特許第5754886号(P5754886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5754886歪み低減のためにテンプレート上で成長させたIII−窒化物発光デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754886
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】歪み低減のためにテンプレート上で成長させたIII−窒化物発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/12 20100101AFI20150709BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20150709BHJP
【FI】
   H01L33/00 140
   H01L33/00 186
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2009-542382(P2009-542382)
(86)(22)【出願日】2007年12月21日
(65)【公表番号】特表2010-514192(P2010-514192A)
(43)【公表日】2010年4月30日
(86)【国際出願番号】IB2007055265
(87)【国際公開番号】WO2008078300
(87)【国際公開日】20080703
【審査請求日】2010年12月20日
【審判番号】不服2014-10798(P2014-10798/J1)
【審判請求日】2014年6月9日
(31)【優先権主張番号】11/615,826
(32)【優先日】2006年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
(73)【特許権者】
【識別番号】500507009
【氏名又は名称】フィリップス ルミレッズ ライティング カンパニー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】グリロット パトリック エヌ
(72)【発明者】
【氏名】ガードナー ネイサン エフ
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ ヴェルナー ケイ
(72)【発明者】
【氏名】ロマーノ エル ティ
【合議体】
【審判長】 小松 徹三
【審判官】 山村 浩
【審判官】 近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−18092(JP,A)
【文献】 特開2003−124575(JP,A)
【文献】 特開2002−100837(JP,A)
【文献】 特開平10−290051(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/134599(WO,A1)
【文献】 特開2006−324507(JP,A)
【文献】 特開2006−324685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にIII−窒化物構造体を成長させるステップを含む方法であって、
前記III−窒化物構造体は、テンプレートと、前記テンプレートの上に成長させたデバイス層とを含み、
前記テンプレートは、
前記基板上に直接成長させた実質的にインジウムを含まない第1層と、
前記第1層の上に成長させた第1の実質的に単結晶の層と、
前記第1の実質的に単結晶の層の上に成長させた、インジウムを含む非単結晶層である第2層と、
前記第1の実質的に単結晶の層と前記第2層との間に配置された第2の実質的に単結晶の層を含み、前記第2の実質的に単結晶の層と同じ組成の材料のバルク格子定数が、前記第1の実質的に単結晶の層と同じ組成の材料のバルク格子定数よりも大きく、
前記デバイス層は、n型領域とp型領域との間に配置されたIII−窒化物発光層を含み、
前記テンプレートが、前記第2層の上に成長させた第3の実質的に単結晶の層をさらに含み、
前記第1の実質的に単結晶の層がGaN層であり、前記第3の実質的に単結晶の層が、InN組成が0.5%〜20%のInGaN層であり、前記第3の実質的に単結晶の層内のInN組成が、前記第2の実質的に単結晶の層内のInN組成よりも大きいことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記テンプレートが、前記第3の実質的に単結晶の層の上に成長させた、インジウムを含む非単結晶層である第3層をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の実質的に単結晶の層の成長温度と前記第2層の成長温度との間の差が少なくとも250℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2層が、1×1018cm-3〜1×1020cm-3の炭素含有量を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記III−窒化物構造体をマウントに接続し、前記基板を除去するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記基板の除去の後、前記テンプレートの一部を除去するステップをさらに含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記発光層が、前記発光層と同じ組成の自立した材料の格子定数に対応するバルク格子定数aバルクを有し、前記発光層が、前記構造体中で成長したときの前記発光層の格子定数に対応する面内格子定数a面内を有し、前記発光層における|(a面内−aバルク)|/aバルクが1%未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記発光層のa格子定数が3.189オングストロームを上回ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記構造体を、前記基板の主要結晶面から少なくとも1°傾いた基板の面上に成長させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記発光層が15オングストロームを上回る厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記発光層が、シリコンで1×1018cm-3〜1×1020cm-3のドーパント濃度までドープされていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1層が500オングストローム未満の厚さを有する非単結晶GaN層であり、前記第1の実質的に単結晶の層がGaNであり、500オングストロームを上回る厚さを有し、前記第2層が500オングストローム未満の厚さの非単結晶InGaN層であり、0より多く20%より少ないInN組成を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の実質的に単結晶の層の成長温度と前記第2層の成長温度との間の差が少なくとも300℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記発光層のスレッディング転位密度が3×109cm-2未満であり、前記発光層におけるa格子定数が3.200Åより大きいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光デバイスのための成長技術及びデバイス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)、共振空洞発光ダイオード(RCLED)、垂直共振器レーザ・ダイオード(VCSEL)、及び端面発光型レーザを含む半導体発光デバイスは、現在利用可能な光源の中でもとりわけ効率的である。UV、可視、及び可能であれば赤外スペクトルにわたって作動可能な高輝度発光デバイスの製造において現在注目されている材料系は、III−V族半導体、特に、III−窒化物材料とも呼ばれる、ガリウム、アルミニウム、インジウム、及び窒素の2成分系、3成分系、及び4成分系の合金を含む。典型的には、III−窒化物発光デバイスは、異なる組成及びドーパント濃度の半導体層のスタックを金属・有機化学気相成長(MOCVD)、分子線エピタキシ(MBE)、又はその他のエピタキシャル技術によってサファイア、炭化シリコン、III−窒化物、又はその他の適切な基板上にエピタキシャル成長させることによって製造される。スタックはしばしば、基板の上に形成された、例えばSiでドープされた1つ又はそれ以上のn型層と、n型層(単層又は複層)の上に形成された活性領域の中の1つ又はそれ以上の発光層と、活性領域の上に形成された、例えばMgでドープされた1つ又はそれ以上のp型層とを含む。電気コンタクトがn型及びp型領域の上に形成される。これらのIII−窒化物材料はまた、他のオプトエレクトロニック、並びに及び電界効果トランジスタ(FET)、及び検出器のような電子デバイスのためにも注目される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,489,636号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第2 338 107A号明細書
