(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、「オートパイロット機能を備えた船舶で水中を曳航する曳航体の位置制御方法であって、前記オートパイロット機能で設定する方位の設定値を、前記曳航体から見た目標位置方向の方位と等しく設定して該曳航体を船舶で目標位置まで誘導する」(特許文献1参照)というものがある。
【0003】
このようなものにおいては、「操船者の経験や技量に頼ることなく、水中の曳航体を目標の位置まで正確に誘導制御することが容易に可能となり、省力化や人手不足の解消を図ることができる」(特許文献1参照)とされている。
【0004】
また、例えば、「船舶で曳航する曳航体の深度制御方法であって、前記曳航体の目標速度と目標深度とに基いて、該曳航体を曳航する設定ロープ長と設定船速とを操作して該曳航体が目標深度に位置するように制御する」(特許文献2参照)というものがある。
【0005】
このようなものにおいては、「操作で曳航体が目標深度に位置するように正確に制御することができ、安定した深度制御が可能となる」(特許文献2参照)とされている。
【0006】
また、例えば、海底地形を映像化する音波探査用の曳航体を曳航船により航路しつつ、海底と干渉の可能性があるときには、曳航体応答特性データベースを用いることにより、その曳航体の海底からの高度を制御するというものがある(特許文献3参照)。
【0007】
このようなものにおいては、「的確な判断基準に基づく調節動作が自動的に行われるので、曳航体操作員の労力が軽減され、衝突回避等安全性が向上すると共に、曳航体の高度及び姿勢が安定するため、良好な海底映像を得ることができる」(特許文献3参照)とされている。
【0008】
また、例えば、「姿勢計測手段を函体の内部に配設し、位置計測手段としてプリズムを函体からの水上への突出部材に配設するとともに前記プリズムを自動追尾するトータルステーションを地上に設置し、地切り検知手段を函体の下部に配設し、設置検知手段を函体の既設構造物との接合面と下部に配設し、曳航船に制御装置を設置して前記姿勢計測手段、位置検知手段のトータルステーション、地切り検知手段、設置検知手段からのデータ信号を前記制御装置に入力し、これらデータにより函体の姿勢、曳航方向、位置を制御する」(特許文献4参照)というものがある。
【0009】
このようなものにおいては、「姿勢計測手段、位置検知手段のトータルステーション、地切り検知手段、設置検知手段からのデータを信号として曳航船に設置の制御装置にリアルタイムで自動的に入力し、このデータに基づいて函体の姿勢、曳航方向、設置位置などを曳航船から総合的に制御でき、安全できめ細かく制御できる」(特許文献4参照)とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように従来例(特許文献1〜4)においては、曳航中にオートパイロットを使用することにより、操船を自動化していた。しかしながら、そのような場合には、曳航体の航路や曳船に対する相対位置が制御されているわけではなかった。
【0012】
例えば、曳船の航路を調整することにより、曳航体の航路や曳船に対する曳航体の相対位置が所定通りになることを期待しているだけであった。
【0013】
すなわち、パッシブな制御を行っているだけであり、波や潮流等の外乱の影響に対してアクティブに曳航体の制御を行うものではなかった。具体的には、外乱の影響により変化した曳航体の位置や速度を考慮して自船の制御が行われているわけではなかった。
【0014】
従って、従来例においては、波や潮流等の外乱の影響下で曳航体の航跡や速度をパッシブに制御する際、外乱の影響により航跡や速度に偏差が生じていた。そのため、正確に曳航体を制御することができなかった。
【0015】
また、曳船の変針時のような、いわゆる過渡状態における制御についても行うことができなかった。
【0016】
そのため、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮した曳航体の制御がなされていないという問題点があった。
