(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755215
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】ダイカスト品の製造方法およびこれに用いるダイカスト金型
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20150709BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
B22D17/22 E
B22D17/22 F
B22C9/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-274400(P2012-274400)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-117729(P2014-117729A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086450
【弁理士】
【氏名又は名称】菊谷 公男
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100078260
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 レイ子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅道
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−160049(JP,A)
【文献】
実開平07−043610(JP,U)
【文献】
実開平01−121730(JP,U)
【文献】
実開平04−045018(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/22−17/24
B22C 9/06
F16B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧ピンで溶湯を2次加圧して鋳造するダイカスト品の製造方法において、
前記加圧ピンが摺動可能な貫通孔を有するブッシュを、金型におけるキャビティに面する形状面から所定範囲に形成され当該形状面に開口したブッシュ保持孔に保持し、
前記ブッシュ保持孔は前記開口より大径のフランジ収容部を有し、
前記ブッシュは前記フランジ収容部に受容されるフランジを有して、
前記ブッシュを弾性的に縮径させて前記開口から前記ブッシュ保持孔に挿入し、その後、前記フランジを前記フランジ収容部内に弾性で拡径させることにより前記ブッシュを前記ブッシュ保持孔に対して抜け止めすることを特徴とするダイカスト品の製造方法。
【請求項2】
前記ブッシュには全長にわたる切り割りを設け、該切り割りで対向する一端を他端の内側に巻き込んで縮径することを特徴とする請求項1に記載のダイカスト品の製造方法。
【請求項3】
前記ブッシュは前端の外径を前記ブッシュ保持孔の前記開口に対応させた最小径とするテーパ状で、前記フランジを後端に備え、
前記ブッシュ保持孔は前記開口に連なる内周面を前記ブッシュに対応するテーパ状とし、
前記ブッシュをその後端から前記ブッシュ保持孔に挿入することを特徴とする請求項1または2に記載のダイカスト品の製造方法。
【請求項4】
溶湯を2次加圧する加圧ピンを備えるダイカスト金型であって、
金型におけるキャビティに面する形状面から所定範囲に形成されて当該形状面に開口を有するブッシュ保持孔に、前記加圧ピンが摺動可能な貫通孔を有するブッシュを弾性的に縮径させて前記開口から挿入して保持させ、
前記ブッシュ保持孔は前記開口より大径のフランジ収容部を有し、
前記ブッシュは前記フランジ収容部に受容されるフランジを有して、前記ブッシュ保持孔に対して抜け止めされることを特徴とするダイカスト金型。
【請求項5】
前記ブッシュは前端の外径を前記ブッシュ保持孔の前記開口に対応させた最小径とするテーパ状で、後端に前記フランジを備え、
前記ブッシュ保持孔は前記開口に連なる内周面が前記ブッシュに対応するテーパ状であることを特徴とする請求項4に記載のダイカスト金型。
【請求項6】
前記ブッシュは周方向1箇所に全長にわたる切り割りを有していることを特徴とする請求項4または5に記載のダイカスト金型。
【請求項7】
前記形状面が、ダイカスト品における端面に穴が加工される厚肉部の当該端面に対応する面であり、