【特許文献3】米国特許第6,274,924号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tomiya他、Proceedings of SPIE、第6133巻、pp.613308−1−613308−10(2006年)
【非特許文献2】Ponce他、Physica Status Solidi、第B240巻、pp.273−284(2003年)
【非特許文献3】Boettcher他、Applied Physics Letters、第78巻、pp.1967−1978(2001年)
【非特許文献4】Koleske他、Applied Physics Letters、第81巻、pp.1940−1942(2002年)
【非特許文献5】Romano他、Journal of Applied Physics、第87巻、pp.7745−7752(2000年)
【非特許文献6】Bosi及びFornari、Journal of Crystal Growth、第265巻、pp.434−439(2004年)
【非特許文献7】Oliver他、Journal of Applied Physics、第97巻、pp.013707−1−013707−8(2005年)
【非特許文献8】Hiramatsu、Journal of Physics:Condensed Matter、第13巻、pp.6961−6975(2001年)
【非特許文献9】Itoh他、Applied Physics Letters、第52巻、pp.1617−1618(1988年)
【非特許文献10】Figge他、Journal of Crystal Growth、第221巻、pp.262−266(2000年)
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施形態において、III−窒化物デバイスの発光層を含むデバイス層を、デバイス内の、特に発光層内の歪みを減らすように設計されたテンプレートの上で成長させる。この歪みは、以下のように定義される。所与の層は、その層と同じ組成の自立した材料の格子定数に対応するバルク格子定数abulkと、構造体の中で成長したときのその層の格子定数に対応する面内格子定数a面内とを有する。層内の歪みの量は、デバイス内の特定の層を形成する材料の面内格子定数とその層のバルク格子定数との差をバルク格子定数で除したものである。
【0006】
発光デバイス内の歪みを低減させることで、デバイスの性能を向上させることができる。テンプレートは、従来の成長テンプレートから得られる格子定数の範囲を超えて発光層における格子定数を拡張することができる。本発明の幾つかの実施形態において、発光層内の歪みは1%未満である。
【0007】
幾つかの実施形態において、テンプレートは低温で成長させた2つの層、すなわち、基板上で直接成長させたGaNのようなインジウムを含まない核形成層と、インジウムを含まない層の上で成長させたInGaNのようなインジウム含有層とを含む。両層とも非単結晶層とすることができる。幾つかの実施形態において、GaN層のような単結晶層を核形成層とインジウム含有層との間に成長させることができる。幾つかの実施形態において、GaN、InGaN、又はAlInGaNのような単結晶層を低温インジウム含有層の上に成長させることができる。
【0008】
幾つかの実施形態において、テンプレートは、多層スタック又はグレーデッド領域をさらに含み、又は熱アニール若しくは熱サイクル成長ステップを含むプロセスによって形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来技術によるデバイスの部分の断面図である。
図2】従来の低温核形成層の後に成長させた低温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図3】多重低温核形成層の上に成長させた低温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図4】従来の低温核形成層の上に成長させた多重低温層を含むデバイスの部分断面図である。
図5】低温核形成層及び低温InGaN層の1つより多い組を含むデバイスの部分断面図である。
図6】多重低温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図7】アニール及びデバイス層の成長の後の図6の構造体の断面図である。
図8】高温GaN層の後に成長させた低温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図9】低温InGaN層の後に成長させた高温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図10】高温GaN層の後に成長させた低温InGaN層の後に成長させた高温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図11】2つの高温InGaN層の間に配置された低温InGaN層を含むデバイスの部分の断面図である。
図12】低温InGaN層の上に成長させた2つの高温InGaN層を含むデバイスの部分断面図である。
図13】熱サイクル成長によって成長させた多重インジウム・リッチ層及びインジウム・プア層を含むデバイスの部分断面図である。
図14】低温層及びグレーデッド組成層を含むデバイスの部分断面図である。
図15】GaN核形成層及び厚い高温GaN層を含む幾つかのデバイスについて、及び低温InGaN層及び厚い高温GaN層を含む幾つかのデバイスについて、a格子定数の関数としてc格子定数をプロットしたものである。
図16】幾つかのデバイスについて、c格子定数及びa格子定数のプロットである。
図17】サファイアのようなウルツ鉱型構造の幾つかの主要結晶面を示す。
図18】成長基板が除去されたフリップチップ発光デバイスの部分を示す。
図19】パッケージングされた発光デバイスの組立分解図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
半導体発光デバイスの性能は、デバイスに供給される1電子当たりデバイスから抽出される光子の数を測る外部量子効率を測定することによって評価される。従来のIII−窒化物発光デバイスに対して印加される電流密度が増大するにつれ、デバイスの外部量子効率は最初に増大し、その後、減少する。電流密度が増大してゼロを越えると、外部量子効率は増大して、所与の電流密度(例えば、あるデバイスでは約10A/cm2)でピークに達する。電流密度がピークを越えて増大すると、外部量子効率は最初に急速に降下し、次にもっと高い電流密度において(例えば、あるデバイスでは200A/cm2を越えると)緩やかに減少する。デバイスの量子効率はまた、発光領域内のInN組成が増加するにつれて、及び発光波長が増大するにつれて、減少する。
【0011】
高電流密度における量子効率の降下を減少又は反転させるための1つの技術は、より厚い発光層を形成することである。しかしながら、厚いIII−窒化物発光層の成長は、III−窒化物デバイス層内の歪みのせいで困難である。また、より長波長での発光を達成するためには、より高いInN組成を取り込むことが望ましい。しかしながら、高InN組成のIII−窒化物発光層の成長は、III−窒化物デバイス層内の歪みのせいで困難である。
【0012】
天然の(native)III−窒化物成長基板は一般に高価であり、広く入手可能ではなく、商用のデバイスの成長のためには実際的ではないので、III−窒化物デバイスはしばしばサファイア(Al23)又はSiC基板の上で成長させる。このような非天然の基板は、基板上で成長させたIII−窒化物デバイス層のバルク格子定数とは異なる格子定数、デバイス層とは異なる熱膨張係数、及び異なる化学的及び構造的特性を有するので、その結果、デバイス層内の歪み、並びにデバイス層と基板との間の化学的及び構造的不適合が生じる。この構造的不適合の例は、例えば、GaNの結晶構造と、GaNがその上で成長したサファイア基板の結晶構造との間の面内回転を含むことができる。
【0013】
ここで用いられる場合、「面内(in−plane)」格子定数は、デバイス内の層の実際の格子定数のことを指し、「バルク」格子定数は、所与の組成の、緩和した、自立した(free standing)材料の格子定数のことを指す。歪みの量は式(1)で定義される。
歪み=ε=(a面内−aバルク)/aバルク (1)
【0014】
式(1)における歪みεは正又は負のいずれであってもよく、すなわちε>0又はε<0であることに留意のこと。歪みのない膜において、a面内=aバルクであり、それゆえ式(1)においてε=0である。ε>0の場合の膜は、引張り歪みの下にある、又は張力下にあるといわれ、他方、ε<0の場合の膜は、圧縮歪みの下にある、又は圧縮下にあるといわれる。引張り歪みの例は、歪みのないGaNの上で成長させた歪みAlGaN膜、又は歪みのないInGaNの上で成長させた歪みGaN膜を含む。どちらの場合も、歪み膜はそれがその上で成長した歪みのない層のバルク格子定数よりも小さいバルク格子定数を有するので、歪み膜の面内格子定数は、歪みのない層の格子定数に適合するために引き延ばされ、式(1)においてε>0を与え、これによって膜は張力下にあるといわれる。圧縮歪みの例は、歪みのないGaNの上で成長させた歪みInGaN膜、又は歪みのないAlGaNの上で成長させた歪みGaN膜を含む。どちらの場合も、歪み膜はそれがその上で成長した歪みのない層のバルク格子定数よりも大きいバルク格子定数を有するので、歪み膜の面内格子定数は、歪みのない層の格子定数に適合するために圧縮され、式(1)においてε<0を与え、これによって膜は圧縮下にあるといわれる。
