(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の斜め延伸工程において、前記一方のクリップのクリップピッチの変化率と前記他方のクリップのクリップピッチの変化率との積が0.7〜1.5である、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
前記フィルムの形成材料が、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリエステルカーボネート系樹脂を含む、請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、フィルムの左右端部を、それぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持すること(把持工程);該フィルムを予熱すること(予熱工程);該左右のクリップ間の距離を拡大させながら、一方のクリップのクリップピッチを増大させ、かつ、他方のクリップのクリップピッチを減少させて、該フィルムを斜め延伸すること(第1の斜め延伸工程);該左右のクリップ間の距離を拡大させながら、左右のクリップのクリップピッチが等しくなるように該一方のクリップのクリップピッチを維持または減少させ、かつ、該他方のクリップのクリップピッチを増大させて、該フィルムを斜め延伸すること(第2の斜め延伸工程);および該フィルムを把持するクリップを解放すること(解放工程);を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
A.把持工程
最初に、
図1〜
図3を参照して、本工程を含む本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置について説明する。
図1は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
図2および
図3は、それぞれ、
図1の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図であり、
図2はクリップピッチが最小の状態を示し、
図3はクリップピッチが最大の状態を示す。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、フィルム把持用の多数のクリップ20を有する無端ループ10Lと無端ループ10Rとを左右対称に有する。なお、本明細書においては、フィルムの入口側から見て左側の無端ループを左側の無端ループ10L、右側の無端ループを右側の無端ループ10Rと称する。左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20は、それぞれ、基準レール70に案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端ループ10Rは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。延伸装置においては、シートの入口側から出口側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、第1の斜め延伸ゾーンC、第2の斜め延伸ゾーンD、および解放ゾーンEが順に設けられている。なお、これらのそれぞれのゾーンは、延伸対象となるフィルムが実質的に把持、予熱、第1の斜め延伸、第2の斜め延伸および解放されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、
図1の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0012】
把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の無端ループ10R、10Lは、延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。第1の斜め延伸ゾーンCおよび第2の斜め延伸ゾーンDでは、予熱ゾーンBの側から解放ゾーンEに向かうに従って左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が上記フィルムの延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大する構成とされている。解放ゾーンEでは、左右の無端ループ10R、10Lは、上記フィルムの延伸後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。
【0013】
左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端ループ10Lの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端ループ10Rの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット11、12に係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材30に走行力が与えられる。これにより、左側の無端ループ10Lは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側の無端ループ10Lおよび右側の無端ループ10Rをそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0014】
さらに、左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って縦方向(MD)のクリップピッチ(クリップ間距離)が変化し得る。可変ピッチ型は、任意の適切な構成により実現され得る。以下、一例として、リンク機構(パンタグラフ機構)について説明する。
【0015】
図2および
図3に示すように、クリップ20を個々に担持する平面視横方向に細長矩形状のクリップ担持部材30が設けられている。図示しないが、クリップ担持部材30は、上梁、下梁、前壁(クリップ側の壁)、および後壁(クリップと反対側の壁)により閉じ断面の強固なフレーム構造に形成されている。クリップ担持部材30は、その両端の走行輪38により走行路面81、82上を転動するよう設けられている。なお、
図2および
