(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて実施形態について説明する。
【0013】
図1は、推定装置の一実施形態を示す。
【0014】
図1に示した推定装置AMは、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶装置とを有するコンピュータ装置等である。推定装置AMは、抽出部EU、演算部CUおよび推定部AUを有する。抽出部EU、演算部CUおよび推定部AUの機能は、CPUが実行するプログラムにより実現されてもよく、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0015】
抽出部EUは、推定装置AMの記憶装置に格納された被験者が発声した音声データあるいは体温や心拍等のデータを含む被験者の生理を示す情報から、音声のピッチ周波数や基本周波数、あるいは体温や心拍数等の被験者の生理の状態を示す第1情報を抽出する。また、抽出部EUは、被験者の生理を示す情報から、被験者における怒りや悲しみ等を含む情動および被験者の心臓や腸等の器官の活動の少なくとも一方を示す第2情報を抽出する。
【0016】
演算部CUは、抽出した第1情報と第2情報とが示す時間変化における類似の度合いを求め、求めた類似の度合いに基づき被験者における恒常性が保たれた所定状態からのずれ量(以下、恒常性のずれ量とも称する)を算出する。
【0017】
推定部AUは、算出された恒常性のずれ量に基づいて被験者の病態を推定する。そして、推定装置AMは、推定部AUにより推定された病態を示す情報を、外部の有機EL(Organic Electro-Luminescence)や液晶等のディスプレイに出力する。
【0018】
以上、
図1に示した実施形態では、被験者の生理の状態を示す第1情報と被験者の情動および器官の活動の少なくとも一方を示す第2情報とを用い、被験者における恒常性のずれ量を算出する。これにより、推定装置AMは、恒常性のずれ量という1つの指標を参照することで、医学の専門的な知識を有することなく、被験者の病態を容易に推定することができる。
【0019】
図2は、推定装置の別の実施形態を示す。
【0020】
図2に示した推定装置100は、CPU等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶装置とを有するコンピュータ装置等である。推定装置100は、推定装置100に含まれるインタフェース部を介して、有線または無線で計測装置1および出力装置2に接続される。これにより、例えば、推定装置100と、計測装置1と、出力装置2とは、推定システムSYSとして動作する。
【0021】
計測装置1は、例えば、少なくともマイクロホンを含み、被験者PAの生理を示す情報を計測する。例えば、計測装置1は、マイクロホンを介して、被験者PAが発話した音声信号を計測し、計測した音声信号を被験者PAの生理を示す情報として推定装置100に出力する。
【0022】
出力装置2は、例えば、有機ELや液晶等のディスプレイを含む。出力装置2は、推定装置100による被験者PAの病態の推定結果を受信し、受信した推定結果を有機EL等のディスプレイに表示する。なお、出力装置2は、推定装置100の内部に設けられてもよい。
【0023】
図2に示した推定装置100は、抽出部10、演算部20および推定部30を有する。抽出部10、演算部20および推定部30の機能は、CPUが実行するプログラムにより実現されてもよく、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0024】
抽出部10は、計測装置1により計測された被験者PAの生理を示す情報から、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と、被験者PAにおける情動および被験者PAの心臓や腸等の器官の活動の少なくとも一方を示す第2情報とを抽出する。抽出部10は、抽出した第1情報および第2情報を演算部20に出力する。抽出部10の動作については、
図3から
図7で説明する。
【0025】
演算部20は、抽出された第1情報と第2情報との時間変化の類似の度合いを算出する。例えば、演算部20は、抽出された第1情報と第2情報との時間変化の相互相関処理を実行し、相互相関係数を類似の度合いとして算出する。演算部20は、算出した複数の類似の度合いを用い、被験者PAにおける恒常性のずれ量を求める。演算部20の動作および恒常性については、
図8から
図12で説明する。
【0026】
推定部30は、求めた被験者PAにおける恒常性のずれ量に基づいて被験者PAの病態を推定する。推定部30は、推定した被験者PAの病態を示す情報を出力装置2に出力する。推定部30の動作については、
図12から
図16で説明する。
【0027】
図3は、被験者PAの発話の基本周波数と被験者PAの情動との関係を示す判断木の一例を示す。
図3に示した判断木は、例えば、複数の被験者PA(例えば100名以上)の各々の発話ごとに、“平常”、“悲しみ”、“怒り”および“喜び”等のいずれかに主観的に評価された各被験者PAの情動と、抽出された基本周波数の高さ等とに基づいて生成される。すなわち、
図3に示した判定木は、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの各情動と、発話における基本周波数の高さ、強度および平均強度との関係を示す。例えば、平常の情動は、基本周波数の高さが150ヘルツ未満、且つ基本周波数の強度が100以上である。悲しみの情動は、基本周波数の高さが150ヘルツ未満、且つ基本周波数の強度が100未満である。怒りの情動は、基本周波数の高さが150ヘルツ以上、且つ基本周波数の平均強度が80以上である。喜びの情動は、基本周波数の高さが150ヘルツ以上、且つ基本周波数の強度が80未満である。
【0028】
なお、
図3に示した判断木は、推定装置100の記憶装置に予め格納される。また、
図3に示した判定木では、被験者PAの情動として、平常、悲しみ、怒り、喜びとしたが、不安、苦痛等の情動を含んでもよい。また、推定装置100は、ピッチ周波数等の音声パラメータと情動との関係を示す判断木を有してもよい。
【0029】
例えば、抽出部10は、計測装置1から受信する被験者PAによる発話の音声信号にFFT(Fast Fourier Transform)等の周波数解析を実行し、基本周波数の高さ等を求める。抽出部10は、被験者PAの各発話から求めた基本周波数の高さ等と
図3に示した判定木とに基づいて、各発話の瞬間において被験者PAに出現している平常、悲しみ、怒りおよび喜びの情動それぞれの割合を、例えば0から10の値の範囲で求める。なお、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの情動の割合を合計した値は、一定値であり、例えば、10とする。また、平常、悲しみ、怒り、喜びの割合は、0から10の値の範囲以外の範囲の値でよい。
【0030】
また、抽出部10は、被験者PAの音声信号から、抑揚やピッチ周波数等を求める。例えば、抽出部10は、音声信号の発話単位における強度変化のパターンから同一周波数成分の領域を検出し、検出した同一周波数成分の領域が出現する時間間隔を抑揚として取得する。また、抽出部10は、例えば、音声信号の周波数解析から周波数スペクトルを取得する。抽出部10は、取得した周波数スペクトルを周波数軸上でずらしながら自己相関処理を実行し、自己相関係数の波形を求める。抽出部10は、求めた自己相関係数の波形における山と山または谷と谷の間隔に基づいてピッチ周波数を求める。そして、抽出部10は、求めた抑揚およびピッチ周波数と所定の間隔および所定の周波数との比較から被験者PAの興奮の度合い(以下、興奮度とも称する)を0から10の値の範囲で求める。興奮度は、抑揚が示す同一周波数成分における出現間隔が所定の間隔より短くなるほど、あるいはピッチ周波数が所定の周波数より高いほど高くなる。換言すれば、被験者PAの生理的な興奮と、交感神経や副交感神経等の被験者PAにおける脳神経の活動とは密接に関係していることから、興奮度を介して、被験者PAの脳神経の活動と被験者PAの情動との関係を調べることができる。なお、興奮度は、0から10の値の範囲以外の範囲の値でもよい。
【0031】
抽出部10は、例えば、求めた興奮度と、平常、悲しみ、怒りおよび喜びそれぞれの割合と乗算し、平常、悲しみ、怒りおよび喜びそれぞれの強度を求める。興奮度は、第1情報の一例であり、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの強度は、第2情報の一例である。
【0032】
図4から
図7は、被験者PAごとの興奮度、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの強度の時間変化の一例を示す。
図4から
図7の横軸は時間軸として被験者PAによる発話単位の順番を示し、
図4から
図7の縦軸は興奮度、および平常、悲しみ、怒り、喜びの各強度を示す。実線は、興奮度の時間変化を示し、一点破線は、平常と怒りとの強度を足した値(以下、“平常プラス怒り”とも称する)の時間変化を示す。また、点線は、悲しみの強度の時間変化を示し、破線は、喜びの強度の時間変化を示す。
【0033】
なお、
図4から
図7に示した興奮度、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの強度の時間変化は、例えば、演算部20により10発話単位のウインドウ幅で移動平均された値を示す。
【0034】
また、平常と怒りとの強度を合わせるのは、発明者が、被験者PAが精神疾患を患っているか否かを推定するにあたり、悲しみと喜びとの情動に特徴的な変化が現れるものと推定し、平常および怒りを他の情動として扱うためである。なお、平常および怒りの情動についても、悲しみと喜びと同様に個別に調べられてもよい。
【0035】
図4は、被験者PAが精神疾患を患っていない健康な精神科の医師で、うつ病患者を診察している時の興奮度、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの強度の時間変化を示す。
図4に示すように、被験者PAである医師の興奮度は、発話している間、1から3.5の範囲の変動を示す。また、医師の情動は、発話の間、平常プラス怒りの強度が悲しみや喜びよりも大きく、うつ病患者を診察していることから喜びの強度が、悲しみと比べて全体的に低い値を示す。
【0036】
図5は、被験者PAがうつ病患者で、
図4に示した医師による診察を受けている時の興奮度、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの強度の時間変化を示す。
図5に示すように、被験者PAのうつ病患者の興奮度は、発話している間、2から5の範囲の変動を示し、
図4に示す医師の興奮度より大きい値を示す。また、うつ病患者の情動は、発話している間、平常プラス怒りの強度が悲しみや喜びよりも大きく、悲しみの強度は、喜びの強度より大きい値を示す。そして、うつ病患者の悲しみおよび喜びの強度は、
図4に示す医師の場合より大きい値を示す。
【0037】
図6は、被験者PAが精神疾患を患っていない健康な一般人Aの場合における興奮度、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの強度の時間変化を示す。
図6に示すように、被験者PAである一般人Aの興奮度は、1.5から4.5の範囲の変動を示す。また、一般人Aの情動は、
図4に示した医師の場合や
図5に示したうつ病患者の場合と同様に、発話している間、平常プラス怒りの強度が悲しみや喜びよりも大きいことを示す。一方、一般人Aにおける喜びの強度は、悲しみの強度より大きい値を示す。さらに、
図6に示すように、一般人Aの喜びの強度は、
図4に示した医師の場合や
