(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
スペースデブリは、運用されることなく地球周回軌道上を周回している人工物である。例えば、寿命や事故、故障により運用を終えた宇宙機(人工衛星や宇宙ステーション、スペースシャトル等)とか、人工衛星の打ち上げに使用したロケットの本体及び部品、多段ロケットの切り離し時に生じた破片、宇宙飛行士が船外活動で落とした工具等が、スペースデブリとなる。また、スペースデブリどうしが衝突して粉砕されることで生じた微細デブリも、スペースデブリに含まれる。したがって、スペースデブリには大小様々なものがある。
【0003】
このようなスペースデブリは、スペースデブリの地球周回軌道と交差する地球周回軌道上で運用中の宇宙機に衝突する恐れがあるため、宇宙機にとって運用の障害となる。直径が10cmを超える大きな(完全体の宇宙機を含む)スペースデブリについては、地上からレーダ等でその存在を事前に捕捉して、宇宙機に退避行動(軌道変更、姿勢変更、乗員退避等)の措置を執らせることができる。しかし、直径が10cm以下の小さなスペースデブリについては、地上からの捕捉が困難であるため、宇宙機に退避行動を執らせることが事実上不可能である。
【0004】
そこで、スペースデブリに対する対策として、宇宙機の進行方向前方に配置した薄肉の金属板に、宇宙機に向かって飛来するスペースデブリを衝突、貫通させ、スペースデブリを細かく粉砕する技術が提案されている。この技術では、粉砕前のスペースデブリに比べて面積質量比(平均断面積÷質量)が増加した粉砕後のスペースデブリを、エアードラグ(大気抵抗)により地球周回軌道上から落下させるようにしている(以上、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粉砕されたスペースデブリの地球周回軌道上における周回速度は、粉砕に伴う面積質量比の増加によって粉砕前よりも速くなることもある。スペースデブリの周回速度が速くなれば、その分だけエアードラグによるスペースデブリの落下も容易でなくなる。したがって、上述した従来技術のようなスペースデブリの粉砕は、周回速度が増加したスペースデブリの落下不実現により、図らずもスペースデブリを増加させる結果を招く恐れをはらんでいる。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、破砕を伴わずに地球周回軌道上のスペースデブリの除去を行うことができるスペースデブリ除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法は、地球周回軌道上のスペースデブリを除去する方法であって、前記地球周回軌道上に、前記スペースデブリよりも低く前記地球周回軌道上における大気よりも高い密度によっ
て、該地球周回軌道上における大気よりも抵抗力を高くした空間を配置し、前記空間を通過する前記地球周回軌道上のスペースデブリを、前記空間において該空間から前記スペースデブリが受ける抵抗力により、破砕させずに減速させ、減速させた前記スペースデブリを前記地球周回軌道上から落下させることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法によれば、地球周回軌道上に配置した空間を通過するスペースデブリは、地球周回軌道上における大気よりも抵抗力が高い空間からの抵抗力により減速される。この減速によって、スペースデブリが飛行する地球周回軌道の近点高度は、徐々に地球に近づき、やがて、大気圏再突入により燃え尽きさせるのに適した高度までスペースデブリが落下する。一般には、この高度は地上90kmと言われている。
【0010】
このように、スペースデブリは空間の通過時の抵抗力によって、大気圏再突入により燃え尽きさせるのに適した高度まで落下するように減速される。このため、従来技術のように、周回速度の増加やそれによる落下不実現の恐れがあるスペースデブリの粉砕を伴わずに、スペースデブリの地球周回軌道上からの除去を行うことができる。
【0011】
また、
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法
は、前記空間を、前記地球周回軌道上における大気よりも密度が高い空間とし、該空間を通過する前記地球周回軌道上のスペースデブリを摩擦力により減速させるようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法によれば、
