特許第5755212号(P5755212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755212
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】ダイカスト用金型及びダイカスト法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/22 20060101AFI20150709BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B22D17/22 D
   B22D17/22 Q
   B22C9/06 B
   B22C9/06 Q
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-251988(P2012-251988)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-100712(P2014-100712A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2013年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(74)【代理人】
【識別番号】100114720
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】大本 剛士
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−167751(JP,A)
【文献】 特開平01−306062(JP,A)
【文献】 特開2009−090444(JP,A)
【文献】 特許第3657600(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00−17/32
B22C 5/00− 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ダイスを備える固定型と、
可動ダイスを備え、前記固定型に対して進退可能な可動型と、
を有し、
前記固定ダイスと前記可動ダイスとによってキャビティが画成されるダイカスト用金型において、
前記固定ダイス及び前記可動ダイスの少なくとも一方は、
母材を形成するとともに溝穴形状が形成された外郭形成用鋼と、
前記キャビティを画成する成形面の近傍内部に設置される第一の銅又は銅合金と、
前記第一の銅又は銅合金の位置から反成形面側に向けて延びて形成される第二の銅又は銅合金と、
前記外郭形成用鋼に形成された溝穴形状に埋め込むための埋込用鋼と、
を含んで構成されており、
前記外郭形成用鋼、前記第一の銅又は銅合金前記第二の銅又は銅合金、及び前記埋込用鋼は、それぞれ別部材として形成され
前記第一の銅又は銅合金は、前記外郭形成用鋼に形成された溝穴形状に埋め込まれるとともに、当該第一の銅又は銅合金を取り囲む溝穴形状の残りの領域が、前記第二の銅又は銅合金、及び前記埋込用鋼によって隙間なく取り囲まれることを特徴とするダイカスト用金型。
【請求項2】
請求項1に記載のダイカスト用金型において、
前記第二の銅又は銅合金と接続する第三の銅又は銅合金を備え、
前記第三の銅又は銅合金は、冷却媒体と接するように構成されていることを特徴とするダイカスト用金型。
【請求項3】
請求項1に記載のダイカスト用金型において、
前記第二の銅又は銅合金は、冷却媒体と接するように構成されていることを特徴とするダイカスト用金型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイカスト用金型を用いてダイカストを行うことを特徴とするダイカスト法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用金型と、このダイカスト用金型を使用したダイカスト法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカストに用いられる金型として、従来から、固定型と、この固定型に対して進退可能な可動型とを有し、固定型と可動型とによってキャビティが画成されるものが知られている。この種のダイカスト用金型は、例えば、車両等の空調装置の冷媒を圧縮するスクロール型の圧縮機に用いられる圧縮機用スクロールを製造するために用いることが可能である(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
