(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754885
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】経皮または経粘膜投与用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/343 20060101AFI20150709BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20150709BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20150709BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20150709BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20150709BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20150709BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20150709BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
A61K31/343
A61K9/06
A61K9/70 405
A61P25/16
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/30
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2009-520548(P2009-520548)
(86)(22)【出願日】2008年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2008061300
(87)【国際公開番号】WO2008156160
(87)【国際公開日】20081224
【審査請求日】2011年3月3日
【審判番号】不服2013-25748(P2013-25748/J1)
【審判請求日】2013年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2007-163692(P2007-163692)
(32)【優先日】2007年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501228129
【氏名又は名称】株式会社フジモト・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100071973
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 良隆
(72)【発明者】
【氏名】米田 文郎
(72)【発明者】
【氏名】大出 博功
(72)【発明者】
【氏名】渡部 真由美
(72)【発明者】
【氏名】杉本 三季世
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 考浩
(72)【発明者】
【氏名】福本 瑞枝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 梓
(72)【発明者】
【氏名】星野 尚也
【合議体】
【審判長】
内田 淳子
【審判官】
安藤 倫世
【審判官】
渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−136187(JP,A)
【文献】
特開2006−151820(JP,A)
【文献】
European Journal of Drug Metabolism and Pharmacokinetics,2002,vol.27,No.3,p.157−161
【文献】
British Journal of Pharmacology,1999,vol.128,No.8,p.1723−1732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/343
CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
で表される1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる塩のラセミ体もしくは光学活性体の有効量およびベヒクルを含有してなる経
皮投与用組成物。
【請求項2】
1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンが光学活性体の(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンである請求項1に記載の経皮投与用組成物。
【請求項3】
1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンの薬理学的に許容しうる塩が塩酸塩である請求項1又は2に記載の経皮投与用組成物。
