(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
除湿機能を備える空気調和機として、室内熱交換器が2分割され、その2つの室内熱交換器間に弁閉状態で膨張弁となる絞り弁装置が配置されている空気調和機が知られている。この除湿機能を備える空気調和機では、除湿運転時において、冷媒が絞り弁装置の狭い流体流路を通過して減圧されるようになっている。
【0003】
そして、2分割された室内熱交換器の内、上流側の室内熱交換器が凝縮器、下流側の室内熱交換器が蒸発器として作用し、下流側の室内熱交換器によって室内空気を冷却・除湿するとともに、上流側の室内熱交換器によって室内空気を加熱することで、温度を下げずに室内空気の除湿を行うことができるようになっている。
【0004】
上述したような除湿機能を備える空気調和機では、除湿運転時において、液体と気体とが混ざり合った気液混合状態の冷媒が絞り弁装置に流入する。この際、冷媒中には気泡が含まれており、この冷媒中の気泡が流体流路を通過した直後に膨張破裂することで、耳障りな冷媒通過音が発生する。このような冷媒通過音は冷媒流量が増加するにつれてより顕著に発生する。
【0005】
このような冷媒通過音を低減するため、従来、絞り弁装置に例えば焼結金属などからなる多孔質部材を配置し、この多孔質部材を冷媒が通過するように構成された絞り弁装置(フィルター方式の絞り弁装置)が、例えば特許文献1、2などに開示されている。
【0006】
図12は、特許文献1(特開2005−24161号公報)、特許文献2(特開2004−3793号公報)などに開示されている従来のフィルター方式の絞り弁装置の一部を示した断面図である。
この従来のフィルター方式の絞り弁装置100は、
図12に示したように、ハウジング106の内部に弁座部材110が固定されているとともに、ハウジング106の上方側には、上下移動可能に構成された弁本体120が収容されている。
図12に示した状態では、弁本体120が下方に移動し、その外周面120aが弁座部材110の弁シート部110aと当接して、弁ポート112が弁本体120によって閉止された弁閉状態となっている。
【0007】
また、弁本体120の内部には、通過する冷媒を減圧する流体流路130が形成されている。そして、この流体流路130の上下には、多孔質部材で形成された多孔体123、125が配置されている。
【0008】
また、弁本体120の外周には、多孔質部材で形成されたフィルター121が配置されている。このフィルター121は、上述した多孔体123、125よりも孔径が小さい多孔質部材によって形成されており、冷媒中に存在する固形の混入物を除去できるようになっている。
【0009】
このような構成からなる従来のフィルター方式の絞り弁装置100は、弁閉状態において、図中の矢印で示したように、第1の入出口ポート102からハウジング106で画成される弁室108A内に流入した冷媒が、フィルター121、連絡路132、多孔体123、流体流路130、多孔体125を通過して、第2の入出口ポート104へ流出するようになっている。
そして、主として流体流路130で減圧が行なわれるとともに、フィルター121、および多孔体123、125によって、冷媒に混入している気泡を微細化し、これにより冷媒通過音を低減できるようになっている。
【0010】
また、上述したフィルター方式とは異なる方式の絞り弁装置として、弁座部材の弁シート部に溝を形成し、この溝を流体流路として構成した絞り弁装置(溝方式の絞り弁装置)において、冷媒通過音を低減するために、溝の数や形状等に変更を加えた絞り弁装置が、例えば、特許文献3〜7に開示されている。
【0011】
ここで、
図13は、特許文献3〜7などに開示されている従来の溝方式の絞り弁装置の一部を示した断面図、
図14(A)は、
図13のa部を拡大して示した拡大断面図、
図14(B)は、
図14(A)のb−b線における断面図、
図14(C)は、
図14(A)のc−c線における断面図である。
【0012】
この従来の溝方式の絞り弁装置200は、
図13に示したように、ハウジング206の内部に弁座部材210が固定されているとともに、ハウジング206の上方側には、上下移動可能に構成された弁本体220が収容されている。
【0013】
そして、
図13に示した状態では、弁本体220が下方に移動し、その外周面220aが弁座部材210の弁シート部210aと当接して、弁ポート212が弁本体220によって閉止された弁閉状態となっている。
【0014】
また、弁座部材210の弁シート部210aには、溝230が形成されている。この溝230は、
図13に示した弁閉状態において、冷媒が通過する流体流路230Aとして機能する。また、溝230は、
図14(B)および
