的な非水電解液二次電池と略同じであるので、その製造は容易であり、量産を行う上での問題がない。
【0031】
さらに、本発明の非水電解液二次電池用負極材では、フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の被覆量が、導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子の0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
上記質量比が0.05質量%以上であれば、ガス発生の抑制といった効果を十分に得ることができる。一方、上記質量比が2質量%以下であれば、粒子の凝集体が生成されにくいとともに、充放電容量を低下させるほど不活性物質の割合が多くなることもない。すなわち、質量比が上記の範囲であれば、より効果的に高容量で初回充放電効率を高くすることができるとともに、電池内部でのガス発生が抑制された非水電解液二次電池用負極材とすることができる。
【0032】
以下、本発明の非水電解液二次電池用負極材、及びこれを用いた非水電解液二次電池についてより具体的に説明する。
【0033】
まず、非水電解液二次電池用負極材について説明する。
【0034】
本発明における珪素系活物質は、酸化珪素及び珪素合金並びにこれらの混合物のいずれかからなるものとすることができる。これらの珪素系活物質の粒子を用いることにより、それぞれの材料の利点を生かしつつ、本発明による効果を付与することができる。
【0035】
なお、本発明における酸化珪素とは、特に断りの無い場合、一般式SiOx(0<x<2)で表される珪素酸化物の総称であり、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した酸化珪素ガスを冷却・析出させることなどで得ることができる。また、得られた酸化珪素粒子を、フッ化水素などを用いてエッチングを行なったものや、二酸化珪素または酸化珪素を還元処理したもの、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有するものを本発明では酸化珪素と称する。
【0036】
また、珪素合金とは珪素と1種類以上の金属との合金を指し、その組成は特に限定されるものではない。
【0037】
珪素系活物質の粒子の物性は、目的とする複合粒子(すなわち、作製しようとする導電性物質及びフッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物による被覆された珪素系活物質粒子)により適宜選定されるが、平均粒子径は0.1〜50μmが望ましい。下限は0.2μm以上がより望ましく、0.5μm以上がさらに望ましい。上限は30μm以下がより望ましく、20μm以下がさらに望ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均粒子径のことである。
【0038】
また、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子のBET比表面積は0.5〜100m
2/gが望ましく、1〜20m
2/gがより望ましい。
【0039】
珪素系活物質の粒子の表面に被覆する導電性物質については、構成された電池において、分解や変質を起こさない導電性物質であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属や、炭素が挙げられる。この中でも炭素は被覆処理のし易さ、導電率の高さからより好適に用いられる。
【0040】
この場合、導電性物質にて珪素系活物質の粒子の表面を被覆する方法は特に限定せず、めっき法、メカニカルアロイング法、化学蒸着法、導電性ポリマーのコーティングによる湿式法、有機樹脂を表面コーティングした後、熱分解炭化する樹脂炭化法が挙げられるが、導電性皮膜の均一形成の点で化学蒸着法が優れており、より好適に用いられる。特に炭素膜(カーボン被膜)で被覆する方法としては、珪素系活物質の粒子を、有機物ガス中で化学蒸着(CVD)する方法が好適であり、熱処理時に反応器内に有機物ガスを導入することで効率よく行うことが可能である。
【0041】
具体的には、珪素系活物質の粒子を、有機物ガス中、常圧又は50Pa〜30000Paの減圧下、700〜1200℃で処理することにより、珪素系活物質の粒子の表面上にカーボン被膜を化学蒸着することにより得ることができる。上記圧力は、50Pa〜10000Paが望ましく、50Pa〜2000Paがより望ましい。減圧度を30000Pa以下とすることで、グラファイト構造を有する黒鉛材の割合が大きくなり過ぎることを避けることができ、その結果、非水電解液二次電池用負極材として用いた場合に電池容量の低下及びサイクル性の低下を避けることができる。
【0042】
また、上記化学蒸着温度は800〜1200℃が望ましく、900〜1100℃がより望ましい。処理温度を800℃以上とすることで、長時間の処理が必要となることも無い。一方、処理温度を1200℃以下とすることで、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集することを防止することができるので、凝集面で導電性被膜が形成されないことによる非水電解液二次電池用負極材として用いた際のサイクル性能の低下を避けることができる。
【0043】
なお、処理時間は目的とするカーボン被覆量、処理温度、有機物ガスの濃度(流速)や導入量等によって適宜選定されるが、通常、1〜10時間、特に2〜7時間程度が経済的にも効率的である。
【0044】
