特許第5755513号(P5755513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755513
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】ナットの脱落防止具
(51)【国際特許分類】
   F16B 41/00 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
   F16B41/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-133348(P2011-133348)
(22)【出願日】2011年6月15日
(65)【公開番号】特開2013-2530(P2013-2530A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2013年7月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(72)【発明者】
【氏名】西野 優治
【審査官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−121452(JP,A)
【文献】 特開2010−106881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のナットが直列状態で挿通されるナット挿通部材、該ナット挿通部材の一端部寄りに設けられ係止位置にある時に該一端部に位置するナットを係止することにより全てのナットの該ナット挿通部材からの抜け出しを阻止する一方で、退避位置にある時に該一端部に位置するナットを該ナット挿通部材から離脱させる係止機構を備えたナットホルダと、
前記ナット挿通部材の一端部に対して着脱自在、或いは固定的に一端部を固定され、他端部にボルトの雄螺子部先端面に吸着する吸着部材を備えると共に、前記ナット挿通部材の一端部から離脱してきた前記ナットを挿通移動させて該ナットの雌螺子部を前記ボルトの雄螺子部先端に移行させる伸縮自在な連接部材と、を備え
前記係止機構は、前記ナット挿通部材の一端部により回動自在に軸支された係止片を備え、該係止片が前記ナット挿通部材の軸方向に突出している時には前記ナットの離脱を許容し、該係止片が前記ナット挿通部材と交差する方向へ屈曲している時には前記ナットの離脱を阻止することを特徴とするナットの脱落防止具。
【請求項2】
前記係止機構は、前記ナット挿通部材の側面に設けた穴から外径方向へ出没自在に支持された係止片と、該係止片を前記係止位置に付勢する付勢部材と、から構成されていることを特徴とする請求項1記載のナットの脱落防止具。
【請求項3】
前記吸着部材は、永久磁石、或いは粘着部材であることを特徴とする請求項1又は2記載のナットの脱落防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は締結対象物に固定されたボルトからナットを取り外したり、ボルトにナットを取り付ける際に、作業者が誤ってナットを落下させる不具合を効果的に防止することができるナットの脱落防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線を支持する鉄塔に対してボルト、ナットを締結したり、締結されたボルト等を取り外す場合は、モンキースパナ、ペンチ等の工具を用いた手作業が行われる。鉄塔等に固定されたボルトの先端からナットを取り外したり、ナットを締結する際に、ナットは作業員の手から滑って落下し易い一方で、鉄塔のように高所での作業においてナットが落下すると、下方に位置する碍子を破損したり、地上作業員に怪我を負わせたり、或いは近隣家屋に損傷が発生する虞がある。このような落下事故は、雨天時や、手袋着用時や、ボルト、ナットや手に油が付着している状況下において特に起きやすい。
それにも拘わらず、これまでナットの落下を防止する対策は十分に講じられていなかった。
このような不具合は送電線用の鉄塔上での作業に限らず、建築工事等の各種工事現場、工場等において締結対象穴に挿通されたボルトの先端部に対してナットの着脱を行う際に頻繁に発生する。
【0003】
特許文献1には、ナットの落下を防止するために磁石を利用したナット落下防止用保持キャップが開示されている。
