(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のプロジェクター型前照灯は、灯具光軸に直交する水平線よりも上に光を照射しないから、車両前方の上の看板や標識を照明することができない。特に自動二輪車の場合、コーナリング時に自動二輪車が左又は右に傾くので、従来のプロジェクター型前照灯によって形成されるカットオフラインが水平線に対して斜めになる。そのため、進行方向がプロジェクター前照灯によって照明されない。進行方向を照明するべく、追加のランプユニットを利用する技術もあるが(例えば、特許文献1参照)、追加のランプユニットの分だけコストが嵩んでしまう。
また、従来のプロジェクター型前照灯では、フィラメントから下方に向かう光が楕円面系リフレクターによって前方に反射されても、その光の殆どがシャッターによって遮光されるから、光の利用効率が悪かった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、光の利用効率の向上を図るとともに、灯具光軸に直交する水平線よりも上を照明することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明に係る車両用前照灯は、
発光源を有したバルブと、
前記バルブの左右両側から前記バルブの上側を囲うように設けられ、前記発光源から発した光を前方に反射する第一反射面と、
前記バルブの前方に配置され、前記第一反射面によって反射された光を前方に投影する投影レンズと、
前記バルブの下側を囲うように設けられ、前後に延びた母線を有したシリンドリカル型凹面状に形成され、前記発光源から発した光を前記第一反射面に向けて上方に反射する第二反射面と、
前記投影レンズの後ろ側焦点の下方に設けられ、前下がりに湾曲した凸面状に形成された第三反射面と、
前記投影レンズと前記バルブの間において前記第三反射面から上に離れて配置され、前記投影レンズの後ろ側焦点又はその近傍に上縁を有するシャッターと、を備え、
前記第一反射面が、前記第二反射面によって反射された光を前記第三反射面に向けて反射し、
前記第三反射面が、前記第二反射面及び前記第一反射面によって反射された光を前記投影レンズに向けて前方に反射し、
前記投影レンズが、前記第三反射面によって反射された光を灯具光軸に直交する水平線よりも上に投影することを特徴とする。
【0007】
好ましくは、前記シャッターが後ろ上がりに傾斜している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バルブの発光源から下方に向かう光が第二反射面、第一反射面、第三反射面によって順に反射され、その反射光が投影レンズによって灯具光軸に直交する水平線よりも上に投影するから、車両前方の上領域が照明される。
バルブの発光源から下方に向かう光が車両前方の上領域の照明に有効利用され、光利用率が向上する。
第三反射面が投影レンズの後ろ側焦点の下方に設けられているので、車両前方の上領域に照射される光は広がりのある光となり、対向車の運転手を眩惑しない。
この車両用前照灯によって車両前方の上領域が照明されるから、他の追加ランプを必要とせず、コストアップを招かない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0011】
以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、それぞれ、車両用前照灯が装備された車両の「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」である。従って、車両の後ろから前に向かって見て(いわゆる運転手の視点で見て)、「左」、「右」を定める。
【0012】
図1は、車両用前照灯1の光軸Axを通って水平面に対して直交する鉛直面に沿った断面図である。
図2は、
図1に示されたII−IIに沿った切断面を矢印方向に見て示した端面図である。
図3は、
図1に示されたIII−IIIに沿った切断面を矢印方向に見て示した端面図である。
図2及び
図3に示す端面は、車両用前照灯1の光軸Axに直交する。
【0013】
この車両用前照灯1は、プロジェクター型の前照灯であって、特に自動二輪車の前面に取り付けられるものである。また、この車両用前照灯1は車両の前方にすれ違いビーム用の配光を形成するものであり、走行ビーム用配光を形成する灯具とこの車両用前照灯1を組み合わせて用いることで、走行ビーム用配光とすれ違いビーム用配光の切換を行う。
【0014】
この車両用前照灯1は、第一リフレクター10、第二リフレクター20、第三リフレクター30、立壁40、バルブ50、投影レンズ60、レンズホルダー70及びシャッター80等を備える。
【0015】
リフレクター10,20,30及び立壁40が一体成型されて、リフレクター10,20,30及び立壁40からなる一体成型品が構成されている。
【0016】
第一リフレクター10は、バルブ50の左右両側からバルブ50の上側を囲うように半ドーム状に設けられているとともに、前方に向けて開口している。第一リフレクター10は楕円面型のリフレクターであり、楕円面型凹面状に形成された第一反射面11が第一リフレクター10の前側内面に形成されている。第一反射面11は、前後方向に延びた光軸Axを回転軸とした回転楕円面若しくはその回転楕円面を上下につぶした扁平楕円面又はこれらを基調とした自由曲面である。例えば、第一反射面11は、光軸Axを回転軸とした回転楕円面を基調とした自由曲面であって、その離心率が鉛直断面から水平断面に向かって徐々に大きくなるように形成されている。