【0015】
引張り膜において、歪みは、面内格子定数を大きくするために、原子を互いに離れる方向に引くように働く。膜は引張り歪みに対して亀裂で応答することがあり、これは膜内の歪みを減少させるが、膜の構造的及び電気的一体性を損なうので、この引張り歪みは、しばしば望ましくない。圧縮膜において、歪みは、原子を互いに押しつけあうように働き、この効果は、例えばInGaN膜内へのインジウムのような大きい原子の取り込みを減少させることがあり、又はInGaN LEDにおけるInGaN活性層の材料品質を低下させることがある。多くの場合、引張り歪み及び圧縮歪みは両方とも望ましくないので、デバイスの種々の層内の引張り歪み又は圧縮歪みを減少させることは有益である。このような場合、式(2)で定義されるような歪みの絶対値又は等級を基準とするほうがより便利である。ここで用いられる「歪み」という用語は、式(2)で定義されるような歪みの絶対値又は等級を意味することを理解すべきである。
歪み=|ε|=|(a面内−aバルク)|/aバルク (2)
【0016】
III−窒化物デバイスを従来通りAl23上で成長させる場合、基板上で最初に成長させる構造体は通常、面内a格子定数が約3.189Å又はそれ以下のGaNテンプレート層である。GaNテンプレートは、InGaN発光層を含めてテンプレート層の上で成長する全てのデバイス層の格子定数を設定するという点で、発光領域のための格子定数のテンプレートとして働く。InGaNのバルク格子定数は従来のGaNテンプレートの面内格子定数よりも大きいので、従来のGaNテンプレートの上に成長する場合、発光層は圧縮的に歪むことになる。例えば、約450nmの光を放出するように構成される発光層は、組成In0.16Ga0.84Nを有することができ、この組成のバルク格子定数は、GaNの格子定数の3.189Åと比べて、3.342Åである。より長波長の光を放出するように設計されたデバイスの場合のように、発光層におけるInN組成が増大するにつれて、発光層内の圧縮歪みも増大する。
【0017】
歪み層の厚さが臨界値を超えると、転位又は他の欠陥が層内に形成され、引用によりここに組み入れられる非特許文献1に記載されているように、歪みに関連したエネルギーを減少させる。構造的欠陥は非発光再結合中心に関連することがあり、これはデバイスの量子効率をかなり低下させることがある。結果として、発光層の厚さはこの臨界厚さを下回るように保持されなければならない。InN組成及びピーク波長が増大するにつれて発光層内の歪みは増大するので、そのため発光層の臨界厚さは減少する。
【0018】
発光層の厚さを臨界厚さ未満に維持したとしても、InGaN合金は、引用によりここに組み入れられる非特許文献2に記載されているように、特定の組成及び温度において熱力学的に不安定である。例えば、InGaN成長のために典型的に用いられる温度において、InGaNはスピノーダル分解を呈することがあり、その場合、均一な組成のInGaNは、平均より高いInN組成の領域と平均より低いInN組成の領域とを有する層へと変質する。InGaN発光層におけるスピノーダル分解は、非発光再結合中心を生じさせ、内部吸収を増大させることがあり、これはデバイスの量子効率を低下させることがある。スピノーダル分解の問題は、発光層の厚さが増大するにつれて、発光層内の平均InN組成が増大するにつれて、及び/又は発光層内の歪みが増大するにつれて、悪化する。例えば、発光層をGaNテンプレート上で成長させて、550nmの光を放出するように構成する場合、>20%のInN組成と>30Åの好ましい厚さとの組合せは、スピノーダル分解の限界を超える。
【0019】
従って、上記のように、電流密度が増大したときに生じる外部量子効率の降下を低減又は排除するためには発光層の厚さを増大することが望ましく、又は、より長い発光波長を達成するためにInN組成を高めることが望ましい。どちらの場合も、より厚い又はより高い組成の発光層を成長させるために、臨界厚さを増大させることによって許容範囲内に欠陥数を維持するために、及びスピノーダル分解なしに層が成長することができる厚さを増大させるために、発光層内の歪みを低減させることが必要である。本発明の実施形態は、III−窒化物デバイスのデバイス層内の、特に発光層内の歪みを減らすように設計される。
【0020】
図1は、基板1の上で成長させた従来の核形成層2を有するデバイスを示す。1つ又はそれ以上の高温層3及び5を核形成層2の上で成長させることができ、デバイス層6は高温層3又は5の上で成長させることができる。III−窒化物発光層内の歪みを低減させる従前の方法は、図1に示され特許文献1に記載されているように、高温の実質的に単結晶のInGaN領域5を、合体した(coalesced)GaN領域3の上に成長させること、又は図1に示され特許文献2に記載されているように、インジウム含有核形成層2をサファイア基板上に直接成長させることを含む。しかしながら、合体したGaNの上に成長させたInGaN領域は典型的には効率的に緩和しないので、提供される歪みとそれに伴う欠陥の低減は限定的なものであり、またインジウム含有核形成層をサファイアの上に直接成長させることを含む特許文献2に記載のアプローチは、典型的には、高い転位密度、粗い表面、及び炭素及び酸素のような不純物の高い濃度を含む1つ又はそれ以上の問題をデバイス層にもたらす。従って、デバイス層内の歪みのみならず、転位密度及び表面粗さも制御することが必要である。
【0021】
図1に示されるような従来のGaNテンプレート内の歪みを制御する別の方法は、引用により組み入れられる非特許文献3に記載のように、GaNテンプレート内の転位密度を制御することである。このアプローチにおいて、a格子定数はスレッディング(threading)転位密度(TDD)が増大するにつれて大きくなる。a格子定数とスレッディング転位密度との間の正確な関係は、Si濃度、成長温度、及びテンプレート厚さを含む多くの因子に依存するが、従来のGaNテンプレートにおけるa格子定数とスレッディング転位密度との間のおおよその関係は、
面内=3.1832+9.578×10-13*TDD (3)
として記述することができる。
式(3)から、面内a格子定数3.189Åはおよそ6×109cm-2のスレッディング転位に対応することに留意されたい。このa格子定数は、異なるSi濃度、異なる成長温度、又は異なるテンプレート厚さを用いて、より低いスレッディング転位密度で達成することができるが、発明者らは、3.189Åより大きいa格子定数を有する従来のGaNテンプレートは通常、少なくとも2×109cm-2のスレッディング転位密度を有することを観察した。図1におけるような従来のGaN内のスレッディング転位密度を変化させることによって、発明者らは、従来のGaNテンプレートにおける面内a格子定数を約3.1832Åから約3.1919Åまでの範囲にわたって変化させた。
【0022】
スレッディング転位密度を増大させることは、このように従来のGaNテンプレートにおけるa格子定数の増大において概ね効果的であるが、この方法は幾つかの欠点を有する。例えば、転位のような欠陥は非発光再結合中心として働き、これは、引用により組み入れられる非特許文献4に記載のように、III−窒化物発光デバイスの外部量子効率を低下させることがある。従って、外部量子効率を高めるためには、転位密度を低減させることが望ましい。また、従来のGaNテンプレートにおいて、面内a格子定数が3.189Åに達し、それを超えるにつれて、引用によりここに組み入れられる非特許文献5に記載されているように、GaN層は、過剰な引張り歪みのため亀裂を生じる傾向がある。従って、二成分系組成GaNテンプレートによって要求されるa格子定数と転位密度との間のこの関係を打破することが望まれる。特に、低スレッディング転位密度テンプレートと組み合わされた低歪み活性層を達成することは、III−窒化物LEDの外部量子効率及び波長を高めるための重要な目標である。本発明の幾つかの実施形態において、その上でデバイス層を成長させるテンプレートは、実質的に亀裂が無く、3.200Åという大きい面内a格子定数と2×109cm-2を下回るスレッディング転移密度との組み合わせを有する。
【0023】
本発明の実施形態において、半導体発光デバイスのデバイス層は、デバイス層内の格子定数を(従って歪みを)制御するための成分を組み込んだ、ここではテンプレートと呼ばれる構造体の上で成長させる。デバイス内の格子定数を増大させる構造体は、望ましくない表面粗さの増大又はスレッディング転位密度の増大を引き起こすことがあるので、テンプレートは、デバイス層における、特に発光領域におけるスレッディング転位密度及び表面粗さを制御するための成分もまた含むことができる。テンプレートは、テンプレートの上で成長する半導体層のスレッディング転位密度及び格子定数を設定する。テンプレートは、GaNの格子定数から発光層のバルク格子定数により近く適合する格子定数への格子定数遷移部として働く。テンプレートによって設定された格子定数は、従来のテンプレート上で成長させたデバイス内で得られる格子定数よりも、デバイス層のバルク格子定数により近く適合することができ、その結果、従来のGaNテンプレート上で成長させたデバイスと比べて、許容可能なスレッディング転移密度及び表面粗さで、より少ない歪みをもたらす。
