特許第5755499号(P5755499)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755499
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】太陽電池及び太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20150709BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-116362(P2011-116362)
(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2012-244135(P2012-244135A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2013年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100155527
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 優
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100133651
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 慶子
(72)【発明者】
【氏名】慈幸 範洋
(72)【発明者】
【氏名】水野 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】志田 陽子
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−086770(JP,A)
【文献】 特表2002−524882(JP,A)
【文献】 特開昭61−136276(JP,A)
【文献】 特開2011−099059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/06−31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn、Sn及びOを含有する薄膜状のn層、並びにp層を備え、
上記n層におけるZnとSnとの原子数比が60:40以上80:20以下であり、
上記n層の膜厚が10nm以上1μm以下であり、
上記p層がカルコゲナイド化合物を含有する太陽電池。
【請求項2】
上記n層が単層である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
上記n層の波長400nm以上600nm以下における平均吸収係数が1,500cm−1以下である請求項1又は請求項2に記載の太陽電池。
【請求項4】
上記p層とn層との間に形成される中間層をさらに備え、この中間層がInを含有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の太陽電池。
【請求項5】
Zn、Sn及びOを含有し、ZnとSnとの原子数比が60:40以上80:20以下であるスパッタリングターゲットを用いたスパッタ法により、透明電極膜の表面にZn、Sn及びOを含有する薄膜をn層として形成する工程
を有し、
上記n層の膜厚が10nm以上1μm以下である太陽電池の製造方法。
【請求項6】
上記薄膜に、酸素雰囲気下で熱処理を行う工程
をさらに有する請求項に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、スパッタリングターゲット及び太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に用いられる半導体材料としては、シリコン系(多結晶シリコン、単結晶シリコン等)や、III−V族化合物(GaAs系等)が広く採用されている。このシリコン系及びIII−V族化合物を用いた太陽電池は変換効率(発電効率)が高いものの、材料費が高い。このため、コストパフォーマンスの観点から、層構造を有する薄膜型太陽電池が期待されている。
【0003】
この薄膜型太陽電池の各層を構成する材料としては、薄膜シリコン、CIGS、CdTe、有機半導体材料等が知られている。これらのうち、例えばCdTeはCd及びTeといった有害な物質が用いられるため安全性に不安があるなど、いずれも実用化に向けた課題が残る。そこで、薄膜型太陽電池に好適な新たな材料の開発が期待されている。
【0004】
