(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754979
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/04 20060101AFI20150709BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
F01P7/04 P
F02D45/00 345E
F01P7/04 Q
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-37762(P2011-37762)
(22)【出願日】2011年2月24日
(65)【公開番号】特開2012-172636(P2012-172636A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 吉則
(72)【発明者】
【氏名】江原 達哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲明
【審査官】
川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−280561(JP,A)
【文献】
特開平04−304115(JP,A)
【文献】
特開平08−284663(JP,A)
【文献】
特開昭60−132020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/04
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータファンを備える車両に搭載された内燃機関の制御装置であって、
ラジエータファンが駆動しているときにラジエータファンを駆動するラジエータファンモータへ流れる電流又は電圧を測定し、
当該電流又は電圧の値がラジエータファンモータが正常である所定値よりも変動するときは、ラジエータファンモータが異常であると判断し、
異常と判断された際には、ラジエータファンモータに流れる電流値又は電圧値に応じて、内燃機関の出力を制限する退避走行を行うものであり、
現時点から所定時間前までの期間の電流値又は電圧値を参照し、当該期間の平均値から、内燃機関の出力を制限する量を決定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却水の温度を調整すべくラジエータファンを駆動するためのモータを制御する内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車には、内燃機関を冷却するための冷却水を冷却することにより内燃機関のオーバーヒートを回避するためのラジエータが設けられている。そしてこのラジエータによる冷却水の冷却を促すため、ラジエータの近傍にはラジエータを冷却するためのラジエータファン、並びにこのラジエータファンを駆動するためのラジエータファンモータが設けられている。
【0003】
そして近年ではバッテリ電圧の挙動を検出することによりラジエータファンを駆動するラジエータファンモータの故障診断を行う内燃機関の制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このものは、バッテリの挙動からラジエータファンモータの異常を検出すると運転者や整備者に報知・警告を行うことにより、ラジエータファンモータ異常時の修理が速やかに行なわれるよう促すものである。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のものは、バッテリファンモータの異常を報知・警告するのみである。そのため、当該異常を検知しても、運転者や整備者による修理が行なわれるまでは、バッテリファンモータが正常に動作しないことにより内燃機関のオーバーヒートを招来し易い状態が続いてしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−114147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したような点に着目したものであり、ラジエータファンモータの異常の検出に応じて、速やかに内燃機関のオーバーヒートを有効に回避する措置を行うことができる内燃機関の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち本発明に係る内燃機関の制御装置は、ラジエータファンを備える車両に搭載された内燃機関の制御装置であって、ラジエータファンが駆動しているときにラジエータファンを駆動するラジエータファンモータへ流れる電流又は電圧を測定し、当該電流又は電圧の値がラジエータファンモータが正常である所定値よりも変動するときは、ラジエータファンモータが異常であると判断し、異異常と判断された際には、ラジエータファンモータに流れる電流値又は電圧値に応じて、内燃機関の出力を制限する
退避走行を行うものであり、現時点から所定時間前までの期間の電流値又は電圧値を参照し、当該期間の平均値から、内燃機関の出力を制限する量を決定することを特徴とする。
【0009】
ここで、「内燃機関の出力を制限する」とは、例えば出力に所定の上限値を設ける態様や、常に内燃機関の出力を低く制限する態様など、内燃機関の温度の過度の上昇を防ぐように出力を調節する種々の態様を含むものである。
【0010】
このようなものであれば、異常と判断された際には、ラジエータファンモータに流れる電流値又は電圧値に応じて、内燃機関の出力を制限することによって内燃機関の温度が上がることを抑制するので、異常と判断されてから実際の修理等の処置を行うまでの運転によって招来する内燃機関のオーバーヒートを有効に回避することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ラジエータファンモータの異常の検出に応じて、速やかに内燃機関のオーバーヒートを有効に回避する措置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関を概略構成説明図。