【0017】
特に、波や潮流といった外乱条件下において、曳航体の航跡や速度を制御する際、あるいは、曳船及び曳航体の針路変更時における曳船の転舵に曳航体を追従させるような制御を行う際、従来のようなオープンループ的な制御では対応が難しい。そのため、その時点における曳航体の航路や速度の偏差に基づいて曳船の操船を行うフィードバック制御が必要とされていた。
【0018】
また、曳航操船の完全な自動化は現在のところ実用化されておらず、曳航操船の自動化の実現は求められており、また、曳船操船の省力化や曳航作業の安全向上というものが求められていた。
【0019】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮することができる曳航体の制御方法及びその装置、並びに曳航体の制御システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の曳航体の制御方法は、曳航索を介して曳船に曳航される曳航体の運動を制御する制御方法であって、前記曳航体から取得した前記曳航体の位置、前記曳航体から取得した前記曳航体の速度、及び前記曳船に対する操船指令に基づいて前記曳航体の応答運動モデルを同定する同定ステップと、前記同定ステップの同定結果の前記曳航体の応答運動モデルにより前記曳航体の制御ゲインを決定し、その決定した制御ゲイン及び前記曳航体の目標位置に対する偏差に基づいて前記曳船の制御指令を算出する制御ステップと、を備えたものである。
【0021】
本発明の曳航体の制御装置は、曳航索を介して曳船に曳航される曳航体の運動を制御する制御装置であって、前記曳航体から取得した前記曳航体の位置、前記曳航体から取得した前記曳航体の速度、及び前記曳船に対する操船指令に基づいて前記曳航体の応答運動モデルを同定する同定器と、前記同定器の同定結果の前記曳航体の応答運動モデルにより前記曳航体の制御ゲインを決定し、その決定した制御ゲイン及び前記曳航体の目標位置に対する偏差に基づいて前記曳船の制御指令を算出する制御器と、を備えたものである。
【0022】
本発明の曳航体の制御システムは、曳船と、曳航索を介して前記曳船に曳航される曳航体と、請求項4〜6の何れか一項に記載の制御装置と、を備えたことを特徴とする曳航体の制御システムであって、前記曳航体は、自らの前記曳航体の位置及び速度を前記制御装置に送信し、前記制御装置は、送信された前記曳航体の位置及び速度並びに前記曳船に対する操船指令に基づいて前記曳航体の応答運動モデルを同定する同定器と、前記同定器の同定結果の前記曳航体の応答運動モデルにより前記曳航体の制御ゲインを決定し、その決定した制御ゲイン及び前記曳航体の目標位置に対する偏差に基づいて前記曳船の制御指令を算出する制御器と、を備え、前記曳船は、前記制御装置により算出された自らの前記曳船の制御指令に基づいて位置を変化させ、それにより、前記曳航体の運動を制御する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の曳航体の制御方法は、曳航体の応答運動を曳船によりアクティブに制御することにより、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮することができ、それにより、曳船操船の省力化及び曳航作業の安全を向上させることができるという効果を有する。
【0024】
本発明の曳航体の制御装置は、曳航体の応答運動を曳船によりアクティブに制御することにより、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮することができ、それにより、曳船操船の省力化及び曳航作業の安全を向上させることができるという効果を有する。
【0025】
