(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
住宅やビル等の空調システムのために、吸湿材を用いて空気中の水分を除去する技術が知られている。このような技術に用いられる吸湿材には、シリカゲルまたはゼオライト等が使用される(例えば、特許文献1および非特許文献1)。
【0003】
空調システムのための吸湿材を、使い捨てではなく、繰り返して使用するためには、吸湿材に吸着された水分を加熱等により脱着させて、吸湿材の吸湿能力を再生させる必要がある。省エネルギー化のために、吸湿材は、低い温度で再生できることが求められている。このように、空調システム等に用いられる吸湿材は、高い吸湿能力を有するだけでなく、その再生温度が低いことが求められる。
【0004】
この点、特許文献1では、セルロース誘導体と、その内部に銀、銅または亜鉛から選ばれる金属を担持した無機多孔結晶体(特にゼオライト)とからなるセルロース誘導体−無機多孔結晶複合体から構成されるデシカント材が、低温で再生できることが記載されている。また、非特許文献1では、その除湿ローターで用いる特殊合成ゼオライトが、低温で再生できることが記載されている。
【0005】
なお、特許文献2には、該文献で定義する相対結晶化度が40%以上である改質ゼオライトを用いて、触媒組成物を調製することが記載されている。しかし、該文献には、その改質ゼオライトが高い吸湿能力および低い再生温度を有すること、およびその改質ゼオライトを吸湿材に使用することは記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の吸湿材は、部分非晶質化ゼオライトを含むことを特徴とする。部分非晶質化ゼオライトとは、結晶構造を有する通常のゼオライトを部分的に非晶質化したものを意味する。このような部分非晶質化ゼオライトは、通常のゼオライト(結晶ゼオライト)に比べて、吸湿能力(吸湿量)が高く、且つ再生温度が低いという特徴を有する。
【0014】
吸湿量および再生温度の観点から、部分非晶質化ゼオライトの結晶化度は、好ましくは5〜70%、より好ましくは7〜60%、さらに好ましくは10〜40%である。この結晶化度は、部分非晶質化ゼオライトおよび結晶ゼオライト(通常のゼオライト)の粉末X線回折を測定し、
図1に示すような、ピークA(2θ≒6.1°)、ピークB(2θ≒15.4°)、ピークC(2θ≒23.3°)、ピークD(2θ≒26.7°)およびピークE(2θ≒31.0°)のX線回折強度(ピーク高さ)を求め、下記式(I)によって算出することができる。なお、結晶化度の算出には、バックグラウンドを除去した値を、ピークA〜EのX線回折強度として使用する。
部分非晶質化ゼオライトの結晶化度(%)
=100×(部分非晶質化ゼオライトのピークA〜EのX線回折強度の合計)/(結晶ゼオライトのピークA〜EのX線回折強度の合計) ・・・ (I)
【0015】
なお、結晶ゼオライトおよび完全非晶質化ゼオライト(即ち、非晶質ケイ酸アルミニウム)の混合物も、下記式(II)から算出される結晶化度が100%とはならない。
結晶ゼオライトおよび完全非晶質化ゼオライトの混合物の結晶化度(%)
=100×(結晶ゼオライトおよび完全非晶質化ゼオライトの混合物のピークA〜EのX線回折強度の合計)/(結晶ゼオライトのピークA〜EのX線回折強度の合計)
・・・ (II)
そのため、上記のような結晶化度の測定だけでは、部分非晶質化ゼオライトを含む吸湿材と、結晶ゼオライトおよび完全非晶質化ゼオライトの混合物を含む吸湿材とは区別できない。
【0016】
この点、
図1に示されるように、部分非晶質化ゼオライトの粉末X線回折のピークは、結晶ゼオライトの粉末X線回折のピークに比べて右側(2θが大きい側)にシフトする。これに対して、結晶ゼオライトおよび完全非晶質化ゼオライトの混合物の粉末X線回折では、結晶ゼオライトの粉末X線回折に比べてピークシフトが生じない(不図示)。そのため、粉末X線回折のピークシフトの有無によって、吸湿材が、部分非晶質化ゼオライトを含むか、または結晶ゼオライトおよび完全非晶質化ゼオライトの混合物を含むかを判定することができる。
【0017】
本発明において、ゼオライトを非晶質化するめの方法に特に限定は無く、あらゆる公知の非晶質化方法によって製造した部分非晶質化ゼオライトを使用することができる。但し、製造方法の簡便さなどの観点から、部分非晶質化ゼオライトとしては、ゼオライトを酸で処理することによって得られたものが好ましい。以下、酸処理による部分非晶質化ゼオライトの製造方法について説明する。
