特許第5755370号(P5755370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755370
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】スキャニングジグ
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20150709BHJP
   A61C 13/34 20060101ALI20150709BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
   A61C13/34
   A61C19/04
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-522477(P2014-522477)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2013063596
(87)【国際公開番号】WO2014002632
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2014年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-142776(P2012-142776)
(32)【優先日】2012年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】森 勝也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直人
【審査官】 沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−517308(JP,A)
【文献】 特表2011−504390(JP,A)
【文献】 特開2009−101124(JP,A)
【文献】 特開2008−142528(JP,A)
【文献】 特表2007−527284(JP,A)
【文献】 特開2003−190187(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0141951(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/108919(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0019728(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/097214(WO,A1)
【文献】 米国特許第4758160(US,A)
【文献】 国際公開第2012/126475(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
A61C 13/34
A61C 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログが埋設された模型の前記アナログ、又は口腔内に埋設された人工歯根に取り付
けるスキャニングジグであって、
一方の端部に底を有する有底円筒状の本体と、
一端側が前記本体の円筒状の内側に挿入され、他端側が前記アナログ又は前記人工歯根に
固定される固定部材と、
前記本体の円筒状の内側に配置される磁石と、を有し、
前記本体は、該本体の端面のうち前記有底円筒状の底部側の端面には孔及び溝を有して
おらず、該端面には傾斜面を具備している、
スキャニングジグ。
【請求項2】
前記アナログ又は前記人工歯根に装着された姿勢で、前記本体は、該本体の円筒軸方向
については、前記本体の端面のうち前記底を有しない側の1つの端面のみが前記アナログ
又は前記人工歯根に接触するように構成される請求項1に記載のスキャニングジグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科の分野において、埋設されている人工歯根(一般的に、インプラントフィクスチャー、又はインプラントボディと呼ばれることがある。)の位置を特定し、3次元データ化する際に用いる部材であるスキャニングジグに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科の分野において、欠損した歯牙の補綴の方法としていわゆる歯科インプラント技術が適用されることが多くなってきた。歯科インプラント技術によるインプラントの適用は、従来の歯科補綴物に比べて、より自然歯牙に近い状態とすることができるため利点が多い。
【0003】