【0024】
上で言及されたデバイス層は、少なくとも1つのn型層と少なくとも1つのp型層とで挟持された少なくとも1つの発光層を含む。異なる組成及びドーパント濃度の追加の層を、n型領域、発光領域、及びp型領域の各々の中に含めることができる。例えば、n型領域及びp型領域は、反対の導電型の層又は意図的に非ドープの層、後で成長基板を剥離すること又は基板を除去した後で半導体構造体を薄くすることを容易にするように設計された剥離層、及び発光領域が効率的に光を放出するために望ましい特定の光学的又は電気的特性に対して設計された層を含むことができる。幾つかの実施形態において、発光層を挟持するn型層は、テンプレートの一部とすることができる。
【0025】
以下で説明される実施形態において、発光層(単層又は多層)内のInN組成は、デバイスが青色又はUV光を放出するように低くすることができ、又はデバイスが緑色又はそれより長波長の光を放出するように高くすることができる。幾つかの実施形態において、デバイスは1つ又はそれ以上の量子井戸発光層を含む。多重量子井戸は障壁層によって分離されることができる。例えば、各量子井戸は15Åを上回る厚さを有することができる。
【0026】
幾つかの実施形態において、デバイスの発光領域は、厚さが50Å〜600Å、より好ましくは100Å〜250Åの単一の厚い発光層である。最適な厚さは、発光層内の欠陥の数に依存し得る。発光層における欠陥の濃度は、好ましくは109cm-2未満に制限され、より好ましくは108cm-2未満に制限され、より好ましくは107cm-2未満に制限され、より好ましくは106cm-2未満に制限される。
【0027】
幾つかの実施形態において、デバイス内の少なくとも1つの発光層は、Siのようなドーパントで1×1018cm-3〜1×1020cm-3のドーパント濃度までドープされる。Siドーピングは発光層における面内a格子定数に影響を与えることがあり、潜在的に発光層における歪みをさらに低減させる。
【0028】
本発明の幾つかの実施形態において、テンプレートは少なくとも1つの低温InGaN層を含む。引用によりここに組み入れられる非特許文献6に記載されているように、H2がInGaN膜内へのインジウムの取り込みに影響を与えることがあることが観察されている。成長温度、成長圧力、成長速度、及びNH3フローといった種々のその他のパラメータもまた、引用によりここに組み入れられる非特許文献7に一部は記載のように、InGaN膜内へのインジウムの取り込みに影響を与えることがある。それゆえ、可変H2フローが、ときにはInGaN又はAlInGaN膜内のInN組成の制御の手段として用いられる。従って、いくつかの実施形態において、ここで説明されるテンプレートは、テンプレートの成長の間に反応器の中に流入する可変H2フロー、可変N2フロー、又は可変NH3フローのうちの1つ又はそれ以上を用いて成長させる。他の実施形態において、テンプレートは、テンプレートの成長の間の可変温度若しくは可変圧力、又は可変成長速度を用いて成長させる。他の実施形態において、テンプレートは、テンプレート成長の間の、可変H2フロー、可変N2フロー、可変NH3フロー、可変温度、可変圧力、又は可変成長速度のうちの1つ又はそれ以上の任意の組合せを用いて成長させる。
【0029】
図2は、本発明の第1の実施形態を示す。従来の低温核形成層22をサファイア基板20の上に直接成長させる。核形成層22は、典型的には、例えば500オングストロームまでの厚さまで400℃〜750℃の温度で成長させたアモルファス、多結晶、又は立方晶GaN層のような低品質の非単結晶層である。
【0030】
第2層26もまた、核形成層22の上に低温で成長させる。低温層26は、例えば500オングストロームまでの厚さまで、400℃〜750℃の温度で、より好ましくは450℃〜650℃の温度で、より好ましくは500℃〜600℃の温度で成長させた、例えば、アモルファス、多結晶、又は立方晶III−窒化物層のような、低品質の非単結晶層とすることができる。幾つかの実施形態において、低温層26は300オングストローム未満の厚さである。低温層26は、例えば、InN組成が0%より多く、しばしば20%より少ない、より好ましくは3%〜6%の、より好ましくは4%〜5%の、InGaN層とすることができる。幾つかの実施形態において、低温そう26の中のInN組成は例えば2%未満と少ない。構造体は、核形成層22の成長後であるが低温層26の成長の前に、低温層26の成長後に、又はその両方でアニールされることができる。例えば、構造体は、950℃〜1150℃の温度で、30秒間〜30分間にわたって、一般にH2及びNH3の雰囲気、N2及びNH3の雰囲気、又はH2、N2、及びNH3の雰囲気中でアニールされることができる。幾つかの実施形態において、Ga、Al、又はIn前駆体をアニール・プロセスの少なくとも一部の間に導入することができる。次にデバイス層10を低温層26の上で成長させる。低温層26は、デバイス層10の格子定数を、従来のGaNテンプレートのような従来の核形成構造体によって達成可能な格子定数の範囲を超えて拡げることができる。格子定数の拡大は、GaN核形成層がサファイア若しくはSiC又はそれをその上で成長させるその他の基板とは異なる格子定数を有するのと同じように、低温層26が下にある層と同じに成長しないことによって、生じる。それゆえ、上記のように、低温層26は、核形成層の格子定数からより大きい格子定数への遷移部として働く。図2に示されるような低温InGaN層26を用いるIII−窒化物デバイスは、例えば図1に示され特許文献2に記載されているような基板上に直接成長させたInN含有核形成層2を用いたIII−窒化物デバイスよりも、高い品質まで成長させることができる。
【0031】
幾つかの実施形態において、低温層26は、UVデバイスのAlGaN発光領域内の引張り歪みを減少させるために、低温層26が核形成層22で確立された格子定数を減少させるように、InGaNの代わりにAlGaN又はAlInGaNで構成されることができる。そのようなデバイスの発光活性層は、例えばAlGaN又はAlInGaNとすることができる。
【0032】
本発明の幾つかの実施形態において、図2に示されるデバイスは、1つ又はそれ以上の多層スタックを含むことができる。多層スタックの例は、多重核形成層22又は多重低温層26を含む。例えば、図3に示されるように、1つ又はそれ以上の追加のGaN核形成層を基板20とInGaN低温層26との間に配置することができる。あるいは、図4に示されるように、核形成層22の後で、多重InGaN低温層26を成長させることができる。多層スタックを有するテンプレートを含むデバイスの別の例において、図5に示されるように、GaN低温層22とその後のInGaN低温層26との配列を1回又はそれ以上の回数、繰り返すことができる。多重核形成又は低温層の使用により、デバイスにおけるスレッディング転移密度及びスタッキング欠陥密度を減らすことができる。
【0033】
幾つかの実施形態において、図4又は図5における多重低温層26は、図6の多重低温層32、34、及び36で示されるように、同等ではないInN組成、又は同等ではない厚さを有することができる。図6に示される構造体は、従来の基板20の上に直接成長させることもでき、又は図2に示されるように、核形成層22の上に成長させることもできる。基板に最も近い低温層である層32は、最も高いインジウム組成を有することができ、一方、基板から最も遠い低温層である層36は、最も低いインジウム組成を有することができる。他の実施形態において、基板に最も近い低温層である層32は、最も低いインジウム組成を有することができ、一方、基板から最も遠い低温層である層36は、最も高いインジウム組成を有することができる。あるいは、どのような任意の配列の低温層を用いることもできる。GaNキャップ層38を一番上の低温層の上に形成することができる。低温層の各々は同じ厚さである必要はない。例えば、インジウム組成が低い層をインジウム組成が高い層よりも厚くすることができる。図6に示される3つの低温層よりも多い又は少ない層を用いることができる。さらに、図6に示される低温層の複数のスタックをデバイス内に含めることができる。これらの層の各々は、10オングストロームから1000オングストロームまでの厚さ、又はそれ以上の厚さの範囲とすることができる。
【0034】