図5に示したうつ病患者の場合と比べて大きい値の範囲に分布し、一般人Aの悲しみの強度は、
図4に示した医師の場合や
図5に示したうつ病患者の場合と比べて低い値の範囲に分布している。
【0038】
図7は、被験者PAが、
図6に示した一般人Aとは異なる精神疾患を患っていない健康な一般人Bの場合における興奮度、平常、悲しみ、怒りおよび喜びの強度の時間変化を示す。
図7に示すように、被験者PAである一般人Bの興奮度は、3から7の範囲の変動を示す。また、一般人Bの情動は、
図6に示した一般人Aの場合と同様に、発話している間、平常プラス怒りの強度が悲しみや喜びよりも大きい値を示す。また、一般人Bの喜びの強度は、
図6に示した一般人Aの場合と同様に、悲しみの強度より大きい値を示す。
【0039】
演算部20は、例えば、
図4から
図7に示した各被験者PAにおいて、興奮度の時間変化と、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの強度の時間変化それぞれとの相互相関処理を実行する。演算部20は、各被験者PAにおける興奮度と、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの強度との相互相関係数をそれぞれ求める。なお、演算部20による相互相関処理のウインドウ幅は、例えば150発話とするが、被験者PAごと、あるいは要求される処理速度や推定の精度等に応じて設定されてもよい。
【0040】
図8から
図11は、
図2に示した演算部20による被験者PAにおける興奮度と各情動との相互相関処理の結果の一例を示す。
図8から
図11の横軸は時間軸として被験者PAによる発話単位の順番で示し、
図8から
図11の縦軸は相互相関係数を示す。また、一点破線は、興奮度と平常プラス怒りの強度との相互相関係数の時間変化を示し、点線は、興奮度と悲しみの強度と相互相関係数の時間変化を示し、破線は、興奮度と喜びの強度との相互相関係数の時間変化を示す。
【0041】
図8は、
図4に示した医師における興奮度と、平常プラス怒り、悲しみ、喜びの各々の強度との相互相関係数の時間変化を示す。
図8に示した医師では、40発話単位以降において、平常プラス怒りの相互相関係数が、喜びや悲しみの場合より大きな値を示し、悲しみの相互相関係数が、最も小さな値を示す。なお、発話開始から40発話単位までは、相互相関処理のウインドウ幅(例えば150発話単位)における医師の興奮度および各情動のデータ数が少ないため、演算部20により算出された興奮度と各情動との相互相関係数の値が安定せず、算出結果の信頼性が低い。そのため、以下の説明では、
図8に示した医師の場合には、40発話単位以降の相互相関係数を用いる。
【0042】
図9は、
図5に示したうつ病患者における興奮度と、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの各々の強度との相互相関係数の時間変化を示す。
図9に示したうつ病患者では、100発話単位以降において、悲しみの相互相関係数が、最も大きな値を示し、喜びの相互相関係数が、最も小さな値を示す。なお、
図8の場合と同様に、
図9では、発話開始から100発話単位までの間における演算部20により算出された興奮度と各情動との相互相関係数の値が安定せず、結果の信頼性が低い。そのため、以下の説明では、
図9に示したうつ病患者の場合には、100発話単位以降の相互相関係数を用いる。
【0043】
図10は、
図6に示した一般人Aにおける興奮度と、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの各々の強度との相互相関係数の時間変化を示す。
図10に示した一般人Aでは、70発話単位以降において、喜びの相互相関係数が、最も大きな値を示し、悲しみの相互相関係数が、最も小さな値を示す。なお、
図8、
図9の場合と同様に、
図10では、発話開始から70発話単位までの間において、演算部20により算出された興奮度と各情動との相互相関係数の値が安定せず、結果の信頼性が低い。そのため、以下の説明では、
図10に示した一般人Aの場合には、70発話単位以降の相互相関係数を用いる。
【0044】
図11は、
図7に示した一般人Bにおける興奮度と、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの各々の強度との相互相関係数の時間変化を示す。
図11に示した一般人Bでは、70発話単位以降において、喜びの相互相関係数が、最も大きな値を示し、悲しみの相互相関係数が、最も小さな値を示す。なお、
図8から
図10の場合と同様に、
図11では、発話開始から70発話単位までの間において、演算部20による興奮度と各情動との相互相関係数の算出結果の信頼性が低いため、一般人Bの場合には、70発話単位以降の相互相関係数を用いる。
【0045】
図8から
図11に示すように、被験者PAが医師、一般人Aおよび一般人Bの健康な人の場合、平常プラス怒りあるいは喜びの情動は興奮度と最も強い相関を示し、悲しみの情動は興奮度と最も弱い相関を示す。すなわち、健康な被験者PAは、興奮の高まりとともに、感情を素直に出せる心的状態にあると考えられる。そして、このような心的状態は、怒りといった比較的原始的な感情状態にある場合が多い。一方、被験者PAがうつ病患者である場合、悲しみの情動は興奮度と最も強い相関を示し、喜びの情動は興奮度と最も弱い相関を示す。すなわち、うつ病患者である被験者PAは、興奮状態にあったとしても、それに反して心底から凍り付いている心的状態にあると考えられる。
【0046】
演算部20は、例えば、
図8から
図11に示した各被験者PAの興奮度と平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの強度との相互相関係数を用いて、被験者PAにおける平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの情動の間における均衡状態を求める。すなわち、人間等の生体は、生理的状態および心的状態を、内部や外部の環境因子の変化にかかわらず、生体全体で所定状態に保とうとする性質を有するため、演算部20は、情動間の均衡状態を求める。なお、生体全体で所定状態に保とうとする性質は、“恒常性”あるいは“ホメオスタシス”と称す。
【0047】
図12は、被験者PAにおける情動の恒常性の一例を示す。
図12(a)は、例えば、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの各情動を示す座標軸が120度の角度で互いに交差する座標系を示す。
図12(a)は、例えば、
図8から
図11に示したように、演算部20により求められた平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの相互相関係数を被験者PAの各情動の強さとして各座標方向のベクトルで表す。演算部20は、
図12(a)に示した各情動のベクトルから情動間の均衡を求める。なお、平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの各情動の強さの範囲は、相互相関係数の範囲に等しく、−1から1の範囲である。
【0048】
図12(b)は、被験者PAの平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの強さが
図12(a)に示したベクトルの場合に、演算部20によって求められた被験者PAにおける各情動が均衡している均衡位置P1を示す。
図12(b)に示すように、求められた被験者PAの情動の均衡位置P1は、座標系の中心からずれている。そこで、演算部20は、座標系の中心と被験者PAの情動の均衡位置P1との距離を恒常性のずれ量として求める。演算部20は、例えば、
図12(c)に示すように、恒常性のずれ量を平常プラス怒り、悲しみおよび喜びの各座標軸における値α,β,γとして求める。このように、演算部20は、求められた各情動の相互相関係数をベクトルの成分として用い被験者PAの恒常性のずれ量を求めることで、例えば、微分や積分等を用いて恒常性のずれ量を算出する場合と比べて、演算処理を高速化することができる。
【0049】
図13から
図16は、
図2に示した演算部20により求められた各被験者PAにおける恒常性のずれ量α,β,γの時間変化の一例を示す。
図13から
図16の縦軸は各情動のずれ量を示し、
図13から
図16の横軸は時間軸として被験者PAによる発話単位の順番を示す。また、一点破線は、平常プラス怒りの座標軸方向のずれ量αの時間変化を示し、点線は、悲しみの座標軸方向のずれ量βの時間変化を示し、破線は、喜びの座標軸方向のずれ量γの時間変化を示す。
【0050】
図13は、
図8に示した医師における情動の恒常性のずれ量の時間変化を示す。なお、
図13では、興奮度と各情動との相互相関係数が安定する40発話以降におけるずれ量α,β,γの時間変化を示す。
図13に示すように、医師において、平常プラス怒りのずれ量αは、正の値で、悲しみおよび喜びのずれ量β,γより大きな値を示す。また、医師における悲しみのずれ量βは、喜びのずれ量γより小さく負の値を示す。
【0051】
図14は、
図9に示したうつ病患者における情動の恒常性のずれ量の時間変化を示す。なお、
図14は、興奮度と各情動との相互相関係数が安定する100発話以降におけるずれ量α,β,γの時間変化を示す。
図14に示すように、うつ病患者において、悲しみのずれ量βは、正の値で、平常プラス怒りおよび喜びのずれ量α,γより大きな値を示す。また、うつ病患者における喜びのずれ量γは、平常プラス怒りのずれ量αより小さく負の値を示す。
【0052】
図15は、
図10に示した一般人Aにおける情動の恒常性のずれ量の時間変化を示す。なお、
図15は、興奮度と各情動との相互相関係数が安定する70発話以降におけるずれ量α,β,γの時間変化をそれぞれ示す。
図15に示した一般人Aでは、喜びのずれ量γは、正の値で、平常プラス怒りおよび悲しみのずれ量α,βより大きな値を示す。また、一般人Aにおける悲しみのずれ量βは、平常プラス怒りのずれ量αより小さく負の値を示す。
【0053】
図16は、
図11に示した一般人Bにおける情動の恒常性のずれ量の時間変化を示す。なお、
図16は、興奮度と各情動との相互相関係数が安定する70発話以降におけるずれ量α,β,γの時間変化をそれぞれ示す。
図16に示した一般人Bでは、
図15に示した一般人Aの場合と同様に、喜びのずれ量γは、正の値で、平常プラス怒りおよび悲しみのずれ量α,βより大きな値を示す。また、一般人Bにおける悲しみのずれ量βは、平常プラス怒りのずれ量αより小さく負の値を示す。
【0054】
推定部30は、例えば、
図12から
図16に示した恒常性のずれ量に基づいて、
図12(b)に示した座標中心と均衡位置P1との距離を求める。推定部30は、ずれ量α,β,γと求めた均衡位置P1の距離とに基づいて、被験者PAの病態を推定する。例えば、
図13に示した医師のように、平常プラス怒りのずれ量αが正の値で、且つ悲しみのずれ量βが負の値でずれ量α,γより小さな値を示し、均衡位置P1の距離が所定値以下の場合、推定部30は、被験者PAは健康(あるいは平常)であると推定する。しかしながら、平常プラス怒りのずれ量αが正の値で、且つ悲しみのずれ量βが負の値でずれ量α,γより小さな値を示すにもかかわらず、均衡位置P1の距離が所定値より大きい場合、推定部30は、被験者PAはそう状態にあると推定する。
【0055】
また、例えば、
図16に示した一般人Bのように、喜びのずれ量γが正の値で、且つ悲しみのずれ量βが負の値でずれ量α,γより小さな値を示し、均衡位置P1の距離が所定値以下の場合、推定部30は、被験者PAは健康(あるいは平常)であると推定する。しかしながら、喜びのずれ量γが正の値で、且つ悲しみのずれ量βが負の値でずれ量α,γより小さな値を示すにもかかわらず、均衡位置P1の距離が所定値より大きい場合、推定部30は、被験者PAはそう状態にあると推定する。一方、例えば、