図3では、前壁側の走行輪(走行路面81上を転動する走行輪)は図示されない。走行路面81、82は、全域に亘って基準レール70に並行している。クリップ担持部材30の上梁と下梁の後側(クリップと反対側)には、クリップ担持部材の長手方向に沿って長孔31が形成され、スライダ32が長孔31の長手方向にスライド可能に係合している。クリップ担持部材30のクリップ20側端部の近傍には、上梁および下梁を貫通して一本の第1の軸部材33が垂直に設けられている。一方、クリップ担持部材30のスライダ32には一本の第2の軸部材34が垂直に貫通して設けられている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には主リンク部材35の一端が枢動連結されている。主リンク部材35は、他端を隣接するクリップ担持部材30の第2の軸部材34に枢動連結されている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には、主リンク部材35に加えて、副リンク部材36の一端が枢動連結されている。副リンク部材36は、他端を主リンク部材35の中間部に枢軸37によって枢動連結されている。主リンク部材35、副リンク部材36によるリンク機構により、
図2に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の後側(クリップ側の反対側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士の縦方向のピッチ(以下、単にクリップピッチと称する)が小さくなり、
図3に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の前側(クリップ側)に移動しているほど、クリップピッチが大きくなる。スライダ32の位置決めは、ピッチ設定レール90により行われる。
図2および
図3に示すように、クリップピッチが大きいほど、基準レール70とピッチ設定レール90との離間距離が小さくなる。なお、リンク機構は当業界において周知であるので、より詳細な説明は省略する。
【0016】
上記のような延伸装置を用いてフィルムの斜め延伸を行うことにより、斜め方向(例えば、縦方向に対して45°の方向)に遅相軸を有する位相差フィルムが作製され得る。まず、把持ゾーンA(延伸装置100のフィルム取り込みの入り口)において、左右の無端ループ10R、10Lのクリップ20によって、延伸対象となるフィルムの両側縁が互いに等しい一定のクリップピッチで把持され、左右の無端ループ10R、10Lの移動(実質的には、基準レール70に案内された各クリップ担持部材30の移動)により、当該フィルムが予熱ゾーンBに送られる。
【0017】
B.予熱工程
予熱ゾーン(予熱工程)Bにおいては、左右の無端ループ10R、10Lは、上記のとおり延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されているので、基本的には横延伸も縦延伸も行わず、フィルムが加熱される。ただし、予熱によりフィルムのたわみが起こり、オーブン内のノズルに接触するなどの不具合を回避するために、わずかに左右クリップ間の距離(幅方向の距離)を広げてもよい。
【0018】
予熱工程においては、フィルムを温度T1(℃)まで加熱する。温度T1は、フィルムのガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましく、より好ましくはTg+2℃以上、さらに好ましくはTg+5℃以上である。一方、加熱温度T1は、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+30℃以下である。用いるフィルムにより異なるが、温度T1は、例えば70℃〜190℃であり、好ましくは80℃〜180℃である。
【0019】
上記温度T1までの昇温時間および温度T1での保持時間は、フィルムの構成材料や製造条件(例えば、フィルムの搬送速度)に応じて適切に設定され得る。これらの昇温時間および保持時間は、クリップ20の移動速度、予熱ゾーンの長さ、予熱ゾーンの温度等を調整することにより制御され得る。
【0020】
C.第1の斜め延伸工程
第1の斜め延伸ゾーン(第1の斜め延伸工程)Cにおいては、左右のクリップ間の距離(より具体的には、左右の無端ループ10R、10Lの離間距離)を拡大させながら、一方のクリップのクリップピッチを増大させ、かつ、他方のクリップのクリップピッチを減少させて、フィルムを斜め延伸する。このようにクリップピッチを変化させることによって左右のクリップを異なる速度で移動させ、これにより、フィルムの一方の側縁部を長手方向に伸長させ、かつ、他方の側縁部を長手方向に収縮させながら斜め延伸を行うことができる。その結果、所望の方向(例えば、長手方向に対して45°の方向)に高い一軸性および面内配向性で遅相軸を発現させることができる。
【0021】
以下、第1の斜め延伸の1つの実施形態を、
図4および
図5を参照しながら具体的に説明する。まず、予熱ゾーンBにおいては、左右のクリップピッチはともにP
1とされている。P
1は、フィルムを把持した際のクリップピッチである。次に、フィルムが第1の斜め延伸ゾーンCに入ると同時に、一方の(図示例では右側)クリップのクリップピッチの増大を開始し、かつ、他方の(図示例では左側)クリップのクリップピッチの減少を開始する。第1の斜め延伸ゾーンCにおいては、右側クリップのクリップピッチをP
2まで増大させ、左側クリップのクリップピッチをP
3まで減少させる。したがって、第1の斜め延伸ゾーンCの終端部(第2の斜め延伸ゾーンDの開始部)において、左側クリップはクリップピッチP
3で移動し、右側クリップはクリップピッチP
2で移動することとされている。なお、クリップピッチの比はクリップの移動速度の比に概ね対応し得る。よって、左右のクリップのクリップピッチの比は、フィルムの右側側縁部と左側側縁部のMD方向の延伸倍率の比に概ね対応し得る。
【0022】
図4および
図5では、右側クリップのクリップピッチが増大し始める位置および左側クリップのクリップピッチが減少し始める位置をともに第1の斜め延伸ゾーンCの開始部としているが、図示例とは異なり、右側クリップのクリップピッチが増大し始めた後に左側クリップのクリップピッチが減少し始めてもよく(例えば、