このような中、薄膜型太陽電池の材料として、Cu(In,Ga)Se、CuInS2、AgInSe等のカルコゲナイド化合物が注目されている。このカルコゲナイド化合物は、非真空プロセスであるスプレー熱分解法で成膜が可能であるため、製造設備コストを低く抑えることが可能である。上記カルコゲナイド化合物を用いた太陽電池として、非特許文献1には、TiO(n層)/In(中間層)/CuInS(p層)の構成を有し、全層がスプレー熱分解法で成膜された太陽電池が開示されている。しかしながら、上記太陽電池は、変換効率が低く、実用化に至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nanotechnology 18(2007)055702
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、新規な材料から形成されるn層を備え、変換効率に優れる太陽電池、この太陽電池の製造に好適に用いることができるスパッタリングターゲット、及びこのような太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
Zn、Sn及びOを含有する薄膜状のn層を備え、
このn層におけるZnとSnとの原子数比が20:80以上80:20以下である太陽電池である。
【0008】
当該太陽電池によれば、n層が、Zn、Sn及びOを含有し、ZnとSnとの含有比を特定範囲としていることで、優れた変換効率を発揮することができる。
【0009】
上記n層の波長400nm以上600nm以下(以下、特定波長領域ともいう。)における平均吸収係数を1,500cm−1以下とするとよい。上記特定波長領域におけるn層の吸収係数をこのように低く抑えることで、当該太陽電池の変換効率をより高めることができる。
【0010】
上記n層の膜厚を10nm以上1μm以下とするとよい。当該太陽電池は、n層の膜厚を上記範囲とすることで、変換効率をさらに高めることができる。
【0011】
当該太陽電池が、カルコゲナイド化合物を含有するp層を備えることが好ましい。カルコゲナイド化合物を含有するp層は、上述のように非真空プロセスであるスプレー熱分解法で成膜が可能である。一方、Zn、Sn及びOを含有する上記n層は、スパッタ法で成膜することができる。従って、当該太陽電池によれば、大面積化が比較的容易であり、生産性も高めることができる。
【0012】
当該太陽電池が上記p層とn層との間に形成される中間層をさらに備え、この中間層がInを含有するとよい。当該太陽電池によれば、Inを含有する中間層を備えることで、変換効率をさらに高めることができる。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットは、
太陽電池のn層を形成するために用いられ、
Zn、Sn及びOを含有し、ZnとSnとの原子数比が20:80以上80:20以下のスパッタリングターゲットである。当該スパッタリングターゲットは、太陽電池のn層を形成するために好適である。
【0014】
本発明の太陽電池の製造方法は、
上記スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法により、透明電極膜の表面にZn、Sn及びOを含有する薄膜を形成する工程
を有する。
【0015】
当該製造方法によれば、大面積で均一な膜厚を有し、かつ、安定した組成を有する薄膜を形成することができる。この薄膜は上述のとおり太陽電池のn層として好適であるため、当該製造方法によれば、変換効率に優れる太陽電池を得ることができる。
【0016】
当該製造方法は、上記薄膜に、酸素雰囲気下で熱処理を行う工程
をさらに有することが好ましい。当該製造方法によれば、このような熱処理を施すことで上記薄膜の特定波長領域における透明性を高めることができるため、得られる太陽電池の変換効率をより高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の太陽電池は、n層が、Zn、Sn及びOを含有し、ZnとSnとの含有比を特定範囲としていることで、優れた変換効率を発揮することができる。さらに、当該太陽電池は、大面積化や生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の太陽電池の一実施形態を示す模式的側面図
図2】参考例における吸収係数を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の太陽電池、スパッタリングターゲット及び太陽電池の製造方法の実施の形態を詳説する。
【0020】
<太陽電池>