【請求項4】
1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンが投与剤中に遊離塩基の状態で保持されている請求項1又は2に記載の経皮投与用組成物。
【請求項5】
剤形が貼付剤である請求項1〜4のいずれかに記載の経皮投与用組成物。
【請求項6】
抗アルツハイマー病薬、抗パーキンソン病薬、抗うつ薬、向精神薬または薬物依存症治療薬として使用される請求項1〜5のいずれかに記載の経皮投与用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式(1)
【0002】
で表される1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる塩のラセミ体もしくは光学活性体の有効量およびベヒクルを含有してなる皮膚および粘膜を侵襲することなく投与することができる経皮または経粘膜投与用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
本化合物である1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる塩のラセミ体もしくは光学活性体は、カテコールアミン置換型放出促進作用と異なる膜電位依存性エクソサイトーシスの増強によるカテコールアミン作動系の活性増強効果であるCAE/SAE(Catecholaminergic and Serotoninergic Activity Enhancer)効果に優れていることから、従来のモノアミンオキシダーゼ阻害薬、カテコールアミン取り込み阻害薬、アンフェタミン等の覚醒剤等のカテコールアミン置換型放出促進作用薬に見られる過剰なカテコールアミンの放出やカテコールアミン神経終末でのアミン枯渇を誘導しにくいという特徴を有する。そのため、本化合物は、行動量異常増加(興奮作用)、中枢神経に対する神経毒性等の副作用及び患者に対する応答性低下等の問題が少なく、安全で且つ有用な抗うつ薬、向精神薬、抗パーキンソン病薬、抗アルツハイマー病薬等として、優れた作用効果を示すことが知られている(特許文献1)。そして、そのR配置の(−)体については、S配置の(+)体若しくはラセミ体に比して特に優れた薬理活性を有し(特許文献2)、更には、薬物依存症の治療剤として有望なこと(特許文献3)、細胞保護または細胞死抑制の優れた抗アポトーシス作用を有することも明らかにされている(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】WO1999/07667パンフレット
【特許文献2】WO2000/26204パンフレット
【特許文献3】WO2006/057211パンフレット
【特許文献4】特開2003−89643号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、薬剤は経口投与剤として投与される場合が最も多い。しかし、薬剤が効果を発揮するためには、その有効成分の生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)が問題となる。通常、経口投与剤は、消化器官である胃から小腸ないし結腸までの部位での有効成分の吸収を目的として投与される。そのため、経口投与剤の場合、胃、小腸ないし結腸などの消化器官で吸収された有効成分は、大循環に供される前に初回循環で肝臓を通過し、初回通過効果(ファースト・パス・エフェクト)とよばれる肝臓での代謝を受けることにより、その生物学的利用能を低下させる結果となる。
【0006】
前記初回通過効果による有効量の減退のため、経口投与剤では本来必要な量の数倍ないし十数倍の量の薬剤を投与しなければならない場合がある。しかし、薬剤の多量な投与は本来望まない副生成物である代謝物を増加させたり、稀に存在する肝代謝酵素欠損などの患者において有効成分の血中濃度を異常に上昇させたりする。そして、このような副生成物の増加や薬剤の有効成分の血中濃度の異常上昇は、思わぬ副作用を発現させてしまう危惧がある。
【0007】
一方、注射剤は、経口投与剤のような肝臓での初回通過効果を避け、生物学的利用能を高める投与剤として優れている。しかし、注射剤は有効成分の血中濃度が最も急激に変化し易い投与剤である上、投与に際して身体を侵襲することを避け難いため、適切に行われない場合は感染症や傷害を招きやすいなど、患者に苦痛や身体的負担を伴う。また、うつ薬、精神病、パーキンソン病、アルツハイマー病あるいは薬物依存症などの治療は長期におよぶ場合が多いにもかかわらず、注射剤などの侵襲性の非経口投与剤を投与する場合は、通常、医師や看護師などによる投与が必要なため、投薬毎に頻繁に通院しなければならず、生活活動の自由に長期間にわたる制約を受け、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の面での問題が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、本化合物が皮膚および粘膜を侵襲することなく予想外に優れた粘膜および皮膚透過性を有すること、さらには本来の目的部位である脳への高い移行性を示すことを見出した。この知見を基に更に検討を重ね、前記注射剤や経口投与剤などの欠点を解決する本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、下記式(1)