図6)、左側クリップのクリップピッチが減少し始めた後に右側クリップのクリップピッチが増大し始めてもよい(図示せず)。1つの好ましい実施形態においては、一方の側のクリップのクリップピッチが増大し始めた後に他方の側のクリップのクリップピッチが減少し始める。このような実施形態によれば、既にフィルムが幅方向に一定程度(好ましくは1.2倍〜2.0倍程度)延伸されていることから該他方の側のクリップピッチを大きく減少させてもシワが発生しにくい。よって、より鋭角な斜め延伸が可能となり、一軸性および面内配向性の高い位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0023】
同様に、
図4および
図5では、第1の斜め延伸ゾーンCの終端部(第2の斜め延伸ゾーンDの開始部)まで右側クリップのクリップピッチの増大および左側クリップのクリップピッチの減少が続いているが、図示例とは異なり、クリップピッチの増大または減少のいずれか一方が第1の斜め延伸ゾーンCの終端部よりも前に終了し、第1の斜め延伸ゾーンCの終端部までクリップピッチがそのまま維持されてもよい。
【0024】
上記増大するクリップピッチの変化率(P
2/P
1)は、好ましくは1.25〜1.75、より好ましくは1.30〜1.70、さらに好ましくは1.35〜1.65である。また、減少するクリップピッチの変化率(P
3/P
1)は、例えば0.50以上1未満、好ましくは0.50〜0.95、より好ましくは0.55〜0.90、さらに好ましくは0.55〜0.85である。クリップピッチの変化率がこのような範囲内であれば、フィルムの長手方向に対して概ね45度の方向に高い一軸性および面内配向性で遅相軸を発現させることができる。
【0025】
クリップピッチは、上記のとおり、延伸装置のピッチ設定レールと基準レールとの離間距離を調整してスライダを位置決めすることにより、調整され得る。
【0026】
第1の斜め延伸工程におけるフィルムの幅方向の延伸倍率(W
2/W
1)は、好ましくは1.1倍〜3.0倍、より好ましくは1.2倍〜2.5倍、さらに好ましくは1.25倍〜2.0倍である。当該延伸倍率が1.1倍未満であると、収縮させた側の側縁部にトタン状のシワが生じる場合がある。また、当該延伸倍率が3.0倍を超えると、得られる位相差フィルムの二軸性が高くなってしまい、円偏光板等に適用した場合に視野角特性が低下する場合がある。
【0027】
1つの実施形態において、第1の斜め延伸は、一方のクリップのクリップピッチの変化率と他方のクリップのクリップピッチの変化率との積が、好ましくは0.7〜1.5、より好ましくは0.8〜1.45、さらに好ましくは0.85〜1.40となるように行われる。変化率の積がこのような範囲内であれば、一軸性および面内配向性の高い位相差フィルムが得られ得る。
【0028】
第1の斜め延伸は、代表的には、温度T2で行われ得る。温度T2は、樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg−20℃〜Tg+30℃であることが好ましく、さらに好ましくはTg−10℃〜Tg+20℃、特に好ましくはTg程度である。用いる樹脂フィルムにより異なるが、温度T2は、例えば70℃〜180℃であり、好ましくは80℃〜170℃である。上記温度T1と温度T2との差(T1−T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱工程で温度T1まで加熱されたフィルムは温度T2まで冷却され得る。
【0029】
D.第2の斜め延伸工程
第2の斜め延伸ゾーン(第2の斜め延伸工程)Dにおいては、左右のクリップ間の距離(より具体的には、左右の無端ループ10R、10Lの離間距離)を拡大させながら、左右のクリップのクリップピッチが等しくなるように一方の側のクリップのクリップピッチを維持または減少させ、かつ、他方の側のクリップのクリップピッチを増大させて、フィルムを斜め延伸する。このように左右のクリップピッチの差を縮小しながら、斜め延伸することにより、余分な応力を緩和しつつ、斜め方向に十分に延伸することができる。また、左右のクリップの移動速度が等しくなった状態でフィルムを解放工程に供することができるので、左右のクリップの解放時にフィルムの搬送速度等のバラつきが生じ難く、その後のフィルムの巻き取りが好適に行われ得る。
【0030】
以下、第2の斜め延伸の1つの実施形態を、
図4および
図5を参照しながら具体的に説明する。まず、フィルムが第2の斜め延伸ゾーンDに入ると同時に、左側クリップのクリップピッチの増大を開始する。第2の斜め延伸ゾーンDにおいては、左側クリップのクリップピッチをP
2まで増大させる。一方、右側クリップのクリップピッチは、第2の斜め延伸ゾーンDにおいてP
2のまま維持される。したがって、第2の斜め延伸ゾーンDの終端部(解放ゾーンEの開始部)において、左側クリップおよび右側クリップはともに、クリップピッチP
2で移動することとされている。
【0031】
上記実施形態における増大するクリップピッチの変化率(P
2/P
3)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて制限はない。該変化率(P
2/P
3)は、例えば1.3〜4.0、好ましくは1.5〜3.0である。
【0032】
次に、第2の斜め延伸の別の実施形態を、
図7および
図8を参照しながら具体的に説明する。まず、フィルムが第2の斜め延伸ゾーンDに入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの減少を開始し、かつ、左側クリップのクリップピッチの増大を開始する。第2の斜め延伸ゾーンDにおいては、右側クリップのクリップピッチをP
4まで減少させ、左側クリップのクリップピッチをP
4まで増大させる。したがって、第2の斜め延伸ゾーンDの終端部(解放ゾーンEの開始部)において、左側クリップおよび右側クリップはともにクリップピッチP
4で移動することとされている。なお、図示例では、簡単のため、右側クリップのクリップピッチの減少開始位置および左側クリップのクリップピッチの増大開始位置をともに第2の斜め延伸ゾーンDの開始部としているが、これらの位置は異なる位置であってもよい。同様に、右側クリップのクリップピッチの減少終了位置と左側クリップのクリップピッチの増大終了位置とが異なる位置であってもよい。
【0033】
上記実施形態における減少するクリップピッチの変化率(P
4/P
2)および増大するクリップピッチの変化率(P
4/P
3)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて制限はない。変化率(P
4/P
2)は、例えば0.4以上1.0未満、好ましくは0.6〜0.95である。また、変化率(P
4/P