さらに、地球周回軌道上における大気よりも密度が高い物質を、スペースデブリが周回する地球周回軌道上に配置するだけで、空間通過時の摩擦力によりスペースデブリを、大気圏再突入により燃え尽きさせるのに適した高度まで落下するように減速させることができる。
【0013】
さらに、
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法
は、前記空間を、一方の開口端を地球に向けた筒体の周面によって構成し、
該周面を、前記筒体を配置する地球周回軌道の高度における大気よりも高い密度を有する低密度の減速材料で構成して、前記筒体の両開口端どうしを結ぶ直線と交差する方向において、前記スペースデブリに前記筒体を通過させるようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法によれば、
さらに、請求項2に記載した本発明のスペースデブリ除去方法において、一方の開口端を地球に向けた筒体の両開口端どうしを結ぶ直線と交差する方向において、スペースデブリが筒体を通過すると、スペースデブリは筒体の対向する2つの周面箇所を通過することになる。
【0015】
したがって、スペースデブリが空間を1回通過する度に筒体を2回通過するようにして、筒体との摩擦力によるスペースデブリの減速と地球周回軌道上からの落下を効率的に実行することができる。
【0016】
また、
請求項2に記載した本発明のスペースデブリ除去方法は、
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法において、前記地球周回軌道上から所定期間を費やして落下する面積質量比の前記筒体を前記地球周回軌道上に配置するようにしたことを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載した本発明のスペースデブリ除去方法によれば、
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ除去方法において、地球周回軌道上に配置した筒体が、近点高度を徐々に地球に近づけながら、所定期間を費やして地球周回軌道上から落下する。このため、筒体が周回する軌道の高度は、所定期間に亘って徐々に下がることになる。したがって、所定期間に亘って筒体が周回する高度の範囲において、スペースデブリの減速とそれによる地球周回軌道からの落下を実行することができる。
【0018】
しかも、所定期間後には筒体が当初配置された地球周回軌道から落下するので、筒体自身がスペースデブリとして地球周回軌道上に残存しないよう除去することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、地球周回軌道の周回速度を増加させることなくスペースデブリの除去を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】スペースデブリの現状と今後の推移を示すグラフである。
【
図2】本発明によるスペースデブリ除去方法の第1実施形態を示す概念図である。
【
図3】高度による大気密度モデルの一例である指数関数モデルを示すグラフである。
【
図4】(a)は2.77g/cm
3の密度を有するアルミニウム合金球の質量と直径との相関関係を示すグラフ、(b)は同アルミニウム合金球の面積質量比と直径との相関関係を示すグラフである。
【
図5】直径1cmのアルミニウム合金球の軌道寿命を示すグラフである。
【
図6】高度によるスペースデブリの飛行速度を示すグラフである。
【
図7】直径1cmのアルミニウム合金球が周回する地球周回軌道の近点高度を90kmに下げるのに必要なアルミニウム合金球の減速量と地球周回軌道の初期高度との相関関係を示すグラフである。
【
図8】(a)はエアロジェルに突入した直径1cmのアルミニウム合金球の速度履歴を突入から1ms分に亘って示すグラフ、(b)は同アルミニウム合金球のエアロジェル突入後の飛行(移動)距離を突入から1ms分に亘って示すグラフである。
【
図9】本発明によるスペースデブリ除去方法の第2実施形態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
まず、本発明の実施形態を具体的に説明するのに先立って、スペースデブリの現状と今後について説明する。