図1の太陽電池10は、薄膜型の太陽電池である。当該太陽電池10は、透明基板1、透明電極膜2、n層3、中間層4、p層5及び金属電極膜6を備える。
【0021】
透明基板1は、透明な材料から形成されている。透明基板1の材料としては、例えば、ケイ酸アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスや、アクリル樹脂、PET等の合成樹脂などを用いることができる。これらの中でも、強度や熱安定性等の点から、ガラスが好ましい。また、このガラスは、化学的に又は熱的に強化されたものが好ましい。
【0022】
透明基板1の厚さとしては、特に限定されないが、通常0.1mm以上10mm以下程度である。なお、この透明基板1は、例えば合成樹脂製で、かつ厚さを薄く設けたフレキシブル基板であってもよい。
【0023】
透明電極膜2は、透明基板1の表面に薄膜状に積層されている。この透明電極膜2は、導電性を有し、かつ透明な材料から形成されている。透明電極膜2の材料としては、例えば、In:Sn(ITO)、SnO:Sb、SnO:F(FTO)、ZnO:Al、ZnO:F、CdSnO等の金属酸化物を挙げることができる。透明電極膜2の厚さとしては、特に限定されず、例えば100nm以上10μm以下とすることができる。
【0024】
n層3は、透明電極膜2の表面に薄膜状に積層されている。n層3は、Zn(亜鉛)、Sn(錫)及びO(酸素)を含有している。なお、このn層3には、本発明の効果を阻害しない範囲でZn、Sn及びO以外の他の成分を含んでいてもよい。Zn、Sn及びO以外の他の成分の含有量としては、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
このn層3におけるZnとSnとの原子数比としては、20:80以上80:20以下であり、25:75以上75:25以下が好ましく、30:70以上70:30以下がさらに好ましい。当該太陽電池10によれば、n層3が、Zn、Sn及びOを含有し、かつZnとSnとの含有比を特定範囲としていることで、優れた変換効率を発揮することができる。
【0026】
なお、波長400nm以上600nm以下における吸収係数を低く抑える点等からは、n層3を構成する上記ZnとSnとの原子数比が、45:55以上80:20以下であることが好ましく、60:40以上70:30以下であることがさらに好ましい。
【0027】
n層3におけるOの含有量としては特に限定されないが、Zn、Sn及びOの合計を100原子%とした場合、20原子%以上80原子%以下が好ましく、40原子%以上70原子%以下がさらに好ましい。Oの含有量を上記範囲とすることで、n層3中における酸素過多及び酸素欠陥が低減され、これらに由来する光の吸収を低減させることができる。
【0028】
n層3の波長400nm以上600nm以下における平均吸収係数としては、1,500cm−1以下が好ましく、1,400cm−1以下がより好ましく、1,300cm−1以下がさらに好ましく、1,200cm−1以下が特に好ましい。n層3の上記波長に対する吸収係数をこのように低く抑えることで、当該太陽電池10の変換効率をより高めることができる。n層3における上記波長範囲の吸収係数が上記上限を超えると、p層5で吸収すべき光の強度が低下し、変換効率が低下することとなる。なお、この平均吸収係数は、低いほど好ましいが、材料の特性上、下限としては、例えば200cm−1とすることができ、500cm−1とすることが好ましい。
【0029】
n層3の膜厚(平均膜厚)としては、10nm以上1μm以下が好ましく、20nm以上800nm以下がより好ましく、40nm以上500nm以下がさらに好ましい。当該太陽電池10は、n層3の膜厚を上記範囲とすることで、変換効率をさらに高めることができる。n層3の膜厚が上記下限未満の場合は、所望する範囲を完全に被覆されない場合があり、変換効率が低下するおそれがある。逆に、n層3の膜厚が上記上限を超える場合は、抵抗が高くなるため好ましくない。
【0030】
中間層4は、n層3の表面に薄膜状に積層されている。当該太陽電池10は、中間層4を備えることで、n層3及びp層5でそれぞれ生じる電子と正孔との再結合を抑制することができ、変換効率をさらに高めることができる。
【0031】