【0017】
第一反射面11が楕円面型凹面状に形成されているので、第一反射面11の後部頂点よりも前方に第一焦点F1が設定され、その第一焦点F1の前方に第二焦点F2が設定され、第一焦点F1及び第二焦点F2を通る光軸が設定される。第一反射面11の光軸は、車両用前照灯1の光軸Axに一致する。
【0018】
第一リフレクター10には、バルブ50が装着されている。バルブ50はガラス管51及び発光源52等を有し、発光源52が筒状のガラス管51内に封入されている。発光源52はフィラメント又は放電部である。第一リフレクター10の後部頂点部分には装着孔12が前後に貫通するように形成され、バルブ50のガラス管51が第一リフレクター10の後ろから装着孔12に差し込まれ、そのガラス管51が第一リフレクター10の内側にまで突き出ているとともに前後方向に延在している。ガラス管51の中心線が光軸Axに平行であり、好ましくは光軸Axに一致する。バルブ50の発光源52が第一反射面11の第一焦点F1又はその近傍に配置されている。
【0019】
第一反射面11は、バルブ50の発光源52から発した光を前方に反射する。バルブ50の発光源52が第一反射面11の第一焦点F1又はその近傍に配置されているから、バルブ50の発光源52から発して第一反射面11によって反射された光が第二焦点F2に集光される。
【0020】
第一リフレクター10の前端部には、立壁40が連結されている。立壁40は、第一リフレクター10の前端部から前に延びている。立壁40は、バルブ50の前の領域の上側を囲うように半筒状に設けられている。
【0021】
第一リフレクター10の下端部には、第二リフレクター20が連結されている。第二リフレクター20は、バルブ50の下側を囲うように半筒状に設けられている。第二リフレクター20はシリンドリカル型のリフレクターであり、第二反射面21が第二リフレクター20の上側内面に形成されている。第二反射面21は、光軸Axに平行な母線を有したシリンドリカル型凹面状に形成されている。具体的には、第二反射面21は、バルブ50の上方に中心を有した円弧を基調とした自由曲線を光軸Ax方向に平行移動して得られた自由曲面である。
図1に示すように、第二リフレクター20及び第二反射面21が占める前後範囲は、ガラス管51の基端部からガラス管51の先端部にかけてである。
【0022】
ガラス管51の表面が面光源であって、その表面の各点から光が発するものと見立てて、第二反射面21がガラス管51の表面を基準として光学設計されている。従って、第二反射面21は、ガラス管51の表面から発した光を上方の第一反射面11に向けて反射し、その反射光をコリメートする。
【0023】
立壁40の左右両側下端部及び第二リフレクター20の前端部には、第三リフレクター30が連結されている。第三リフレクター30は、第二リフレクター20の前端部から前方に延びて、前下がりに湾曲している。第三リフレクター30は、ガラス管51の前の領域の下側に設けられている。第三リフレクター30は凸面型のリフレクターであり、前下がりに湾曲した凸面型の第三反射面31が第三リフレクター30の上面に形成されている。具体的には、第三反射面31は、バルブ50及び第二反射面21の下方に中心を有した円弧を基調とした自由曲線を、第二リフレクター20の前端部から前に延びて下に曲がった曲線に沿って平行移動して得られる自由曲面状に形成されている。
【0024】
バルブ50、リフレクター10,20,30及び立壁40の前方には、投影レンズ60が配置されている。投影レンズ60がレンズホルダー70の内側に取り付けられ、そのレンズホルダー70が立壁40の前端部に取り付けられている。投影レンズ60は凸レンズである。投影レンズ60は、後ろ側焦点F3を有するとともに、後ろ側焦点F3を通って前後に延びる光軸を有する。投影レンズ60の光軸は、灯具としての光軸Axに略一致する。投影レンズ60の後ろ側焦点F3は、第一反射面11の第二焦点F2又はその近傍に位置している。
【0025】
投影レンズ60とバルブ50との間には、シャッター80が配置されている。シャッター80は例えば立壁40に固定されている。シャッター80は左右に延びた帯板状に設けられ、シャッター80の左右両端部が例えば立壁40に固定されている。シャッター80は、前下がり・後ろ上がりに傾斜している。シャッター80は、第三反射面31から上に離れて配置されているとともに、光軸Axの下に配置されている。シャッター80が第三反射面31から離れているから、シャッター80の下縁82と第三反射面31の間には隙間83が形成されている。シャッター80は、左右方向に延びて略水平な上縁81を有する。シャッター80の上縁81が焦点F2,F3又はその近傍に位置している。
【0026】
続いて、バルブ50の発光源52から発した光の進行について説明する。
バルブ50の発光源52が点灯すると、発光源52から上に向かう光が第一反射面11によって前方に反射され、その反射光が第一反射面11によって焦点F2,F3又はそれらの近傍に集光される。第一反射面11によって反射された光の一部がシャッター80の上縁81の上を前へ通過し、その光が投影レンズ60によって前方に投影される。また、第一反射面11によって反射された光の一部がシャッター80によって遮光される。
