特許第5755767号(P5755767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許5755767-トグル式型締装置の型締方法 図000002
  • 特許5755767-トグル式型締装置の型締方法 図000003
  • 特許5755767-トグル式型締装置の型締方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5755767
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】トグル式型締装置の型締方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/66 20060101AFI20150709BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B29C45/66
   B29C45/76
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-16174(P2014-16174)
(22)【出願日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年1月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】松崎 孝治
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−150505(JP,A)
【文献】 特開平09−187853(JP,A)
【文献】 特開2009−234144(JP,A)
【文献】 特開2007−261031(JP,A)
【文献】 特開2002−307502(JP,A)
【文献】 特開2005−313460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トグル機構を備え、該トグル機構のクロスヘッドを駆動して型開閉するようになっているトグル式型締装置において、ヒート・アンド・クール成形方法を実施するとき、
型締工程中において金型の温度が上昇して型締力の上昇が検出されたら前記クロスヘッドを後退させ、前記金型の温度が低下して型締力の低下が検出されたら前記クロスヘッドを前進させ、それによって実質的に型締力が一定になるように型締力調整を実施することを特徴とするトグル式型締装置の型締方法。
【請求項2】
請求項1に記載の型締方法において、前記型締力の検出は、タイバーに設けられた歪みセンサによって検出することを特徴とするトグル式型締装置の型締方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トグル式型締装置において金型を型締めする型締方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の型締装置の一種であるトグル式型締装置は、トグル機構の機械的な性質によって型締力を増幅できる点、型開閉速度を増幅できる点で優れている。トグル式型締装置は次のように構成されている。すなわち、ベッド上に固定されている固定盤、ベッド上にスライド自在に設けられている型締ハウジング、固定盤と型締ハウジングとの間に設けられている4本のタイバー、固定盤と型締ハウジングの間でスライド自在に設けられている可動盤、型締ハウジングと可動盤の間に設けられているトグル機構等から構成されている。トグル機構は、クロスヘッドと複数本のトグルリンクとから構成されている。このクロスヘッドを軸方向に駆動するとトグル式型締装置を駆動することができるが、電動射出成形機の場合には、型締用モータとボールネジ機構によってクロスヘッドを駆動するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−114513号公報
【特許文献2】特開2002−361699号公報
【0004】
特許文献1には、型締力を調整する型締力自動補正装置を備えたトグル式型締装置が記載されている。トグル機構を屈伸させて型開閉するトグル式型締装置においては、トグル機構が適切に伸びた状態で型締力が発生するように、固定盤と型締ハウジングを連結しているタイバーの有効長を金型の型厚に応じて調整する、いわゆる型厚調整を実施している。この型厚調整は、金型をトグル式型締装置に取り付けるときに実施しているが、射出成形を繰り返して装置の温度が上昇して熱膨張によって型締装置を構成する部材の寸法が変化すると型締力が変化してしまう。そうすると射出成形のサイクルを中断して型厚調整をし直さなければならない。特許文献1に記載の型締力自動補正装置は、タイバーに設けられてタイバーの温度を調整するようになっているウォータージャケットと、同様にタイバーに設けられていて型締力を検出する歪みセンサとからなる。ウォータージャケットに冷温水を供給するとタイバーの温度を変化させることができ、そうすると熱膨張によってタイバーの有効長を変化させることができる。つまり型締力を変化させることができる。従って、型締力自動補正装置によって、歪みセンサで検出される型締力が適正な範囲になるようにタイバーの温度を調整すると、型締力を自動的に補正できる。
【0005】