図6に示される構造体は、層32、34、36、又は38の内の1つ又はそれ以上の成長の後で、1回又はそれ以上の回数、アニールされてもよい。このアニール・プロセスは、InGaN低温層32、34、36とGaNキャップ層38とを混ぜ合わせて、図7に示されるように単一のInGaN領域35を形成させることがある。図6のGaNキャップ層38は、アニールの間にInGaN低温層32、34、及び36から追い出されるInNの量を減らすことができる。アニールのための条件は、最終構造体が平滑な表面及び低い欠陥密度を有するように選択される。幾つかの実施形態において、アニールは、成長中断期間(growth pause)を含む。例えば、構造体を30秒間〜30分間にわたって950℃〜1150℃の温度でアニールすることができる。低温層32、34、及び36の成長の後、温度をキャップ層38又は次に成長させるべき層の成長温度まで上昇させることができ、次にキャップ層38又は次の層の成長の前に成長中断期間が置かれる。他の実施形態において、アニールは、低温層32、34、及び36の成長の後の、成長反応器内の温度のキャップ層38の成長温度までの単なる上昇である。幾つかの実施形態において、キャップ層38の成長は、成長反応器内の汚温度がキャップ層38の所望の成長温度まで到達する前に始まる。幾つかの実施形態において、キャップ層38は、核形成層22を成長させるために用いられたのと同様の低い温度で成長させることができる。低温層32、34、及び36並びにキャップ層38の構造体において、低InN組成層は、アニールの間の高InN組成層からのInNの損失を抑制する助けとなり得る。
【0035】
図3又は図4又は図5における多層スタック、あるいは図6におけるグレーデッドInN含有層32、34、及び36、及び図7におけるグレーデッドInN含有層35は、ここで説明されるいずれかの実施形態において示される単一の低温層26を置き換えることができる。ここで用いられる「グレーデッド(graded)」という用語は、デバイス内の単層又は多層における組成又はドーパント濃度を記述する場合、一段階の組成及び/又はドーパント濃度以外のいずれかの方式で組成及び/又はドーパント濃度における変化を達成する、いかなる構造も包含することを意味する。各々のグレーデッド層は、サブ層のスタックとすることができ、サブ層の各々はそれに隣接するいずれのサブ層とも異なるドーパント濃度又は組成を有する。サブ層が分解可能な厚さである場合、グレーデッド層は段階的グレーデッド層である。幾つかの実施形態において、段階的グレーデッド層内のサブ層は、数十オングストロームから数千オングストロームまでの範囲の厚さを有することができる。個別のサブ層の厚さがゼロに達する限界において、グレーデッド層は連続的グレーデッド領域である。各グレーデッド層を作り上げるサブ層は、厚さに対する組成及び/又はドーパント濃度の、線形グレード、放物線型グレード、及びべき乗則グレードを含むがこれらに限定されない多様なプロファイルを形成するように配置されることができる。グレーデッド層は単一のグレーデッド・プロファイルに限られず、異なるグレーデッド・プロファイルを有する部分と、実質的に一定の組成及び/又はドーパント濃度領域を有する1つ又はそれ以上の部分とを含むことができる。
【0036】
一例において、層32、34、及び36は、それぞれ9%、6%、及び3%のInN組成のInGaNから構成されることができる。他の例において、層32、34、及び36は、9%、3%、及び9%のInN組成を有することができる。アニールの後、図7の混ざり合った領域35は、底部から上部に向かって単調に減少するInN組成、底部から上部に向かって単調に増加するInN組成、又は非単調な方式で変化するInN組成を有することができる。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態において、半導体発光デバイスのデバイス層は、高温層の上に成長させた少なくとも1つの低温層を含むテンプレートの上で成長する。高温層は、例えば、低いスレッディング転移密度及び平滑な表面モルフォロジを確立することができ、一方、低温層は、テンプレート上で成長させる層のための拡大された格子定数を確立する。格子定数の拡大は、GaN核形成層がサファイア若しくはSiC又はGaN核形成層をその上で成長させるその他の基板とは異なる格子定数を有するのと同様に、低温層26がその下にある層と相応に成長しないことによって、生じる。図8は、このようなデバイスの部分断面図である。
【0038】
図8に示されるデバイスにおいて、高温層24は、図2を参照して上で説明された核形成層22と同じである核形成層22の上で成長する。高温層24は、例えば、900℃〜1150℃の温度で少なくとも500オングストロームの厚さまで成長させた、高品質の結晶性GaN、InGaN、AlGaN、又はAlInGaN層とすることができる。
【0039】
高温層24の成長の後、温度を降下させて低温層26を成長させる。幾つかの実施形態において、低温層26は、望ましくない粗い表面を避けるために、0.1〜10Å/s、より好ましくは5Å/s未満、より好ましくは0.5〜2Å/sの成長速度で成長させる。低温層26は、400℃〜750℃の温度で、より好ましくは450℃〜650℃の温度で、より好ましくは500℃〜600℃の温度で例えば500オングストロームまでの厚さまで成長させた、例えば、アモルファス、多結晶、又は立方晶のような、低品質の非単結晶層とすることができる。もっと高い温度では、低温層26は、所望されるように緩和するか又はそれ自身の格子定数を確立するよりもむしろ、下にある層の格子定数を複製することがある。低温層26は、高温層24の格子定数を複製せずに、むしろ低温層26が、おそらくは低温層26の低品質のため、高温層24の格子定数よりも大きい格子定数を有することができるように、十分低い温度で成長させる。低温層26は、例えば、InN組成が1%〜20%、より好ましくは3%〜6%、より好ましくは4%〜5%のInGaN層とすることができる。低温層26は、GaN核形成層22の格子定数から、デバイスの発光層のバルク格子定数により近く適合するもっと大きい格子定数への遷移部として働く。
【0040】
幾つかの実施形態において、高温層24と低温層26との成長温度の差は、少なくとも300℃、より好ましくは少なくとも450℃、より好ましくは少なくとも500℃である。例えば、高温層24を900℃〜1150℃の温度で成長させることができ、一方、低温層26を450℃〜650℃の温度で成長させることができる。
【0041】
本発明の種々の実施形態において層26を成長させるために用いられる低い成長温度のため、低温層26は高い炭素含有量を有することがある。幾つかの実施形態において、低温層26の炭素含有量は、1×1018cm-3〜1×1020cm-3、しばしば1×1018cm-3〜1×1019cm-3である。対照的に、高温層24の炭素含有量は、一般に5×1017cm-3未満であり、より好ましくは1×1017cm-3未満であり、より好ましくは1×1016cm-3未満である。高い炭素含有量のため、低温層26は活性層によって放出される光を吸収することがある。それゆえ、好ましい実施形態において、低温層26の厚さは1000Å未満、より好ましくは500Å未満、より好ましくは300Å未満に制限される。
【0042】
これもまた低い成長温度、格子の不適合、及び熱膨張の不適合のため、低温層26は、低温層26と低温層26の上に直接成長させた層との間の界面又はその付近に、又は低温層26と低温層26をその上に成長させた層との間の界面又はその付近に位置するスタッキング欠陥、転位ループ、及び転位ラインのような欠陥を高濃度で有することがある。欠陥はしばしば、基板20と核形成層22との間の成長界面に対しておおよそ平行に配向する。これらの面内欠陥の濃度は、低温層26及び低温層26の上に成長した層の歪み緩和に寄与する。これらの面内欠陥濃度は、式(3)を参照して上記で説明したスレッディング転位濃度には必ずしも関連しないことに留意されたい。所与の高温層24において、成長界面に対して平行なスタッキング欠陥及び転位は透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察されず、これは、成長界面に対して平行なスタッキング欠陥及び転位の濃度が、TEMの検出限界、典型的には約1×102cm-1を下回ることを示している。InGaN低温層26のTEM画像は、数千オングストロームのオーダーのTEM試料厚さについて、成長界面に対して平行な多くの転位を現し、これは、成長界面に対して平行な転位の密度が少なくとも1×102cm-1、より多くの場合1×103cm-1、より多くの場合1×104cm-1であることを示している。幾つかの実施形態において、成長界面に対して平行な転位の密度は、1×102cm-1〜1×107cm-1である。
【0043】
幾つかの実施形態において、低温層26は成長平面に対して不連続な方式で成長させることができる。すなわち、低温層26は、それ自身を非平面的又は不連続とさせるような意図的又は偶発的な特徴を有することができる。そのような意図的な特徴の例は、横方向被覆成長(lateral overgrowth)を伴う1つ又はそれ以上の技術のクラスの使用を含むことができる。これらの技術は、引用によりここに組み入れられる非特許文献8に記載されているように、エピタキシャル横方向被覆成長(ELO又はELOG)、ファセット制御エピタキシャル横方向被覆成長(FACELO)、及びペンデオ(Pendeo)エピタキシ(PE)を含む種々の用語を用いて呼ばれている。そのような偶発的な特徴の例は、低温III−窒化物層の上面と交差するV字形欠陥(一般に「ピット」として知られる)、大きな表面段差、及び低温層26内又は低温層26の下の単層若しくは多層内のその他の欠陥の存在を含むことができる。これらの意図的な横方向被覆成長技術又は偶発的な技術の内の1つ又はそれ以上を使用することで、欠陥領域の横方向範囲をテンプレートの小部分又は幾つかの小部分に制限することができ、その一方で、テンプレートの横方向被覆成長は、低温層26によって確立される大きい格子定数を維持することができる。