3)は、例えば1.0を超え2.0以下、好ましくは1.2〜1.8である。好ましくは、P
4はP
1以上である。P
4<P
1であると、側縁部にシワが生じる、二軸性が高くなる等の問題が生じる場合がある。
【0034】
第2の斜め延伸工程におけるフィルムの幅方向の延伸倍率(W
3/W
2)は、好ましくは1.1倍〜3.0倍、より好ましくは1.2倍〜2.5倍、さらに好ましくは1.25倍〜2.0倍である。当該延伸倍率が1.1倍未満であると、収縮させた側の側縁部にトタン状のシワが生じる場合がある。また、当該延伸倍率が3.0倍を超えると、得られる位相差フィルムの二軸性が高くなってしまい、円偏光板等に適用した場合に視野角特性が低下する場合がある。また、第1の斜め延伸工程および第2の斜め延伸工程における幅方向の延伸倍率(W
3/W
1)は、上記と同様の観点から、好ましくは1.2倍〜4.0倍であり、より好ましくは1.4倍〜3.0倍である。
【0035】
1つの実施形態において、第1の斜め延伸および第2の斜め延伸は、以下の式(1)から求められる斜め延伸倍率が、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.0〜4.0、さらに好ましくは2.5〜3.5となるように行われる。当該斜め延伸倍率が2.0未満であると、二軸性が高くなる場合や面内配向性が低くなる場合がある。
【0036】
【数2】
(式中、
W
1は、第1の斜め延伸前のフィルム幅、
W
3は、第2の斜め延伸後のフィルム幅、
v3’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第2の斜め延伸工程で所定のクリップピッチに変化した際のクリップ移動速度、
t3は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップが、予熱ゾーンに入ってから、第2の斜め延伸工程が終了するまでの時間、
t3’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップが、予熱ゾーンに入ってから、第2の斜め延伸工程が終了するまでの時間
を表す。)
【0037】
上記v3’に関して、所定のクリップピッチとは、第1の斜め延伸工程において増大が完了したクリップピッチが第2の斜め延伸工程で維持もしくは減少した後のクリップピッチを意味し、上記C項の説明におけるP
2またはP
4に対応する。また、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第1の斜め延伸工程で所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
2に対応する)に変化された際の該クリップの移動速度をv2’とすると、
v2’=v3’の場合は、上記t3は下記式(2)、上記t’3は下記式(3)で表され、
v2’>v3’の場合は、上記t3は下記式(4)、上記t’3は下記式(5)で表される。
【0038】
以下、式(2)〜(4)について説明する。式中の各記号の説明おいては、
図9〜11を参考とすることができる。なお、式(1)〜(5)中のアスタリスクマーク(*)は乗算記号である。また、フィルム幅の単位はm、速度の単位はm/sec、距離の単位はm、時間の単位はsecである。
【0039】
【数3】
(式中、
a1=(v2−v3)/(L2−L3)、
b1=v3−a1*L3、
a=(v1−v2)/(L1−L2)、
b=v2−a*L2であり、
v1は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップが予熱ゾーンを通過する際のクリップ移動速度、
v2は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第1の斜め延伸工程で所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
3に対応する)に減少した際のクリップ移動速度、
v3は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第2の斜め延伸工程で所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
2またはP
4に対応する)に増大した際のクリップ移動速度であり、
L1は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップがクリップピッチを減少し始めるまでの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から予熱ゾーン出口までの距離)、
L2は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップがクリップピッチを増大し始める箇所までの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から第1の斜め延伸ゾーン出口までの距離)、
L3は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを減少させる方のクリップがクリップピッチを増大し終わる箇所までの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から第2の斜め延伸ゾーン出口までの距離)
である。)
【0040】
【数4】
(式中、
a’=(v1’−v2’)/(L1’−L2’)、
b’=v3’−a’*L2’であり、
v1’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップが予熱ゾーンを通過する際のクリップ移動速度、
v2’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第1の斜め延伸工程で所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
2に対応する)に増大した際のクリップ移動速度
v3’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップに関して、該クリップが第2の斜め延伸ゾーンを通過する際のクリップ移動速度であり、
L1’は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップがクリップピッチを増大し始めるまでの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から予熱ゾーン出口までの距離)、