特許文献2には、型締用サーボモータによってトグル式型締装置を型締めする方法であって、一対の金型が型開状態から型閉じして接触するまでは型締用サーボモータに設けられているロータリエンコードの信号に基づいて型締用サーボモータを制御し、一対の金型が接触したことを検出したらそれ以降リニアエンコーダによってタイバーの変位を検出して、この変位に基づいて型締用サーボモータを制御して型締めする方法が記載されている。この方法によると、型締めをするときに、一対の金型が接触したタイミングを基準とし、それ以降に発生するタイバーの変位を監視して型締めをするので、タイバーの変位が規定の変位に達したときに型締めを完了すれば型締力を一定にすることができる。そうすると成形サイクルを繰り返して、金型や型締装置の温度が当初の温度から変化しても、型締力が変化することはなく型締力を一定に維持することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の型厚調整でも、適切に型厚を調整すれば所望の型締力を得られるし、特許文献1に記載の型締力自動補正装置を備えれば、型締装置の温度が変化して熱膨張しても適切な型締力が得られるように調整することはできる。さらには特許文献2に記載の方法を実施すれば、成形サイクルを繰り返すうちに金型や型締装置の温度が変化しても、成形サイクル毎に型締力は一定にすることができる。また、上記において説明はしなかったが、射出成形の成形サイクル毎に型厚調整を行う方法も提案されている。すなわち成形サイクルにおいて型締状態における型締力を測定しておき、次に型開するときに得られた型締力をもとに型厚を微調整するようにする。このようにしても型締力は適切に調整することはできる。しかしながら問題も見受けられる。具体的には、これらの型締力の調整は成形サイクルの途中で実施するものではないので、型締工程中に不適切な型締力が検出された場合であっても、これを速やかに調整することができない。射出工程と保圧工程はトグル式型締装置によって型締した状態で実施するが、成形方法によっては型締中に型締力が変化して型締力が過剰になったり、不十分になることもある。しかしながらこのような場合であっても、従来の方法や特許文献1に記載の型締力自動補正装置によってはすぐには型締力を調整できない。このように型締力が変化する成形方法の例として、射出成形に連動して金型を加熱したり冷却する、いわゆるヒート・アンド・クール成形方法がある。ヒート・アンド・クール成形方法を実施する場合の、各成形サイクル50、50、…における金型の温度の変化が図3のグラフ55に示されている。金型は型締51の前後において急速に加熱する。そして温度が十分に高くなったタイミングで射出52する。そうすると金型内のキャビティが高温になっているので溶融樹脂の流動性が確保され、転写性が向上したりウェルドラインの発生を抑制できる。射出52後、金型を急速に冷却して所定時間保圧工程を実施し、冷却固化を待って型開54して成形品を得る。このような成形サイクル50を実施すると、金型の熱膨張によって、符号51から符号54で示されている型締中において、型締力はグラフ56、56で示されているように変化する。このように型締力が変化すると、一時的に型締力が過剰になる。そうすると型締装置や金型を傷めたり、金型からのガス抜けが不十分になって成形品の品質が低下してしまう。型締力が過剰にならないように予め調整すると、金型の温度が低いときの型締力が不十分になる可能性もある。そうするとバリが発生する等の他の問題が生じてしまう。このような問題の他にタイバーや金型の寿命を縮めてしまうという問題もある。すなわち型締力が型締工程中に変化すると、その変化が変動荷重になって応力が変動するのでタイバーや金型が金属疲労し易くなる。つまりこれらの寿命が縮む。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決した、トグル式型締装置の型締方法を提供することを目的としており、具体的には、型締工程中であっても速やかに型締力を調整することができ、型締装置や金型を適切に保護できると共に成形不良も防止でき、さらにはタイバーや金型の疲労も抑制できる、トグル式型締装置の型締方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、トグル機構を備え、該トグル機構のクロスヘッドを駆動して型開閉するようになっているトグル式型締装置において、ヒート・アンド・クール成形方法を実施するとき、型締工程中において金型の温度が上昇して型締力の上昇が検出されたら前記クロスヘッドを後退させ、前記金型の温度が低下して型締力の低下が検出されたら前記クロスヘッドを前進させ、それによって実質的に型締力が一定になるように型締力調整を実施することを特徴とするトグル式型締装置の型締方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の型締方法において、前記型締力の検出は、タイバーに設けられた歪みセンサによって検出することを特徴とするトグル式型締装置の型締方法として構成される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明は、トグル機構を備え、該前記トグル機構のクロスヘッドを駆動して型開閉するようになっているトグル式型締装置において、型締工程中において金型の温度が上昇して型締力の上昇が検出されたらクロスヘッドを後退させ、金型の温度が低下して型締力の低下が検出されたらクロスヘッドを前進させ、それによって実質的に型締力が一定になるように型締力調整を実施するように構成されている。従って型締工程中において型締力が変化しても、適切に対応することができ、過剰な型締力が発生することもないし、型締力が不十分になることもない。これによって型締装置や金型を過大な負荷から保護できると共にガス抜けを阻害することもバリを発生させることもなく成形不良の発生を防止できる。そして本発明によると、この型締力調整は型締力が実質的に一定になるように型締力を調整するように構成されている。そうすると、タイバーや金型に変動荷重が作用しないのでこれらは疲労し難く、劣化を抑制することができる。また他の発明によると、型締力の検出は、タイバーに設けられた歪みセンサによって検出するように構成されている。歪みセンサは安価であり、本発明を安価に実施できる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係るトグル式型締装置を示す正面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るトグル式型締装置においてヒートアンドクール成形の実施に合わせて本発明の実施の形態に係る型締方法を実施したときの、金型の温度の変化と型締力の変化を示すグラフである。