上記における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択される。例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の鎖状炭化水素やシクロヘキサン等の環状炭化水素もしくはこれらの混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環〜3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油等も単独もしくは混合物として用いることができる。
【0045】
カーボン被覆量は特に限定されるものではないが、珪素系活物質粒子にカーボン被覆した粒子全体に対して0.3〜40質量%が望ましく、0.5〜20質量%がより望ましい。カーボン被覆量を0.3質量%以上とすることで、十分な導電性を維持することができ、その結果として非水電解液二次電池用負極材とした際のサイクル性を改善することができる。またカーボン被覆量を40質量%以下とすることで、被覆の効果の向上を図れるとともに、負極材料に占める黒鉛の割合が多くなって充放電容量が低下することを避けることができる。
【0046】
また、カーボン被覆後の複合粒子の物性は特に限定されないが、平均粒子径は0.1〜50μmが望ましく、下限は0.2μm以上がより望ましく、0.5μm以上がさらに望ましい。上限は30μm以下がより望ましく、20μm以下がさらに望ましい。なお、ここでの平均粒子径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均粒子径である。
【0047】
カーボン被覆後の複合粒子の平均粒子径を0.1μm以上とすることにより、比表面積が大きくなることで粒子表面の酸化珪素の割合が大きくなり、非水電解液二次電池用負極材として用いた際に電池容量が低下を防止することができる。また、この平均粒子径を50μm以下とすることで、電極に塗布した際に異物となって電池特性が低下することを防止することができる。
【0048】
カーボン被覆後の複合粒子のBET比表面積は、0.5〜100m
2/gが望ましく、1〜20m
2/gがより望ましい。
【0049】
このBET比表面積を0.5m
2/g以上とすれば、電極に塗布した際の接着性が低下して電池特性が低下することを防止することができる。また、100m
2/g以下とすることで、粒子表面の酸化珪素の割合が大きくなることによるリチウムイオン二次電池負極材として用いた際の電池容量の低下を防止することができる。
【0050】
本発明で用いるフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物は、一般式(1)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【化2】
(式中、mは0以上7以下の整数、nは2以上10以下の整数である。)
【0051】
ここで、一般式(1)において、mは上記のように0以上7以下の整数であることが好ましく、より好ましくは2以上7以下、最も好ましくは2以上5以下の範囲である。また、nは上記のように2以上10以下であることが好ましく、より好ましくは2である。
【0052】
これらのフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物としては、上記の一般式(1)で表される構造を有する置換基と珪素原子とが直接結合した化合物が好ましい。また、フッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物による被覆処理に際しては、導電性物質で被覆された珪素系活物質粒子の処理される表面の水酸基、及びカルボキシル基と反応しうる基を含むことが必要である。これを満たすフッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物としては、例えば、加水分解性基を有するアルコキシシラン、クロロシラン、シラザン化合物等が挙げられる。
【0053】
上記一般式(1)で表される構造の具体的な例を以下に列記する。
アルコキシシランとしては以下の化合物が挙げられる。
【化3】
【0054】
クロロシランとしては以下の化合物が挙げられる。
【化4】
【0055】
シラザン化合物としては以下の化合物が挙げられる。
【化5】
【0056】
アルキコキシシラン、クロロシラン中の加水分解性基数xは、1〜3の整数を取ることができるが、本発明ではx=1が好ましい。x=2、又は3では、完全に反応せずに残存した加水分解性基が、後に加水分解して生じたOH基が吸水性を付与することがあるので、x=1が好ましいのである。また、アルコキシシラン中のアルコキシ基の有機基Rは、メチル基、エチル基、プロピル基が使用可能であるが、反応性の観点からメチル基が好ましい。
【0057】
上記フッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物の中では、活物質表面の親水性官能基との反応性が極めて高い点でシラザン化合物の使用が好適である。
【0058】
なお、フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の分子構造は、これら例示したものに限定されるものではない。
【0059】
また、上記フッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物は公知の技術により製造が可能である。
【0060】
また、本発明のフッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物による被覆処理において、非置換アルキル基を含有する有機珪素化合物(フッ素置換していないアルキル基を有する珪素化合物)も合わせて用いることができる。すなわち、導電性物質で被覆された珪素系活物質の粒子を被覆するフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物が、非置換アルキル基を含有する有機珪素化合物と混合されたものとすることができる。フッ素置換アルキル基含有珪素化合物での被覆処理が、本発明のガス発生を抑制する効果を有しているが、非置換アルキル基含有化合物を所定の範囲内で含むもので被覆処理した場合、さらにこの効果を高めることができる。これは、フッ素置換アルキル基含有珪素化合物のフッ素含有基が嵩高いため、活物質表面の活性基と十分反応できない場合、非置換アルキル基含有化合物がそれを補い、未反応の活性基を最小限にすることができる、という理由による。この場合の非置換アルキル基含有化合物の被覆処理量としては、特に限定はされないが、珪素系活物質の粒子の20質量%以下であることが好ましい。処理の効率を高めるため、過剰量添加し、後で未反応分を除去する手法をとってもよい。