中間層4を形成する材料は特に限定されず、n層3及びp層5を形成する各材料の電気特性等に応じて適宜選択される。例えば、p層5がカルコゲナイド化合物、特にCuInSから形成されている場合、中間層4を形成する材料としては、Inを含むことが好ましい。中間層4がInを含むことで、当該太陽電池10の変換効率をさらに高めることができる。また、Inを含有する中間層は、非真空プロセスであるスプレー熱分解法で成膜が可能である。従って、この場合、製造設備コストを抑え、生産性を高めることができる。この中間層4におけるInの含有率としては、90質量%以上100質量%以下が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましい。
【0032】
中間層4の膜厚(平均膜厚)としては特に限定されないが、例えば10nm以上1μm以下が好ましく、40nm以上400nm以下がさらに好ましい。中間層4の膜厚を上記範囲とすることで、上述の再結合抑制能を効果的に発揮させることができる。
【0033】
p層5は、中間層4の表面に薄膜状に積層されている。p層5を形成する材料としては、n層3との関係で起電力を生じうるものを適宜用いることができるが、カルコゲナイド化合物を含む材料から形成されることが好ましい。カルコゲナイド化合物を含むp層は、非真空プロセスであるスプレー熱分解法で成膜が可能である。従って、当該太陽電池10によれば、製造設備コストを抑え、生産性を高めることができる。このp層5におけるカルコゲナイド化合物の含有率としては、90質量%以上100質量%以下が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましい。
【0034】
上記カルコゲナイド化合物とは、S(硫黄)、Se(セレン)又はTe(テルル)を含む化合物を言う。このカルコゲナイド化合物の中でも、I−III−VI族化合物が好ましく、S(硫黄)を含む化合物がより好ましく、CuInSがさらに好ましい。p層5を上記化合物から形成することで、当該太陽電池10の変換効率をさらに高めることができる。
【0035】
p層5の膜厚(平均膜厚)としては、特に限定されないが、100nm以上20μm以下が好ましく、500nm以上5μm以下がさらに好ましい。p層5の平均膜厚を上記範囲とすることで、効率的な発電を行うこと等が可能となる。
【0036】
金属電極膜6は、p層5の表面に薄膜状に積層されている。この金属電極膜6を形成する材料としては、金属である限り特に限定されないが、Pt、Al、Au、Cu、Ti、Ni等を用いることができる。また、この金属電極膜6の膜厚(平均膜厚)としては、例えば10nm以上1μm以下とすることができる。
【0037】
当該太陽電池10によれば、透明基板1側から太陽光等の光が照射されることで、両電極(透明電極膜2及び金属電極膜6)間で電位差が生じ、光を電力に変換することができる。
【0038】
<太陽電池の製造方法>
当該太陽電池10は特に限定されず、各層を順に形成することで得ることができるが、
(1)スパッタ法により、透明電極膜2の表面にZn、Sn及びOを含有する薄膜を形成する工程(工程1)、及び
(2)上記薄膜に、酸素雰囲気下で熱処理を行う工程(工程2)
を有する製造方法により好適に製造することができる。この工程1及び2を経ることで、透明電極膜の表面にn層を効率的に形成することができる。
【0039】
(工程1)
上記工程1においては、スパッタ法により、透明電極膜2の表面にZn、Sn及びOを含有する薄膜を形成する。なお、上記透明電極膜2は、透明基板1上に積層されている。
【0040】
このようにスパッタ法を用いることで、大面積で均一な膜厚で薄膜(n層3)を成膜することができる。また、スパッタ法を用いることで、組成が安定した成膜が可能となる。すなわち、スパッタリングターゲットの組成を調整することで、得られる薄膜(n層3)の組成(構成元素の比)を容易に調整することができる。
【0041】
このスパッタ法の際の成膜条件としては特に限定されないが、例えば真空到達度を1×10−4Pa以上50×10−4Pa以下、成膜時圧力を0.1Pa以上5Pa以下、成膜温度を室温として行うことができる。このような条件でスパッタリングすることで、スパッタリングターゲットと得られる薄膜との成分組成を略同一とすることができるなど、得られる薄膜の制御を容易にすることができる。その他の条件等は、所望する膜厚等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
ここで、工程1のスパッタ法に好適に用いられるスパッタリングターゲットについて説明する。
【0043】
(スパッタリングターゲット)
当該スパッタリングターゲットは、Zn、Sn及びOを含有し、ZnとSnとの原子数比が20:80以上80:20以下である。このスパッタリングターゲットにおける好ましい成分組成(ZnとSnとの原子数比及びOの含有量等)は、上述したn層3と同様である。