図3】従来のトグル式型締装置において、ヒートアンドクール成形を実施したときの金型の温度の変化と型締力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照しながら本実施の形態について説明する。図1に示されているように、本実施の形態に係るトグル式電動射出成形機1も、従来のトグル式電動射出成形機と同様に、射出装置2とトグル式型締装置3とから構成されている。トグル式型締装置3は、固定側金型25が設けられている固定盤5と、可動側金型24が設けられている可動盤6と、型締ハウジング7と、固定盤5と型締ハウジング7とを連結している複数本のタイバー9、9、…と、固定盤5と型締ハウジング7との間に設けられているトグル機構11とから構成されている。トグル機構11には、このトグル機構11を駆動するクロスヘッド12が設けられており、クロスヘッド12は、型締用のサーボモータすなわち型締用モータ16によって駆動されるようになっている。より詳しく説明すると、本実施の形態においては、クロスヘッド12にはボールナット13が固定され、ボールナット13にボールネジ14が螺合している。このボールネジ14は型締ハウジング7に軸受けされており、回転は自在であるが軸方向への移動が規制されている。そして型締用モータ16はボールネジ14を回転するようになっている。従って型締用モータ16を駆動するとボールネジ機構13、14を介してクロスヘッド12を駆動できる。なお、型締用モータ16の駆動力をクロスヘッド12に伝達する伝達機構は本実施の形態に限定される必要はない。すなわち、ボールネジがクロスヘッドに回転可能に軸支され、このボールネジに螺合しているボールナットを型締用モータ16によって回転するようにしてもよいし、プーリ、ベルト等の他の伝達機構が介在していてもよい。
【0012】
本実施の形態に係るトグル式型締装置3は、タイバー9に歪みセンサ18が設けられている。歪みセンサ18の信号はコントローラ19に入力されており、型締力を精度良く検出できるようになっている。また型締用モータ16も信号線がコントローラ19に接続されており、コントローラ19から制御できるようになっている。
【0013】
本実施の形態に係る型締方法を説明する。以下では、本実施の形態に係るトグル式型締装置3において、いわゆるヒート・アンド・クール成形を実施する場合に沿って説明する。従って、これらの金型24、25はヒート・アンド・クール成形方法が実施できるように、内部にヒータ、冷温水管等が設けられ、短時間で金型24、25を加熱したり冷却できるようになっている。ヒート・アンド・クール成形は次のように実施する。すなわち成形サイクル35を開始する。トグル式型締装置3を駆動して型締する。型締の直前あるいは直後から金型24、25を加熱する。金型24、25が所定の温度に到達したら射出装置2から溶融樹脂を射出する。金型24、25の温度の変化が図2のグラフ30に示されているが、型締31直後から上昇して射出32時において最大値になっている。金型24、25の温度が十分に高いので溶融樹脂は流動性が高くキャビティに十分に充填される。射出32後、金型24、25を急速に冷却する。樹脂の冷却・固化を待って型開33すると成形品が得られる。金型24、25の温度はグラフ30に示されているように射出32後、型開33まで冷却されていることが分かる。引き続き次の成形サイクル35を実施する。
【0014】
本実施の形態に係る型締方法では、型締工程中において、すなわち図2における型締31から型開33の間に型締力が一定になるように調整する。あるいは制御する。具体的には次のようにする。型締工程中に歪みセンサ18によって型締力を検出する。金型24、25の温度が上昇すると型締力が上昇するのが検出されるので、これを抑制して型締力が一定になるようにクロスヘッド12を後退させる。すなわち型締用モータ16を型開方向に駆動する。一方、射出32後、金型24、25の温度が低下すると型締力が低下するのが検出される。従って型締力が一定になるように型締用モータ16を駆動してクロスヘッド12を前進させる。グラフ38、38は、このようにして調整された型締力を示している。本実施の形態に係る型締方法を実施すると、型締工程中の型締力を実質的に一定に維持できるので、型締力を適切に維持することができると共に、金型やタイバーを変動荷重による疲労から保護することができる。
【0015】
本実施の形態に係る型締方法は色々な変形が可能である。例えば、上の例では型締工程中には型締力が一定になるように制御するように説明したが、所定の変動範囲に収まるように制御してもよい。すなわち型締力の許容範囲を設定しておき、型締力がその許容範囲を超えて変動しないように制御してもよい。また本実施の形態に係るトグル式型締装置3は、型締用モータ16によってクロスヘッド12が駆動されるように説明したが、油圧シリンダ等の他の手段によってクロスヘッド12を駆動するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0016】
1 電動射出成形機 2 射出装置
3 トグル式型締装置 5 固定盤
6 可動盤 7 型締ハウジング
9 タイバー 11 トグル機構
12 クロスヘッド 13 ボールナット
14 ボールネジ 16 型締用モータ
18 歪みセンサ 19 コントローラ
24 可動側金型 25 固定側金型
【要約】
【課題】型締工程中に型締力が変動しないように調整することができ、型締装置や金型を保護して成形不良を防止できるトグル式型締装置の型締方法を提供する。特に、型締工程中に型締力が変化する、ヒート・アンド・クール成形方法において有用な型締方法を提供する。
【解決手段】
トグル機構(11)を備えたトグル式型締装置(3)において、1本のタイバー(9)に歪みセンサ(18)を設ける。成形サイクルのうち型締工程中において歪みセンサ(18)によって型締力を検出する。この型締力が一定になるように型締用モータ(16)を駆動してクロスヘッド(12)を駆動する。これによって型締力を一定に調整する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3