インプラントによる治療は、概ね次のような過程で行われる。すなわち、インプラントの適用対象となる欠損部の顎骨に孔を開け、ここに人工歯根を埋設する。埋設した人工歯根が顎骨に十分結合したら、埋設された人工歯根に歯科用補綴物を固定するための部材であるアバットメントを取り付け、該アバットメントに歯科用補綴物を配置する。
【0004】
アバットメントは、埋設された人工歯根の深さや向き、及び患者の口腔内の状態に合わせて患者ごとに個別に設計され作製される。その場合、アバットメントは実際に埋設された人工歯根の状態に合わせて作製しなければならないので、アバットメントを作製する前に人工歯根がどのように埋設されているかを知る必要がある。そのため、印象用コーピングを用いて、人工歯根が埋設された姿勢の情報(深さや向き)を、アナログ(人工歯根のレプリカ)を含む石膏模型であるアナログ模型に転写することが行われる。そして、当該アナログ模型から人工歯根の情報を得る等してアバットメントが作製される。
【0005】
近年では、アバットメントは、3次元形状データを用いて自動的に切削加工を行うことにより作製され、複雑な形状のアバットメントも精度よく作製することができる。そこで、加工のための3次元形状データを得るため、人の口腔内のうち必要な部位の形状、アナログ模型の外形、及び人工歯根の深さや向き等の姿勢情報、を含む3次元形状データを取得する必要がある。
しかしながらこれらのうち、人工歯根の姿勢情報(深さや向き)はアナログに転写されており、このアナログはアナログ模型の内部に埋設されているので、このままでは人工歯根の姿勢情報を3次元形状データとして得ることができない。これに対して、埋設されたアナログを延長するようにしてアナログに取り付けられ、その結果一端側がアナログ模型から突出するように配置されるスキャニングジグが用いられる。すなわち、スキャニングジグは、アナログに対して同軸に取り付けられ、スキャニングジグの端部のうちアナログに接続されていない側の端部がアナログ模型から突出するように露出するので、アナログの方向や位置情報を導くことが可能となる。そして、スキャニングジグを装着したアナログ模型を3次元計測して3次元形状データを取ることにより、スキャニングジグの延長線上に埋設されたアナログの長手方向の向き、及び、スキャニングジグの端部の位置からアナログの位置情報を導くことができる(例えば特許文献1参照)。
【0006】
その際、より精度よく3次元形状データを得るため、スキャニングジグを含むアナログ模型の取得した3次元形状データのうち、スキャニングジグの部分の3次元形状データを、予め準備しておいたスキャニングジグの3次元形状データに置き換えることが行われる。
【0007】
ここで、「スキャニングジグ」なる用語は必ずしも本発明の技術分野において広く用いられる用語ではないが、スキャニングジグに相当する上記した機能を有する部材の名称は当該技術分野において統一された用語が存在しないことから、ここでは、「スキャニングジグ」と記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0123887号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のようなスキャニングジグの従来技術では、スキャニングジグのうちアナログから突出する側の端面には、ネジが挿入される孔やネジ頭が表れていた。すると、このような端面形態に起因して上記したスキャニングジグの3次元形状データの置き換えの際に、スキャニングジグの長手方向位置の置き換え精度に問題が生じる。また、併せてその長手方向を軸としたスキャニングジグの回転方向に関する位置(回転方向の向き)の置き換え精度向上も望まれていた。
このような長手方向の置き換え精度、回転方向の向きの置き換え精度は、アバットメントと人工歯根との嵌合精度に影響を及ぼすので重要である。
【0010】
そこで本発明は上記問題に鑑み、3次元形状データの置き換え精度を向上できるスキャニングジグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明について説明する。ここでは分かり易さのため、図面に付した参照符号を括弧書きで併せて記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
本発明は、アナログ(20)が埋設された模型のアナログ、又は口腔内に埋設された人工歯根(30)に取り付けるスキャニングジグ(10)であって、一方の端部に底を有する有底円筒状の本体(11)と、一端側が本体の円筒状の内側に挿入され、他端側がアナログ又は人工歯根に固定される固定部材(12)と、本体の円筒状の内側に配置される磁石(13)と、を有し、本体は、該本体の端面のうち有底円筒状の底部側の端面には孔及び溝を有しておらず、該端面には傾斜面を具備している、スキャニングジグである。
