【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.
乳酸菌株のスクリーニング
以下のようにして各種乳酸菌を接種した麦焼酎原酒を試作し、従来にない濃厚なクリーミーさを有する焼酎原酒を作り出せる乳酸菌をスクリーニングした。このとき使用した乳酸菌は、FERM P-21996、FERM P-21997及びサントリーホールディングス株式会社乳酸菌研が保有する7菌株である。これらの乳酸菌株と、試作の結果得られた麦焼酎原酒サンプルNo.は表1の通りである。
【表1】
発酵容器に、乾燥麦白麹(徳島製麹株式会社製)130gと、常法の通り製造した蒸し麦260gとを入れ、約590mLの水を加えた。これらの原料の混合物に、表1に示す乳酸菌を、接種後の混合物中で1×10
7cells/mLとなるように接種し、その後加水して混合物全量を約990mLとし、醪温度35℃にて2日間培養した。
【0049】
この醪に、焼酎用酵母鹿児島5号を、接種後の醪中で1×10
6cells/mLとなるように接種し、その後加水して醪全量を1000mLとし、醪温度28℃にて11日間発酵させた。
発酵終了した醪を500mL採取し、エバポレーターにて減圧蒸留を行った。エバポレーターの減圧度は60mmHg、湯浴温度は40℃とした。受器中の留液容量が約120mLとなったら蒸留を停止し、麦焼酎原酒とした。
【0050】
得られた麦焼酎原酒について、アルコール度数分析及び官能評価を行った。
官能評価は、各焼酎原酒サンプルを純水でアルコール度数25 v/v%となるよう調製したものを用い、訓練を受けた専門パネル3名によって行った。各サンプルを飲用したときの濃厚なクリーミーさに関して、下の基準に従って4点満点で採点し、平均点を求めた。平均点が3点以上で合格とした。
【0051】
濃厚なクリーミーさを
非常に強く感じる:4点、やや感じる:3点、あまり感じない:2点、感じない:1点
として評価した。
【0052】
【表2】
【0053】
以上の結果、FERM P-21996及びFERM P-21997の2菌株をそれぞれ接種した麦焼酎原酒サンプル2及び3が、濃厚なクリーミーさを強く感じられることが分かった。これに対し、他の乳酸菌株による麦焼酎原酒は、ややクリーミーさを感じるものもあるものの、通常の麦焼酎と大きく変わらない品質であった。
【0054】
2.
麦焼酎原酒の製造
通常の焼酎製造方法によって得られる麦焼酎(比較例)と、乳酸菌株FERM P-21996及びFERM P-21997を用いて、本発明の製造方法によって得られる麦焼酎(本発明品1及び本発明品2)とを製造し、両者を比較した。
【0055】
比較例
通常の焼酎の製造方法に従って麦焼酎を製造し、比較例とした。
大麦200kg及び焼酎用黒麹菌を用いて、常法に従って製麹し麦麹230kgを得た。この麦麹230kgに水240Lを加え、鹿児島5号酵母を接種して醪温度を約28℃に保持して5日間発酵を行い、一次醪500Lを得た。
【0056】
この一次醪に、大麦400kgを常法の通り蒸して30℃以下まで放冷した蒸し麦を添加し、更に水660Lを加えて、醪温度を約28℃に保持して10日間発酵を行い、アルコール度数16.7 v/v%の二次醪1500Lを得た。この二次醪730Lを、常法の通り常圧蒸留を行って、アルコール度数43.2 v/v%の麦焼酎原酒276Lを得た。
【0057】
本発明品1
発酵容器に、大麦10kg及び焼酎用黒麹菌を用いて、常法に従って製麹した麦麹11.5kg、大麦200kgを常法の通り蒸して30℃以下まで放冷した蒸し麦、及び水660Lを加えて混合した(このとき、汲水歩合は314%となる)。これに乳酸菌株FERM P-21996を、接種後にこの混合物中で1×10
8cells/mLとなるように接種した。接種後、混合物のpHを測定したところ、4.0になっていることを確認した。この混合物を醪温度を約35℃に保持して1日間培養し乳酸菌醪とした(培養後のpHは3.5であった)。
【0058】
この乳酸菌醪とは別の発酵容器に、大麦190kg及び焼酎用黒麹菌を用いて、常法に従って製麹した麦麹に水240Lを加えて混合し、焼酎用酵母鹿児島5号を、接種後に混合物中で1×10
8cells/mLとなるよう接種し、醪温度を約28℃に保持して5日間発酵して一次醪450Lを得た(醪のアルコール度数18.2 v/v%)。
【0059】
次に、乳酸菌醪と一次醪とを混合し、さらに比較例と同様にして大麦400kgから製造した蒸し麦を加え、加水して全量1500Lとなるよう調整して二次醪とした(醪のアルコール度数6 v/v%)。
この二次醪を醪温度を約28℃に保持して10日間発酵させ、アルコール度数16.9 v/v%の醪を得た。この醪738Lを、常法の通り常圧蒸留を行って、アルコール度数44.0 v/v%の麦焼酎原酒270Lを得た。
【0060】
本発明品2
本発明品1の製造方法における乳酸菌株をFERM P-21997に替えて、同様にして、麦焼酎原酒を製造した。このとき、二次醪のアルコール度数は16.1 v/v%であった。この二次醪734Lを、常法の通り常圧蒸留を行って、アルコール度数44.2 v/v%の麦焼酎原酒251Lを得た。
【0061】
3.