そして、このような圧縮機用スクロール製造用金型においては、温度上昇を防止して金型の長寿命化を図るために、内部に冷却路が形成されたものが提案されている。例えば、従来の圧縮機用スクロール製造用金型101では、図9及び図10に示すように、金型本体102の基端側端面102bにて開口して圧縮機用スクロールの端板部の形状に相当する端板部キャビティ103aと、端板部キャビティ103aに連通して先端側に設けられ、圧縮機用スクロールの渦巻き形羽根部の形状に相当する羽根部キャビティ103bとからなるキャビティ103が形成されている。なお、図9及び図10では、成形品を基準として見た場合の方向として「基端側」及び「先端側」の用語が用いられている。そして、図9は、従来の圧縮機用スクロール製造用金型101の平面図であり、図10は、図9のX−X線矢視方向における断面図である。
【0004】
そして、金型本体102の先端側端面102aから基端側に向かって直線状の冷却路104が数箇所に形成されている。また、図10に示すように、各冷却路104内に挿入された配管109の先端から冷却媒体を供給して各冷却路104内を流動させることにより吸熱させ、昇温した冷却媒体を先端側端面102aに設けられた開口から外部へ流出させることにより、金型本体102の温度上昇を防止するように構成されている。
【0005】
図9及び図10に示す従来の圧縮機用スクロール製造用金型101においては、直線状の冷却路104にて冷却媒体を流動させることにより金型全体の温度上昇が防止されるように構成されているが、このような構成では、常に高温のアルミニウム合金溶湯に曝されることによって局所的な温度上昇が生じ易い基端キャビティ面103cを効果的に冷却することができず、当該箇所においてアルミニウム合金溶湯の焼き付きが生じるという課題が存在していた。
【0006】
そこで、上述した課題を解決するために、例えば、下記特許文献2では、渦巻き形羽根部を有する圧縮機用スクロールの製造に用いられる金型に対して、圧縮機用スクロールの渦巻き形羽根部の形状に相当するキャビティを設けるとともに、圧縮機用スクロールの渦巻き形羽根部の基端部分を成形する基端キャビティ面に沿ってその近傍に基端冷却路を形成する技術が提案されている。そして、特許文献2では、この圧縮機用スクロール製造用金型によれば、圧縮機用スクロールの渦巻き形羽根部の形状に相当するキャビティが設けられるとともに、圧縮機用スクロールの渦巻き形羽根部の基端部分を成形する基端キャビティ面に沿ってその近傍に基端冷却路が形成されているので、高温の金属溶湯の焼き付き等による損傷が生じやすい基端キャビティ面が効果的に冷却され、当該部分における損傷の発生を防止して金型の長寿命化を図ることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−155626号公報
【特許文献2】特許第3657600号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上掲した特許文献2に開示された技術思想は、特許文献1等に開示されたような水等の冷媒を用いてダイカスト用金型の冷却を実施するという思想と何ら変わるものではない。また、常に高温の溶湯に曝されることによって局所的な温度上昇が生じ易い基端キャビティ面103c等を効果的に冷却するために、金型の高温部近傍に冷媒通路を設けることで冷却効果を高めようとする試みは、少なくとも特許文献2の出願以前から成されてきたものである。つまり、特許文献1及び特許文献2に開示されるような金型のキャビティ近傍に冷媒通路を設ける技術については、冷却効果に関して未だ不十分なものであり、この種のダイカスト用金型を用いる業界からは、冷却効果をさらに高める技術の提供が求められていた。
【0009】
また、特許文献1及び特許文献2に開示される技術は、共通して水等の冷媒を用いることを前提とするものであるので、クラック等により水漏れが発生するという課題が存在していた。また、限られた領域に形成される狭い冷媒通路に水を通し続けていると、冷却水に含まれる不純物の蓄積や錆の発生などにより、冷媒通路の通路幅が狭まり、冷却効果が低下してしまうという課題が存在していた。つまり、特許文献1及び特許文献2に開示される従来技術は、経年効果によって冷却効果が悪化するという本質的な課題を内在するものであった。かかる課題の存在は、ダイカスト金型の短寿命化をももたらすものであり、長期に亘ってダイカスト用金型を使用したとしても冷却効果を好適に維持できる技術の提供が求められていた。
【0010】