【0013】
本発明において、アナログ(20)又は人工歯根(30)に装着された姿勢で、本体(11)は、該本体の円筒軸方向については、本体の端面のうち底を有しない側の1つの端面のみがアナログ又は人工歯根に接触するように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アナログ模型のアナログにスキャニングジグを装着して3次元形状データを取得した後、又は口腔内に埋設された人工歯根にスキャニングジグを装着して3次元形状データを取得した後に、当該3次元形状データのうちスキャニングジグの部位を、予め取得しておいたスキャニングジグの3次元形状データに置き換える際に、特にスキャニングジグの長手方向(軸方向)における置き換え精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】1つの形態に係るスキャニングジグの斜視図である。
図2図1にII−IIで示した線に沿った断面図である。
図3】アバットメントの製造工程を説明する流れの図である。
図4】アナログ模型の作製工程を説明する流れの図である。
図5】3次元データの作成工程を説明する流れの図である。
図6】スキャニングジグの装着工程を説明する1つの図である。
図7】スキャニングジグの装着工程を説明する他の図である。
図8】スキャニングジグがアナログに装着された場面を表す図である。
図9図8のIX部分を拡大した図である。
図10】アバットメントの製造工程の他の例を説明する流れの図である。
図11】スキャニングジグの装着工程を説明する流れの図である。
図12】スキャニングジグが口腔内の人工歯根に装着された場面を示す模式図である。
図13】3次元データの作成工程を説明する流れの図である。
図14】他の形態に係るスキャニングジグの断面図で図8に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、1つの形態に係るスキャニングジグ10の外観斜視図である。また、図2図1にII−IIで示した線を含むスキャニングジグの長手方向(軸方向)に沿った断面図である。図1図2からわかるようにスキャニングジグ10は、本体11、固定部材12、及び磁石13を備えている。
【0018】
本体11は、一方の端部側のみに底を有する有底円筒状の部材であり、図2に表れているように、その内側に中空部11aが形成されている。中空部11aは後述するように固定部材12を挿入することができる大きさ及び形状である。
【0019】
本体11では、有底円筒状の底側の端面であるとともにスキャニングジグ10の一方の端面を構成する側の端面11bには孔や溝がなく、該端面11bの面積を大きくとれるように構成されている。さらにこの端面11bにはその一部に傾斜面11cが形成されている。
また、本形態では本体11はその外周側において、円筒状の長手方向一端側と他端側とで外径が異なるように形成されている。当該外径が変化する部位はテーパ11gとされている。本形態では外径が変化する部分をテーパとしたがこれに限定されることはなく、例えば急激に外径が変化する段差であってもよい。
【0020】
本体11の長手方向端面のうち、底が存在する端面11bとは反対側で、中空部11aに通じる開口を有する側には、軸方向位置決め手段として機能する端面11eが形成される。また、端面11eの一部には、回転方向位置決め手段として機能する突起11fが設けられている。
さらに、端面11eのうち突起11fが設けられていない一部からは、本体11を長手方向(軸方向)に延長する方向に円筒状の嵌合部11dが延びるように配置されている。嵌合部11dは、本体11の径方向位置決め手段としても機能し、後述するようにアナログ模型に埋設されたアナログ、又は口腔内に埋設された人工歯根の被嵌合部(例えば図6の被嵌合部20d参照)に差し込むことができるように形成されている。本形態では嵌合部11dは端面11eのうち中空部11a側に設けられている。
【0021】
本体11は加工精度及び精度維持効果が高い材料である金属、又は樹脂により形成される。さらに計測装置に誤作動を生じさせない材料であることが好ましい。例えばレーザー光を用いて計測を行う場合には樹脂が好ましく、その中でも高精度な加工との両立が図れる観点からエンジニアリングプラスチックが最も好ましい。
【0022】
固定部材12は、本体11の中空部11a内に配置される固定部材であり、本形態ではネジにより構成される。本形態の固定部材12は、一方の端部に設けられたネジ部12aが本体11から突出するように配置され、これがアナログの中空部20a(図6参照)、又は人工歯根の中空部20a(図12参照)、に螺合する。固定部材12の他端にはネジ頭が形成されている。
また、固定部材12は、磁石により吸引される材料により形成されている。