また、特許文献2には、一端部が開口した筒体にてナットの周囲を保持するナットの落下防止具が記載されている。ナットを保持する筒体は、耐熱性および耐候性を備えた弾性を有する材料、具体例としてはEPDM(エチレンプロピレンゴム)を用いて作成されており、筒体を弾性変形させてナットを圧入する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭57−181588号公報
【特許文献2】特開2010−025302公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載された落下防止具は、ナットを落下防止具に取り付ける際にナットを落下させないように、大きな工具袋の中で取り付け、取り外しをする必要性があり、作業性が悪くなる。また、一度に1個のナットを保持することができるにとどまるため、ボルト先端部へナットを着脱する度に、落下防止具へナットを装着する必要があり、この作業中にナットを落下させる虞ある。多数の締結箇所がある場合には、作業が煩雑であるという問題がある。
本発明は、上述の事情に鑑みて成されたものであり、ボルト先端部へナットを着脱する度に、脱落防止具へナットを装着する必要がなく、複数のナットを用いた連続的な締結作業の効率を高めることができるナットの脱落防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数個のナットが直列状態で挿通されるナット挿通部材、該ナット挿通部材の一端部寄りに設けられ係止位置にある時に該一端部に位置するナットを係止することにより全てのナットの該ナット挿通部材からの抜け出しを阻止する一方で、退避位置にある時に該一端部に位置するナットを該ナット挿通部材から離脱させる係止機構を備えたナットホルダと、前記ナット挿通部材の一端部に対して着脱自在、或いは固定的に一端部を固定され、他端部にボルトの雄螺子部先端面に吸着する吸着部材を備えると共に、前記ナット挿通部材の一端部から離脱してきた前記ナットを挿通移動させて該ナットの雌螺子部を前記ボルトの雄螺子部先端に移行させる伸縮自在な連接部材と、を備え、前記係止機構は、前記ナット挿通部材の一端部により回動自在に軸支された係止片を備え、該係止片が前記ナット挿通部材の軸方向に突出している時には前記ナットの離脱を許容し、該係止片が前記ナット挿通部材と交差する方向へ屈曲している時には前記ナットの離脱を阻止するナットの脱落防止具を特徴とする。
請求項1の発明では、ナットの穴を利用してナットを保持し、その落下を防止する。まず、複数のナットがナット挿通部材に挿通された状態にて保持される。係止機構による係止を解除されてナット挿通部材から離脱したナットは、連接部材に挿通されたまま吸着部材側に移動する。吸着部材をボルトの雄螺子部先端面に吸着させたまま締結作業を行うことで、ナットがボルトに螺着するまで連接部材に挿通された状態を維持して、落下を防止する。
また、係止片を回動させることで、ナットをナット挿通部材から離脱させることができる。
請求項2に記載の発明は、前記係止機構は、前記ナット挿通部材の側面に設けた穴から外径方向へ出没自在に支持された係止片と、該係止片を前記係止位置に付勢する付勢部材と、から構成されている請求項1記載のナットの脱落防止具を特徴とする。
請求項2の発明では、係止片を押圧してナット挿通部材内に退避させることで、ナットをナット挿通部材から離脱させることができる。
【0007】
求項に記載の発明は、前記吸着部材は、永久磁石、或いは粘着部材である請求項1又は2記載のナットの脱落防止具を特徴とする。
請求項の発明では、吸着部材を永久磁石とすることで、磁性体であるボルトに幅広く脱落防止具を利用できる。また、ボルトが磁性体ではない場合であっても、粘着部材を利用してナットの脱落防止を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ナットのボルトへの着脱作業時において、ナットがナット挿通部材及び連接部材に挿通された状態を維持するので、ナットの落下防止を図ることができる。また、吸着部材により連接部材とボルトの雄螺子部とを一体化することができるので、ナットがボルトに螺着するまで連接部材に挿通された状態を維持して、落下を防止する。従って、ナット落下による碍子等の破損や、地上作業員の怪我を防止できる。
また、一度に複数のナットを保持できるため、ナットを締結する場合にはナットの係止状態を解除して連接部材に沿って移動させればよく、個々のナットを脱落防止具に着脱する必要がないため、複数ナットを用いた連続的な締結作業の効率を高めることができ、ナットの落下を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るナットの脱落防止具の使用状態を示す正面図である。