【0044】
当該スパッタリングターゲットは、公知の方法で製造することができる。例えば、ZnO及びSnOの粉末を混合し、焼結することで、得ることができる。この際、ZnO及びSnOの混合比を調整することで、Zn、Sn及びOの含有比を調整することができる。
【0045】
(工程2)
上記工程2においては、上記薄膜に、酸素雰囲気下で熱処理を行う。当該製造方法によれば、このような熱処理を施すことで上記薄膜の特定波長領域における透明性を高めることができ、その結果、得られる太陽電池の変換効率をより高めることができる。これは、熱処理を行わない薄膜においては酸素欠陥による準位が多くあり、この準位による光吸収が生じるためであると考えられる。すなわち、上記熱処理を施すことにより欠陥準位が減少し、その結果吸収係数が低下することとなる。なお、欠陥準位により光が吸収されるとp層で吸収すべき光の強度が減少するため、当該太陽電池の変換効率が低下することとなる。
【0046】
この工程2における酸素雰囲気下としては、特に限定されず、大気下でよい。また、熱処理の温度としては、例えば150℃以上1,000℃以下であり、200℃以上500℃以下を含むことが好ましい。また、熱処理時間としては、30分以上6時間以下程度である。
【0047】
上記工程2としては、スプレー熱分解法により中間層及び/又はp層を形成する場合、この際の加熱処理をそのまま利用することができる。この場合、上記薄膜(n層3)上に、中間層4及びp層5をこの順にスプレー熱分解法により形成する。なお、スプレー熱分解法は、非真空プロセスである。このため、中間層4及びp層5の形成にスプレー熱分解法を用いることで、製造設備コスト等を抑えることができ、生産性及び実用性を高めることができる。
【0048】
このスプレー熱分解法としては、公知の方法で行うことができるが、例えば以下の条件で各層を形成することができる。
【0049】
中間層(In層の場合)
原料:InCl及びSC(NH
前駆体(原料)の溶媒:蒸留水
基板温度:150〜250℃
キャリアガス:空気
噴霧頻度:30秒ごとに噴霧(1秒)を1〜5回
成膜時間:10分〜1時間
【0050】
p層(CuInS層の場合)
原料:CuCl−2HO、InCl及びSC(NH
前駆体(原料)の溶媒:蒸留水
基板温度:250〜350℃
キャリアガス:空気
噴霧頻度:30秒ごとに噴霧(1秒)を1〜5回
成膜時間:30分〜3時間
【0051】
上述のようにp層5を形成後、このp層5上に金属電極膜6を形成する。この金属電極膜6の形成方法としては特に限定されず、例えばスパッタ法等により成膜することができる。この金属電極膜5の形成により、太陽電池10を得ることができる。
【0052】
なお、本発明の太陽電池、スパッタリングターゲット及び太陽電池の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の太陽電池において、中間層は必須ではなく、いわゆるpn接合型の太陽電池であってもよい。また、複数のp層又はn層や、その他の層をさらに備えていてもよい。さらには、金属電極膜の代わりに透明電極膜を用い、両面から光を照射する構成をとっていてもよい。また、製造方法においてもp層、中間層及びn層を公知の別の方法、例えば真空蒸着法やCVD法等により設けてもよい。さらには、中間層やp層の形成工程と独立して、p層となる薄膜に対する熱処理を施してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
透明導電膜SnO:F(FTO)が成膜されたガラス基板上に、Zn、Sn及びOを含有するn層をスパッタリング法により成膜した。成膜条件を以下に記す。
成膜装置:株式会社アルバック製CS−200
到達真空度:5.0×10−4Pa
ターゲット組成:Zn−Sn−Oターゲット(Zn:Sn=1:1(原子数比))
ターゲットサイズ:直径4inch
電源:DC
成膜電力:200W
成膜時ガス流量:Ar_49sccm、O_1sccm
成膜時圧力:0.7Pa
基板温度:室温
膜厚:500nm
なお、上記Zn−Sn−Oターゲットは、ZnO及びSnOの粉末をモル比1:1で混合し、焼結することで得たものである。
【0055】
続いて、n層の表面に、下記成膜条件で、スプレー熱分解法により中間層(In層)を成膜した。
原料:InCl(0.01M)、SC(NH(0.02M)
前駆体(原料)の溶媒:蒸留水30ml
基板温度:200℃
噴霧器先端と基板の距離:30cm
キャリアガス:空気
噴霧頻度:30秒ごとに噴霧(1秒)を3回
成膜時間:30分
膜厚:120nm
【0056】