【0010】
すなわち本発明は、下記式(1)
で表される1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる塩のラセミ体もしくは光学活性体の有効量およびベヒクルを含有してなる皮膚を侵襲することなく投与することができる経
皮投与用組成物である。
【0011】
本化合物である前記1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンには、R配置の光学活性体の(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンとS配置の光学活性体の(+)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンが存在する。本発明においては、それらの純粋な光学活性体またはラセミ体その他の混合体でもよいが、光学活性体(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンが特に望ましい。
【0012】
本化合物の製造方法は公知であり、例えば、国際公開WO1999/07667パンフレットにはそのラセミ体の製造方法が開示され、国際公開WO2000/26204パンフレットならびに国際公開WO2001/07704パンフレットには光学活性体を得るための方法が開示されている。
【0013】
本化合物の薬理学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、メタンスルホン酸などの無機酸との塩、もしくは、グルコン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、マンデル酸などの有機酸との塩が挙げられるが、塩酸塩が特に望ましい。
【0014】
本化合物は、遊離塩基でもまたは前記薬理学的に許容しうる塩でも使用可能であるが、通常、塩よりも遊離塩基の方が皮膚および粘膜に対する透過性が優れており、投与剤中に遊離塩基の状態で保持されているほうが望ましい。
【0015】
本化合物を投与剤中で遊離塩基の状態とするには、原薬に遊離塩基を使用してそのまま投与剤に含有させ保持させてもよいし、塩を原薬に使用して、製剤化前後でpH調整剤として通常使用される塩基性化合物、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミンなどの有機塩基類や水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどの無機塩基類と混合攪拌して中和して、本化合物の遊離塩基を生成させて、投与剤中に遊離塩基として保持させてもよい。
【0016】
本発明の経皮または経粘膜投与用組成物とは、皮膚または粘膜を投与部位とすることができるものであって、静脈内、皮下、筋肉中または腹腔内への注射剤もしくは点滴剤あるいは切開投与のように投与の際に患者の身体を傷害することはない。すなわち、消化器官以外からの吸収を可能とした目的とするものであって、投与部位である皮膚あるいは鼻腔、口腔、食道、直腸、膣、肺または気管支などの粘膜などから本化合物を透過させることにより投与できるものである。
【0017】
本発明の経皮または経粘膜投与用組成物は、液状、半固形状および固形状を含み、必要に応じて、通常用いられる賦形剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、湿潤剤、希釈剤、溶解補助剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、保存剤、吸収促進剤、甘味剤、着色剤、その他、必要に応じてpH調整剤などと組み合わせても良く、従来これらの剤形の製造法として公知の技術を用いて製剤化することができる。
【0018】
例えば、経皮投与用組成物とする場合、皮膚に適用できる形態であれば特に限定されず、例えば、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤や、パップ剤、プラスター剤、テープ剤その他の貼付剤などを挙げることができる。
本発明に用いられるベヒクル、すなわち本発明に用いる有効成分を経皮または経粘膜的に体内に投与するための基剤としては、通常経皮または経粘膜投与用組成物に使用されるものであればいかなるものでもよく、例えば、油性ベヒクルとしては、白色ワセリン、精製ラノリン、スクワラン、シリコン、流動パラフィン、植物油、ワックス類等を挙げることができ、水性ベヒクルとしては水、グリコール、マクロゴール等を挙げることができる。また、テープ剤として通常使われるベヒクル、例えばアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤などが挙げられる。さらに、界面活性剤、安定化剤、保存剤等も必要に応じて配合しても良く、通常用いられる方法により、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、テープ剤として製造することができる。