図14に示したうつ病患者のように、悲しみのずれ量βが正の値で、且つ平常プラス怒りおよび喜びのずれ量α,γより大きい場合、推定部30は、被験者PAをうつ状態にあると推定する。
【0056】
なお、ずれ量α,β,γの大小関係および均衡位置P1の距離に対する所定値と病態との関係については、例えば、疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(ICD−10)等に基づいて決定されるのがよい。決定されたずれ量α,β,γの大小関係および均衡位置P1の距離に対する所定値と病態との関係は、推定装置100の記憶装置に予め格納される。ここで、ICDは、International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problemsの略である。また、所定値は、被験者PAの個人差を考慮して調整されてもよい。
【0057】
また、推定部30は、ずれ量α,β,γおよび均衡位置P1の距離とともに、座標中心に対する均衡位置P1が偏った向き等を考慮して、被験者PAの病態を詳細に判定してもよい。また、推定部30は、ずれ量α,β,γに基づいて、被験者PAの病態を推定してもよい。あるいは、推定部30は、例えば、被験者PAにおける恒常性のずれ量α,β,γが示す偏りの固定化あるいは変化の速さに基づいて、被験者PAの病態を推定してもよい。
【0058】
また、推定部30は、2週間等の長期間に亘って演算部20により算出されたずれ量α,β,γを用いて被験者PAの病態を推定してもよい。長期間に亘るずれ量のデータを用いることで、推定部30は、被験者PAの病態を確度高く推定することができる。
【0059】
図17は、
図2に示した推定装置100による推定処理の一例を示す。ステップS10からステップS40は、推定装置100に搭載されるCPUが推定プログラムを実行することにより実行される。すなわち、
図17は、プログラムおよび推定方法の別の実施形態を示す。この場合、
図2に示した抽出部10、演算部20および推定部30は、プログラムの実行により実現される。なお、
図17に示した処理は、推定装置100に搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。この場合、
図2に示した抽出部10、演算部20および推定部30は、推定装置100内に配置される回路により実現される。
【0060】
ステップS10では、抽出部10は、
図2から
図7で説明したように、計測装置1により計測された被験者PAの生理を示す情報に基づいて、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と、情動および器官の活動の少なくとも一方を示す第2情報とを抽出する。
【0061】
ステップS20では、演算部20は、
図4から
図11で説明したように、抽出された第1情報と第2情報との時間変化に対して相互相関処理を実行し、類似の度合いを示す相互相関係数を算出する。
【0062】
ステップS30では、演算部20は、
図12から
図16で説明したように、求めた相互相関係数に基づいて、被験者PAにおける恒常性のずれ量を求める。
【0063】
ステップS40では、推定部30は、
図12から
図16で説明したように、演算部20により求められた被験者PAにおける恒常性のずれ量に基づいて、被験者PAの病態を推定する。
【0064】
そして、推定装置100による推定処理は終了する。
図17に示したフローは、医者あるいは被験者PAからの指示を受ける度に繰り返し実行されてもよく、所定の頻度で実行されてもよい。そして、推定装置100は、推定結果を出力装置2に出力する。出力装置2は、推定された病態の結果とともに、恒常性のずれ量を表示する。また、出力装置2は、恒常性のずれ量の大きさ、すなわち推定された病態における症状の度合いまたは被験者PAにおける健康を示す度合いを、色あるいはアニメーションの人物や動物等の表情で表しディスプレイに表示してもよい。また、出力装置2は、恒常性のずれ量の大きさに応じて、推定された病態に対する処置方法等の助言を表示してもよい。
【0065】
以上、
図2から
図17に示した実施形態では、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と被験者PAの情動および器官の活動の少なくとも一方を示す第2情報とを用い、被験者PAにおける恒常性のずれ量を算出する。これにより、推定装置100は、恒常性のずれ量という指標を参照することで、医学の専門的な知識を有することなく、被験者PAの病態を容易に推定することができる。
【0066】
なお、演算部20は、
図3に示した発話の基本周波数と情動との関係を示す判断木の代わりに、例えば、心拍数および鼓動変動と情動との関係を示す判断木を用い、被験者PAにおける平常、悲しみ、怒りおよび喜びの情動の強度を求めてもよい。
【0067】
図18は、被験者PAの心拍数および心拍変動と被験者PAの情動との判断木の一例を示す。なお、RRV(R-R Variance)は、心電図におけるR波とR波との間隔の分散を示す。
図18に示すように、例えば、平常の情動は、心拍数が80bps未満、且つRRVが100以上の場合と定義される。また、悲しみの情動は、心拍数が80bps未満、且つRRVが100未満の場合と定義される。怒りの情動は、心拍数が80bps以上、且つ心拍変動の低周波成分LFのパワーが80以上の場合と定義される。喜びの情動は、心拍数が80bps以上、且つ低周波成分LFのパワーが80未満の場合と定義される。
【0068】
また、演算部20は、
図12(c)に示したように被験者PAにおける恒常性のずれ量α,β,γを求めたが、例えば、
図19に示すようにずれ量α,β,γを求めてもよい。
【0069】
図19は、被験者PAにおける情動の恒常性の別例を示す。
図19に示した係数hは、座標系の中心から均衡位置P1に向かうベクトルV1において、喜びの座標軸方向のずれ量γと悲しみの座標軸方向のずれ量βとのどちらが大きいかを示す指標である。すなわち、係数hは、喜びのずれ量γが悲しみのずれ量βより大きい場合に正の値を示し、悲しみのずれ量βが喜びのずれ量γより大きい場合に負の値を示す。また、喜びのずれ量γと悲しみのずれ量βとが拮抗している場合、係数hは0になる。
【0070】
演算部20は、例えば、係数hを求めるために、ベクトルV1と喜びの座標軸となす角度θを求める。なお、角度θは、喜びのずれ量γが悲しみのずれ量βより大きい場合、0度(すなわちベクトルV1の向きが喜びの座標軸方向)に近い小さな値を示す。一方、悲しみのずれ量βが喜びのずれ量γより大きい場合、角度θは、ベクトルV1の向きが悲しみの座標軸方向に近い大きな値を示す。
図19に示すように、演算部20は、均衡位置P1が喜び−悲しみ(反時計回り)の間の領域(以下、領域A)にある場合と、喜び−悲しみ(時計回り)の間の領域(以下、領域B)にある場合とに応じて、求めた角度θおよびベクトルV1の長さLを用い係数hを求める。そして、演算部20は、求めた係数hをベクトルV1の喜びのずれ量γとし、マイナスの係数hを悲しみのずれ量βとする。すなわち、β+γ=0となる。
【0071】
また、
図19(a)に示した領域Aの場合、係数hが0(すなわち角度θがπ/3)に近い値の場合、ベクトルV1の向きは、平常プラス怒りの座標軸の負の方向となる。すなわち、喜びのずれ量γと悲しみのずれ量βとは、互いに拮抗し平常プラス怒りのずれ量αよりも大きなずれ量を示す。換言すれば、平常プラス怒りのずれ量αは、喜びのずれ量γと悲しみのずれ量βと比べて小さなずれ量を示す。そこで、演算部20は、ベクトルV1が領域Aにある場合、|h|−Lを平常プラス怒りのずれ量αとして求める。一方、
図19(b)に示した領域Bの場合、係数hが0(すなわち角度θが2π/3)に近い値の場合、ベクトルV1の向きは、平常プラス怒りの座標軸の正の方向となる。すなわち、喜びのずれ量γと悲しみのずれ量βとは、互いに拮抗するが平常プラス怒りのずれ量αよりも小さなずれ量を示す。換言すれば、平常プラス怒りのずれ量αは、喜びのずれ量γと悲しみのずれ量βと比べて大きなずれ量を示す。そこで、演算部20は、ベクトルV1が領域Bにある場合、L−|h|を平常プラス怒りのずれ量αとして求める。これにより、演算部20は、均衡位置P1が正の平常プラス怒りの軸付近にある場合、正のずれ量αを算出でき、均衡位置P1が負の平常プラス怒りの軸付近にある場合、負のずれ量αを算出できる。
【0072】
例えば、推定部30は、
図19に示したずれ量α,β,γを用い、悲しみのずれ量βが0より大きな正の値で、平常プラス怒りおよび喜びのずれ量α,γが0に近い小さな値の場合、被験者PAはうつ状態にあると推定する。また、推定部30は、喜びのずれ量γが0より大きな正の値で、平常プラス怒りおよび悲しみのずれ量α,βの値が0に近い値の場合、被験者PAはそう状態にあると推定する。また、推定部30は、平常プラス怒り成分のずれ量αが0より小さい(−1に近い)値で、悲しみと喜びとのずれ量β,γが同じ値で拮抗している場合、被験者PAはそううつ状態にあると推定する。
【0073】
図20は、推定装置および推定処理の別の実施形態を示す。
図2で説明した要素と同一または同様の機能を有する要素については、同一または同様の符号を付し、これらについては、詳細な説明を省略する。
【0074】
図20に示した推定装置100aは、CPU等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶装置とを有するコンピュータ装置等である。推定装置100aは、推定装置100aに含まれるインタフェース部を介して、有線または無線で計測装置1aおよび出力装置2に接続される。これにより、推定装置100aと、計測装置1aと、出力装置2とは、推定システムSYSとして動作する。
【0075】
計測装置1aは、例えば、マイクロホン、心拍計、心電計、血圧計、体温計、皮膚抵抗計、あるいはカメラ、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等の複数の機器を含み、被験者PAの生理を示す情報を計測する。計測装置1aは、計測した被験者PAの生理を示す情報を推定装置100aに出力する。なお、計測装置1aは、加速度センサあるいは電子ジャイロ等を有してもよい。
【0076】
計測装置1aにより計測される被験者PAの生理を示す情報は、音声信号とともに、例えば、心拍(脈拍)数、心拍変動、血圧、体温、発汗量(皮膚抵抗,皮膚電位)、眼球の運動、瞳孔径、まばたき数を有する。さらに、計測される生理情報は、例えば、吐息、ホルモン、生体分子等の体内分泌物、脳波、fMRI(functional MRI)情報等を有する。
【0077】
また、推定装置100aは、抽出部10a、演算部20a、推定部30a、試験部40および記憶部50を有する。抽出部10a、演算部20a、推定部30aおよび試験部40の機能は、CPUが実行するプログラムにより実現されてもよく、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0078】
抽出部10aは、
図2に示した抽出部10と同一または同様に、計測装置1aにより計測された被験者PAの生理を示す情報から、被験者PAの生理の状態を示す第1情報を抽出する。また、抽出部10aは、
図2に示した抽出部10と同一または同様に、計測装置1aにより計測された被験者PAの生理を示す情報から、被験者PAにおける情動および被験者PAの心臓や腸等の器官の活動の少なくとも一方を示す第2情報を抽出する。
【0079】
抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる心拍計等により計測された心拍(脈拍)数を被験者PAにおける情動や器官の活動を示す第2情報として抽出する。なお、興奮や緊張により体内のアドレナリン分泌量が増すことによって心臓の拍動が増加し、心拍(脈拍)数は、増加するという性質を有する。