【0018】
非晶質化に用いるゼオライトに特に限定は無く、あらゆる公知のゼオライト、例えばA型ゼオライト、X型ゼオライトおよびY型ゼオライトなどを使用することができる。ゼオライトは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。耐酸性および入手のし易さから、ゼオライトは、好ましくはフォージャサイト型ゼオライト(即ち、X型ゼオライトおよびY型ゼオライト)であり、より好ましくはX型ゼオライトである。
【0019】
非晶質化のための酸は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。非晶質化のためには、有機酸および無機酸のいずれも使用することができる。また、酸としては、遊離酸だけでなく、塩も使用することができる。酸としては、無機酸が好ましく、硝酸、塩酸、硫酸およびリン酸がより好ましい。扱いやすさなどの観点から、硝酸がさらに好ましい。
【0020】
非晶質化のために用いる酸の好ましい濃度は、使用する酸の強さに応じて異なる。例えば、硝酸等の強酸を用いる場合、その濃度は、好ましくは0.05〜0.25mol/L程度、より好ましくは0.10〜0.20mol/L程度、さらに好ましくは0.10〜0.15mol/L程度である。
【0021】
非晶質化のための処理温度(即ち、ゼオライトおよび酸のスラリーの温度)および処理時間(即ち、ゼオライトと酸とを接触させる時間)は、使用する酸の種類および強さに応じて異なる。例えば、硝酸等の強酸を用いる場合、25℃程度の室温で30分程度の処理によって、本発明において好ましく用いることができる程度にゼオライトを非晶質化することができる。
【0022】
本発明の吸湿材は、1種または2種以上の金属を担持する部分非晶質化ゼオライトを含んでいてもよい。金属を担持させることによって、さらなる機能を付与することができる。担持させる金属としては特に限定は無く、例えば、銀、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、コバルト、パラジウムおよび白金などが挙げられる。これらの中で、抗菌性を付与するために、銀および銅が好ましい。金属を担持する部分非晶質化ゼオライトは、例えば、金属塩を含有する水溶液中に部分非晶質化ゼオライトを分散および撹拌させることによって、製造することができる。
【0023】
本発明の吸湿材は、部分非晶質化ゼオライトと他の吸湿材との混合物であってもよい。他の吸湿材としては、公知の吸湿材、例えばシリカゲルおよび結晶ゼオライトなどが挙げられる。他の吸湿材を使用する場合、その量は、部分非晶質化ゼオライト100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0024】
本発明の吸湿材は、部分非晶質化ゼオライト以外の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、造粒のための賦形剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の吸湿材中、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0025】
部分非晶質化ゼオライトの含有量は、本発明の吸湿材中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0026】
部分非晶質化ゼオライト、並びに必要に応じて他の吸湿材および添加剤を含む本発明の吸湿材は、粉末状であってもよく、また、これらを造粒した顆粒状であってもよい。
【0027】
本発明は、上記吸湿材を含む吸湿シートも提供する。本発明の吸湿シートとしては、例えば、接着剤などを用いて本発明の吸湿材をシート基材の表面に接着させたもの;熱溶融性のシート基材を溶融させて、その表面に本発明の吸湿材を融着させたもの;などが挙げられる。本発明の吸湿シートを製造するためのシート基材に特に限定は無く、あらゆる公知のシート基材を使用することができる。シート基材としては、例えば、紙、プラスチックシート、金属箔、織布、不織布、編物などが挙げられる。
【0028】