図2】ナットの脱落防止具の係止機構を示す図であり、(a)は図1に対応する係止機構の断面図であり、(b)は、他の例に係る係止機構を示す正面図である。
図3】ストラップ部の他の形態を示す正面図である。
図4】変形実施形態に係る係止機構の一部断面正面図であり、(a)は係止位置を示し、(b)は係止解除位置を示す図である。
図5】変形実施形態に係る連接部材の正面図であり、(a)は収縮状態を示し、(b)は伸長状態を示す図である。
図6】変形実施形態に係るナット挿通部材と連接部材接続部を示す図であり、(a)は第一の変形実施形態を示す一部断面正面図であり、(b)は第二の変形実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第一の実施形態〕
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係るナットの脱落防止具の使用状態を示す正面図である。図3は、ストラップ部の他の形態を示す正面図である。本発明に係るナットの脱落防止具は、ナットの穴を利用して複数個のナットを直列状態にしてナット挿通部材に挿通、保持することによって、ナットの落下を防止する点に特徴がある。
【0011】
本発明に係るナットの脱落防止具(脱落防止具)1は、ナットホルダ10と、連接部材40と、から概略構成されている。
更に詳細には、ナットの脱落防止具(脱落防止具)1は、複数個のナットNの穴が直列状態で挿通されるナット挿通部材11、ナット挿通部材11の一端部11a寄りに設けられ係止位置(突出位置)にある時に一端部11aに位置するナットNaを係止することにより全てのナットNのナット挿通部材11からの抜け出しを阻止する一方で、退避位置にある時に一端部11aに位置するナットNaをナット挿通部材11から離脱させる係止機構20、及びナット挿通部材11の他端部11bに設けられた携帯用のストラップ部30、を備えたナットホルダ10と、ナット挿通部材11の一端部11aに対して着脱自在、或いは固定的に一端部を固定され、他端部にボルトBの雄螺子部Ba先端面に吸着する吸着部材41を備えると共に、ナット挿通部材11の一端部11aから離脱してきたナットNを挿通移動させてナットNの雌螺子部をボルトBの雄螺子部Ba先端に移行させる連接部材40と、を備えている。
【0012】
本発明に係る脱落防止具1は、作業員の腰回りに装着される胴ベルト、或いはザックの適所等に取り付けられて、吊り下げて使用するナットの保持具である。
胴ベルトの一例として図1には、鉄塔等の高所にて作業する作業員が腰回りに装着して自身の落下を防止する胴ベルト型の安全帯100を示している。安全帯100は、作業員の腰に直接巻き付けられる胴ベルト101と、先端に仮設足場や命綱等に掛止可能なフック103を有するとともに胴ベルト101の適所と接続された胴綱105と、胴ベルト101の適所に取り付けられて、作業中に必要な工具類を収容する工具袋107と、本発明に係る脱落防止具1が取り付けられるリング部109と、を備えている。
【0013】
脱落防止具1のナット挿通部材11は、ナットNの穴に挿通可能な軸状の部材である。軽量かつ耐久性及び耐候性を有していることが望ましく、金属や硬質樹脂等を用いることができる。
なお、連接部材40との接続部13、係止機構20、及びストラップ部30との接続部15以外のナット挿通部材11部分については、湾曲可能な材料から構成してもよい。例えば、シリコンゴム等を用いて、直線状態から湾曲状態に弾性変形可能に構成してもよい。また、例えば、鎖状の部材やロープ状の部材を用いてもよい。湾曲可能に構成するとコンパクトに畳むことができ、工具袋107に収容するときに場所をとらない。
ナット挿通部材11は両端部に雄螺子を有し、一端部11a側は連接部材40との間で着脱自在な接続部13を構成し、他端部11b側はストラップ部30との間で着脱自在な接続部15を構成している。なお、接続部13、15を固定的として、着脱不能な構成としてもよい。
【0014】
係止機構20について図2に基づいて説明する。図2は、ナットの脱落防止具の係止機構を示す図であり、(a)は図1に対応する係止機構の断面図であり、(b)は、他の例に係る係止機構を示す正面図である。
係止機構20は、ナット挿通部材11の側面に設けた穴から外径方向へ出没自在に支持された係止片21と、係止片21を突出位置(係止位置)に付勢する付勢部材23と、から構成されている。