【0019】
また、例えば口腔内投与剤とする場合、口腔内に適用できる形態であれば特に限定されず、賦形剤、結合剤、崩壊剤若しくはそのほかの適切な添加剤を加え、舌下錠、口腔内崩壊錠、バッカル錠、粉剤、シロップ剤、リモナーデ剤、油脂性タイプ、乳剤性タイプもしくは水溶性タイプなどの軟膏剤、ゼリー剤、液剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、トローチ剤などにすることができる。
【0020】
口腔内崩壊錠とする場合は、米国特許第5120549号に記載の急速拡散マトリックスシステムや、アメリカ特許第5079018号に記載の水溶性で水和可能なゲルもしくは気泡体の多孔性骨格構造からなる急速拡散投与剤、もしくは英国特許第1548022号に記載された水溶性もしくは水拡散性キャリヤーの網状体からなる固体状の急速拡散投与剤とすることもできる。
【0021】
また、坐剤とする場合には、用いられるベヒクルとしては、通常坐剤に使用されるものであればいかなるものでもよく、油性ベヒクル、水性ベヒクルなどが挙げられる。油性ベヒクルとしては、中鎖脂肪酸エステルトリグリセライド、グリセリン脂肪酸エステル、カカオ脂、ラウリン脂、牛脂もしくはハードファットなどが挙げられ、水性ベヒクルとしては、マクロゴール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0022】
種々の投与形態のうち、長期的に連続して安定的に投与したい場合には、貼付剤などの経皮投与剤の形態として投与部位を皮膚とする方が徐放効果による持続性が高まり、急激な血中濃度変化が少なくなり、有効量を長時間安定して持続投与し易いので特に望ましい。
前記経皮吸収製剤の形態としては、例えば取扱いや皮膚に対する密着性や接着性がよいもの、支持体の片面に粘着性の薬剤の層を形成した貼付剤などを用いることが望ましいが、皮膚接触面が粘着性を有していないものでもよい。このような場合には例えばテープ等によってこの製剤を固定し、皮膚との接触を維持するようにすればよい。
【0023】
前記粘着剤としては、常温で粘着性を有し、皮膚に接した際に皮膚刺激性が少ない(メタ)アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤などの粘着剤が望ましい。
【0024】
本発明の皮膚および粘膜を侵襲することなく投与することができる経皮または経粘膜投与用組成物は、抗アルツハイマー病薬、抗パーキンソン病薬、抗うつ薬、向精神薬または薬物依存症治療薬などの中枢神経系の疾患に対する予防剤または治療剤として安全且つ便宜に使用することができる。
【0025】
本発明に使用する化合物の有効量は、患者の症状、体重、年齢、投与方法、投与剤形などにより異なるが、通常成人一人当たり、0.1〜500mg程度を一日一回から数回に分けて、または数日間に一回として投与することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の経皮または経粘膜投与用組成物により、経皮的または経粘膜的に投与された有効成分は、初回循環で肝臓を通過しないため、初回通過効果による有効量の減退という欠点がなく、十分な有効量を体内ないし脳内に安定して到達させることができる。従って、本来望まない副生成物である代謝物を増加させたり、肝代謝酵素欠損などの患者において有効成分の血中濃度を異常に上昇させたりすることもなく、食事の影響を受けず、経口投与が困難な患者にも投与可能である。また、患者の身体を侵襲することがないため、痛みや傷害あるいは感染の危険性を生じさせることなく、短期的投与ないし長期的連続投与などの必要に応じた投与期間、回数または投与量の調節が容易であり、さらには、患者本人でも安全に投与可能であるため、通院なども不要にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を何ら限定するためのものではない。
【実施例】
【0028】
製剤例1〜6
カルボキシビニルポリマーであるハイビスワコー105(商標)またはハイビスワコー103(商標)とトリエタノールアミンを水に溶解し、(−)体の本化合物(塩酸塩)をエタノールに溶解した。両溶液を均一になるように混合し、表1に記載の処方のゲル製剤を得た(以下、処方の各表中の数値は重量%を表す。)。
【0029】
【表1】
【0030】
製剤例7〜12
白色ワセリン中に(−)体の本化合物(遊離塩基)を加え、均一になるように混合し、表2に記載の処方の軟膏剤を得た。
【0031】
【表2】
【0032】
製剤例13