図14(C)に示したように、断面略V字状に形成されており、その断面形状は、上流端230bから下流端230cに至るまで同じ断面形状に形成されている。
【0015】
なお、
図14(A)の矢印232は、溝230を通過した冷媒の流路方向を示している。この矢印232は、上流端230bにおける溝230の断面の中心232bと、下流端230cにおける溝230の断面の中心232cとを通過する直線上に位置している。
【0016】
このような構成からなる従来の溝方式の絞り弁装置200は、
図13の矢印で示したように、第1の入出口ポート202からハウジング206で画成される弁室208A内に流入した冷媒が、上述した流体流路230Aを通過する際に減圧され、減圧された冷媒が第2の入出口ポート204へ流出するようになっている。
【0017】
この際、特許文献4(特開2004−150580号公報)に開示されている絞り装置では、所定数以上の流体流路230Aを形成し、流体流路230Aを通過する冷媒の運動エネルギーを分散させることで、冷媒通過音を低減させるようになっている。
【0018】
また、特許文献5(特開2004−183950号公報)に開示されている絞り装置では、流体流路230Aの内面に微細な凹凸などからなる気泡破壊手段を設け、この気泡破壊手段によって冷媒に混入している気泡を微細化し、冷媒通過音を低減させるようになっている。
【0019】
また、特許文献6(特開2007−327551号公報)、特許文献7(特開2009−144893号公報)に開示されている絞り装置では、所定の深さの流体流路230Aを複数列並設し、流体流路230Aを通過する冷媒の運動エネルギーを分散させることで、冷媒通過音を低減させるようになっている。
【0020】
さらに、特許文献8(特許第4812199号公報)には、常時開弁状態で通電時閉弁状態となるように構成した電磁弁において、弁内部を流れる流体の力により非通電時にも関わらず、弁体が弁座部材に向って引き込まれることがなく、開弁状態を維持するようにした構成が提案されている。
【0021】
すなわち、
図15の概略図に示したように、特許文献8の電磁弁300では、弁座シート部材302の位置を、入口側パイプ306の中心軸線Oに近づけることによって、圧力損失を低下させ、これにより、流体の流量が多い場合や、圧力差によっても、弁体308が弁座部材304に向って引き込まれることがなく、開弁状態を維持できるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、上述したフィルター方式の絞り弁装置100は、冷媒通過音を低減する効果が大きく、高い静音性を有するものの、部品点数が多く、コストが高いとの問題があった。また、冷媒がフィルター121などの多孔質部材の細孔を通過するため、冷媒中に存在する固形の混入物がこの細孔に詰まってしまい、長期間の使用において、絞り弁装置100における冷媒流量が変化するというおそれがあった。
【0024】
また、上述した溝方式の絞り弁装置200は、フィルター方式の絞り弁装置100と比べて、構造が簡素で、低コストで製造可能であるものの、冷媒通過音を低減する効果は低く、所望の騒音レベルにまで冷媒通過音を低減させることは難しかった。
【0025】
さらに、特許文献8の電磁弁300では、弁座シート部材302の位置を、入口側パイプ306の中心軸線Oに近づける構造とするために、弁座シート部材302の位置設定の自由度がなくなり、また弁体308の位置設定の自由度もなくなることになる。
【0026】
本発明は、上述したような従来技術の課題に鑑みなされた発明であって、弁座シート部材と弁体の位置設定の自由度を保ちながら、構造が簡素で、低コストで製造可能であるとともに、高い静音性を有する絞り弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上述した目的を達成するために発明されたものであって、
本発明の絞り弁装置は、
弁シート部が形成された弁座部材と、該弁シート部と接離する弁本体と、を備えた絞り弁装置であって、
前記弁座部材と弁本体との間には、前記弁本体が弁シート部と当接した状態において、前記弁座部材と弁本体との間を流体が通過する流体流路が形成されており、
前記流体流路の少なくとも一部には、その上流から下流に向かって断面積が連続的に小さくなるように形成された断面縮小部が形成されているとともに、
前記流体流路の下流には、前記流体流路を通過した流体を案内する流体案内部が形成され、
前記流体案内部が、前記流体流路の断面縮小部の最小流路断面積以上の流路断面積を有するように形成され
、
前記流体案内部が、
前記弁本体の下端外周面と、流体案内部の外周面とのなす角度αと、前記弁本体の下端外周面と、弁座部材の内周面とのなす角度βとした時に、