図1は、スペースデブリの数の推移を、スプートニク1号の打ち上げ時である1957年から将来に亘って示すグラフである(出典、Liou, J.-C., Johnson N. L., PLANETARY SCIENCE: Risks in Space from Orbiting Debris, Science, Vol.311, Issue 5759, 2006, pp.340-341. )。このグラフの縦軸はスペースデブリ(地上からレーダ等によって捕捉できる直径10cmオーバーの大きいスペースデブリ)の個数、横軸は西暦年数を示す。2006年1月1日までの部分は実測値、それ以降の部分は推定値である。但し、この推定値は、2006年以降に宇宙機(人工衛星や宇宙ステーション、スペースシャトル等)の打ち上げを行わず、かつ、宇宙機の爆破(ミサイル等による人為的な爆破や宇宙機自身に起因して発生する爆破)が発生しないものと仮定した場合の値である。また、
図1中の細線は、衝突によって発生するデブリ、破線は、完全体の宇宙機とその運用によって生じるデブリ(落下工具等)、一点鎖線は、宇宙機の爆破によって発生するデブリ、太線はそれらの合計をそれぞれ示している。
【0023】
図1のグラフに示す研究結果では、2055年までは、衝突で発生するスペースデブリが、大気抵抗で落下・消滅するスペースデブリと釣り合って、スペースデブリの総数が平衡状態を保つが、それ以降は、衝突で発生するスペースデブリが、大気抵抗で落下・消滅するスペースデブリを上回って、スペースデブリの総数が自然増する傾向にある。したがって、スペースデブリは、宇宙機が今後打ち上げられなくても増加することが見込まれる。即ち、宇宙環境は既に不安定な状態を迎えており、実際には宇宙機の打ち上げを現在も行っていることから、現実には現在もスペースデブリが増加しているものと思われる。
【0024】
以上のような事情により、スペースデブリを地球周回軌道上から除去することは、宇宙環境の浄化と宇宙機の安定した運用を図る上で、非常に重要であることが分かる。
【0025】
次に、本発明によるスペースデブリ除去方法の実施形態を、以下に具体的に説明する。
図2は本発明によるスペースデブリ除去方法の第1実施形態を示す概念図である。本実施形態では、除去対象のスペースデブリ(図示せず)が周回する地球周回軌道上に、中空の円筒体(請求項中の筒体に相当)1を配置している。
【0026】
円筒体1は、フレーム1aとこのフレーム1aに張設された減速材料1bとを有している。減速材料1bは、円筒体1を配置する地球周回軌道の高度における大気よりも高い密度を有している。この減速材料1bには、比較的低密度の材料が用いられる。低密度材料としては、例えば、フォーム材(例:ポリイミドフォーム材)、エアロジェル(例:シリカエアロジェル)、フォイルスタック等を利用することができる。なお、フォイルスタックとは、金属やプラスチックのフォイルを多層に重ねたものである。
【0027】
上述した構成の円筒体1は、直径よりも中心軸方向の寸法を大きくして形成されている。このような形状の円筒体1は、重力傾斜の作用によって、一方の開口端が地球Eを指向する姿勢で地球周回軌道上に配置される。したがって、円筒体1と同じ高度の円筒体1とは違う地球周回軌道上を周回するスペースデブリは、円筒体1の地球周回軌道との交点において、円筒体1をその径方向に通過する。つまり、減速材料1bの周方向に間隔をおいた2箇所をスペースデブリが通過することになる。
【0028】
円筒体1の減速材料1bは、スペースデブリを通過の際に減速させることができる厚さで形成される。減速材料1bの適切な厚さは、以下の検討を行うことで求めることができる。
【0029】
まず、スペースデブリが、密度=2.77g/cm
3のアルミニウム合金による直径1cmの球体であるものと仮定する。また、このアルミニウム合金球が、2次元平面内の円軌道上を周回しているものとし、周回中にアルミニウム合金球に働く摂動力が大気抵抗のみであるものとした。なお、円筒体1を配置する地球周回軌道における大気密度は、高度による大気密度モデルを示す
図3の指数関数モデル(出典、David A. Vallado, "Fundamentals of Astrodynamics and Applications, 2nd Edition," pp.532-534.)によって定めることとした。さらに、減速材料1bには、密度=1.9kg/m
3のエアロジェルを用いるものとした。アルミニウム合金球がエアロジェル中を通過する際に受ける摩擦抵抗(摩擦力)は、エアロジェルと同じ密度の大気をアルミニウム合金球が通過する際に受ける空気抵抗と同じであるものとした。