(−)体の本化合物(塩酸塩)とパラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピルを水に加温して溶解し、プロピレングリコールを加えてよく混合した。これを、ハイビスワコー105(商標)とトリエタノールアミンを水で溶解したものに加えた。一方、白色ワセリン、ステアリルアルコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、モノステアリン酸グリセリンを75℃の恒温槽にて溶かした。両溶液を混合し、徐々に冷却しながらよくかき混ぜて、表3に記載の処方の軟膏剤を得た。
【0033】
【表3】
【0034】
製剤例14〜16
パラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピルを水に加温して溶解し、プロピレングリコールを加えてよく混合した。一方、(−)体の本化合物(遊離塩基)、白色ワセリン、ステアリルアルコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、モノステアリン酸グリセリンを75℃の恒温槽にて溶かした。両溶液を混合し、徐々に冷却しながらよくかき混ぜて、表4に記載の処方の軟膏剤を得た。
【0035】
【表4】
【0036】
製剤例17
グリセリン、プロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、(−)体の本化合物(遊離塩基)、ハイビスワコー105(商標)を混合し、均一とした。これにカオリンを加えて混合して均一とした後、シート(不織布)に展延して、表5に記載の処方の貼付剤を得た。
【0037】
製剤例18
グリセリン、プロピレングリコール、(−)体の本化合物(遊離塩基)を量り、ハイビスワコー105(商標)を加えて混合し、均一とした。これにカオリンとポリアクリル酸部分中和物のアロンビスAH−105(商標)を加えて混合し、均一とした後、更に水を加えて混合して均一とした後、シート(不織布)に展延して、表5に記載の処方の貼付剤を得た。
【0038】
【表5】
【0039】
製剤例19
ヒドロキシプロピルセルロース 0.0719gを水 1.5mLに溶解した。この液に(−)体の本化合物(塩酸塩) 0.25g、クエン酸一水和物 0.0095g、β−シクロデキストリン 0.1241g及びトレハロース 0.1905gを加え、よく混合した。この液に塩化ナトリウム 0.0095gを水 0.05mLに溶解したものを加えた。さらに、D−マンニトール 1.4322g、乳糖 1.6566g、トレハロース 1.242g及び軽質無水ケイ酸 0.0095gを混合したものを加えて混合し、約50℃で乾燥した。乾燥後、試料を粉砕し、混合した後、これを30号ふるいに2回通過させ、軽質無水ケイ酸0.0048gを加えてよく混合した。30号ふるいを3回通過させて口腔内投与用の粉末製剤を得た。
【0040】
製剤例20〜25
各基剤を70℃の水浴で加温して溶かした。これに(−)体の本化合物(塩酸塩)を加えて混合して均一とした後、成型して表6に記載の処方の坐剤を得た。
【0041】
【表6】
【0042】
製剤例26〜28
ハードファットのファーマゾールB‐115(商標)を37℃の水浴で加温して溶かした。これに(−)体の本化合物(遊離塩基)を加えて混合して均一とした後、約4℃で成型して表7に記載の処方の坐剤を得た。
【0043】
【表7】
【0044】
製剤例29
グリセリン、プロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピルおよびハイビスワコー105(商標)とラセミ体の本化合物(塩酸塩)を混合し、均一とした。これに、カオリンを加えて混合して均一とした後、シート(不織布)に展延し、表8に記載の処方の貼付剤を得た。
【0045】
【表8】
【0046】
製剤例30
グリセリン、プロピレングリコールおよびラセミ体の本化合物(塩酸塩)を量り、ハイビスワコー105(商標)を加えて混合し、均一とした。これに、カオリンとアロンビスAH‐105(商標)を加えて混合し、均一とした後、更に水を加えて混合して均一とした後、シート(不織布)に展延し、表9に記載の処方の貼付剤を得た。
【0047】
【表9】
【0048】
製剤例31
ヒドロキシプロピルセルロース 0.0144gを水 0.5mLに溶解した。この液に、ラセミ体の本化合物(塩酸塩) 0.05g、クエン酸一水和物 0.0019g、β−シクロデキストリン 0.0248g及びトレハロース 0.0381gを加え、よく混合した。この液に塩化ナトリウム 0.0019gを水 0.05mLに溶解したものを加えた。さらに、D−マンニトール 0.2864g、乳糖 0.3313g、トレハロース 0.2484g及び軽質無水ケイ酸 0.0019gを混合したものを加えて混合し、約50℃で乾燥した。乾燥後、試料を粉砕し、混合した後、これを30号ふるいに2回通過させ、軽質無水ケイ酸 0.001gを加え、よく混合し、さらに30号ふるいに3回通過させ、口腔内投与用の粉末製剤を得た。
【0049】
製剤例32〜33
各基剤を70℃の水浴で加温して溶かした。これにラセミ体の本化合物(塩酸塩)を加えて混合して均一とした後、成型して表10に記載の処方の坐剤を得た。
【0050】
【表10】
【0051】
製剤例34〜35