0<α≦βとの関係を満たすように形成されていることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の絞り弁装置は、
弁シート部が形成された弁座部材と、該弁シート部と接離する弁本体と、を備えた絞り弁装置であって、
前記弁座部材と弁本体との間には、前記弁本体が弁シート部と当接した状態において、前記弁座部材と弁本体との間を流体が通過する流体流路が形成されており、
前記流体流路の少なくとも一部には、その上流から下流に向かって断面積が連続的に小さくなるように形成された断面縮小部が形成されているとともに、
前記流体流路の下流には、前記流体流路を通過した流体を案内する流体案内部が形成され、
前記流体流路が、前記弁本体に形成された溝と、前記弁シート部の外周面とによって構成され、
前記流体案内部が、前記流体流路の断面縮小部の最小流路断面積以上の流路断面積を有するように形成されていることを特徴とする。
このような断面縮小部が、流体流路の少なくとも一部に形成されていれば、流体がこの断面縮小部を通過する際に、流体中に含まれる気泡が微細化されるため、流体通過音を低減することができる。
【0029】
このように、流体流路が弁本体に形成されている溝と、弁シート部の外周面とによって構成されていれば、流体流路を単純な構造で構成することができる。
【0030】
このような流体案内部が、流体流路の下流に各々形成されていれば、流体流路を通過した流体同士が直接衝突するのを防ぐことができるため、流体通過音を低減することができる。
【0031】
また、本発明の絞り弁装置は、前記流体流路が、複数形成されていることを特徴とする。
【0032】
このように構成することで、流体流路の少なくとも一部に断面縮小部が形成されるとともに、流体流路の下流には流体案内部が形成されているため、断面縮小部によって気泡が微細化される効果と、流体案内部によって、流体同士が直接衝突するのを防ぐことができる効果とが相まって、流体通過音をより低減することができる。
【0033】
また、フィルター式の絞り弁装置のように、多孔質部材などを用いる必要がないため、構造が簡素で、低コストで製造可能な絞り弁装置を提供することができる。
【0034】
また、本発明の絞り弁装置は、前記流体案内部が、前記複数形成された流体流路に対応して各々形成されていることを特徴とする。
【0035】
このような流体案内部が、複数の流体流路の下流に各々形成されていれば、流体流路を通過した流体同士が直接衝突するのを防ぐことができるため、流体通過音を低減することができる。
【0036】
また、本発明の絞り弁装置は、前記流体流路の全体が、その上流端から下流端に向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されていることを特徴とする。
【0037】
このように、流体流路の全体が、上述した断面縮小部として構成されていれば、限られた流体流路の長さの中で、流体中に含まれる気泡の微細化がスムーズに行われ、より高い流体通過音の低減効果が発揮される絞り弁装置とすることができる。
【0038】
また、本発明の絞り弁装置は、
前記流体案内部が、
前記弁本体の下端外周面と、流体案内部の外周面とのなす角度αと、前記弁本体の下端外周面と、弁座部材の内周面とのなす角度βとした時に、
0<α≦βとの関係を満たすように形成されていることを特徴とする。
【0039】
このように構成することによって、流体流路を通過した流体が、流体案内部によって流体同士が直接衝突しないように案内され、流体同士の衝突による流体通過音(異音、騒音)をより効果的に低減することができる。
【0040】
また、本発明の絞り弁装置は、前記流体案内部が、弁本体下部に突設した流体案内突部から構成されていることを特徴とする。
【0041】
このように構成することによって、流体流路を通過した流体が、弁本体下部に突設した流体案内突部によって流体同士が直接衝突しないように案内され、流体同士の衝突による流体通過音(異音、騒音)をより効果的に低減することができる。
【0042】
また、流体案内突部を弁本体下部に突設するように、弁本体と一体に形成するだけでよいので、本発明の絞り弁装置をより簡素な構造とすることができ、コストを低減することができる。
【0043】
また、本発明の絞り弁装置は、前記流体案内部が、弁本体下部に形成した流体案内溝部から構成されていることを特徴とする。
【0044】
このように構成することによって、流体流路を通過した流体が、弁本体下部に形成した流体案内溝部によって流体同士が直接衝突しないように案内され、流体同士の衝突による流体通過音(異音、騒音)をより効果的に低減することができる。
【0045】