【0044】
幾つかの実施形態において、デバイス層は図8の低温層26の上に直接成長させる。他の実施形態において、図9に示されるように、低温層26によって確立された格子定数を複製する追加の高温層28を低温層26の上に成長させることができる。高温層28は、例えば、GaN、InGaN、AlGaN、又はAlInGaNとすることができる。幾つかの実施形態において、高温層28は、800℃〜1000℃の温度で500オングストローム〜10,000オングストロームの厚さまで成長させたInGaNである。高温層28内のInN組成は、一般に低温層26内のInN組成よりも低く、例えば、0.5%〜20%、より好ましくは3%〜6%、より好ましくは4%〜5%とすることができる。
【0045】
低温層26はその次に成長させる層の格子定数を大きくすることが意図されており、一方、高温層28は、低温層26内のピット、大きな表面段差、及びその他の欠陥の上を平滑にする又は充填することが意図されている。高温層28は、その後の層をその上に成長させる高品質な土台を提供する。低温層26のInN組成は、格子定数を可能な限り拡げるために比較的高く、高温層28のInN組成は、望ましい高品質の層を成長させるために比較的低い。図9に示されるデバイスは、基板とデバイス層との間に低温層26と高温層28の複数の組を含むことができる。格子定数は、低温層26内のInN組成を、基板に最も近い低温層26における最低InN組成からデバイス層に最も近い低温層26における最高InN組成まで高めることによって、各々の組毎に少量ずつ拡大させることができる。格子定数が拡大するにつれて、許容できる高品質の高温層28を成長させることができるInN組成もまた高まる。それゆえ、高温層28内のInN組成は、基板に最も近い高温層28における最低InN組成からデバイス層に最も近い高温層28における最高InN組成まで高めることができる。層26内のInN組成を高めることは層28内のInN組成を高める1つの方法であるが、層28の組成は、層26のInN組成を高めることなく他の方法によって高めることができる。図10に示される他の実施形態において、図8の高温層24を図9の高温層28と組み合わせて用いることができる。
【0046】
図11に示されるその他の実施形態において、最初に低温核形成層22を成長させ、次に図8を参照して上記で説明されたように高温層24を成長させる。第2の高温層30を高温層24の上に成長させ、次に低温InGaN層26を層30の上に成長させる。次に高温層28を低温層26の上に成長させ、デバイス層10を高温層28の上に成長させる。あるいは、図11において高温層28は省略することができ、デバイス層10を低温InGaN層26の上に直接成長させることができる。
【0047】
高温層30は例えば、900℃〜1000℃の温度で500オングストローム〜10,000オングストロームの厚さまで成長させた、例えば5%未満の低いInN組成を有するInGaN層とすることができる。高温層30は、一般に、高温層24よりも大きいバルク格子定数を有する材料である。その結果、低温層26とその次に成長させる高温層28の面内格子定数は、低温層26を高温層24の上に直接成長させた場合に達成できる面内格子定数よりも大きくなることができる。
【0048】
幾つかの実施形態において、図11の高温層30及び28はInGaNで構成される。そのような実施形態の1つにおいて、高温層28は、高温層30よりも雰囲気中のH2が少ない状態で、又はより低い温度で成長させることができ、この場合、高温層28は高温層30よりも高いInN組成を有することができる。例えば、高温層30と低温層26との間の成長温度の差は、少なくとも350℃、より好ましくは少なくとも400℃、より好ましくは少なくとも450℃とすることができる。対照的に、低温層26と高温層38との間の成長温度の差は、少なくとも250℃、より好ましくは少なくとも300℃、より好ましくは少なくとも350℃とすることができる。他の実施形態において、高温層28は、高温層30よりもH2が多い状態で、又はより高い温度で成長させることができ、この場合、高温層28は高温層30よりも低いInN組成を有することができる。他の実施形態において、高温層28を高温層30と実質的に同じ条件下で成長させることができ、又は高温層28は高温層30と実質的に同じ組成を有することができる。これらの実施形態の各々において、低温InGaN層26は高温層24の格子定数を中断させ、その次に成長させる層の格子定数を拡大させることになるので、そのため、高温層28は、高温層30よりも大きい面内格子定数を有することになる。
【0049】
構造体の幾つかの実施形態において、低温層26は大きい格子定数を確立することができ、一方、高温層28は平滑な表面を確立することができる。低温層26の面内格子定数が高温層28のバルク格子定数よりも実質的に大きい場合、高温層28は、式(1)で定義されるように実質的な引張り歪みの下にあり得、この引張り歪みは高温層28の中又はその近くに亀裂又は他の欠陥が形成されることによって部分的に緩和されることができる。亀裂はデバイスの電気的及び構造的一体性を損なうことになるので、この効果は望ましくなく、また層28内の亀裂又は他の構造的欠陥は層28内の格子定数を低減させ、活性領域内の圧縮歪みを高めることがある。従って、デバイスの幾つかの実施形態において、基板20とデバイス層10との間に追加の層を成長させることが好ましい。そのような実施形態の1つにおいて、図12に示されるように、高温層31を低温層26と高温層28の間に配置することができる。この実施形態において、高温層31は低温層26よりは高いが高温層28よりは低い温度で成長させることができる。高温層28及び31の各々は、例えば、800℃〜1000℃の温度で500オングストローム〜10,000オングストロームの厚さまで成長させたInGaNとすることができる。各高温層内のInN組成は、例えば、0.5%〜20%、より好ましくは3%〜6%、より好ましくは4%〜5%とすることができる。
【0050】
あるいは、高温層28と31は実質的に同じ温度で成長させることができるが、高温層31を、高温層28を成長させるのに用いるよりも少ない雰囲気中のH2で成長させることができる。この場合、高温層31は低温層28よりも高いInN組成を有することができる。あるいは、高温層31を高温層28よりも高い温度で又はより多いH2で成長させることができ、この場合、高温層31は、低温層28よりも低いInN組成を有することができる。
【0051】
他の実施形態において、低温層26とデバイス層10との間で2つより多い異なる層を成長させることができる。この実施形態の1つの例を図13に示し、ここでInNリッチ材料及びInNプア材料の交互層が、低温層26とデバイス層10との間の多層スタックの中に含められる。図13の多層スタックは、図2の核形成層22の上、又は図10の高温層24の上に成長させることができることに留意されたい。図13にはInNリッチ層及びInNプア層の3つの組が示されているが、それより多い又はそれより少ない組を用いることができる。インジウム・リッチ層60、62、及び64は、例えばInGaN又はAlInGaNとすることができる。インジウム・プア層61、63、及び65は、例えばGaN、InGaN、又はAlInGaNとすることができる。層60、62、及び64は3%InNの組成を有することができ、一方、層61、63、及び65は0.5%InNの組成を有することができる。
【0052】
任意のキャップ層67を上部InNプア層65の上に成長させることができ、次にデバイス層10をキャップ層67又は上部InNプア層65の上に成長させることができる。キャップ層67は、例えば、GaN又はInGaNとすることができる。他の実施形態において最上部インジウム・プア層は省略することができ、デバイス層を層60、62、又は64のような上部インジウム・リッチ層の上に直接成長させることができる。
【0053】
デバイスのその他の実施形態において、図13の多層スタックは、引用によりここに組み入れる非特許文献9に記載のように、熱サイクル成長又はアニールを用いて形成することができる。熱サイクル成長を用いて、良好な表面モルフォロジを有し、デバイス層内のa格子定数が従来のGaNテンプレート上での成長から得られるa格子定数よりも大きいデバイスを成長させる。熱サイクル成長プロセスは、InGaNのようなエピタキシャル層の成長と、その後の高温成長又はアニール・ステップとを伴う。
【0054】