本発明は、上述した従来技術に存在する種々の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、金型の高温部近傍に冷媒通路を設けることなく高い冷却効果を実現できるとともに、この高い冷却効果を長期間に亘って維持可能なダイカスト用金型と、このダイカスト用金型を使用したダイカスト法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明に係るダイカスト用金型(1)は、固定ダイス(12)を備える固定型(10)と、可動ダイス(51)を備え、前記固定型(10)に対して進退可能な可動型(20)と、を有し、前記固定ダイス(12)と前記可動ダイス(51)とによってキャビティ(1a,53)が画成されるダイカスト用金型(1)であって、前記固定ダイス(12)及び前記可動ダイス(51)の少なくとも一方は、母材を形成するとともに溝穴形状(59,59′)が形成された外郭形成用(52)と、前記キャビティ(1a,53)を画成する成形面(55)の近傍内部に設置される第一の銅又は銅合金(61)と、前記第一の銅又は銅合金(61)の位置から反成形面(52a)側に向けて延びて形成される第二の銅又は銅合金(62)と、前記外郭形成用鋼(52)に形成された溝穴形状(59,59′)に埋め込むための埋込用鋼(57)と、を含んで構成されており、前記外郭形成用鋼(52)、前記第一の銅又は銅合金(61)前記第二の銅又は銅合金(62)、及び前記埋込用鋼(57)は、それぞれ別部材として形成され、前記第一の銅又は銅合金(61)は、前記外郭形成用鋼(52)に形成された溝穴形状(59,59′)に埋め込まれるとともに、当該第一の銅又は銅合金(61)を取り囲む溝穴形状(59,59′)の残りの領域が、前記第二の銅又は銅合金(62)、及び前記埋込用鋼(57)によって隙間なく取り囲まれることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るダイカスト用金型(1)は、前記第二の銅又は銅合金(62)と接続する第三の銅又は銅合金(63)を備え、前記第三の銅又は銅合金(63)は、冷却媒体と接するように構成されていることとすることができる。
【0014】
また、本発明に係るダイカスト用金型(1)において、前記第二の銅又は銅合金(62)は、冷却媒体と接するように構成されていることとすることができる。
【0015】
なお、本発明に係るダイカスト法は、上述したダイカスト用金型(1)を用いてダイカストを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金型の高温部近傍に冷媒通路を設けることなく高い冷却効果を実現できるとともに、この高い冷却効果を長期間に亘って維持可能なダイカスト用金型と、このダイカスト用金型を使用したダイカスト法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一般的なダイカスト用金型を備えた鋳造設備の全体構成例を示す断面図であり、特に、溶湯の充填前の状態を示している。
図2】一般的なダイカスト用金型を備えた鋳造設備の全体構成例を示す断面図であり、特に、溶湯の充填後の状態を示している。
図3】本実施形態に係るダイカスト用金型の可動ダイスの平面図であり、キャビティを画成する成形面側の平面が示されている。
図4図3において示されるIV−IV線矢視方向における断面図である。
図5】本実施形態に係る可動ダイスと不図示の固定ダイスとにより画成されるキャビティに高温のアルミニウム合金溶湯を流し込むことによって鋳造される圧縮機用スクロールを示している。
図6】本実施形態に係る可動ダイスの製造方法を説明するための図である。
図7】本実施形態に係る可動ダイスが取り得る多様な形態例を示す図である。
図8】本発明の多様な変形形態例を示す図である。
図9】従来の圧縮機用スクロール製造用金型の平面図である。
図10図9のX−X線矢視方向における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
本実施形態に係るダイカスト用金型及びこのダイカスト用金型を用いるダイカスト法について説明する前に、まずは図1及び図2に基づいて、本実施形態に係るダイカスト用金型が用いられる一般的な鋳造設備の全体構成についての説明を行う。ここで、図1及び図2は、一般的なダイカスト用金型1を備えた鋳造設備の全体構成例を示す断面図であり、特に、図1は溶湯の充填前の状態を示しており、図2は溶湯の充填後の状態を示している。図1及び図2に示されるように、ダイカスト用金型1は、ダイカストを行う鋳造設備の主要構成部材として設けられている。
【0020】