前記ブッシュ保持孔の前記開口が前記穴の最大径より小径であることを特徴とする請求項4から6のいずれか1に記載のダイカスト金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト品の製造方法およびそのダイカスト鋳造に用いるダイカスト金型に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムなどのダイカスト品は対向する金型の可動型と固定型の間に形成したキャビティに溶湯を加圧充填して製造されるが、ダイカスト品がボス部などの厚肉部を備える場合、残留空気による巣の発生を抑えるために、溶湯が充填された後にキャビティの厚肉部形成部位に加圧ピンを進入させて2次加圧するスクイズ工法が行われている。
この工法の実施に当たっては、例えば特開2009−148806号公報に開示されるように、金型(可動型)に対して加圧ピンを往復させると互いの摺動部が磨耗するので、可動型にブッシュを取り付けて、このブッシュの孔内を加圧ピンが往復する構成が一般である。
【0003】
特開2009−148806号公報に示されたものでは、
図7に示すように、可動型12’の外壁14からキャビティ17に面する形状面13までブッシュ保持孔20’が貫通し、ブッシュ保持孔20’の外壁14側開口端は大径のフランジ収容部24’となっている。
ブッシュ30’はブッシュ保持孔20’と整合する外径を有する小径部32’と、その外方端に、フランジ収容部24’に対応する大径部34’(フランジ)とを有し、小径部32’と大径部34’を通じて加圧ピン5が往復可能な貫通孔36’を有している。
ブッシュ30’の小径部32’をブッシュ保持孔20’に挿入し、大径部34’がブッシュ保持孔20’の段差部に着座した状態で、ブッシュ30’(小径部32’)の先端が可動型12’の厚肉部形成部位の形状面13と面一になるように設定されている。ブッシュ30’は不図示の固定部材により大径部34’が段差部に着座したこの状態を保持する。
【0004】
ダイカスト品の製造に際しては、溶湯が厚肉部形成部位を含むキャビティ17内に充填された後、ブッシュ30’の貫通孔36’に保持した加圧ピン5を、溶湯の冷却過程の所定のタイミングにおいて不図示の油圧シリンダで実線で示す後退位置から厚肉部形成部位の仮想線で示す前進位置まで摺動進入させて2次加圧する。
冷却後、加圧ピン5を後退させるとともに可動型12’を固定型11から離間させ、不図示の押し出しピンにより押し出すことにより製品を可動型12’から取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−148806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようにブッシュ30’を設けることにより、加圧ピン5摺動部の金型側の磨耗は防止されるが、加圧ピン5と直接接触するブッシュ30’は、とくにキャビティ17に流れ込む溶湯の衝撃を受けやすい内端側(形状面13側)が磨耗することになるので、ブッシュ30’の交換が必要となる。
ここで、従来のブッシュ30’は可動型12’の外壁14側から挿入して取り付けるため可動型12’の形状面13から外壁14までに及ぶ長さを有する大サイズであり、消耗品としてコストの高いものとなっている。同じく、ブッシュ30’は可動型12’の外壁14側から挿入、抜き出しを行う構成であり、交換の都度、ブッシュ30’を押さえている固定部材等の取り外しと再取り付けを行わねばならず、ブッシュ30’の交換に多大な工数を必要とする。
【0007】
したがって本発明は、上記の問題点にかんがみ、スクイズ用のブッシュがより低コストでしかも交換作業が容易なダイカスト品の製造方法およびこれに用いるダイカスト金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明のダイカスト品の製造方法は、溶湯を2次加圧する加圧ピンが摺動可能な貫通孔を有するブッシュを、金型における
キャビティに面する形状面
から所定範囲に形成され当該形状面に開口したブッシュ保持孔に保持し、ブッシュ保持孔は上記開口より大径のフランジ収容部を有し、ブッシュはフランジ収容部に受容されるフランジを有して、ブッシュを弾性的に縮径させて上記開口からブッシュ保持孔に挿入し、その後、フランジをフランジ収容部内に弾性で拡径させることによりブッシュをブッシュ保持孔に対して抜け止めするものとした。
【0009】