【0080】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる心電計を用いて計測された被験者PAの心電波形にFFT等の周波数解析を実行し、被験者PAの心拍変動を取得する。そして、抽出部10aは、取得した心拍変動の低周波成分LF(例えば0.04から0.14ヘルツ)と高周波成分HF(例えば0.14から0.5ヘルツ)との量を比較し、被験者PAの興奮や緊張のレベルを被験者PAの生理状態を示す第1情報として抽出する。なお、心拍変動の低周波成分LFは、主に交感神経の活動に伴って増え、高周波成分HFは、副交感神経の活動に伴って増えるという性質を有する。
【0081】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる血圧計を用いて計測された血圧の値を、被験者PAの情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出する。なお、血圧は、興奮や緊張に伴って血管が収縮すると、血流抵抗が増して血圧が増加するという性質を有する。
【0082】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる体温計等を用いて計測された体温の値を被験者PAの情動や器官の活動を示す第2情報として抽出する。なお、体温は、興奮や緊張によって心拍増加、血糖値上昇、筋肉の緊張等が生じ、体内で熱が生成されて体温が上昇するという性質を有する。
【0083】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる皮膚抵抗計等を用いて計測された発汗量(皮膚抵抗,皮膚電位)の値を被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出する。なお、発汗量(皮膚抵抗,皮膚電位)は、興奮や緊張によって発汗が促進され、皮膚抵抗が下がるという性質を有する。
【0084】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aの眼電位計やカメラ等を用いて計測された眼球の運動、瞳孔径およびまばたきの回数を被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出する。抽出部10aは、例えば、カメラ等で撮影された画像に対し顔認識の処理を実行し、認識された表情および表情の時間変化を被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出してもよい。なお、眼球の運動は、興奮や緊張により眼球の運動が激しくなり、瞳孔径は、興奮や緊張により瞳孔が拡大し、まばたき数は、興奮や緊張によりまばたきの回数が増えるという性質を有する。
【0085】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる呼吸計(呼吸流量計)、肺活量計あるいはマイクロホン等により呼吸量や呼吸音から計測された吐息の回数、速度、排気量等を被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出する。なお、吐息は、興奮や緊張により、吐息の回数、速度、排気量が上昇するという性質を有する。
【0086】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる分析装置を用いて計測されたホルモン、生体分子等の体内分泌物それぞれを被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出する。なお、ホルモン、生体分子等の体内分泌物は、計測装置1aの分析装置が、被験者PAから採取した唾液、血液、リンパ液、汗、消化液、または尿等を化学分析することで計測される。あるいは、体内分泌物は、被験者PAにおける末梢血管、消化系、筋電位、皮膚温度、血流量、または免疫系等から計測装置1aにより計測されてもよい。なお、体内分泌物は、興奮や緊張により、体内におけるホルモンや生体分子の分泌量または質が変化するという性質を有する。
【0087】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれる光学式、磁気式あるいは電位式等の脳活動計を用いて計測された脳波の時間に対する変化量等を、被験者PAにおける興奮や緊張を示す第1情報として抽出する。なお、脳波は、興奮や緊張により波形が変化するという性質を有する。
【0088】
また、抽出部10aは、例えば、計測装置1aに含まれるMRI装置により計測されたfMRI情報に含まれる脳内の各活動部位における血流量や酸化ヘモグロビンの分布を、被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出する。なお、計測されたfMRI情報は、興奮や緊張により脳内の活動部位が変化するという性質を有する。例えば、情動に関する興奮や緊張は、辺縁系(扁桃体)、視床下部、小脳、脳幹、または海馬等に血流量の変化となって現れる。このような血流量の変化は、酸化ヘモグロビンの脳内分布を変化させる。
【0089】
なお、抽出部10aは、計測装置1aが加速度センサあるいは電子ジャイロ等を有する場合、被験者PAの動きを、被験者PAにおける情動や臓器の活動を示す第2情報として抽出してもよい。
【0090】
演算部20aは、抽出部10aにより抽出された第1情報と第2情報との時間変化の類似の度合いを算出する。例えば、演算部20aは、抽出された第1情報と第2情報との時間変化の相互相関処理を実行し、相互相関係数を類似の度合いとして算出する。演算部20aは、算出した被験者PAの情動および器官の活動における複数の類似の度合いを用い、被験者PAにおける恒常性のずれ量を求める。演算部20aの動作および恒常性については、
図21で説明する。
【0091】
試験部40は、演算部20aにより算出された恒常性のずれ量から被験者PAの情動および器官の活動に作用するエネルギーを算出する。試験部40は、算出したエネルギーを被験者PAの生体を表す計算モデルに入力し、被験者PAにおける恒常性をシミュレーションする。計算モデルおよび試験部40の動作については、
図22および
図23で説明する。
【0092】
記憶部50は、ハードディスク装置およびメモリ等である。記憶部50は、CPUが実行するプログラムを格納する。また、記憶部50は、試験部40によるシミュレーションの結果を示すデータ60を格納する。データ60については、
図23で説明する。
【0093】
なお、推定処理を実行するプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)あるいはDVD(Digital Versatile Disc)等のリムーバブルディスクに記録して頒布することができる。また、推定装置100aは、推定処理を実行するためのプログラムを、推定装置100aに含まれるネットワークインタフェースを介してネットワークからダウンロードし、記憶部50に格納してもよい。
【0094】
推定部30aは、試験部40によりシミュレーションされた恒常性の変化のパターンから被験者PAの病態を推定する。推定部30aの動作については、
図22および
図23で説明する。
【0095】
図21は、被験者PAにおける恒常性の連鎖の例を模式的に示す。
図21では、例えば、被験者PAの生体全体における恒常性の均衡を円形の図形の回転で表し、循環系200とする。循環系200は、例えば、被験者PAを形成する物質や器官等の複数の循環系K(K1−K10)をさらに有する。
図21では、互いに連鎖して恒常性の均衡を保つ循環系200より小さな円形の回転で循環系K1−K10を表す。例えば、循環系K1は、声帯を介して、被験者PAにより発話された音声信号に基づいた被験者PAの情動の恒常性を示す。循環系K2は、例えば、心拍数や心拍変動等に基づいた被験者PAにおける心臓の恒常性を示す。循環系K3は、例えば、胃、小腸や大腸等の被験者PAにおける消化器系の恒常性を示す。循環系K4は、例えば、被験者PAを病気等から保護する免疫系の恒常性を示す。循環系K5は、例えば、被験者PAの生体に含まれる器官の働きを調節する情報の伝達を行うホルモンの恒常性を示す。
【0096】
また、循環系K6は、例えば、被験者PAの遺伝子が生成する複数種類のタンパク質等の生体分子の恒常性を示す。循環系K7は、例えば、被験者PAの遺伝子の恒常性を示す。循環系K8は、例えば、被験者PAを形成する細胞の活動の恒常性を示す。循環系K9は、例えば、情動と密接な関係のある脳のうち、扁桃体等を含む被験者PAの大脳辺縁系における活動の恒常性を示す。循環系K10は、例えば、シナプスで情報伝達を介在する神経伝達物質の恒常性を示す。
【0097】
なお、循環系200は、循環系K1−K10の10個を有するとしたが、これに限定されず、10以外の複数の循環系を含んでもよい。また、各循環系Kは、さらに複数の循環系を有してもよい。例えば、声帯の循環系K1は、被験者PAにおける怒り、平常、悲しみ、喜び等の情動を示す複数の循環系を有してもよい。また、心臓の循環系K2は、例えば、被験者PAにおける心拍数や心拍変動等を示す複数の循環系を有してもよい。
【0098】
例えば、演算部20aは、算出した被験者PAの情動および器官の活動における複数の類似の度合いを用い、例えば、
図12で説明したように、被験者PAにおける各循環系Kにおける恒常性のずれ量を求める。演算部20aは、例えば、
図2に示した演算部20と同様に、被験者PAの音声信号に基づいて、被験者PAにおける情動の恒常性のずれ量を算出する。また、演算部20aは、例えば、心電計で計測された心拍変動の低周波成分LFと高周波成分HFとの比から求まる興奮度あるいは緊張度と、心拍数および血圧等との時間変化に対して相互相関処理を実行する。そして、演算部20aは、例えば、興奮度あるいは緊張度と、心拍数および血圧等それぞれとの時間変化の相互相関係数から、被験者PAにおける心臓の恒常性のずれ量を算出する。
【0099】
なお、演算部20aは、全ての循環系K1−K10における恒常性のずれ量を算出したが、一部の循環系Kにおける恒常性のずれ量を算出してもよい。
【0100】
図22は、
図20に示した試験部40が被験者PAにおける恒常性のシミュレーションに用いる循環系200の計算モデルの一例を示す。
図22に示した循環系200の計算モデルは、例えば、
図21に示した循環系200に含まれる循環系K1−K10がシャフトSH(SH1−SH10)で表され、コンピュータ装置等の仮想空間上に構築される。シャフトSH1−SH10それぞれの長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、被験者PAの生体の特性に基づいて決定される。そして、シャフトSH1−SH10は、接合部B1でシャフト間の軸の中心が一致するように連結され、循環系200を形成する。また、循環系K1−K10のシャフトSH1−SH10それぞれに、ナットNT1−NT10が配置される。試験部40は、例えば、シャフトSHを回転させることで循環系200における恒常性をシミュレーションし、循環系K1−K10それぞれにおける恒常性の状態をナットNT1−NT10の位置の変化から検出する。
【0101】