本発明の曳航体の制御システムは、曳航体の応答運動を曳船によりアクティブに制御することにより、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮することができ、それにより、曳船操船の省力化及び曳航作業の安全を向上させることができるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る曳航体の制御システムの実施の形態1を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における曳航体の制御システムを示すブロック図である。
図1に示される曳航体の制御装置は、操船指令に基づいて自船を制御することで曳航体を制御する。
【0029】
すなわち、この曳航体の制御装置は、1台の曳航体1及び1台の自船(以下、曳船と称する)2に対して、1台の制御装置3により位置の制御をするものである。なお、曳航体1と曳船2との台数は1台ずつに限定されるものではなく、制御装置3の台数も1台に限定されるものではない。
【0030】
また、ここでは、海上を運航する曳船2が、海上に浮かんでいて曳航する曳航体1を制御装置3の命令に基づいて制御することを想定しているがこれに限定されるものではない。例えば、海中を曳航する曳航体1を、海上を運航する曳船2が制御装置3の命令に基づいて制御する場合であっても良いことは言うまでもない。
【0031】
また、ここでは、曳船2が船であることを仮定しているがこれに限定されるものでもない。例えば、曳船2がヘリコプター等の空中を飛ぶような飛行体であってもよく、その場合において、そのような飛行体が制御装置3の命令に基づいて海上を曳航する曳航体1を制御するものであっても良い。このような飛行体としては、他に、飛行船、飛行機あるいはホバークラフト等であっても良く、遠隔操作可能なラジコンのような飛行体であっても良い。
【0032】
要するに、曳航体1が曳船2によって曳航されるというような状態であれば良く、曳航されるものが曳航するものによって制御されれば良いのである。
【0033】
なお、曳航体1としては、例えば、ゴムボート等が想定されるがこれに限定されるものではないことは言うまでもなく、要するに、曳船2によって曳航されていれば良いのである。
【0034】
また、曳船2としては、例えば、タグボート等が想定されるがこれに限定されるものではない。要するに、自ら駆動できれば良く、曳航体1を曳航できれば良いのである。
【0035】
また、曳船2と曳航体1とはワイヤロープ等の曳航索でつながれている。このとき、曳船2と曳航体1との距離は固定であっても良いし、適宜状況に応じて距離を変更させても良い。なお、曳航体1は呼び方によっては曳船2に対する被曳船というように、被曳船と称することもでき、曳航される物体ということで被曳航体と称することもできるが、この明細書及び特許請求の範囲では曳航体1として統一して説明することにする。
【0037】
制御装置3は、同定器10と、制御器11とを備えている。同定器10は、曳航体1の運動信号及び曳船2に対する操船指令値信号に基づいて、操船指令に対する曳航体応答運動モデルを同定する。制御器11は、同定器10により得られた曳航体応答運動モデル及び曳航体1の運動信号に基づいて制御ゲインを決定する。そして、決定された制御ゲインを使用して、曳航体運動と目標との偏差から操船指令値を決定する。そして、その操船指令値に基づいて曳船2を制御することにより、曳航体1の応答運動を曳船2によってアクティブに制御することができる。そのため、外乱の影響による曳航体1の位置や速度の偏差を考慮することができる。その結果、航跡や速度の制御性能を向上させることができ、また、変針や外乱によって生じた過渡状態における制御も実現することができるのである。
【0038】
具体的には、同定器10には、曳航体1の運動信号として、曳航体1の位置や速度等が入力される。また、同定器10には、曳船2に対する操船指令値信号として、曳船2の操舵角等が入力される。そして、これらの入力パラメータに基づいて同定がなされた結果、例えば、数学モデルである自己回帰モデルを得る。そして、その自己回帰モデルを用いることにより、制御器11が、制御ゲインを決定し、その決定された制御ゲインを用いて曳船2の制御を行う。