L2’は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップがクリップピッチを増大し終わる箇所までの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から第1の斜め延伸ゾーン出口までの距離)、
L3’は、予熱ゾーン入口から、第2の斜め延伸ゾーン出口までの距離
である。)
【0041】
【数5】
(式中、a1、b1、a、b、v1、v2、v3、L1、L2およびL3は、式(2)に関して定義したとおりである。)
【0042】
【数6】
(式中、
a’=(v1’−v2’)/(L1’−L2’)、
b’=v2’−a’*L2’、
a’’=(v2’−v3’)/(L2’−L3’)、
b’’=v3’−a’’*L3’であり、
v1’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップが予熱ゾーンを通過する際のクリップ移動速度、
v2’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第1の斜め延伸工程で所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
2に対応する)に増大した際のクリップ移動速度
v3’は、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップに関して、該クリップのクリップピッチが第2の斜め延伸工程で所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
4に対応する)に減少した際のクリップ移動速度であり、
L1’は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップがクリップピッチを増大し始める箇所までの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から予熱ゾーン出口までの距離)、
L2’は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップがクリップピッチを増大し終わる箇所までの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から第1の斜め延伸ゾーン出口までの距離)、
L3’は、予熱ゾーン入口から、第1の斜め延伸工程でクリップピッチを増大させる方のクリップが第2の斜め延伸工程でクリップピッチを所定のクリップピッチ(上記C項の説明におけるP
4に対応する)に減少し終わる箇所までの距離(1つの実施形態においては、予熱ゾーン入口から第2の斜め延伸ゾーン出口までの距離)である。)
【0043】
第2の斜め延伸は、代表的には、温度T3で行われ得る。温度T3は、温度T2と同等であり得る。
【0044】
E.解放工程
最後に、フィルムを把持するクリップを解放して、位相差フィルムが得られる。必要に応じて、フィルムを熱処理して延伸状態を固定し、冷却した後にクリップを解放する。
【0045】
熱処理は、代表的には、温度T4で行われ得る。温度T4は、延伸されるフィルムによって異なり、T3≧T4の場合も、T3<T4の場合もあり得る。一般的に、フィルムが非晶性材料である場合はT3≧T4であり、結晶性材料である場合はT3<T4にすることで結晶化処理を行う場合もある。T3≧T4の場合、温度T3とT4の差(T3−T4)は好ましくは0℃〜50℃である。熱処理時間は、代表的には10秒〜10分である。
【0046】
熱固定されたフィルムは、通常Tg以下まで冷却され、クリップを解放後、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。
【0047】
F.延伸対象のフィルムおよび延伸により得られる位相差フィルム
本発明の製造方法(実質的には、上記A項〜E項に記載の延伸方法)に好適に用いられるフィルムとしては、位相差フィルムとして用いられ得る任意の適切なフィルムが挙げられる。フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂である。これらの樹脂であれば、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルムが得られ得るからである。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、所望の特性に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、任意の適切なポリカーボネート系樹脂が用いられる。例えば、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が好ましい。ジヒドロキシ化合物の具体例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−n−プロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−n−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他に、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、スピログリコール、ジオキサングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ビスフェノール類などのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0049】
上記のようなポリカーボネート樹脂の詳細は、例えば特開2012−67300号公報および特許第3325560号に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0050】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、110℃以上250℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上230℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0051】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、任意の適切なポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。代表的には、ポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも2種類のアルデヒド化合物及び/又はケトン化合物と、ポリビニルアルコール系樹脂とを縮合反応させて得ることができる。ポリビニルアセタール樹脂の具体例および詳細な製造方法は、例えば、特開2007−161994号公報に記載されている。当該記載は、本明細書に参考として援用される。