【0061】
非置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の例としては、トリメチルメトキシシラン、プロピルジメチルメトキシシラン等のアルコキシシラン類、トリメチルクロロシラン、プロピルジメチルクロロシラン等のクロロシラン類、ヘキサメチルジシラザン、ジプロピルテトラメチルジシラザン等のシラザン化合物が挙げられる。ここでも反応性の良さから、シラザン化合物が好ましく、原料の入手し易さから、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0062】
上記一般式(1)に示す構造のフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物による処理は、導電性物質にて被覆された珪素系活物質のスラリーに上記一般式(1)に示す構造を有する珪素化合物を添加し、十分な攪拌、必要があれば加熱攪拌を行なった後、分散媒である有機溶剤を留去、乾燥する湿式法や、導電性物質にて被覆された珪素系活物質の粒子にフッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物を噴霧する乾式法で容易に行うことができる。湿式法に使用する有機溶媒は、特に問わないが、具体的には、トルエン、キシレン、ヘキサン、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等が好適である。
【0063】
また、本発明における負極材及び負極には、初回充放電効率の向上等を目的としたリチウムプレドープ処理が可能である。プレドープ処理には、珪素系活物質とリチウム又はリチウム化合物を混合、加熱した後に、フッ素置換アルキル基含有珪素化合物にて被覆処理する手法や、フッ素置換アルキル基含有珪素化合物にて被覆処理した珪素系活物質を用いて電極を作製後、電極にリチウム箔を貼り付ける手法など、公知の技術を特に限定無く用いることができる。
【0064】
なお、上記のような非水電解液二次電池において、負極には、カーボン、黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0065】
また、非水電解液は、非水有機溶媒と、それに溶解している電解質とを含むものである。
【0066】
電解質としては、非水電解液二次電池の電解質として一般的に用いられているものを特に限定されること無く選択することができ、例えばLiPF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiClO
4、LiBF
4、LiSO
3CF
3、LiBOB、LiFOB、LiDFOBもしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0067】
非水有機溶媒としては、非水電解液二次電池の電解液に用いられるものとして知られているものであれば特に限定は無く、適宜選択・使用することができる。例えばエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートといった鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトンやジメトキシエタン、テトラヒドロピラン、N,N−ジメチルホルムアミド、パーフルオロポリエーテル基を含有するエーテル(特開2010−146740号公報参考)といった有機溶媒、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0068】
また、これら非水有機溶媒においては、任意の添加剤を適切な任意の量で用いることができ、例えばシクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ビニレンカーボネート、コハク酸無水物、亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィドなどが挙げられる。
【0069】
そして、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能である正極としては、例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4、LiNiMnCoO
2、LiFePO
4、LiVOPO
4、V
2O
5、MnO
2、TiS
2、MoS
2等の遷移金属の酸化物、リチウム、及びカルコゲン化合物等が用いられる。
【0070】
本発明の非水電解液二次電池は、上述のような特徴を有する負極材を用いた負極、正極及び電解液からなる点に特徴を有し、その他の構成としてのセパレーター等の材料や電池形状等は公知のものとすることができ、特に限定されない。
【0071】
例えば、非水電解液二次電池の形状は任意であり、特に制限はない。一般的にはコイン形状に打ち抜いた電極とセパレーターを積層したコインタイプ、電極シートとセパレーターをスパイラル状に捲回した角型あるいは円筒型等の電池が挙げられる。
【0072】