【0039】
ここで自己回帰モデルの一例を次式に示す。
【数1】
【0040】
上式(1)は自己回帰モデルである。具体的には、X(k)は時点kにおける曳航体1の位置や速度等からなる状態ベクトルであり、Y(k)は曳船2の操舵角等の入力ベクトルであり、ε(k)は誤差ベクトルである。操船指令を出す対象である曳船2等の物理状態等に基づいてMとNを予め与えておき、その状態ベクトルとその入力ベクトルを入力により同定器10が同定処理を行うと、A(m)とB(n)が同定器10で決定される係数行列となる。このような係数行列の決定には既存の各種同定理論を用いれば良い。そして、係数行列が同定により求まると、上式(1)に示す自己回帰モデルである数学モデルが求まるのである。そして、求まった数学モデルを用いることにより、制御器11は、例えば、最適制御等の制御理論に基づいて制御ゲインを求め、それに基づいて操船指令値信号を求めるのである。そして、制御器11は、求めた操船指令値信号に基づいて曳船2を制御する。なお、ここでいう数学モデルは曳航体の応答運動モデルのことであり、また、係数行列はモデル係数であり、誤差ベクトルはモデル誤差である。
【0041】
換言すれば、曳航体の応答運動モデルは、過去の曳航体1の位置及び速度等の時系列と、過去から現在までの曳船2の操舵角等の時系列と、同定したモデル係数と、モデル誤差とを用いることにより、現在の曳航体1の位置及び速度を表現したものである。
【0042】
すなわち、モデル誤差は次のように説明できる。
【0043】
まず、モデル係数は、過去の曳航体1の位置及び速度等の時系列と、過去から現在までの曳船2の操舵角等の時系列とを使うことで同定される。
【0044】
そして、同定したモデル係数を用いて現在の曳航体1の位置及び速度を算出した値と、実際の現在の曳航体1の位置及び速度の値との間には誤差が含まれている。その誤差がモデル誤差である。
【0045】
なお、自己回帰モデルとしては、上記に限定されるものではなく、さまざまな回帰モデルが適用可能であることは言うまでもないことである。
【0046】
また、同定器10は、係数行列、状態ベクトル、及び入力ベクトルから誤差ベクトルε(k)を算出する。そして、実施の形態3で後述するように外乱推定値を利用して曳船2を制御する場合には、この誤差ベクトルε(k)を外乱推定値とみなしてフィードフォワード制御するのである。
【0047】
なお、ここでは、制御装置3は曳船2に搭載されることを想定しているがこれに限定されるものではない。要するに、制御装置3が、上記で説明したような、所定の入力に基づいて所定の演算をして、その演算結果に基づいて曳船2を操船し、その結果、曳航体1も制御できることになるようにすれば良い。そのため、本実施の形態1はこれに限定されるものではない。例えば、曳船2から遠く離れたところに制御装置3を設置し、その離れた場所から所定の入力を得て、そして所定の演算をして、その演算結果に基づいて、遠隔操作によって曳船2を操船しても良いのである。
【0048】
なお、制御装置3の各機能をハードウェアで実現するか、ソフトウェアで実現するかは問わない。つまり、本実施の形態1の各ブロック図は、ハードウェアのブロック図と考えても、ソフトウェアによる機能ブロック図と考えても良い。
【0049】
ここで、上記で説明した曳航体1の制御装置について動作の観点から説明する。
【0050】
曳航体1の制御装置は、曳航体1の航路や速度が所定の航路や速度となるような曳船2の操船を自動で行うものである。
【0051】
(ステップ1)
まず、曳航体1は、自らの曳航体1の位置及び速度等の運動情報を曳船2の制御装置3に送信する。
【0052】
(ステップ2)
次に、制御装置3の制御器11は、外部から入力された曳船2の移動先の目標値と送信された曳航体1の位置及び速度等の運動情報に基づいて操船指令を生成する。
【0053】
(ステップ3)
次に、制御装置3の同定器10は、送信された曳航体1の位置及び速度等の運動情報と生成された操船指令に基づいて曳航体の応答運動モデルを同定する。