係止片21は、ストラップ部30側がナット挿通部材11の側面と略直交する方向に突出し、連接部材40側がナット挿通部材11の側面に対して緩やかな傾斜を有して突出している。従って、係止片21は図示する突出位置にあるときに、ナットNの離脱方向(連接部材40側)への移動を確実に阻止するが、ナットNの挿入方向(連接部材40からナット挿通部材11)への移動に際しては、ナットNの内面と摺動しながら自動的にナット挿通部材11の内部へ退避し、ナットNの移動を許容するようになる構成である。
【0015】
付勢部材23は、ナット挿通部材11に内蔵されて、係止片21を突出位置に弾性付勢することができればよく、図示のように板バネから構成してもよいし、弦巻バネ等、他の形式の弾性付勢部材を用いてもよい。
係止片21を押圧すると、係止片21がナット挿通部材11の内部に退避して、その側面から突出しない状態となり(退避位置)、ナット挿通部材11の一端部11aに位置するナットNaを取り出すことができる。また、係止片21への押圧を解除すると、付勢部材23の付勢力により係止片21は退避位置から突出位置に戻り、取り出したナットNa以外の全てのナットNがナット挿通部材11から抜け出すことを阻止することができる。
【0016】
また、係止片21の数は単数に限らず、(b)に示すように、複数の係止片27を備えた係止機構25としてもよい。また、係止片27のように、ストラップ部30側と連接部材40側の双方がナット挿通部材11の側面に対して緩やかな傾斜を有して突出するようにしてもよい。この場合、ナットNをナット挿通部材11の軸方向に移動させるだけで、ナットの着脱が容易に行えるという利点がある。しかし、複数のナットNの重量により、係止片27が退避位置に移動する虞があるため、ナット挿通部材11に最大量のナットNを挿通した状態においても係止片27が退避位置に移動しないように、付勢部材の付勢力を設定する。
もちろん、ストラップ部30側と連接部材40側の双方における係止片の形状が、ナット挿通部材11の側面と略直交する方向に突出するように構成してもよい。
【0017】
ストラップ部30は、一端部にナット挿通部材11と螺着可能な雌螺子(不図示)と、他端部に安全帯100のリング部109に掛止可能なラッチ付フック31と、を備えている。この雌螺子とナット挿通部材11の他端部に位置する雄螺子とが接続部15を構成している。
ストラップ部は、図3に示すような形態としても良い。図3は、ストラップ部の他の形態を示す正面図である。このストラップ部30は、ラッチ付フック31の代わりに釣り針状のフック35を有しており、胴ベルト101に直接掛止することができる。
接続部15は、着脱不能に構成されていてもよいが、着脱自在に構成されていることで、ラッチ付フック31を有するストラップ部30と、釣り針状のフック35を有するストラップ部33とを相互に交換することができ、脱落防止具1を掛止する箇所の形態に対応した、ストラップ部に交換することができる。また、ストラップ部30、又はストラップ部33を胴ベルト101に装着したまま、ナット挿通部材11を交換することができる。
ストラップ部30とナット挿通部材11との間には、ナットのストラップ部30側への移動を阻止するストッパ17が配置されている。ストッパ17は、少なくともナットの通過を阻止することができればよく、例えば、図示のようなナットNの穴よりも大きい円盤状の部材とすることができる。
【0018】
連接部材40は、伸縮自在なコイル状の線材からなるコイル部43を有している。コイル部43は、例えば金属線入りのウレタンワイヤから構成することができる。コイル部43を構成する線材の外径はナットNの穴径よりも小さく、ナットNの移動を許容する。しかし、収縮時にはコイル部43の外径がナットNの穴径よりも大きくなって、ナットNの挿通移動を阻止する構造としてもよい。また、伸長時には、コイル部43の外径がナットNの穴径よりも小さくなり、ナットNの挿通移動を許容する。また、コイル部43は伸縮自在であるため、ナットNの着脱作業を行っていないときにはコンパクトに収縮するので、作業の邪魔になりにくい。
連接部材40は、一端部にナット挿通部材11と螺着可能な雌螺子(不図示)を備え、この雌螺子とナット挿通部材11の他端部に位置する雄螺子とが接続部13を構成している。もちろん、接続部13が着脱不能に構成されていてもよい。
【0019】
また、他端部に備えられた吸着部材41は、例えば磁力により吸着する永久磁石、或いは粘着力により吸着する粘着部材、具体的にはシリコン粘着剤等を用いることができる。吸着部材41をボルトBの先端面に吸着させた状態で、ナットNを挿通移動させることで、連接部材40部分を挿通移動中のナットの脱落を防止することができる。また、ナットの着脱作業時以外のときに、吸着部材41をナット挿通部材11やこれに挿通されたナットNに吸着させることで、他の作業の邪魔にならない。なお、吸着部材41を永久磁石とした場合には、ボルトB、ナットN及びナットホルダ10の適所を磁性体として、吸着部材を磁着可能にする。