【0052】
上記延伸対象のフィルムを延伸して得られる位相差フィルムは、好ましくは、屈折率特性がnx>nyの関係を示す。また、位相差フィルムは面内配向性が高いことが好ましく、例えばその波長550nmで測定した場合の複屈折率Δn(Δn=nx−ny)は、好ましくは0.002〜0.005、より好ましくは0.0025〜0.004である。さらに、位相差フィルムは、好ましくはλ/4板として機能し得る。位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm〜180nm、より好ましくは135nm〜155nmである。なお、本明細書において、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率である。また、Re(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの面内位相差である。したがって、Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx−ny)×dによって求められる。
【0053】
位相差フィルムは、nx>nyの関係を有する限り、任意の適切な屈折率楕円体を示す。好ましくは、位相差フィルムの屈折率楕円体は、nx>ny≧nzの関係を示す。位相差フィルムのNz係数は、好ましくは1〜1.3であり、より好ましくは1〜1.25であり、さらに好ましくは1〜1.2である。Nz係数は、Nz=Rth(λ)/Re(λ)によって求められる。ここで、Rth(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差であり、式:Rth(λ)=(nx−nz)×dによって求められる。
【0054】
位相差フィルムは、好ましくは、いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には、その面内位相差は、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8〜0.95である。Re(550)/Re(650)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8〜0.97である。
【0055】
位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10
−12(m
2/N)〜100×10
−12(m
2/N)であり、より好ましくは2×10
−12(m
2/N)〜50×10
−12(m
2/N)である。
【0056】
G.円偏光板および円偏光板の製造方法
上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、代表的には円偏光板に好適に用いられ得る。
図12は、そのような円偏光板の一例の概略断面図である。図示例の円偏光板300は、偏光子310と、偏光子310の片側に配置された第1の保護フィルム320と、偏光子310のもう片側に配置された第2の保護フィルム330と、第2の保護フィルム330の外側に配置された位相差フィルム340と、を有する。位相差フィルム340は、上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムである。第2の保護フィルム330は省略されてもよい。その場合、位相差フィルム340が偏光子の保護フィルムとして機能し得る。偏光子310の吸収軸と位相差フィルム340の遅相軸とのなす角度は、好ましくは30°〜60°、より好ましくは38°〜52°、さらに好ましくは43°〜47°、特に好ましくは45°程度である。なお、偏光子および保護フィルムの構成は業界で周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0057】
円偏光板は、目的に応じて任意の適切な光学部材や光学機能層を任意の適切な位置にさらに含んでいてもよい。例えば、第1の保護フィルム320の外側表面に、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理、光拡散処理等の表面処理が施されていてもよい。また、位相差フィルム340の少なくとも一方の側に、目的に応じて任意の適切な屈折率楕円体を示す別の位相差フィルムが配置されてもよい。さらに、第1の保護フィルム320の外側には、フロント基板(例えば、透明保護基板、タッチパネル)等の光学部材が配置されてもよい。
【0058】
上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、円偏光板の製造にきわめて好適である。詳細は以下のとおりである。この位相差フィルムは、長尺状であり、かつ、斜め方向(上記のとおり、長尺方向に対して例えば45°の方向)に遅相軸を有する。多くの場合、長尺状の偏光子は長尺方向または幅方向に吸収軸を有するので、本発明の製造方法により得られた位相差フィルムを用いれば、いわゆるロールトゥロールを利用することができ、きわめて優れた製造効率で円偏光板を作製することができる。しかも、上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、一軸性および面内配向性が高いので、非常に優れた光学特性を有する円偏光板を得ることができる。なお、ロールトゥロールとは、長尺のフィルム同士をロール搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【0059】
図13を参照して、本発明の1つの実施形態による円偏光板の製造方法を簡単に説明する。
図13において、符号811および812は、それぞれ、偏光板および位相差フィルムを巻回するロールであり、符号822は搬送ロールである。図示例では、偏光板(第1の保護フィルム320/偏光子310/第2の保護フィルム330)と、位相差フィルム340とを矢印方向に送り出し、それぞれの長手方向を揃えた状態で貼り合わせる。その際、偏光板の第2の保護フィルム330と位相差フィルム340とが隣接するように貼り合わせる。このようにして、