また、正極と負極の間に用いられるセパレーターは、電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はない。一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びこれらの共重合体やアラミド樹脂などの多孔質シート又は不織布が挙げられる。これらは単層あるいは多層に重ね合わせて使用してもよく、表面に金属酸化物等のセラミックスを積層してもよい。また、多孔質ガラス、セラミックス等も使用される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0074】
(実施例1)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。
【0075】
<負極材の調製>
平均粒径5μm、炭素被覆量が15質量%の酸化珪素粉末50gを70gのトルエンに加えて撹拌し、下記の化学式に示すフッ素置換アルキルシラザン(以下、化合物1とする)0.5gをヘキサフルオロメタキシレン9.5gに希釈したものを加え、トルエン還流下120℃にて撹拌を2時間行なった。その後トルエンを留去し、得られた粉末を減圧下200℃で2時間加熱乾燥を行ない、目的とする負極材を得た。熱重量測定により、負極材のフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物被膜の質量は基材(カーボン被膜で被覆された酸化珪素)に対し1.0質量%であると判明した。
【化6】
【0076】
<電極作製>
前記調製した負極材90質量%とポリイミド(新日本理化製リカコートEN−20)10質量%(固形分換算)を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ11μmの銅箔の片面に塗布し、100℃で30分乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を300℃で2時間真空乾燥した。その後、面積2cm
2となるように円形カットし、負極とした。
【0077】
さらに、コバルト酸リチウム94質量%とアセチレンブラック3質量%、ポリフッ化ビニリデン3質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ16μmのアルミ箔に塗布した。このアルミ箔に塗布したスラリーを、100℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を120℃で5時間真空乾燥した後、面積2cm
2となるように円形カットし、正極とした。
【0078】
<コイン型電池作製>
作製した負極及び正極、LiPF
6をエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶液に1mol/Lの濃度となるよう溶解させた非水電解液、厚さ20μmのポリプロピレン製微多孔質フィルムのセパレーターを用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0079】
<電池評価>
作製したコイン型リチウムイオン二次電池を一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて充放電を行った。まずテストセルの電圧が4.2Vに達するまで0.5CmAの定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行い、電流値が0.1CmA相当まで充電を行った。放電は0.5CmA相当の定電流で行い、セル電圧が2.5Vに達した時点で放電を終了し、以上の操作によって初回充放電容量及び初回充放電効率を求めた。
【0080】
さらに、以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の100サイクル後の充放電試験を行った。その結果を表1に示す。
【0081】
<ガス発生試験>
評価用コイン型リチウムイオン二次電池の負極作製に用いたスラリーを厚さ11μmの銅箔の両面に塗布し、100℃で30分乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を300℃で2時間真空乾燥した。その後、縦5cm、横10cmにカットし、負極とした。乾燥後の電極の質量より、塗布された活物質量は0.5gであった。
【0082】
作製した負極をアルミラミネートバッグに入れ、評価用コイン型リチウムイオン二次電池に用いた電解液を0.5g加えてラミネートを密封し、120℃にて2週間放置した。その後、加熱前後のラミネートバッグの体積変化より内部発生ガス量を算出した。その結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。
<負極材の調製>
平均粒径5μm、炭素被覆量が15質量%の酸化珪素粉末50gを70gのトルエンに加えて撹拌し、0.05gの化合物1をヘキサフルオロメタキシレン1.0gに希釈したものを加え、トルエン還流下120℃にて撹拌を2時間行なった。その後トルエンを留去し、得られた粉末を減圧下200℃で2時間加熱乾燥を行ない、目的とする負極材を得た。熱重量測定により、負極材のフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の被覆処理量は基材(カーボン被膜で被覆された酸化珪素)に対し0.1質量%であると判明した。
【0084】
調製した負極材を用い、実施例1と同様の手法で作製した負極、正極及び電解液を用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池は、実施例1と同様に電池評価、ガス発生試験を行った。その結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。
<負極材の調製>