【0023】
磁石13は、本体11の中空部11aのうち、有底円筒の最も底側に配置された磁石である。磁石13は、固定部材12が繰り返し使用される観点から、減磁しにくい材質であることが好ましい。磁石は永久磁石が使用しやすく、小型でできるだけ強い磁束が得られるとよい。このため、SmCo系磁石又はNdFe系磁石等の希土類磁石が好ましい。また、その形状は、用いられる条件にもよるが、通常は円筒状又は円柱状である。
【0024】
このようなスキャニングジグ10によれば、後述するようにスキャニングジグ10をアナログ模型内のアナログ又は口腔内の人工歯根に装着することができる。これによりスキャニングジグ10が、アナログ模型内部に埋設されたアナログ又は口腔内の人工歯根を延長する方向にアナログ模型又は歯肉から突出するように配置される。そして、突出した部分におけるスキャニングジグを計測することによりアナログ又は人工歯根の埋設姿勢を求めることができるようになる(図8図12参照)。
【0025】
また、スキャニングジグ10によれば、端面11bに孔や溝がなく、傾斜面11cを含めてスキャニングジグ10の端面の面積を大きく形成することができる。これにより、後述するように、スキャニングジグ10をアナログ模型又は口腔内に装着してこれを3次元測定して得た形状測定データを、予め準備したスキャニングジグの3次元データに置き換える際に、スキャニングジグ10の長手方向(軸方向)における置き換え精度を向上させることができる。従来においてはスキャニングジグの端面には孔が設けられて円環状であったり、ネジ頭による溝があったりすることから、面積を大きくとることができなかった。データの置き換えは対象とする面に基づいて行うので、面積を大きくとることができないと面の認識精度が低下してしまうことから、置き換え精度が低くなっていた。これに対してスキャニングジグ10では上記のように傾斜面11cを含む端面11bにおいて面積を大きくとることができるので長手方向位置の置き換え精度の向上を図ることができる。なお、スキャニングジグ10の長手方向以外については、本体11の外周面が十分な面積を有しているので、これにより精度のよい置き換えが行われる。
【0026】
また、端部11bに傾斜面11cが設けられていることにより、スキャニングジグ10の回転軸(本体11の円筒軸)を中心とした回転方向における向きを表すことができる。これにより回転方向向きの置き換え精度も向上させることが可能となる。また、傾斜面11cの形態を、例えば人工歯根の種類によって変えることにより、どの種類の人工歯根が適用されているかについての情報も併せて得ることができる。従って、傾斜角度や傾斜面の面積、傾斜面の形態は本形態に限定されることなく適宜変更することができる。
【0027】
また、本体11は固定部材12の上から被せるだけで配置することができ、本体11と固定部材12とは磁石13により安定して配置されるので、簡易な配置で安定して装着を維持することが可能である。
【0028】
さらに、後で詳しく説明するように、本体11の軸方向、回転方向、径方向の位置決めがそれぞれがアナログ、又は人工歯根に対して1か所の接触部位(位置決め手段)によって行われるので、それぞれの位置決めが他の部位の影響を受けず、位置決め精度を高めることができる。具体的には、本体11の軸方向は軸方向位置決め手段としての端面11eのみがアナログ又は人工歯根に接触して位置決めされる。すなわち嵌合部11dの端面はアナログ20、人工歯根30には接触することなく、また、本体11、及び磁石13は固定部材12と軸方向には接触していない(図8図12参照)。
本体11の回転方向は回転方向位置決め手段としての突起11fのみがアナログ又は人工歯根との位置関係を規制している。
また本体11の径方向は径方向位置決め手段としての嵌合部11dの外周部のみがアナログ又は人工歯根との位置関係を決めている。
【0029】
次に、スキャニングジグ10を用いてアバットメントを製造する方法の1つの例である、アバットメント製造方法S1について説明する。本方法はアナログ模型を用いたアバットメントの製造方法である。図3にはアバットメント製造方法S1の流れを示した。図3からわかるように、アバットメント製造方法S1は、アナログ模型の作製工程S10、3次元データの作成工程S20、及びアバットメントの作製工程S30を含んでいる。以下、それぞれについて説明する。
【0030】
アナログ模型の作製工程S10は、アナログ20が埋設されたアナログ模型を作製する工程である。これには公知の工程を適用することができる。図4はアナログ模型の作製工程S10の流れの一例を示した。すなわちアナログ模型の作製工程S10は、人工歯根の埋設工程S11、印象用コーピングによる印象採得工程S12、及びアナログ模型の形成工程S13を有している。