また、シート基材が紙である場合、上記のように接着剤などを用いて本発明の吸湿材を紙表面に接着させるだけでなく、例えば、本発明の吸湿材を混ぜ合わせたパルプまたは本発明の吸湿材が一体化されたパルプを用いて製紙することによって、本発明の吸湿シートを製造することもできる。ここで、本発明の吸湿材が一体化されたパルプとは、本発明の吸湿材である部分非晶質化ゼオライトが、パルプ繊維の表面だけでなく、パルプ繊維の内部にまで入り込んだパルプを意味する。
【0029】
また、シート基材が、織布、不織布または編物である場合、上記のように接着剤などを用いて本発明の吸湿材を織布等の表面に接着させるだけでなく、本発明の吸湿材が一体化されたステープルを用いて紡糸した繊維を用いて、本発明の吸湿シートを製造することができる。そのようなステープルとしては、例えば、木綿、絹、羊毛、ポリビニルアルコール、架橋型ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルホルマール等の天然または人工の親水性高分子、ポリアクリルアミド等の高吸水性高分子ゲルなどが挙げられる。
【0030】
本発明の吸湿シートに含まれる部分非晶質化ゼオライトの含有量は、吸湿シート中、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%、さらに好ましくは50〜70質量%である。
【0031】
本発明の吸湿シートは、空調システムに用いられるデシカントローターなどに好適に使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実施例1〜5および比較例1
(1)部分非晶質化ゼオライトの製造
X型ゼオライト(東ソー社製「F−9」)2gを、表1に示す濃度の硝酸100mLに加えてスラリーを調製し、そのスラリーを室温で30分間撹拌した後、スラリーからゼオライトを分取して水洗し、105℃で4時間乾燥して、部分非晶質化ゼオライトを製造した。なお、表1には、上記スラリーのpHおよび下記式(III)で算出される部分非晶質化ゼオライトの回収率も記載する。
部分非晶質化ゼオライトの回収率(%)
=100×(硝酸処理後に回収された部分非晶質化ゼオライトの乾燥質量(g))/2
・・・ (III)
【0034】
(2)部分非晶質化ゼオライトの結晶化度の測定
無処理のX型ゼオライト(東ソー社製「F−9」、以下「無処理ゼオライト」と略称することがある)および硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライトの粉末X線回折を、リガク社製の「RINT−2200」にて、X線管球にCuを用いて2θ=5〜40°の範囲をスキャンステップ:0.01°、スキャンスピード:4°/minの連続測定で測定した。この測定で得られた粉末X線回折のグラフを
図1に示す。
【0035】
無処理ゼオライトおよび硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライトのそれぞれについて、
図1に示すピークA、ピークB、ピークC、ピークDおよびピークEのX線回折強度(ピーク高さ)を求め、「結晶ゼオライトのピークA〜EのX線回折強度の合計」=「無処理ゼオライトのピークA〜EのX線回折強度の合計」として、上記式(I)によって部分非晶質化ゼオライトの結晶化度を算出した。なお、ピークA〜EのX線回折強度は、バックグラウンドを除去した値を使用した。無処理ゼオライトおよび硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライトのピークA〜EのX線回折強度、およびこれから算出した結晶化度を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
(3)吸湿能力の評価
無処理ゼオライトまたは硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト約1.2gを、60mmφの秤量瓶に入れ、(ア)温度:50℃および相対湿度(RH):約12%、または(イ)温度:70℃および相対湿度(RH):約8%の条件下で、12時間以上乾燥させた。このようにして得られた乾燥ゼオライトを温度:30℃および相対湿度(RH):60%に設定した恒温恒湿チャンバー内に入れた。恒温恒湿チャンバー内に入れてから経時的にゼオライトの質量変化を測定し、この質量変化から、各時点でのゼオライトの吸湿量(mg/g)(即ち、ゼオライト1gあたりの水分吸着量(mg))を算出した。結果を、表2並びに