図12に示すような円偏光板300が得られ得る。図示しないが、例えば、偏光板(第1の保護フィルム320/偏光子310)と位相差フィルム340とを、偏光子310と位相差フィルム340とが隣接するように貼り合わせ、位相差フィルム340が保護フィルムとして機能する円偏光板を作製することもできる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における測定および評価方法は下記のとおりである。
【0061】
(1)配向角(遅相軸の発現方向)
実施例および比較例で得られた位相差フィルムの中央部を、一辺が当該フィルムの幅方向と平行となるようにして幅50mm、長さ50mmの正方形状に切り出して試料を作成した。この試料を、ミュラーマトリクス・ポラリメーター(Axometrics社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定し、波長550nm、23℃における配向角θを測定した。なお、配向角θは測定台に試料を平行に置いた状態で測定した。
(2)面内位相差Re
上記(1)と同様にして、Axometrics社製 製品名「Axoscan」を用いて、波長550nm、23℃で測定した。
(3)厚み方向位相差Rth
上記(1)と同様にして、Axometrics社製 製品名「Axoscan」を用いて、波長550nm、23℃で測定した。
(4)Nz係数
式:Nz=Rth/Reから算出した。
(5)視野角特性
有機ELディスプレイ(LG社製、製品名:15EL9500)より有機ELパネルを取り出し、この有機ELパネルに貼り付けられている偏光板を剥がした。実施例および比較例で得られた位相差フィルムの配向角と偏光板の吸収軸が45°となるように粘着剤で貼り合せた円偏光板を作製した。この円偏光板を偏光板を剥がした有機ELパネルに、粘着剤で貼り付けた。円偏光板が貼られた有機ELパネルを様々な方向から目視観察し、その反射率・反射色相を確認した。評価基準は以下のとおりである:
○・・・ディスプレイを様々な方向から見ても、反射色相や反射率が概ね一定である
△・・・ディスプレイを見る角度が深くなると、反射色相や反射率が変化しているのがわかる
×・・・ディスプレイを見る角度によって、反射色相や反射率が変化するのがわかる
(6)シワ
実施例および比較例で得られた位相差フィルムの状態を目視にて確認した。判断基準は以下のとおりである:
○・・・フィルム全体にわたってシワも波打ちも認められない
△・・・フィルムの幅方向端部は、トタン状にシワが有り波打っているが、中央部は波打ちはない
×・・・トタン状にシワが入り、フィルムが波打っている。
(7)厚み
マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
(8)複屈折(Δn)
上記Axometrics社製 製品名「Axoscan」で得られたRe値を、上記マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)を得られた膜厚で割ることで求めた。
【0062】
<実施例1>
(ポリカーボネート樹脂フィルムの作製)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)、イソソルビド(ISB)、ジエチレングリコール(DEG)、ジフェニルカーボネート(DPC)、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム=0.348/0.490/0.162/1.005/1.00×10
−5になるように仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0063】
第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、反応液をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット化を行い、BHEPF/ISB/DEG=34.8/49.0/16.2[mol%]の共重合組成のポリカーボネート樹脂Aを得た。このポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.430dL/g、ガラス転移温度は128℃であった。
【0064】
得られたポリカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅900mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み150μmのポリカーボネート樹脂フィルムを作製した。
【0065】
(予熱ならびに第1および第2の斜め延伸工程)
上記のようにして得られたポリカーボネート樹脂フィルムを、
図1〜
図3に示すような装置を用い、
図5に示すようなクリップピッチのプロファイルで、予熱処理、第1の斜め延伸および第2の斜め延伸処理に供し、位相差フィルムを得た。具体的には、以下のとおりである:ポリカーボネート樹脂フィルム(厚み150μm、幅(W
1)765mm)を延伸装置の予熱ゾーンで145℃に予熱した。予熱ゾーンにおいては、左右のクリップのクリップピッチ(P
1)は125mmであった。次に、フィルムが第1の斜め延伸ゾーンCに入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの増大および左側クリップのクリップピッチの減少を開始した。第1の斜め延伸ゾーンCの終端部における右側クリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
1)は1.42であり、左側クリップのクリップピッチの変化率(P
3/P
1)は0.72であった。なお、第1の斜め延伸は138℃で行った。第1の斜め延伸後のフィルム幅(W
2)は1092mmであった(TD延伸倍率(W
2/W
1)=1.45倍)。次に、フィルムが第2の斜め延伸ゾーンDに入ると同時に、左側クリップのクリップピッチの増大を開始し、P
3からP
2まで増大させた。第2の斜め延伸ゾーンDにおける左側クリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
3)は1.97であった。一方、右側クリップのクリップピッチは、第2の斜め延伸ゾーンDにおいてP