【0054】
(ステップ4)
次に、制御装置3の制御器11は、同定された曳航体応答運動モデルに基づいて制御ゲインを決定する。
【0055】
(ステップ5)
次に、制御装置3の制御器11は、決定した制御ゲインを使用して、曳航体運動と移動先の目標値との偏差から操船指令を決定する。
【0056】
(ステップ6)
次に、制御装置3の制御器11は、決定した操船指令を曳船2に送信する。
【0057】
(ステップ7)
次に、曳船2は、送信された操船指令に基づいて曳航体1を曳航する。
【0058】
このような一連の動作により、外乱の影響による曳航体1の位置や速度の偏差を考慮することができる。それにより、曳船操船の省力化及び曳航作業の安全を向上させることができる。
【0059】
なお、このような一連の動作は一定間隔でなされるものであり、目的に応じてその間隔を大きくしたり小さくしたりすれば良い。
【0060】
また、上記で説明したステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0061】
なお、制御装置3は、過去の曳航体1の位置及び速度等の運動情報より、一定時間後の曳航体1の位置及び速度等を推定し、それらが所定の航路や速度となるように曳船2の操船を行うようにしても良い。
【0062】
また、制御装置3は、過去の曳船2の操船情報と曳航体1の位置及び速度等の運動情報により、曳船2の操船に対する曳航体1の操船運動応答特性を推定し、その推定結果に基づいて、曳航体1を所定の航路や速度等に維持するような曳船2の操船制御を決定するようにしても良い。
【0063】
このとき、推定方法としてはさまざまな推定方法が適用されるようにしても良い。例えば、過去の操船情報や運動情報等を時系列データとして格納しておき、その時系列データから将来の動向を推定するようにしても良い。
【0064】
また、そのような時系列データをいわゆる教師データとして学習させるようにして、その学習に基づいて将来の動向を推定するようにしてもよい。
【0065】
また、そのような時系列データ等に基づいてファジィ制御を行うようにしてもよい。
【0066】
また、推定する場合においては、過去の情報等から試行錯誤的に将来を推定できるようにしても良い。
【0067】
また、曳航体1の位置の求め方については、例えば、水上であればGPS(Global Positioning System)により求めれば良く、水中であればソナーにより求めれば良いがこれらに限定されるものではない。
【0068】
また、水中を曳航する曳航体1であれば、曳航体1のトリム(前後方向の傾き)等もパラメータとして考慮しても良い。
【0069】
また、曳航体1の水平方向だけでなく、深度も考慮しても良い。要するに、2次元状での制御であるか、3次元状での制御であるかは問わない。目的に応じて適宜制御すれば良いのであり、曳航体1の動きを考慮して、制御ゲインを補正して現状を反映させた曳航体1の制御が行えれば良いのである。
【0070】
また、実施の形態1においては、いわゆる運動方程式を数学モデルで表したがこれに限定されるものではない。例えば、物理モデルで表したものであっても良い。この場合においては、非線形の演算を考慮して行えば良い。そのような場合は、物理モデルが曳航体の応答運動モデルとなる。
【0071】
このような構成により、実施の形態1においては、曳航体1に対する潮流等の外乱による位置偏差を抑えた安定した曳航体1の曳航を実現することができる。
【0072】
また、このような構成により、実施の形態1においては、曳船2の変針時等における曳航体運動の変動を抑え、変針終了後に速やかに安定して曳航体1が曳航状態に戻ることができる。
【0073】
要するに、曳航体の応答運動を曳船2によりアクティブに制御することにより、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮することができる。そのため、曳船操船の省力化及び曳航作業の安全を向上させることができる。
【0074】
実施の形態2.