図2および3に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2並びに
図2および3に示す結果から明らかなように、実施例1〜5の部分非晶質化ゼオライトは、比較例1の無処理ゼオライトに比べて吸湿量が高い。
【0040】
(4)再生温度の評価
無処理ゼオライトまたは硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト約12mgを温度:105℃で4時間乾燥させた後、温度:23℃および相対湿度(RH):50%の恒温恒湿空間内で24時間維持して水分を吸着させてサンプルを準備し、このサンプルを用いてTG−DTA(示差熱−熱重量同時測定)を行った。TG−DTAの条件は以下の通りである。
測定装置:リガク社製「TG8120」
雰囲気:大気
測定開始時の温度:室温(26〜28℃)
測定開始時の相対湿度(RH):40〜60%
測定温度範囲:室温(26〜28℃)から200℃まで
昇温速度:5℃/min
標準物質(アルミナ粉末)量:約14mg
【0041】
TG(熱重量測定)の結果を表3に、DTA(示差熱分析)の結果を
図4に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示すTGの結果から、実施例1〜5の部分非晶質化ゼオライトは、比較例1の無処理ゼオライトに比べて、室温から70℃までの重量減少率(即ち、水分脱着量)が大きいことが分かる。また、
図4に示すDTAのグラフに示されているように、実施例1〜5の部分非晶質化ゼオライトは、比較例1の無処理ゼオライトに比べて、水分の脱着に由来する吸熱ピーク(グラフでの下に凸のピーク)が低温側にシフトしていることが分かる。これらの結果から明らかなように、実施例1〜5の部分非晶質化ゼオライトは、比較例1の無処理ゼオライトに比べて再生温度が低い。
【0044】
実施例6および比較例2
(1)吸湿シートの製造
実施例2で得られた部分非晶質化ゼオライトを混ぜ合わせたパルプを用いて製紙することによって配合紙、即ち実施例6の吸湿シートを製造した。無処理ゼオライトを用いたこと以外は実施例6と同様にして、比較例2の吸湿シートも製造した。実施例6および比較例2の吸湿シートは、いずれも、配合紙全体の坪量が80g/m
2であり、配合紙中のゼオライト含有量が60質量%であった。
【0045】
(2)吸湿能力の評価
ゼオライト約1.2gの代わりに吸湿シート約1.8gを使用したこと以外は実施例1等と同様にして、吸湿シートの吸湿量(mg/g)(即ち、吸湿シート1gあたりの水分吸着量(mg))を算出した。結果を、表4並びに
図4および5に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表4並びに
図4および5に示す結果から明らかなように、実施例6の吸湿シートは、比較例2の吸湿シートよりも高い吸湿量を示す。
【0048】
(3)再生温度の評価
TG−DTAのサンプルとして、ゼオライト約12mgの代わりに吸湿シート約12mgを使用したこと以外は実施例1等と同様にして、水分を吸着させた吸湿シートのTG−DTA(示差熱−熱重量同時測定)を行った。TG(熱重量測定)の結果を表5に、DTA(示差熱分析)の結果を
図7に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5に示す室温から70℃までの重量減少率および
図7に示す吸熱ピークから、実施例6の吸着シートは、比較例2の吸着シートに比べて再生温度が低いことが分かる。
【符号の説明】
【0052】
1 無処理のX型ゼオライト(結晶化度100%)
2 硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト(結晶化度62.7%)
3 硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト(結晶化度33.7%)
4 硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト(結晶化度14.1%)
5 硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト(結晶化度7.8%)
6 硝酸処理で得られた部分非晶質化ゼオライト(結晶化度5.0%)
7 無処理のX型ゼオライト(結晶化度100%)を含有する吸湿シート
8 部分非晶質化ゼオライト(結晶化度33.7%)を含有する吸湿シート