なお、声帯の循環系K1のシャフトSH1の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAによる発話の音声信号が示す周波数分布、抑揚やピッチ周波数等の周波数特性に基づいて決定される。また、心臓の循環系K2のシャフトSH2の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAの心臓の鼓動の時間間隔や心拍変動の周波数分布等の特性に基づいて決定される。消化器系の循環系K3のシャフトSH3の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAの小腸や大腸等の長さ、あるいは蠕動運動に伴う収縮波の移動速度等の特性に基づいて決定される。免疫系の循環系K4の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAの血液中の好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球等を含む白血球数の特性に基づいて決定される。ホルモンの循環系K5の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAの各器官で合成または分泌されるホルモンの量や、血液等の体液により体内をホルモンが循環する速度等の特性に基づいて決定される。
【0102】
また、生体分子の循環系K6の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAにより摂取された食物等に含まれる核酸、タンパク質、多糖、それらの構成要素であるアミノ酸や各種の糖、ならびに脂質やビタミン等の摂取量に基づいて決定される。遺伝子の循環系K7の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAが有する遺伝子の分裂の頻度や遺伝子の長さ等の特性に基づいて決定される。また、細胞の循環系K8の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAの細胞に含まれる糖質、脂質、タンパク質(アミノ酸)、核酸等の量や、細胞の寿命等の特性に基づいて決定される。脳の循環系K9の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、被験者PAの脳のうち、例えば、扁桃体等を含む脳活動の時間変動や周波数分布等の特性に基づいて決定される。神経伝達物質の循環系K10の長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等は、例えば、被験者PAのシナプスで情報伝達を介在するアミノ酸、ペプチド類、モノアミン類等の分泌量や特性反応速度等に基づいて決定される。
【0103】
設定されたシャフトSH1−SH10それぞれの長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等を示す情報は、予め被験者PAごとに記憶部50に格納される。また、例えば、試験部40は、推定装置100aに含まれるキーボードやタッチパネル等の入力装置を介して、被験者PAのシャフトSH1−SH10それぞれの長さ、ピッチ幅およびねじ山の向き等を示す情報を受けてもよい。
【0104】
試験部40は、演算部20aにより算出された循環系K1−K10それぞれにおける恒常性のずれ量から被験者PAの情動および器官の活動に作用するエネルギーを算出する。例えば、
図12(b)に示したように、
図2に示した演算部20と同様に、演算部20aにより算出された被験者PAにおける情動の均衡位置P1が座標系の中心と異なる場合、被験者PAの情動、すなわち循環系K1の恒常性が所定状態から変位しずれたことを示す。恒常性のずれは、例えば、ストレスという形態で被験者PAに現れ、被験者PAの循環系K1だけでなく、心臓あるいは消化器系等の他の循環系K2−K10に対しても影響を与える。そこで、試験部40は、例えば、演算部20aにより循環系K1−K10それぞれにおいて算出された恒常性のずれ量から、ストレス等の被験者PAの情動および器官の活動に作用するエネルギーとして算出する。例えば、試験部40は、式(1)を用い、声帯の循環系K1において、演算部20aにより算出された情動の恒常性のずれ量α,β,γからエネルギーE(K1)を算出する。
E(K1)=sqrt(α×α+β×β+γ×γ) ・・・(1)
なお、試験部40は、式(1)に示すように、情動の恒常性のずれ量α,β,γから声帯の循環系K1において生成されるエネルギーE(K1)を算出したが、情動の恒常性のずれ量α,β,γを変数とする関数F(α,β,γ)を用い、エネルギーE(K1)を算出してもよい。
【0105】
試験部40は、循環系K2−K10それぞれについても、演算部20aにより算出された各循環系Kにおける恒常性のずれ量から、ストレス、運動等により消費された熱量、あるいは摂取した食物等をエネルギーE(K2)−E(K10)としてそれぞれ算出する。試験部40は、循環系K1−K10それぞれにおいて算出したエネルギーを、式(2)を用いて合計する。
TE=E(K1)+E(K2)+E(K3)+E(K4)+E(K5)+E(K6)+E(K7)+E(K8)+E(K9)+E(K10) ・・・(2)
ここで、E(K2),E(K3),E(K4),E(K5),E(K6),E(K7),E(K8),E(K9),E(K10)は、循環系K2−K10において生成されたエネルギーを示す。TEは、合計したエネルギーを示す。なお、試験部40は、循環系K1−K10それぞれで生成されたエネルギーE(K1)−E(K10)を合計してエネルギーTEを求めたが、エネルギーE(K1)−E(K10)を重み付け加算してエネルギーTEを求めてもよい。あるいは、試験部40は、エネルギーE(K1)−E(K10)を乗算してエネルギーTEを求めてもよい。
【0106】
試験部40は、算出したエネルギーTEを循環系200に入力し、エネルギーTEの大きさに応じた回転速度でシャフトSHを回転させる。また、試験部40は、例えば、エネルギーTEが正の値の場合、シャフトSHを時計回りに回転させ、エネルギーTEが負の値の場合、シャフトSHを反時計回りに回転させる。なお、入力されるエネルギーTEは、各ナットNT1−NT10がシャフトSHの回転に応じて変位する変位量L1−L10が各シャフトSH1−SH10の長さの範囲内に収まるように、試験部40により制御される。
【0107】
また、エネルギーTEが正または負の値になるのは、例えば、シャフトSH1−SH10それぞれのねじ山の向きに応じ、シャフトSHを時計回りまたは反時計回りに回転させるエネルギーが循環系K1−K10で生成されるためである。すなわち、例えば、ねじ山の向きにより時計回りにシャフトSHが回転する循環系Kでは、正のエネルギーが生成され、反時計回りにシャフトSHが回転する循環系Kでは、負のエネルギーが生成される。なお、試験部40は、例えば、エネルギーTEが負の値の場合、シャフトSH1−SH10全体を時計回りに回転させ、エネルギーTEが正の値の場合、シャフトSH1−SH10全体を反時計回りに回転させてもよい。
【0108】
試験部40は、エネルギーTEによりシャフトSH1−SH10を回転させることで、ナットNT1−NT10の位置を変位させる。試験部40は、シャフトSH1−SH10それぞれの中心C1−C10からのナットNT1−NT10それぞれの変位量L1−L10を、循環系K1−K10それぞれの恒常性の変化(あるいは恒常性のずれ量)として検出する。試験部40は、例えば、検出した変位量L1−L10を記憶部50にデータ60として格納する。また、試験部40は、ナットNT1−NT10それぞれがシャフトSH1−SH10それぞれの軸方向に移動する速度を変位量L1−L10から検出する。試験部40は、循環系K1−K10において検出した速度を新たに生成されたエネルギーE(K1)−E(K10)として、循環系200に入力する。
【0109】
なお、演算部20aが、循環系K1−K10のうちの一部の循環系Kにおける恒常性のずれ量を算出する場合、試験部40は、演算部20aにより算出された一部の循環系Kにおける恒常性のずれ量からエネルギーTEを求め、求めたエネルギーTEに基づいて循環系200の恒常性をシミュレーションしてもよい。そして、試験部40は、シミュレーションから循環系K1−K10における全ての変位量L1−L10を検出してもよい。試験部40が、全ての循環系Kの変位量Lをシミュレーションから検出するため、推定装置100aは、演算部20aにより算出された循環系Kにおける恒常性のずれ量を用いる場合と比べて、被験者PAの病態を確度高く推定することができる。
【0110】
また、試験部40は、各循環系K1−K10における変位量L1−L10として、シャフトSH1−SH10それぞれの中心C1−C10からの距離としたが、これに限定されない。例えば、変位量L1−L10は、ナットNT1−NT10間の距離であってもよく、接合部B1からの距離であってもよい。
【0111】
図23は、被験者PAにおける各循環系K1−K10の変位量L1−L10のデータ60の一例を示す。データ60は、日付および循環系K1−K10の格納領域をそれぞれ有する。
【0112】
日付の格納領域には、試験部40が、例えば、循環系200の恒常性の変化のシミュレーションを実行し、循環系K1−K10それぞれにおける変位量L1−L10を検出した日時(例えば2013年10月29日9時10分0秒等)が格納される。試験部40が変位量L1−L10の検出を行う時間間隔は、1分、1時間、1日、1週間、1ヶ月等であり、
図23に示したデータ60の場合には、例えば、1時間の時間間隔とする。
【0113】
循環系K1−K10の各格納領域には、例えば、試験部40により検出されたナットNT1−NT10それぞれの変位量L1−L10が格納される。なお、変位量L1−L10の単位は、センチメートルやミリメートル等である
推定部30aは、記憶部50からデータ60の日付および循環系K1−K10における変位量L1−L10を読み出す。推定部30aは、読み出した変位量L1−L10それぞれの時間変化のパターンから被験者PAの病態を推定する。例えば、記憶部50には、被験者PAが健康である場合に循環系K1−K10それぞれが示す変位量L1−L10それぞれの典型的な時間変化のパターンのデータを予め格納される。そして、推定部30aは、試験部40により検出された変位量L1−L10の時間変化と、被験者PAが健康である場合の変位量L1−L10の典型的な時間変化とを比較し、比較の結果から被験者PAの病態を推定する。例えば、推定部30aは、試験部40により検出された変位量L1−L10の時間変化と、被験者PAが健康である場合の変位量L1−L10の典型的な時間変化とのパターンの差分を求め、求めた差分と各病態を示す所定の閾値とを比較する。すなわち、例えば、心臓の循環系K2の場合、推定部30aは、試験部40により検出された変位量L2の時間変化と被験者PAが健康である場合の変位量L2の典型的な時間変化との差分を求める。推定部30aは、予め設定された心筋梗塞あるいは狭心症等の心臓病を示す所定の閾値と求めた差分とを比較し、被験者PAが心筋梗塞あるいは狭心症等の心臓病を患っているか否かを推定する。
【0114】
図24は、
図20に示した推定装置100aによる推定処理の一例を示す。ステップS100からステップS160は、推定装置100aに搭載されるCPUが推定プログラムを実行することにより実現される。すなわち、
図24は、推定プログラムおよび推定方法の別の実施形態を示す。この場合、
図20に示した抽出部10a、演算部20a、推定部30aおよび試験部40は、推定プログラムの実行により実現される。なお、
図24に示した処理は、推定装置100aに搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。この場合、
図20に示した演算部10a、演算部20a、推定部30aおよび試験部40は、推定装置100a内に配置される回路により実現される。
【0115】
ステップS100では、抽出部10aは、
図20で説明したように、計測装置1aにより計測された被験者PAの生理を示す情報に基づいて、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と、情動および器官の活動の状態を示す第2情報とを抽出する。
【0116】
ステップS110では、演算部20aは、
図21で説明したように、抽出された第1情報と第2情報との時間変化に対して相互相関処理を実行し、類似の度合いを示す相互相関係数を算出する。