さらに、中間層の表面に、下記成膜条件で、スプレー熱分解法によりp層(CuInS層)を成膜した。
原料:CuCl−2HO(0.03M)、InCl(0.024M)、SC(NH(0.12M)
前駆体(原料)の溶媒:蒸留水100ml
基板温度:300℃
噴霧器先端と基板の距離:30cm
キャリアガス:空気
噴霧頻度:30秒ごとに噴霧(1秒)を3回
成膜時間:100分
膜厚:2μm
【0057】
さらに、p層の上に取出電極としてAuからなる金属電極層(膜厚200nm)をスパッタ法により成膜し、実施例1の太陽電池を得た。
【0058】
[実施例2及び3]
n層の成膜の際に用いたZn−Sn−Oターゲットの組成をZn:Sn=4:1(実施例2)又はZn:Sn=1:4(実施例3)としたこと以外は、実施例1と同様の操作をし、実施例2及び3の太陽電池を得た。
【0059】
[実施例4〜7]
n層の膜厚を5nm、10nm、1,000nm及び1,500nmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作をし、実施例4〜7の太陽電池を得た。
【0060】
[実施例8]
n層の表面にp層を直接成膜し、中間層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様の操作をし、実施例8の太陽電池を得た。
【0061】
[比較例1及び2]
n層の成膜の際に、ZnOからなるターゲット(比較例1)又はSnOからなるターゲット(比較例2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をし、比較例1及び2の太陽電池を得た。
【0062】
[比較例3]
n層として、非特許文献1と同様にスプレー熱分解法で作製したTiOを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をし、比較例3の太陽電池を得た。成膜条件は以下のとおりである。
原料:チタンジイソプロポキシド ビス アセチルアセトナート(75質量%イソプロパノール)7ml、エタノール43ml
基板温度:500℃
噴霧器先端と基板の距離:30cm
キャリアガス:空気
噴霧頻度:30秒ごとに噴霧(1秒)を3回
成膜時間:50分
膜厚:400nm
【0063】
[評価]
実施例1〜8及び比較例1〜3で得られた各太陽電池(サイズ:10×10mm)について、大気中、室温、AM1.5の条件で変換効率の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から示されるように、比較例1〜3と同様の条件(n層の膜厚及び中間層の有無)で比較した場合、本発明の太陽電池(実施例1〜3)は、優れた変換効率を発揮することがわかる。また、中間層を設けること及びn層の膜厚を調整することで、変換効率が高まることがわかる。
【0066】
[参考例]
Zn−Sn−O(Zn:Sn=1:1)単層膜(膜厚100nm)を実施例1に記載の方法(膜厚以外)でガラス基板上に成膜した。分光光度計(日本分光株式会社製V−570型)により、波長1nm刻みで測定した反射率と透過率とから、下記式(1)により吸収係数を求めた。
【0067】
【数1】
α:吸収係数(cm−1)、d:膜厚(cm)、T:透過率(%)、R:反射率(%)
【0068】
また、この単層膜に対し、大気中500℃で3時間熱処理を施した。この熱処理後の単層膜についても、上記方法で吸収係数を求めた。これらの吸収係数を示すグラフを図2に示す。
【0069】
Zn−Sn−O(Zn:Sn=2:1)及びZn−Sn−O(Zn:Sn=3:1)のターゲットを用いて上記と同様に単層膜を成膜し、熱処理前後の吸収係数を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示されるように、熱処理を施した各膜の吸収係数は未処理のものに比べて、400〜600nmの範囲で低い吸収係数を示した。これは未処理の膜では欠陥による準位が多くあり、その準位による光吸収のためであると考えられる。熱処理によりその欠陥準位が減るため、吸収係数が低下する。なお、欠陥準位により光が吸収されると、p層で吸収すべき光の強度が減少してしまい、太陽電池の変換効率が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は変換効率に優れる太陽電池として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 透明基板
2 透明電極膜
3 n層
4 中間層
5 p層
6 金属電極膜
10 太陽電池
図1
図2