【0020】
以上のように構成された脱落防止具1の使用法について、図1に基づいて説明する。
ナットの締結作業を行う場合、予めボルトBとナットNにて締結しようとするL字鋼110等の被締結穴からボルトBの雄螺子部Baを突出させる。雄螺子部Baの先端面に吸着部材41を吸着させる。係止片21を押圧して退避位置に移動させ、ナット挿通部材11の一端部11aに位置するナットNaをナット挿通部材11から離脱させる。なお、係止片21への押圧を解除すると、係止片21は付勢部材23の付勢力により突出し、他の全てのナットNの脱落を阻止することができる。ナットNaは、ナット挿通部材11から連接部材40に移動する。このとき、ナットNaは連接部材40に挿通された状態である。ナットNaは、コイル部43のコイル外径とナットNaの穴径との関係により、その移動を阻止されるが、連接部材40を伸長させることにより、コイル部43の外径がナットNaの穴径よりも小さくなり、ナットNaの移動が許容される。なお、コイル外径はナット穴径より小さくてもよい。連接部材40とボルトBが吸着部材41により連続しているので、ナットNaは脱落防止具1から脱落することなく、ボルトBの雄螺子部Baに到達する。このままナットNaをボルトBと締結し、締結完了後に吸着部材41をボルトBから取り外す。このように、吸着部材41をボルトBの雄螺子部Ba先端面に吸着させたまま締結作業を行うことで、ナットNがボルトBに螺着するまで連接部材40に挿通された状態を維持することができる。
【0021】
以上のような手順で、順次ボルトBとナットNの締結作業を繰り返す。なお、ナット挿通部材11内に挿通された全てのナットNを使用した場合には、ナットNが挿通されている他のナットホルダ10と交換する。なお、ナットホルダ10は、工具袋107等に収容しておく。
ナットNの取り外し作業については、締結作業の逆の手順を踏めばよいため、その説明を省略する。
【0022】
以上のように本実施形態によれば、ナットのボルトへの着脱作業時において、ナットはナット挿通部材及び連接部材に挿通された状態を維持するので、ナットの落下防止を図ることができる。また、吸着部材により連接部材とボルトの雄螺子部とを一体化することができるので、ナットがボルトに螺着するまで連接部材に挿通された状態を維持して、落下を防止する。従って、ナット落下による碍子等の破損や、地上作業員の怪我を防止できる。
また、複数のナットを連続的に締結する必要がある場合に、ナットの係止状態を解除して連接部材に沿って移動させればよく、個々のナットを脱落防止具に着脱する必要がないため、複数ナットを用いた連続的な締結作業の効率を高めることができ、ナットの落下を確実に防止することができる。
また、連接部材の収縮状態に応じてナットの移動が阻止又は許容されるので、ナット挿通部材から離脱したナットを落下させる虞が減少する。また、常時において連接部材は収縮しているので、作業の邪魔にならない。
【0023】
〔係止機構の変形実施形態〕
係止機構の変形実施形態について、図4に基づいて説明する。図4は、変形実施形態に係る係止機構の一部断面正面図であり、(a)は係止位置を示し、(b)は係止解除位置を示す図である。第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態に係る係止機構50は、ナット挿通部材11の一端部11aにより回動自在に軸支された係止片51を備え、係止片51がナット挿通部材11の軸方向に突出している時(係止解除位置)にはナットNの離脱を許容し、係止片51がナット挿通部材11と交差する方向へ屈曲している時(係止位置)にはナットNの離脱を阻止する点に特徴がある。
係止機構50は、係止片51と、係止片51を係止位置に弾性付勢するコイルバネ(付勢部材:不図示)を内蔵するとともに、係止片51を回動させる支軸となる回動軸53と、係止片51のナット挿通部材11側の側面適所に形成された半球状の凹部55と、ナット挿通部材11の軸方向に出没自在に支持されるとともに、係止片51が係止位置にあるときに凹部55に係合して係止片51の回動を阻止するストッパボール57と、ストッパボール57を係止片51に向けて弾性力により付勢する付勢部材59と、を備える。
【0024】