【0031】
人工歯根の埋設工程S11は、歯牙の欠損部における顎骨に人工歯根を埋設する孔を開け、人工歯根を埋設する工程である。
印象用コーピングによる印象採得工程S12は、埋設した人工歯根が顎骨に十分結合した後に印象用コーピングにより印象を取得する工程である。印象用コーピングによる印象取得は公知の方法で行うことができる。
アナログ模型の形成工程S13は、印象用コーピングによる印象採得工程S12で採得した印象及び印象内の印象用コーピングにアナログを取り付け、これに基づいて石膏模型を作製する工程である。すなわち、アナログが埋設された石膏模型であるアナログ模型が形成される。
当該アナログ模型のアナログには、その患者における人工歯根の配置が精度よく転写されている。
【0032】
図3に戻り説明を続ける。3次元データの作成工程S20は、製作すべきアバットメントの3次元形状データを作成する工程である。3次元データの作成工程S20は例えば図5に示したように行うことができる。図5には、3次元データの作成工程S20の流れを示した。すなわち3次元データの作成工程S20は、スキャニングジグの装着工程S21、3次元計測工程S22、データの置き換え工程S23、及びアバットメントデータの作成工程S24を含んでいる。
【0033】
スキャニングジグの装着工程S21は、アナログ模型の作製工程S10で製作したアナログ模型に対し、上記説明したスキャニングジグ10を装着する工程である。図6乃至図9にその順等を模式的に図で表した。
【0034】
図6にはアナログ模型に埋設されているアナログ20の形態を模式的に示した。
アナログ20も、一方にのみ底を有する有底円筒状の部材であり、その内側に中空部20aが形成されている。中空部20aにはスキャニングジグ10の固定部材12が螺合できるように雌ネジ溝が形成されている。
アナログ20の長手方向端面のうち、中空部20aに通じる開口を有する側は、スキャニングジグ10の本体11の軸方向位置決め手段として機能する端面11eに接触する端面20bとなる。また、端面20bの一部には、アナログ20の円筒状である壁部を径方向に切り欠くように溝20cが設けられている。
さらに、端面20bの一部からは、アナログ20の長手方向に沿って掘り下げられるように切り欠かれた被嵌合部20dが形成されている。
このようなアナログ20は図6からわかるように、アナログ模型の外観形状を構成する石膏の中に埋設されており、アナログ模型の外観からはアナログ20の埋設角度や深さを視認することができない。
【0035】
このようなアナログ模型に設置されたアナログ20に対して、図7に示したようにネジ部12aが配置された固定部材12の一方の端部側を螺合するようにして固定部材12を取り付ける。これは中空部20aに形成された雌ネジ溝に固定部材12のネジ部12aを螺合することにより行われる。
【0036】
次に図7に直線矢印で示したように、アナログ20に立設された固定部材12に被せるように、本体11を設置する。その際には固定部材12のネジ頭が配置された他方の端部側を本体11の中空部11aに挿入する。
【0037】
図8には、以上のようにしてスキャニングジグ10がアナログ模型に装着された場面の模式図を示した。また、図9には図8にIXに示した部位を拡大した図を表した。図8図9からわかるように、本体11の軸方向については、軸方向位置決め手段としての端面11eがアナログ20の端面20bに接触することによってのみ本体11の軸方向の位置が決められている。従って嵌合部11dの端面はアナログ20には接触することなく、本体11、及び磁石13は固定部材12と軸方向には接触していない。
また、本体11の回転方向については、回転方向位置決め手段としての突起11fがアナログ20の溝20c内に入ることによってのみ本体11の回転方向の位置が決められている。
さらに、本体11の径方向については、径方向位置決め手段としての嵌合部11dがアナログ20の被嵌合部20dに挿入されることによってのみ本体11の径方向位の位置が決められている。
このように、本体11の軸方向、回転方向、径方向の位置決めがそれぞれの位置決め手段によってのみアナログ20に対して1か所の接触部位(位置決め手段)で行われるので、それぞれの位置決めが他の部位の影響を受けず、位置決め精度を高めることができる。
【0038】
また、本体11は固定部材12の上から被せるだけで配置することができ、ネジ等による固定を要することなく、本体11と固定部材12とは磁石13の吸引力により安定して配置されるので、簡易な配置及び安定した装着が可能である。ここで磁石13と固定部材12とは直接接触することはないが、近づいて配置されるので吸引力が作用している。