各基剤を70℃の水浴で加温して溶かした。これにラセミ体の本化合物(塩酸塩)を加えて混合して均一とした後、成型して表11に記載の処方の坐剤を得た。
【0052】
【表11】
【0053】
製剤例36〜37
ハードファットを37℃の水浴で加温して溶かした。これにラセミ体の本化合物(塩酸塩)を加えて混合して均一とした後、約5℃で成型して表12に記載の処方の坐剤を得た。
【0054】
【表12】
【0055】
試験例1
1)静脈内投与
前日より絶食した雄性SDラットの尾静脈に0.5mg/kgの(−)体の本化合物(塩酸塩)(0.5mg/mLの生理食塩水溶液1mL/kg)を投与し、投与後5、10、20、30、45分、1、1.5、2、3、4、6時間に腹部大動脈より全採血した。
【0056】
2)皮下投与
前日より絶食した雄性SDラットの頸背部皮下に1mg/kgの(−)体の本化合物(塩酸塩)(0.2mg/mLの水溶液5mL/kg)を投与し、投与後5、10、20、30分、1、1.5、2、3、4、6、8、10時間に腹部大動脈より全採血した。
【0057】
3)経口投与
前日より絶食した雄性SDラットに10mg/kgの(−)体の本化合物(塩酸塩)(1mg/mLの水溶液10mL/kg)を強制経口投与し、投与後5、10、20、30分、1、1.5、2、3、4、6、8、10時間に腹部大動脈より全採血した。
【0058】
4)血中濃度測定
ラットより採取した血液は、EDTA・2Naを含む採血管に移して転倒混合し、十分に混合した後3,000rpmで10分間遠心分離し、得られた血漿を分取した。血漿は分析時まで−20℃で凍結保存した。血漿中濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。薬物動態学的パラメータは、AUC0-t(血中濃度時間曲線下面積、以下「AUC」)を台形法にて算出し、Cmax(最高血中濃度)およびtmax(最高血中濃度到達時間)は実測値より求めた。
結果を表13および
図1に示す。経口投与では、投与量に比して血中濃度が低く、生物学的利用率F(%)も静脈内投与の約24分の1、皮下投与の約35分の1という極めて低い結果であった。
【0059】
【表13】
【0060】
試験例2
製剤例15を10mg/kgの用量となるよう秤量し、水分を通さない台紙に薄く延ばした。エーテル麻酔した雄性SDラットの剃毛した腹部にこの製剤を密着させ、製剤を固定するため、製剤の上にカット綿をのせ、更に粘着性包帯を巻いた。貼付後はケージに戻し、試験終了時まで製剤を貼り付けたままにした。採血は頸静脈からの一部採血とし、投与後1、2、4、6、8、10、24時間にラットから個体別経時的に採取した。
ラットから採取した血液は、試験例1と同様に処理し、血漿中濃度を高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定した。
結果を表14および
図2に示す。経皮投与において、本化合物は緩やかな血中濃度の上昇と消失を示し、試験例1の静脈内投与、皮下投与および経口投与の場合のような急激な血中濃度の変化は認められず、安定した血中濃度が持続的に得られた。また、静脈内投与に対する生物学的利用率F(%)は、経口投与した場合よりも経皮投与の場合の方が約8倍高かった。投与後に皮膚の異常は観察されなかった。
【0061】
【表14】
【0062】
試験例3
前記試験例2での本化合物の測定時に同時に測定した代謝物の血漿中濃度の推移を試験例3として、それら血漿中濃度の推移の結果を未変化体とともに
図3に示した。
経皮投与における血漿中の代謝物の濃度は極めて低いものであった。
【0063】
試験例4
1)経口投与
絶食した雄性SDラットに(−)体の本化合物(塩酸塩)を10mg/kgの用量となるよう(1mg/mLの水溶液10mL/kg)強制経口投与し、投与後5、15、30、60、120分に腹部大動脈より全採血した。
【0064】
2)口腔内投与(水溶液、粉末製剤)
絶食した雄性SDラットをエーテル麻酔し、(−)体の本化合物(塩酸塩)を1mg/kgの用量となるよう(10mg/mLの水溶液0.1mL/kg)口腔内に滴下した。粉末製剤の場合は、投与量が1mg/kgとなるよう秤量した製剤を麻酔下で舌下に置いた。どちらもそのまま麻酔下に1分間おいた後ケージに戻し、投与後5、15、30、60、120分に腹部大動脈より全採血した。
【0065】
3)脳試料の採取、血漿中および脳ホモジネート中濃度測定
ラットより採取した血液は、試験例1と同様に処理した。各ラットは採血後、冷蔵した生理食塩水で全身の血液を灌流し、大脳を摘出した。大脳はメスの刃で細分した後、組織重量1gあたり5mLの生理食塩水を加えてホモジネートした。0.5mLの脳ホモジネートに0.5mLのアセトニトリルを加え、試験管ミキサーで攪拌を行ってから10,000rpmで5分間遠心分離し上澄みを得た。
血漿中および脳ホモジネート中濃度はLC/MS/MSを用いて測定した。同時に代謝物標品を用いて代謝物の定量を行った。
経口投与の場合の本化合物および代謝物の血漿中濃度の推移および平均脳ホモジネート中濃度の推移を
図4に、口腔内投与(水溶液)の場合を
図5に、口腔内投与(粉末製剤)の場合を