また、流体案内溝部を弁本体下部に弁本体下部に形成するだけでよいので、本発明の絞り弁装置をより簡素な構造とすることができ、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、構造が簡素で、低コストで製造可能であるとともに、高い静音性を有する絞り弁装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、除湿機能を備える空気調和機を示したブロック図である。
図2および
図3は、本発明の絞り弁装置を示した断面図であり、
図2は弁開状態における断面図、
図3は弁閉状態における断面図である。また、
図4は、本発明の絞り弁装置の弁座部材を示した斜視図である。
【0049】
本発明の絞り弁装置1は、
図1に示したような除湿機能を備える空気調和機50に好適に用いられる。
この空気調和機50は、
図1に示したように、圧縮機52と、室外熱交換器54と、膨張弁56と、第1の室内熱交換器58Aと、第2の室内熱交換器58Bと、四方弁60とが、それぞれ冷媒配管を介して環状に接続されることで構成されている。
そして、圧縮機52において吸引圧縮されて冷媒配管を循環する冷媒が、室外熱交換器54、第1の室内熱交換器58A、および第2の室内熱交換器58Bなどで熱交換されることで、室内の空気を暖房、冷房、および除湿できるように構成されている。
なお、四方弁60は、暖房運転時および冷房・除湿運転時とで、冷媒の循環方向を切り換えるために配置されている。
【0050】
本発明の絞り弁装置1は、この空気調和機50の第1の室内熱交換器58Aと第2の室内熱交換器58Bとの間に配置されている。
この空気調和機50は、冷房・除湿運転時には、図中の矢印で示した方向に冷媒が流れるようになっている。そして、絞り弁装置1は、冷房運転時には、後述する
図2に示したような弁開状態となり、除湿運転時には後述する
図3に示したような弁閉状態となるように構成されている。
【0051】
本発明の絞り弁装置1は、
図2および
図3に示したように、略円筒状のハウジング6の内部下方に弁座部材10が固定されており、このハウジング6、および弁座部材10によって弁室8Aが画成されている。そして、ハウジング6の側面の開口には第1の入出口ポート2が嵌装されて、この弁室8Aと接続している。また、ハウジング6の下方側からは第2の入出口ポート4が挿入されている。この第2の入出口ポート4は、弁座部材10の下面に形成されている凹部に嵌装されて、弁座部材10の中央部に形成されている弁ポート12に接続している。
【0052】
また、弁座部材10の弁ポート12の上端部の内周面には、弁シート部10aが形成されている。この弁シート部10aは、後述する弁本体20の先端部の外周面20aが当接する部分であり、弁本体20の先端部の外周面20aと同じ傾きに形成されたテーパー状に形成されている。
【0053】
また、ハウジング6の上方側には、弁本体20が収容されている。この弁本体20は、その上端部において不図示のプランジャと結合されており、このプランジャの周囲には、不図示の電磁コイル部が配置されている。そして、この電磁コイル部を通電状態または非通電状態とすることで、プランジャが上方または下方に移動し、これとともに弁本体20も上方または下方に移動するように構成されている。
【0054】
なお、本発明において、弁本体20を上下動される駆動機構は、上述した電磁式の駆動機構に限定されず、例えば、電動式の駆動機構であってもよい。
図2に示した状態では、弁本体20が上方に移動して、弁ポート12が開放された弁開状態となっている。この
図2に示した弁開状態では、
図2中の矢印で示したように、第1の入出口ポート2から弁室8A内に流入した冷媒が、弁ポート12を通過して、第2の入出口ポート4へ流出する。
【0055】
一方、
図3に示した状態では、弁本体20が下方に移動して、弁座部材10の弁シート部10aと弁本体20の外周面20aとが当接し、弁ポート12が閉止された弁閉状態となっている。この
図3に示した弁閉状態では、
図3中の矢印で示したように、第1の入出口ポート2から弁室8A内に流入した冷媒が、弁座部材10と弁本体20との間に形成される流体流路30Aを通過し、減圧されて、第2の入出口ポート4へ流出する。
【0056】
また、
図4に示したように、弁座部材10の弁シート部10aには、溝30が形成されている。そして、
図3に示した弁閉状態において、この溝30と弁本体20の外周面20aとで画成された部分が、冷媒が通過する上述した流体流路30Aとして機能するようになっている。
【0057】
溝30は、
図4に示したように、弁座部材10の弁シート部10aに略等間隔で複数形成されている。また溝30の断面形状は、断面略V字状に形成されている。また、この溝30は、後述するように、上流側から下流側に向かって溝の深さが連続的に浅くなるように形成されている。