係止片51は、金属や硬質プラスチック等からなる軸状の部材である。常時においては、コイルバネの付勢力によりナット挿通部材11と交差する方向へ屈曲して、ナットNの離脱を阻止する。また、係止位置において、ストッパボール57が凹部55と係合して、係止片51の回動を阻止する。なお、コイルバネとは一例であり、係止片51を係止位置に弾性付勢することができれば、その他の付勢部材を用いてもよい。
(a)に示す係止位置から(b)に示す係止解除位置に係止片51を回動させる際には、ストッパボール57と凹部55との係合を解除しうる力にて、係止片51を回動させる必要がある。係合が解除されるとストッパボール57は係止片51の表面を摺動する。
さらに、コイルバネによる付勢力に抗した力にて係止解除位置まで係止片51を回動させると、ナット挿通部材11の一端部11aに位置したナットNa(図1参照)をナット挿通部材11から離脱させることができる。
また、係止片51の係止解除方向への押圧を解除すると、コイルバネの付勢力により、係止片51が自動的に係止位置に戻る。係止位置に戻ると同時にストッパボール57が凹部55と係合して、係止状態を維持する。
以上のように、本実施形態によれば、係止片を回動軸周りに回動させるだけでナットをナット挿通部材から容易に取り出すことができる。
【0025】
〔連接部材の変形実施形態〕
連接部材の変形実施形態について、図5に基づいて説明する。図5は、変形実施形態に係る連接部材の正面図であり、(a)は収縮状態を示し、(b)は伸長状態を示す図である。第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
連接部材60は、ゴム紐等の伸縮自在な紐状弾性体61と、紐状弾性体61の外面を覆う筒状の袋体63と、を備えている。袋体63は、紐状弾性体61の伸長時に表面のしわがなくなってナットNの通過を許容する一方、紐状弾性体61の収縮時に表面が波状となってナットNの通過を阻止する。
袋体63は、ポリエステル、ナイロン繊維又は皮革等、摩擦や折り曲げに強い素材から作製し、ナットNの雌螺子部分との摺動に耐えうるようにする。
以上のように、本実施形態においても、連接部材の収縮状態に応じてナットの移動を阻止又は許容するので、ナット挿通部材から離脱したナットを落下させる虞が減少する。また、常時において連接部材は収縮しているので、作業の邪魔にならない。
【0026】
〔ナット挿通部材と連接部材との接続構造の変形実施形態〕
ナット挿通部材と連接部材との接続構造の変形実施形態について、図6に基づいて説明する。図6は、変形実施形態に係るナット挿通部材と連接部材接続部を示す図であり、(a)は第一の変形実施形態を示す一部断面正面図であり、(b)は第二の変形実施形態を示す正面図である。第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0027】
(a)に示すように、第一の変形実施形態においては、ナット挿通部材11の一端部11aに雌螺子71を有し、連接部材40の一端部に雌螺子71と螺合する雄螺子73を有し、雌螺子71と雄螺子73とで接続部70を構成している。
雄螺子73は、第一の実施形態における吸着部材41を兼用する構成であり、雄螺子73は永久磁石から構成されている。さらに、連接部材40の両端部が同一形状の雄螺子73からなる。従って、ナットホルダ10(図1参照)を交換する際に、連接部材40のいずれの端部をナットホルダ10側としなければならないのかを判断する必要がなくなり、作業性が向上する。なお、雄螺子73の先端部に粘着部材を備えることにより、吸着部材を兼用するようにしても良い。
また、(b)に示すように、接続部75をリング77(被掛止部材)とラッチ付きのフック79(掛止部材)としてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…脱落防止具、10…ナットホルダ、11…ナット挿通部材、11a…一端部、11b…他端部、13…接続部、15…接続部、17…ストッパ、20…係止機構、21…係止片、23…付勢部材、25…係止機構、27…係止片、30…ストラップ部、31…ラッチ付フック、33…ストラップ部、35…フック、40…連接部材、41…吸着部材、43…コイル部、50…係止機構、51…係止片、53…回動軸、55…凹部、57…ストッパボール、59…付勢部材、60…連接部材、61…紐状弾性体、63…袋体、70…接続部、71…雌螺子、73…雄螺子、75…接続部、77…リング、79…フック、100…安全帯、101…胴ベルト、103…フック、105…胴綱、107…工具袋、109…リング部、110…L字鋼
図1
図2
図3
図4
図5
図6