発酵歩合の検討
本発明の製造方法によって、有害菌の過剰増殖による発酵不良が発生しているかどうか確認するため、比較例、本発明品1及び本発明品2の二次醪の発酵歩合を計算した。
発酵歩合は、「本格焼酎製造技術 財団法人 日本醸造協会発行(平成16年12月10日再版発行)第VII章 製造管理 226頁(1)製造歩合」に従い、次のようにして計算した。
発酵歩合(%)=[(醪L数×醪のアルコール度数)÷(原料の純デンプン総量kg×71.54)]×100
【0062】
実施例で使用した原料は大麦であるから、デンプン価を73とすると、原料の純デンプン総量kgは次の式で表せる。
原料の純デンプン総量kg=大麦総量kg×0.73
ここで、大麦総量kgとは、焼酎製造に用いた大麦重量の総和(麦麹及び蒸し麦の製造に用いた大麦の、製造前の重量の総和)を表す。
【0063】
従って、比較例、本発明品1及び本発明品2の二次醪の発酵歩合は次の通りとなる。
比較例=[(1500×0.167)÷(600×0.73×71.54)]×100=79.9%
本発明品1=[(1500×0.169)÷(600×0.73×71.54)]×100=80.9%
本発明品2=[(1500×0.161)÷(600×0.73×71.54)]×100=77.1%
【0064】
以上の結果から、本発明品1及び本発明品2の二次醪の発酵歩合は、比較例のそれと遜色ない数値が得られていることが分かった。従って、本発明品1及び本発明品2は、乳酸菌を添加しながら、乳酸菌,野生酵母及び/又はカビなどの増殖による発酵不良を起こすことなく、通常の焼酎と同等のアルコール量が得られていることが明らかとなった。
【0065】
4.
香気成分分析
また、蒸留後の各麦焼酎原酒(比較例、本発明品1及び本発明品2)に含まれる香気成分について、GC分析に供した。
分析項目としては、乳酸菌の作用によって蒸留後に生成することが予想される乳酸エチルエステル、醸造における代表的な異臭物質であるイソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸及びダイアセチルの分析を行った。
【0066】
分析結果
蒸留後の各麦焼酎原酒(比較例、本発明品1及び本発明品2)に含まれる各香気成分のGC分析結果は、純アルコール換算で表3のようになった。
【0067】
【表3】
【0068】
まず、乳酸エチルエステル量は、本発明品1及び本発明品2には、純アルコール換算でそれぞれ45ppm及び164ppm含まれており、比較例に対してそれぞれ約8倍及び約30倍以上(1〜2オーダー増加)となることが明らかとなった。本発明品では、乳酸菌が旺盛に作用していることが分かった。
【0069】
次に、イソ酪酸等の異臭物質の含有量は、本発明品1及び本発明品2において比較例と大きく変わらなかった。これら4つの異臭物質濃度の総和は、比較例、本発明品1及び本発明品2で、それぞれ9.7ppm、9.3ppm及び7.4ppm(純アルコール換算)となり、先行文献で知られている正常発酵での値と比べても同一オーダーを維持していることが明らかとなった。本発明の製造方法によって、焼酎オフフレーバーの生成が防止されていることが示唆された。
【0070】
5.
官能評価結果
次に、実際の焼酎品質について確認するため、各麦焼酎原酒(比較例、本発明品1及び本発明品2)を純水でアルコール度数25 v/v%となるよう調製したサンプルを用いて、官能評価を実施した。官能評価は、訓練を受けた専門パネル3名によって、各サンプルを飲用したときの口当たりの柔らかさと濃厚なクリーミーさに関して、下の基準に従って4点満点で採点し、平均点を求めた。平均点が3点以上で合格とした。
【0071】
口当たりのやわらかさ、濃厚なクリーミーさを、
非常に強く感じる:4点、やや感じる:3点、あまり感じない:2点、感じない:1点
として評価した。
なお、比較のために、市販されている麦焼酎製品A及びBの官能評価も実施した。
また、1.で試作した麦焼酎サンプル2及びサンプル3(それぞれ乳酸菌FERM P-21996及びFERM P-21997を使用しながら、従来の焼酎製造方法に近い製造を行った)の官能評価も実施した。その結果を、表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表4の結果から、本発明品1及び本発明品2は、比較例や他社製品と比べて、口当たりの柔らかさや濃厚なクリーミーさが非常に強く感じられることが明らかとなった。また、1.で試作した麦焼酎サンプル2及びサンプル3と比較しても、濃厚なクリーミーさが非常に強くなっており、また洋菓子様の甘い香味が強められていることが明らかとなった。本発明の製造方法によって、乳酸菌の持つ特徴がより強く発揮されることが示唆された。更に、本発明品1及び本発明品2は、焼酎オフフレーバーが指摘されなかった。従って、本発明品1及び本発明品2は、香気成分の分析結果から予想される通り、乳酸菌による香味品質の向上は見られるが、焼酎オフフレーバーが感じられない、優れた品質の焼酎であることが明らかとなった。