【0117】
ステップS120では、演算部20aは、
図12および
図21で説明したように、求めた相互相関係数に基づいて、被験者PAの循環系K1−K10それぞれにおける恒常性のずれ量を求める。
【0118】
ステップS130では、試験部40は、
図22で説明したように、演算部20aにより算出された循環系K1−K10それぞれにおける恒常性のずれ量からエネルギーE(K1)−E(K10)を算出する。試験部40は、式(2)を用いて、算出したエネルギーE(K1)−E(K10)を合計しエネルギーTEを求める。
【0119】
ステップS140では、試験部40は、
図22で説明したように、ステップS130で合計したエネルギーTEを循環系200に入力し、被験者PAにおける循環系200の恒常性をシミュレーションする。
【0120】
ステップS150では、試験部40は、
図22で説明したように、ステップS140で実行した恒常性のシミュレーションから、各循環系K1−K10における変位量L1−L10を検出する。試験部40は、検出した各循環系K1−K10における変位量L1−L10を、データ60として記憶部50に格納する。
【0121】
ステップS160では、推定部30aは、
図23で説明したように、循環系K1−K10における変位量L1−L10それぞれの時間変化のパターンから被験者PAの病態を推定する。例えば、推定部30aは、試験部40により検出された変位量L1−L10の時間変化のパターンと、被験者PAが健康な場合の変位量L1−L10の典型的な時間変化パターンとを比較し、比較の結果から被験者PAの病態を推定する。
【0122】
そして、推定装置100aによる推定処理は終了する。
図24に示したフローは、医者あるいは被験者PAからの指示を受ける度に繰り返し実行されてもよく、所定の頻度で実行されてもよい。そして、推定装置100aは、推定結果を出力装置2に出力する。出力装置2は、推定された病態の結果とともに、恒常性のずれ量を表示する。また、出力装置2は、恒常性のずれ量の大きさ、すなわち推定された病態における症状の度合いまたは被験者PAにおける健康を示す度合いを、色あるいはアニメーションの人物や動物等の表情で表しディスプレイに表示してもよい。また、出力装置2は、恒常性のずれ量の大きさに応じて、推定された病態に対する処置方法等の助言を表示してもよい。
【0123】
以上、
図20から
図24に示した実施形態では、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と被験者PAの情動および器官の活動を示す第2情報とを用い、被験者PAにおける恒常性のずれ量を算出する。これにより、推定装置100aは、恒常性のずれ量という指標を参照することで、医学の専門的な知識を有することなく、被験者PAの病態を容易に推定することができる。また、推定装置100aは、各循環系Kにおける恒常性のずれ量を入力エネルギーとする被験者PAにおける恒常性のシミュレーションを実行する。推定装置100aは、実行したシミュレーションから検出された恒常性の時間変化と、被験者PAが健康な場合に示す恒常性の時間変化とを比較することで、被験者PAの病態を従来と比べて精度良く推定することができる。
【0124】
図25は、推定装置の別の実施形態を示す。
図20で説明した要素と同一または同様の機能を有する要素については、同一または同様の符号を付し、これらについては、詳細な説明を省略する。例えば、推定装置100bと、計測装置1aと、出力装置2とは、推定システムSYSとして動作する。
【0125】
図25に示した推定装置100bは、CPU等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶装置とを有するコンピュータ装置等である。推定装置100bは、推定装置100bに含まれるインタフェース部を介して、有線または無線で計測装置1aおよび出力装置2に接続される。これにより、推定装置100bと、計測装置1aと、出力装置2とは、推定システムSYSとして動作する。
【0126】
また、推定装置100bは、抽出部10a、演算部20a、推定部30b、試験部40aおよび記憶部50aを有する。抽出部10a、演算部20a、推定部30bおよび試験部40aの機能は、CPUが実行するプログラムにより実現されてもよく、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0127】
記憶部50aは、ハードディスク装置およびメモリ等である。記憶部50aは、CPUが実行するプログラムを格納する。また、記憶部50aは、試験部40aによるシミュレーションの結果を示すデータ60a、および推定部30bがデータ60aを用いて被験者PAの病態を判定するための病態テーブル70を格納する。データ60aおよび病態テーブル70については、
図27および
図28で説明する。
【0128】
なお、推定処理を実行するプログラムは、例えば、CDあるいはDVD等のリムーバブルディスクに記録して頒布することができる。また、推定装置100bは、推定処理を実行するためのプログラムを、推定装置100bに含まれるネットワークインタフェースを介してネットワークからダウンロードし、記憶部50aに格納してもよい。
【0129】
試験部40aは、演算部20aにより算出された恒常性のずれ量から被験者PAの情動および器官の活動に作用するエネルギーを算出する。試験部40aは、算出したエネルギーを被験者PAの生体を表す計算モデルに入力し、被験者PAにおける恒常性をシミュレーションする。計算モデルおよび試験部40aの動作については、
図26で説明する。
【0130】
推定部30bは、試験部40aによりシミュレーションされた恒常性の変化のパターンから被験者PAの病態を推定する。推定部30bの動作については、
図27および
図28で説明する。
【0131】
図26は、
図25に示した試験部40aが被験者PAにおける恒常性をシミュレーションに用いる循環系200aの計算モデルの一例を示す。
図26に示した循環系200aの計算モデルは、例えば、循環系200aに含まれる4つの循環系Ka(Ka1−Ka4)を有する。循環系200aおよび循環系200aに含まれる循環系Ka1−Ka4は、ギアMGおよびギアGa1−Ga2、Gb1−Gb2、Gc1、Gd1−Gd2で表され、コンピュータ装置等の仮想空間上に構築される。ギアMGは、演算部20aにより求められた各循環系Ka1−Ka4における恒常性のずれ量から算出されるエネルギーE(Ka1)−E(Ka4)に基づいて回転する。ギアMGが回転することで、各循環系Ka1−Ka4のギアGa1−Ga2、Gb1−Gb2、Gc1、Gd1−Gd2は回転する。
図26に示すように、循環系Ka1、Ka2、Ka4の各々は、2つのギアGa1−Ga2、Gb1−Gb2、Gd1−Gd2を有し、循環系Ka3は、1つのギアGc1を有する。なお、ギアMGの直径および歯数、および各循環系Ka1−Ka4に含まれるギアの数、直径および歯数等は、被験者PAの生体の特性に基づいて決定される。試験部40aは、例えば、ギアMGを回転させることで循環系200aにおける恒常性をシミュレーションし、循環系Ka1−Ka4それぞれにおける恒常性の状態をギアGa2、Gb2、Gc1、Gd2の回転数から検出する。
【0132】
なお、循環系Kaが声帯の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、被験者PAが発話する音声信号における周波数分布、抑揚やピッチ周波数等の周波数特性に基づいて決定される。また、循環系Kaが心臓の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、心臓の鼓動の時間間隔や心拍変動の周波数分布等の特性に基づいて決定される。循環系Kaが消化器系の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、小腸や大腸等の長さ、あるいは蠕動運動に伴う収縮波の移動速度等の特性に基づいて決定される。循環系Kaが免疫系の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、被験者PAの血液中の好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球等を含む白血球数の特性に基づいて決定される。
【0133】
また、循環系Kaがホルモンの場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、被験者PAの各器官で合成または分泌されるホルモンの量や、血液等の体液により体内をホルモンが循環する速度等の特性に基づいて決定される。循環系Kaが生体分子の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、被験者PAが摂取する食物等に含まれる核酸、タンパク質、多糖、それらの構成要素であるアミノ酸や各種の糖、ならびに脂質やビタミン等の摂取量に基づいて決定される。循環系Kaが遺伝子の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、被験者PAにおける遺伝子の分裂の頻度や遺伝子の長さ等の特性に基づいて決定される。また、循環系Kaが細胞の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、細胞に含まれる糖質、脂質、タンパク質(アミノ酸)、核酸等の量や、細胞の寿命等の特性に基づいて決定される。循環系Kaが脳の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、被験者PAの脳のうち、例えば、扁桃体等を含む脳活動の時間変動や周波数分布等の特性に基づいて決定される。循環系Kaが神経伝達物質の場合には、循環系Kaに含まれるギアの数、直径および歯数等は、例えば、シナプスで情報伝達を介在するアミノ酸、ペプチド類、モノアミン類等の分泌量や特性反応速度等に基づいて決定される。
【0134】
設定されたギアMGの直径および歯数、およびギアGa1−Ga2、Gb1−Gb2、Gc1、Gd1−Gd2それぞれのギアの数、直径および歯数等を示す情報は、推定装置100bの記憶部50に、予め被験者PAごとに記憶される。また、試験部40は、例えば、推定装置100bに含まれるキーボード等の入力装置を介して、ギアMGの直径および歯数、およびギアGa1−Ga2、Gb1−Gb2、Gc1、Gd1−Gd2それぞれのギアの数、直径および歯数等を示す情報を受けてもよい。
【0135】
なお、循環系200aは、循環系Ka1−Ka4の4つを有するとしたが、これに限定されず、4以外の複数の循環系を含んでもよい。また、各循環系Kaは、さらに複数の循環系を有してもよい。例えば、循環系Kaが声帯の場合には、被験者PAにおける怒り、平常、悲しみ、喜び等の情動を示す複数の循環系を示す複数のギアを有してもよい。また、循環系Kaが心臓の場合には、例えば、被験者PAにおける心拍数や心拍変動等を示す複数の循環系を示す複数のギアを有してもよい。
【0136】
試験部40aは、
図20に示した試験部40と同様に、式(1)および式(2)を用い、演算部20aにより算出された循環系Ka1−Ka4それぞれにおける恒常性のずれ量からエネルギーTEを算出する。試験部40aは、算出したエネルギーTEを循環系200aに入力し、エネルギーTEの大きさに応じた回転速度でギアMGを回転させる。例えば、試験部40aは、エネルギーTEが正の値の場合、ギアMGを時計回りに回転させ、エネルギーTEが負の値の場合、ギアMGを反時計回りに回転させる。なお、試験部40aは、例えば、エネルギーTEが正の値の場合、ギアMGを反時計回りに回転させ、エネルギーTEが負の値の場合、ギアMGを時計回りに回転させてもよい。
【0137】