【0058】
本発明の絞り弁装置1において、溝30の箇所数は特に限定されないが、複数の溝30が形成されている方が、1箇所当たりの冷媒流量を少なくすることができ、これにより冷媒通過音も低減されるため、好ましい。また、複数の溝30が略等間隔に形成されていれば、1箇所当たりの冷媒流量を平準化することができるため、より好ましい。
【0059】
また、本発明の絞り弁装置1において、上述した溝30の断面形状は特に限定されず、上述したV字状の他に、例えば、半円状、半楕円状、三角形状、四角形状、台形状など、種々の断面形状とすることが可能である。
【0060】
また、弁本体20の先端部(下部)には、その外周から先端側に向かって略鉛直方向に突設した本発明の流体案内部を構成する流体案内突部22が形成されている。この流体案内突部22は、
図3に示した弁閉状態において、流体流路30Aの下流で冷媒の流れを遮るように位置し、後述するように、流体流路30Aから流出した冷媒を下向きに案内するように形成されている。
【0061】
次に、本発明の絞り弁装置1における流体流路30A、および流体案内突部22の作用について、
図5、
図6を基に説明する。
図5(A)は、
図3のa部を拡大して示した拡大断面図、
図5(B)は、
図5(A)のb−b線における断面図、
図5(C)は、
図5(A)のc−c線における断面図である。また、
図6は、流体流路30Aを冷媒が通過している状態を概念的に示した図である。
【0062】
溝30は、上述したように、断面略V字状に形成されており、上流側から下流側に向かって溝の深さが連続的に浅くなるように形成されている。したがって、
図5(B)および
図5(C)に示したように、その下流端30cの溝幅B2は、上流端30bの溝幅B1よりも狭くなっている。
また、その下流端30cの溝深さH2も、上流端30bの溝深さH1よりも浅くなっている。すなわち、流体流路30Aの全体は、その上流端30bから下流端30cに向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されている。
【0063】
このように、流体流路30Aが、その上流端30bから下流端30cに向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されていれば、冷媒が流体流路30Aを通過する際に、その冷媒中に含まれる気泡が徐々に狭くなる流路の中で圧縮されていき、微細化される。
すなわち、
図6に概念的に示したように、流体流路30Aに流入した冷媒中に含まれている大きな気泡33bは、流体流路30Aを通過する際に、気泡が徐々に圧縮されて微細化し、小さい気泡33cとなって下流端30cから流出することとなる。
【0064】
したがって、このような断面積が連続的に小さくなる流体流路30Aが形成されていれば、冷媒中に含まれる気泡が微細化されることで、冷媒通過音を低減することができる。
【0065】
また、上述したように、弁本体20の先端部には流体案内突部22が形成されている。この流体案内突部22は、
図5に示したように、流体案内突部22の外周面22aが、流体流路30Aの上流端30bにおける流体流路30Aの断面の中心32bと、下流端30cにおける流体流路30Aの断面の中心32cとを通過する直線状のライン34と交差する位置に形成されている。
【0066】
これにより、流体流路30Aを通過した冷媒は、
図5(A)の矢印32で示したように、流体案内突部22の外周面22aに沿って案内され、流路方向を下向きに変えて、流体案内突部22と弁座部材10との間に形成される隙間dを通過して、第2の入出口ポート4へと流出する。
この際、
図5(A)に示したように、流体案内突部22の外周面22aにR部21aが形成され、このR部21aが弁本体20の外周面20aと接続するように形成されていれば、流体流路30Aを通過した冷媒の流路方向をスムーズに下向きに変えることができるため、好ましい。
【0067】
このように、流体流路30Aを通過した冷媒流の流路方向を下向きに変える流体案内突部22が、複数の流体流路30Aの下流に各々形成されていれば、流体流路30Aを通過した冷媒流同士が直接衝突するのを防ぐことができ、これにより冷媒通過音を低減することができる。
【0068】
なお、冷媒通過音を効果的に低減するためには、上述したように、流体案内突部22が鉛直方向に突設しているのが好ましい。
流体案内突部22が、このように突設されていれば、流体流路30Aを通過した冷媒流の流路方向を略下向きに変えることができ、弁本体210の外周面210aが約30°傾いて形成されている従来の絞り弁装置200に対して、その冷媒通過音を大きく低減することができる。
【0069】