2のまま維持した。なお、第2の斜め延伸は138℃で行った。第2の斜め延伸後のフィルム幅(W
3)は1419mmであった。また、上記第1の斜め延伸工程および第2の斜め延伸工程における幅方向への延伸倍率(W
3/W
1)は、1.9倍であった。
【0066】
(解放工程)
次いで、解放ゾーンにおいて、125℃で60秒間フィルムを保持して熱固定を行った。熱固定されたフィルムを、100℃まで冷却後、左右のクリップを解放した。
【0067】
以上のようにして、位相差フィルム(厚み55μm、幅1419mm)を得た。得られた位相差フィルムを上記(1)〜(8)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0068】
<実施例2>
実施例1と同様にして得られたポリカーボネート樹脂フィルム(厚み140μm、幅765mm)を用いたこと、第1の斜め延伸工程開始時の(予熱ゾーンにおける)左右のクリップのクリップピッチ(P
1)を150mmとしたこと、および、左側クリップのクリップピッチの変化率(P
3/P
1)を0.6としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0069】
<実施例3>
第1の斜め延伸工程において、右側クリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
1)を1.6としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0070】
<実施例4>
実施例1と同様にして得られたポリカーボネート樹脂フィルム(厚み175μm、幅765mm)を用いたこと、第1の斜め延伸工程において、右側クリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
1)を1.6としたこと、および、左側クリップのクリップピッチの変化率(P
3/P
1)を0.9としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0071】
<実施例5>
実施例1と同様にして得られたポリカーボネート樹脂フィルム(厚み155μm、幅765mm)を用いたこと、および、第1の斜め延伸工程および第2の斜め延伸工程における幅方向の延伸倍率(W
3/W
1)を1.7倍としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0072】
<実施例6>
ポリカーボネート系樹脂フィルムの代わりにシクロオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製「ゼオノア ZF−14フィルム」、厚み100μm、幅765mm)を用いたこと、予熱ゾーンで150℃に予熱したこと、および、第1の斜め延伸および第2の斜め延伸を150℃で行ったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0073】
<実施例7>
(ポリビニルアセタール系樹脂フィルムの作製)
880gのポリビニルアルコール系樹脂〔日本合成化学(株)製 商品名「NH−18」(重合度=1800、ケン化度=99.0%)〕を、105℃で2時間乾燥させた後、16.72kgのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。ここに、298gの2−メトキシ−1−ナフトアルデヒド及び80gのp−トルエンスルホン酸・1水和物を加えて、40℃で1時間攪拌した。反応溶液に、318gのベンズアルデヒドを加え、40℃で1時間攪拌した後、457gのジメチルアセタールをさらに加えて、40℃で3時間攪拌した。その後、213gのトリエチルアミンを加えて反応を終了させた。得られた粗生成物をメタノールで再沈殿を行った。ろ過した重合体をテトラヒドロフランに溶解し、再びメタノールで再沈殿を行った。これを、ろ過、乾燥して、1.19kgの白色の重合体を得た。
得られた重合体は、
1H−NMRで測定したところ、下記式(XI)で表される繰り返し単位を有し、l:m:n:oの比率(モル比)は10:25:52:11であった。また、この重合体のガラス転移温度を測定したところ、130℃であった。
【0074】
【化1】
【0075】
得られた重合体をメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、得られた溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み70μm)上にダイコーターで塗工し、空気循環式乾燥オーブンで乾燥させた後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥ぎ取って、厚み190μm、幅765mmのフィルムを作製した。
【0076】
上記ポリビニルアセタール系樹脂フィルムを用いたこと、予熱ゾーンで145℃に予熱したこと、および、第1の斜め延伸および第2の斜め延伸を137℃で行ったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例8>
第1の斜め延伸工程において、右側クリップのクリップピッチを拡大し始めた位置よりも遅い位置から(右側クリップのクリップピッチがP
1に対して1.21倍および幅方向の延伸倍率が1.225倍となった位置から)、左側クリップのクリップピッチの減少を開始したこと以外は実施例2と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0078】
<比較例1>
第1の斜め延伸工程において、左側クリップのクリップピッチを変化させなかったことおよび右側クリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
1)を1.6としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
<評価>
上記表に示されるとおり、本発明の製造方法によって得られた長尺状の位相差フィルムは、長手方向に対しておよそ45度の方向に遅相軸を有し、およそ140nmの面内位相差を有することから、長手方向または幅方向に吸収軸を有する長尺状の偏光子とのロールトゥロールプロセスで積層することにより、高い生産効率で円偏光板を形成できる。また、本発明の製造方法によって得られた位相差フィルムは、1.3以下のNz係数を有し、一軸性が高いことがわかる。さらに、複屈折(Δn)が高く、面内配向性にも優れている。