例示の一般的なダイカスト用金型1は、固定ダイス12と固定ホルダ11とを備える固定型10と、可動ダイス22と可動ホルダ21とを備える可動型20とを有している。固定ダイス12と可動ダイス22とによって、キャビティ1aが画成される。また、ダイカスト用金型1には、スリーブ30が設けられている。スリーブ30は、ビスケット1b、ランナー1c、及びゲート1dを介してキャビティ1aと連通している。また、スリーブ30内には、プランジャーチップ31が設けられている。プランジャーチップ31は、スリーブ30内を進退可能である。さらに、プランジャーチップ31の前進方向対向位置であるビスケット1bの位置には、分流子40が設けられている。プランジャーチップ31がスリーブ30内を前進して溶湯2を押圧すると、溶湯2はビスケット1b、ランナー1c、及びゲート1dを介してキャビティ1aに充填される。なお、図1に示される状態から、図2に示される状態へとプランジャーチップ31を前進させることにより、プランジャーチップ31によって押圧されてスリーブ30内を送られてきた溶湯2が、分流子40に衝突する。そして、分流子40に衝突した溶湯2は、分流子40によってランナー1c及びゲート1dへと導かれるように構成されている。
【0021】
つぎに、本実施形態に係るダイカスト用金型について、図3図5を用いて詳細に説明を行う。なお、以下で説明する本実施形態では、圧縮機用スクロールの製造に用いられるダイカスト用金型に本発明を適用した場合を例示して説明を行うこととする。
【0022】
ここで、図3は、本実施形態に係るダイカスト用金型の可動ダイス51の平面図であり、キャビティを画成する成形面側の平面が示されている。また、図4は、図3において示されるIV−IV線矢視方向における断面図である。なお、図4では、説明の便宜のために、ダイカスト用金型を基準として見た場合の方向として「先端側」及び「後端側」の用語が用いられている。すなわち、図4における紙面左側が可動ダイス51の先端側となっており、紙面右側が可動ダイス51の後端側となっている。そして、図示される本実施形態に係る可動ダイス51は、不図示の可動ホルダ(21)と協働して可動型(20)を構成するものであり、先端側に設けられる図示しない固定型(10)と協働することで、圧縮機用スクロールを鋳造するためのキャビティ(1a)が画成されることとなる。
【0023】
さらに、図5は、本実施形態に係る可動ダイス51と不図示の固定ダイス(12)とにより画成されるキャビティ(1a)に高温のアルミニウム合金溶湯を流し込むことによって鋳造される圧縮機用スクロール71を示している。圧縮機用スクロール71は、車両等の空調装置の冷媒を圧縮するスクロール型の圧縮機に用いられる部材であって、円板状の端板部72と渦巻き形羽根部73とを有している。また、スクロール型圧縮機(図示せず)は、2つの圧縮機用スクロールを噛み合わせ、一方のスクロールを他方のスクロールに対し偏心回転させて2つの羽根部の間に形成された空間部に吸入された媒体を圧縮することによって、圧縮機として作用するものである。
【0024】
さて、本実施形態に係る可動ダイス51は、図3及び図4に示すように、略柱状の全体形状を呈しており、SKD等の合金工具鋼を母材としてその金型本体部52が形成されるとともに、この金型本体部52に対して、鋳造される圧縮機用スクロール71に相当するキャビティ53が形成された金型である。
【0025】
キャビティ53は、金型本体部52の先端側に大きく開口して圧縮機用スクロール71の端板部72の形状に相当する端板部キャビティ53aと、端板部キャビティ53aに連通して先端側に設けられ、圧縮機用スクロール71の渦巻き形羽根部73の形状に相当する羽根部キャビティ53bとを有している。また、金型本体部52における端板部キャビティ53aと羽根部キャビティ53bとの境界には、渦巻き形羽根部73の基端部73aを成形するための成形面として、先端キャビティ面55が形成されている。
【0026】
そして、本実施形態に係る可動ダイス51では、先端キャビティ面55に沿うように、その近傍内部に対して渦巻状をした第一の銅又は銅合金としての無酸素銅61が埋め込まれている。また、本実施形態に係る可動ダイス51においては、この無酸素銅61を取り囲む領域がSKD等の合金工具鋼52,57によって隙間なく取り囲まれて形成されている。
【0027】