【
図2】ラジエータファンモータに流れる電流の挙動をグラフとして示す図。
【
図3】同実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
内燃機関(以下、エンジンと記す)100は、自動車用の火花点火式のガソリンエンジンであり、複数の気筒を有する。
図1には、その1気筒の構成を代表して図示している。
【0015】
このエンジン100の吸気系1には、電子スロットルバルブ2が配設され、その下流側にはサージタンク3が設けられている。サージタンク3の下流には、燃料噴射弁4が取り付けられている。燃焼室5を形成するシリンダヘッド6には、吸気弁7及び排気弁8が配設されるとともに、火花を発生する点火プラグ9が装着されている。電子スロットルバルブ2、燃料噴射弁4、及び点火プラグ9は、電子制御装置10により制御される。電子スロットルバルブ2の開度は、通常、アクセルペダルの操作量(踏度)に応じて制御されるが、アイドリング時等、アクセルペダルの操作量とは無関係に制御されることもある。
【0016】
このエンジン100の排気系11には、図示しないマフラに至るまでの排気管路12に触媒である三元触媒13が配設され、排気ガス中の酸素濃度に応じた信号を電子制御装置10に出力するO
2センサ14が取り付けてある。
【0017】
またエンジン100は、シリンダヘッド6とシリンダブロックとの内部に設けられて冷却水が循環するウォータジャケット23を備えているとともに、ウォータジャケット23とラジエータ24とに冷却水を循環させるための図示しない電動式ウォータポンプを備えている。加えて、エンジン100は、冷却水の温度(冷却水温度)を検出する水温センサ19を備えている。
【0018】
そして本実施形態では、ラジエータ24の背面側に、ラジエータ24に放熱のための風を供給するラジエータファン25と、当該ラジエータファン25を回転駆動するラジエータファンモータ26と、当該ラジエータファンモータ26に流れる電流をモニタするための電流モニタ回路27とを配している。ラジエータファンモータ27の作動は、後述する電子制御装置10により制御される。このラジエータファンモータ27は、本実施形態では例えば直流ブラシモータを適用している。
【0019】
電子制御装置10は、CPU10a、RAM10b、ROM10c、フラッシュメモリ10d、I/Oインタフェース10e等を包有するマイクロコンピュータシステムである。I/Oインタフェース10eには、吸気系1を構成するサージタンク3内の圧力を検出する吸気圧センサ15から出力される吸気圧信号a、アイドル回転数を含むエンジン回転数を検出するための回転数センサ16から出力される回転数信号b、車速を検出するための車速センサ17から出力される車速信号c、電子スロットルバルブ2の開度状態を検出するためのスロットルセンサ18から出力される開度信号d、エンジン100の温度としてのエンジンの冷却水温を検知するための水温センサ19から出力される水温信号e、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ20から出力されるアクセル信号f、ブレーキの操作量を検出するブレーキセンサ21から出力されるブレーキ信号g、バッテリの電圧を検出する電圧計22から出力されるバッテリ電圧信号h、O
2センサ14からの信号i、ラジエータファンモータ26に設けられた電流モニタ回路27から出力されるモータ電流信号j等が入力される。また、I/Oインタフェース10eからは、電子スロットルバルブ2に対してその開閉を行うための開度制御信号pが、燃料噴射弁4に対して演算された燃料噴射時間に対応する開弁駆動信号qが、点火プラグ9に対して点火信号rが、それぞれ出力される。各種制御用のプログラムはROM10c又はフラッシュメモリ10dに格納されており、そのプログラムがRAM10bに読み込まれCPU10aによって解読される。電子制御装置10は、当該プログラムに従い、吸入空気量の制御、燃料噴射量の制御、点火時期の制御等を実施する。
【0020】
電子制御装置10は、本実施形態ではラジエータファンモータ26に設けられた電流モニタ回路27から出力されるモータ電流信号jからラジエータファンモータ26に流れる電流の挙動を把握する。そして当該電流の挙動によりラジエータファンモータ26に異常を来たしたと判断した場合には、後述するようにエンジン100の出力を制限するようにしている。
【0021】
ここで
図2に、ラジエータファンモータ26の各状態と電流値との関係を示す。同図に示すように、ラジエータファンモータ26が正常である場合には、電子制御装置10の制御によるスイッチON時には電流値が速やかに所定値となる。また、ラジエータファンモータ26が断線により作動しない場合には同図のように電流は流れない。
【0022】
しかして本実施形態のようにラジエータファンモータ26が直流ブラシモータである場合、例えば継続的な使用によるブラシ摩耗が生じると、所定値より低い電流値を呈し、且つ、電流値が変動することとなる。詳細に説明すると、ラジエータファンモータ26にブラシ摩耗が生じた場合、ブラシ摩耗の程度に応じて電流値が変動する値の領域が異なる。すなわち、ブラシ摩耗の程度が軽度である場合は電流値は所定値近傍の比較的高い値で変動し、ブラシ摩耗の程度が進む程、電流値は低い値で変動するようになる。勿論、ラジエータファンモータ26にブラシ摩耗が生じた場合の当該ラジエータファンモータ26の駆動力は上述した電流値に応じたものとなる。そのため、摩耗時は正常時に比べてラジエータ24を冷却する能力が低下する。そして摩耗が進むにつれて冷却能力は低下することとなる。
【0023】
以下、フローチャートである