試験部40aは、ギアMGを回転させることで循環系200aにおける恒常性をシミュレーションし、例えば、循環系Ka1−Ka4それぞれにおける恒常性の状態をギアの回転数として検出する。試験部40aは、検出した回転数R1−R4を記憶部50aに格納する。また、試験部40aは、各循環系Ka1−Ka4において検出した回転数R1−R4を新たに生成されたエネルギーE(Ka1)−E(Ka4)として、循環系200aに入力する。
【0138】
なお、演算部20aが、循環系Ka1−Ka4のうちの一部の循環系Kaにおける恒常性のずれ量を算出する場合、試験部40aは、演算部20aにより算出された一部の循環系Kaにおける恒常性のずれ量からエネルギーTEを求め、求めたエネルギーTEに基づいて循環系200aの恒常性をシミュレーションしてもよい。そして、試験部40aは、シミュレーションから循環系Ka1−Ka4における全ての回転数R1−R4を検出してもよい。試験部40aが、全ての循環系Kaの回転数Rをシミュレーションから検出するため、推定装置100bは、演算部20aにより算出された循環系Kaにおける恒常性のずれ量を用いる場合と比べて、被験者PAの病態を確度高く推定することができる。
【0139】
図27は、被験者PAにおける各循環系Ka1−Ka4の回転数R1−R4のデータ60aの一例を示す。データ60aは、日付および循環系Ka1−Ka4の格納領域をそれぞれ有する。
【0140】
日付の格納領域には、試験部40aが、例えば、循環系200の恒常性の変化のシミュレーションを実行し、循環系Ka1−Ka4それぞれにおける回転数R1−R4を検出した日時(例えば2013年10月29日9時10分0秒等)が格納される。試験部40aが回転数R1−R4の検出を行う時間間隔は、1分、1時間、1日、1週間、1ヶ月等であり、
図27に示したデータ60aの場合には、例えば、1分の時間間隔とする。
【0141】
循環系Ka1−Ka4の各格納領域には、例えば、試験部40aにより検出されたギアGa2、Gb2、Gc1、Gd2の回転数R1−R4(例えば毎分20回転等)それぞれが格納される。
【0142】
図28は、病態テーブル70の一例を示す。病態テーブル70は、病態および循環系Ka1−Ka4の格納領域をそれぞれ有する。
【0143】
病態の格納領域には、大うつ、うつ、平常(すなわち被験者PAは健康)、そううつおよび人格障害等の病態が格納される。なお、
図28に示した病態テーブル70では、病態として、精神疾患を示したが、心筋梗塞等の心臓疾患あるいは脳梗塞等の脳の疾患を有してもよい。
【0144】
循環系Ka1−Ka4の格納領域には、病態の格納領域に格納される病態の各々が推定部30bにより推定されるための条件が格納される。なお、“−”が格納される格納領域は、対応する病態を推定する条件に含まれないことを示す。例えば、循環系Ka1−Ka4のそれぞれが怒り、平常、悲しみおよび喜びの情動を示し、怒り、平常、悲しみおよび喜び全ての情動における回転数R1−R4が0(無回転)となる場合、推定部30bは、被験者PAを大うつと推定する。すなわち、大うつは、怒り、平常、悲しみおよび喜び全ての情動が被験者PAにおいて出現しないという恒常性が偏った状態を示す。また、循環系Ka1−Ka4のそれぞれが怒り、平常、悲しみおよび喜びの情動を示し、怒り、平常および喜びの情動の回転数に拘わらず、悲しみの回転数R3が閾値αより小さい場合、推定部30bは、被験者PAをうつと推定する。すなわち、うつは、悲しみの情動が被験者PAにおいて出現の頻度が小さいという恒常性が偏った状態を示す。なお、閾値αは、予め設定され記憶部50aに格納される。また、閾値αは、被験者PAごとに異なる値に設定されてもよい。
【0145】
また、循環系Ka1−Ka4それぞれが怒り、平常、悲しみおよび喜びの情動を示し、悲しみの回転数R3が閾値αと閾値β(β>α)との間の回転数の場合、推定部30bは、被験者PAを平常(すなわち被験者PAは健康)と推定する。すなわち、平常という病態は、悲しみの情動が他の情動とともに被験者PAにおいて適度に出現し、恒常性が偏っていない状態であることを示す。なお、閾値βは、予め設定され記憶部50aに格納される。また、閾値βは、被験者PAごとに異なる値に設定されてもよい。
【0146】
また、循環系Ka1−Ka4それぞれが怒り、平常、悲しみおよび喜びの情動を示し、悲しみの回転数R3が閾値βより大きい場合、推定部30bは、被験者PAをそううつと推定する。すなわち、そううつは、悲しみの情動が被験者PAにおいて頻繁に出現し、恒常性が偏った状態であることを示す。また、推定部30bにより人格障害と推定されるには、平常および悲しみの情動の回転数に拘わらず、怒りの回転数R1と喜びの回転数R4とが互いに等しい場合である。すなわち、人格障害は、怒りと喜びとの相反する情動が被験者PAにおいて同時に出現する状態であることを示す。
【0147】
なお、循環系Ka1−Ka4それぞれは、怒り、平常、悲しみおよび喜びの情動としたが、病態がパニック障害の場合、怒り、平常、悲しみおよび喜び等の情動の循環系と、心拍等の循環系とするのがよい。
【0148】
推定部30bは、記憶部50aからデータ60aおよび病態テーブル70を読み出す。推定部30bは、例えば、1日あるいは2週間等の所定期間において、病態テーブル70に格納された各病態が示す循環系Ka1−Ka4それぞれの条件を満たす回転数の出現頻度を、読み出したデータ60aを用いて算出する。すなわち、例えば、循環系Ka1−Ka4が怒り、平常、悲しみおよび喜びの情動とする場合、推定部30bは、所定期間において、回転数R1−R4が0(無回転)となる出現頻度を循環系Kaごとに算出する。また、推定部30bは、所定期間において、悲しみの循環系Ka3における回転数R3が、閾値αより小さい場合、閾値αと閾値βとの間の場合および閾値βより大きい場合の出現頻度をそれぞれ算出する。さらに、推定部30bは、所定期間において、怒りの循環系Ka1の回転数R1と喜びの循環系Ka4の回転数R4とが互いに等しくなる出現頻度を算出する。所定期間における各循環系Kaの回転数の出現頻度は、恒常性の変化のパターンの一例である。
【0149】
推定部30bは、例えば、算出した各出現頻度のうち閾値Th以上の出現頻度を示した条件を抽出する。推定部30bは、抽出した条件と病態テーブル70とを用い、抽出した条件の組合せを満たす病態を、被験者PAの病態として推定する。なお、所定期間は、ICD−10等の精神医療の規格に基づいて決定される。また、閾値Thは、予め設定され記憶部50aに格納される。また、閾値Thは、被験者PAおよび病態ごとに異なる値に設定されてもよい。
【0150】
なお、推定部30bは、各循環系Ka1−Ka4における回転数R1−R4の出現頻度を算出したが、所定期間における各循環系Ka1−Ka4の回転数R1−R4の平均値および偏差を算出してもよい。そして、推定部30bは、算出した各循環系Ka1−Ka4の回転数R1−R4の平均値および偏差の時間変化と、被験者PAが健康である場合の平均値および偏差の典型的な時間変化とを比較し、比較の結果から被験者PAの病態を推定してもよい。
【0151】
図29は、
図25に示した推定装置100bによる推定処理の一例を示す。なお、
図29に示したステップの処理のうち、
図24に示したステップと同一または同様の処理を示すものについては、同一のステップ番号を付し、詳細な説明を省略する。ステップS100からステップS140、ステップS150aおよびステップS160aは、推定装置100bに搭載されるCPUが推定プログラムを実行することにより実現される。すなわち、
図29は、推定プログラムおよび推定方法の別の実施形態を示す。この場合、
図25に示した抽出部10a、演算部20a、推定部30bおよび試験部40aは、推定プログラムの実行により実現される。なお、
図29に示した処理は、推定装置100bに搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。この場合、
図25に示した抽出部10a、演算部20a、推定部30bおよび試験部40aは、推定装置100b内に配置される回路により実現される。
【0152】
推定装置100bは、
図29に示したステップS100からステップS140の処理を実行した後、ステップS150aの処理を実行する。
【0153】
ステップS150aでは、試験部40aは、
図26で説明したように、ステップS140で実行した恒常性のシミュレーションから、各循環系Ka1−Ka4における回転数R1−R4を検出する。試験部40aは、検出した各循環系Ka1−Ka4における回転数R1−R4を、データ60aとして記憶部50aに格納する。
【0154】
ステップS160aでは、推定部30bは、
図27および
図28で説明したように、循環系Ka1−Ka4における回転数R1−R4のデータ60aおよび病態テーブル70に基づいて被験者PAの病態を推定する。
【0155】
そして、推定装置100bによる推定処理は終了する。
図29に示したフローは、医者あるいは被験者PAからの指示を受ける度に繰り返し実行されてもよく、所定の頻度で実行されてもよい。そして、推定装置100bは、推定結果を出力装置2に出力する。出力装置2は、推定された病態の結果とともに、恒常性のずれ量に表示する。また、出力装置2は、恒常性のずれ量の大きさ、すなわち推定された病態における症状の度合いまたは被験者PAにおける健康を示す度合いを、色あるいはアニメーションの人物や動物等の表情で表しディスプレイに表示してもよい。また、出力装置2は、恒常性のずれ量の大きさに応じて、推定された病態に対する処置方法等の助言を表示してもよい。
【0156】
以上、
図25から
図29に示した実施形態では、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と被験者PAの情動および器官の活動を示す第2情報とを用い、被験者PAにおける恒常性のずれ量を算出する。これにより、推定装置100bは、恒常性のずれ量という指標を参照することで、医学の専門的な知識を有することなく、被験者PAの病態を容易に推定することができる。また、推定装置100bは、各循環系Kaにおける恒常性のずれ量を入力エネルギーとする被験者PAにおける恒常性のシミュレーションを実行する。推定装置100bは、実行したシミュレーションから検出された恒常性の変化を示す各循環系Kaにおける回転数の出現頻度と、被験者PAが健康な場合に示す各循環系Kaにおける回転数の出現頻度とを比較する。そして、推定装置100bは、比較した結果と病態テーブル70とを用いることで、被験者PAの病態を従来と比べて精度良く推定することができる。
【0157】
図30は、推定装置の別の実施形態を示す。
図25で説明した要素と同一または同様の機能を有する要素については、同一または同様の符号を付し、これらについては、詳細な説明を省略する。推定装置100cは、CPU等の演算処理装置と、ハードディスク装置等の記憶装置とを有するコンピュータ装置等である。推定装置100cは、推定装置100cに含まれるインタフェース部を介して、有線または無線で計測装置1aおよび出力装置2aに接続される。これにより、推定装置100cと、計測装置1aと、出力装置2aとは、推定システムSYSとして動作する。
【0158】
出力装置2aは、例えば、有機ELや液晶等のディスプレイ、および音声を出力するスピーカを有する。出力装置2aは、推定装置100による被験者PAの病態の推定結果を受信し、受信した推定結果を有機EL等のディスプレイに表示する。また、出力装置2aは、推定装置100cにより推定された病態に応じた助言等を音声で出力する。なお、出力装置2aは、推定装置100cの内部に設けられてもよい。
【0159】
また、推定装置100cは、抽出部10a、演算部20a、推定部30c、試験部40aおよび記憶部50bを有する。抽出部10a、演算部20a、推定部30cおよび試験部40aの機能は、CPUが実行するプログラムにより実現されてもよく、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0160】