さらに、本実施形態に係る無酸素銅61は、図4中の紙面上側に示されているように、成形面としての先端キャビティ面55の近傍内部から当該先端キャビティ面55とは反対側の面(後端側端面52a)に向けて延びて形成される棒形状をした第二の銅又は銅合金としての無酸素銅62に連結されている。そしてさらに、この棒形状の無酸素銅62は、後端側端面52aの表面に設置された円盤形状をした第三の銅又は銅合金としての無酸素銅63に連結されている。円盤形状の無酸素銅63には、可動ダイス51と接続することで可動型(20)を構成する可動ホルダ(21)に設けられる不図示の冷媒通路から供給される冷却媒体と接するように、冷却穴部65が形成されている。したがって、冷媒通路によって循環供給される水等の冷却媒体が円盤形状の無酸素銅63に形成された冷却穴部65に接触することで、冷却媒体が円盤形状の無酸素銅63から熱を奪うことができるようになっている。特に、本実施形態で採用される無酸素銅61,62,63は、銅又は銅合金のなかでも純度の高いものであり、熱伝導率が非常に高いという性質を有している。したがって、本実施形態のように、先端キャビティ面55の近傍内部に無酸素銅61を埋め込めば、溶湯からの熱に曝されて高温となる先端キャビティ面55の熱が熱伝達率の高い無酸素銅61に伝達され、棒形状の無酸素銅62及び円盤形状の無酸素銅63を経由して最終的に可動ホルダ(21)に設けられる冷媒通路からの冷却媒体によって効率的に熱が除去されることとなるのである。
【0028】
また特に、本実施形態に係る可動ダイス51では、キャビティ53(1a)を画成する成形面としての先端キャビティ面55の近傍に対して、冷却媒体を導通させるための冷媒通路が存在していない。つまり、本実施形態に係る可動ダイス51は、金型のキャビティ近傍に冷媒通路を設ける必要がないのである。したがって、従来技術のように、冷却水に含まれる不純物の蓄積や錆の発生などによって冷媒通路の通路幅が狭まり、冷却効果が低下してしまうなどといった不具合が発生する虞が全くない。よって、本実施形態に係る可動ダイス51には、経年効果によって冷却効果が悪化するという問題が存在せず、長寿命のダイカスト金型を実現することが出来ている。さらに、本実施形態の金型構成であれば、金型のキャビティ近傍に冷媒通路を設ける必要がないので、メンテナンス性を向上させてランニングコストを抑えることも可能となっている。
【0029】
以上、本実施形態に係る可動ダイス51の具体的な構成例についての説明を行った。つぎに、本実施形態に係る可動ダイス51の製造方法を、図6を用いて説明する。ここで、図6は、本実施形態に係る可動ダイス51の製造方法を説明するための図である。
【0030】
上述したように、本実施形態に係る可動ダイス51の母材は、SKD等の合金工具鋼であり、図6中の分図(a)で示すように、まずは合金工具鋼のブロック51"を用意する。
【0031】
つぎに、ブロック形状の合金工具鋼51"を研削加工又は切削加工等して、図6中の分図(b)で示すように、可動ダイス51の主要な外郭形状を形成する(符号51′として示す。)。なお、この段階では、金型本体部52の外郭形状とキャビティ53が形成されるとともに、渦巻状の無酸素銅61及び棒形状の無酸素銅62を埋め込むための溝穴形状59が形成されることとなる。また、これと同時に、先端キャビティ面55の近傍内部に埋め込むための渦巻状の無酸素銅61と、この渦巻状の無酸素銅61に接続するとともに、先端キャビティ面55の近傍内部から当該先端キャビティ面55とは反対側の面(後端側端面52a)に向けて延びて形成される棒形状の無酸素銅62を準備する。またさらに、製造途中の可動ダイス51′に形成される渦巻状の溝穴形状59に対して渦巻状の無酸素銅61と棒形状の無酸素銅62を挿入後、この渦巻状の溝穴形状59を塞ぐことで本実施形態に係る可動ダイス51が最終的に有することとなる略柱状の全体形状を形成するための立体渦巻状の合金工具鋼57を準備する。この際、立体渦巻状の合金工具鋼57(例えば、SKDなど)の材質については、母材と同鋼種であることが好ましい。
【0032】
そして、図6中の分図(c)で示すように、主要な外郭形状が形成された可動ダイス51′に対して、渦巻状の無酸素銅61と棒形状の無酸素銅62を埋め込んだ後に、立体渦巻状の合金工具鋼57を埋め込み、さらに円盤形状の無酸素銅63を取り付けることで、本実施形態に係る可動ダイス51が完成する。
【0033】
なお、本実施形態に係る可動ダイス51を構成するSKD等の合金工具鋼と無酸素銅等の銅又は銅合金という異材の接合については、拡散接合等の公知の異材結合技術を採用することで、隙間なく分離不能に結合することができる。
【0034】