図2は、本発明の実施の形態2における曳航体の制御システムを示すブロック図である。実施の形態1との相違点は、実施の形態1では、曳船2の位置が曳航体1の位置等の偏差に対するフィードバック制御により制御されるのに対し、実施の形態2では、曳船2の位置と曳航体1の位置との両方の位置が同時に制御されるものである。
【0075】
なお、本実施の形態2において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0076】
次に相違点について具体的に説明する。
【0077】
制御器11は、上記で説明した処理を経た後、例えば、最適制御等の制御理論に基づいて制御ゲインを求め、それに基づいて操船指令値信号を求める。そして、求めた操船指令値信号に基づいて曳船2を制御する。このとき同時に、制御器11は曳航体1に対しても制御するようにする。例えば、操船指令値信号に基づいて曳船2を制御させ、ワイヤロープで固定されている曳航体1がその曳船2の動きに追従するようにして位置を変更するだけではなく、ワイヤロープで接続されている曳船2と曳航体1との距離を変更することにより曳航体1を制御する。
【0078】
このようにすることで、外乱の影響による曳航体の位置や速度の偏差を考慮して、曳船2の位置と曳航体1の位置とを同時に制御することができる。
【0079】
このような構成により、実施の形態2においても、曳航体1に対する潮流等の外乱による位置偏差を抑えた安定した曳航体1の曳航を実現することができる。
【0080】
また、このような構成により、実施の形態2においても、曳船2の変針時等における曳航体運動の変動を抑え、変針終了後に速やかに安定して曳航体1が曳航状態に戻ることができる。
【0081】
また、このような構成により、直接的な制御対象として曳航体1も追加されたので、より正確に、曳航体1に対する潮流等の外乱による位置偏差を抑えた安定した曳航体1の曳航を実現することができる。
【0082】
なお、制御装置3の各機能をハードウェアで実現するか、ソフトウェアで実現するかは問わない。つまり、本実施の形態2の各ブロック図は、ハードウェアのブロック図と考えても、ソフトウェアによる機能ブロック図と考えても良い。
【0083】
実施の形態3.
図3は、本発明の実施の形態3における曳航体の制御システムを示すブロック図である。実施の形態1及び実施の形態2との相違点は、実施の形態1では、曳船2の位置が曳航体1の位置等の偏差に対するフィードバック制御により制御され、実施の形態2では、曳船2の位置と曳航体1の位置との両方の位置が同時に制御されるのに対し、実施の形態3では、曳航体1の位置等の偏差に対するフィードバック制御と、推定した外乱データを用いたフィードフォワード制御とを組み合わせて曳航体1の位置が制御されるものである。なお、
図3に示すF.F.はフィードフォワード制御を意味するものとする。
【0084】
なお、本実施の形態3において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0085】
次に相違点について具体的に説明する。
【0086】
同定器10は、上記で説明したように、係数行列、状態ベクトル、及び入力ベクトルから誤差ベクトルε(k)を算出する。そこで、実施の形態3では、この誤差ベクトルε(k)を外乱推定値とみなしてフィードフォワード制御12するのである。
【0087】
具体的には、外乱による位置偏差を抑制する際、上記で説明したモデル誤差が含まれる。そこで、そのようなモデル誤差を未知量の部分の外乱とみなし、フィードフォワード制御する。このようにすることで、そのような未知量の部分の外乱をも考慮して、曳船2を制御することができるのである。それにより、未知量の部分の外乱がある場合であっても、曳航体1を制御することができる。このように、曳航体1の位置等の偏差に対するフィードバック制御と、指定した外乱データを用いたフィードフォワード制御12とを組み合わせることにより、フィードバック制御で外乱の影響を後追いで制御する場合であっても、推定値を基にフィードフォワード制御12をすることができるので、より安定して曳航体1の曳航を実現することができる。
【0088】
このような構成により、実施の形態3においても、曳航体1に対する潮流等の外乱による位置偏差を抑えた安定した曳航体1の曳航を実現することができる。
【0089】
また、このような構成により、実施の形態3においても、曳船2の変針時等における曳航体運動の変動を抑え、変針終了後に速やかに安定して曳航体1が曳航状態に戻ることができる。
【0090】
また、このような構成により、合わせきれない誤差を未知量の部分の外乱とみなし、フィードフォワード制御をすることができるので、より正確に、曳航体1に対する潮流等の外乱による位置偏差を抑えた安定した曳航体1の曳航を実現することができる。
【0091】
なお、制御装置3の各機能をハードウェアで実現するか、ソフトウェアで実現するかは問わない。つまり、本実施の形態3の各ブロック図は、ハードウェアのブロック図と考えても、ソフトウェアによる機能ブロック図と考えても良い。