【0030】
上述した密度を有するアルミニウム合金球の直径と質量との関係は、
図4(a)のグラフに示す相関を有している。このグラフによれば、例えば直径1cmのアルミニウム合金球の質量は1.45gとなる。また、直径1cmで1.45gの質量を有するアルミニウム合金球の面積質量比は、直径との間に
図4(b)のグラフに示す相関を有している。このグラフによれば、直径1cmのアルミニウム合金球の軌道計算に必要なパラメータである面積質量比は、0.054m
2/kgとなる。
【0031】
図5は、直径1cmのアルミニウム合金球の軌道寿命を示すグラフである。ここで言う軌道寿命とは、直径1cmのアルミニウム合金球が地球周回軌道から落下・消滅するまでにかかる時間を年数で表したものである。ここで行う減速材料1bの厚さの検討に当たっては、地球周回軌道から落下・消滅して自然浄化されるまでに100年ほど要する高度800kmの地球周回軌道を、直径1cmのアルミニウム合金球が周回する場合を想定することとする。
【0032】
図6は、高度によるスペースデブリの飛行速度を示すグラフである。この
図6に示すように、スペースデブリは、高度100kmを割ると飛行速度が急激に下がり、大気圏に落下する。大気圏に落下したスペースデブリは燃焼して消滅する。したがって、スペースデブリは、高度が90kmまで下がると落下・消滅したものと評価することができる。そこで、直径1cmのアルミニウム合金球が周回する地球周回軌道の近点高度を90kmに下げるのに必要なアルミニウム合金球の減速量を考える。
図7は、必要な減速量と地球周回軌道の初期高度との相関関係を示すグラフである。
図7に示すように、アルミニウム合金球の地球周回軌道が初期高度=800kmであるとすると、地球周回軌道の近点高度を90kmに下げるのに必要なアルミニウム合金球の減速量は約200m/sである。
【0033】
図8(a)は、エアロジェルに突入した直径1cmのアルミニウム合金球の速度履歴を突入から1ms分に亘って示すグラフ、
図8(b)はそのアルミニウム合金球のエアロジェル突入後の飛行(移動)距離を突入から1ms分に亘って示すグラフである。
図8(a)に示すように、直径1cmのアルミニウム合金球がエアロジェルに突入して200m/s減速されるまでにかかる時間は0.1ms程である。また、
図8(b)に示すように、直径1cmのアルミニウム合金球がエアロジェルに突入して0.1msの間に飛行(移動)する距離は、1m未満である。
【0034】
したがって、800kmの高度で周回する直径1cmのアルミニウム合金球は、1mの厚さのエアロジェルを通過すると、通過時にエアロジェルから受ける摩擦力により、地球周回軌道の近点高度が90kmに落下するのに必要な速度まで減速されることになる。
【0035】
そこで、本実施形態の除去方法により除去する対象とするスペースデブリの直径や質量(密度、面積質量比)を特定し、これに応じて、減速材料1bの適切な厚さを求めればよい。なお、本実施形態では、スペースデブリが円筒体1をその径方向に通過するので、その際にスペースデブリは減速材料1bを2箇所通過することになる。したがって、減速材料1bの厚さを決定するのにあたっては、この点(スペースデブリが減速材料1bを2箇所通過する点)を踏まえておく必要がある。
【0036】
なお、近年では、スペースデブリの増加を防ぐために、地球周回軌道上に打ち上げた宇宙機を一定期間(例えば25年)後に地球周回軌道上から除去する(例えば地上へ落下させる)ルール作りが検討されている。そこで、地球周回軌道上に配置する円筒体1の面積質量比を適切に選択し、一定期間後に近点高度まで落下するように構成した円筒体1を地球周回軌道上に配置して、本発明を実施するようにしてもよい。そのようにすれば、一定期間に亘って徐々に近点高度を下げながら地球の周りを周回する円筒体1によって、円筒体1が当初配置された高度以下の地球低軌道上のスペースデブリを順次除去し、かつ、円筒体1自身も地球周回軌道上から除去することができる。
【0037】
以上に、除去対象となるスペースデブリが周回する地球周回軌道の高度の空間に、その高度における大気よりも高い密度の低密度材料(フォーム材、エアロジェル、フォイルスタック等)を減速材料1bとして用いた円筒体1を配置し、低密度材料の通過時にスペースデブリが受ける摩擦力によりスペースデブリを減速させて、地球周回軌道からスペースデブリを除去する場合の実施形態について説明した。この実施形態は、除去対象となるスペースデブリが周回する地球周回軌道の高度の空間に、その高度における大気の抵抗力よりも高い抵抗力の空間を配置し、その空間をスペースデブリが通過する際に、抵抗力によりスペースデブリを減速させて、地球周回軌道からスペースデブリを除去する本発明のスペースデブリ除去方法の一例である。