平均粒径5μm、炭素被覆量が10質量%の酸化珪素粉末50gを70gのトルエンに加えて撹拌し、下記の化学式に示すフッ素置換アルキルシラザン(以下、化合物2とする)を0.2g、ヘキサフルオロメタキシレン3.8gに希釈したものを加え、トルエン還流下120℃にて撹拌を2時間行なった。その後トルエンを留去し、得られた粉末を減圧下200℃で2時間加熱乾燥を行ない、目的とする負極材を得た。熱重量測定により、負極材のフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の被覆処理量は基材(カーボン被膜で被覆された酸化珪素)に対し0.4質量%であると判明した。
【化7】
【0086】
調製した負極材を用い、実施例1と同様の手法で作製した負極、正極及び電解液を用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池は、実施例1と同様に電池評価、ガス発生試験を行った。その結果を表1に示す。
【0087】
(実施例4)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。
<負極材の調製>
平均粒径5μm、炭素被覆量が10質量%の酸化珪素粉末50gを70gのトルエンに加えて撹拌し、上記化合物2を0.2g、ヘキサフルオロメタキシレン3.8gに希釈したものを加え、さらにヘキサメチルジシラザン2.5gを加え、トルエン還流下120℃にて撹拌を2時間行なった。その後トルエン及び未反応のヘキサメチルジシラザンを留去し、得られた粉末を減圧下200℃で2時間加熱乾燥を行ない、目的とする負極材を得た。熱重量測定により、負極材の有機珪素化合物の被覆処理量は基材(カーボン被膜で被覆された酸化珪素)に対し0.6質量%であると判明した。化合物2による処理分(0.4質量%)からの増加分(0.2質量%)はヘキサメチルジシラザンによる処理による増加と考えられる。
【0088】
調製した負極材を用い、実施例3と同様の手法で作製した負極、正極及び電解液を用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池は、実施例1と同様に電池評価、ガス発生試験を行った。その結果を表1に示す。
【0089】
(実施例5)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。
<負極材の調製>
平均粒径5μm、炭素被覆量が15質量%の酸化珪素粉末50gを70gのトルエンに加えて撹拌し、1.5gの化合物1をヘキサフルオロメタキシレン28.5gに希釈したものを加え、トルエン還流下120℃にて撹拌を2時間行なった。その後トルエンを留去し、得られた粉末を減圧下200℃で2時間加熱乾燥を行ない、目的とする負極材を得た。熱重量測定により、負極材のフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物の被覆処理量は基材(カーボン被膜で被覆された酸化珪素)に対し3.0質量%であると判明した。
【0090】
調製した負極材を用い、実施例1と同様の手法で作製した負極、正極及び電解液を用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池は、実施例1と同様に電池評価、ガス発生試験を行った。その結果を表1に示す。
【0091】
(比較例1)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。平均粒径5μm、炭素被覆量が15質量%の酸化珪素粉末を負極材に用い、実施例1と同様の手法で作製した負極、正極及び電解液を用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池は、実施例1と同様に電池評価、ガス発生試験を行った。その結果を表1に示す。
【0092】
(比較例2)
以下の方法で電池を作製し、評価を行った。
<負極材の調製>
平均粒径5μm、炭素被覆量が10質量%の酸化珪素50gを70gのトルエンに加えて撹拌し、フェニルトリエトキシシラン1.0gを加え、トルエン還流下120℃にて撹拌を2時間行なった。その後トルエンを留去し、得られた粉末を減圧下200℃で2時間加熱乾燥を行ない、目的とする負極材を得た。熱重量測定により、負極材の有機珪素化合物被膜(フェニルトリエトキシシラン)の質量は基材(カーボン被膜で被覆された酸化珪素)に対し2.0質量%であると判明した。
【0093】
調製した負極材を用い、実施例1と同様の手法で作製した負極、正極及び電解液を用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池は、実施例1と同様に電池評価、ガス発生試験を行った。その結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、珪素系活物質がフッ素置換アルキル基を含有する有機珪素化合物にて処理された負極材を用いた実施例1〜4は、被覆処理されていない比較例1、2に比べてガス発生量が少なく、100サイクル後の容量維持率も向上する結果となり、高容量かつサイクル性に優れ、安全性、信頼性の高いリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0096】
実施例5はフッ素置換アルキル基含有する有機珪素化合物を3.0質量%被覆処理しているため、ガス発生は比較例1、2はもとより実施例1〜4よりも抑制されているものの、100サイクル後の容量維持率が低下する結果となった。この結果から、フッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物の被覆処理量は2質量%以下とすることが、電池特性の悪化を防ぎつつガス発生を抑制するために好ましいことが確認された。ただし、ガスの発生をより抑制する必要がある場合は、フッ素置換アルキル基含有有機珪素化合物の被覆量を増やせばよいことがわかる。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。