また、ダイカスト金型は、金型における形状面寄りに形成されて当該形状面に開口を有するブッシュ保持孔に、加圧ピンが摺動可能な貫通孔を有するブッシュを弾性的に縮径させて上記開口から挿入して保持させ、ブッシュ保持孔は開口より大径のフランジ収容部を有し、ブッシュはフランジ収容部に受容されるフランジを有して、ブッシュ保持孔に対して抜け止めされるものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法およびダイカスト金型によれば、ブッシュが金型の外壁側から取り付けるものに比較して小サイズとなりコスト低減するとともに、パーティング面側の形状面の開口から取り付け、また取り外しもできるので交換作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態の構成を示す金型の部分断面図である。
【
図3】可動型におけるブッシュ保持孔を示す拡大断面図である。
【
図4】ブッシュをブッシュ保持孔に挿入する際の縮径要領を示す図である。
【
図5】ダイカスト品に形成される穴とブッシュ保持孔の開口径の関係を示す説明図である。
【
図6】ブッシュ交換時の抜き出し要領を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は実施の形態にかかる金型の部分断面図である。
金型10は対向配置されて両者でキャビティ17を形成する固定型11と可動型12からなり、図は厚肉部としてのボス部42(
図5参照)形成部位まわりを示し、鋳造後にはボス部42中心に穴44(
図5参照)を形成することが想定されている。
可動型12には、ボス部42形成部位の中心に向けて外壁14側から延び、加圧ピン5を貫通させる案内孔15が形成され、キャビティ17に面する形状面13から所定範囲は拡径したブッシュ保持孔20となっている。ブッシュ保持孔20に保持されたブッシュ30は、案内孔15と同心となる貫通孔36を有して加圧ピン5を摺動可能に保持する。
【0013】
図2はブッシュ30を拡大して示し、(a)は正面図、(b)は(a)におけるA−A部断面図、(c)は背面図である。
ブッシュ30は合金工具鋼またはステンレス鋼からなる耐熱バネ材で形成し、高い弾性を有する。
ブッシュ30の外形は、前端を最小径Daとするテーパ状で後方に行くほど拡径する円錐面を有するとともに、後端に軸方向所定幅Wの大径部34を有している。以下では、大径部34より前方をテーパ小径部32と呼ぶ。
例えば、ブッシュ30の全長Lを12mmとし、貫通孔36の径Dbを加圧ピン5に対応する8mm、前端の外径(Da)を9mm、テーパ小径部32の長さを10mm、外周面の傾斜を5°、大径部34の幅Wを2mm、外径Dcを11.76mmとする。テーパ小径部32と大径部34間の段差部33の径方向高さは0.5mmとなり、大径部34はテーパ小径部32に対するフランジとなる。
ブッシュ30には周方向1箇所において全長に渡る幅Sの切り割り38を設けてある。
【0014】
図3は可動型12のブッシュ保持孔20部分の拡大断面図である。
ブッシュ保持孔20はブッシュ30の外形に対応させて、形状面13にブッシュ30の最小径Daで開口しテーパ小径部32と整合するテーパ部22と、ブッシュ30の大径部34を収容するとともに軸方向には大径部34の幅Wより所定量長いフランジ収容部24とからなる。
フランジ収容部24に配置されたブッシュ30は、その大径部34(フランジ)がフランジ収容部24とテーパ部22間の段差部23に着座したとき、前端縁が形状面13と面一になる。
【0015】
ブッシュ30をブッシュ保持孔20に配置するには、
図4に示すように、ブッシュ30の切り割り38部で対向する周方向一端を他端の内側に丸め込み、形状面13のブッシュ保持孔20の開口径(Da)まで縮径して、大径部34を先にして形状面13の開口21から押し込み挿入して組み込む。すなわち、可動型12の外壁14とは反対側のパーティング面側から取り付けることになる。
挿入されたブッシュ30は弾性により拡径して初期形状に戻り、テーパ小径部32はブッシュ保持孔20のテーパ部22に位置し、大径部34はフランジ収容部24に受容される。
これにより、可動型12の外壁14側からの加圧ピン5は案内孔15を経てブッシュ30の貫通孔36内に延びる。(
図1参照)
【0016】
以上の構成になる金型10では、加圧ピン5が形状面13からボス部42形成部位のキャビティ17に充填された溶湯内に進入する際に、ブッシュ30が摩擦で形状面13側へ付勢される。このため、たとえブッシュ30の大径部34がフランジ収容部24内で外壁14寄りに位置していても、フランジ(大径部34)が段差部23に係止する位置まで形状面13方向へ移動する。(
図1参照)
この間、テーパ小径部32がブッシュ保持孔20のテーパ部22との楔効果により縮径方向に圧縮力を受けて、テーパ部22の内周面とテーパ小径部32の外周面が密接するとともに、貫通孔36の内周面と加圧ピン5の外周面も密接する。これにより、形状面13において可動型12(ブッシュ保持孔20)、ブッシュ30および加圧ピン5の各面間の隙間がゼロまたは微少となりバリの発生を防止できる。
【0017】