図6に示す。口腔内投与では、投与量が経口投与の10分の1であるにもかかわらず、血中濃度が経口投与と同程度以上である上に、代謝物が少ないことが示された。また、脳ホモジネート中濃度の比較から、口腔内投与では、経口投与と比較して著しく脳への移行性が高いことが示された。
【0066】
試験例5
エーテル麻酔した雄性SDラットに、投与量が1mg/kgとなるよう秤量した製剤例24を直腸投与した。製剤が移動しないように製剤の前後で腸管を結紮した後、開腹部を縫合してケージに戻した。採血は頸静脈からの一部採血とし、投与後10、30分、1、2、3、4、5、6、8時間にラットから個体別経時的に採取した。ラットより採取した血液は、試験例1と同様に処理し、血漿中未変化体および代謝物濃度をLC/MS/MSを用いて測定した。
本化合物および代謝物の血漿中濃度の推移を
図7に示す。直腸内投与の場合も、経口投与と比較して、血中濃度が高く代謝物が少ないことが示された。
【0067】
試験例6
製剤例13を10mg/kgの用量となるよう秤量し、水分を通さない台紙に薄く延ばした。前日に剃毛した雄性SDラットをエーテル麻酔し、腹部に密着させた。以下、採血のタイムポイントが投与後0.5、1、2、4、6、8、24時間である以外は試験例2と同様に血漿中濃度を測定した。本化合物の血漿中濃度の推移を
図8に示す。
【0068】
試験例7
製剤例9を10mg/kgの用量となるよう秤量し、水分を通さない台紙に薄く延ばした。前日に剃毛した雄性SDラットをエーテル麻酔し、腹部に密着させた。以下、採血のタイムポイントが投与後1、2、4、6、8、10、24時間である以外は試験例2と同様に血漿中濃度を測定した。本化合物の血漿中濃度の推移を
図9に示す。
【0069】
試験例8
製剤例5を1mg/kgの用量となるよう秤量し、水分を通さない台紙に薄く延ばした。前日に剃毛した雄性SDラットをエーテル麻酔し、腹部に密着させた。以下、採血のタイムポイントが投与後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8時間である以外は試験例2と同様に血漿中未変化体を測定した。本化合物の血漿中濃度の推移を
図10に示す。
【0070】
試験例9
前日に剃毛した雄性SDラットをエーテル麻酔し、製剤例17をそれぞれ10mg/kgの用量となるよう、シートに展延したものを腹部に密着させた。以下、採血のタイムポイントが投与後1、2、4、8、24時間である以外は試験例2と同様に血漿中濃度を測定した。
本化合物の血漿中濃度の推移を
図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の、1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる塩のラセミ体もしくは光学活性体の有効量およびベヒクルを含有してなる経皮または経粘膜投与用組成物は、例えば、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤や、パップ剤、プラスター剤、テープ剤その他の貼付剤などとして、皮膚又は粘膜を通して十分な有効量を体内ないし脳内に安定して到達させることができ、肝臓での初回通過効果による有効成分の減退や痛みや傷害あるいは感染という欠点がない優れた抗アルツハイマー病薬、抗パーキンソン病薬、抗うつ薬、向精神薬または薬物依存症治療薬として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】静脈内、皮下および経口で単回投与したときの各々の本化合物の血漿中濃度推移を示した図である(○:静脈内、△:皮下、◆:経口)。
【
図2】製剤例15を経皮投与したときの本化合物の血漿中濃度推移を示した図である。
【
図3】製剤例15を経皮投与したときの本化合物およびその代謝物の血漿中濃度推移を示した図である(●:本化合物、□:代謝物1、△:代謝物2、×:代謝物3)。
【
図4】経口投与(水溶液)したときの本化合物およびその代謝物の血漿中濃度の推移および脳ホモジネート中濃度の推移を示した図である(●:本化合物、□:代謝物1、△:代謝物2、×:代謝物3)。
【
図5】口腔内投与(水溶液)したときの本化合物およびその代謝物の血漿中濃度の推移および脳ホモジネート中濃度の推移を示した図である(●:本化合物、□:代謝物1、△:代謝物2、×:代謝物3)。
【
図6】口腔内投与(粉末)したときの本化合物およびその代謝物の血漿中濃度の推移および脳ホモジネート中濃度の推移を示した図である(●:本化合物、□:代謝物1、△:代謝物2、×:代謝物3)。
【
図7】製剤例24を直腸投与したときの本化合物およびその代謝物の血漿中濃度推移を示した図である(●:本化合物、□:代謝物1、△:代謝物2、×:代謝物3)。
【
図8】製剤例13を経皮投与したときの本化合物の血漿中濃度推移を示した図である。
【
図9】製剤例9を経皮投与したときの本化合物の血漿中濃度推移を示した図である。
【
図10】製剤例5を経皮投与したときの本化合物の血漿中濃度推移を示した図である。
【
図11】製剤例17を経皮投与したときの本化合物の血漿中濃度推移を示した図である。