従来のように、ネジでアナログ又は人工歯根に固定されていたスキャニングジグでは、ネジによる固定の際にその力加減が使用者によって異なり、ネジを締める力が強すぎるとスキャニングジグがアナログ又は人工歯根に沈みこんでしまったり、また嵌合部が変形したりして誤差が生じる虞があった。これに対して、本発明に係るスキャニングジグ10は磁力により固定されるため、スキャニングジグを固定する力を一定にすることができ、従来のような誤差を生じることがない。
【0039】
以上のようにスキャニングジグ10が、アナログ模型内部に埋設されたアナログ20を延長する方向にアナログ模型から突出するように配置され、スキャニングジグ10が装着されたアナログ20が形成され、アナログ20の埋設姿勢を導くことができるようになる。
このとき、アナログ模型のうち歯肉部分の模型は外しておくことが好ましい。
【0040】
図5に戻り説明を続ける。3次元計測工程S22は、スキャニングジグ10が装着されたアナログ模型の形状を3次元計測する工程である。これにより、アナログ模型、及びここに取り付けられたスキャニングジグ10の形状を3次元の形状データとして取得することができる。ここでは通常の3次元測定機を用いることができる。
【0041】
データの置き換え工程S23は、予め準備しておいた人工歯根の3次元形状データ及びスキャニングジグの3次元形状データを、3次元計測工程S22で得た3次元形状データの対応する部位に置き換える工程である。すなわち、アナログ模型の3次元形状データのうちのスキャニングジグ10が配置された部位に、予め準備しておいたスキャニングジグの3次元形状データを当てはめるように置き換える。また、当該スキャニングジグ10から導くことができるアナログ20の部位に対して、予め準備しておいた人工歯根の3次元形状データを当てはめる。このような置き換えは公知の方法を適用することができる。
【0042】
ここではスキャニングジグ10を用いているので、スキャニングジグ10の傾斜面11cを含めた端面11bの面積が大きくとられており、該スキャニングジグ10の軸方向(長手方向)の置き換え精度が向上されている。また、傾斜面11cの形状により、回転方向の向きのデータの置き換え精度も向上する。
【0043】
アバットメントデータの作成工程S24は、ここまでに得られた3次元形状データに基づいて、患者に適切なアバットメントの3次元形状データを作成する工程である。特にデータ置き換え工程S23で精度のよい置き換えができているので、当該精度向上がアバットメントデータにも適切に反映され、より患者に適合したアバットメントのデータを作成することが可能である。
【0044】
図3に戻って引き続きアバットメント製造方法S1について説明する。アバットメントの作製工程S30は、上記3次元データの作成工程S20で作成された3次元形状データに基づいてアバットメントを作製する工程である。この工程では、公知の方法を用いることができるが、例えば当該3次元形状データをマシニングセンタ等のNC工作機械に提供することにより高精度でアバットメントを作製する。
【0045】
次に、スキャニングジグ10を用いてアバットメントを製造する方法の他の1つの例である、アバットメント製造方法S101について説明する。本方法は口腔内に埋設された人工歯根30に直接スキャニングジグ10を用いてアバットメントを製造する方法である。図10にはアバットメント製造方法S101の流れを示した。図10からわかるように、アバットメント製造方法S101は、スキャニングジグの装着工程S110、3次元データの作成工程S120、及びアバットメントの作製工程S130を含んでいる。以下、それぞれについて説明する。
【0046】
スキャニングジグの装着工程S110は、口腔内に埋設された人工歯根30にスキャニングジグ10を装着する工程である。図11にスキャニングジグの装着工程S110の流れを示した。すなわちスキャニングジグの装着工程S110は、人工歯根の埋設工程S111、及びスキャニングジグの取り付け工程S112を有している。
【0047】
人工歯根の埋設工程S111は、歯牙の欠損部における顎骨に人工歯根30を埋設する孔を開け、人工歯根30を埋設する工程である。
スキャニングジグの取り付け工程S112は、埋設した人工歯根30が顎骨に十分結合した後に、埋設した人工歯根30にスキャニングジグ10を取り付ける工程である。人工歯根30へのスキャニングジグ10の取り付け手順は、上記説明したスキャニングジグの装着工程S21と同様であり、アナログ20への取り付けの代わりに人工歯根30へのスキャニングジグ10の取り付けを行う。人工歯根30は、若干の形状及び材質等の違いはあるものの、アナログ20と概ね同様の形状を具備している。図12にはスキャニングジグ10が人工歯根30に装着された場面の模式図を示した。図12では人工歯根30のうちアナログ20と同様の形状を有している部位についてはアナログ20と同じ符号を付した。