さらに、図3図4及び図6で示した本実施形態に係る可動ダイス51では、図7中の分図(a)で示すように、製造途中の可動ダイス51′に形成される渦巻状の無酸素銅61や棒形状の無酸素銅62や立体渦巻状の合金工具鋼57を埋め込むための溝穴形状59は、全長にわたって同径で形成されていることを想定していたが、この製造途中の可動ダイス51′に形成される溝穴形状59については、あらゆる形状を採用することが可能であり、例えば、図7中の分図(b)で示すように、渦巻状の無酸素銅61が設置される箇所を狭い溝穴径とし、棒形状の無酸素銅62や立体渦巻状の合金工具鋼57が埋め込まれる箇所を広い溝穴径とした溝穴形状59′を採用することができる。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。すなわち、本実施形態に係るダイカスト用金型1は、固定ダイス12を備える固定型10と、可動ダイス51を備え、固定型10に対して進退可能な可動型20と、を有し、固定ダイス12と可動ダイス51とによってキャビティ1a,53が画成される金型であって、固定ダイス12及び可動ダイス51の少なくとも一方は、母材を形成する鋼52,57と、キャビティ1a,53を画成する成形面55の近傍内部に設置される第一の銅又は銅合金61と、第一の銅又は銅合金61の位置から反成形面52a側に向けて延びて形成される第二の銅又は銅合金62と、を含んで構成されており、第一の銅又は銅合金61と第二の銅又は銅合金62とは、別部材として形成されるとともに鋼52,57に対して隙間なく結合されていることを特徴とするものである。そして、このような構成を有することで、本実施形態に係るダイカスト用金型1は、金型の高温部近傍に冷媒通路を設けることなく高い冷却効果を実現できるとともに、この高い冷却効果を長期間に亘って維持可能であるという有意な効果を発揮できるものである。
【0036】
ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、圧縮機用スクロールの製造に用いられるダイカスト用金型に本発明を適用した場合を例示して説明を行ったが、本発明の適用範囲は実施形態のものに限られず、その他のあらゆるダイカスト製品を製造するためのダイカスト用金型とダイカスト法に用いることができる。
【0038】
また、例えば、上述した実施形態では、本発明を可動型に適用した場合の形態例を示したが、固定型に対しても本発明を適用することが可能である。
【0039】
また、例えば、上述した実施形態では、本発明をダイス全体に適用した場合の形態例を示したが、ダイスの一部を構成する埋子に対しても本発明を適用することが可能である。
【0040】
また、例えば、上述した実施形態に係る可動ダイス51では、後端側端面52aに対して第三の銅又は銅合金としての円盤形状の無酸素銅63を設置した場合を例示して説明したが、この円盤形状の無酸素銅63については、省略することも可能である。具体的には、本発明の多様な変形形態例を示す図8にあるように、可動ダイス51に冷却穴部81を形成することができる。このように、可動ダイス51に対して冷却穴部81を形成すれば、可動ダイス51の後端側端面52aに接続する可動ホルダ21に設置された冷却通路から供給される冷却媒体と、第二の銅又は銅合金である棒形状の無酸素銅62とが接するので、円盤形状の無酸素銅63を設けることなく、渦巻状の無酸素銅61と棒形状の無酸素銅62の二部材のみで好適な冷却効果を得ることができ、好ましい。
【0041】
さらに、上述した実施形態に係る渦巻状の無酸素銅61に関しては、例えば、その形状を立体渦巻状とすることで、冷却効果を及ぼす範囲を後端側端面52a側に向けて広げるようにしてもよい。
【0042】
またさらに、上述した実施形態では、棒形状の無酸素銅62が1本のみ設置された場合を例示したが、本実施形態に係る棒形状の無酸素銅62については、その設置本数は任意の本数を選択することができる。すなわち、本発明では、複数本の棒形状の無酸素銅62を、渦巻状の無酸素銅61に連結するようにしてもよい。
【0043】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0044】
1 一般的なダイカスト用金型、1a キャビティ、1b ビスケット、1c ランナー、1d ゲート、2 溶湯、10 固定型、11 固定ホルダ、12 固定ダイス、20 可動型、21 可動ホルダ、22 可動ダイス、30 スリーブ、31 プランジャーチップ、40 分流子、51 可動ダイス、51′ 製造途中の可動ダイス、51" 合金工具鋼のブロック、52 金型本体部、52a 後端側端面(反成形面)、53 キャビティ、53a 端板部キャビティ、53b 羽根部キャビティ、55 先端キャビティ面、57 立体渦巻状の合金工具鋼、59,59′ 溝穴形状、61 渦巻状の無酸素銅(第一の銅又は銅合金)、62 棒形状の無酸素銅(第二の銅又は銅合金)、63 円盤形状の無酸素銅(第三の銅又は銅合金)、65 冷却穴部、71 圧縮機用スクロール、72 端板部、73 渦巻き形羽根部、73a 基端部、81 突出部。
図1
図2
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図7
図8
図9
図10