層60、61、62、63、64、及び65の各々の成長の後、Ga、Al、及びIn前駆体のような幾つかの前駆体ガスのフローを停止させることによって成長を中断させることができ、次に、所定量の時間にわたって温度を維持又は上昇させると同時に、N前駆体、しばしばNH3のフローを続けることによって構造体をアニールすることができる。次の層の成長は、必要であれば温度が次の層の成長温度に調節され、適切な前駆体が導入されたときに開始する。典型的なアニール条件は、H2及びNH3の雰囲気下、1100℃で5分間から成り立っている。N2を雰囲気に加えることもでき、又はInGaN層の過剰の分解を防ぐためにH2を雰囲気から除去することができる。あるいは、これらの高温ステップ又は温度傾斜の間中、成長を続けることもできる。各層の成長の後のアニールは、各層の成長後にアニールされていないデバイスよりも改善された表面モルフォロジをもたらすが、InNプア層61、63、及び65の成長の後のアニールは過剰の転位又は転位ループをもたらすことがあり、これはInNプア層内の歪みの幾らかを緩和させて、これらの層がより大きいInNリッチ層のa格子定数に対する歪みをもたないようにしてしまうことがあり、その結果、所望のa格子定数よりも小さいテンプレートがもたらされる。
【0055】
あるいは、構造体は、InNリッチ層60、62、及び64のうちの幾つか又は全ての成長の後にのみ、又はInNプア層61、63、及び65の幾つか又は全ての成長の後にのみアニールされる。InNプア層61、63、及び65の成長の後にのみアニールすると、InNプア層がいずれかのアニール・ステップの間にデバイス内のInNリッチ層内のInNをより多く捕捉するので、その結果、テンプレートにおけるより高い平均InN組成をもたらすことができる。他の実施形態において、インジウム・リッチ層の成長後のアニール条件がインジウム・プア層の成長後のアニール条件とは異なるように、構造体を各層の成長の後でアニールすることができる。インジウム・リッチ層60、62、及び64の各々は、組成又は厚さが必ずしも同一である必要はないことに留意されたい。同様に、インジウム・プア層61、63、及び65の各々は、組成又は厚さが必ずしも同一である必要はない。
【0056】
他の実施形態において、図14に示されるように、グレーデッドInGaN層59を低温層26とデバイス層10との間に配置することができる。グレーデッド層59は、例えば、InN組成を変化させた1つ又はそれ以上の二成分系、三成分系、又は四成分系III−窒化物層を含むことができる。上記のような任意のキャップ層(図14には図示せず)をグレーデッド層59とデバイス層10との間に配置することができる。例えば、グレーデッド層59は、低温層26に隣接する最高InN組成11%からデバイス層10に隣接する最低InN組成3%までの線形勾配の組成を有するInGaN層とすることができる。他の例において、グレーデッド層59は、低温層26に隣接する高InN組成10%からデバイス層10に隣接する低InN組成0%まで降下する勾配を含むことができる。さらに他の例において、グレーデッド層59は、低温層26に隣接する高InN組成8%からどこかの中間位置の低InN組成0%まで降下する勾配又は単一段階と、その次に、デバイス層10に隣接する高いInN組成3%まで再度上昇する勾配又は単一段階とを含むことができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、図11の層24及び30を図12の層28及び31と組み合わせて用いることができる。他の実施形態において、低温層26は、図14に示される2つのグレーデッドInGaN層59の間に挟持されることができる。別の実施形態において、低温層26の任意のスタックを高温層の任意のスタック又は高温層と低温GaN層の任意のスタックの間に散在させて成長させることができる。図2図8図9、及び図10に示される実施形態の各々は、図3から図7及び図11から図14で検討されたように、グレーデッド層、多層スタック、及びアニールされた単層又は多層を含むことができる。
【0058】
幾つかの実施形態において、図12の高温層31の様な層の性質は、低温層26によって確立された格子定数を閉じこめるように選択される。幾つかの実施形態において、図12の高温層28のような層の性質は、デバイスの表面モルフォロジを向上させるように選択される。
【0059】
図15及び図16は、幾つかのデバイスについてc格子定数をa格子定数の関数としてプロットしたものである。図15は、本発明の実施形態によるテンプレートが実際にその上の層の少なくとも部分的な緩和を引き起こすことを実証する。構造体の歪み状態は、c格子定数及びa格子定数を求めることによって測定することができる。図15の菱形で表される構造体において、図1に示されるように厚い高温GaN層3をGaN核形成層2の上に成長させ、ここで、核形成層2及び高温GaN層3の成長条件を、式(3)に関して先に検討されたように、スレッディング転位密度を変化させるために、従ってGaNテンプレート内の面内a格子定数を変化させるために変更した。このようなスレッディング転位密度の変更方法は、引用によりここに組み入れられる非特許文献10に記載されている。従って、図15において菱形で表される構造体は、式(3)と一致する様々なスレッディング転位密度及びa格子定数を有する。丸で表される構造体において、厚い高温GaN層を本発明の実施形態に従って調製された低温InGaN層の上に成長させた。弾性理論によればIII−窒化物材料におけるc格子定数とa格子定数は反比例し、このことは、全てが図15に示される斜線の近くにある、菱形で表される構造体で実証される。菱形で示される構造体とは対照的に、丸で表される構造体の各々は斜線の下に位置し、これらの構造体のc格子定数が菱形で表される構造体のc格子定数よりも小さいことを意味する。丸で表される構造体のより小さいc格子定数は、これらの構造体の厚い高温GaN層が引張り歪みの下で成長することを示唆しており、このことは、高温GaN層のa格子定数がその下の少なくとも部分的に緩和した低温InGaN層26のa格子定数に適合するように引き延ばされていることを示している。丸で表される構造体はまた、所与のa格子定数に対して菱形で表される構造体よりも低いスレッディング転位密度を示し、このことは、本発明が、先に式(3)で定量化したような従来のGaNテンプレートにおいて観察されるa格子定数とスレッディング転位密度との間のトレードオフを打破することを示している。
【0060】
図16は、本発明の1つ又はそれ以上の実施形態の幾つかの層について観察されるc格子定数及びa格子定数のプロットである。図16の黒丸は図9の層28を表し、一方、図16の白丸は図13の1つ又はそれ以上のインジウム・リッチ層を表し、菱形の符号は図13の1つ又はそれ以上のインジウム・プア層又はキャップ層を表す。図16における実線の斜線は先に図15で示した実線の斜線に対応し、図1で示される構造体のようなGaNテンプレート上の実験データを表し、一方、破線の斜線はより大きいa格子定数値まで外側に実線を外挿したものである。図16に示されるように、インジウム・リッチ層60のc格子定数及びa格子定数は両方とも、図15の菱形符号で示される従来のGaNテンプレートについてのデータと比べて非常に大きい。インジウム・リッチ層60の上に形成されるインジウム・プア層61又はキャップ層67のc格子定数及びa格子定数は、インジウム・リッチ層60の格子定数よりも小さいが、図15の従来のGaNテンプレートに対して観察される最大a格子定数よりもずっと大きく、このことは、図13に示される実施形態に従って成長させたインジウム・プア層61及びキャップ層67が、より大きいインジウム・リッチ層60の格子定数に対して少なくとも部分的に歪んでいることを示唆している。インジウム・プア層61及びキャップ層67は、亀裂を避けるために、一般に十分薄く保持されるか、又は十分高いInN組成で成長させることに留意されたい。インジウム・プア層及びキャップ層67の上に歪んで成長させたデバイス層10は、GaNより大きい、このa格子定数を複製し、そのことにより発光層内の歪みを低減する。上記の実施形態において説明されたテンプレートは、従って、典型的には3.189オングストロームを超えないa格子定数を有する従来のGaNテンプレートよりも大きいa格子定数を有することができる。
【0061】
上記の実施形態の幾つかにおける構造体のような、3.189Åよりも大きい面内格子定数を有するテンプレートの上での1つ又はそれ以上の発光層を含むデバイス層の成長は、欠陥密度が許容可能でスピノーダル分解が低減されたより厚い発光層を成長させるのに十分なほど発光層内の歪みを減少させることができる。例えば、青色光を放出するInGaN層は組成In0.12Ga0.88Nを有することができ、この組成のバルク格子定数は3.23Åである。発光層内の歪みは、発光層における面内格子定数(従来のGaN緩衝層上で成長させた発光層について約3.189Å)と発光層のバルク格子定数との差によって決定され、従って、歪みは式(2)で定義されるように、|(a面内−aバルク)|/aバルクとして表すことができる。従来のIn0.12Ga0.88N層の場合、歪みは|(3.189Å−3.23Å)|/3.23Åであり、約1.23%である。同じ組成の発光層を上記の構造体のような格子定数がより大きいテンプレート上で成長させた場合、歪みを低減又は排除することができる。本発明の幾つかの実施形態において、430nm〜480nmの光を放出するデバイスの発光層内の歪みは、1%未満まで、より好ましくは0.5%未満まで減らすことができる。シアン光を放出するInGaN層は、In0.16Ga0.84Nの組成を有することができ、この組成のバルク格子定数は3.24Åであり、従来のGaN緩衝層の上で成長させた場合、歪みは約1.7%である。本発明の幾つかの実施形態において、480nm〜520nmの光を放出するデバイスの発光層内の歪みは、1.5%未満まで、より好ましくは1%未満まで減らすことができる。緑色光を放出するInGaN層はIn0.2Ga0.8Nの組成を有することができ、この組成のバルク格子定数は3.26Åであり、従来のGaN緩衝層の上で成長させた場合、約2.1%の歪みを生じる。本発明の幾つかの実施形態において、520nm〜560nmの光を放出するデバイスの発光層内の歪みは、2%未満まで、より好ましくは1.5%未満まで減らすことができる。