図3を参照しつつ、エンジン100の動作中に電子制御装置10がラジエータファンモータの異常を検出するためのプログラムに従い実行する処理の手順を述べる。
【0024】
ステップS1では、運転中にエンジン100の冷却水の温度が上昇し、ラジエータファン25が作動しているか否かを判断する。
【0025】
ステップS2では、ラジエータファン25が作動していることが判断された後、電流モニタ回路27から出力されるモータ電流信号jによりラジエータファンモータ26に流れる電流値を検出する。
【0026】
ステップS3では、ステップS2にて検出した電流値が所定値を下回っているか否かを判定する。ここで所定値とは、例えばラジエータファンモータ26の動作が正常であるときに示される、予め記憶された値、或いは、ラジエータファンモータが正常ではなくなる時に下回る値として予め実験的に求められた閾値等が設定される。すなわち、ラジエータファンモータ26が正常である場合には、ステップS2において検出した電流値は所定値以上の値となるようにしている。
【0027】
ステップS4では、上記の電流値が所定値を下回った際に、電子制御装置10により図示しない運転席等に設けられたチェックランプを出力すなわち点灯させる動作を行う。これにより、運転者や整備者等がラジエータファンモータ26の異常を知り得る状態となる。
【0028】
ステップS5では、電流値の単位時間当たりの平均値を算出する。具体的には、現時点より所定期間前に至るまでの電流値の平均値を求めるようにしている。これは、ラジエータファンモータ26にブラシ摩耗が生じている場合、電流値は上記の通り変動していることによる。すなわち、後述のステップS6に際しての、エンジン100の出力の制限量を決定するための値は、変動している電流値の平均値を求めることにより行う。すなわち本実施形態では、ラジエータファン25作動中に、現時点から所定時間前までの期間の電流値履歴を参照し、当該期間の電流値(電力量)の平均値から出力の制限量を決定する故障モードとなるようにしている。
【0029】
ステップS6では、上記の平均値に応じてエンジン100の出力を制限する。具体的に本実施形態では、電子スロットルバルブ2の開度の上限値を決定することによりエンジン100の出力が一定以上上がらない故障モードとなるようにしている。そして当該故障モードにおける電子スロットルバルブ2の開度の上限値は、ROM10cやフラッシュメモリ10dの所定領域に格納した出力制限用マップを参照して決定される。当該マップには例えば、上記の電流値の平均値や、種々の運転状況に対応した電子スロットルバルブ2の開度の上限値がそれぞれ記憶されている。また本実施形態では斯かるエンジン100の出力制限は、当該プログラムの実行中にのみ実行される。つまり、ステップS1によるラジエータファン25作動時にのみ実行されるようにしている。なお、当該マップに記された電子スロットルバルブ2の開度の上限値は、電流値の平均値が高い値であった場合には高めに設定される一方、断線時を示す電流値がゼロのときには最も低い値に設定されるようにしている。
【0030】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係るエンジン100の電子制御装置10は、上記プログラムを実行することにより、ラジエータファンモータ26の異常時にはエンジン100の出力を制限することにより冷却水の上昇を有効に抑制することにより、オーバーヒートを有効に回避しながら自走可能な状態とすることで、ラジエータファンモータ26を修理等する為の退避走行を行うことができる。これにより、ラジエータファンモータ26の異常に起因する種々の不具合の招来を有効に回避することができる。
【0031】
また本実施形態では、ラジエータファンモータ26の異常の程度を電流値により判定し、当該電流値の平均値に応じてエンジン100の出力の制限する度合い、つまり電子スロットルバルブ2の開度の上限値を異ならせている。これにより、ラジエータファンモータ26に異常を来たしても、オーバーヒートを回避しながら、走行への支障も抑えた故障モードによる退避走行をとることができるものとなっている。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0033】
例えば、内燃機関の出力制限を行う際には、別途エアコン等の補機の作動をも制限するようにしてもよい。
【0034】
また上記実施形態では内燃機関としてガソリンエンジンを例示しているため、出力制限は電子スロットルバルブの開度を制限する態様を例示したが、勿論内燃機関の出力を制限する態様は、既存の種々の態様を適用することができる。一例としてディーゼルエンジンを内燃機関として本発明を適用する場合には、燃料噴射量を制限することによって出力を制限するようにすればよい。
【0035】
そして上記実施形態ではラジエータファンの作動時にのみ内燃機関の出力を制限する態様を開示したが勿論、一度故障モードとなるとラジエータファンの作動如何に拘わらず常に出力制限を実行するようにしても良い。
【0036】
加えて上記実施形態ではラジエータファンモータへ通電される電流値に基づいて判定を行ったが、バッテリ電圧の挙動も踏まえて判定を行う態様や、バッテリ電圧の挙動のみからラジエータファンモータの判定を行っても良い。また格納されるマップの具体的内容や電流値と内燃機関の出力制限との具体的な対応付けといった詳細な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0037】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は内燃機関の冷却水の温度を調整すべくラジエータファンを駆動するためのモータを制御する内燃機関の制御装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10…内燃機関の制御装置(電子制御装置)
25…ラジエータファン
26…ラジエータファンモータ
100…内燃機関(エンジン)