これにより、スキャニングジグが装着された人工歯根30が形成される。そしてスキャニングジグ10が、口腔内に埋設された人工歯根30を延長する向きに歯肉から突出するように配置され、人工歯根30を計測することができるようになる。
【0048】
図10に戻ってアバットメント製造方法S101について説明を続ける。3次元データの作成工程S120は、製作すべきアバットメントの3次元形状データを作成する工程である。3次元データの作成工程S120は例えば図13に示したように行うことができる。すなわち3次元データの作成工程S120は、3次元計測工程S121、データの置き換え工程S122、及びアバットメントデータの作成工程S123を含んでいる。
【0049】
3次元計測工程S121は、スキャニングジグ10が装着された口腔内の表面形態を3次元計測する工程である。これにより、スキャニングジグ10が装着された周囲の口腔内形状、及びここに取り付けられたスキャニングジグ10の形状を3次元のデータとして取得することができる。口腔内の3次元データの取得は口腔内3次元計測機を用いることが可能である。
【0050】
データの置き換え工程S122は、予め準備しておいた人工歯根の3次元形状データ及びスキャニングジグ10の3次元形状データを、3次元計測工程S121で得た3次元形状データの対応する部位に置き換える工程である。すなわち、口腔内の3次元データのうちのスキャニングジグが配置された部位に、予め準備しておいたスキャニングジグの3次元形状データを当てはめるように置き換える。また、当該スキャニングジグと嵌合されていることにより、その位置を導くことができる人工歯根の部位に対して、予め準備しておいた人工歯根の3次元形状データを当てはめる。
【0051】
ここではスキャニングジグ10を用いているので、スキャニングジグ10の傾斜面11cを含めた端面11bの面積が大きくとられており、該スキャニングジグ10の軸方向(長手方向)の置き換え精度が向上されている。また、傾斜面11cの形状により、回転方向の向きのデータ置き換え精度も向上するとともに、患者に埋設されている人工歯根の種類等の情報も取得することが可能となる。
【0052】
アバットメントデータの作成工程S123は、ここまでに得られた3次元形状データに基づいて、患者に適切なアバットメントの形状データを作成する工程である。特にデータの置き換え工程S122で精度のよい置き換えができているので、当該精度向上がアバットメントデータにも適切に反映され、患者により適合したアバットメントデータを作成することが可能である。
【0053】
図10に戻ってアバットメント製造方法S101について説明を続ける。アバットメントの作製工程S130は、上記3次元データの作成工程S120で作成された3次元形状データに基づいてアバットメントを作製する工程である。この工程では、例えば当該3次元データをマシニングセンタ等のNC工作機械に提供することにより高精度でアバットメントを作製する。
【0054】
図14は他の形態に係るスキャニングジグ110が、アナログ120が埋設されたアナログ模型に装着された場面を表す図であり、図8と同じ視点による図である。
上記したスキャニングジグ10では、本体11の端面11eの一部から嵌合部11dが突出し、アナログ20には嵌合部11dが挿入されるように切り欠かれた被嵌合部20dが形成される形態であった。
これに対して、本形態のスキャニングジグ110では、本体111の端面11eのうち中空部11a側に、軸方向に切り欠かれるように被嵌合部111dが形成されている。そして端面11eの一部にはスキャニングジグ10と同様に突起11fが設けられている。一方、アナログ120の端面20bの一部のうち中空部20a側からアナログ120を延長する方向に円筒状の嵌合部120dが設けられている。そして端面20bの一部には突起11fが入る溝20cが形成されている。
【0055】
スキャニングジグ110のこのような形態は、アナログ120の端部形態に基づいたものである。すなわち、図14からわかるように、アナログ120は、基本的な構造は上記したアナログ20と同様であるが、突出する嵌合部120dを備えているので、これに対応してスキャニングジグ110の本体111側に被嵌合部111dが設けられている。嵌合部120dの端面は本体111には接触しないこと等、このようなスキャニングジグ110によってもスキャニングジグ10と同様の効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0056】
10 スキャニングジグ
11 本体
12 固定部材
13 磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14