【0062】
図2に示されるデバイスについて、本発明者らは、a格子定数が3.212Åと大きく、スレッディング転位密度が4×109cm-2と低い構造体を成長させた。このような構造体の上で成長させた発光層は、青色発光層については0.55%の歪みとすることができ、シアン光発光層については0.87%の歪みとすることができ、緑色発光層については1.5%の歪みとすることができる。図8及び図10に示されるデバイスについて、本発明者らは、a格子定数が3.196Åと大きく、スレッディング転位密度が1.5×109cm-2と低い構造体を成長させた。このような構造体の上で成長させた発光層は、青色発光層については1.1%の歪みとすることができ、シアン光発光層については1.4%の歪みとすることができ、緑色発光層については2.0%の歪みとすることができる。図9及び図13に示されるデバイスについて、本発明者らは、図16に示されるように、a格子定数が3.202Åと大きく、スレッディング転位密度が1.5×109cm-2と低い構造体を成長させた。このような構造体の上で成長させた発光層は、青色発光層については0.87%の歪みとすることができ、シアン光発光層については1.2%の歪みとすることができ、緑色発光層については1.8%の歪みとすることができる。図11に示されるデバイスについて、本発明者らは、a格子定数が3.204Åと大きく、スレッディング転位密度が1.5×109cm-2と低い構造体を成長させた。このような構造体の上で成長させた発光層は、青色発光層については0.8%の歪みとすることができ、シアン光発光層については1.1%の歪みとすることができ、緑色発光層については1.7%の歪みとすることができる。従って、これらの実施例の各々は、先に式(3)で記載した面内a格子定数とスレッディング転位密度との間の関係を打破する。
【0063】
上記の成長テンプレートとデバイス層は、本発明によれば、サファイアの主要結晶面から傾いたサファイア又はSiC成長基板の面上に成長させることができる。図17は、サファイアのc面、m面、及びa面を示す。III−窒化物デバイスはしばしば、サファイアのc面、r面、m面、又はa面の上に成長させる。本発明の実施形態において、サファイア基板は、III−窒化物デバイス層をその上に成長させる成長面がc面、r面、m面、又はa面から方位12に例えば0.1°よりも大きく傾くようにスライスされ、研磨される。そのような基板上で成長する発光層は、スピノーダル分解の低減及び発光層内の歪みの低減を経験することができる。そのような基板は、上記のいずれのテンプレートを成長させるために用いることもできる。
【0064】
上記で図示及び説明した半導体構造体は、デバイスの対向する側にコンタクトが形成されたデバイス又はデバイスの同じ側に両方のコンタクトが形成されたデバイスのような、どのような適切な構成の発光デバイスにも含めることができる。両方のコンタクトが同じ側に配置される場合、デバイスは、透明なコンタクトを用いて形成され、コンタクトが形成されている同じ側を通って光がいずれも抽出されるようにマウントされるか、又は反射コンタクトを用いて形成されてフリップチップとしてマウントされ、光はコンタクトが形成されている側の反対側から抽出されるかの、いずれかである。
【0065】
図18は、成長基板が除去されたフリップチップである適切な構成の一例の一部を示す。上記のように、デバイス層10は、少なくとも1つのn型層を含むn型領域71と少なくとも1つのp型層を含むp型領域73との間に挟持された少なくとも1つの発光層を含む発光領域72を含む。n型領域71は成長テンプレートの一部とすることができ、又は分離した構造体とすることもできる。p型領域73及び発光領域72の一部が除去されて、n型領域71を露出するメサを形成する。図18にはn型領域71の一部を露出する1つのビアを図示しているが、単一のデバイス内に複数のビアを形成することができることを理解されたい。n−コンタクト78及びp−コンタクト76は、n型領域71及びp型領域73の露出された部分の上に、例えば蒸着又はめっきによって形成される。コンタクト78及び76は、空気又は誘電体層によって互いに電気的に隔離されてもよい。コンタクト金属78及び76が形成された後で、デバイスのウェファをダイシングして個別のデバイスにすることができ、次に各デバイスは成長方向に対して裏返されてマウント84の上にマウントされ、この場合マウント84は、図18に示されるようにデバイスよりも横方向に大きい範囲を有することができる。あるいは、デバイスのウェファをマウントのウェファに接続して、次にダイシングして個別のデバイスとすることができる。マウント84は、Siのような半導体、金属、又はAlNのようなセラミックとすることができ、p−コンタクト76に電気的に接続する少なくとも1つの金属パッド80及びn−コンタクト78に電気的に接続する少なくとも1つの金属パッド82を有することができる。コンタクト76及び78とパッド80及び82との間に配置される相互接続(図18に図示せず)が、半導体デバイスをマウント84に接続する。相互接続は、例えば、金のような元素金属、又ははんだとすることができる。
【0066】
マウントした後、成長基板(図示せず)をエッチング又はレーザ溶融のような基板材料に適したプロセスによって除去する。半導体層を支持し、基板の除去の間のひび割れを防止するために、マウントの前又は後にデバイスとマウント84との間に剛直なアンダーフィルを設けることができる。その上にデバイス層10を成長させたテンプレート75は、無傷のまま残すこともでき、例えばエッチングによって、完全に除去することもでき、部分的に除去することもできる。成長基板の除去によって露出された表面及びいずれの半導体材料も、例えば光電気化学的エッチングのようなエッチングプロセスによって、又は研削のような機械的プロセスによって粗面化することができる。光が抽出される面の粗面化は、デバイスからの光抽出を向上させることができる。あるいは、フォトニック結晶構造体を表面に形成することができる。蛍光体層又はダイクロイック若しくは偏光子のような当該分野で公知の二次光学素子などの構造体85を、発光面に取り付けることができる。
【0067】
図19は、より詳細には特許文献3に記載されているようなパッケージングされた発光デバイスの組立分解図である。放熱スラグ100が、インサート成形されたリードフレームの中に配置される。インサート成形されたリードフレームは、例えば、電気パスを提供する金属フレーム106の周囲の充填されたプラスチック材料105である。スラグ100は、任意に反射カップ102を含むことができる。発光デバイスのダイ104は上記の実施形態で説明されたいずれのデバイスとすることもでき、これが直接、又は熱伝導性サブマウント103を介して間接的に、スラグ100にマウントされる。カバー108を追加することができ、これは光学レンズとすることができる。
【0068】
本発明を詳細に説明してきたが、当業者は、本開示が与えられれば、ここに記載された発明の概念の精神から逸脱することなく本発明に対して改変を行うことができることを認識するであろう。従って、本発明の範囲は、図示され説明された特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。特に、低温層26はInGaNの代わりにAlGaN又はAlInGaNで構成することができる。低温層26がAlGaNで構成される実施形態の場合、低温層26の面内格子定数は核形成層22の格子定数よりも小さく、このことは、より短波長のUV発光体のために用いられるAlGaN又はAlInGaN層内の歪みを減少させることになる。低温層26がAlInGaNで構成される実施形態の場合、低温層26の面内格子定数は、低温層26内のインジウムのアルミニウムに対する比率に応じて、層22の格子定数より大きいか又は小さいかのいずれかとすることができる。また、ここで開示される本発明は、例えばFET又は検出器のようなトランジスタを含む電子デバイス又はオプトエレクトロニック・デバイスにも、発光層と同様に応用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1、20:基板
2、22:核形成層
3、5、24、28、30、31:高温層
6、10:デバイス層
26、32、34、36:低温層
38、67:キャップ層
59:グレーデッド層
60、62、64:インジウム・リッチ層
61、63、65:インジウム・プア層
71:n型領域
72:発光層
73:p型領域
76、78:コンタクト
80、82:パッド
84:マウント
100:放熱シンク
104:発光デバイス・ダイ
108:カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19