記憶部50bは、ハードディスク装置およびメモリ等である。記憶部50bは、CPUが実行するプログラム、試験部40aによるシミュレーションの結果を示すデータ60a、および推定部30cがデータ60aを用いて被験者PAの病態を推定するための病態テーブル70を格納する。また、記憶部50bは、推定部30cにより推定された病態に基づいて被験者PAに対する助言等の音声データを有する発話テーブル80を格納する。発話テーブル80については、
図31で説明する。
【0161】
なお、推定処理を実行するプログラムは、例えば、CDあるいはDVD等のリムーバブルディスクに記録して頒布することができる。また、推定装置100cは、推定処理を実行するためのプログラムを、推定装置100cに含まれるネットワークインタフェースを介してネットワークからダウンロードし、記憶部50bに格納してもよい。
【0162】
推定部30cは、試験部40によりシミュレーションされた恒常性の変化のパターンから被験者PAの病態を推定する。また、推定部30cは、推定した被験者PAの病態と発話テーブル80とに基づいて、被験者PAに対する助言等の音声データを選択する。推定部30cの動作については、
図31で説明する。
【0163】
図31は、発話テーブル80の一例を示す。発話テーブル80は、病態および発話の格納領域をそれぞれ有する。
【0164】
病態の格納領域には、大うつ、うつ、人格障害(男性)および人格障害(女性)等の病態が格納される。なお、人格障害の場合、男性と女性とで処置が異なることから、発話テーブル80は、男性と女性との人格障害の格納領域をそれぞれ有する。また、発話テーブル80では、病態として、精神疾患を示したが、心筋梗塞等の心臓疾患あるいは脳梗塞等の脳の他の疾患の格納領域を有してもよい。
【0165】
発話の格納領域には、病態の格納領域に格納される病態の各々に応じて、ICD−10等の精神医療の規格に基づく被験者PAに対する助言等の音声データが格納される。例えば、推定部30cにより被験者PAが大うつと推定された場合、被験者PAにおけるうつの症状がかなり進行していると推定される。そこで、推定装置100cが被験者PAの教師あるいはトレーナとして機能させるために、「早く病院に行きなさい」等の被験者PAを指導する音声データが発話の格納領域に格納される。また、推定部30cにより被験者PAがうつと推定された場合、被験者PAが抑うつ状態にあると推定される。そこで、推定装置100cが被験者PAの教師あるいはトレーナとして機能させるために、例えば、「家の中ばかり居ちゃだめだよ。たまには外で散歩しようよ」等の被験者PAに寄り添い被験者PAの精神を鍛える音声データが発話の格納領域に格納される。すなわち、被験者PAが大うつあるいはうつ等の場合、推定装置100cが被験者PAの教師あるいはトレーナとしての音声データが発話の格納領域に格納されることで、被験者PAにおける抑うつ状態の改善および被験者PAの人格の強化を図ることができる。
【0166】
また、被験者PAが男性で人格障害と推定された場合、被験者PAが一方的に攻撃的な状態になる傾向がある。そこで、推定装置100cが被験者PAのカウンセラーとして機能させるために、例えば、「自分のことばかりでなく、相手の気持ちも考えてあげなさい」等の被験者PAを諭して相手に対する共感力を持たせるように指導する音声データが発話の格納領域に格納される。一方、被験者PAが女性で人格障害と判定された場合、被験者PAはリストカット等の自傷行為をしている可能性が高い。そこで、推定装置100cが被験者PAのカウンセラーとして機能させるために、例えば、「いつもがんばっているよね。だから、そのようなことは止めなさい」等の被験者PAに寄り添って励ましつつ共感力を持たせるように指導する音声データが発話の格納領域に格納される。すなわち、被験者PAが人格障害等の場合に、推定装置100cが被験者PAのカウンセラーとしての音声データが発話の格納領域に格納されることで、被験者PAにおける共感力を育成および被験者PAの人格の改善を図ることができる。
【0167】
なお、発話の格納領域には、音声データの代わりに、音声データが格納された記憶部50bの領域を示すアドレスが格納されてもよい。
【0168】
また、発話テーブル80の発話の格納領域に格納される音声データは、1つの病態に対してICD−10等の精神医療の規格に基づいた発話内容が異なる複数の音声データが格納されてもよい。例えば、抽出部10aは、被験者PAの音声信号から音素ごとの区切りを抽出する。すなわち、「今日はいい天気ですね」の音声が入力された場合、抽出部10aは、「きょ/う/は/い/い/て/ん/き/で/す/ね」のように音素ごとの区切りを抽出する。さらに、抽出部10aは、被験者PAの音声信号から単語ごとの区切りを抽出する。例えば、「今日はいい天気ですね」の音声が入力された場合、抽出部10aは、「きょう/は/いい/てんき/ですね」のように単語ごとの区切りを抽出する。
【0169】
そして、推定部30cは、抽出部10aにより抽出された被験者PAの音声における音素および単語の区切りを示す情報に基づいて、被験者PAの音声に含まれる単語ごとの認識および構文解析を実行する。すなわち、推定部30cは、被験者PAの音声から「誰が」、「何を」、「いつ」、「どこで」、「なぜ」、「どうやって」の5W1Hを示す情報を認識し、被験者PAの音声の内容を自然言語として把握する。そして、推定部30cは、把握した音声の内容に基づいて、被験者PAの音声から被験者PAがどのような状況あるいは立場に置かれているかを判断する。そして、推定部30cは、判断した状況あるいは立場に応じて推定した病態に対する助言等の複数の音声データの中から1つを選択する。これにより、推定装置100cは、従来と比べて被験者PAに対しきめ細かな処置が可能となる。
【0170】
また、推定部30cは、被験者PAの音声の内容を把握することで、コミュニケーション障害の被験者PAに対して処置することができる。例えば、推定部30cは、被験者PAが所定の単語を発話した時の抽出部10aにより抽出された被験者PAの情動から、被験者PAがコミュニケーション障害か否かを推定する。例えば、抽出部10aが、被験者PAが怒り等の情動を示す所定の単語を発話した時に、怒り等の情動が被験者PAにおいて全く抽出されないあるいは少ししか抽出されない場合、推定部30cは、被験者PAが場の空気を読むことができずコミュニケーション障害と推定する。推定部30cは、コミュニケーション障害と推定した場合、推定装置100cが教師等として機能させるために、「空気を読みなさい」等の被験者PAにコミュニケーション力を持たせるように指導する音声データが発話の格納領域から読み出す。これにより、推定装置100cは、被験者PAが場の空気を読みコミュニケーションを行えるように、被験者PAのコミュニケーション障害に対して処置することができる。
【0171】
図32は、
図30に示した推定装置100cによる推定処理の一例を示す。なお、
図30に示したステップの処理のうち、
図29に示したステップと同一または同様の処理を示すものについては、同一のステップ番号を付し、詳細な説明を省略する。ステップS100からステップS140、ステップS150a、ステップS160aおよびステップS170は、推定装置100cに搭載されるCPUが推定プログラムを実行することにより実現される。すなわち、
図32は、推定プログラムおよび推定方法の別の実施形態を示す。この場合、
図30に示した抽出部10a、演算部20a、推定部30cおよび試験部40aは、推定プログラムの実行により実現される。なお、
図32に示した処理は、推定装置100cに搭載されるハードウェアにより実現されてもよい。この場合、
図30に示した抽出部10a、演算部20a、推定部30cおよび試験部40aは、推定装置100c内に配置される回路により実現される。
【0172】
推定装置100cは、
図32に示したステップS100からステップS140、ステップS150aおよびステップS160aの処理を実行した後、ステップS170の処理を実行する。
【0173】
ステップS170では、推定部30cは、
図31で説明したように、ステップS160aで推定した病態と発話テーブル80とに基づいて、被験者PAに対する助言等の音声データを読み出す。推定部30cは、読み出した音声データを出力装置2aに出力する。
【0174】
そして、推定装置100cによる推定処理は終了する。出力装置2aは、推定された病態の結果とともに、恒常性のずれ量に表示する。また、出力装置2aは、推定装置100cから受信した音声データをスピーカから出力することで、被験者PAに対して推定された病態に応じた助言等の発話を行う。なお、出力装置2aは、恒常性のずれ量の大きさ、すなわち推定された病態における症状の度合いまたは被験者PAにおける健康を示す度合いを、色あるいはアニメーションの人物や動物等の表情で表しディスプレイに表示してもよい。また、出力装置2aは、アニメーションの人物や動物等をディスプレイに表示し、表示した人物や動物が発話しているかのように、受信した音声データを出力してもよい。
【0175】
なお、
図32に示したフローは、医者あるいは被験者PAからの指示を受ける度に繰り返し実行されてもよく、所定の頻度で実行されてもよい。
【0176】
以上、
図30から
図32に示した実施形態では、被験者PAの生理の状態を示す第1情報と被験者PAの情動および器官の活動を示す第2情報とを用い、被験者PAにおける恒常性のずれ量を算出する。これにより、推定装置100cは、恒常性のずれ量という指標を参照することで、医学の専門的な知識を有することなく、被験者PAの病態を容易に推定することができる。また、推定装置100cは、各循環系Kaにおける恒常性のずれ量を入力エネルギーとする被験者PAにおける恒常性のシミュレーションを実行する。推定装置100cは、実行したシミュレーションから検出された恒常性の変化を示す各循環系Kaにおける回転数の出現頻度と、被験者PAが健康な場合に示す各循環系Kaにおける回転数の出現頻度とを比較する。そして、推定装置100cは、比較した結果と病態テーブル70とを用いることで、被験者PAの病態を従来と比べて精度良く推定することができる。
【0177】
また、推定装置100cは、助言等の発話をした後、被験者PAの生理を再度計測し被験者PAの状態を推定してもよい。そして、推定装置100cは、推定の結果に基づいて助言等の発話の効果を評価し、評価に基づいて発話テーブル80の発話の格納領域に格納される助言等の内容の修正等を行ってもよい。これにより、推定装置100cは、従来と比べて被験者PAに対しきめ細かな処置ができる。
【0178】
なお、推定装置100(100a、100b、100c)は、精神分析、行動予測、行動分析等の心理カウンセリング、精神医療、一般医療における面接や処方へ適用した場合を示したが、これに限定されない。例えば、推定装置100は、ロボット、人工知能や自動車、あるいはコールセンター、エンターテイメント、インターネット、スマートフォンやタブレット型端末等の携帯端末装置アプリケーションやサービス、検索システムへ応用されてもよい。また、推定装置100は、診断装置、自動問診装置、災害トリアージ等に応用されてもよい。また、推定装置100は、金融与信管理システムや行動予測、企業、学校、行政機関、警察や軍事、情報収集活動等での情報分析、虚偽発見に繋がる心理分析、組織グループ管理へ応用されてもよい。また、推定装置100は、組織の構成員、研究者や従業員、管理者等の心の健康や行動予測を管理するシステム、住居やオフィス、飛行機や宇宙船といった環境を制御するシステム、あるいは家族や友人の心の状態や行動予測を知るための手段に適用されてもよい。また、推定装置100は、音楽や映画配信、一般的な情報検索、情報分析管理や情報処理、あるいは顧客感性嗜好マーケット分析等やこれらをネットワークやスタンドアローンで管理するシステム等へ適用されてもよい。
【0179】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。