【0027】
一方、第二反射面21がシリンドリカル型凹面であるから、発光源52から下に向かう光が第二反射面21によって上方に反射される。第二反射面21によって反射された光が第一反射面11に向かい、その光が第一反射面11によって焦点F2,F3の下方に向けて反射される。シャッター80が後ろ上がりに傾斜しているから、第一反射面11から第三反射面31に向かう光がシャッター80によって遮光されづらい。第一反射面11から第三反射面31に向かう光が第三反射面31によって前方に反射され、その反射光が投影レンズ60によって前方に投影される。シャッター80が第三反射面31から上に離れて配置されているため、第一反射面11から第三反射面31に向かう光や、第三反射面31から投影レンズ60に向かう光はシャッター80によって殆ど遮光されない。
【0028】
図4を参照して、車両用前照灯1の配光特性について説明する。
図4は、車両用前照灯1から前方に所定距離離れて車両に正対する仮想スクリーンに形成される配光パターンを示したものである。
図4では、自動二輪車が直立した場合に、車両用前照灯1の光軸Axを通る水平面と仮想スクリーンの交線がH−H線として示され、光軸Axを通る鉛直面と仮想スクリーンの交線がV−V線として示され、H−H線とV−V線の交点が車両用前照灯1の光軸Axと仮想スクリーンの交点である。光軸Axは、H−H線及びV−V線に対して直交する。
【0029】
発光源52から第一反射面11に向かう光が第一反射面11によって反射されると、その反射光の一部が焦点F2,F3近傍でシャッター80によって遮光されるから、
図4に示すように、第一反射面11によって反射されて投影レンズ60によって投影される光はH−H線よりも下に照射され、明部B1が車両前方の仮想スクリーンのH−H線の下に形成される。また、後ろから見たシャッター80の上縁81の像が投影レンズ60によって上下左右に反転して前方に投影されるから、その反転像が明部B1とそれよりも上の暗部を区切る明暗境界線(カットオフライン)L1として仮想スクリーンに形成される。シャッター80の上縁81が焦点F2,F3又はそれの近傍に位置した水平な面であるから、明暗境界線L1がH−H線に沿った直線となる。
【0030】
第三反射面31によって反射されて投影レンズ60によって投影される光は主にH−H線よりも上に照射され、明部B2が仮想スクリーンのH−H線の上に形成される。第三反射面31が焦点F2,F3から離れていて、第三反射面31によって反射された光が焦点F2,F3近傍を通過しないから、明部B2の範囲が明部B1の範囲よりも広くなり、明部B2が明部B1程明るくない。また、第三反射面31が凸面であるから、明部B2の範囲が広くなって、明部B2が明るすぎることもない。
【0031】
以上の実施の形態によれば、以下のような効果を奏する。
(1) 自動二輪車が直立していれば、明部B2がH−H線の上に形成されるから、自動二輪車の前方上の看板や標識等を照明することができる。
(2) 自動二輪車がコーナリングして左右に傾いていれば、明部B2によって進行方向の路面を照明することができる。よって、進行方向の視認性が向上し、安全な走行に貢献することができる。
(3) 明部B2が広い範囲であり、明部B2がそれほど明るくないので、対向車の運転手が明部B2によって眩惑されない。
(4) 一つのバルブ50によって明部B1と明部B2を自動二輪車前方に形成することができるから、追加のランプユニットを必要としない。そのため、コストアップを招かない。
(5) バルブ50から下に向かう光を有効利用して、明部B2が形成されるので、光利用効率が向上する。
(6) バルブ50のガラス管51の表面が面光源であると見立てて、第二反射面21が光学設計されて、その形状がシリンドリカル状凹面となっている。そのため、発光源52から発した光がガラス管51内部で内面反射して、その光がガラス管51の表面から発したとしても、その光を明部B2の形成に利用することができる。
【0032】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、幾つかの変形例を挙げる。以下に挙げる変形例は可能な限り組み合わせてもよい。
【0033】
〔変形例1〕
図5に示すように、第三反射面31によって反射されて投影レンズ60によって投影される光がH−H線の上であってV−V線の右に照射されるとともに、H−H線の上であってV−V線の左に照射されてもよい。例えば、投影レンズ60の前面にレンズカットを形成したり、第三反射面31の形状を変更したりすることによって、明部B3,B4が形成される。
【0034】
〔変形例2〕
シャッター80の上縁81が水平な面ではなく、シャッター80の上縁81のうち光軸Axよりも右側の部分と光軸Axよりも左側の部分が段差となっていてもよい。そうすれば、カットオフラインも左右で段違いとなる。
【0035】
〔変形例3〕
シャッター80が立壁40等に固定されているのではなく、シャッター80がアクチュエータによって上述した位置から前や後ろに倒れたり、上述した位置から下に移動したりするものとしてもよい。シャッター80がアクチュエータによって上述の位置に移動させられると、すれ違いビーム用の配光が形成され、シャッター80がアクチュエータによって上述の位置から退避させられると、走行ビーム用の配光が形成される。
【0036】
〔変形例4〕
車両用前照灯1が自動四輪車用であってもよい。