以上のとおり、本発明の絞り弁装置1によれば、冷媒が流体流路30Aを通過する際に、冷媒中に含まれる気泡が微細化されるため、流体通過音を低減することができるようになっている。また、流体案内突部22によって冷媒流同士が直接衝突するのを防いでいるため、流体通過音を低減することができるようになっている。
【0070】
また、本発明の絞り弁装置1は、従来のフィルター式の絞り弁装置200のように、多孔質部材などを用いる必要がないため、構造が簡素で、低コストで製造可能な絞り弁装置とすることができる。
【0071】
なお、上述した流体流路30Aは、流体流路30Aの全体が、上流端30bから下流端30cに向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されている。
このように構成されていれば、限られた流体流路30Aの長さの中で、冷媒中に含まれる気泡をスムーズに微細化することができるため好ましいが、本発明の絞り弁装置1はこれに限定されない、すなわち、少なくとも流体流路30Aの一部が、その上流から下流に向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されていればよい。
【0072】
例えば、
図7(A)に示したように、流体流路30Aの上流端30b側に、その上流から下流に向かって断面積が連続的に小さくなる断面縮小部34Aが形成され、この断面縮小部34Aよりも下流側は、均一な断面積に形成されていてもよい。
また、図示しないが、このような断面縮小部34Aが、流体流路30Aの下流端30c側に形成されていてもよい。また、図示しないが、このような断面縮小部34Aが、流体流路30Aの中間部に形成され、その上流端30b側、およびその下流端30b側は均一な断面積に形成されていてもよい。
【0073】
また、
図7(B)に示したように、流体流路30Aの上流端30b側に断面縮小部34Aが形成され、この断面縮小部34Aよりも下流側は、その上流から下流に向かって断面積が連続的に大きくなる断面拡大部34Bが形成されていてもよい。
このような断面拡大部34Bが形成されていれば、流体流路30Aを通過した冷媒が、第2の入出口ポート4に流出する際に生ずる冷媒の圧力変化を緩やかにすることができ、冷媒通過音も小さくすることができる。
【0074】
なお、本発明の流体案内部を構成する流体案内突部22は、
図8に示したように、弁本体20の下端の外周面20aと、流体案内突部22の外周面22aとのなす角度αと、弁本体20の下端の外周面20aと、弁座部材10の内周面10bとのなす角度βとした時に、
0<α≦βとの関係を満たすように形成されているのが望ましい。
【0075】
このように構成することによって、流体流路30Aを通過した流体が、流体案内部である流体案内突部22によって流体同士が直接衝突しないように案内され、流体同士の衝突による流体通過音(異音、騒音)をより効果的に低減することができる。
【0076】
なお、この場合、図示しないが、流体案内突部22は、流体流路30Aの位置に対応して各々設けられていても良く、また、弁本体20の先端部の外周全周に形成しても良い。
【0077】
図9は、本発明の別の実施例の絞り弁装置1の部分拡大断面図である。
この実施例の絞り弁装置1は、
図2に示した絞り弁装置1と基本的には同様な構成であり、同一の構成部材には、同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0078】
この実施例の絞り弁装置1では、本発明の流体案内部が、弁本体20の先端部(下部)に形成した流体案内溝部36から構成されている。
この場合、流体案内溝部36は、水平部36aと鉛直部36bとから構成されている。
【0079】
なお、本発明の流体案内部を構成する流体案内溝部36は、
図9に示したように、弁本体20の下端の外周面20aと、流体案内溝部36の外周面である鉛直部36bとのなす角度αと、弁本体20の下端の外周面20aと、弁座部材10の内周面10bとのなす角度βとした時に、
0<α≦βとの関係を満たすように形成されているのが望ましい。
【0080】
このように構成することによって、流体流路30Aを通過した流体が、流体案内部である流体案内溝部36によって流体同士が直接衝突しないように案内され、流体同士の衝突による流体通過音(異音、騒音)をより効果的に低減することができる。
【0081】
なお、この場合、図示しないが、流体案内溝部36は、流体流路30Aの位置に対応して各々設けられていても良く、また、弁本体20の先端部の外周全周に形成しても良い。
さらに、
図10に示したように、R部36cを有するように形成することも可能である。
【0082】
また、流体案内溝部36を形成する位置としては、