なお、ブッシュ30のテーパ小径部32の最小外径、したがって形状面13におけるブッシュ保持孔20の開口径(Da)は、
図5に示すように、ダイカスト品40のボス部42に形成する面取り部45を含む穴44の最大径Ddよりも小さくなるように設定される。なお、
図5では可動型12、ブッシュ30、加圧ピン5を仮想線で示している。
これにより、万一形状面13における可動型12、ブッシュ30および加圧ピン5の各面間の隙間によりバリが発生したとしても、当該バリは穴44加工の際の切削範囲に入り加工と同時に切除されるから、別途バリ除去のためだけのボス部42の端面の切削加工などは不要である。
【0018】
つぎに、貫通孔36などの磨耗に応じてブッシュ30を交換する場合には、まず、
図6の(a)に示すように、可動型12の形状面13におけるブッシュ保持孔20の開口21からブッシュ30のテーパ小径部32(の外周面)とブッシュ保持穴20のテーパ部22(の内周面)の間にマイナスドライバ7などを差し込んで抉り、切り割り38部の一端をブッシュ保持穴20の内周面から浮かせる。そして、当該浮かせた部位をペンチ8で把持する。
それから、(b)に示すように、ブッシュ30をペンチ8まわりに巻き取って縮径し、ブッシュ保持孔20の開口21から抜き出せばよい。磨耗したブッシュ30はすでに使用不能品であるから、抉りや巻き取りによって破壊状態となっても問題はない。
【0019】
本実施の形態では、大径部34が発明におけるフランジに該当する。また、ボス部42が厚肉部に該当する。
【0020】
実施の形態は以上のように構成され、可動型12における形状面13寄りにブッシュ保持孔20を形成して形状面13に開口させ、溶湯を2次加圧する加圧ピン5が摺動可能な貫通孔36を有するブッシュ30を弾性的に縮径させて開口から挿入してブッシュ保持孔20に保持させ、ブッシュ保持孔20は前記開口より大径のフランジ収容部24を有し、ブッシュ30はフランジ収容部24に受容される大径部34を有するものとしたので、ブッシュ保持孔20に挿入されたブッシュ30は弾性で拡径するとともに抜け止めされる。
これにより、ブッシュ30は可動型12の外壁14側から取り付けるものに比較して小サイズとなりコスト低減するとともに、パーティング面側の形状面13の開口からペンチ等で抜き出しもできるので交換作業も容易となる。
(請求項1、4に対応する効果)
【0021】
ブッシュ30は周方向1箇所に全長にわたる切り割り38を有しているので、ブッシュ保持孔20に挿入する際、その切り割り38で対向する一端を他端の内側に巻き込んで容易に縮径することができる。(請求項2、6に対応する効果)
【0022】
また、ブッシュ30は前端の外径をブッシュ保持孔20の開口21に対応させた最小径とするテーパ状で、大径部34を後端に備える一方、ブッシュ保持孔20は開口21に連なる内周面をブッシュ30に対応するテーパ状としているので、ブッシュ30をその後端からブッシュ保持孔20に挿入すれば、大径部34がフランジ収容部24に受容されると同時にブッシュ30は拡径してテーパ状の外周面がフランジ収容部24のテーパ状の内周面に整合する。
このため、ブッシュ30がキャビティ17の溶湯内に進入する加圧ピン5に付勢されて移動するとテーパによる楔効果で縮径方向に圧縮力を受ける。この結果、形状面13におけるブッシュ保持孔20、ブッシュ30および加圧ピン5が密接し、互いの各面間の隙間がゼロまたは微少となりバリの発生を防止できる。
(請求項3、5に対応する効果)
【0023】
可動型12の形状面13が、ダイカスト品40における端面に穴44が加工されるボス部42の当該端面に対応する面であり、ブッシュ保持孔20の開口21が穴44の最大径より小径に設定してあるので、万一ブッシュ保持孔20とブッシュ30間などに隙間が生じてバリが発生しても穴44の加工と同時に切除されるから、別途バリ除去のためだけのボス部42の端面の切削加工などは不要である。(請求項7に対応する効果)
【0024】
なお、実施の形態では可動型12からキャビティ17内へ加圧ピン5を進入させるものとし、ブッシュ30を可動型12に保持させたが、これに限定されず、本発明はブッシュ30を固定型11に保持させて加圧ピン5を固定型11からキャビティ17内へ進入させる構成にも適用される。
【符号の説明】
【0025】
5 加圧ピン
7 マイナスドライバ
8 ペンチ
10 金型
11 固定型
12 可動型
13 形状面
14 外壁
15 案内孔
17 キャビティ
20 ブッシュ保持孔
21 開口
22 テーパ部
23 段差部
24 フランジ収容部
30 ブッシュ
32 テーパ小径部
33 段差部
34 大径部
36 貫通孔
38 切り割り
40 ダイカスト品
42 ボス部
44 穴
45 面取り部