【0038】
即ち、スペースデブリの地球周回軌道上に配置した空間を通過するスペースデブリを減速させる抵抗力の具体例は、摩擦力だけに限られず、例えば、強い磁場から受けるローレンツ力を、空間を通過するスペースデブリを減速させる抵抗力として用いることも考えられる。つまり、除去対象となるスペースデブリが周回する地球周回軌道の高度の空間に、その高度における大気の磁場よりも強い磁場の空間を配置し、この強い磁場の空間を通過する際にスペースデブリに働くローレンツ力によりスペースデブリを減速させて、地球周回軌道からスペースデブリを除去するようにしてもよい。
【0039】
図9は本発明によるスペースデブリ除去方法の第2実施形態を示す概念図である。本実施形態では、除去対象のスペースデブリが周回する地球周回軌道上に、その地球周回軌道が存在する高度における大気よりも強い磁場の空間11を設けている。この空間11の磁場は、除去対象のスペースデブリと同じ高度の異なる地球周回軌道上を周回する物体において、所要の強い磁場を形成するのに適した大きさ及び方向の電流を流すことによって実現することができる。なお、この空間11は、少なくとも、スペースデブリの地球周回軌道に対して交わるベクトル成分を含む平面又は立体であることが望ましい。
【0040】
本実施形態において、空間11と同じ高度の空間11とは違う地球周回軌道上を周回するスペースデブリは、空間11の地球周回軌道との交点において空間11を通過する。その際に、スペースデブリは、スペースデブリ中の荷電粒子が空間11の磁場から地球周回軌道方向とは異なる方向(理想的には地球に接近する方向)へのローレンツ力を受け、このローレンツ力によって、地球周回軌道上の飛行速度が減速されることになる。
【0041】
したがって、本実施形態の除去方法により除去する対象のスペースデブリの直径や質量(密度、面積質量比)を特定し、これに応じて、地球周回軌道の近点高度が90kmに落下するのに必要な速度までスペースデブリを減速させるのに適したローレンツ力が、空間11を通過するスペースデブリに働くように、空間11の磁場の強さとその磁場を作るのに必要な電流の大きさ及び方向とを決定すればよい。
【0042】
以上に説明した本発明の第1及び第2実施形態に係るスペースデブリ除去方法によれば、摩擦力やローレンツ力により、近点高度が90kmに下がるまで地球周回軌道上におけるスペースデブリの飛行速度を減速させるので、周回速度の増加やそれによる落下不実現の恐れがあるスペースデブリの粉砕を伴わずに、スペースデブリを地球周回軌道上から除去することができる。
【0043】
また、本発明の第1実施形態に係るスペースデブリ除去方法によれば、減速材料1bをフレーム1aに円筒状に張設した円筒体1を用いることから、円筒体1の通過時にスペースデブリを減速材料1bに2回通過させて、減速材料1bから受ける摩擦力によるスペースデブリの減速を効率的に実行させることができる。
【0044】
なお、上述した第1実施形態では円筒体1を用いたが、円筒体に代えて、断面が(正)多面体である筒体を用いるようにしてもよい。また、減速材料1bを通過する際の摩擦力によりスペースデブリを減速させる場合に、減速材料1bは必ずしも中空体(第1実施形態のような円筒体や、断面が(正)多面体である筒体)である必要はない。つまり、円柱状や(正)多面体による角柱状のような中実体であってもよい。
【0045】
そして、本発明のスペースデブリ除去方法は、地上からのレーダ等によって捕捉できない10cm以下のスペースデブリを除去対象とする場合に特に有用であるが、10cmを上回る大きなスペースデブリを除去対象とする場合にも本発明が有用であるのは言うまでもない。
【0046】
また、本発明のスペースデブリ除去方法は、特に、大気抵抗(エアードラグ)がスペースデブリに作用することを期待できる、高度2000km未満の地球低軌道上に、円筒体1や空間11のような、地球低軌道上における大気よりも高い抵抗力の空間を配置して実施すると、効果的である。しかし、高度2000km以上の地球周回軌道上に、その地球周回軌道上における大気よりも抵抗力が高い空間を配置して本発明のスペースデブリ除去方法を実施することも、勿論可能である。