図9に示したように、弁本体20の下端の外周面20aが、弁座部材10の弁シート部10aの上端と当接する位置20bと、弁本体20の下端の外周面20aの下端20cとの間に形成すれば良い。
【0083】
図11は、本発明の別の実施例の絞り弁装置1の部分拡大断面図である。
この実施例の絞り弁装置1は、
図2に示した絞り弁装置1と基本的には同様な構成であり、同一の構成部材には、同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0084】
この実施例の絞り弁装置1では、バネ受け部材38の下端が下方に延設されており、これにより、弁開時に、弁本体20の下端部、すなわち、流体案内突部22を取り囲む囲繞部40が形成されている。
【0085】
すなわち、常時開弁状態で通電時閉弁状態となるように構成した絞り弁装置1において、
図2の実施例のように、弁本体20の下端部、すなわち、流体案内突部22が、バネ受け部材38の下端よりも下方に突設している場合には、第1の入出口ポート2から流入する流体に直接曝されることになる。
【0086】
このため、弁内部を流れる流体の力により非通電時にも関わらず、弁本体20が弁座部材10に向って引き込まれるおそれがあり、開弁状態を維持することができないことになる。
この実施例の絞り弁装置1では、弁開時に、バネ受け部材38の下端の下方に延設された囲繞部40によって、弁本体20の下端部、すなわち、流体案内突部22が取り囲まれる。
【0087】
これにより、弁本体20の下端部、すなわち、流体案内突部22が、第1の入出口ポート2から流入する流体に直接曝されることがなく、弁本体20が弁座部材10に向って引き込まれるおそれがなく、開弁状態を維持することができる。
【0088】
この場合、囲繞部40の突設距離としては、特に限定されるものではなく、第1の入出口ポート2の上部内壁2aよりも下方に延設していれば良く、流体の種類、流速などを第1の入出口ポート2の流れを阻害しない距離突設するように適宜設計するようにすれば良い。
【0089】
このように構成することによって、特許文献8の電磁弁300では、弁座シート部材302の位置を、入口側パイプ306の中心軸線Oに近づける構造とするために、弁座シート部材302の位置設定の自由度がなくなり、また弁体308の位置設定の自由度もなくなるのに対して、本発明の絞り弁装置1では、バネ受け部材38の下端の下方に延設された囲繞部40を設けるだけで良いので弁座シート部材302と弁体308の位置設定の自由度を保ちながら、構造が簡単で、コストも低減することができる。
【0090】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、弁座部材10の弁シート部10aに溝30を形成し、この溝30と弁本体20の外周面20aとによって、流体流路30Aを画成している。
しかしながら、本発明の絞り弁装置1はこれに限定されず、例えば、弁本体20の外周面20aに溝30を形成し、この溝30と弁座部材10の弁シート部10aとによって流体流路30Aを画成するように構成してもよい。
【0091】
また、弁座部材10の弁シート部10aと、弁本体20の外周面20aの両方に溝30を形成し、これら2つの溝30が組み合されることで、流体流路30Aを画成するように構成してもよい。
【0092】
また、上述した実施形態では、流体案内突部22は、弁本体20の先端部に略鉛直方向に突設して形成されていた。このような構成であれば、流体案内突部22を弁本体20と一体に形成することで、絞り弁装置1をより簡素な構造とすることができるため好ましいが、本発明の絞り弁装置1はこれに限定されない。
例えば、流体案内突部22を弁座部材10や第2の入出口ポート4の一部分として構成することや、また、例えば、流体案内突部22を弁本体20、弁座部材10、第2の入出口ポート4とは別体の部材によって構成することも可能である。
【0093】
また、上述した実施形態では、少なくとも流体流路30Aの一部が、その上流から下流に向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されているとともに、複数の流体流路30Aの下流には、流体流路30Aを通過した冷媒を案内する流体案内突部22が各々形成されていた。
このように、流体流路30Aと流体案内突部22とが両方とも形成されていれば、流体流路30Aによって気泡が微細化される効果と、流体案内突部22によって冷媒流同士の衝突が回避されることの効果とが相まって、冷媒通過音をより低減することができるため、好ましい。
【0094】
しかしながら、本発明の絞り弁装置1はこれに限定されず、上述した流体流路30A、および流体案内突部22の内、いずれか一方だけが形成されていてもよい。
すなわち、例えば、少なくとも流体流路30Aの一部は、その上流から下流に向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されているが、流体案内突部22は形成されていない絞り弁装置1であってもよい。
また、例えば、複数の流体流路30Aの下流には流体案内突部22が各々形成されているが、流体流路は従来のように均一な断面積に形成されている絞り弁装置1であってもよいものである。
【0095】
また、上述した実施形態では、本発明の絞り弁装置1が、除湿機能を備える空気調和機50に適用された場合を例にして説明した。
しかしながら、本発明の絞り弁装置1の用途はこれに限定されず、弁閉状態において膨張弁として作用する絞り弁装置として、広く他の用途にも適用可能である。また、流体も冷媒には限定されず、例えば、水などであってもよいものである。
【実施例】
【0096】
以下に、本発明の絞り弁装置1の静音性を評価するために実施した比較試験結果を説明する。
なお、以下の説明において特に断りのない場合は、後述する実施例1〜3、比較例、および参考例ともに、同じ条件で試験を行っているものとする。
【0097】
<実施例1>
実施例1では、
図2〜
図5に示した絞り弁装置1を用いて試験を行った。
すなわち、この実施例1で用いた絞り弁装置1は、上述したように、流体流路30Aの全体が、上流端30bから下流端30cに向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されているとともに、弁本体20の先端部には、流体案内突部22がその外周から鉛直方向に突設して形成されている。
【0098】
試験では、弁閉状態にある絞り弁装置1に対して、所定の圧力の冷媒を第1の入出口ポート2から弁室8Aに流入させ、この冷媒が流体流路30Aを通過して第2の入出口ポート4へ流出する際に発生する騒音を、絞り弁装置1から所定の距離だけ離れた位置で測定した。
【0099】
<実施例2>
実施例2で用いた絞り弁装置1は、上述した実施例1の絞り弁装置1に対して、流体流路30Aの一部または全体に断面縮小部34Aが形成されていない点だけが異なっている。
すなわち、この実施例2で用いた絞り弁装置1は、上述した実施例1の絞り弁装置1と同様に、弁本体20の先端部に流体案内突部22が形成されているが、その流体流路は、
図13および
図14に示した従来の溝方式の絞り弁装置200における流体流路230Aと同様に、流体流路の全体にわたって同じ断面形状に形成されている。
【0100】
<実施例3>
実施例3で用いた絞り弁装置1は、上述した実施例1の絞り弁装置1に対して、流体流路30Aの下流に流体案内突部22が形成されていない点だけが異なっている。
すなわち、この実施例3で用いた絞り弁装置1は、上述した実施例1の絞り弁装置1と同様に、流体流路30Aの全体が、上流端30bから下流端30cに向かって断面積が連続的に小さくなるように形成されているが、その弁本体は、
図13および
図14に示した従来の溝方式の絞り弁装置200の弁本体220と同じ形状に形成されている。
【0101】
<比較例>
比較例では、
図13および
図14に示した従来の溝方式の絞り弁装置200を用いて試験を行った。
すなわち、この比較例で用いた絞り弁装置200は、上述したように、流体流路230Aの全体が、上流端230bから下流端230cに至るまで同じ断面形状に形成されているとともに、流体流路230Aの下流には流体案内突部が形成されておらず、
図14に示したように、弁閉状態において、弁本体220の先端部は、矢印232の延長線と交差しない位置にある。
また、その他の条件については、上述した実施例1と同じである。
【0102】
<参考例>
参考例では、
図12に示した従来のフィルター方式の絞り弁装置100を用いて試験を行った。
この参考例で用いた絞り弁装置100は、上述したように、弁座部材110の弁シート部110aと弁本体120の外周面120aとの間に流体流路は形成されておらず、フィルター121、および多孔体123を介して、弁本体120の内部に形成されている流体流路130を冷媒が通過するようになっている。
なお、使用しているフィルター121、および多孔体123、125は、溝方式の絞り弁装置用のフィルターおよび多孔体として、標準的なものを使用している。
【0103】
<試験結果>
上述した実施例1〜3、比較例、および参考例の試験結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
表1からも明らかなように、実施例1〜3ともに、比較例の騒音値を下回っている。また、実施例1の絞り弁装置1にあっては、参考例である従来のフィルター式の絞り弁装置100とほぼ同程度の騒音値となっている。
【0105】
以上の比較試験結果より、本発明の絞り弁装置1が騒音性に優れていることが確認された。